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ソーサリー・ゼロ第三部-20

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九五

 タバサは無言で君の顔をじっと見つめる。
 数秒ののち、ふっと視線を逸らすと
「好きなように」と言って、
眠り続ける母親の枕元に置かれた椅子に座る。
 しばらくのあいだ、タバサと一緒に彼女の母親が目覚めるのを待っていた君だが、長々と続く沈黙に耐えかね、部屋を出て客間に戻ることにする。

 君は長椅子に腰をおろし、あたりを見回す。
 部屋の壁は細密な戦場画や肖像画、豪華なタペストリーで優雅に飾られているが、屋敷全体に漂う物寂しい雰囲気をやわらげるどころか、
かえって強めているように思える。
 君は、ここでこのまま座り続けて誰かが来るのを待つか(二二四へ)、肖像画を調べるか(三〇二へ)それとも戦場画を調べるか(二一七へ)?

二一七

 壁にかかったひときわ大きな戦場画が、君の興味を惹く。
 それは、荒涼とした平原――砂漠かもしれない――で二つの軍団がぶつかり合っているさまが描かれた絵で、いかにも勇壮な見かけの騎士の一団が、
尖った耳と冷酷そうな表情をした、人間もどきの生き物の群れを撃退している様子を表している。
 手前側に魔法の使い手である貴族たちが並び、平民の鉾槍兵や弓兵が遠景に追いやられているという構図は、じつに魔法至上主義のこの世界らしいものだと君は考える。
 絵の主役は、特徴的な青い長髪――タバサのそれを髣髴とさせる色だ――と黒いマントをなびかせた壮麗な衣装の男であり、片手に小さな杖を、
もう片方の手に、交差した二本の杖の紋章がついた旗を握っている。
 どうやらこの人物が、騎士たちを率いる将軍のようだ。
 絵に見入っていた君は、何者かの足音を耳にしてぱっと振り返る。
 見れば、先刻の老執事が部屋に入ってくるところだ。
「『トゥールの戦いを勝利に導くオルレアン公ギョーム』にございます」
 この世界の文字が読めぬ君にかわって、ペルスランが絵の下の飾り板に書かれた文字を読み上げる。
「ガリア王国とトリステイン王国の連合軍を率いて、二千もの邪悪なエルフの軍勢を打ち破ったというオルレアン公の、輝かしい勲(いさおし)を
題材に描かれたものです」
 君が青髪の将軍を指差して、彼がタバサのご先祖様なのかと尋ねると、ペルスランは眉根を寄せる。
「なんと、『タバサ』ですと? ……シャルロットお嬢さまは、そう名乗っておいでなのですか」
 老人の意外な反応に、君は面喰らう。
 『タバサ』というのは、あの無口で小柄な少女の本当の名前ではないようだ。
 心を蝕む恐るべき毒に侵された母親、壮麗だがほとんど人の気配がせぬ屋敷、なにも言わずに学院を脱け出し、汚れ傷ついた姿で戻ってくるという謎めいた行動、
そして、『シャルロット』という真の名――あの心を病んだ女が、人形に向かって何度も呼びかけていた名だ!
 彼女は、君が思っていた以上に秘密と謎に満ちた存在のようだ。
 君はペルスランから詳しい事情を訊きだそうとしてもよいし(二三へ)、深入りすることを避け、ここで話をやめてもよい(五二へ)。

二三

「し、しかし、このことは軽々しく口にするわけには参らぬのです」
 ペルスランはうろたえる。
「異国から来られたお方には関わりなきことです。このことを知られては、お嬢さまはもとより、あなたさまのためにもなりませぬ」と言う。
 君は、自分はタバサの友達なのだと言って、相手を安心させようとする。
 報酬を目当てに雇われただけの関係ではない、と。
「あなたさまのお言葉を疑うわけではありませんが、しかし……」
 老人は君を信じてよいものかどうか、迷っているようだ。
 もうひと押しで、君にタバサのことを教えてくれるようになるかもしれない。
 タバサの母親の様子を話すか(六三へ)、教えてくれれば金貨を渡そうと申し出るか(一〇一へ)、それとも、あきらめて話題を変えるか(五二へ)?

六三

 君の服ませた薬によって、タバサの母親のしなびた肉体に活力が戻りつつあるという報せに、ペルスランは驚喜する。
「どんなに滋養のあるお食事をお召し上がりになっても、日に日にやせ衰えていくばかりだった奥さまが! そ、それで……お心のほうはどうなのです?」
 君は、患者は深い眠りについており、眼を覚ますまではわからぬと告げる。
 しかし、前より悪くなっているようなことはあるまい、と付け足す。
 老人の眼に涙がにじみ出る。
「ありがとうございます。奥さまがお倒れになって五年になりますが、ご容態が少しでも良いほうに向かわれたのは、これが初めてのことにございます。
異国のお方、なんとお礼を申してよいやら。このペルスランは生涯、あなた様のご好意に感謝いたしますぞ!」
 君はおおげさに喜ぶ老人を落ち着かせ、タバサの境遇について再び尋ねる。
「お嬢さまのご友人にして、オルレアン家の恩人であるあなたさまを信用して、お話しいたしましょう。 ……なにとぞ、ご内密に願いますぞ?」
 君がうなずくと、老人は厳粛な口調で語りだす。

 それは、聞く者すべてにすさまじい怒りと悲しみを覚えさせる話だ。
 無能者の兄――現在のガリア国王ジョゼフ――が自らの王位を脅かされるのを恐れて、血を分けた弟――タバサの父親であるオルレアン公シャルル――を亡き者にする。
 ここまでは、凄惨ではあるがそう珍しい話ではなく、≪旧世界≫の歴史書にもよく見られる類の出来事だ。
 残酷だが、王位をめぐっての内乱でより多くの血が流されるよりはましだという考えもある。
 しかしジョゼフ王の、弟に対する仕打ちはそれだけでは済まなかった。
 夫を失い悲しみに沈む妻に心を狂わせる毒を盛り、年端もゆかぬ一人娘のシャルロットには、竜退治や反乱貴族の討伐など生還が困難な任務を命じたのだ。
 話を聞く君は、ジョゼフ王の行いに憤慨する。
 ただ殺したり幽閉したりするよりも、ずっとたちが悪いではないか、と。
 老人の話は続く。
 父親譲りの優れた魔法の才能をもつシャルロットは無事に任務を成し遂げて戻ってきたが、いっさいの感情と大半の言葉を失い、
心をもたぬ人形のごときありさまに成り果てていた。
 ある日突然父親を殺され、次いで母親を狂わされ、さらにはその仇敵によって決死の闘いの只中に放り込まれる――多感な年頃の少女が別人へと変わってしまうのも、
無理からぬことだ。
 ジョゼフ王は、無理難題を解決し、反逆や復讐の意図がないところを示したシャルロットを赦しはしなかったが、より苛烈な罰を与えようともしなかった。
 シャルロットが非常に有能な手駒となりうることを知った暴君は、彼女の命を奪う前に、その持てる力を利用し尽くそうと考えたのだ。
 暗躍する反国王派勢力の旗頭とならぬよう、隣国トリステインに追放同然の扱いで留学させながら(大半の貴族は、オルレアン公一家は全員が死んだものと思っている)、
ガリア国内で難事件が起きるたびに呼び戻しては、その解決にあたらせているのだ。
 タバサと名乗るようになったシャルロットは、それらの理不尽な命令に不平ひとつ漏らさず従っている――毒に心を狂わされた母親がこの屋敷に軟禁され、
人質として生かされているのだから。
 君は、タバサがハルケギニア最大の国の王族だと知って驚き、ジョゼフ王の暴虐に怒りと憎しみを覚える。
 タバサがたびたび学院を脱け出していたのも、王宮よりの呼び出しを受けたからに違いない。
 君から吸血鬼に関する情報を訊きだしていたのも、『任務』で必要となったからなのだろうか?
「古今、これほどの悲劇があったでしょうか?」
 ペルスランは声を震わせる。
「あの快活で明るかったシャルロットお嬢さまのお心は、相次ぐ悲しみによって氷のごとく凍てついてしまいました。しかし、奥さまが回復なされば
その氷も緩むのではないかと……」
 君ははっとする。
 タバサの心を覆う氷は、既に緩みはじめている!
 穏やかに眠る母親を眼にして、一粒の涙をこぼしていたのだから。
 そのことをペルスランに告げようとしたところで、タバサが客間に入ってくる。二七二へ。

二七二

 君とペルスランは、期待と不安の入り混じった眼でタバサを見つめる。
「母さまが眼を覚ました」
 君たちの視線を意に介した様子もなく、タバサはいつもの淡々とした口調で言う。
「わたしが誰かは分からないまま。今も人形を抱いている」
 その言葉を聞いて、君たちは落胆する。
 やはり、君の術に未知の毒を打ち破るほどの効き目はなかったのだろうか?
「でも、わたしを見ても怯えなくなった」
「おお、そ、それは……!」
 ペルスランが驚きの声を上げる。
「母さまは……微笑んでくれた」
 タバサはそう言うと、わずかにしゃくり上げる。
 見れば、その眼は泣きはらしたかのように赤い。
「お嬢さま、おめでとうございます」
 老執事の眼に涙が光る。
「しかし、この喜びを誰にも伝えられぬとは、なんとも歯がゆく口惜しい限りにございます。このような幸運に恵まれたことを宮廷の間者どもに嗅ぎつけられれば、
我ら全員の身に危険が及ぶのですから。これからも、何事もなかったかのようにふるまい、恥知らずの犬どもの眼から奥さまを守り続けなければなりませぬ」
 ペルスランの言葉に、タバサは無言でうなずく。
 彼らの境遇は変わらない。
 かつてのオルレアン公夫人は、この物寂しい屋敷から外に出ることはかなわず、ペルスランとごく数人の使用人たちは、ひっそりと女主人の
身の回りの世話と屋敷の管理を続ける。
 そしてタバサ――オルレアン公シャルルの忘れ形見、シャルロット――は、父の仇である暴君の命ずるがままに、危難のまっただなかに飛び込まねばならぬのだ。
 それでも、自分のやったことは無駄ではない、と君は考える。
 タバサの心を覆い尽くした分厚い氷に、小さな亀裂を入れることができたのだから。

「よかったのね! すごく、すっごくよかったのね! お姉さまのお母さまのご病気が、ちょっとだけよくなったのね! きゅい!」
 弾んだ声が夜空に響く。
 声の主は、全身を覆った青い鱗を二つの月の光にきらめかせる風竜、シルフィードだ。
 この竜は君の口から治療に関する顛末を聞くや、わが事のように喜び、君にさかんに礼を述べ、浮かれた声を上げ続けているのだ。
 君とタバサを背に乗せていなければ、宙返りなどの曲芸飛行さえやりかねない勢いだ。
「ほんとにほんとに、ありがとうなのね! シルフィは、こんなに嬉しそうにしてるお姉さまを見るの、はじめて!」
 シルフィードの言葉を確かめるべく、ちらりとタバサを見やるが、いつもどおりの感情を示さぬ、静かな横顔を眼にするだけに終わる。
「お姉さまはなにも言わないけど、シルフィと同じくらい喜んでるのね。それくらいのこと、シルフィにはお見通しなのね。お姉さまも、もっと素直になるのね。
さあ、一緒に嬉しいときの歌を歌うのね! きゅ~いきゅい、る~るる……」
 タバサは長く節くれだった杖を手にすると、無言でシルフィードの頭を殴りつける。
「きゅ、きゅい!? 痛いのね!」
 トリステインへの帰途についてから、タバサが初めて口を開く。
「黙って飛ぶ」と。
 その声から喜びや照れといった感情は窺えぬが、彼女の≪使い魔≫であるシルフィードには、主人の本心が読み取れるのだろうか?
 シルフィードはぶつくさと不平をこぼすが、やがて静かになる――耳をすますと楽しげな鼻歌が聞こえてくるのだが、タバサもそれをとがめるつもりはないようだ。
 タバサとシルフィードという、ちぐはぐなようで、妙に息の合った主従のやりとりを見た君は、学院に残してきた『ご主人様』のことを思う。
 君たちが戻るころには、定められた就寝の時間は過ぎてしまっていることだろう。
 眉を吊り上げたルイズが「遅いじゃないの!」と怒りの声を上げるところを想像して、君は苦笑を浮かべる。
 ペルスランから訊きだした、タバサの悲しい過去と現在を、ルイズにも伝えたものだろうか?
 しばらく迷ったのち、当面は伏せておくことに決める。
 『ご主人様』に隠し事をするのは気が進まぬが、この件は軽々と口にできるような類のものではない。
 あまりに悲惨、あまりに残酷、あまりに不条理であり、できることならルイズの耳に入れたくはない、と君は考える。
 この数日、ルイズは自らが≪虚無≫の系統に目覚めたことについて、思い悩んでいるようなのだ。
 ことが重大なだけに誰にも相談できず、悶々と悩んでいるルイズの心に、わざわざ新たな波風を立てることはない。

 学院に着き、寄宿舎へ向かう途中で、タバサがぽつりと呟く。
「大きな借りができた」
 君は、気にすることはない、と答える。
 苦しんでいる者に救いの手をさしのべるのは、当然のことだ、と。
 しかし、タバサはかぶりを振る。
「必ず返す。杖に誓って」
 そう言って、足早に――ほとんど走るようにして――その場を立ち去る。
 残された君は、歳若くして並みの人間には思いもよらぬほどの辛酸をなめ続けているタバサと、病によってわが子の見分けもつかぬように成り果てた母親が、
いつの日か真に救われることを祈りながら、夜の学院をとぼとぼと歩む。一八九へ。

一八九

 翌日(睡眠と食事をとったので、体力点に三を加えよ)、ルイズはその日の授業が終わるが早いか、君を引きずるようにして寄宿舎の部屋に戻る。
「いい? 今日こそは、わたしの話にきちんとつきあってもらうんだからね」
 ≪始祖の祈祷書≫の頁をたぐりながら、ルイズが言う。
「おとといは、タルブから帰ってきたばかりでふたりとも疲れてたし、昨日は、あんたがまる一日ずっと留守。なかなか機会がなかったけど、いいかげん、きちんと話し合うべきだと思うのよ。
……≪虚無≫について、ね」
 君はルイズの言葉にうなずくと、デルフリンガーを鞘から抜き放ち、お前も話に加われと呼びかける。
 なんといっても、歴史に記された唯一の≪虚無≫の使い手である始祖ブリミルの使い魔、≪ガンダールヴ≫に振るわれていたという伝説の剣なのだから、
≪虚無≫に関して、思いもよらぬ事柄を知っているかもしれない。
「あんま期待すんなよ。なにしろ俺は忘れっぽいし、講釈たれるのはどうも性に合わねえからな」
「最初っから期待なんかしてないわよ。≪ガンダールヴ≫がどうこうってのも、眉唾じゃないの」
 気乗り薄な口調のデルフリンガーに、ルイズが冷たい言葉を投げかける。

 ルイズは≪始祖の祈祷書≫と指に嵌めた≪水のルビー≫を示し、≪虚無≫の魔法を使うには、この二つの秘宝が必要なのだと言い、
祈祷書の序文(ブリミルその人がしたためたものだという!)を読み上げる。
 選ばれた者が、その手に≪水≫≪風≫≪土≫≪火≫の四つのルビーのいずれかが輝く指環を嵌めたときのみ、祈祷書には意味をなす文面と、≪虚無≫の術を
使うための呪文が現れるというのだ。
 君の眼には、あいかわらず黄変した羊皮紙としか映らぬ祈祷書の頁だが、ルイズには、光り輝く古代文字が見えるのだという。
 君は、ブリミルが祈祷書に施した巧妙な仕掛けに感心すると同時に、少なからず呆れる。
 ルイズがタルブの村で使った術を見てもわかるように、≪虚無≫の魔法の力は圧倒的なものなのだから、それが軽々しく使われぬよう、
厳重な封印を施すのは理にかなったことだ。
 しかし、ブリミルはその封印の解き方を後継者たちに伝えそこねたらしく、ブリミル以後≪虚無≫の使い手は見出されず、≪虚無≫は忘れ去られ、
伝説のなかにのみ存在する謎の系統と化したのだ。
 ルイズの身に数々の偶然が起きていなければ、≪虚無≫はこの先もずっと、伝説のままだったことだろう。
「よかったじゃねえか、娘っ子。≪ゼロ≫だったお前さんは今や伝説の再来、世界一のメイジだ。これでもう、誰にもばかにされなくなる」
 デルフリンガーの言葉に、ルイズは喜ぶどころか溜息をつく。
「そう単純な話じゃ済まないわよ。このことが世間に明らかになってみなさい、たちまち大騒ぎになるわ」
 そこでいったん言葉を切り、君のほうを見る。
「あんたもそれがわかってるから、タルブでキュルケたちに嘘をついたんでしょ? あれは自分の神さまの力だ、って」 
 君は黙ってうなずく。
 純真だが少し単純なシエスタはともかく、歳のわりに人生経験が豊富そうなキュルケと、過酷な境遇で生きてきたタバサが、君の嘘を
信じ込んだかどうかはあやしいものだが。
「やれやれ、ままならねえもんだね。せっかく力を手に入れたってのに、自慢ひとつできやしねえとは」
「自慢するつもりなんかないけど、わたしだってキュルケやタバサに本当のことを伝えたいわよ。でも、万が一にも秘密が漏れる危険は冒せないわ。
わたしが相談できる相手といえば、ずっと遠くの国からやってきた使い魔兼メイジと、口が悪くて忘れっぽくてぼろっちい、インテリジェンス・ソードだけ……」
「うわ、ひでぇ。俺ぁ傷ついたぞ」
ルイズとデルフリンガーは、そろって嘆息する。

 君は、重苦しい場の空気を変えようと口を開く。
 アンリエッタ王女に話してみてはどうか、白紙の頁に文字が現れたときには報告すると約束したうえで祈祷書を借りたのだから、
報告に赴くついでに自分はどうするべきかを相談してみては、と。
「そうね、姫さまがおられたわ!」
 ルイズはぱっと顔を輝かせる。
「一刻も早くご報告にあがらなきゃいけないのに、すっかり忘れてしまっていたわ。すぐに王宮に手紙を送って、ご拝謁の約束を……」
 そう言うと机に向かい、抽斗から便箋を取り出す。
「あと、わたしの実家にも手紙を出さなきゃ」
 ルイズは君に、意味ありげな視線を浴びせる。
「タルブの村に行ったそもそもの目的は、あんたの魔法に必要な薬を取りにいくためだったんだから。わたしのちいね……えっと、歳下のほうの姉さまが、
生まれつき体が弱くて病気がちって話は覚えてるわよね? タバサのご家族を治しに行くって約束は果たしたんだから、今度はラ・ヴァリエール領まで行ってもらうわよ」
 君は相槌を打ち、ルイズも来るのかと尋ねる。
 ルイズはペンを持つ手を止め、表情を曇らせる。
「行きたいけど、三日も授業を休んだばかりだし……やめておくわ」と、
残念そうに言う。
「ほんとは、田舎者のあんたが母さまや姉さま相手に無礼をはたらかないよう、しっかり見張りっておきたいわ。でも、わたしはこのトリステイン魔法学院の学生。
学生の本分は勉学にあり、よ。そう何度も勝手な理由で休めないわ。実家には、あんたひとりで行ってもらうから。一番小さな馬車をよこすように書いておくわ」
 そこまで言ってから、君をきっと睨みつける。
「いい? くれぐれも、母さまや姉さまに無礼がないようにね? どうもあんたは、貴族を敬おうって気持ちが欠けてるみたいだけど、
ラ・ヴァリエール家じゃそんなの通用しないんだから! とくに、母さまには絶対に逆らわないこと! 姫さまやウェールズ殿下のときみたいに、
馴れ馴れしくしても許されるなんて思っちゃだめよ。あんたのために言ってるんだからね!」
 ルイズの小うるさい注意にうんざりした君は、話をそらすことにする。
 家族には≪虚無≫の系統に目覚めたことは伝えぬのか、という問いに、ルイズは
「伝えたい」と、
ぽつりと呟く。
「わたしが魔法を使えるようになったこと、ついに≪ゼロ≫じゃなくなったこと、父さまに母さま、姉さまたちにも言いたくてしかたがないわ。
みんな、きっと喜んでくれる。よくやったって、褒めてくれる。……でも、今はだめ」
 君に寂しげな表情を見られぬよう、顔をそむける。
「まず姫さまにお話ししてから、決めることにするわ」
そう言ったのち、ルイズは黙々と手紙を書き続け、デルフリンガーの
「娘っ子、本当に里帰りしなくていいのかね? 家族が恋しいだろうに。相棒とふたり水入らずの馬車の旅もあるんだぜ? おっと、俺が居たか」という冷やかしにも、
なんの反応も見せない。二五〇へ。

二五〇

 屋根と扉を備えた小さくも立派な馬車に揺られる君は、行く手の空を見上げ、あくびを漏らす。

 ルイズが手紙を書き上げてから五日後――タルブで≪混沌≫の怪物と闘ってから八日後――の早朝、一台の一頭立て馬車が魔法学院に到着した。
 馬車の御者は、自分はラ・ヴァリエール家からの使いの者だと名乗り、君をヴァリエール公爵の屋敷まで連れてくるように仰せつかった、と告げる。
 君は手早く荷物をまとめてデルフリンガーをつかみ、寝ぼけまなこのルイズに一声かけてから、馬車に乗り込んだ。
 それから二日が経つが、馬車の旅は平穏そのものだ。
 街道沿いの村で食事と休息をとり、夜は屋根の下で暖かい布団にくるまり、追い剥ぎや怪物は影も見せず、空は晴れ渡り雨粒ひとつ降ってこない。
 ≪旧世界≫で多くの地を旅した君だが、これほど穏やかな――耐えがたいほどに退屈でもある――行程は初めて経験するものだ。

「ここから先が、ラ・ヴァリエール領です」
 君と同様に退屈しているのであろうか、御者は手綱をとりながら君のほうに振り向き、話しかけてくる。
 では、もうすぐ公爵の屋敷に着くのかという君の問いに、御者は笑って
「いえ、お屋敷に着くのは夜になりそうです。夕食には間に合うかと」と答える。
 君は絶句し、呆けたようにぽかんと口を開ける。
 領地の端から屋敷まで行くのに、馬車で半日ちかくかかる――貴族の領地というよりは、小王国の領土と呼ぶにふさわしい広大さだ!
 ヴァリエール家がトリステイン王国屈指の大貴族だとは聞いていたが、まさかこれほどのものだとは!

 君は、窓から周りの風景を見渡す。
 視界いっぱいに広がる田園のそこかしこで農夫たちが鍬を振るっており、初夏の陽射しを受けて汗を流している。
 見たところ作物は順調に育っているらしく、彼らの表情は明るい。
 君は御者に呼びかけ、ここは手入れの行き届いたいい土地だな、と言う。
「もちろんですよ。なんといってもここは、ラ・ヴァリエール公爵閣下がじきじきに治めておられる土地なのですから」
 御者は誇らしげに語る。
「何年ものあいだ領内は平和そのもので、農民も町民も安心して仕事に精を出しています。オーク鬼や野盗どころか、狼の群れさえずっと昔に追い払われ、
野蛮で貪欲なゲルマニアの連中も手が出せない……」
 唐突に声が途切れ、息を呑む音が君の耳に届く。
「あ、あれはなんだ!? 空に、空に!」
 御者の悲鳴じみた声につられて、窓から首を突き出し空を見上げた君は、大きなものが三つ、空中を旋回しているのを見て取る。
 それは、羽根に覆われた巨大な翼を背中から生やした、人間型の生き物だ。
 口は鋭く曲がった嘴(くちばし)で、鉤爪の生えた手には槍や弓を握っている。
「よ、翼人だ! どうしてこんなところに!」
 御者が絶叫するが、君は彼が間違っていることを知っている。
 あれは鳥人――北カーカバードのザンズヌ連峰一帯で、最も憎まれ恐れられている者たちだ!
 ≪諸王の冠≫奪還という君の任務も、そもそも鳥人どものせいだった。
 闇夜にアナランドの王宮から王冠を盗み出し、大魔法使いに送り届けたのはこの怪物どもなのだ。
 三人の鳥人のうちひとりは、つんざくような鳴き声をほとばしらせると、手にした弓に矢をつがえ、弦を引き絞る。
 残りのふたりも徐々に高度を下げ、武器を構える。
 相手の攻撃の意図はあきらかだが、今ならまだ、闘いを避けられるかもしれない。
 御者に、全速力で突っ走れと命じるか(一八〇へ)?
 それとも馬車から降りて怪物どもに声をかけ、話ができぬかやってみるか(一四五へ)?

一四五

 鳥人は、君の口にした社交辞令を無視して矢を射かけてくる。
 横に跳びのいてかわすが、矢の狙いは君ではない。
 背後からうめき声がしたので振り返ってみると、胸を射抜かれた男が御者台から転げ落ちるところだ。
 御者を助け起こす暇もなく、残りの鳥人が急降下してくる。
 最初の鳥人の攻撃はかわすが、ふたりめの突き出した槍が肩をかすめたため血がにじむ。
 負傷により体力点二を失う。
 もはや闘うしかない。
 武器を抜くか(四〇へ)、それとも術を使うか?

 DIM・四八九へ
 RAP・四一七へ
 KID・三七四へ
 NEF・四〇一へ
 BIG・四六五へ

四八九

 体力点二を失う。
 君は弓を持った怪物に術をかける。
 効き目が顕れ、怪物は空中でふらつき、手から武器を落とす。
 周囲をきょろきょろと見回しながら、ゆっくりと地面に降り立つ。
 なにが起きているのか、まったく理解できておらぬようだ!
 やにわに両手両膝を地面につき、鶏のようなさえずりを上げる!
 ふたりの鳥人は仲間に起きた異変に眼を丸くするが、攻撃をやめようとはしない。
 怪物はひとりずつ順番に襲いかかってくる。
 決着をつけよ。

 第一の鳥人
 技術点・一〇
 体力点・八

 第二の鳥人
 技術点・九
 体力点・一〇

 ふたりとも倒したなら、一三五へ。

一三五

 武器についた血をぬぐっていた君は、術をかけられ混乱していた鳥人がゆっくりと起き上がろうとしているのを眼にする。
 術の効果が切れたのだ!
 完全に正気づく前にとどめを刺すのは簡単だが、どうにも気がかりなことがある。
 三人の鳥人どもは、なぜ君を狙ったのだろう?
 人間の肉や金品が目当てなら、もっとくみしやすい相手がいくらでもいるのに、よりによって武装した君に襲いかかってきたのだ。
 もしや、以前闘った土大蛇と同様、君に対する刺客として送り込まれてきたのではないだろうか、と君は考える。
 剣を突きつけて脅せば情報が得られるかもしれぬ――言葉が通じればの話だが。
 しかし、鋭い嘴と鉤爪をもつ鳥人は、丸腰でも充分に危険な相手だ。
 怪物が立ち上がる前に剣で串刺しにするか(一六四へ)、それとも首筋に刃を押し当てて降伏をうながすか(三二〇へ)?

三二〇

 眼を覚ました鳥人は、すぐそばに君が立ち、剣を突きつけているのを知って恐れおののく。
「降参する! どうか殺さないでくれ!」
 ひざまずいたままの姿勢で君を見上げ、ひどい発音だが君にも理解できる言葉で慈悲を乞う。
 君はどうして自分を襲ったのだ、と問いただす。
「そ……それは……」
 相手が口ごもるので、言わぬのならとどめを刺すぞと脅す。
「待て! 話す、話すからやめてくれ! 大蛇だ、風大蛇という、恐ろしい化け物の命令だ!」と鳥人は叫ぶ。
 君が風大蛇を知っているそぶりを示すと、鳥人は話を続ける。
「昨日の夜のことだ。風大蛇はふわふわ浮かびながら俺たちの前に現れ――あの匂いといったら!――こう命じたんだ。この道を通る馬車は一台残さず叩き潰せ、
乗っている人間は皆殺しにしてしまえ、と。俺は気が進まなかったが、しかたなかったんだ。誰があの化け物に逆らえる?」
 君は驚きに言葉を失う。
 土大蛇に続いて風大蛇までもが、君を亡き者にするべく動いているとは。
 大蛇どもが復讐を果たそうとしているのか、それとも彼らの主人であるクロムウェルの命令か。
 後者だとすれば、≪レコン・キスタ≫の首領、アルビオンの実質的な支配者は、なぜそこまで君を危険視しているのだろうか?
 首をかしげる君に、鳥人は
「なあ、質問には答えた。二度とあんたに危害を加えないと誓うから、俺を逃がしてくれ」と懇願する。
 君は、怪物を許してどこへなりと去れと告げるか(二〇六へ)?
 裏切られる危険は冒せぬと、首を断ち切るか(二三八へ)?



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