あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第一話



 ――ルイズのサモン・サーヴァントの詠唱が終わり。
 白煙とともにそこに現われたのは、見たこともないような異形だった。
 人と比して、いや、世界中のいかなる生物と比べても、異様に大きい顔。
 歩行が可能なのか疑いたくなるほど極端に短い足。身長ほどはありそうな胴回り。
 そしてその重厚そうな体は、ほとんど全身、青い皮膚で覆われていた。

「kdネ&ぁずpEc4q”z$fミ-%!!」

 そんな異形がほとんど半狂乱で叫びながら、グルグルとその場を回っているのだ。
 恐怖を感じない方がどうかしている。
「る、ルイズ。な、なんなんだい? 君が喚び出したモノは……」
 そこに居合わせた金髪の少年が、思わず、といったように問いかける。
 だが、それは図らずもその場にいた全員の感想と同じだった。
 しかし、その問いかけに答えられる者はいない。
 その異形を喚び出した当のルイズでさえ、その正体は皆目見当もつかないのだ。

 ――ただ分かるのは、『それ』があまりにも『ちがう』ということだけ。

 体のバランスや色だけを見ても、到底まともな生き物であるとは思えない。
 それに加えて、顔の大きさに比べあまりに大きな目、横に大きく裂けた口が、
その奇態さをさらに強く印象づけている。
 ……知能はあるのだろうか。
 突如周りの状況に気づいたかのようにそいつは動きを止め、用心深く周りを見渡し始めた。
「………………?」
 状況を検分し終わると、その巨大な頭部をガコンと傾け、そいつは自分の腹に手を伸ばした。
 よく見るとその生き物は、腹部に一部の有袋類が持つような袋を備えている。
 皆の視線が集中する中、そいつはそこから、灰色がかり、
所々に斑点の浮き出すブヨブヨとした物体を取り出すと、
あろうことかそれを左右に裂けた巨大な口に放り込んだのだ。
 そしてそのまま口を閉じて、ぐちゅ、ぐちゅと咀嚼する。
「う、うわ……」
 それを見た見物人の一人が思わず口を押さえる。

 ……しかし、本当の異変はそこから始まった。
 謎の物体を咀嚼したそいつは、今までの取り乱したようなわめき声ではなく、
きちんとした人間の言葉ではっきりとこう口にしたのだ。

「やあやあ。これはおはずかしいところをお見せしました。
 こんにちわ。ぼくドラえもんです」

 ――と。


 ドラえもんはみんなのぽかんとした顔を見て、首をかしげた。
「おかしいなあ。ねんのためにほんやくこんにゃくまで食べたのに……。
 もしや言語中すうのこしょうかしら?」
 それから一拍遅れ、ようやく事態を把握した見物人たちが騒ぎ出した。
「た、タヌキがしゃべった!」「いや! しゃべる青ビョウタンだ!」
 それで呪縛が解けたかのようにみんな三々五々、好き勝手にしゃべり出し、
それを聞いたドラえもんがなぜか表情を変え、必死に怒りを抑えようと
している様子なのにも気づかない。
 ――しかし、この奇妙な動物の出現に一番動揺していたのはルイズだった。
 この『春の使い魔召喚』の儀式は、今までコモンマジックも使えなかったルイズにとって、
大きなチャンスだった。
 自分の力を示す上でも、これからの自分の系統を見定める上でも、
絶対に外せないイベントだったのだ。
 だから、何度失敗しても諦めず、サモン・サーヴァントに挑んだ。
(ぜったい、すごい使い魔を呼び出してみんなを見返してやろうと思ったのに……) 
 それなのに、それなのに、ようやく呼び出せたのが、

「こんな、こんな青ダヌキだなんてぇえええ!!」
「ぼくはタヌキじゃなぁーい!!」

 ――キィーン…!

 ルイズの悲鳴と、それにかぶせるように放たれたドラえもんの絶叫が
だだっ広い草原の端まで響き渡る。
 あまりの大音量に、その場にいた全員が思わず耳を押さえた。
 そして、
「ミス・ヴァリエール。色々と思うところはあるかもしれませんが、とにかく結果は結果です。
 早くコントラクト・サーヴァントを済ませなさい」
 事ここに至って、このまま放っておく訳にはいかないと考えたのだろう。
 耳を押さえたまま、ハゲ頭の教師、コルベールがルイズを促した。


「……う」
 その言葉に反論出来ず、ルイズがうめく。
 妙ちくりんなタヌキとはいえ、一応使い魔を呼び出せたのは確かだ。
 ありえないような物――例えば平民や異世界の怪物など――が出て来たというならともかく、
一応普通(?)の動物が出たのだから、ここは契約するのが筋なはずだ。
 しかし、契約をするということは……。
「き、きき、貴族がこのようなタヌキとキス?
 そ、それも、この名誉あるヴァリエール家の三女で、美少女のわたしが、
 『美少女の』このわたしが、ここ、こんな、こんな不細工な野良ダヌキとキス?
 いい、いいの? それっていいのかしら? 果たしてそんなことが許されていいの?」
 ワナワナと、たぶん彼女以外には共感できない理由で震えるルイズ。
 そう考えればモグラとキスをしたギーシュも相当の物だが、やはり女の子だからだろうか、
異様なテンパりを見せるルイズに、今まで黙って成り行きを見ていたキュルケが口を出した。
「考え方を変えてみなさいよルイズ。そのタヌキ、動物なのにきちんとしゃべってるのよ。
 もしかしたら高位の幻獣なのかもしれないわ」
 ――実際、ここハルケギニアには幻獣と呼ばれる数々の不思議な生物がいる。
 その中でも高位とされる生き物は高い知能を持つことが多く、例えば今は絶滅したとされている
韻竜と呼ばれるドラゴンは、言語感覚に優れ、人が使う物とは異なる魔法までをも操ったという。
 そう考えれば言葉を話すこのタヌキも、何か優れた能力を持っていると考えるのが自然であり、
「幻獣? このヘンテコなタヌキが?」
 そう言われると、ルイズのドラえもんを見る目も変わる。
 もしかするとこのバランスが悪い頭の大きさも、それだけの脳味噌がつまってるからじゃないか、
などと好意的な解釈を考えてしまう。
 それを見て含み笑いをしたキュルケは、とどめとばかりにさらに言葉を重ねる。
「ええ、それもたぶん、まだ誰も発見したことのない、ね。
 もしそうならすごい名誉じゃない。そんな生き物を使い魔にするなんて、
 きっとこの学院始まって以来の快挙だわ」
「め、名誉……」
 冷静になって考えれば、先祖代々宿敵としていがみ合い続けてきたツェルプストーの言葉である。
 何か裏があるかもしれないと思いそうな物だが、そこは普段からゼロだゼロだと
バカにされ続けてきたルイズである。
 いかんせん名誉という言葉に弱かった。
「やる! わたし、やるわ! こいつを使い魔にする!」
 キュルケにあっさり説得され、ルイズがドラえもんの前に立つ。
 ちなみにその間ずっと、
「だから、ぼくはタヌキじゃなくて未来の世界のネコ型ロボットで…!」
 と、ドラえもんが力説しているが、誰も聞いていない。
 もちろんルイズもそんなことにはお構いなしで、
「あんた、感謝しなさいよね。貴族がタヌキにこんなこと、普通はめったにしないんだからねっ!」
 そう言い捨ててから手に持った杖を振り、呪文を唱えて、
「ん……」
 ルイズの唇が、ドラえもんの唇に重ねられる。


(これで、いいわよね)
 頃合を見て、ルイズが唇を離す。
「い、いきなりなにするんだきみは…!」
 突然唇を奪われたドラえもんはバタバタと短い手足を振り回して怒っているが、
「いいからだまってなさい」
 ルイズは全く取り合わない。
(これでしばらく待って、こいつの体にルーンが刻まれれば終わりね。
 ・…………………………………………………あれ?)
 しかし、いくら待ってもドラえもんの体に変化はない。
「だいたいきみたちはこっちが自己しょうかいしているのに
 名乗りもせずにかってなことばかり……」
 ドラえもんはさらに暴れだすが、ルイズはそれどころではなかった。
「な、なんで? なんで使い魔のルーンが刻まれないの?
 ちょっとあんた、どういうことよ!」
 一世一代の蛮勇を振りかざしてタヌキにキスまでしたのに、ドラえもんにはまったく
使い魔のルーンが現われる徴候もないのだ。
 逆ギレもはなはだしいが、ルイズは思わずドラえもんに詰め寄った。
「つかいま? ルーン?」
「あんた、ゲートをくぐってきたんでしょ。ゲートをくぐった生き物がどんな物であれ、
 正しい方式に従ってキスをすれば、そいつが使い魔になるはずなのに……!」
 ドラえもんはふうん、と言ってみた後で、
「つかいまとかルーンというのはよくわからないけど、たぶんそれはぼくが機械だからだね」
 そう言ってあっさりと頷いてみせる。
「……機械?」
「そう、22世紀のひみつ道具でみんなの夢をかなえる未来のネコ型ロボット!
 それがぼくなんだ」
 たかが子守りロボットが、胸を張ってそう宣言するが、
「……ぜんっぜん、わからないわ」
 ルイズにはもちろん通じない。
「ふうん。ここはまだ機械文明が発たつしていないみたいだな。
 かんたんに言えば、動くカラクリ人形だよ」
「カラクリ人形?! つまり、魔法を使わないゴーレムみたいな物ってこと?
 そんな!? 生き物じゃない相手の所にゲートが開くなんて話、聞いたこともないわ!」
「ぼくが知るかよ。そんなこと」
「……う」
 突き放した言い方をされ、ついルイズはひるんでしまう。
(でも、こいつの言うことも一理あるかも)
 落ち着いて考えると、いろいろと不思議なことがあるのに気づいた。 
(しゃべるタヌキがいるなんて聞いたこともないし、こいつ、やっぱり幻獣って感じじゃない。
 きっと、こいつは遠くから、たぶんこことは文化も言語も、もしかしたら使ってる
 魔法だって違う、遠い国から来たんだわ)


 そこまで考えて、どうせなら本人に話を聞けばいいのだと気づいた。
「そういえばあんた、一体どこから来たわけ?」
 そうルイズが尋ねると、急にドラえもんは飛び上がった。
「そ、そうだっ! のび太くんにかしてた道具を返してっていったら、
 ネズミがぼくを追いかけてきてるっていわれて……」
「……ネズミなんてどこにもいないけど?」
 ドラえもんが現われた時も、周りにネズミの姿なんてなかった。
 さては、とルイズは思いつく。
「あんた、もしかしてその『のび太』っていうのに騙されたんじゃない?」
「くうぅ、のび太のヤツぅ。あとでおぼえてろよ!!」
 ドラえもんは肩を怒らせるが、ルイズとしてはその辺りの事情はどうでもよかった。
「で、ネズミがいるって言われてからどうしたの?」
「さあ。むがむちゅうだったからなにがなにやら。
 ただ、とちゅうで光る門みたいなものをくぐったような…」
 なぜネズミと言われると無我夢中になるのかルイズにはわからなかったが、
(猫型ロボットらしいから、ネズミを見るとわれを忘れておいかけちゃうのかも)
 と、適当に納得し、とりあえずドラえもんの言葉にうなずいた。
「あぁ、その光る門がきっとサモン・サーヴァントのゲートね」
「サモン・サーヴァント? ゲート?」
「ええ。遠くから使い魔を呼び寄せるための門よ」
 ルイズとしては親切に説明してやったつもりなのに、ドラえもんは首をかしげた。
「? つまり、どこでもドアみたいなものかな」
「どこでも……? なにそれ? 何系統の魔法?」
 言葉の意味がわからず、ルイズは真剣に尋ねたのだが、それをこともあろうに、

「魔法? アハハ。きみはじつにバカだな」

 笑った。魔界で大冒険したことも忘れ、ドラえもんはルイズの言葉を笑い飛ばしたのである。
「……なんですって?」
 人一倍短気なルイズである。バカだと割と図星なことを言われ、思わずむっとする。
「どうりで話がつながらないと思ったよ。魔法なんて非科学的もの、あるわけないじゃないか。
 見たところきみは子どもみたいだけど、そろそろ小学校くらいには行ってるだろ。
 魔法なんて夢みたいなことばかりいっていないで、すこしはげんじつを見ろよ」
 この世界の常識と、ついでにドラえもん自身の存在意義までぶち壊すようなことを言うドラえもんに、
ルイズの怒りは極限に達した。
 魔法は本当にある!と言ってやりたいのだが、じゃあ見せてみろよ、と言われると困るので
強く出れないのだ。
「べ、べべつに、信じたくないなら信じなければいいわ。……でもね!
 あんたがここに呼ばれたっていうのは本当よ。たぶん、ずっと、ずぅーっと遠くの国からね。
 そんなところから召喚されて、普通の方法で元の世界に帰れるかしら!」
 ルイズとしては、ちょっとした負け惜しみくらいのつもりだった。
 しかしドラえもんは、
「な、なんだってーー!?」
 驚きのあまりその場で一メートルくらい飛び上がって、すぐさま、
「どこでもドア~!」
 奇天烈な掛け声と共にお腹の袋からドラえもんの身長より大きなドアを取り出し、
その扉を開く。
 しかし当然のことながら、開いた先はどこにもつながっておらず、
ただ一面の草原が広がっているだけで、
「ほ、ほんとうだ。帰れなくなってる」
 だがそれを見たドラえもんはなぜかガックリとうなだれた。


「な、なんてことをしてくれたんだ。これはたいへんなじたいだぞ…」
 ドラえもんは衝撃のあまり、犯罪者チックな目つきで頭を抱えた。
「な、なに? どうしたっていうのよ…?」
 そして、その完全に据わった目つきでルイズをにらみつける。
「いいか、よく聞けよ! ぼくがもとの場所にもどれなくなったらどうなるか!」
「ど、どうなるっていうのよ? ……まさか、世界が滅びる、とか言わないわよね」
 あまりのドラえもんの剣幕に、さすがのルイズも少しだけびびる。
 しかしドラえもんは、とんでもない、とばかりに身震いした。
「ああ、そんなことならどれだけよかったか……。
 いいかい? ぼくがもとの場所にもどれないと…」
「も、戻れないと…?」

「のび太くんはジャイ子とけっこんすることになるんだぞ!!」

「…………………………は?」
 目が点になるルイズに、ドラえもんはさらにたたみかける。
「それだけじゃない。大学入試にはらくだいするし、しゅうしょくはできない。
 しかたなく自分で会社をはじめてみても、火事で丸焼けになってつぶれるんだ」
「な、なんかよくわからないけど、やけに具体的な未来ね…」
「そのときの借金が孫の孫の代になっても返せなくて……。
 とにかく、年をとってしぬまで、ろくなめにあわないんだよ。
 ああっ、かわいそうなのび太くん! ぼくがいなくなったばっかりに…!」
 自分で口にしたことが相当ショックだったのか、ドラえもんはおいおいと泣き出した。
 一方ルイズにはドラえもんが言っていることの意味はさっぱりわからなかったが、
とりあえず泣かれてもしょうがないので、なぐさめの言葉をかける。
「な、なに言ってるかわからないけど、あんたがいなくなればその『のび太』って子も、
 きっと独り立ちするわよ。ちょうどいい機会じゃない」
 しかし、それはドラえもんののび太への愛情に火を点けただけだった。
「あまい! のび太くんはぼくがいなくちゃおつかいにもひとりでいけないダメ人間なんだぞ!
 かれがまたノラ犬においかけられて、ズボンのおしりをやぶかれていたら、
 きみはいったいどうしてくれるんだ!」
「……そんなの知らないわよ」
 一応相手の都合も聞かずに召喚してしまった負い目があるからマジメに話を聞いていたが、
やはりルイズは気の長い方ではない。だんだんとめんどうくさくなってきた。
 ――ていうかこいつ、ちょっと調子乗ってるわよね。使い魔のくせに、ご主人様ナメてんじゃない?
 そう考えると何だか腹が立ってくる。
 いやいやしかし、コントラクト・サーヴァントは失敗したではないか。
 つまりこのタヌキは使い魔ではない訳で……。
(って、そうだわ! わたし、こいつにき、ききき、キスまでしてやったのに、
 このタヌキってば、使い魔にならなかったのよね!
 じゃ、じゃああのキスは無駄じゃない! 無駄キス…。そう、完全な無駄キスだわ!)
 理不尽な事実に、一度は収まった苛立ちが、むくむくとルイズの中で大きくなってくる。
「き、きみのせいだぞ! わかってるのか!?」
 だからドラえもんがキレ気味にルイズにつっかかってきた時、
ルイズは目の前の生意気な青ダヌキに『口撃』を開始することにした。
 それは、ゼロゼロと呼ばれ蔑まれ続けてきたルイズが鍛え上げた唯一の武器だった。


 小学生のしずちゃんよりもまっ平らな胸を張り、傲然とドラえもんの前に立つ。
「で、その、あんた、ドラえもんとやら。とにかくあんた、ほんとに猫なの?」
「しっ、しっけいな…! ぼくのどこがネコらしくないって…」
「ぜんぶ」
 あっさりと言われ、さすがのドラえもんも絶句する。
「青い猫なんて、トリステイン中、ううん、ハルケギニアを隅から隅まで探しても一匹もいないわよ」
「う、これは傷心の海の色というか、なみだでとそうが……。もとは黄色くて……」
「黄色い猫だっていないわよ」
「……………」
 それはまさにその通りだったので、さすがのドラえもんも黙り込む。
「いいわ。百歩ゆずってそれはいいとしましょう。
 青い猫だって、そうね、百万匹に一匹くらいならいるかもしれないもの。
 でも、それ。それはどうなの? あんた、猫のくせになんで耳がないのよ」
「そ、それは……。ね、ねていたところをネズミにかじられて……」
 ――どっ。
 ドラえもんがそう口にした途端、ルイズだけではなく、周りで見ていたギャラリーからも笑い声があがる。
「き、君ィ。同じうそをつくのでも、もう少しマジメなうそをつきたまえよ。
 だいたい君はネコ型ロボットなんだろう? ネコがネズミにやられるなんてまるであべこべじゃないか」
 特に大きな笑い声をあげた金髪の少年、ギーシュが堪え切れずにドラえもんにそんな言葉を投げかけた。
「ひ、ひとにはひとつくらい、どうしてもにがてなものが…」
 なおも言い訳を続けようとするドラえもんを、
「理由なんてどうでもいいわ。とにかく耳はないわけよね」
 ルイズが横からばっさりと切り捨てる。
「ないというか、なくなったというか…」
 もともとあまり口のうまい方ではない。すでにドラえもんはしどろもどろだ。
 そんなドラえもんに嗜虐の笑みを浮かべると、
「もう一度、聞くわ。あんたのどこが猫なの? 言ってみなさいよ」
「……う。そ、それは、ぼくにはこのとおり、りっぱなヒゲが…」
 さっきまでの勢いはどこに行ったのか、おどおどと答えるドラえもん。
 その姿が、ルイズの奥底に眠っていた『イケナイ』スイッチをオンにした。
「へぇ。……これがヒゲ?」
「い、いたい!」
 ビイン、とルイズが無造作にヒゲを引っ張る。
「あんまり貧相だったから、ぜんっっっぜん、気づかなかったわ。
 そこらの雑草拾って差しといた方がまだ見栄えがいいんじゃない?」
「ざ、ざっそう…」
 あまりの言葉に絶句するドラえもんを、ルイズは優越感に浸りながら見下ろす。
 自分に無駄キスまでさせた生意気な青ダヌキがはいつくばっているのが愉快でたまらない。
 ――ルイズ、小悪魔への目覚めであった。 
「で、ほかには? もうおしまい?」
「あとは、しっぽ! そう、ぼくにはちゃんとしっぽがあって……」
 そして、ルイズの迫力に押され、ヒゲの時の顛末も考えず
思わずそう口走ってしまったのがドラえもんの最大の失敗だった。


 その言葉を聞いたルイズはまさに水を得た魚。
 ルイズは嬉々としてドラえもんの後ろに回りこんで、
「しっぽ! まさかあんたの言う『しっぽ』ってこの子供が使うオモチャみたいな、
小さなぼんぼんのついたこれのこと? こんな、ちょっと引いたら取れちゃいそうな…」
 言いながらドラえもんのみょうちくりんなシッポをぐいっと引いた途端、
「あ、そこをひっぱったr……」

 ――コテン。

 ドラえもんは急に黙り込み、その場に転がった。
 だが、そんなことで同情するようなルイズではない。
「ふぅぅん。都合が悪くなったからって死んだフリ?
 今さらそんなことしたってごまかされないだからね!」
 そう言ってルイズはコチョコチョとドラえもんをくすぐり倒し、
それでも反応を見せないのでゴロンゴロンと好き勝手に転がしてみて、
そこまでしてもぴくりとも動かないので、ようやくこれが尋常な事態ではないと気づいた。。
「あ、あれ? 本当に動かないじゃない。ちょ、ちょっと?
 どうしたのよ、ドラえもん。ねぇ、ドラえもん?」
 それからも焦って色々とやってみるが、押しても揺すっても、
ドラえもんは全く動こうとしない。
 まるで本当の人形でも動かしているようになすがままだ。
 すると、それを見かねたのか、後ろからキュルケが近寄ってきた。
「ちょっとどきなさい、ルイズ」
「なによ。なんであんたが…」
「いいから。あんたに医術の心得なんてないでしょ。
 あたしも得意じゃないけど、あんたよりは場慣れしてるわ」
 そう言われて、ルイズはしぶしぶと場所を空ける。
「ふうん。これがルイズの、ね。ううん、妙なさわり心地ねぇ……」
「キュルケ! 遊んでないで、まじめに診なさいよ!」
 ものめずらしげにドラえもんをペタペタといじりまわすキュルケに、
ルイズの叱咤が飛ぶ。
「はいはい。……えーと、どれどれ?」
 様子を確かめるようにドラえもんの胸の辺りに顔を寄せ、
そこで急にキュルケの表情に驚きが混じる。
「まあ大変。ルイズ、この子、息してないわ」
「えぇっ!」
「オマケに、心臓も止まってる」
「うそっ…!」
 ルイズはキュルケを押しのけ、ドラえもんに駆け寄る。
 いくら憎たらしい相手であっても、殺すつもりなんてなかった。
「そんな、うそでしょ。だって、さっきまでは元気に動いてたのに……」
 だが、現実は無情だった。
 その体はすっかり冷たくなっていて、そこにはもう、生命の徴候はない。
「そんな、そんな……」
 もしかすると、ほんの少し運命の歯車が違う風に回っていれば、
相棒にもなっていたかもしれない存在だったのに。
 それを、こんな形で失うことになるなんて。
「あぁっ……」
 目の前が真っ暗になってその場に膝をつく。
 後ろからつぶやかれる「いやあのねルイズ。この子カラクリなんだから息してなくて当たり前…」
というキュルケの言葉ももう耳に入らない。
 わきあがる後悔の念に押されるように、ルイズは叫んだ。


「ドラえもーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!」


『ドラえもん のび太のパラレル漂流記』 第一話 完



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