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虚無と金の卵-05


 ギーシュが決闘を持ち掛けられた頃、学院室ではコルベールとオスマンが、顔を付き合わせるように話し込んでいた。

「……始祖ブリミルの使い魔『ミョズニトニルン』に行き着いた、というわけじゃね?」

 オスマン学院長は、コルベールが描いた、ウフコックの額に現れたルーン文字のスケッチをじっと見つめた。

「そうです! あのネズミの額に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』に
 刻まれていたものとまったく同じであります!」
「で、君の結論は?」
「あのネズミは、ミョズニトニルンです! これが大事でなくてなんなんですか!」
「ふむ、確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じということは、かのネズミが
 『ミョズニトニルン』になった、ということになるんじゃろうな」
「どうしましょう」
「しかし、それだけで、そう決め付けるのは早計かもしれん」
「それもそうですな」
 オスマン氏は、悩ましげにコツコツと机を叩く。
 悩ましげな沈黙の中、ドアが控えめにノックされた。
「誰じゃ?」

 扉の向こうから、ミス・ロングビルの声が聞こえた。

「私です、オールド・オスマン」
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒がいるそうです。大騒ぎになっています」
「まったく、暇を持て余した貴族ほど性質の悪い生き物はおらんわい。
 で、誰が暴れておるんだね?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンとこのバカ息子か。おおかた女の子の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」
「……それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の……鼠が決闘を持ちかけたそうです」
 オスマンとコルベールは目を見合わせた。
「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めています」

 オスマンの目が一瞬、鋭く光る。

「アホか。たかが子供の喧嘩を止めるのに秘法を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
「わかりました」
「というかネズミ相手に決闘……本当にアホじゃな」

 ミス・ロングビルが去る足音を確認してから、コルベールは尋ねた。

「オールド・オスマン」
「うむ」
 オスマンは杖を振るった。大鏡に、ヴェストリ広場の様子が映し出される――。





 仕切り直し/男女の痴話喧嘩から、貴族と紳士の決闘へ。

「先ほど見せた通り、青銅のワルキューレを操るのが僕、青銅のギーシュだ。
 先ほどは一体だけ出したが、そんなのは僕の魔法の片鱗に過ぎない。謝るならば今のうちだ。
 ……というか、どうか謝ってくれないだろうか」

 香水の瓶から始まった騒動から時間が経ち、流石にギーシュも落ち着いてきたらしい。
 鼠相手の決闘という状況に自己嫌悪を抱いていた。

「加勢はありよねー?」
「そうよ! ネズミと決闘だなんて本気でやるつもり!?」

 キュルケとルイズは、ウフコックを慮って助け舟を出した。
 流石に人対ネズミともなれば誰しも判官贔屓になるようで、ギーシュを非難する空気が出来上がりつつある。

「いや駄目だ」「うむ、その通りだ。加勢を認めよう……って、え?」

 ギーシュの言葉を待つまでも無い、ウフコックの鋭い拒否。
 その言葉に、ギーシュも、集まってきた聴衆も驚いた。
 むしろ困ったのはギーシュであった。
 加勢相手にやられたならば、1対2で負けたということで、さほど名誉に傷は付かない。勝ってしまえばなお良い。
 そもそも、ネズミ相手に本気で決闘/勝利――導き出される結論。不名誉以前に、とてつもなく大人気ない。
 大体、勝つにしても、ネズミ相手の手加減がひたすら難しい。
 痴話喧嘩から発展して使い魔を殺すなど、当然の如くギーシュは勘弁してほしいと思っていた。

「な、なぁ、君、ウフコックといったか……その、無理せずとも良いんだぞ?
 決闘なんて、ルールなどあって無いようなものだ。怪我をすれば自分の責任、さらに言えば死に損だ。
 だから代理人を立てたり、介添人が加勢したりするのはよくあることだ。僕の方は全然構わないから、頼むよ」
「相手を気遣う前に、自分の心配をすべきだ。俺もそうしてきた。そうして自分と仲間のために敵と戦ってきた」

 ごくり、とギーシュは息を呑んだ。
 そして小さな鼠に圧倒されているのでは、という疑念をギーシュは頭から振り払う。

「何を勝手に話を進めてるのよ! 第一、どうやって戦う気よ! いくら『変化』が使えるからって……、
 戦えるかどうかってのは別問題じゃない!」
「その通りだ。
 ならば戦うための『変化』をすれば良いだけだ。それに……」

 ウフコックはギーシュに向き合う。

「ギーシュ、君には悪いのだが、俺にはこの決闘が必要なんだ。どうか手合わせ願えないだろうか」

 ウフコックの何のてらいも無い言葉に、ギーシュは言葉を返せない。
 ウフコックのその意思、その有り方を知る由もなかった。


「では始めようか」
「……しかたあるまい、恨むなよ?」

 冷やりとする沈黙が場を包む。
 互いに撃鉄を起こす行為――ギーシュが杖を振るう/ウフコックの反転変身。
 等身大の青銅のワルキューレの出現/広場の土に差し込むように立った、堅牢な砲台の出現。
 ワルキューレが単槍を構える/鋼鉄の脚の上の砲筒が狙いを付ける。
 決闘相手に引鉄を引くように激突――するはずであった。

「……え?」

 穏やかなヴェストリ広場に似合わぬ鋼の音が響く。
 聴衆からは酷く混乱した匂い。ギーシュからは目の前の現実を拒否する匂い。
 ルイズとキュルケは、事態が深刻になる前に割って入るつもりで杖を構えていた。だが、何かがズレている。
 誰もが、事態の発展=ウフコックの危機、と思い込んでいた。

「ちょ、ちょっと、ウフコック! 何なのよそれっ!」
「さて、では覚悟は良いか」
「いや待て待て! そ、それは無いだろう!」

 ギーシュの言葉は、この場にいる聴衆のほとんどの心の声を代弁したと言っても過言ではない。

 この世界にも大砲はある。
 基本的には、城や船に備え付けられるような大型のものだ。
 それよりは小ぶりだが、その威力はメイジでも決して侮れない。
 ドットメイジの作った青銅のゴーレムが、果たしてその火力に耐えられるか。
 ギーシュの焦燥――防御のためにワルキューレをさらに呼び出す。6体を自分の前方に集め、初撃を防ぐ。

「そう出るだろうとは思っていた」

 ぱしゅっ、と気の抜けたような音を立てつつ、黒い球のようなものがギーシュとワルキューレの上に届く。
 彼らの戦いを見守ってみた者、そして当の二人はそれを見上げ、そして黒い球は四散した。
 ウフコックが変身したのは暴徒鎮圧用の大型ネットランチャー。
 広範囲に、青銅の槍ではまず切れそうも無い合金製の網が広がり、狙ったものを確実に捕獲。
 網の中でもがけばもがくほど網は絡まり、ギーシュとワルキューレの身動きを封じていく。
 結局、最初の一発を放つまでの数秒で片が付いたも同然であった。
 ひたすらもがくギーシュ――ワルキューレ以外に攻撃手段を持たぬドットメイジに、脱出する手段など当然無い。
 ギーシュが網の下で落ち着くまで十二分に待ち、ウフコックは尋ねた。

「さて、今から実弾で狙っても良いのだが。負けを認めるか?」
「……何がどうなってるかさっぱりわからんが……。多分、僕の負けだ」


「――その、オールド・オスマン」
「ううむ」
「色々と言いたいことはありますが、なんですかあの決闘は」
「……コメントは控えよう、コルベール君」

 妙に重く、こそばゆい沈黙がオスマンとコルベールを包んだ。

「……おほん。しかし、あのネズミが砲台に化けましたが、『変化』とは違う魔法でしょうな……」
「そうじゃな。
 『砲台』が『網』を放った……つまり、『変化』し、そして『分離』したということじゃ。
 しかも、土や石を変化させたわけではないから錬金とも違う。
 まるで……別の世界から物を召喚したかのようじゃわい」
「そしてあのような道具は見たこともありません!
 ミョズニトニルンは、あらゆる知識を溜め込み、ブリミルに助言をしたと言い伝えられています。
 ……私も研究者の端くれ、一目見ただけでわかります。あの砲は我々の及びも付かない複雑な仕組みでしょう。
 きっと、ミョズニトニルンの知識の賜物に違いありません!
 早速王室に報告して指示を仰がなくては!」

 逸るコルベールだが、オスマンは重い表情を崩さなかった。

「いや、あれと似た道具は見たことがある」
「何ですって!?」
「……『破壊の杖』じゃよ。あの砲台の脚が無ければ、作りが何処となく似ておる」
「おお、そう言えば確かに……!」
「……しかしわからんのう。
 そもそも、あのような金毛のネズミなど、見たことも聞いたこともないわい」
「そうですな…ルーンこそわかっても、それを付与されたネズミが何者か、見当も付きません。
 図書館の如何なる文献、図鑑を当たっても無しのつぶてでした……」
「しかも、その謎めいたネズミを召喚したのは、ミス・ヴァリエール。
 その、なんだ、座学は熱心なようじゃが、優秀なメイジとは言えぬ成績じゃし……。
 ともかく」

 咳払いし、オスマンは溜息混じりに言った。

「王室のボンクラどもに知らせては、またぞろ戦でも引き起こすじゃろう。
 アカデミーに知られたら生きたまま固定化されるか、解剖される運命じゃわい。
 ……この件は儂が預かる。
 何とも謎が多すぎるわい。他言無用、軽挙は厳に慎むようにな」
「は、はい! かしこまりました!」

 オスマンは杖を握ると窓際へと向かった。
 遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。

「しかし、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』か……一体どんな姿をしておったんじゃろうな」
「あらゆる知識を溜め込み、始祖ブリミルに助言をしたとのことですから……」
「ふむ」
「とりあえず頭と口はあったんでしょうな」



 ウフコックはルイズと共に自室に戻ると、自分用のベッドにごろりとひっくり返った。
 仰向けに寝転がって四肢を投げ出す、とても野生動物とは見えない寝相を見せる。
 ――ギーシュの件は、自分の介入で混乱をさらに悪化させたのではないか。
 決闘の後、ウフコックはそんな悩みをルイズに零していた。

「はぁ、もう少しスマートに解決できれば良かったんだが……」
「良いじゃない、ギーシュには良い薬よ。五体満足なんだし、こちらが文句言われる筋合いなんてないわよ」

 ちなみに、意気消沈したギーシュの介抱は、ギーシュを取り巻いてた男子連中が買って出た。
 当事者が教師陣に捕まれば面倒ごとになるのは誰しも理解しており、場を収集するのは容易かった。
 ルイズとウフコックに出来ることは早々に退散するだけであり、いち早く寮の自室に逃げ込んでいた。

「でも……。何よあの隠し玉?」
「……俺は自分の居た研究所で、色んな道具への変身を覚えこまされたんだ。
 今日変身したのも、その一つだ。
 ああいった大砲や銃の類は……もしかして、とても珍しいのか?」
「うーん……少なくとも、あんな精巧なものは無いわ。貴方の世界だと、あんな道具が普通にあるの?」
「ああ。種類も数もたくさんある。
 ――もっと言えば、君らの魔法並の威力の銃ならあるだろう」
「……はぁ、貴方の世界って、やっぱり想像を超えてるわ」
「やはりそうか……あの姿は、見せるべきではなかったかもしれないな」
「ま、過ぎたことは仕方ないわ。。知りたがりや、首を突っ込みたがる人はどこでも居るだろうけど……。
 まあ、少なくとも主人としては好きにさせたりはしないから」
「ありがとう、ルイズ……」

 そう言ったままウフコックは、手を胸の上で組み、呆然と中空を見上げていた。
 緊張からの開放、戦いの疲労――未だ動悸が治まらないのをウフコックは感じた。
 今日の出来事が目まぐるしく思い出され、目が冴えて一向に睡魔が訪れない。

 その過敏になった神経に気付いたのだろう。
 労わるような、面白がるような、子悪魔的なルイズの声。

「ねぇ、ウフコック。貴方、本当は怖かったんでしょ?」
「……」
「別に馬鹿にしやしないわよ」

 ルイズはおいで、と手を差し出した。
 ウフコックは気だるげなまま、むくりと起き上がり、ルイズの小さな手の上に載る。
 ルイズはウフコックを片手に乗せ、そっとその小さな背中を撫でる。
 その感触――郷愁すら感じる手の平の温もり――に、ウフコックは身を委ねた。
 やがて、ぽつり、とウフコックは話し始めた。



「……その、俺は、一人で戦ったのは今日が初めてだったんだ」
「本当?」
「ああ。俺自身が道具であり、武器だったから、誰かの手に握られて戦うことが常だった。
 言うなれば、俺は君らの言うところの杖や剣であって、その用途は使用者次第だった。
 使用者は自分がこれと決めた人だったが……決めたあとは、全て任せていたようなものだ」
「相棒が居たって話?」
「……ああ。だが、それではいけないと気付いたんだ。
 俺は……街で仕事に就いたときに、弱者の楯になると決めた。
 だから俺は、使い手を選ぶだけではなく、使い手の使い道について納得しなければならない。
 あるいは逆に、道具である俺自身が使い手を助け、導くことだって、今後あるかもしれない」
「……そう」
「それで今回は、踏ん切りを付ける、良いチャンスに思えた。
 一人で闘いを挑んだり、誰かを先導したりする第一歩として。
 勿論、あのメイドが虐げられそうだったことや、俺や君が侮辱されたことが何よりの動機だが。
 だが結局、便乗したことに他ならない。……正直なところ、ギーシュにはとても悪いことをしたと思っている」

 ルイズに体重を預けつつ、ふう、とウフコックは溜息をつく。

「ま、大丈夫よ。ギーシュは大の付く馬鹿だけど、そんなネチネチしてないし立ち直りも早いからね。
 ……でも」

 背を撫でる手の平が少し硬くなり、ウフコックは身構える。

「一人で戦うとか、そんな悲壮なこと考える前に、一言くらい相談してくれたって良いんじゃないの?」
「う……」

 ルイズはジト目でウフコックを見つめつつ、ウフコックの額を指で軽く突っつく。
 ウフコックは呻きつつ甘んじて受ける。

「そりゃま、相談できないときだってあるかもしれないけど、一人で何でもかんでも、できるわけじゃないでしょう?」
「……全く持って、その通りだ」
「それに、貴方を頼りにする人も居れば、貴方を心配する人だって居るんだから。
 迷惑をかけるのを怖がってたら独りになっちゃうわよ。
 ……それとも何よ、貴方のご主人サマは相談も憚られるほど頼りないワケ?」
「……す、すまなかった」
「ま、でも今日は、貴方の勇気に免じて許してあげるわ」
「……ルイズ?」

 そしてルイズは手にのせたウフコックに顔を近づけ、ちゅ、と、その小さな額に口付けを与えた。
 契約ではなく、信頼の証として。



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