あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と金の卵-04



 ある日の学院長室における、年寄りの楽しい楽しいセクハラの時間/代価――ミス・ロングビルのビンタと蹴りの応酬。
 痛がりつつも満足を覚えていた学院長オスマンの至福の時間は破られる。
 コルベールの逸る足音が学院長室へと近づく。
 オスマン達はその足音が聞こえた時点で、気の抜けた空気を早業で払拭させていた。

「オールド・オスマン! 大変です!」
「なんじゃね? 大変なことなどあるものかね」

 コルベールの目に映るのは、机に向かい重々しく手を組むオスマン/粛々と書類を整理するミス・ロングビル。
 そして乱暴に扉を開けたコルベールに対し、オスマンは重々しく頷いて促す。

「こ、これを見てください!」
「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。
 まーたこのような古臭い文献など漁りおって。
 そんな暇があるのなら、たるんだ貴族達から学費を徴収するうまい手をもっと考えるんじゃよ。
 ミスタ……なんだっけ?」
「コルベールです! お忘れですか!」
「そうそう、そんな名前だったな。君はどうも早口でいかんよ。
 で、コルベール君、この書物がどうかしたのかね?」
「これも見てください!」
「……これは……」

 コルベールは、ウフコックの額に現れたルーンのスケッチを手渡す。
 それを見たオスマンは、重々しく呟く。

「……小さすぎてよく見えんのじゃが」
「すみません。鼠の額に現れたルーンを、原寸大で写したもので……」
「猫の額どころではないのう。眼鏡、眼鏡……と。
 あ、そうじゃ、ミス・ロングビル。資料室の整理をお願いして宜しいか?
 召喚の儀式も終わって授業も本格化してきたからのう」
「ええ。畏まりました」



 春の召喚の儀式以降、ルイズは相変わらず魔法が成功することは無かったが、めげることなく
 勉強と実践に取り組んでいた。
 つまるところ、ルイズ達は概ね平穏な日々を送っていた。
 そして学生の身の彼ら、彼女らにとって、退屈とは敵であった。

「ウフコックはピスタチオ好きよね。鼠なのにチーズが嫌いだし」
「俺のいた国でも、鼠はチーズを齧る、というのがステレオタイプなイメージらしい。
 食事やパーティの度に勧められて困ったものだ」
「ちゅう(良い生活してるもんじゃな、ウフコックも)」

 放課後のヴェストリ広場、そこに備え付けられたテーブルの一角で、一人の少女と二匹の鼠が長閑な休憩を取っていた。
 ルイズ、ウフコック、そして学院長の使い魔、ハツカネズミのモートソグニルである。
 同じネズミどうし、そして同じ使い魔の二匹は、出会ってすぐに意気投合していた。
 今では茶飲み友達といったところだろうか。
 ルイズは、この世界に馴染みつつあるウフコックに安堵を覚えつつ紅茶を飲む。
 何と平和に満ち溢れた放課後だろうか――そんな主人の満足げな匂いを感じ取り、
 ウフコック自身も同じ満足感に浸っていた。

「ま、おかげで運動不足だ。きっと寮の廊下を走ったら息切れしてしまう」
「ちゅう(おいおい、2、30メイルくらいじゃねぇか。そんなんで獲物を捕れんのか?)」
「……自分自身、不甲斐ない気がする……。
 そういえば、獲物を捕ったことは無いな。というより調理されていない食事を摂ったことが無いと思う。
 調理器具なら用意できるんだが……」
「ん? モートソグニルに怒られてるの?
 それじゃあ食堂の人にお願いして、一度くらい獲物を捕まえるのにチャレンジしてみたら?」
「ルイズ、勘弁してくれ……俺にはあまり鼠の本能は残っていないんだ。
 それに獲物を捕ったとして、別に見たくはないだろう?」
「……それもそうよね」
「ちゅ(何抜かしてやがる。野生の魂を忘れちゃあいけねぇ。メスでも紹介してやろうか?)」

 そんな気軽な会話を交わしていた頃、男子達の一団が、騒がしい空気を醸し出していた。
 その中心に居るのは、フリル付きのシャツに薔薇を挿した金髪の少年。
 少なくとも学生達の話題の中心になる程度には華がある。彼を囲むのは少数の女性も混ざっていた。



「なあギーシュ、お前今誰と付き合っているんだよ?」
「付き合う? 僕にそのような特定の女性は居ないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

 などと冷やかされつつ、気障な斬り返しで場を盛り上げている。
 その会話の輪の中へ、あるメイドがそのギーシュと呼ばれた少年に近づき、何かを手渡そうとしていた。
 ――結論から言って、恋愛や性にあまり興味を持たないウフコックからしても、そこからの展開は酷かった。
 ウフコックは何処か険悪な匂いだけを嗅ぎ取り、少年らの方へ首を向けた。

「あのう、こちらの香水を落とされましたよ」
「……これは僕のじゃない。君は何を言ってるんだね?」

 一見してごく普通のやり取り。だが、明らかにギーシュからは焦慮の匂いが漂う。

「おお、その香水、モンモランシーが自分で調合したやつじゃないか。
 それがギーシュから出てきたってことは……モンモランシーと付き合ってるのか!」
「違う。いいかい? 彼女の名誉のために言っておくが……」

 ギーシュの側に居た栗色の髪の少女は香水の瓶を見咎め、ほろほろと泣き始める。
 そしてまた別の少女がギーシュの元につかつかとやってくる。その様子に気付いたルイズが、
 「あ、モンモランシー」と言葉を漏らす。

「ギーシュさま……その香水が貴方のポケットから落ちたのが何よりの証拠ですわ。さようなら!」
「やっぱり、この一年生に手を出してたのね、うそつき!」

 やってきたモンモランシーによって惜しげもなくギーシュのあたまにぶっかけられるワイン/
 去って行く二人の少女/表情を崩さず芝居がかった仕草のギーシュ/哀れなほどに顔を青くするメイド。
 ギーシュは表情を崩さず、だが肩を震わせつつメイドに問い詰めた。

「そこの君……。君の軽率な行動のおかげで、二人のレディが傷付いてしまったじゃないか?
 どうしてくれる気だね?」
「も、も、申し訳ありませんっ」

 メイドから感じるのは心からの恐怖。
 理不尽に対して怒りを覚えることのできない、剥ぎ取ることの難しいほどに染み付いた何かの匂い。
 この一連の出来事と匂いに黙っているウフコックではなかった。
 ルイズも未だ知らないお喋り鼠の悪癖――感情の匂いを頼りに相手の心の隙を付くこと。

「ったく、ギーシュったら本当に仕方ないわね。
 ……って、ちょっとウフコック、どこ行く気よ!」
「待て。少なくとも彼女は、間違った行動は取っていない。
 今出て行った二人を傷つけた人間が居るとしたら君しか居ないだろう」
「……誰だね?」


 ウフコックは、元居たテーブルから飛び降りて、ギーシュたちの居る場所へと近づいてメイドを庇った。
 誰がどう見ても、無鉄砲極まりない行為である。ルイズはウフコックを止めようとしたが、
 お喋りネズミの口を遮るには至らなかった。

「……む、姿を隠さないで現したらどうだ!?」
「……下だよ、下」

 ギーシュは声の主を見つけられずきょろきょろと辺りを見回す。
 ギーシュの取り巻きの一人がウフコックを指差し、やっと見つけられたようだ。

「ね、ネズミっ!?
 ……ふ、ふん、貴族に説教とは、身の程をしらないネズミも居たものだ。
 第一、ネズミがうろちょろしてる場所で、よく君達は食事ができるものだね。
 ……おや、そういえばこのネズミはルイズが呼び出したのか。では、仕方無いな。
 しかし魔法を使えなくとも、使い魔にマナーくらいは教えておいてほしいものだ」

 平静な顔をしつつも、ギーシュは今の出来事に興奮しているらしい。
 つい、ウフコックのみならずルイズを含めた何人かを愚弄する形になったが、当のギーシュは気付いていない。

「……へえぇー、言ってくれるじゃないのギーシュ……!」

 流石にルイズも、ここまで愚弄されて黙っているほど人間はできていない。

「まあ、ルイズ、ここは俺に話させてくれ。
 ……俺がここに居ることで不快に思う人間がいれば謝ろう。
 また、彼女が香水の瓶を拾ったことで傷付いた女性が居たら、彼女と共に謝ろう」
「わ、私謝りますっ!」
「……ふむ、なかなか素直じゃないか」

 冷静に、場を纏めようとするウフコックの言葉に、ギーシュは溜飲を下げそうになった。
 メイドもそれにならって頭を下げようとする。
 しかしウフコックは冷静であった。
 事態に流されて頭を下げるほど、面食らってもいなかった。

「……だが、俺が謝ったところで、あるいは君が俺を詰ったところで、
 君から離れた二人の少女が癒されるわけではない。
 得られるのは君の刹那的な充足感であって、君の疚しさの根元が消え去ることは無い」

 まるで、患者の不摂生を詰りもせず淡々と説明する医者のように、ウフコックは言葉を並べる。
 ギーシュどころか、ルイズを含めた周囲の人間は、ぽかんとした表情すら浮かべた。

「できることならばその疚しさを解消してやりたいと思うのだが……、
 今この瞬間にできることではないし、まず第一に、自分の冒した行動を自覚してもらなければならない」
「つ、使い魔に説教される覚えは無い!
 僕が、この無礼な使い魔を摘まみ出してやろう!」


 逆上し顔を歪ませウフコックを指差すギーシュ。
 そして思わず杖を振って青銅のワルキューレを出現させ、ウフコックに掴みかかる。
 あまりの出来事に、メイドは悲鳴を上げた。

「きゃあっ!」
「ちょっと何するのよギーシュ! 喧嘩売る気!」
「ふん、君がネズミでなければ決闘を申し込んだかもしれないが、
 そんな非道な真似は僕はしないさ。
 ただ僕の衛生観念上、ネズミにはここからご退場願おうと思ってね」
「喧嘩売ってるのと同じよ!
 ……ギーシュ、そこからちょっとでもその不細工なゴーレムを動かしてごらんなさい。
 あんたのにやけ面が跡形も無い爆心地になるわよ」

 今にも飛び掛らんばかりに怒りに目を吊り上げるルイズ。
 だが、当のウフコックはワルキューレに掴まれた程度で焦ることは無かった。
 むしろ激情に身を任せ怒りを発散させるルイズを恐れた。
 ギーシュも心底恐れた。

「…そ、その、ルイズ、俺は全くもって大丈夫だ。君が落ち着いてくれ。
 それに、だ。俺にとっては、この程度の事態など危機とすらいえない」

 ウフコックはギーシュを見もせずに言った。
 鼠に虚仮にされている、という事態にギーシュは頭が付いていかず、単純な疑問を口にする。

「……なんだって?」

 ウフコックはギーシュと向かい合う。鼠らしからぬ力強い眼で相手を見据える。

「決闘、と言ったな。
 互いの了承したルールに乗っ取って雌雄を決する、というのならば望むところだ。
 ギーシュ、君に決闘を申し込もう」




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