あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

アクマがこんにちわ-12


がたがたがたと音を立てて、馬車が進んでいく。

音の割には振動が少ないのは、貴族御用達の車体だからであろう。
その馬車に乗っているのは、人修羅とルイズ。

人修羅は魔法学院の制服と同じシャツとズボンを着用し、その上からジャケットを着ている。
傍らには杖の代わりにデルフリンガーが立てかけられており、すぐにでも引き抜けるようになっていた。
これで半ズボンなら英国に似てるかな? と考えていると、隣でうとうとしていたルイズが眠気に負け、こつんと人修羅の肩に頭を乗せてきた。

人修羅はその様子に微笑み、窓から外をちらりと見た。
ボルテクス界では見られなかった…いや、日本ですら見ることのできない、広大な草原や牧場が広がっている。
のどかな風景を見ながら、人修羅は今朝のことを思い出していた……


■■■


ヴァリエール家へと帰省する当日、前日のうちに手配していた馬車が、夜明け頃に魔法学院へとやってきた。
門前で待っていた人修羅は御者に挨拶すると、ルイズに馬車の到着を知らせ、ルイズと一緒に馬車へと乗り込む。
乗り込む前に人修羅は、車体を支えている板ばねを見て「へぇー」と感心の声を漏らした。

「何か感心するようなものでもあったの?」
馬車が走り出した後、向かい合わせで座ったルイズが、意外そうに聞いてきた。
人修羅はいろんなことを知っている、今まで聞いたことのない魔法の理論と、ハルケギニアと違う文化の話は、ルイズにとって大きな興味対象であった。

「ああ。板ばねがさ、車輪と車体の間に入っていたから、この世界にも乗り心地のいい乗り物があるんだと思って」
「板ばね? あなたの世界じゃ珍しいの?」
「珍しくは……ないな。トラックとかダンプって言うんだけど、荷物を運ぶための車には板ばねが使われてるって聞いたことがある。他にも空気を使ってるらしいけど」
「空気?まさか、風系統の魔法を使って乗り心地をよくしてるの?」
「魔法じゃないよ。でも原理は一緒かな、伸び縮みする筒に空気を入れて閉じこめると、ゴムみたいに伸び縮みする筒ができるんだ。それをばねの代わりに使うのさ」
「ふうん、レビテーションとは違うんだ…あ、でもそれって『エア・ハンマー』みたいな空気の固まりの上に乗っているのと一緒よね」
「まあ、そんな所かな。俺は専門家じゃないからよく分からないけど」




「ところでさ、この馬車って…借りるのに相当…お金かかるのか?」
「何でそんなこと聞くのよ」
「この前ブルドンネ街に行ったとき、こんな大きさの馬車は見かけなかったし」
「これはね、ブルーム・スタイルって言うの。平民が使うコーチ・スタイルと違って乗り心地もいいし、貴族ならこれぐらいの馬車は当然よ」

ルイズは腕を組んで自慢げに言い放った、が、すぐに手を解くと両手を大げさに広げて、首を横に振った。
「…本当はもう一回りか二回り大きい馬車を借りたかったけど、オールド・オスマンが『お忍びで帰省するんだから、必要最低限のものにしなさい』って言ったから……」
「お忍びねえ…この馬車でも、お忍びとはとても思えないんだけどなあ」
「そんなこと無いわよ、お姉様はいつも仰っていたわ、ヴァリエール家はどんな時でも、最低でも侍女を二人以上と、幌馬車をつけなさいって」
「……」
人修羅頭をぽりぽりと掻きつつ、ルイズの言葉から導き出される馬車一行を想像した。
四人、いや六人は乗れそうな馬車を四頭の馬が引き、その後ろには幌付きの馬車があり、中には着替えなどの荷物を詰めたバッグと、侍女が二人……
侍女役にはシエスタの姿を想像したが、これはご愛敬……

「なんて言うか、凄いなあ」
「当然でしょう。ヴァリエール家は王家の傍流でもあるのよ。トリステイン王女の危機を救った祖を持つの。馬車三台でも少ないぐらいよ」
「はあ。さいですか」

人修羅は思わず『まるでファンタジーだな!』と叫びそうになった。
…とまあ、そんな風に喋りながら馬車が進んでいったが、日が高くなってくるとルイズも眠いのか、時々目をしょぼしょぼとさせていた。
「大丈夫か?」
「…ん、ちょっと眠いかも」
「どうせ夕べはほとんど寝てないんだろ?今のうちに眠っておいたらどうだ、どうせ夕方近くならないと到着しないんだろう?」
「そうね、ちょっと眠るわ…ふわ」

ルイズは手で欠伸を隠しつつ、人修羅の隣へと席を移した。

「?」
「ゆ、揺れて椅子から落ちそうになったら、押さえるのが使い魔の仕事よ」
「なんだよその取って付けたような仕事は。別に良いけどさ」
「……つべこべ言わないの…ふわぁ……」

■■■

そして場面は冒頭に繋がる。

ルイズが人修羅の肩に体を預け、寝息を立て始めてから、一時間弱の時間が経った。
窓から外を見ると、野草の小さな花が咲き乱れる草原が見える、その中に点在する木々の影は、真下を向いている。

「昼か…なあデルフ、起きてるか?」
人修羅は、デルフリンガーの柄を顔と同じ高さに持ち上げると、が小声で呟いた。
『おーう。起きるも何も、剣は眠れねえよ』
「そりゃすまなかった」
かちゃかちゃと小さい音で鍔が鳴る、どうやらデルフなりに気を遣って、小声で喋っているらしい。
『第一、おめえも眠る必要は無いんだろ?』
「まあな。でもまあ、睡眠が無いと人間の生活を忘れちゃいそうでさ」
『そんなもんかねえ』
「そんなもんさ…ところで、ちょっと相談なんだが…」
『言ってみ』

人修羅はデルフリンガーを右手で掴み、柄を肩に乗せた。

「これからルイズさんの両親に会うかもしれない」
『まあ、そう思うのが当然だわな』
「デルフは、伝説の使い魔ガンダールヴの左手…だろう?この世界じゃちょっと知名度が高すぎるんじゃないか?」
『知名度は高ぇよ、でもブリミル由来のアイテムって呼ばれてるものはいくらでも在るんだ、それこそ与太話扱いだね』
「デルフみたいなインテリジェンスソードも、与太話扱いか」
『今は自我を持たされたガーゴイルもガリアで作られてるし、喋る奴も珍しくはないとか、武器屋の親父がよく悪態ついてやがった』

どこか懐かしそうに呟くデルフリンガー、それが6000年生きた剣の感性かと思うと、人修羅は少し人生の先輩に敬意を払おうかと思えてきた。

「なるほどね…。とりあえず、この『ガンダールヴ』と『デルフリンガー』は、オスマン先生から口止めされてる、って事で口裏を合わせておこう」
『おう、分かった。後で嬢ちゃんにも口裏を合わせておけよ』
「そうする」


■■■
がたごと、がたごとと馬車が進む。
今、丁度昼頃だろうか?と思いつつ外を見たところで、ゆっくりと馬車が静止する。
人修羅がルイズの肩を軽く揺すると、ルイズが目を覚ました。
「うぅん…なに?旅籠にでもついたの?」
「休憩じゃないかな?」

(……!)
(……)

ふと、外から何者かの声が聞こえてきた。
「ん…?」
目をこするルイズを横目に、人修羅が外の様子を見ようと扉に手を伸ばす。
だが、その手がドアノブを掴む前に扉が開かれ、眼鏡をかけた金髪のルイズ…といった感じの女性と顔を合わせる羽目になった。

ふと、ロングビルさんをちょっと厳しくしたような感じかな?と思ったが。

「どきなさい下郎」

ちょっとどころじゃ無かった。

「え、ええと、どちら様で」
「えっ、エレオノールお姉様ー!?」
「ちびルイズ!お供もつけずにこんな下郎を馬車に乗せて!何を考えているの!」
金髪の女性は喋りながら小声でレビテーションを操り、人修羅の体をぽいと馬車の外に放り投げた。
そのまま入れ替わるように馬車の中に乗り込み、ルイズの顔に手を伸ばす。
「いだい! やん! あう! ふにゃ! じゃ! ふぁいだっ!」
ルイズは頬をつねりあげられた。

プライドの高い、ちょっと高慢で負けず嫌いなルイズが、文句も言えずに頬をつねり上げられている。
その光景を見た人修羅は、引きつったような笑みを浮かべた。

「ハハ…マジかよ、ルイズさんを手玉に取ってる。上には上が居るんだなあ」
『嬢ちゃんの強化版って感じだなあ』
人修羅とデルフは、数十分にわたって続くエレオノールのお説教を外で聞いていた。


■■■


さて、それからしばらくして、人修羅はルイズ達とは別の馬車に乗り、ゆっくりと流れていくヴァリエール領の景色を眺めていた。

先ほどから、ルイズとエレオノールの乗る馬車から声が聞こえてくる。
『ちびルイズ。わたくしの話は、終わってなくってよ?』
『あびぃ~~~、ずいばぜん~~~、あでざばずいばぜん~~~』

人修羅の耳は小さな声も聞き逃さない、ルイズが頬をつねられ、半泣きで謝っている声が聞こえてくると、その姿が容易に想像できる。

先頭の馬車は、エレオノールが乗ってきた馬車であり、今はルイズとエレオノールが乗っている。
二番目の馬車は、ルイズと人修羅が乗っていた馬車だが、今はエレオノールの従者と侍女が乗っている。
三番目の幌馬車には、エレオノールの従者と侍女が乗っていたが、今は人修羅一人と、デルフリンガーが一振りしかいない。

『相棒、ひとりぼっちで寂しそうだな』
ぼけーっとしている人修羅に、デルフリンガーが話しかける。
すると人修羅は、ちらりと御者の姿を見た。
馬を操る御者はゴーレムらしい、人間そっくりの姿をして、見事に馬を操っているが、一言も喋らない。
「寂しいとは思わなかったが…御者までゴーレムだと寂しい気がしてくるな」
『そうかい?』
「ああ。……経験あるんだよ、こういうの」
それっきり、人修羅は何も語らなかった。
言いにくいことだと察したのか、デルフリンガーも聞き返そうとせず、沈黙を選んだ。

流れていく景色を見ながら、人修羅はボルテクス界で共に戦った幾人もの仲間を思い出した。

マネカタから鬼へと転生した仲魔、フトミミ。
彼は仲間を大切にする心を持っていた、そして人修羅の持つ孤独感にも気が付いていたのだろう、人修羅がどんなに強くなっても、変わらぬ態度で接してくれた。
もしボルテクス界にいたマネカタ達が、ゴーレムのように意志を持たない人形だったら、自分は心が壊れていたかもしれない。

彼らは人間的で、時には人修羅に無理難題を押しつけることもあったが、今思えばソレも楽しい、笑って許せる程度の物だった。

トウキョウがボルテクス界に変容する前の日本は、ゴーレムのような、都合の良い道具ばかりを発展させようとしていた気がする。

だからだろうか、人間味の無い力に憧れる社会は、いつかその無機質な力に人間が飲み込まれていく。

だからこそ平成の世の中に、アクマが求められたのだ……


■■■


魔法学院を出て、二日目の昼。
ラ・ヴァリエールの領地に到着した人修羅たちだったが、屋敷に到着するのは夜になると聞かされ、人修羅は馬車の中で一人冷や汗を流していた。

「日本じゃ考えられない規模だな」

そう呟いて、今までの行程を思い出す。

領地に入ってから屋敷につくのが半日後、これまで農地や森や山や川や草原やら牧場やらを目にしていた。
世界各地の列車に乗って、車窓から見える景色を堪能する番組があったが、それを馬車で再現したような感じだった。

ぼんやりとした想像しか出来ないが、まあ要するに、ルイズの実家は東京ドーム、いや東京ネズミーランドよりはるかに大きいらしい。
市町村で言えば、市ほどの広さだろうか、もしかしたら県ほどあるのかもしれない。

「大地主、ってレベルじゃないよなあ……」

ヴァリエール家は公爵家だと言っていたが、時代劇に出てくる藩主ぐらいの地位なのだろうか?
大貴族というものは恐ろしい、と人修羅は思った。

更に驚いたのが、魔法学院では決して見られないルイズの貴族っぷりである。
とある旅籠で小休止したルイズ&エレオノール一行だが、旅籠に馬車を止めたとたん、どどどどどどどどどどど!という足音が聞こえてきた。
それは、勢いよく旅籠から飛び出てきた村人達の足音だった、村人達は馬車から降りてきたルイズたちの前で帽子を取り、挨拶している。
「エレオノールさま! ルイズさま!」
と口々にわめき、ぺこぺこ頭を下げていた。

人修羅は呆れたような顔でそれを見ていたが、ルイズの従者役なのでじっと見ているわけにも行かない。
馬車から降りルイズ達に近寄ろうとしたが、人修羅もまた村人達に囲まれてぺこぺこと挨拶をされてしまった。

「俺は貴族じゃないんですけど……」
あんまりにも頭を下げられるので、人修羅は微妙に恐縮し、そう返事した。
「とはいっても、エレオノールさまかルイズさまの御家来さまにはかわるめえ。どっちにしろ、粗相があってはならね」
しかし農民達はそんなことを言って頷きあう。

魔法学院では考えられなかったが、ルイズの家来はかなりの立場として見られるらしい。
「背中の剣をお持ちしますだ」だの「長旅でお疲れでしょう」などと騒いで、人修羅の世話まで焼こうとするのだから、人修羅は愛想笑いしかできなかった。
エレオノールが口を開いた。
「ここで少し休むわ。父さまにわたしたちが到着したと知らせてちょうだい」

その一言で、ルイズ達に群がっていた中の一人が直立した。
魔法学院の生徒と、同年代に見える少年が馬にまたがって、走り去っていった。
その間に一行は旅籠の中に案内された、人修羅はどうしようかと悩んだが…とりあえず旅籠に入るのは止めておくことにした。
誰もいない馬車の中で、ごろんと寝ころぶ人修羅を見て、デルフリンガーが呟く。

『なあ相棒、嬢ちゃんの側にいてやらないで、いいのかい?』
「今俺が行っても邪魔になるだろう、姉妹水入らずで話したほうが良いさ」
『怖いんだろ?』
「否定はしない」

そんな話をしている間にも、ルイズが地雷でも踏んだのか、エレオノールの説教する声とルイズの泣きそうな声が聞こえてきた。

『あの二人、飽きねーなぁ』
「……行かなくて良かった」




■■■


夜もふけた頃、人修羅は何かに気づき、馬車の幌から顔を出し外を確認した。
前を行く馬車の脇から、丘の向こうが見えると、そこには大きなお城が見えている。
魔法学院どころか、トリステインの宮殿並に大きいそのお城へ、街道が続いているように見える。

「もしかして、あれ?」

高い城壁、深そうな堀、城壁の向こうに見えるいくつもの高い尖塔。
旅番組で見かけるお城そのものであった。

その瞬間大きなフクロウが、ばっさばっさとエレオノールの馬車へと飛び込んでいった。
耳を澄ますと、「おかえりなさいませ。エレオノールさま。ルイズさま」という誰かの声が聞こえてくる。
「まさか、あのフクロウの声か?デルフどう思う」
『どうって、喋るフクロウなんて珍しくねーだろ?』
「……そうだよな、よく考えたらお前喋る剣だもんな」

更に、耳を澄ます。
「トゥルーカス、母さまは?」
エレオノールの声だ、トゥルーカスというのはフクロウの名前だろう。
「奥さまは、晩餐の席で皆さまをお待ちでございます」
なんか腹が立つぐらい淀みなく答えているフクロウ。
「父さまと、ちぃ姉さまは?」
今度はルイズだ、どことなく不安そうな声に聞こえる。
「旦那さまも、奥様とご一緒にお待ちになっておられます、カトレア様もルイズ様のお帰りを今か今かと待ちわびておられますよ」


そうこうしているうちに、一行は城へと近づいていた、お堀の直前で静止すると、向こうに見える門と跳ね橋がゆっくりと動き始める。
よく見ると、門柱の両脇に控えた巨大な石像が、じゃらじゃらと音を立てて跳ね橋の鎖をおろしている。
身長20メイル近い門専用ゴーレムが跳ね橋を下ろす姿は、ボルテクス界で非常識なものを見慣れた人修羅でも驚く程壮観だ。

■■■

豪華絢爛!
と表現するしかない。
少ない語彙からは、すばらしいです!とか、高そうですね!とか、そんな言葉しか出てこない。
それほど城の中は凄かった。

壁を見ても床を見ても天井を見ても、調度品を見ても、メイドさんを見ても高級そうな城内は、人修羅を驚かせた。
いくつもの絵や美術品が飾られた部屋を何個も通り、ようやくダイニングルームへと到着すると、そこもまたとんでもない部屋だった。
人修羅はルイズの使い魔だという事で、晩餐会への同伴が許されたが、正直なところ逃げ出したい気持ちがあった。

ルイズの椅子の後ろで、護衛のように控えるだけなのだが、それでも30メイルはありそうなテーブルを見ると嫌でも緊張する。
そんな巨大なテーブルにルイズの一家五人分しか椅子が準備されていない、しかも周囲に20人ほどの使用人が並んでいる。
魔法学院で貴族の生活に多少は慣れた気もするが、そんなのは幻想だった。
テーブルマナーのテの字も分からない人修羅には、針のむしろのような空間。
もし、この場所で一緒に夕食を、と言われたら本気で逃げ出していたかもしれない。

上座に控えた公爵夫妻は、到着した娘たちと人修羅を見回した。

人修羅はその迫力に、思わず「親子だ…」なんて考えてしまった。
人修羅の力や知識のおかげで、ルイズの高慢さはだいぶ落ち着いていたが、それでも貴族らしい高飛車さはある。

それを手玉に取るエレオノールは、とんでもない高飛車オーラを放っていたが、ルイズの母はもっと凄い、この母にしてあの娘ありだ。

ルイズの父親は、母に比べると迫力こそ薄い気がしたが、それがかえって威厳を感じさせている。

二人とも歳は40程に見えるが、もしかしたら50ほどかもしれない、何せ16才のルイズに年の離れた姉が二人いるのだ、何というか若々しい夫妻だと思う。

ふと気が付くと、ルイズがやけに緊張していた。
そっと視線を動かすと、ルイズの母と人修羅の目が合った。

鋭い刃と、今まさに吹き出んとする火炎放射器の種火のような眼光が人修羅を射抜く。
生まれつきの才能と、英才教育と、戦いの中で磨かれた光だと思った。

(やっぱり顔にまで入れ墨のある男が使い魔じゃ、納得しないよねー)

そんなことを考えながら人修羅は、もう一人のルイズの姉を見た。
カトレアというその女性は、ルイズの桃色がかったブロンドにごく近い、どうやら母親ゆずりの髪質らしい。

「母さま、ただいま戻りました」
と、エレオノールが挨拶した。
すると公爵夫妻は静かに頷く、それを合図にして三姉妹がテーブルについた。
丁寧かつ上品に、給仕たちが前菜を運び……晩餐会が始まった。

後ろに控えていた人修羅は、ボルテクス界でカツアゲにあったのと同じぐらい息がつまりそうだと思った。

誰も喋らない、物音すらほとんど無い。
堅苦しいと思っていた魔法学院での食事がとても楽に感じられる、それぐらいこの空間は厳しい。


デザートと、紅茶が運ばれたのはそれから何時間後だろうか。
実際には一時間も経っていないが、五時間ぐらい経過したような気がする。
長い長い沈黙を破るようにして、ルイズが口を開いた。

「あ、あの……、お父様」
公爵は返事をしない、その代わり、公爵夫人がルイズに声をかけた。
「ルイズ。なぜ突然帰省などしたのですか」
ルイズはどこかビクビクしながら、使い魔を召喚したこと、使い魔が異国の魔法を使えること、使い魔が治癒のマジックアイテムを作成したこと……
それがカトレアの病を治す手だてにならないかと思ったこと、オールド・オスマンに相談し帰省の許可を得たことを話した。
「つまり、先住魔法を使う亜人なの? いえ、そんなことより、貴女はサモン・サーヴァントを使うことが出来たわけね?」
エレオノールの問いかけに、ルイズは頷いた。

それを見たもう一人の姉、カトレアは優しそうな笑みを浮かべてルイズを見た。
「良かったわ、ルイズが魔法を使えて。使い魔さん、お名前を教えていただけないかしら」
「え? ああ、俺は人修羅といいます」
貴族相手とは思えないぶっきらぼうな態度に、周囲がヒヤッとした。
エレオノールに至っては不機嫌そうな表情を崩しもしない。

「人修羅さんは、ルイズを守ってくれているのね?」
「まあ一応」
人修羅が笑みを浮かべて答えたが、そこで公爵の横やりが入った。
「カトレア、話は後にしなさい」

すっ、と口を閉じるカトレアだが、相変わらず嬉しそうな笑みを浮かべたままだ、それを見たルイズの緊張もだいぶ解れている。
厳しい長女に優しい次女か…と思ったところで、公爵が人修羅を見据え、呟いた。

「人修羅と言ったな、ふむ。亜人が召喚されたなど、聞いたことが無いが…」
「お、お父様、人修羅は亜人じゃありません、人間ですわ。今は亜人ですけど……」
ルイズがおそるおそる訂正しようとするが、どこかぎこちない。
「人間?だとしたら余計にサモン・サーヴァントで呼び出された前例が無いではないか」
公爵がちらりとエレオノールに視線を移した。
「ええ、アカデミーの記録では、サモン・サーヴァントの研究で本や金属が召喚されたのみですわ」

「あ、あの、わたし、本当に、召喚に成功したの!だからっ」
ルイズは叫ぶように言葉を放った。
「落ち着きなさいルイズ、貴女が召喚したと言うのなら、疑うわけはありません。…貴女は、カトレアの治癒のため使い魔を連れて帰省した、そうですね?」
公爵夫人の言葉に、ルイズが小声で「はい」と答えると、婦人もまた満足そうに頷いた。
公爵は婦人からの目配せを受け、頷く。
そして人修羅とルイズを見つめると、重々しく口を開いた。
「ルイズ、オールド・オスマンが帰省の許可を出したのなら、使い魔には相応の実力があるのだろう。カトレアの診察を認めるが…エレオノール、立ち会いなさい」
「はい」

とりあえず、人修羅は使い魔として認められたらしい。
ルイズはほっとして胸をなで下ろした、が、そこでまたエレオノールが口を開いた。

「ところで……、先ほど言っていた、治癒のマジックアイテムだけど、どういった物なの?」
ルイズはぎょっとして、硬直した。
よく考えたらマジックアイテムがどんな物なのかは、よく知らないのだ。
「ひ、人修羅、答えなさい」
微妙に声が裏返りつつ、ルイズが呟く。
人修羅は公爵夫妻とルイズの姉たちに注目されて、微妙に緊張している、なんか高校の面接を思い出すようだ

「正確には、魔法学院の教師ミスタ・コルベールに協力を仰いだもので、私一人で作った物ではありません。
召喚されて間もない頃、俺…私の魔法が先住魔法だと言われたのですが、あいにく先住魔法や系統魔法といった分類があるのを知りませんでした」
人修羅は喋りながら、ズボンのポケットを探り、2サントほどの大きさがある、緑色の結晶体を取り出した。
「自分の魔法と、ハルケギニアの系統魔法の相違点を知る研究の一環として、マジックアイテムの作成を行っていました。これはその一つです」

壮年の執事が給仕が近寄って、人修羅の脇でお盆を差し出した、人修羅はその上に結晶体を置く。
執事は音もなくエレオノールに近寄り、その結晶体を見せた。
「ふぅん…これがそうなの。」
そう呟くとエレオノールは杖を取り出し、ディティクト・マジックで結晶体を調査しようとした。

魔法アカデミーの研究員たるエレオノールなら、マジックアイテムの構成などすぐに見破ってしまう。

しかし今回ばかりは、膨大な知識と経験をもってしても計り知れぬものがある、と知ることになってしまった。

たった2サント程の、小さな結晶体に、途方もない”力”がこもっている。
トリステインの王女アンリエッタが持つ杖には、水晶玉がはめ込まれており、そこに魔力を蓄積しておけるのは研究員が皆知るところであった。
エレオノールは、それに似た魔力の蓄積体や、風の力が込められた『風石』の研究をしたことがある。
この結晶はそのどれとも違う。
もし、この結晶に込められた魔力が治癒ではなく、火の魔法だとしたら…?
おそらくこの屋敷が跡形もなく吹き飛ぶぐらいの力が込められている…そう気づいて、エレオノールは珍しく慌てたような表情を見せた。

「……ッ!」
杖を人修羅に向け、ディティクト・マジックを行使する。
人修羅の周囲に光る粉のような物があらわれ、人修羅の体へと吸い込まれていった。

「あっ」「ちょっと待って」
ルイズと人修羅は制止しようとしたが、後の祭り。

エレオノールの顔色がみるみる青ざめ……ふっと意識を失い、椅子から転げ落ちた。



■■■


所変わってガリアの王宮グラン・トロワ。その離宮プチ・トロワでは。
「くすぐったいホー」
「ああ、ごめんね、でも柔らかくていい臭いで……なんて言うんだろうね、癒される、そうだ体じゃなくて心が癒される気がするよ」

ベッドの上で枕代わりになったヒーホーに、イザベラが顔をこすりつけていた。
夜になるとイザベラは人払いをする、イザベラとヒーホー二人きりの時間になると、イザベラはヒーホーに抱きついたり顔をこすりつけたりしている。

「ああ、かわいいねえ、もうホント幸せだよ……」

にくったらしい従姉妹のことや、自分に興味を示さない父王のことなど、どうでもよくなってくる。
ヒーホーから聞いた話では、もっと大きいヒーホーもいるらしい。
また、時々黒いガクセイボウ?という帽子を被ったモミアゲの目立つヒーホーも見かけられるとか。

「ねえヒーホー。お前を召喚できたことが、私にとって唯一、本当の魔法かもしれないよ…」
とろんとした目つきでそんなことを呟くイザベラ、ヒーホーは体をゆすってイザベラから離れると、ベッドの脇にちょこんと直立した。
「そんなことは無いホー、イザベラちゃんなら、いろーんな魔法が使えるホー」
「魔法ねえ……自慢じゃないけどさ、私はちょっと風を出して、ほんのちょっと傷を付けることしかできないのさ。
……ああ何か不思議だねえ、ヒーホーになら私、何だって言える気がする……」

「う~ん、イザベラちゃんはすごく魔法の力が強いはずだホー……」
ヒーホーはちょっと腕を組んで、首をかしげる。
その仕草を見てイザベラがだらしなく頬を緩めた。

「そうだホ!他の魔法を試してみればいいホー」
「他の魔法?」
イザベラがきょとんとして、聞き返した。

「もうすぐスカアハが来てくれるホー、ボクからもお願いするから、イザベラちゃんも魔法を習ってみるといいホー」
イザベラは体を起こして、ベッドの上からヒーホーを見下ろした。
普段のイザベラを知るものなら考えられない、いわゆる女の子座りである。
「スカアハって誰だい?」
「まほーと戦いの先生ホね。生徒も沢山居るって聞いたホよ」
今度はイザベラが首をかしげた、魔法の先生とは、ヒーホーのような存在なのだろうか?
ヒーホーがヒーホーに魔法を教えている光景を想像して、またもやイザベラはにやにやと顔をほころばせた。
「…と、ところで、そいつは何ができるんだい?」
「う~ん……毒消をしたり、竜巻を起こしたり、ヒーホーよりおっきな氷を作ったりするホね」

そう言われて、ヒーホーが作った氷と、かき氷を思い出した。
ヒーホーより一回りか二回り程度大きな氷を作るぐらいなら、メイジ全体で言えばたいしたことはない。

「ふぅん…まあいいか、機会があったら教えて貰うよ」
イザベラは子供をあやすように呟きつつ、ヒーホーを抱き寄せた。
「弟子にしてもらえるよう、ボクからもお願いしておくホね」
「はいはい」

二人はいつものようにベッドに入ると、杖を降りランプを消す。

イザベラは、ヒーホーを抱きしめている間だけ、王位争奪の争いによる不安を忘れることができる。

ここ数年得られることの無かった安眠を、イザベラは心の底から喜んでいた……。



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