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毒の爪の使い魔-13




広場の真ん中で一人寝転び、ジャンガは澄み渡った青空を見上げていた。
「はァ~」
ため息が口から漏れる。無理も無い…”あんな事”があったんだから。
「ったく…いきなりなんだってんだ、あのガキ?」
悪態を吐きながら、ジャンガは今朝の事を思い出す。



それは朝食の時の事だった――

ジャンガはいつものようにルイズを置いて厨房に真っ先に赴き、シエスタ等に出させた料理やワインを食い漁っていた。
そんな時、突然ルイズが厨房へと踏み込んできたのだ。
自分に向けられる奇異の視線などは気にも留めず、ジャンガに早足で近づくとマフラーの端を掴み、力任せに引っ張った。
突然首を締め上げられ、ジャンガは思わず「ぐえっ!?」と情けない声を上げてしまう。
そして、そのままルイズに強引に外へと連れ出されてしまった。

「何しやがるんだよ、クソガキ!?」
外へ連れ出された後、首を絞められた事に怒りを露わにしてジャンガは叫ぶ。
ルイズはその怒鳴り声に一瞬怯んだが…直ぐに気を落ち着けると真っ直ぐに相手を見つめる。
自分を見る目にふざけた感じが一切しない事に、ジャンガの怒りも徐々にクールダウンしていく。
「チッ、で……ンだよ?用も無ェのに引っ張って来たとか言うんじゃネェよな~?」
ドスの利いた声でそう言いながら、鋭い視線をルイズに突き立てる。
「…あんたにその…た、た、頼みがあるのよ」
身体の震えを押さえながら言ったルイズの言葉にジャンガは唖然とする。
「は?頼みだ?」
ジャンガの言葉に頷くルイズ。
「明日と明後日…その二日だけでいいから、私の言う事を聞いて大人しくしなさい」
「はァ?いきなり何だってんだ?」
言葉の意味が解らずジャンガは怪訝な顔をする。
ルイズは額を押さえて唸る。
「迂闊だったわ……品評会の事、すっかり忘れてた…」
「品評会?」
「そう言う毎年恒例の催しがあるのよ。生徒達が召喚した使い魔を学院中にお披露目するというね」
「くだらねェ…、そんな事に何か意味があんのかよ?嫌なら出なけりゃいいじゃネェか…」
「二年生は全員参加なの!」
ルイズはジャンガを振り向き怒鳴る。そして再び前を向くとため息を吐く。
「とにかく、恥を掻く事だけは避けたいの…」
「恥なんて、魔法の失敗で今まで散ざっぱらに掻きまくってるだろうが?今更気にする事じゃ――」
「お黙り!!!」
「お~お~、怖ェ~怖ェ~」
目の端を釣り上げ、鬼のような形相で振り向き、周囲の壁が――いや、学院全体が震えるかのような大声で怒鳴るルイズ。
そんな怒鳴り声にもジャンガは動じず、態と怯えるような仕草をしてみせる。
「とにかく、品評会が終わるまでは私の言う事を聞いて、大人しくしてなさい。
そして、品評会には絶対参加……いい?」
「……ああ、約束してやる」
ジャンガのその言葉にルイズは安堵の息を吐く。そしてその場から立ち去っていった。
その後姿を見送りながらジャンガはニヤリと笑う。

「約束はしてやるさ…、守るかどうかは俺の気分しだいだがな…キキキ」
などと、一人呟きながら…。



――そんなやり取りがあって、今に至る。


「…にしても」
ジャンガは呟く。
「なんだって、いきなり俺に言う事を聞かせようなんて思ったんだ?俺が大人しくするなんてありえねェ…って、
解り切った事だってのに…何でだ?」
そうなのだ、ジャンガの性格は最早、学院中の者が知る所となっている。
今更、品評会の一つに出なかったからといって、主人のルイズを咎めたりする奴はいない筈だ。
なのに、どうして言う事を聞かせようと思ったのだろうか?
浮かんだ疑問に頭を捻っていると、突然日差しが遮られた。
何だろう?と思いながら見上げると、逆さまになっている見知った顔が自分を覗き込んでいる。
「何をしているんですか、ジャンガさん?」
「シエスタ嬢ちゃんか…」
記憶の改変があるとはいえ、自分に懐いている学院の数少ない――と言うか、たった一人の人間だ。
身体を起こし、彼女に向き直る。
「別に…寝てただけだ」
「あ、お邪魔でしたか?」
「…ちょうど、目も覚めたとこだ。別に邪魔でも何でもネェ」
その言葉にシエスタは笑顔になる。
「良かった、ジャンガさんのお邪魔にならなくて…。そうだ、ジャンガさんも品評会は出るんですよね?」
「あン?さあな…、気分しだいだ…」
「そうですか…、ジャンガさんがどんな芸を見せてくれるかも楽しみなんですが…」
「フンッ、そんなに品評会なんて物が大事なのかよ?ただの見世物小屋と変わらネェだろうが?」
「毎年の恒例行事ですし…、特に今年はアンリエッタ様も来られますから」
「アンリエッタ…様?」
聞きなれない名前にジャンガは眉を顰めた。

――広場では授業の無い時間を利用し、生徒達が品評会に向けての練習に使い魔共々励んでいた。
キュルケは自分の指示に従い、放つ炎を様々に変えてみせる使い魔のサラマンダーに惚れ惚れ。
別の場所ではモンモランシーが自らの使い魔であるカエルにリボンを結ぶなどで印象を良くしようとし悪戦苦闘。
別の場所ではギーシュが自らの使い魔のビッグモールと手を取り合って異様なオーラを放ち、別の世界へトリップ。
また別の場所では一人の小太りがフクロウを腕に乗せると言う”地味な”演出でご満悦。

そんな千差万別な生徒のやり取りを横目で見ながら、ジャンガはシエスタと並んで廊下を歩いていた。
「なるほどねェ…お姫様が見に来るからどいつもこいつも、ああしているのか?」
「はい、アンリエッタ様は陛下が亡くなられてから、国民の象徴的な存在ですよ」
「ほゥ?人気者だネェ~」
と、突然聞こえてきた高笑いに二人は顔を向ける。
笑い声の主はキュルケだった。その足元ではサラマンダーが高笑いに答えるかのように、口から激しい炎を噴出していた。
その炎に焼かれそうになり抗議の声を上げるギーシュだが、キュルケは全く気が付かない様子。
その様子をつまらなそうに見ていたジャンガだったが、ふと広場の一角に目が留まった。
そこではタバサが一人、壁に寄り掛るようにして座り、静かに本を読んでいた。
軽く口の端を持ち上げるとジャンガはそちらへと歩いていく。


ジャンガに気が付き、キュルケもギーシュもそれまでの騒ぎが嘘のようにピタリと動きを止める。
そして、警戒と敵意が混ざり合った視線を向けるが、当の本人は気にも留めない。
タバサの前に立ち、顔を覗き込むようにして声を掛ける。
「よォ?お前一人で何やってるんだよ?練習はしなくていいのか?」
タバサは答えない。ただただ、黙々と本のページを捲り、読み続ける。
「チッ、つれねェなァ?この間は助けてやったのによ~」
その言葉に、それまで無反応だったタバサの眉がピクリと動く。
「…助けてなんて、頼んでない…」
本から顔を上げずに答える。
「キ?おいおい…俺がいなけりゃ死んでたぜ、テメェ?」
「貴方が、あの子を眠らせたのが悪い」
「おーそりゃ悪かったな」
まるで謝罪の念を感じさせない言葉。しかし、タバサは無反応だ。
「用が無いなら帰って」
「フンッ」
ジャンガは鼻を鳴らし、その場から一旦立ち去ろうとするも、直ぐに振り返るとタバサに言った。
「少しは周りに目や耳を向けたらどうだ?孤独で居ても良い事無いゼ…」
唐突なその言葉にタバサは本から思わず顔を上げていた。ジャンガの目を真っ直ぐに見つめる。
だが、ジャンガは直ぐにニヤリと笑い――
「まァ、別に一人寂しく本を読み耽っててもいいさ。テメェが一人で野垂れ死んでも、俺は何ら困らねェしよ…キキキ」
それだけ言うとジャンガは今度こそ広場を後にした。

ジャンガが去った後、キュルケはタバサに歩み寄る。
「相変わらず嫌な奴よね。…タバサ、あんな奴の言う事なんて気にしちゃだめよ?」
親友の言葉を聞きながらタバサは自分に向けられた言葉を考えた。

――孤独で居ても良い事無いゼ…――

別に孤独と言う訳ではない。親友が、シルフィードが、そして…母がいる。
そこでタバサはふと思った。あの吸血鬼討伐の時、倒れていたシルフィードから聞いた話では口笛は届いていたようだ。
――だが、もしも…”届いていなかったら?”
自分は吸血鬼に血を吸われ、無残な死体を晒していただけだろう。
そうしたら親友やシルフィードは…母はどうなっていた?
考えれば考えるほどに自分のした事が無謀であった事が解ってくる。
…最近、少し無茶をしすぎていたかもしれない。もう少し、自分を大事にしなければ。
自分には良くしてくれる、優しくしてくれる人達が居るのだから。
そう考えると今、自分の頭を撫でている手がとても暖かく感じた。

「…ありがとう」
思わず感謝の言葉を口にしていた。
「フフ…、いいのよ」
答えながらキュルケはタバサの髪を優しく撫でた。



――その夜…
本塔にある宝物庫の前で、コルベールは衛兵に指示を出していた。
「では、当日は門の警備に当たる様に」
「はっ!」
力強い声で答え、衛兵はその場から立ち去る。そこへ、入れ替わるような形でミス・ロングビルがやって来た。
去っていく衛兵に気が付き、コルベールに尋ねる。
「ミスタ・コルベール、宝物庫の衛兵を門の警備に回すのですか?」
「はは、何しろ突然の事で人手が足りませんので」
「ですが、最近世間を騒がせている怪盗『土くれのフーケ』がここの宝物庫を狙っているとか?
特に『破壊の箱』と『紅の巨銃』が目的のようだと言う噂も聞きます」
『破壊の箱』と『紅の巨銃』は、例のギトーとの衝突事件の直前にオスマン氏から聞いた王宮からの預かり物の事である。
ミス・ロングビルの言葉にコルベールは答える。
「まぁ、姫殿下の護衛が目を光らせている中、盗みに入る賊もおりますまい…」
もっとも…、と言いコルベールは宝物庫の大きな閂の付けられた巨大な鉄扉を見上げる。
「この扉には強力な固定化の呪文が掛かっているので、トライアングルクラスのメイジでも歯が立ちますまい。
『土くれのフーケ』はトライアングルクラスと言われておりますから、『錬金』も意味は成さんでしょう。
物理的な攻撃には少々不安ですが、巨大なゴーレムが全力で殴る…などの事が起きない限りは心配は無いでしょうな」
「そうですね」

コルベールの丁寧な説明にミス・ロングビルは笑顔で答えた。



――そして、翌日

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー!」
パチンッ!
「ふが?」
本塔の上…だらしなく鼻ちょうちんを膨らませて寝込んでいたジャンガは、突然聞こえてきた声に目を覚ました。
「ん~~…はぁ~。何だ?」
大きく伸びをした後、まだ霞んでいる目を擦り、ボーッとする頭を大きく振る。
そうして眠気が吹き飛び、頭がようやくハッキリしたところで、歓声が耳に飛び込んできた。
見れば、生徒達が本塔から門まで続く道の両端に屯していた。人数から学院中の生徒が揃っているのが解る。
本塔の前には教師やオスマンとか言ったジジイの姿も見える。
何だ…と思っていると、道に沿って並んで停まっている馬車の内の一台の扉を召使と思しき女性が開ける。
開け放たれた扉からこれまた召使と思しき老女が出てきた。
そして、その老女が差し伸べた手を取り、一人の少女が出てきた。
再び歓声が上がる。ジャンガも”ほゥ?”と感心したような声を漏らす。

一言で言えば綺麗だった、完全無欠と言えるかどうかは解らないが、綺麗だった…可愛かった。

そう言えば、今日はお姫様が来るとかそう言う話だったか?とジャンガは思い出す。
周囲の生徒達の反応や、応対する召使や護衛の衛士の態度を見れば彼女が件のお姫様だろう。
最初に見た時の感想もそうだが、お姫様としての何か特別な雰囲気が感じられるみたいだ。
「いいねェ…お姫様いいねェ…」
ジャンガはニヤニヤ笑いながら眼下でオスマン氏達と話すアンリエッタを見ながら、
「ああ言うのは刻んでやったらどう言う声を上げてくれるかな~?」
豪く物騒な…否、彼としては至極当然な事を口にしてたりしていた。
今口にした事を王宮の者が聞けば、即打ち首にされてもおかしくない。
「国一つ丸ごと相手にしても別に怖くは無ェが……面倒だしな。ああ言うのは今が刻み時なんだが…。
まァ、今はあの可愛らしい面拝むだけで我慢しとくか。けど、いつかは……キキキ」
本塔へと案内されるアンリエッタをジャンガは笑いながら見送った。

その夜、アンリエッタがお忍びでルイズの部屋を訪れて、二人で懐かしい思い出に浸っていろいろと話をする事があった。
ジャンガはそんな二人の会話を外でニヤニヤしながら盗み聞きしていたが…、二人は気付かなかったので別にいいだろう。
…様は、知らぬが仏。


――その翌日

予定通り使い魔品評会は開催された。
キュルケのフレイムが素晴らしい炎を吹き上げ、モンモランシーのバイオリンの演奏に合わせてロビンが踊る。
マリコルヌのクヴァーシルが連なった旗を持って宙を舞えば、ギーシュはヴェルダンデとバラの泉でポーズを決める。
次々と舞台で芸を見せる使い魔に観客席からは盛大な拍手と歓声が上がった。
――ジャンガはその時、本塔の屋根の上で寝転んでいた。
広場で行われている品評会をジャンガはつまらなさそうに見ている。
今は丁度タバサの番だ。シルフィードに乗り、大空を飛ぶ風竜(正確には風韻竜)の勇姿は見る者の心を掴んで放さないだろう。
無論、ジャンガは特にどうとも思っていないが…。
「次はいよいよあのガキか…キキキ」
暫くし、たった一人で舞台に上がったルイズは、頻りに頭を下げアンリエッタに謝罪しているようだった。
その様が実に可笑しく、ジャンガは腹を抱えて笑い転げる。
そうしてルイズが逃げるように退場した後、審査が行われようとした。
その時、本塔を挟んで全く正反対の場所から大きな音が聞こえた。
「何だ?」
ジャンガは何事かと思い、確かめるべく音のした方を覗き込む。
そこには巨大な人型<ゴーレム>が立っていた。デカイ…大きさは三十メイルはあろうか?
「何だ、こいつは?」
ジャンガが頭を捻っていると、ゴーレムは突然拳を引き、本塔の壁を殴りつけた。
と、魔法の障壁でも張られていたのだろう、衝撃を緩和するかの如く、衝撃が扇状に拡散し周囲に散っていく。
拡散した衝撃波に飛びそうになった帽子を押さえ、ジャンガはニヤリと笑う。
「キキキ、暇潰しにはいいゼ」
そう呟くと、静かに立ち上がった。

「物理的な衝撃でもダメじゃないか…あのハゲ!」
そう言って舌打ちしたのは勿論ゴーレムではない。言葉の主はゴーレムの頭の上に居た。
黒いローブに身を包み、顔を隠したその人物は、かの有名な盗賊である『土くれのフーケ』本人だった。
先程までフーケは本塔内で宝物庫の扉に『錬金』を掛けていたのだが、強力な『固定化』の魔法の為に断念。
審査が開始される言葉が聞こえ、フーケは一か八か…弱点の物理攻撃を付くべく、ゴーレムによる物理破壊を強行したのだ。
しかし、それも念の為にと掛けられていたのか…魔法の障壁に遮られてしまった。
正に打つ手無し、どうした物かと悩んでいると、ゴーレムの左腕が突然爆発した。
「何?」
見れば、ゴーレムの左腕に縦一文字の巨大な亀裂が走っている。
と、フーケの耳に笑い声が聞こえてきた。
「キキキキキ、中々に頑丈だな~?遊び相手には申し分ないゼ…キキキ!」
見上げると、本塔の屋根の上に人影があった。それは紫のコートに身を包んだ猫の亜人だ。
「チィッ…厄介な奴に見つかったね…」
小さく呟くフーケはローブの奥の目で忌々しげにジャンガを睨んだ。


挨拶代わりに放ったカッターはゴーレムの左腕に当たった。しかし、巨大な亀裂こそできたが、切り落とすには至らない。
「まぁ、それ位が遊び相手には丁度いい」
見ればゴーレムの頭部と思しき所に人影が見える。
ローブに隠されて顔は解らないが、多分あれが巷で噂の怪盗だろう事は解った。
おそらく、学院の宝物庫の宝物を狙ってきたのだろうが、そんな事は自分には関係無い。
ただ、王女を刻めない欲求不満の憂さ晴らしと、退屈凌ぎができればいい。
「まァ、俺に会った不運を嘆くんだな…キキキキキ!」
叫びながらジャンガは爪を構えて本塔を飛び降りた。
まずは挨拶代わりに一撃、ゴーレムの胸の部分に叩き込む。
ガギンッ!と硬い物を砕く音が響き、ゴーレムの胸に三本の溝が生まれた。
地面に降り立つと、ゴーレムが右足を持ち上げて自分を踏み潰そうと振り下ろしてきた。
無論、そんな攻撃が当たるわけが無い。楽々とその一撃をかわすとジャンガは跳び上がり、もう一度ゴーレムの胸を切り付けた。
新たに三本の溝が付けられる。と、そのジャンガの視界に振り上げられたゴーレムの腕が映った。
振り下ろされた腕をジャンガは簡単にいなす。それどころか、その腕を足場にして勢いを付けて跳び、本塔の壁に張り付く。
「キキキ、どうした『土くれ』?ご自慢のゴーレムも、虫の様に小さい相手には適わないか?」
相変わらず表情は読めないが、フーケが歯噛みしているのは何となく解った。
ニヤニヤしながらジャンガは爪を構え直す。
「キキキ、来ねェんなら…またこっちから行かせて――」
――瞬間、ジャンガはその場から全力で飛び退いた。何故かは解らないが嫌な予感がしたのだ。
そして、その予感は見事に的中した。ジャンガが飛び退いた一瞬後、壁が大爆発を起こしたのだ。

何が起こったのか、フーケにも理解が出来なかった。
ジャンガが喋っていたかと思うと、突然飛び退き、直後に壁が大爆発を起こしたのだ。
一体何が…、ふと下を見るとそこには杖を構えた学院の生徒である、桃色髪の少女の姿が在った。
おそらくは彼女の仕業だろう。しかし、あのような爆発を起こす呪文などあっただろうか?
と、フーケは壁に目を向ける。先程の爆発の所為だろう、壁は焼け焦げ、亀裂が走って崩れかけている。
フーケはその事実に背筋が冷たくなるのを感じた。
自分のゴーレムの一撃でもビクともしなかった壁がただの爆発の一発で、いとも容易く破壊されたのだから無理も無い。
フーケは頭を振った。何はともあれ、壁が壊れたのだ…ならばやる事は一つ。
「行け!ゴーレム!」
主の命令に従い、ゴーレムはその豪腕を崩壊しかかっている壁に叩き付けた。

「テメェ…よくもやってくれたよな?あ、クソガキ!」
ジャンガはまず間違いなく、爆発の出所である桃色髪の少女=ルイズを睨み怒鳴りつける。
ルイズも負けじとジャンガを睨み返す。
「べ、別に貴方を狙った訳じゃないわよ!ちょっと間違えただけじゃない!」
「ハンッ!その間違いでテメェは自分の使い魔を危うく爆死させる所だったんだゼ!?反省しやがれ『悪夢』が!」
「貴方、自分は使い魔なんかならないとか言っていたじゃない!?自分の都合で勝手な事言わないでよね!?
それと、私は『悪夢』なんかじゃないわよ!」
ジャンガとルイズは互いに唸りながら睨み合う。
「チッ、全く付き合いきれねェゼ。俺の邪魔はするんじゃ――」
そこでジャンガの思考は停止した。
視線の先には自分が首に巻いているマフラーの端があった。
そのマフラーの端が僅かに千切れ、焦げている。
最早何も考えられない頭に声が浮かんだ。

――それ大事にしてよ…約束だからね――



「ちょっと…どうしたの?」
突然動かなくなったジャンガにルイズは恐る恐る声を掛ける。
しかしジャンガは動かない。まるで彫像になってしまったかのように微動だにしない。
「どうしたって言うのよ…」
ふと見上げると壁に開けた穴からゴーレムの主だろう人物が飛び出してきた。
ゴーレムが腕を引き抜く際、何かが零れ落ちたような気がしたが、今はそんな事はどうでもいい。
ゴーレムの主は「感謝するよ」と言い残し、ゴーレムと共にその場を立ち去るとする。
このままでは逃げられる……ルイズはジャンガの腕を掴んで叫ぶ。
「ちょっと、いつまで某立ちしてるのよ!?早くしないと逃げられちゃうわよ!?ちょっと、聞いて――」

――次の瞬間、ルイズは地面に押し倒されていた。

「痛…何を――!?」
ジャンガの顔を見た時、ルイズは心臓を鷲掴みにされたかのような感覚に襲われた。
――ジャンガの顔には怒り…否、憎悪と呼べる負の感情が浮かんでいたのだ。
それは今までの気に食わない事やムカつく事でキレた時の表情とは明らかに違っていた。
殺される…、ルイズは悟った。今のジャンガに何を言っても無駄だ、ただ殺されるだけだと。
逃げようにもマウンドポジションの為、身動きが取れない。そしてジャンガが右の爪を振り上げた。
(もうだめ)
ルイズは恐怖から逃げるように目を閉じた。しかし、一向に振り下ろされる気配がしない。
恐る恐る目を開けると、ジャンガの憎悪に満ちた顔はまだそこに在った。
振り上げられた爪もそのままだ。
その爪が僅かに震えている、ジャンガも歯を噛み締め、苦しそうな呻き声も聞こえてくる。
それはまるで、何かを堪えているかのようだ。ルイズは恐怖を堪え、口を開く。
「ジャ、ジャン――」
ガギンッ!
…唐突だった。何の前触れも無く、ジャンガはルイズが口を開いた直後に爪を叩き付けたのだ。
ルイズの顔の左、数サントの所に爪が突き立てられている。
その爪を横目で見て、ルイズは改めてジャンガを見た。
ジャンガは荒く呼吸を繰り返し、汗を滝のように流している。
「ど、どうしたの…ジャンガ?」
ジャンガは無言のままルイズを睨んだ。――直後、ジャンガの身体は横から叩き付けられた風によって吹き飛ばされた。


何が起こったのか理解できないルイズの傍に、タバサの乗ったシルフィードが舞い降りてきた。
タバサはシルフィードから降りるとルイズの傍に立つ。
彼女が風の魔法(多分”ウィンドブレイク”)でジャンガを吹き飛ばしたのだろう。
「タバサ……あ、ありがとう…」
ルイズのお礼の言葉にタバサは静かに頷く。
「タバサ!ルイズ!」
そこにキュルケが走ってきた。地面にへたり込んでいるルイズに駆け寄り、心配そうに声を掛ける。
「ちょっとルイズ、大丈夫?」
「キュルケ?どうして、ここに?」
「大きな音が聞こえてきたから、何事かと思ったら大きなゴーレムが歩き去っていくのが見えてね…。
タバサとシルフィードが飛んでいくし、アタシも気になって来たのよ」
「そう…」
ルイズは離れた所で倒れているジャンガに目を向ける。ジャンガは既に起き上がり、コートの埃を払っていた。
と、唐突に俯いていた顔を上げ、こちらを凄まじい形相で睨んだ。
その視線に三人と一匹は恐怖に身を震わせる。
暫くそのままジャンガは睨み続けていたが、やがて唾を地面に吐き捨てると口を開いた。
「…このマフラーはな、お気に入りなんだ…。それをテメェはよくも…」
「……」
「今回だけだ……だが、次は無ェ…。――解ったか!!?」
その脅しとも取れる叫び声にルイズは静かに首を縦に振った。

首を振るルイズの姿にジャンガは忌々しそうに鼻を鳴らすと、背を向けてゆっくりとその場から歩き去る。
と、暫く歩いていると爪先に何かが当たった。
目を向けると、何か赤い物が転がっている。それが何か理解した時、ジャンガは目を見開く位に驚いた。
それを拾い上げ、ジャンガは繁々と観察する。
間違いない、だが…何故”これ”がこんな所にあるのだろうか?
少し考え、ジャンガはそれを懐に仕舞うとその場から今度こそ歩き去ったのだった。



その後、学院の衛兵や王宮の衛士が協力して捜索が行われたが、土くれのフーケの行方は掴めなかった。
アンリエッタはルイズに「また会いましょう」と言い残し、この件を報告する為に王宮へと帰っていった。
そんなルイズはアンリエッタを案じる一方で別の事を考えていた…。

何故…ジャンガがあんなにも怒ったのかを…





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