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第四話 無惨の宴舞台裏・後編 1~4日


革張りの長椅子に並んで寝転がり、年上の少女が年下の少女に物語を聞かせていた。
 庭師が丹精こめて育てた美しい花。妖精と農夫の恋。誰にも語られることのなかった怪
物退治のいさおし。騎士団長の思わぬ失敗。東方の商人が身代を潰して購入したという心
を読むつる草。この世の成り立ちを記した分厚い本……を収めた巨大な図書館。
 ごく身近なことから、神話的にに遠方のことまで、身振り手振りを交え、面白おかしく、
時におどけ、おどろおどろしく、悲しげに、感情をこめて話を聞かせる。
 聞かされている少女は対照的だった。笑い話にも怪談にも恋物語にも眉一つ動かさず、
合いの手を入れることもなく、黙りこくったままでじっとしている。その目はここではな
いどこか遠くを見ているようだった。
 話し聞かせていた方もこれでは面白くない。くるくると変わっていた表情は、尖った唇
と膨らんだ頬、それに眉間の皺で全てを占められ、口にするのは不満しかなくなる。

 なぜ黙っているの。お話がつまらないの。
 そんな問いかけにも年下の少女は答えない。

 そうか、馬鹿だから分からないんだ。
 そんな嘲りに怒ったりもしない。

 もうあんたなんか知らない。どこかに行ってしまえばいいんだ。
 やがて癇癪を起こし頭をはたく。

 その言葉を受け、年下の少女は席を立つ。はたかれた痛みも罵られた悔しさも表すこと
はなく、最後まで口を開かずに部屋を出ていった。
 年上の少女は去っていく背中に罵声をぶつける。馬鹿、馬鹿、馬鹿、と。どこかに行っ
てしまえばいいと言われ、本当に出ていってしまう少女を憎む。一言ごめんねと言ってく
れればすぐ許したのに、理由を話してくれればそれでよかったのに、何も言わず出ていっ
てしまった少女を憎む。
「ばか! ばか! シャルロットのばかぁ!」


 跳ね起きた。
 呼吸が荒い。全身が汗でぐっしょりと湿っている。胸に手をやり、呼吸を落ち着け、自
分が幼年ではなく成人していることを思い出し、安堵し、安堵してしまったことに腹が立
った。
「なんだってこんな夢を……」
 苛立ちをこめて憎々しげにひとりごち、イザベラは枕に話しかけた。

「おい」
「なに?」
「お前を枕にすると悪夢を見たり……なんてことはないだろうね?」
「いくらなんでもそんなことはないって。怖い夢でも見たのか?」
「怖くなんかあるもんか。ただ忌々しいってだけのことさ」

 人形娘をはめるため、人形娘のことばかりを考えていた。何を嫌がるか、どうすれば欺
けるのか。普段もそういうところはあったが、使い魔のいう「ドッキリ」を仕掛けること
が決まってからはいつも以上に頭を悩ませた。その影響が夢にまで出ているのだろう。
 イザベラはそう結論づけ、枕元の水差しを手に取って喉を潤した。口の中が乾ききって
いたせいか、妙に美味い。直接口をつけてぐびぐびと喉を鳴らす。

「どうだ、美味いだろ。よかったらもっと用意するぞ」
「なんだ、お前が用意しておいたのかい。たまには気がきくじゃないか」
「たまだなんて言うなよう。俺は常に気遣ってるんだから」
 言うなり枕が立ち上がる。半ばほど中身の減った水差しをとると、股間に相当する部分に
押し当て、そこから勢いよく透明な液体を噴出した。

「ほら、追加しておいたぞ。いくら飲んでも無くならないから心配すんなよ……っておい!
どうしたイザベラ吐き戻したりなんかして! 今すっげえ綺麗に霧吹いたぞ! この虹の美
しいことってそんな場合じゃねえ! 気を強く持て! 病気か! 呪いか! 毒でも盛られた
か! くそう、また七号のやつがやりやがったな! 誰か来てくれ! イザベラが! めち
ゃくちゃぐったりしてる! 死にそうだ! 最後のイザベラが絶滅する!」


 このように偶発的なアクシデントが何度かあったものの、事態は概ねスムーズに進行して
いったといえるだろう。それは使い魔が「ドッキリ」に集中していたということもあったし、
イザベラが使い魔の存在に――枕にしてしまうくらいには――慣れてきたということもあった。

 まず計画一日目。
 使い魔によるレクチャーから始まる。
「散々に脅かすなり喜ばすなりしてから、ヘルメットを被った男があらわれる。その手には
ドッキリ云々と書かれたプラカードが握られていて、それを見たターゲットは自分が騙され
ていたことに気づくって寸法だ。亜流は無数にあるが、基本はこれだな」
「そんなことされりゃ騙されたやつが怒るだろうに」
「せいぜい頭をはたくくらいのもんだ。そのためのヘルメットでもあるしな。俺は数十から
数百にも及ぶ例を見てきたが、大抵がっくり肩を落とすか笑ってごまかす、照れ隠しにヘル
メットをはたくってなもんで、本気で激怒したやつなんてのはまず見たことないね」
「ふうん」
 イザベラとしては、巻き込まれるにしてもなるだけやんわりとした形で巻き込まれたかっ
たが、自室が作戦本部にされている以上、否も応もなかった。情報収集や報告と称して始終
出入りしている小さな使い魔たちを横目に、大人しく教授されるしかない。

 計画二日目。レクチャーは続く。
「……ってわけだ」
「なるほどね。ドッキリってのは幾パターンかあると」
「そうだ。怖いお兄さんが出てきたり、寝起きを襲われたり、トイレが坂道を下ったり、愉
快な親父がバズーカぶっ放したり、ちょっとしたお色気で惑わしたりする。まぁ今回は放送
コードなんて関係ないからイザベラ次第でちょっとしたどころじゃないお色気を……」
 小さく咳払いして無理やり話を切った。使い魔にペースを握らせていては、水で溶けるド
レスを着せられかねない。

「ここは面倒無しで普通に脅しつけてやればいいんじゃないか」
「オーソドックスなタイプだな。初心者でも無理なくやれるし下手に奇をてらうよりは良さ
そうだ。幸いというべきか、火事になったおかげで陰惨な雰囲気もよく出ているし」
「お前ね、いったい誰のせいで火事になったと」
「そう自分を責めるもんじゃない。あれはイザベラのせいじゃないし、きっと誰のせいでも
ないさ。さて、あとは脅かすための材料か。怖いお兄さんに相当する何か」
「……馬鹿でかい竜でもいればいいんだろうけど、生憎とそんなものに心当たりはないね」
 イザベラには技術も知識もなく、巻き込まれた者の常としてやる気もなかった。
 任務を与えられた使い魔は目標めざして邁進し、退屈にかこつけてイザベラに絡んできた
りはしなくなったため、使い魔による被害を減らすという当初の目的はある程度達成してい
た。となれば真面目に取り組む理由がない。非協力的であることを悟られない程度でいい。

「それに関しちゃ当てがある」
「なんだ。怪物の知り合いでもいるってのか」
「そんなものいるわけないじゃん。でもさ、俺が怪物役をやれば解決するだろ」
 自信ありげに自らを指差す使い魔を見た。上から、斜めから、左から、右から、下から見
た。滑稽で珍妙だが怖くはない。

「いや、何一つ解決しないだろ」
「たしかに俺の甘いマスクじゃ難しいかもしれないけど。でもそこは演技力で」
「……やっぱり何一つ解決しないだろ」
「んなこたないって。一事はオスカー獲得のためマジで女優目指そうとしてたんだから」
「あん? 女優? なんで女優なんだ」
「そりゃ目指すなら女優だろ。俺、女だし」
 とんでもないことを聞いてしまった気もするが、この使い魔相手にいちいち突っ込んでい
ては身がもたないことはすでに証明されている。スルー。


「おい、信じてないだろ。ナンパされてホテルに連れ込まれたことだってあるんだぜ」
 スルー。

「昨日だって助平そうなコックに尻撫でられてさ。『俺はイザベラの使い魔だぞ』って言っ
たら『それでもかまわん』だって。男らしいんだかそうじゃないんだか」
 スルー。

「ほら、あそこ見ろよ。あっちで召使いの服着て洗濯してるだろ。おーい! 俺ー!」
「おー! 俺ー! 元気でやってるかー!」
 こちらに向けて手を振り返している召使いには見覚えがなかった。召使いの顔を一人一人
記憶するほど殊勝な雇い主ではなかったが、あの顔を見忘れるなどありえない。
「元気だぞー! そっちはどうだー!」
「こっちも元気だぞー! 召使いもけっこう悪くないー!」
「そうかー! そりゃよかったなー!」
 遠目でもその美しさが見て取れた。詩人であれば千の花にたとえ、絵描きであれば生涯の
モチーフを手に入れたと随喜の涙を流す。詩人でも絵描きでもない散文的な王女は「もちろ
んわたしに及ぶところじゃないがね」と心の中で付け加えた。

「なんで召使いの格好なんかしてるんだ」
「親切な召使いの女の子が服を貸してくれたからだよ」
「格好が召使いだからって真似事までしなくたっていいだろうに」
「情報収集のため、召使いの中に潜むことも必要なのさ。……べつに女の子に囲まれて生活
したいなんてこと考えてないから安心してくれ」
「……それはともかく」
 目を細め、額の中央を人差し指で押さえた。窓の外に向けていた顔を部屋の中に戻す。使
い魔へ与えた視線は罪人を前にした警吏のそれに近い。
 どう切り出すべきか、相手の出方も考えながら数秒間ほど模索する。使い魔が召喚されて
このかた、考えるという行為が癖となって身についていた。

「人間に化けるなんて重要なこと、なんで黙ってた」
「聞かれなかったから」
 性質を変えることは知っていた。だが枕のような単純な造型の物に限定されるのだと思って
いた。イザベラの勝手な思い込みだったが、ここで非を認めるほど人間ができてはいない。
なるだけ大げさにため息をついてみせた。
「聞かれなかったから教えなかった。言われなかったからやらなかった。無能の決まり文句
じゃないか。そんな繰り言聞きたかないね」
「そう言われても……ちょっと頼むのが恥ずかしかったってのもあって」
「頼む? 恥ずかしい? 何が?」
 使い魔はもじもじしながらイザベラを見上げた。その姿はどこか腹が立つ。

「実は俺、人間の女の裸って見たことがないんだ。女の子の体は友達が作ってくれたんだけ
ど、そいつも女の裸……おっぱいやヘアは雑誌とかビデオとかで見れるんだけど、国内向け
のやつじゃどうしても肝心な部分をモザイクで消しちゃうだろ。最近はインディーズとかで
ギリギリの薄消しなんて謳い文句で出してるけど、それでも見えないもんは見えないんだよ。
というわけでナニを見たことがなくてさ、下着の中がえらいことになってるらしい。見せた男
が悲鳴あげて気絶しちゃったし。で、もしイザベラさえよければ参考のためにちらっと見せ
てもらえれば嬉しいなーなんて思ったり思わなかったりしてるんだけど。いや、全然やまし
い気持ちとかないよ? 俺って超紳士だから。いや淑女か。とにかく、より自然に人間の姿
を真似ることができれば主であるイザベラとしても得なわけじゃん? 俺としては学術的な
好奇心とか、あくなき向上心とか、その種の発言としてとらえてほしいわけであって」

 使い魔は未だペラペラ口を動かしている。イザベラは黙って立ち上がり、本棚の中から一
冊の本を取り出した。本棚の一角を占拠してはいるものの、ひらいてみたことは一度もなく、
未だ新品同様の実用書をようやく役に立てる時がきたようだ。鈍器として使えばオーク鬼で
も殴り殺せようという分厚い医学書を一動作で使い魔に投げつけ黙らせた。

 どうやらイザベラも使い魔との接し方のこつを掴みはじめたようだ。


 三日目。
 投げられた医学書――当然無修正――をもとに、使い魔が完璧な局部を再現したのだが、
本筋には全く関係ないうえ非常に下品であるため割愛する。

 ここまではドッキリについて学んだ。今日は一日かけて使い魔のことを学び取ろうと考え
た。人間に変身するなどという離れ業がこなせるとは思ってもいなかったたのもあり、使い
魔ができることをきちんと把握しておきたかった。

 使い魔を手にとり、こね回し、いじり、つねり、変形させる。指先で押せばどこまでも埋
まって、指から手、手から腕まで入り、向こう側に突き抜ける。粘土やパン生地でもこうは
いかない。
 ためつすがめつ細工を加え、手足を形作り、首を伸ばし、牙や角を生やして、ごつい鱗で
全体を固め、大きな翼を据えつけた。彫刻や細工物の素養も訓練も無いイザベラでさえ、も
のの十分で大きさ以外は本物そっくりの竜ができあがる。
「いっじょぉぉお……に細工がしやすいな」
「いやいや異常なのはイザベラだって。俺の友達はよく訓練された重度のフィギュア萌え族
だったけど、こんなにさっさか作ったりはしなかったぞ。すごいって」

 使い魔の体に火をつけた時、その匂いに惹かれて見物人たちが残らず狂乱した。そんな混
沌の極みの中でただ一人冷静だったイザベラが割を食ったわけだが、よくよく考えてみれば
もっとも近いところで匂いを嗅いでいたのは他ならぬイザベラである。
 イザベラだけが匂いの影響を受けず、訓練された専門職よりも見事な細工をほどこしてし
まう。使い魔と主が持つ絆か、それともルーンの影響だろうか。使い魔が不定形ということ
でどのようなルーンかろくに確認することもできなかった。ありうる話ではある。

 頭を働かせながら手も動かし、竜に続いて重装の歩兵、勇壮な騎士、騎士が跨る軍用馬、
威厳ある老メイジ、花売りの小娘、装飾をふんだんに用いたゴーレムと次々に作りあげてい
く。一つ作るごとに「ここが悪かった」「ここはもう少し工夫できた」「細工の甘い部分が
あった」といった反省を得、次に活かし、さらに次、また次……。
「よし、次だ」
「もうないよ。イザベラペース速すぎ」
 使い魔にも限りがある。しかしせっかく興が乗ってきたところでお預けなど我慢できるイ
ザベラではない。
 召使いとして働いている小娘使い魔を呼び出し、尻ぺたでも切り取って材料にしようかと
暴虐な想像を頭の片隅で巡らせたが、それを押し出すほどの大きな疑問がむくむくと頭をも
たげてイザベラの所思を覆いつくした。
「待て。ちょっと待て。ちょっと待てよ。おかしいじゃないか」
「だよな! ハーッハッハッハッハ、ああおかしい」
「そういうおかしさじゃない! そうじゃなくて、お前の体積だよ。召喚した時はこれくら
いだったよな?」
 枕くらいの大きさを手であらわす。
「で、今はここにいるのと、召使いになってるの」
「他にも諜報活動してるやつらがいるぜ」
「じゃあやっぱりおかしいじゃないか。数が増えるのはまぁよしとしよう。切れば切っただ
け数が増えるからな。でも量が増えるのは理屈に合わない。納得いかないね」
「そんなもんは簡単だよ」

 使い魔のあとについて外へ出る。
「まずは食うだろ」
 厨房の裏に積まれていたゴミの小袋を一呑みで平らげた。
「そして出すだろ」
 尻からひり出される例の球体。今日も忌まわしく輝いている。
「孵すだろ」
 ひり出されたものを他のゴミに接触させると、ヒビが入り、広がり、やがて割れた。割れ
目からは小さな使い魔が「よっ」と顔を出す。
「くっつけるだろ」
 出てきたばかりの使い魔と説明をしていた使い魔の体が接触し、小さな方が大きな方に取
り込まれた。大きな方はわずかにサイズアップしている。
「ほら、大きくなった。簡単だろ」


 太陽がさんさんと活動している。今日は昨日より温かい。遠くで虫が鳴いていた。季節は
夏になろうとしていた。イザベラは親指でこめかみを押さえた。頭痛がする。
「あー……お前のそれ、卵だったのか?」
「そうだよ。ウンコかと思ってたけど、ウンコのプロも認めないって言ってたからな。まさ
か卵とは思わなかったぜ」
「物を食べるとすぐに生む」
「ああ」
「ゴミにくっつけたのは?」
「汚くないと卵が孵らないから。ゴミじゃなくワキガや水虫でもオッケー」
「ああそう……食べるものはなんでもいいと」
「ゴミを食べれば少しは社会貢献できるからな。食うのはゴミだけにしてるよ」

 何でも食べ、食べれば産卵、即座に孵化、くっつければ大きくなる。
 けして死なず、焼ければ人の心を狂わせ、人間の頭部くらいの大きさしかなくても成人女
性を引きずり回す豪腕を振るう。
 自由に姿を変え、加工次第では人間のふりをすることもできる。

 まず考えたのは「こいつのせいで世界が滅ぶようなこともあるんじゃないか」で、次に考
えたのが「これなら人形娘に心胆寒からしめてやることができるんじゃないか」だった。イ
ザベラの天秤は前者へ揺れ、後者へ揺れ、また前者へ揺り返し、イザベラの視線に気づいた
使い魔がダンスを踊り始めた時点でがっちりと後者に固定された。

「よし、驚かせる役はお前に決めた。とちりでもしたら鞭打ち……は意味無いな。ひっぱた
く……張り倒す……首切り……火刑……ええと、そうだな。とちりでもしたらお前とは二度
と口をきいてやらないからな」
「それは失敗できない……重大な任務だな」
「分かればいい。それじゃ準備にとりかかる」
 顎に手をあてた。必要なものを一つずつ確かめる。

 まず驚かせるための巨大生物。竜がいい。眼力だけで幼生の風竜を金縛りにするような。
 それを作るためには使い魔を大きくしなければ。餌が必要だ。
 城のゴミだけでは限界がある。城下から餌を集めてくる人員がいる。北花壇騎士は荒事以
外に向いていない。他の花壇騎士は信用しきれない。召使いもだ。人形娘を「シャルロット
様」なんて呼ぶようなやつは、小汚い同情心から密告するかもしれない。それじゃドッキリ
は失敗だ。

「……よし。まずは城のゴミを使って人間を何体か作る。作った人間は城下で餌になるもの
を集めてこい」
「その場で食べちゃいけないのか?」
「そんなことしたらパニック必至じゃないか。謀は密なるをよしとすってね。あとは中庭を
立ち入り禁止にして、テキトーに作業する」
「テキトーなの?」
「もちろん。面倒ごとは大嫌いだ。使い魔なら覚えておきな」


 四日目。
 イザベラは手と腕だけでなく、足も腰も頭も使った。全体図をざっと起こし、頭の中で思
い描き、まずは胴体から作り始める。作業をすすめるたびに未知の技術が流れ込んできて、
なるほど、これはルーンの効果以外じゃまずありえなかろうと思いながらも手は止めない。
 大まかな部分は使い魔に指示し、細かな仕上げは手ずから行う。鱗の一枚一枚を丁寧に仕
上げ、さあてここからだと額の汗を袖口で拭ったところで作業がやりづらくなっていること
に気がついた。いつの間にか日が落ちていた。
「……あ? なんだ? もう暗くなるような時間なのか」
「集中してたからなあ。人払いしてるせいで召使いの子らも来れなかったし。昼飯抜いちゃ
ったけど大丈夫か?」
 昼食の恨みとばかりに夕飯をかきこみ、カラスの行水で入浴、あがって即寝台に倒れこん
だ。疲労はなかなかイザベラを離さず、泥のように睡眠を貪った。



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