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ゼロのしもべ第2部-16



 ズイと呂尚との出会いは20年以上前に遡る。
 ズイ。本名はハン・ズイという。トリステインはおろか、ハルケギニアでも珍しい名前だ。なにしろ苗字が先に来る時点で稀である。
おまけにズイなどという名前を持つものは、犬猫にもいないのではないか。
 父親はハン・カイといい、狩人であった。獲物は主に犬。ハルケギニアでは犬肉を食する文化はないが、毛皮を一部の好事家が
靴にしたり防寒具にする。また、増えすぎた野良犬を間引くのにも重宝されていた男であった。
 このハン・カイが突然死んだ。死因は溺死であった。
 陸の上で溺れ死んだのだ。
 話によると、アルビオンの貴族と毛皮の売買で揉め、交渉が決裂した。その帰り道、船から下りて2,3歩も歩かないうちに悶え始め、
水を大量に吐いて死んだという。腹を割いてみると、肺は水に浮いているような状態であった。
 人々は、アルビオンの貴族に殺されたのだろうと噂しあった。
 さて、ハン・カイには子供が2人いた。1人はズイであり、1人はその兄、チンギスである。
 兄はこのとき15歳。すでに一人前の大人である。父の仕事を手伝い、ウサギや鳥、鹿や犬などを捕まえてはラ・ロシェールの毛皮
屋に卸していた。
 ズイは8歳。ズイは母親の顔を知らない。3歳のときに母親は風邪をこじらし急逝したのである。
 以降、父と兄がズイの面倒を見てきた。もっとも、ズイもこの歳になると家の手伝いをしており、その日は兄に従い町に下りて、狩りの
途中見つけた薬草で作った薬を売り歩いていた。父親がアルビオンの得意先に紹介された相手に毛皮を売りに行って7日。そろそろ
こちらに戻ってくるころである。ズイも、兄も父親の土産を楽しみにしていた。
「もし」
 と、ズイを呼び止めた老人がいる。長い杖を持ち、柔和な表情をした老人であった。
「そこのぼうや、薬を一つ売ってくれんかね?」
 ズイは一瞬怯んだ。相手がメイジではないか、と思ったからである。しかし売ってくれというのを理由もなく断るわけにはいけない。
精一杯、愛想を浮かべてズイは老人に薬を渡した。
 老人は薬を受け取ってもズイを傍から離さず、ジッと見つめている。
「どうしたの、おじいさん。ぼくのかおになにかついてる?」
 不審に思ったズイがさすがに尋ねると、老人はにこっと笑って言った。
「なに、ぼうやの顔が珍しくてな。将来、ぼうやはとてもえらい人になるかもしれないぞ。」
「やだな、おじいさん。おだてても安くしないよ。」
 てへへ、と照れて舌を出すズイ。受け取った代金に、釣りを渡そうとしていると、自分を呼ぶ声がした。
「おい、ズイ!大変だ!」
 それは兄であった。人ごみを掻き分けて、こちらへ走ってくる。顔面は蒼白で、様子はただ事ではない。
「親父が殺された!」
 ええ!?と驚くズイ。兄の話によると父親が桟橋で突然水を吐いて死んだらしい。
 いそいで駆けつけると、そこには父親の変わり果てた姿があった。
「おとうさん!」
 すがりついて泣くズイ。兄がズイの耳に口を寄せる。
「親父はアルビオンのメイジに殺されたらしい。証拠はないが、あいつらは俺たち平民を虫とも思ってないんだ。平気で殺してもおかしく
ない。ズイ、アンちゃんは親父の仇を取ってくる。」
 懐から狩った獲物の皮をはぐための分厚いナイフをちらつかせるチンギス。
「ぼくもいくよ!」
 泣きながら答えるズイ。だが、兄は許さずこう言った。
「おまえはまだ子供だ。家に帰るんだ。なに、アンちゃんには弓がある。弓で胸を射抜いてから、こいつで首を掻っ切ってやる。」
 桟橋に駆け出す兄、チンギス。
 だが、ズイはあきらめきれない。こっそり荷物に忍び込み、兄の後をつけた。胸には、父や兄の手伝いのために使っていた、小型の
ナイフがしまわれていた。
 そして、敵討ちの結果は無残であった。
 兄は夜陰に乗じて矢を射掛けるも、気づいた護衛の兵に切り落とされた。
 そしてそのまま切り殺された。
 兄の矢が当たり次第、自分も切りかかっていこうと身構えていたズイの目の前で、兄はバラバラにされたのである。
「あんちゃん!」
 泣きながら、ズイは父と兄を殺した貴族に向かって行った。手にはナイフを握り締めている。
 そしてあっという間に護衛たちに蹴ころがされた。
「なんだ、おまえは?」
 転がされても、なんども起き上がっては貴族に向かっていく。そのたびに護衛たちに吹っ飛ばされ、ついには組み伏せられた。
「おまえは、あの男の弟か?なぜ、領主様の命を狙う?」
「父ちゃんと、アンちゃんの仇だ!」
 涙を浮かべて、貴族を睨みつけるズイ。だが貴族は酷薄そうな笑みで、それに応える。
「さては、おまえたちはあの毛皮屋の息子だな。わざわざ親子で死にに来たのか?あの男がわたしの提示した値段を承知しないのが
悪いのだ。」
 そして護衛たちに、殺せ、と短く命じた。
 護衛が剣を振り上げた。鈍い光を刃が放った。
 ドスン、と剣に合わせてズイの首が転がった。それを持ち上げる護衛の1人。
「げえ!これは!?」
 護衛が拾った首。それは、見間違うこともない自分の首であった。いつの間にか、自分の首が胴から離れて、それを抱えていたの
だ。つまり、護衛は首から上が消えてしまった自分の胴体を、自分の目で見ていたのである。
 どさっと、地面に護衛の身体が崩れ落ちた。首がころころと転がって行った。
 そのとき、高らかな笑い声が響いた。
「自分を殺すとは、とんだ護衛がいたものじゃな。」
 ズイを抱えて、老人が立っていた。あのとき、薬をズイから買った老人だ。
「な、なにものだ!?」
 あわてて護衛は全員が剣を抜いた。貴族も、顔を青くして杖を抜き構えた。
「おぬしらに名乗る義務もなかろう。」
 そして、杖を振った。
 とたん、地面が割れ、下から水が噴出した。噴出した水はあっという間にあたりを覆い、一面を水の底に沈めていく。
「ぎゃあ!」
「うわあ、おれは泳げないんだ!」
「あっぷ、あっぷ。」
 空の民として知られるアルビオンの人間は、泳ぎが苦手なものも多い。たちまち水の底に沈んでいき、やがて絶命した。
 老人は、いつの間にか兄の死体とともに消えていた。
 残されたのは、地割れ一つない地面の上で、まるで溺れているように必死の形相をして転がる貴族と護衛たちであった。

 その日から、ズイは老人の下で暮らすようになった。
 老人、即ち呂尚である。
 呂尚にズイは言った。
「自分に、不思議な術を教えてください。」
 ズイはいずれアルビオンの貴族に復讐するために、力を欲していた。
 そのときまず浮かんだのが魔法であり、次にこの老人が見せた不思議な術であった。あの力があれば、貴族に復讐ができる。ズイ
はそう考えた。そのため、呂尚に食らいつくように弟子入りを願い出た。
 呂尚もそういったズイの考えに気づいていないはずはない。はじめから自分の弟子にするつもりで助けたところがあった。
「よかろう。では、今日からお主はわしの弟子となり、修行に励むがいい。」
 こうしてズイは呂尚の弟子となった。
 またたくまに、15年の歳月が流れた。
 人間の情とは不思議なもので、呂尚は計略で弟子としたズイを、我が子のように愛し始めていた。
 それはズイも同じで、呂尚を実の父のように慕っていた。
 だが、復讐心は忘れておらず、父と兄の敵を討つために懸命に修行を続けた結果、元々才能もあったのだろう。メキメキ実力をつけ、
いまでは呂尚に勝るともおとらぬ仙術を身につけていた。
「水を壷から壷へ遷すが如し」
 と呂尚が賞するほど、ほぼ完璧にズイは呂尚の仙術を身につけていた。
 そしてある日、呂尚は
「お主はこの15年余りでわしの教えた術をことごとく身につけた。もはやわしに教えることはない。復讐を果たすもよし。山野に隠れ
住むもよし。おぬしの好きなようにその術を使い、願わくば後世へと伝えてもらいたい。」
 と宣告し、名を樊瑞と改めさせた。
 そして呂尚自身は、
「南にわしが仕えるべき君主が出ると卦に出た。」
 と言い残し、フラリと立ち去った。
 そして数年後、確実に仇討ちを成し遂げようと研鑽を積む樊瑞の前に、呂尚は無残な姿となって現れたのである。



 樊瑞はかつての呂尚との修行の日々を、懐かしく思い出していた。
「師はこの数年、なにをされていたというのだろうか。まあ、師の傷が癒えてから聞けばよかろう。」
 傷ついた呂尚を訝しむも、かいがいしく樊瑞は面倒を見た。呂尚の傷は癒えているとは言っても、老人ゆえ治りが遅く、油断は禁物
であった。
 その間、黙して語らぬ呂尚に樊瑞はなにも聞かず、数週間が過ぎた。
 そして、樊瑞にとっても、トリステインにとっても運命となる日がやって来たのである。

 ルイズはバビル2世の前で始祖の祈祷書を広げていた。
 あのあと足りないガソリンを調合するというのでコルベールは研究室に篭りきって姿を見せない。はたして上手くやっているのか。
 残月はタルブに帰った。まあ、明日にでもまたやってくるだろう。
 孔明は先ほどまで部屋にいたが、フラリと外へ出て行った。行き先は知らない。
 というわけで、この部屋にはルイズとバビル2世、そしてロデムがベッドの下にいるだけになっていた。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠み
あげ奉る……」
 なかなか様になっている。テンポもよく、文句の付け所はない。
 が、ルイズは黙ってしまった。
「どうしたんだい?」
「これから、火に対する感謝、水に対する感謝……、順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みつつ詠みあげなくちゃ
いけないんだけど……」
 思い浮かばないらしい。まあ、詩の勉強をしたことのない人間が言われても困るだろう。おまけに発表の場は王族の結婚式。たとえ
詩を勉強していても、プレッシャーで思い浮かばなくなるだろう。
 と、ルイズはここへきてバビル2世が上の空なことに気がついた。
「どうしたのよ。」
 ムッとしていうルイズ。仮にもご主人様が相談をしているのに、なにごとだその態度は。上の空か。と頬を膨らせる。
「……いや、なにか、嫌な予感がするんだ。」
「嫌な予感?」
 バビル2世はルイズの問いには答えず、南の空をじっと見つめていた。



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