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ゼロの赤ずきん-17


一行は、まずアルビオン行きの船に乗るために港町であるラ・ロシェールに向っていた。
このときすでに日暮れの時間はとうに過ぎていたが、
ルイズ達は魔法学院を出発してから、ほぼ休みなしで馬を走らせている。
しかし、早いペースを保ちながらも、ルイズの体力を削らぬようにワルドは細心の気配りをしていた。
ルイズとワルドは並走するような形で、そしてバレッタとギーシュはその後方に列をなしている。

「ワルド、ちょっとペースが速すぎない?他の二人が少し遅れてるわ、私は馬術が得意だからいいけど……」

ルイズのワルドへの言葉使いは、雑談を交わすうちに、昔の丁寧な話し方から、今の口調に変わっていた。
ワルドの方がそうしてほしい、と頼んだことであった

ワルドが後ろを振り返らずに言う。
「心配する必要はないよ、ルイズ。彼らは……いや彼女は、かな?
 彼女は、敵から襲撃を受けることを想定して僕たちの殿を守ってくれているんだ。
 なかなかどうして、あんなに小さいのに頼りになる使い魔じゃないか、それに献身的だ」

「え……そうなの?いえ、……後ろから吹き矢で狙ってるとかじゃないの?」

「はっはっは、冗談が上手くなったね!ルイズ!
 大丈夫!君は僕が守るから安心しておくれ、それに彼女も僕を信頼してくれたからこそ、
 僕に君を任せて、殿を受け持っているんじゃないのかな?」

「そうなのかしら……本当にバレッタは任務を第一に考えてる?」

ワルドの話を聞きながらも、意識はバレッタの方に囚われているルイズ。
未だに疑念の色がルイズの顔から、たち消えない様子を見て取ると、ワルドは不安そうな表情で言った。

「そんなに彼女のことが気になるのかい?まあ、彼女は女性だから、
 実は恋人でした、なんていう心配をする必要がないのはわかってはいるのだが……。僕は、君の婚約者だ。
 さすがに、こうも他人ばかりに目が行っている姿を見ていると.……見苦しいかもしれないが、何かと嫉妬してしまうよ」

そう言うと、ワルドは爽やかな笑い声を上げた。

「べ、別にバレッタは……そういうのじゃなくて、それに婚約も、お、親が決めたことじゃない」

ワルドは、親が戦死したのを機会に爵位と領地を相続した後、魔法衛士隊に入隊した。
ルイズの中の記憶なかには、それ以前のワルドの姿しかない。今回の再開は実に10年ぶりである。

「旅はいい機会だ」

ワルドは遠い空の彼方を見据えて、落ち着いた声で言った。
「僕は、立派な貴族になって、君を迎えにいくと、心に誓っていた。だからこそ、ここまで頑張れてきたと思うんだ」

「そんな、私なんか……それに今は」

「なに、別に急いだりしないさ。急いては事をし損じるというしね。何事も順序だ。
 それに、僕は10年も君を放っておいてしまったんだ。まずは、その埋め合わせをしようと僕は思う。話はそれからでいい」

そう話すワルドにルイズは戸惑った。
ワルドのことは確かに、憧れてはいたが、今更婚約者と言われてもピンと来ない。
嫌いかどうかと聞かれれば、嫌いではないと答えるが……。

「……ほかに、僕の場合、散らした花びらを油に変えたり……と、まあ錬金についてはこんなものじゃないかな」

馬を走らせながら、錬金についてバレッタに教授していたギーシュは得意げな顔をしていた。
無論、バレッタから頼まれたこと、もとい命令されたであった。
「ふーん、なるほどねぇ」

「聞きたいんだが、なぜそんなに錬金に興味があるんだい?」

「魔法の中で一番生産的じゃない?それに使いようによっては化けるわよー。
 ま、ギーシュおにぃちゃん程度じゃあ、なーんにもならないでしょうけどっ」

ギーシュはムッとした顔になった。だが、すぐに元の顔に戻る。
バレッタの怒りを買ったらとんでもないことになるのは、目に見えている。
さりげなくギーシュは話題をそらした。前方に馬を走らせているルイズとワルドを見ながら言った。

「それにしても、魔法衛士隊隊長が婚約者とは……さすがは公爵家と言ったところだ」

「そんなにスッゴイの?その魔法衛士隊っての」

「スゴイもなにも、トリステインに住んでいる貴族にとっては憧れの的、メイジのエリート集団さ。しかも、隊長ときたもんだ。
 もしかしたならば、この旅が終わるとすぐに結婚してしまうかもな。そしたら、君はどうするんだい?」

バレッタはさも興味なさげに応えた。
「さあ?キョーミないけど、結婚支度金でもふんだくろうかしら」

ギーシュは笑った。
「さすがだ。君らしい」

「とりあえず、港よ、ラ・ロシェールだっけ?そこにはまだつかないの?さすがのわたしも馬乗るのしんどくなってきたわよ」

ギーシュは道の先に目をやった。
「この山道をもうすこし行けば、街並みが見えてくるはずだが」

なるほど、とバレッタは思った。アルビオンについて少しは知っているが、そこに行くまでの手段を知らない。
海なんてまるで感じられない山中なのにも関わらず、なぜラ・ロシェールが“港町”と呼ばれているか、
バレッタであっても、魔法が存在するファンタジーな世界であることを前提に考えれば、想像するに難くない。
ギーシュは再びたわいのないことをバレッタに話そうと顔を向けたとき、常軌を逸した光景が目に飛び込んできた。

馬上にバレッタの姿がない。

隣には乗り主を失った馬だけが走っていた。そして馬も乗り主がいなくなったことに気づいていないようであった。
ギーシュは、慌ててバレッタの馬の手綱を手にとり、その場に止まった。

「これは……なんだ!!!?いつのまに!!?いったいどこに!!!?」

異常な光景を目にしたのはギーシュだけではなかった。
ルイズは自分の目が信じられなかった。
自分は手綱を手に持ち、馬を走らせていた。それなのに。
バレッタが自分の目の前に居る。
ルイズが跨っている馬のたてがみを鷲掴みにし、ルイズが座っている鞍に足をかけ、
月を後ろに背負い、赤いスカートを風になびかせ立っている。

「なななな、なによ!!?え!?あんた馬に乗ってわたしの後ろにいたんじゃないの!?というかどうやって!?
 もしかして、走ってる馬から馬に飛び移ったって言うの!?じょじょじょ冗談じゃないわよ!!なによそれ!?」

「どーでもいいけどぉ、馬をすぐに止めてちょーだいっ。走ってる馬を狙われて落馬したら、最悪死んじゃうんだからね?」

ルイズはバレッタの言葉で、はっとした。隣に目をやれば、ワルドも杖を抜いて、警戒態勢をとっている。

「も、もしかして敵襲!?そんなっ!?」

慌ててルイズは馬を止める。そしてルイズを庇うかのようにワルドも馬を止めた。
そこに、ギーシュが遅れて合流する。集まった一同は馬から降り、円を描くようにして立ち襲撃に備えた。
ワルドが呟くように言う。

「これは……数が多いな」

傍にある崖の上から、衣服が擦れる音や足音が僅かに耳に届いた。同時にルイズ達のところに、松明が投げ込まれた。
そして弓を引く音がキリキリとあたりに響く。

「……弓が来るわよっ!!ギーシュ!てめぇはワルキューレを出して防御にまわれっ!あと火ぃ消せ!狙いうちされるっ!」

怒声を上げてバレッタはギーシュに指示をだした。


「わ、わかった」
ギーシュは慌てて杖を抜き放ち、そして詠唱をすませて振る。
ワルドはちらりとルイズを見てから、敵がいるであろう場所に目をやって言った。

「攻めに行くには敵が多い、だから全員でかかることはできない、
 守りをおろそかにするわけにはいかないからな。ここは、とりあえず僕がうって出ようか?」

ルイズ達の下に、弓矢の雨が降り注ぐ。
ワルドはルイズを庇うように立ち、風の魔法で矢を明後日の方向へ吹き飛ばし、
バレッタは、手に持ったバスケットを横に薙ぎ払って矢をたたき落とし、
ギーシュは、自分が出したワルキューレを盾にして防いだ。
狂気の色に染まった表情を浮かべたバレッタが言う。

「よっしゃっ!わたしが行くわ。ぶっちめてやるよっ」

「君が?いや、それは……」

ワルドの言葉はそこで途切れた。なぜなら、すでにバレッタは崖のある方角へ駆けていたからだ。
バレッタは、地面すれすれと言っていいほど、上体を倒し疾駆している。まるで燕が低空飛行しているかのような様であった。
ワルドは驚きを漏らすかのように呟いた。

「速いな……なるほど、やはり素人ではなさそうだ」

「そっちは崖……あっ……あ、あれ直角の崖を走って登っていない?ねえ、ギーシュ」
「あ、ああ、というか、その前に空中でさらに跳躍したようにみえたんだが……見間違いか?」

バレッタは敵がいると思われる崖の上まで駆けて上ると、そのままルイズたちの視界から消えた。
最初に矢が放たれてから、新たな攻撃はない。
ただ、ルイズ達が見上げる崖の上からおびただしい数の悲鳴が木霊して不協和音を奏でているだけであった。
ギーシュはビクビクしながら言う。

「やはりまともに戦っても強いのか……たたた、たぶん地獄絵図でだろうね」

「……多分じゃなくて、間違いなくよ。まあ、後で尋問しないといけないから、殺さないとは思うけど……全員はね」

表情を引きつらせてルイズはそう言った。
バレッタの異常な面を改めて目にした瞬間である。


バレッタが崖の上に到着してしばし、その上空では風竜が旋回して飛んでいた。
その背中には、二人のメイジの姿があった。
キュルケとタバサ。ルイズを追いかけてきたのだった。

「なんだか、下が騒がしいわね?暗くてよく見えないわ……、夜盗か盗賊の類かしら?
 しらないけど、ルイズたちが攻撃されてるみたいだから、さっさとあの連中をやっつけましょう、タバサ」
名を呼ばれたタバサは、魔法を唱えるため言葉をつぶやき詠唱し始めた。
しかし、下で騒いでいる男たちに使うためではなかった。

「ダメ。高度を下げすぎた。―――来る」

「来るってなにが?弓矢?」
キュルケが頭で理解する前に“それ”は来た。

「きゅい!?きゅいきゅい!!」
タバサの使い魔である風竜、シルフィードが困惑した鳴き声を上げた。
ちょうど、シルフィードの首の付け根辺りに赤い塊が降り立ったのだから驚くのも無理はない。

「バ、バババレッタ!?どうやってシルフィードに乗れたのよ!?あなた魔法使えないでしょうに!」

バレッタは、その辺りで一番高い頂を踏み台してシルフィードに背に飛びついたのであった。
キュルケの問いかけを無視して、片眉をゆがめてバレッタが言った。

「ああん!?どっかで見たことある竜だとおもったらテメーらかよ、何してんのよここで?……っとそれを聞く前に」

バレッタはタバサに向きなおった。ドスの聞いた声で言った。

「なに魔法を唱えようと準備して杖をわたしに向けてんのぉ?この青ガキっ」

いつもと変わらぬ無表情のタバサであったが、どこか険しさを感じさせる空気を醸し出している。
そして、まったく稚気が感じられない口調でタバサは言った。

「……武器をおろして、私たちは敵じゃない」

シルフィードの背に乗ってきてから、バレッタはキュルケ達に銃と思われる武器を向けたままであった。
馬鹿にするように、鼻で笑ってバレッタは言った。

「冗談はよしてよねっ、先にさげるのはそっちじゃぁないっ?」

そうは行かない、とタバサは言おうとした。しかしあることに気づく。
バレッタをよく見れば、いつの間にか両手に銃が握られていた。
そしてその銃口にの先にあるのは、魔法で迎撃しようとしているタバサではなく、
タバサの使い魔であるシルフィードと、そして、キュルケに向けられていた。

攻撃しようとすれば、自分ではなく他の者が死ぬ。つまりはそういうこと。
えげつない、確かに危険すぎる。人の心のスキマを狙ってくる人間。

タバサは認識した。この使い魔の危険性について。
決して警戒を解かないように相手の目を見据え、そしてゆっくりと杖をさげた。
それを見届けると、バレッタも武器をしまった。

「ま、敵ってわけじゃあないみたいねっ、悪いんだけど竜を下に着陸させてちょーだい。
 あと、下にいるヤロー共はぶっ倒しておいたから大丈夫よっ♪」

バレッタ達が地面に降りると、そこには、ルイズ達の姿があり、
ギーシュの魔法で作り出された青銅像ワルキューレが、敵から徴発した縄で男たちを縛りあげていた。

「お待たせ」

風竜から降りたキュルケは、赤い髪をかきあげながら、あっけらかんとした態度でルイズにそう言った。
「お待たせじゃないわよッ!何しに来たのよ!」

「なにって、助けに来てあげたのよ。朝方、窓から見てたらあなたたちが馬に乗って出かけようとしたじゃない?
 それに、隣にはバレッタの姿があったし、急いでタバサにお願いして飛んできたってわけ、わかった?」

キュルケは、風竜の上のタバサを指差した。
タバサは別段気にした風もなく、手に持った本を開きページをめくっている。

「ツェルプストー。あのねぇ、これはお忍びなのよ?」

キュルケはイタズラっこのような顔して言った。
「そう、お忍びなの?バレッタが一緒についてきてるところをみると、
 そうとう大仕事だってのはわかるけど?人手は足りてるの?手伝ってあげてもいいんだけど?」

「そ、それは……」
ルイズは今現在の状況を考えた。
バレッタをこの先どうにかする術を模索している最中ではあるが、とても一人で何とかできるとは思えない。
不本意ではあったが協力者は得られるならば得たほうが良いのでは、と思った。
正直に言えば、キュルケたちが自分を心配して来てくれたことがわかって嬉しかっただけだったのかもしれない。

「ついて来たいなら、その、ついて来るのを許可してあげるッ。べ、別についてきて欲しいわけじゃないんだからねっ!」

キュルケは呆れたように肩を竦めて言った。
「『ありがとう』っていう言葉を知らないのかしら、このコ」

「な、なんですって!!!このツェルプストーッ」
顔を真っ赤にさせ地団駄を踏み、ルイズは怒って見せた。

襲撃をした男たちへの尋問を終え戻ってきたギーシュに、バレッタは尋ねた。

「まあ、あっちはほっといてー。ギーシュおにぃちゃん、連中から何か聞き出せたぁ?」

「あいつらは、ただの物取りだ、と言ってるよ」

「……一応聞くけど、どんなふうに聞き出したのー?」

「普通にさ。『君たちは何者だ。何の目的でぼくらを襲ったんだ?』って……」

ギーシュの言葉を聞いたバレッタは、無言でギーシュの脛の部分を足のつま先で蹴った。
何度も何度も、まるでキツツキのように蹴った。

「ぐわああっイタいっ!!ちょ、ちょっと待ってくれたまえ!!!なんで怒ってるんだい!イタっ!!イタっ!!」

「コノっ!コノっ!そんな聞き方して素直に答える悪党がいるかっつーのっ!もーいいもんっ、わたしが尋問するっ」

二人のやり取りを見ていたワルドが間に割って入る。

「物取りと言ってるんだ、別段構う必要はないだろう。それに僕たちには時間がないのだから、
 意味もなく時間を浪費するのはあまり賢いとは言えないな、違うかな?バレッタ」

ブリッ子を装ったバレッタは、ワルドに甘えるような声で言った。

「もうっ、ワルド様ったらジョーダンが上手っ♪」

「……冗談?」
「そうじゃないのっ?」

バレッタは、僅かに真剣さ滲ませた上でおどけて言う。

「もし誰かが、この人たちを雇って、わたしたちを襲わせたのならね?その誰かは失敗した場合も考えて、
 十中八九、これから向かう先のラ・ロシェールで待ち伏せしてるか、第二波を用意してるに決まってるじゃない?」

バレッタは、この襲撃が誰かの手引きによって行われたことは、わかっていた。
まず、その理由として、弓やそれを主とする武器によっての距離を保ちながらの攻撃方法は、
最初から、男たちがメイジに戦いを挑む準備をして、待ち伏せをしていたことを明らかにしていた。
メイジのほとんどは貴族である。
貴族を追われた者は別であったが、そうであっても、見た目が完全に貴族である者たちに対し、
平民が、なんの理由なしに危害を加えるということは大変なリスクを伴うものであり、
万が一相手が貴族だった場合、平民はその場で処刑されても文句は言えない、それはこの社会の常識であった。

では、なぜ男たちが、ルイズ達を襲ったのか?
それは、簡単なことであった。つまりは彼らは他の貴族から命令を受けたことに他ならないのだ。
たとえ、その貴族が命令したことによって、なにか国に不都合が生じたとしても、
悪意がない第三者である彼らの場合、その命令を遂行しても責任を問われない。
基本的に軍においての規範と同じように、行動によって生じた責任は、それを命じた者だけが負う。
勿論例外もあるが、そうでなければ、傭兵や軍人は、自らの意思で行動したわけでないのにも関わらず、
その度々に責任を擦り付けられることになってしまうことが頻発するからだ。
権力を持つ者が、圧力をかけて強制的に従わせるのも限界がある。
命令されたこと遂行しただけで、死刑になるなら誰も貴族のために戦いたがらないし、従う気力も殺がれるからだ。

そして、この旅を邪魔するであろう貴族は、アルビオンの貴族側の連中しかいないはずだった。
この襲撃ついてはバレッタはそう結論付けた。
それに加え、この襲撃が、殲滅を目的としたわけではないとわかっていたが、わざと内容を歪めて説明した。
ワルドの眉がピクリと動く。バレッタは話を続けた。

「場所は町の中。人の多さも相まって、姿をひそめるにはもってこいだし、奇襲を仕掛けるにもゼッコーの場所。
 常に狙われてるの中、相手がいるかどうかもわからないのより、朧げでも相手の輪郭が見えてたほうが随分ましよねぇ?
 ねーーーー?ワルド様?まっさか、敵の情報が得られるかも知れないのに、尋問が無駄だなんて言わないよねーー?
 ルイズおねぇちゃんを危険に晒すマネなんてしないよねーーーー?
 すぐ済むからっ!ちょっと時間ちょーだい。五分で終わらせるからっ」

「あ、ああ、確かにそうだな。なら頼むとしよう……」

バレッタの様子を見ていたキュルケが唖然とした顔をして言った。

「……どーゆーこと?まるで味方みたいじゃない?さっきのといい、なんか頼もしく見えるのだけど……。
 ルイズ、何があったの?何でバレッタが……。……!!」
キュルケはギョッとした。
見ればルイズが大粒の涙を流している。

「なんで……利害関係が合っただけで、こんなに違うの?まるで使い魔みたいじゃない……。これがお金の力なの?
 ねぇ……お金って何?こんな風に人を動かせる要素になるの?」

「る、ルイズ!ほら、とにかくよかったじゃあないの!なんか立派に使い魔してるみたいだし、
 ほらほら、鼻水が出てるわよ……ホラ鼻かみなさいな、ハイ、チーン」

鼻をかませてもらっているルイズ。キュルケとの姿を見ているとなにか親子のようにすら見える。
ルイズとキュルケは、バレッタが来る前までは、互いに宿敵同士でいがみ合うことが多かったが、
キュルケは、ルイズの境遇があまりにも不憫で情が移ってしまっているようだった。

尋問をすることになったバレッタは、一同に対し忠告した。

「とりあえず、今から尋問するから見たくない人は馬のところに戻っててねっ♪」

「わ、私は見たくないわ、拷問なんて……あ、違う!尋問だったわっ……。と、とにかくトラウマになりそうだからよしとくわ」
「ルイズが、戻るなら僕も戻ろう」
「あたしもよしとくわ……行きましょうタバサ」
「で、ではぼくも戻るとしよう!バレッタ君、では頑張ってくれたまえ!……グエェっ!!」

そそくさと、早足でその場を離れようとしているギーシュの首根っこをバレッタが掴んで止めた。

「ギーシュおにぃちゃんは手伝ってっ?ねっ?手伝ってくれるよね?当然」

ギーシュは青ざめた顔している。だが、望まざるともギーシュには選択肢がなかった。
観念したように、肩を落としギーシュは言った。

「ああ……わかった、ゼヒ手伝わせてくれたまえ」

ルイズ達が、馬を止めている場所に戻ったのを確認すると、バレッタは待ちかねたように捕らえた男たちに向かい直った。

「殺したりなんて絶対しないから、安心して?ホントーよっ?嘘じゃないわよっ♪ちょっと聞きたいことがあるだけなの」

バレッタ達に対して口々に罵声を浴びせていた男たちは全員そろって目を丸くした。
頭目と思われる男がせせら笑い、馬鹿にするように叫んだ。

「嬢ちゃんよぉ!!俺たちをやっつけたからってイイ気になんなよ!
 何も話すことなんてないな!それに、尋問ってアレか?
 “わたし、一生懸命ご奉仕してあげるからお願い話してっ”ってやるつもりか!?
 残念だが、俺はロリコンじゃあないもんでな!そういうのは余所の変態相手にやってくれ!」

言い終わると、男たちは一同に下品な笑い声を上げた。
嫌悪感を露わにしたギーシュは苦々しく言う。

「こ、こいつら最低だ……。しかしどうするんだいバレッタ君、彼ら君にやられたのにもかかわらず、
 懲りてないのか、話をするつもりなんて毛頭なさそうだが……?」

不安げに、バレッタの後ろに立っているギーシュはおずおずと尋ねた。
バレッタは襲撃してきた男たちを全員生かしたまま倒した。
加えて、ひどい怪我を負った者はおらず、せいぜい頭に大きなコブができている程度である。
ギーシュはその事実を目の当たりにした時、バレッタにも手心というものがあるのでは、という気がしていた。

問いに答えず、バレッタは無言でギーシュに一本のナイフを渡した。
ギーシュの手にナイフの重さが染みわたる。決してオモチャではないと確信させる重さ。
ハルケギニアではありえないような、刃の細密なつくり。土系統のメイジであるギーシュにはそれがわかった。
ギーシュは先ほどのバレッタへの評価を考え直そうかと思っていた。嫌な予感しかしない。

「……こ、これをぼくに渡して、何をさせようと言うんだい」

バレッタは無表情で自分用にもう一本取り出したナイフを布で拭いていた。
そして、淡々とした口調、それでいて盗賊たち全員に聞こえるように大きな声で言った。

「まず、こいつらの半数。両足の腱を切って歩けないようにする、もちろんギーシュおにぃちゃんにもやってもらうから」

「えええええ!?っちょちょっと待ってくれなんでそんなことする必要が……!?まず話をしてからでは……」

「半分済ませた後に一度尋ねる。もしそれで情報を吐かないようだったら、もう半分も切る」

バレッタは自分が一度ボコボコにした男たちをまるでゴキブリを見るかのような冷たい目で睥睨する。

「それで、吐かないようだったら……」

一度含みを持たせてからバレッタは再び喋り始めた。

「血の匂いをまき散らしながら、地べたを這いずる餌になってもらうわよ。
 獣に襲われるかもしれないけど、知ったこっちゃーないわ」

言い終わると、男たちに向かって歩を進め始めた。一歩、また一歩と淀みのない歩調で。
ギーシュは慌ててバレッタと男たちの間に割って入った。

「ま、待ちたまえ!!かかか彼らだって生きてるんだっ!何もそんなヒドいことする必要は……!!!
 そうだ!やめよう!彼らだって素直に話してくれるかもしれない!!……ね?バレッタ君、早まる必要はない!
 というか、まずナイフをしまおう!それに……ちょ、ちょっと待ってくれ止まっておくれ!!!怖い!すごく怖い!」

敵であるはずの自分たちを庇おうとするギーシュの必死さを目にすると、先ほどまで騒いでいた男たちは皆閉口した。
たしかに、あの赤ずきんの少女に叩きのめされたが、心のどこかで認めたくない気持ちがあったのだろう、
その事実を度外視し、少女の姿をとらえていた。そしてそれが今、とんでもない思い違いであったことを感じ取った。
目の前に居るのは、見た目どおりの相手ではない、もっとおぞましい何かだと。
頭目と思われる男でさえ、目を伏せがちさせ、恐怖に身を震わせていた。

「恐がらなくていーよ♪」

にっこりと笑顔で頭目に向かってバレッタはそう言った。
だが、逆効果もいいところ。頭目はしどろもどろになりながら話し始めた。

「お、俺たちは、ただの物取りだ。それ以外の何者でもない。
 本当だ、こんなことで嘘をついたって意味がないんだからな……」

バレッタから笑顔が消えた。
眼を細め、頭目を見下ろしている。

「そうなのっ?そうね嘘はいけないもんねぇー。ま、テメーらが何者かは置いておくとして……これなーんだっ?」

一度後ろを向き、何かを手に持って頭目に振り返った。そして頭目に突き出すようにして、それを見せた
頭目は、バレッタの手に持ったものを見た瞬間から、みるみる内に顔の生気が失われていっていた。

「それは……!!その袋は!!」

バレッタは自分が手に持っている袋の口を開けると、中に手をいれ中身を一つかみ取り出した。
それはまさしく金貨であった。その袋いっぱいに金貨で満たされているようだった。
バレッタは冷めた表情で頭目の頭上に握っていた金貨を落とした。

「これ、テメーらの持ち物の中にあったの。なんでこんな大金持ってるのにも関わらず物取りなんてする必要あるの?ねぇ?
 誰かに襲えって頼まれたんだよねぇ?その報酬としてこの金がここにある。ちがうのー?
 あれれー?おっかしぃーなぁ、そうだとするとぉー、これってただの物取りって言うのかな?」

頭目は押し黙ったまま、固まっている。
バレッタが今手にしている袋に入った金貨は、今回の仕事が終わった後に、仲間内で分配するものであった。
急ぎの依頼であったために、持ってきて来てしまったのだった。

「……嘘ついたね?」

頭目の額には汗が滴り、体は震えている。それは、目の前の少女が並々ならぬ殺気を放っているからであった。
まるで、地獄の釜に突き落とされる寸前のような心地であった。
バレッタは、相手が怯えているのを見ると、満足したのか突然満面の笑みで言った。

「おじちゃんが嘘をついたってことはー。わたしも一つ嘘をついていいってことだよね?
 んー、なんて嘘つこうかなぁー?わたし嘘つくのニガテなんだよねっ……あっ!こんなのどうかなっ?」

突然、まるでゆっくりと徐々に全体重が乗せられていく手によって、首を絞められているような圧迫感に襲われる。
バレッタは、影が降りた顔に薄く笑みを浮かべながら、命を狩る死神を感じさせるような、暗く低い声で言った。

「『殺したりなんて絶対しないから。安心してっ?ホントーよっ』……ねぇ?」

ナイフを手にしたバレッタは言い終わると男たちに向って一歩踏み出し、距離をさらに縮める。

「こ、こいつホントにやるつもりだぁーーーーーーー!!うああああぁ悪魔だ!!悪魔!!」
「こんなこと聞いてねえぇーーーーーー!!」
「し、死にたくねぇーーーーー!!」

まるで、水面に広がる波紋のように恐怖は伝染した。
男たちは、叫び声を上げ縄で縛られたまま、身をよじらせ我先にと逃げだそうとしている。
その場は混乱の渦へと陥っていた。

「どうよ?話す気になったかしら?」

その様子に満足したのか、
バレッタは、以前ルイズと城下町に訪れた際に、買いためておいた細巻きを懐から取り出し、口にくわえた。
口で細巻の先を、ちろちろと揺らし、無言でギーシュに火をつけるように命じた。
ギーシュは従者のように、ごく自然にバレッタの細巻に火をつけて見せた。
なんだが様になっている分、ギーシュはみじめな気分になっている。

頭目は何か隠していることは確実であったが、迷っているのか黙っていた。
火のついた細巻を一度大きく吸ってから煙を宙にふいた後、バレッタは呆れたように、そして何故か大きな声で言った。

「職業倫理ってやつかしら?よくもまー律儀っつーか……まぁ、わたしも金で動く人間だけどさぁ。
 この場合、もうちょっとよく考えてみるべきじゃないの?」

バレッタは続けて語る様に言った。

「本当のことを言えば依頼主に殺されるって心配してるっつぅーだろーけど、無ー駄。
 もし、わたしだったら失敗してる時点で殺っちゃうもの。
 あんたらができることは、敵であるわたしに情報を与えて、依頼主があんたらに構う暇をなくすことだけ?違う?」

言い分に納得したのか、それとも抵抗すれば先はないと判断したのか、
ともかく、絶望に顔を歪ませた頭目は観念して話し始めた。

「……わかった。話す。その代り命は助けてくれ」

「それは、情報次第。さっさと言いなさいよ」

「……俺達は傭兵だ。あんた達を襲う様に依頼してきたのは、
 背中に長剣を背負った緑髪の女メイジと、長身の白い仮面を被ったメイジの男だ……」

その話を聞いた瞬間、バレッタの目の端がピクリと動いた。
バレッタは続きを言う様に頭目に促した。

「見たまま言うなんて、死人以外できるわよ、おっ死にたいわけぇ?」

「ま、ま待ってくれ!!そそうだ、お、女の方はナイフを土くれに変える魔法を使っていた!
 男の方は何もわからねえが、奴らはおそらく……いや、間違いなくアルビオンの貴族側の人間だ!
 アルビオンの王党派ついて、「甘っちょろい王さま」なんて言ってたしな、間違いない!なあ!これで充分だろ!
 依頼主のことをバラしちまった俺たちは、逃げなきゃならないんだ!!逃げないと殺されちまう!!お願いだ!」

話を聞いたバレッタは無言で、頭目の縄を切った。
頭目は、慌てて仲間を解放すると、仲間を引き連れてバレッタから逃げるように闇の中へ消えていった。
ギーシュが意外そうな顔してバレッタを見つめていた。

「いーんだよ。わざわざアイツ等に殺しにいくような手間をかける馬鹿だったらそれはそれで都合がいいし」

「それはよかった。まあ、あれでは再び襲ってくるようなことも心配する必要はないな」

先ほどの頭目の話を聞いてから、重苦しい空気が充満していた。バレッタは何か思うところがあったらしい。
まだ短くなっていない細巻を地面に吐き捨て、靴のかかとで潰した。
バレッタは追い払うかのように手をギーシュの方へ向けてヒラヒラさせて言った。

「じゃ。今得た情報をルイズおねぇちゃんに伝えてきてっ」

「……?それは自分の口から言ったほうがいいんじゃな……」

バレッタはギロリとギーシュを睨んだ。

「あ、ああわかった。ぼくが伝えてくる」

ギーシュは身をひるがえし、ルイズ達が待機している場所へ逃げるように向かった。

ギーシュは、バレッタが何故自分に報告させるのか、わかったつもりだった。
バレッタは、自分が信用されてないことを知っている。だからこそであった。
身から出た錆びとはいえ、何だか少し悲しくなったギーシュであった。
だが、当の本人は毛ほども気にしていない。

崖の上に立つバレッタの位置から、ラ・ロシェールの町並みが見えた。
峡谷に挟まれるようにして町が見える。街道沿いには岩を穿って作られた建物が並んでいた。
月の光と、町からこぼれ出る生活の明かりが、ぼんやりと夜を照らす。
今から向かう先を、真剣な表情で見下ろすバレッタが小声で呟くように言った。

「ま、大かたこっちわたしがいることを知らなかったんでしょーけど?
 それで許すほどわたしはやさしくねーのよ、フーケのおねぇちゃん。お仕置きを楽しみにしててねっ♪」

月夜の晩に、赤い狂気が灯火のように揺らめき煌めく。


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