爆発と共に現れたのは不気味なゴーレムだった。
一応、人の形をしている。だが、その輪郭はカクカクしていて、あまり美しいとは言えない。丸い眼と四角い鼻のみの顔は、そこはかとなく不気味な無表情で、胴体は骨組みだけの箱の中に妙なガラクタが入っているだけだ。手は平たく、指は無い。
これだけでもかなり異常だが、特筆すべきはその下半身。股間に猛々しく聳え立つ漢の誇りたる器官にも似た、筒。
「ゼロのルイズが……何かを召喚したぞ!」
生徒の一人が冷やかそうとするが、それの正体が判らない今、尻すぼみになる。
「あれ……ゴーレム?」
「まぁ、いやらしい」
「ま、負けた……」
皆、口々に『それ』に対する感想を述べる。が、誰一人『それ』の事を知っている者はいない。
「ミス・ヴァリエール、コントラクト・サーヴァントを」
引率の教師コルベールが、呆然としているルイズに告げる。ルイズは我を取り戻し、大人しくそれに従う。召喚のやり直しを要求して、たとえそれが認められたとしても、次にできる保証は無いのだ。使い魔が妙ちくりんで股間に卑猥なものがあってスカスカで不味な顔をしていても、我慢するしかない。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司
るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
呪文を唱え、本来なら口のあるであろう場所に接吻する。
「……あれ?」
なにも起こらない。本来ならルーンが刻まれる光がどこかに現れるのに。
「もしかして、失敗?」
と、ルイズが不安に思った途端。
「……ニ」
小さな声。口の無い使い魔が立てた、声。
「ニ?」
「ニーハオ」
ゴーレムの眼が光る!
その骨組みだけの骨々しい細い躯からは想像できない程の機敏な動作で、ガシャガシャシャカシャカと動いたのだ。
「うわあああああああ」
「犯される!」
「逃げろ!」
ただでさえ不気味なのだ、ましてやこの動き、見ていた生徒達を恐慌に陥れるのには充分だった。
一斉に逃げる彼らに、それの主たるルイズは逃げなかった。なんてことはない、腰が抜けたのだ。
「ニーハオ!ニーハオ!」
ゴーレムの左手の残像が発光しているが、それに気付く余裕はルイズには無い。どうにかして逃げようと、匍匐前進を試みる。思ったより速く動けるのはなかなか新しい発見だったが、今はどうでもよかった。今はただ、背後のクリーチャーから逃げたい、その意志が腕を動かしていた。
後ろを振り向きながら、ゴーレムが追って来ないのを見て少しだけ安堵する。このまま……
と、何かにぶつかる。ふと見れば、それはコルベールの脚だった。
「す、すみませんコルベール先生」
謝る余裕ができたのは僥倖だった。
「ミス・ヴァリエール。使い魔から逃げるとは何事です」
いや、逃げないなんて無理だろ、というツッコミを心に秘め、ゆっくり冷えていく頭を回転させる。
「怖かったんです。得体の知れない骸骨みたいなのがいきなりシャカシャカと動くから……」
ゴーレムの方を見る。もうあの動きは止まっていた。
「掴まりなさい。いつまでも這いつくばっているわけにもいかないでしょう」
差し出された手を掴み、やっと立ち上がる。
そしてすぐ、コルベールはゴーレムに向かう。
「左手を見せてもらえますかな」
「ニーハオ」
妙な言葉と共に、大人しくそれに従う。どうやら言葉は通じるようだ。
「これは珍しいルーンだ。メモしておこう」
コルベールのメモが終わる頃に、生徒達はバラバラと戻ってきた。先程のコルベールの様子を見て、ゴーレムを無害と判断したのだろう。
「さあ、学院に戻りますぞ」
コルベールが告げると、皆、宙に浮く。フライの魔法だ。
「ルーイズ!お前はそのキモいゴーレムと歩いてくんだな!」
一人がからかう。
「ぐぬぬ……」
反論しようにも、既に聞こえまい。
悔しさと怒りに震えるルイズの肩に、何か硬い感触のものがポンポンと当てられる。
「何よ!……っきゃあああ!」
例のゴーレムが、そのヘラの様な手でルイズの肩を叩いたのだ。振り向けば不気味な無表情。そりゃあ驚く。
「すぅ~はぁ~……いきなり人の背後に現れないでよ!」
「ニーハオ」
コルベールの一件で、害は無いと判断してから、ルイズの態度は大きい。
「何?って、何するのよ!」
ゴーレムはルイズの膝の裏と背中に手を回し、抱え上げる。いわゆる、お姫様抱っこだ。その細い腕からは考えられない意外な力と安定感に驚くが、それだけだ。
「下ろしなさい!」
「ニーハオ」
ルイズの命令を聞く素振りは見せず、ゴーレムはそのまま歩き出す。
歩みはだんだん速くなり、最後に地面を強く蹴る。
「え!?」
ゴーレムは背中から翼の様な光を発し、ぐんぐん上昇していく。
「凄い……」
高く、速く。こっちが鳥なら、フライで飛んでいる同級生なんて亀だ。
「あなた、凄いじゃない!」
現金なもので、彼女にはあれほど不気味に思っていたゴーレムが天使に見えた。
唖然とする同級生達を追い抜き、あっという間に学院に着いた。
それが、どういうものか、知る由もないルイズは、彼を褒め称えていた。
一応、人の形をしている。だが、その輪郭はカクカクしていて、あまり美しいとは言えない。丸い眼と四角い鼻のみの顔は、そこはかとなく不気味な無表情で、胴体は骨組みだけの箱の中に妙なガラクタが入っているだけだ。手は平たく、指は無い。
これだけでもかなり異常だが、特筆すべきはその下半身。股間に猛々しく聳え立つ漢の誇りたる器官にも似た、筒。
「ゼロのルイズが……何かを召喚したぞ!」
生徒の一人が冷やかそうとするが、それの正体が判らない今、尻すぼみになる。
「あれ……ゴーレム?」
「まぁ、いやらしい」
「ま、負けた……」
皆、口々に『それ』に対する感想を述べる。が、誰一人『それ』の事を知っている者はいない。
「ミス・ヴァリエール、コントラクト・サーヴァントを」
引率の教師コルベールが、呆然としているルイズに告げる。ルイズは我を取り戻し、大人しくそれに従う。召喚のやり直しを要求して、たとえそれが認められたとしても、次にできる保証は無いのだ。使い魔が妙ちくりんで股間に卑猥なものがあってスカスカで不味な顔をしていても、我慢するしかない。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司
るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
呪文を唱え、本来なら口のあるであろう場所に接吻する。
「……あれ?」
なにも起こらない。本来ならルーンが刻まれる光がどこかに現れるのに。
「もしかして、失敗?」
と、ルイズが不安に思った途端。
「……ニ」
小さな声。口の無い使い魔が立てた、声。
「ニ?」
「ニーハオ」
ゴーレムの眼が光る!
その骨組みだけの骨々しい細い躯からは想像できない程の機敏な動作で、ガシャガシャシャカシャカと動いたのだ。
「うわあああああああ」
「犯される!」
「逃げろ!」
ただでさえ不気味なのだ、ましてやこの動き、見ていた生徒達を恐慌に陥れるのには充分だった。
一斉に逃げる彼らに、それの主たるルイズは逃げなかった。なんてことはない、腰が抜けたのだ。
「ニーハオ!ニーハオ!」
ゴーレムの左手の残像が発光しているが、それに気付く余裕はルイズには無い。どうにかして逃げようと、匍匐前進を試みる。思ったより速く動けるのはなかなか新しい発見だったが、今はどうでもよかった。今はただ、背後のクリーチャーから逃げたい、その意志が腕を動かしていた。
後ろを振り向きながら、ゴーレムが追って来ないのを見て少しだけ安堵する。このまま……
と、何かにぶつかる。ふと見れば、それはコルベールの脚だった。
「す、すみませんコルベール先生」
謝る余裕ができたのは僥倖だった。
「ミス・ヴァリエール。使い魔から逃げるとは何事です」
いや、逃げないなんて無理だろ、というツッコミを心に秘め、ゆっくり冷えていく頭を回転させる。
「怖かったんです。得体の知れない骸骨みたいなのがいきなりシャカシャカと動くから……」
ゴーレムの方を見る。もうあの動きは止まっていた。
「掴まりなさい。いつまでも這いつくばっているわけにもいかないでしょう」
差し出された手を掴み、やっと立ち上がる。
そしてすぐ、コルベールはゴーレムに向かう。
「左手を見せてもらえますかな」
「ニーハオ」
妙な言葉と共に、大人しくそれに従う。どうやら言葉は通じるようだ。
「これは珍しいルーンだ。メモしておこう」
コルベールのメモが終わる頃に、生徒達はバラバラと戻ってきた。先程のコルベールの様子を見て、ゴーレムを無害と判断したのだろう。
「さあ、学院に戻りますぞ」
コルベールが告げると、皆、宙に浮く。フライの魔法だ。
「ルーイズ!お前はそのキモいゴーレムと歩いてくんだな!」
一人がからかう。
「ぐぬぬ……」
反論しようにも、既に聞こえまい。
悔しさと怒りに震えるルイズの肩に、何か硬い感触のものがポンポンと当てられる。
「何よ!……っきゃあああ!」
例のゴーレムが、そのヘラの様な手でルイズの肩を叩いたのだ。振り向けば不気味な無表情。そりゃあ驚く。
「すぅ~はぁ~……いきなり人の背後に現れないでよ!」
「ニーハオ」
コルベールの一件で、害は無いと判断してから、ルイズの態度は大きい。
「何?って、何するのよ!」
ゴーレムはルイズの膝の裏と背中に手を回し、抱え上げる。いわゆる、お姫様抱っこだ。その細い腕からは考えられない意外な力と安定感に驚くが、それだけだ。
「下ろしなさい!」
「ニーハオ」
ルイズの命令を聞く素振りは見せず、ゴーレムはそのまま歩き出す。
歩みはだんだん速くなり、最後に地面を強く蹴る。
「え!?」
ゴーレムは背中から翼の様な光を発し、ぐんぐん上昇していく。
「凄い……」
高く、速く。こっちが鳥なら、フライで飛んでいる同級生なんて亀だ。
「あなた、凄いじゃない!」
現金なもので、彼女にはあれほど不気味に思っていたゴーレムが天使に見えた。
唖然とする同級生達を追い抜き、あっという間に学院に着いた。
それが、どういうものか、知る由もないルイズは、彼を褒め称えていた。