2 契約
「いつまで寝てるのよ、起きなさい!」
「うぅ、オヤジめ……」
「うぅ、オヤジめ……」
ニケはさきほどの悪夢を思い出しながら、目を開けた。
生い茂る木々の枝葉ではなく、雲一つない晴れた空が見える。
さっきまでいた森の中ではないようだ。ギップルが言ってた通り、どこかに飛ばされてしまったのだろうか? もう、笛の音は聞こえない。
生い茂る木々の枝葉ではなく、雲一つない晴れた空が見える。
さっきまでいた森の中ではないようだ。ギップルが言ってた通り、どこかに飛ばされてしまったのだろうか? もう、笛の音は聞こえない。
体を起こし、横を見た。ククリはまだ倒れているが、ケガはなさそうだ。
自分たちの周りでは、マントを着た人々がざわめいていた。こちらを指差して、何やら笑っている奴もいる。
自分たちの周りでは、マントを着た人々がざわめいていた。こちらを指差して、何やら笑っている奴もいる。
そのとき、強い光が視界の隅に入った。反射的に背筋が凍りつく。
見覚えのありすぎる輝きだ。
見覚えのありすぎる輝きだ。
(この鋭い光はハゲ頭! オヤジも来てるのか!?)
しかし、そこに立ってたのは、ちゃんと服を着た地味なオッサンだった。
ほっとしたのもつかの間、すぐ近くにいた桃髪の女が話しかけてきた。
ほっとしたのもつかの間、すぐ近くにいた桃髪の女が話しかけてきた。
「あんた誰?」
「オレはニケ。……誰だお前は?」
「オレはニケ。……誰だお前は?」
上から自分を睨む顔は、かなりの美人だ。しかし残念なことに、その体形は残念なものだった。
冒険をはじめたころのククリも起伏の無さでは五十歩百歩だったが、最近はいい感じに成長しつつある。
とは言っても、そもそもククリは全体的に太めかもしれない。まあ、それはそれで。
冒険をはじめたころのククリも起伏の無さでは五十歩百歩だったが、最近はいい感じに成長しつつある。
とは言っても、そもそもククリは全体的に太めかもしれない。まあ、それはそれで。
「お前とは無礼ね、平民のくせに。わたしはルイズ・ド・ラ・ヴァリエール、あんたのご主人様よ」
「ご主人様? 何を言ってるんだこいつ?」
「一応聞いておくけど、あんたは貴族じゃないわよね?」
「ご主人様? 何を言ってるんだこいつ?」
「一応聞いておくけど、あんたは貴族じゃないわよね?」
(貴族って、なべやき姫みたいなのだよな?
オレは――)
オレは――)
父親であるパドにより、カンペキにタダのフツーの人間だと保証されている。
何か出生の秘密がないかと期待したこともあったが、実際には何もない。
何か出生の秘密がないかと期待したこともあったが、実際には何もない。
「貴族なんかじゃないよ。」
立ち上がり、服に付いた土とススを払いながら答えた。
土はともかく、なぜこんなにススが付いているんだ?
土はともかく、なぜこんなにススが付いているんだ?
「なら問題ないわね。感謝しなさい、平民が貴族にこんな事されるなんて普通は無いんだから。
我が名はルイズ(略)、使い魔となせ」
我が名はルイズ(略)、使い魔となせ」
目の前にいる女、ルイズの顔が近付いて来る。
(かわいいなあ、ちょっと目がキツイけど……あ、目つぶった。
って、え? なんでこんなに近くに――)
って、え? なんでこんなに近くに――)
ちゅっ
ルイズはニケにキスをした!
ニケはこんらんしている。
ニケはこんらんしている。
(くちびるやわらか……いや、なんでオレ、キスされてるんだ? てか、ここどこなんだ? オレのファーストキスがっ!
こんな所をククリに見られたらまずい! でもなんだかいいにおい! トッピロキー!)
こんな所をククリに見られたらまずい! でもなんだかいいにおい! トッピロキー!)
横目でククリを見た。まだ起きてはいない。
もしこの状態を見られたら、何をされるか分からない。
もしこの状態を見られたら、何をされるか分からない。
「ぷはっ!」
後ろに下がり、ルイズから離れた。まだ唇に、柔らかな感触が残っている。
「い、いきなりなにすんだ! お前は……いってえええぇぇ!!」
悲鳴が草原に響く。
それを聞いたククリが、目を覚ました。
それを聞いたククリが、目を覚ました。
~~~
「うーん……。あ、あれ? ここは、どこ?」
「トリステインの魔法学院よ。
あなたは、サモンサーヴァントでわたしに召喚されたの。この平民と一緒に」
「サモンサーヴァント? なにそれ?」
「サモンサーヴァントを知らないって……あなた、それでも貴族なの?」
「ううん、貴族じゃないよ」
「えっ!? じゃあ、その杖は何なのよ?」
「魔法を使うのに必要なの」
(貴族の名を失ったのかしら? 儀式を知らないなんて、よっぽどひどい田舎の貧乏貴族だったのね)
「トリステインの魔法学院よ。
あなたは、サモンサーヴァントでわたしに召喚されたの。この平民と一緒に」
「サモンサーヴァント? なにそれ?」
「サモンサーヴァントを知らないって……あなた、それでも貴族なの?」
「ううん、貴族じゃないよ」
「えっ!? じゃあ、その杖は何なのよ?」
「魔法を使うのに必要なの」
(貴族の名を失ったのかしら? 儀式を知らないなんて、よっぽどひどい田舎の貧乏貴族だったのね)
再び気を失って倒れたニケに、コルベールが近づく。
「ふむ、珍しいルーンだな。ともかく、コントラクト・サーヴァントも成功したようだね」
コルベールは手帳を取り出し、ニケの左手に現れたルーンをスケッチした。
「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」
「とりあえず、戻りながら話しましょう。あんた、名前は?」
「あたしはククリ。」
「わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。魔法学院の2年生よ」
「えっと、もう一回言ってくれない?」
「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」
「もう一回!」
「……ルイズでいいわ」
「早く来いよ、ゼロのルイズ! 飛んで行かないと、次の授業が始まっちまうぞ!」
「とりあえず、戻りながら話しましょう。あんた、名前は?」
「あたしはククリ。」
「わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。魔法学院の2年生よ」
「えっと、もう一回言ってくれない?」
「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール!」
「もう一回!」
「……ルイズでいいわ」
「早く来いよ、ゼロのルイズ! 飛んで行かないと、次の授業が始まっちまうぞ!」
ルイズ以外の生徒たちは、すでにルイズ達から離れて青空の中を飛んでいた。
(あれって『かっこいいやつら』? じゃあこの人たち、光の魔法使いなのかな?)
「さあ、(歩いて)行くわよ。こいつも連れて」
「うん。じゃあ、あたしも飛ぶ準備するね!」
「うん。じゃあ、あたしも飛ぶ準備するね!」
ククリはそう言うと、杖を拾って魔法陣を描きはじめた。
(きれいな踊り……。でも、飛ぶ? 踊りで?)
自分の周りをクルクルと楽しそうに踊るククリに気を取られ、ルイズは足元の魔法陣に気付かない。
そして、十数秒後。ニケを中心に、ルイズとククリを囲む魔法陣が完成した。
そして、十数秒後。ニケを中心に、ルイズとククリを囲む魔法陣が完成した。
「できたっ、ヨンヨン召喚!」
ククリが杖で足元を付くと、地響きとともに地面が盛り上がり、さらに浮き上がる。
ルイズは腰を抜かして座りこんでしまった。
ルイズは腰を抜かして座りこんでしまった。
「な、なに!? 誰かの使い魔が下にいるの!?」
「ううん、あたしの魔法」
「レビテーションで地面を持ち上げたってこと? でもそんな呪文、あんた詠唱したかしら……?」
「呪文はいらないの。グルグルは、魔法陣を描いて使うのよ」
「グルグル? なにそれ?」
「ううん、あたしの魔法」
「レビテーションで地面を持ち上げたってこと? でもそんな呪文、あんた詠唱したかしら……?」
「呪文はいらないの。グルグルは、魔法陣を描いて使うのよ」
「グルグル? なにそれ?」
足元の物体は、単に地面が持ち上がっただけの物ではなかった。中心が半球状にふくらみ、丸や三角の模様が付いている。
高度が上がっていくと、生徒達が学院に向かって飛行する様子がよく見えた。
高度が上がっていくと、生徒達が学院に向かって飛行する様子がよく見えた。
「ヨンヨンヨンヨン」
「鳴いた……」
「もうあんな遠くまで行っちゃった。あの人たちを追いかければいいんだよね?」
「そ、そうよ。あれがトリステイン魔法学院よ」
「じゃあヨンヨン、あそこまで飛んで!」
「ヨンヨンヨン」
「鳴いた……」
「もうあんな遠くまで行っちゃった。あの人たちを追いかければいいんだよね?」
「そ、そうよ。あれがトリステイン魔法学院よ」
「じゃあヨンヨン、あそこまで飛んで!」
「ヨンヨンヨン」
返事とともに、ヨンヨンは学院に向かって動き出した。
フライよりは遅いので他の生徒達に追いつくことはできないが、それでも歩くよりは速い。
フライよりは遅いので他の生徒達に追いつくことはできないが、それでも歩くよりは速い。
(うわっ、高い、風が強い、フワフワしてる……)
「あれ、ルイズさんは飛ばないの?」
「きょ、今日は召喚で疲れてるからよ! 飛べないわけじゃないんだからね!」
「そっかあ。じゃあ、ちょっと遅いけどいっしょに行こうね。斜めになってるから、しっかりつかまっててね」
「あれ、ルイズさんは飛ばないの?」
「きょ、今日は召喚で疲れてるからよ! 飛べないわけじゃないんだからね!」
「そっかあ。じゃあ、ちょっと遅いけどいっしょに行こうね。斜めになってるから、しっかりつかまっててね」
言われた通りに、ルイズはうつぶせになって草にしがみ付く。フネに乗ったことは何度かあるが、小さなヨンヨンは全く違う感覚だった。
ゆったりとくつろげる船室どころか、イスも壁も、まともな床すらない。
ゆったりとくつろげる船室どころか、イスも壁も、まともな床すらない。
「これって何なのよ? ゴーレム? 生き物? マジックアイテム?」
「ヨンヨンよ」
「ヨンヨン?」
「そう、ヨンヨン」
「羽根もないのに、どうやって飛んでるの?」
「ヨンヨンだから飛ぶの。
……えっとね、あたしもそれ以上は、よく分からないの」
「ヨンヨンよ」
「ヨンヨン?」
「そう、ヨンヨン」
「羽根もないのに、どうやって飛んでるの?」
「ヨンヨンだから飛ぶの。
……えっとね、あたしもそれ以上は、よく分からないの」
ヨンヨンの正体を把握しようとして、体を起こす。不意に、はるか下の地面が見えてしまい、ルイズは少し震えた。
(一体なんなのよ、これ……。先住魔法かしら?)
「ねえ、あの飛んでる人たちもルイズさんも、みんな魔法使いなんだよね?」
「も、もちろんよ。魔法学院の生徒なんだから」
「ルイズさんは、どんな魔法が使えるの? あとで見せてよ」
「いや、でも……」
「え~、いいじゃない。そんなに恥ずかしい魔法なの?」
「違うの、わたしの魔法は、その……
そ、そうだ。あんたたちを召喚した魔法。あれがわたしの魔法、サモン・サーヴァントよ」
「へえー。でも、なんであたしたちを?」
「そんなの、わたしが聞きたいわよ。人間が召喚されたことなんて、今まで無かったんだから。」
「も、もちろんよ。魔法学院の生徒なんだから」
「ルイズさんは、どんな魔法が使えるの? あとで見せてよ」
「いや、でも……」
「え~、いいじゃない。そんなに恥ずかしい魔法なの?」
「違うの、わたしの魔法は、その……
そ、そうだ。あんたたちを召喚した魔法。あれがわたしの魔法、サモン・サーヴァントよ」
「へえー。でも、なんであたしたちを?」
「そんなの、わたしが聞きたいわよ。人間が召喚されたことなんて、今まで無かったんだから。」
ルイズは、溜息をついた。
(どうせ契約するなら、こっちの子の方がマシだったかしら?
貴族じゃないけど、一応魔法は使えるんだから、単なる平民よりよっぽど良いわ。
ああ、失敗したなー。ファーストキスにしても、女同士だったらノーカウントにできそうね)
貴族じゃないけど、一応魔法は使えるんだから、単なる平民よりよっぽど良いわ。
ああ、失敗したなー。ファーストキスにしても、女同士だったらノーカウントにできそうね)
しばらく飛行し、学院の上空まで来た。
他の生徒達は、既に教室まで戻っていた。
厨房の煙突からあがる煙や、メイドが洗濯物を干す様子が見える。
他の生徒達は、既に教室まで戻っていた。
厨房の煙突からあがる煙や、メイドが洗濯物を干す様子が見える。
(学院の屋根ってこんな形だったんだ、知らなかった……)
「どこに降りようかしら?」
「せっかくだから、窓から部屋に入ってみたいわね。あっちの塔まで飛びなさい」
「せっかくだから、窓から部屋に入ってみたいわね。あっちの塔まで飛びなさい」
ルイズの誘導で自室の窓にたどりつき、そのまま中に入った。
床に着地したあと、二人はヨンヨンから降りる。やがてヨンヨンは床にめりこむようにして消滅し、床に転がるニケが残った。
床に着地したあと、二人はヨンヨンから降りる。やがてヨンヨンは床にめりこむようにして消滅し、床に転がるニケが残った。