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マジシャン ザ ルイズ 3章 (45)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (45)口論

アンリエッタはタバサの手からイザベラの手紙を受け取ると、それにさっと目を通し、しばしの間逡巡した。
だがそれも時間にして一瞬のこと。そこからの決断は早かった。
アンリエッタは呼び鈴を鳴らして、すぐさまトリステインから連れてきた側仕えの侍女を呼び出し、彼女にもう一人、別の侍女を連れてくるように言いつけると、ルイズへと向き直った。

そして、彼女はこう口にした。

「ルイズ、服を脱ぎなさい」



その暫く後。
アンリエッタとルイズの二人は、杖の先に魔法の明かりを灯したタバサを先頭にして、プチトロワからグラントロワまで繋がる、秘密の通路の中を歩いていた。
「……段差、気をつけて」
「はい、お気遣いありがとうございます」
タバサは変わらなかったが、アンリエッタとルイズの二人は、先ほどまでと袖を通している服が違う。
アンリエッタは闇をくり抜くような、輝かんばかりの純白のドレス姿である。
そして一方――

「すみませんね、ルイズあなたにそのような格好をさせてしまって……」
そう言って何度も繰り返し頭を下げるアンリエッタに、
「い、いえ! 陛下、そのようなこと、お気になさらず。どうか、どうかお気になさらず! 私、メイドですからっ! メイドが相応しい女ですからっ!」
などと言って手をバタつかせて恐縮するルイズの出で立ちは、メイドであった。

何故二人がそのような装いに身を包んでいるかと聞かれれば、それはやはり、先刻のやりとりの続きを書かねばならないだろう。


アンリエッタがルイズに服を脱ぐように言ったのは、別にルイズのフラットな裸が見たかったからではない。
その服を、別の者に着せなくてはならなかったからである。

ルイズが服を脱ぎ終わった頃に、先ほどアンリエッタが呼びつけた侍女が、部屋へと戻ってきた。(アンリエッタがどれほど手早くルイズの服を脱がせたかについては、この際割愛させてもらいたい)
一人ではない。そのとき彼女はもう一人、別の侍女を連れてアンリエッタの部屋に戻ってきた。
そして連れてこられたもう一人の少女は、そばかすをとあどけなさを残した、可愛らしいという表現の似合う素朴な娘であった。
身長は女性平均のそれより低く、やせ形で、そして体の緩急が極端に少ない。発育がよいとは言い難い娘であった。
つまり、彼女はルイズそっくりの体型をした娘だった。

ルイズを脱がせる傍らで自分も服を脱いでいたアンリエッタは、そのぬくもりと香りがまだ残るドレスを、最初にやってきた方の侍女へと手渡した。
「よろしくお願いしますね」
それを聞いて、どうやら彼女達に自分達が着ていた服を着せ、替え玉に仕立て上げようという思惑なのだと、ようやくルイズも気がついた。


しかし、突発的な計画というのは、往々にして思った通りには進まぬもの。
代わりの服を着るという段になって、アンリエッタの前に新たな問題が持ち上がった。
「まあどうしましょう! ルイズ、あなたに合う服がないわ!」
そうなのである。クローゼットの中には数着の衣服が用意されていたが、その中でルイズが着られそうなサイズの服は、アンリエッタの見立てでは一着もなかったのである。
当然、少し離れたところにあるルイズに割り振られた部屋まで戻れば、そこには自前の服がある。
「陛下……その、私の部屋まで戻れば、替えの服も……」
下着姿のまま、手で恥ずかしそう体を隠して、そのことを伝えようとしたルイズを、アンリエッタが口早に遮った。
「いいえ、いけません。そんな不用意な真似はさせられません。もしもそのことを見とがめられては、厄介なことになります」
そう言われてはルイズにも言い返す言葉がない。
「うぅん……何かよい方法は……」
小さく呟いて妙案はないかと、アンリエッタが思いを巡らす。
考えながら、彼女は視線を、タバサ、ルイズ、それから二人の侍女へと移動させる。
そしてふと、後から連れてこられた侍女のメイド服に目が止まった。
この部屋にある服は、全てアンリエッタの服である。
ならばルイズが着る服はそれ以外から調達しなくてならない。
先ほど部屋の中にルイズが着られる服は一着もないと思ったアンリエッタだが、そこで彼女ははたと気づいた。
服ならここに、丁度二着あるではないか。

「ルイズ……不躾な質問ですが……あなたはメイド、お嫌いですか?」

結果として、ルイズと小柄なメイドは、その着ているものを交換することとなった。
アンリエッタはルイズにメイドが着ていたエプロンドレスを着るように言うと、同様に二人のメイドにも自分たちが着ていたドレスを着るように言った。
そして自身もクローゼットの中から着替えやすい一着を選ぶと、彼女もそれに素早く着替えた。
そうやって四人の服装が入れ替わると、次はタバサの出番だった。
タバサは目を閉じて集中してルーンを唱えると、メイド達に向かって杖を振った。
すると室内だというのに風が巻き起こって、それが侍女達にまとわりつき、実に不思議なことが起こった。
風が止んだとき、メイド達の顔は、それぞれアンリエッタとルイズのものへと変わっていたのだ。
――フェイス・チェンジ。
風系統のスクウェア・スペルである。

「う、わ……。まるで鏡を見ているみたい……本当にそっくりだわ」
ルイズが先ほどまでの自分と全く同じ格好をしている娘をじろじろと見ながら、そんな感想を述べた。
アンリエッタもその結果に満足したようで、安心のため息を一つ漏らした。
「ふう……、どうやら無事、上手くいったようですね」
「………」
そのアンリエッタの言葉に、タバサが無言のまま、首を縦に振った。
別段同意を求めた呼びかけでもなかったのだが、その仕草にアンリエッタは満足そうに頷くと、早速次の行動に移ることにした。
「ささ、ゆっくりもしていられません。早速向かいませんと」
『向かう』、その言葉に自分そっくりに化けた娘を見ていたルイズが反応を示した。
「あの……? 陛下? このような身代わりまで用意して、一体どちららに向かわれるのですか……?」
ルイズの言葉に、アンリエッタは小首を傾げて『あらっ?』という反応をし、それから顔を上に上げて、人差し指を唇にあてて、少しの時間悩んだ。
そして、その顔をルイズの耳元へと近づけ、ゆっくりと、それこそ言葉を選ぶようにして声を潜めて言った。
「我々はこれから、この宮殿の主、ガリア王の前へと赴くのです」
「……っ! 陛下っ! それは、むぐっ!」
「しっ、声が大きいですよ、ルイズ・フランソワーズ」
アンリエッタは慌てて手でルイズの口元を押さえると、振り返って、背後にいる、自分たちと同じ格好をした二人を見た。
彼女達はこちらの会話は聞こえていなかったのか、別段驚いたふうもない。

ルイズが驚いたことからも分かるように、そしてアンリエッタが侍女達に悟られないように配慮したことからも分かるように、これは尋常なことではない。
「良いですか? 我々はこれから、ガリア王の招きに応じる為に、シャルロット殿が通られてきた隠し通路から、極秘の会談のために用意された部屋へと移動しなくてはなりません」
「……ぷはっ! し、しかし陛下っ、ガリアの女王は……その、噂に聞くあの王の、娘で……」
言いづらそうに言葉を濁したルイズが、後ろで表情を変えずに立っているタバサを見た。
ルイズは以前に、彼女の執事であるペルスランから、タバサの境遇について説明を受けている。
その話の中で、タバサの父親の命を奪ったのも、タバサの母親に毒を盛ったのも、今の女王の父親、無能王と呼ばれた先王ジョゼフだと聞かされていた。
そんな彼女がどのような経緯でこのガリアの、それも宮殿にいるのか、女王の妹とは何のことなのか、そういった一切合切が分からなかったが、それでも、彼女の前で敵である先王の名を口にするのは憚られた。
だが、それ以上にルイズがアンリエッタを引き留めようとするのは、会議の最中、晩餐会の最中に見せたイザベラの奇行に原因がある。
会議の最中にいびきをかいて寝る、晩餐会では前菜の前からワインを浴びるように飲む、そして何より、あの猛禽類もかくやという鋭い目つき。
ルイズには彼女が、アンリエッタと同じ一国の女王とは到底思えなかった。
そして、そんな彼女とアンリエッタが話をするということが、何となく嫌だったのだ。
「そんなに心配をしなくても平気ですわ。仮にも一国の元首、一度ことに当たれば民を導く指導者としての顔を見せてくださるでしょう」
「でも、陛下……」
「大丈夫ですよ。わたくし、これでも人を見る目には自信がありますの。それにわたくしには分かります。彼女の普段の素行や言動は、人を欺く仮の姿。油断ならぬ相手ではありますが、彼女は理性的な話し合いのできる相手です。
 なにより、今の段階になってわたくしに害をなすことで、彼女が何かを得るということはありませんもの」
そう言いきったアンリエッタに、ルイズも言葉がつまらせた。

「例えそうだとしても……そのような場所に私のような者が出席するというのは」
「それも彼女の意向なのです。こちらの書状にそのように書いてありました」
そう言ってアンリエッタは先ほどタバサから受け取った書簡を広げて見せた。
そこには確かに、ルイズを連れて来て欲しいとの要望が記されていた。
流石にそんなものを見せられてなお拒否したとあっては、敬愛するアンリエッタの面子にも泥を塗ることになる。
何より、もしもガリア王が良からぬことを企てていたときに、自分が側にいたならば何とかできるかも知れない、そんな考えがルイズの脳裏によぎった。
加えてタバサの件もある。
もしも友人が脅されて仕方なく女王に従っているのだとしたら、必ずやその魔手から救い出さなくてはならない。それがルイズの、貴族としての、誇り高い人としてのあり方だった。

それらのことを一通り考えて、結果としてルイズは、深くため息をついてから
「……わかりました」
と、メイド服の肩を落としながら答えたのだった。



そうして場面は、再び暗中を行く三人へと戻る。
確かな足取りで先頭を歩くタバサに連れられて、ルイズとアンリエッタも暗く狭い、ひんやりと冷たい地下通を進んでいく。
途中、いくつか罠らしきものもあったが、どれも長い時の間に風化してしまっているか、既に無効化されているものばかりだった。
三人が抜け穴に潜ってから十分ほども歩いた頃、タバサの足が、ある一点でぴたりと止まった。

「? どうしたの、タバサ?」
訝しんでルイズはタバサの見ている先を覗き込んだ。
そこは、一見して黒塗りの煉瓦が積み上げられただけの、何の変哲もない行き止まりであった。
その声に反応したのでもないのだろうが、杖を掲げたまま、タバサは二人を振り返って言った。
「ついた」
言ってタバサは、煉瓦の一つ、床から少しだけ上にあるそれを、足で押した。
続いてルイズ達がまず耳にしたのは、ガコンという何かが落ちたような音。
そして更に、振動を伴った重い音と共に、ルイズ達の前で行き止まりと思われていた壁がゆっくりとスライドしていき、行き止まりと思われていた壁の先に狭い空間があらわれた。
奥には、さびが浮いて赤茶けた、一枚の鉄扉。
その先こそは、ルイズ達が目指していた目的地に、違いなかった。



――まぶしい。

光が目を刺すようにして飛び込んだ為だ。
暗所から突然部屋の中に出たため、目が慣れない。
手で明かりを遮りながら、三人は目をしばたかせた。
光の中に、誰かがいる。
そう思ったとき、向こうもこちらに気がついたのか、挨拶の声がかけられた。
「随分と遅かったじゃない。って、ルイズ……、あんた随分とその格好、随分と似合ってるわねぇ」
「おや本当です。可愛らしいレディの登場ということですね。もちろん他のお二人も負けず劣らずお美しい」
「ん、ああ? 本当に来たのか。不用心にも程がある」
「もぐもぐ」

徐々に目が光に慣れていく。
ようやっとものが見られる程度に視力が回復したルイズは、薄目を開けて、声のした方を見た。
そこには、
「ぷぷぷっ……ホント、よく似合ってるわよ」
こちらを見て口元を隠して笑っているキュルケと、
「ふふふ、お嬢さん。そんなに一辺に口に入れては喉がつまりますよ」
柔らかな微笑みを浮かべながら、牛飼いのごとく青髪の美女の口にお菓子を次々に放り込んでいる教皇、
「ふん、丁度ワインを飲みきったところだ。おいシャルロット、新しいのを持ってこい。ばれないようにな」
ぐびぐびとワインを流し込んでいるイザベラ、
「こんな小さいこっぱじゃ、全然食べた気がしないのね!」
もっしゃもっしゃクッキーを頬張る青髪の娘がいた。

それはちょっと、ルイズの想像していたのとは、違いすぎる光景だった。
「な、な、な、な……」
口をわなつかせたルイズが何で、と発するより早く、制するようにアンリエッタがさっと一歩進み出た。
そして、胸を張って口上一声。
「お招きに預かり……」
「あー、はいはい。そのくらいで良いぞ。別に堅苦しい挨拶を上げてもらう為に呼んだんじゃない」
そう遮ったのはイザベラだった。

口上の最中だったアンリエッタが、言葉を止めた。
緊張に体を強ばらせて、つばを飲み込む。
「それではなんのご用向きでしょう、イザベラ殿」
ロマリアの教皇、ゲルマニアの特使、それにトリステインとガリアの女王。
正に各勢力のトップを極秘裏に集めて、ガリアの女王は何をしようというのか、何を持ち出そうというのか。
ルイズの出席まで指定してきたということは、ロマリアはおろかガリアにまで、彼女の秘密が知られていることを意味しているのではないだろうか。
それに、イザベラやタバサよりも年上に見える、あの青髪の女性の存在も気にかかる。
現在ガリア国内で、王族直系を示す青髪を持つのはガリア王イザベラと、先王に謀殺された王弟の娘シャルロットの二人しかいないはずである。ここに来て未確認だった『三人目』が現れたその意味も分からない。
静かに、悟られぬ様に深く息を吸う。
この場で、何かとてつもないことが起こる。そう直感したアンリエッタは唇をきつく一直線に引き締めた。


けれど、次にイザベラの口から飛び出したのは、そうしたアンリエッタの心中を裏切るものだった。

「ああ、違う違う。アンリエッタ殿をこの場に呼び出したのは、単なるお茶のお誘いだ。こいつらがこの場にいるのは勝手に押しかけてきたってだけさ」

そう言うと、
「私はイザベラ殿を食後のお茶に誘おうと思ってのことですよ」
教皇はそう口にして、『作業』を再開し、
「私はこの部屋がタバサの部屋だって聞いたから来たのよ。『姉君』がいたのは驚いたけど、それもこれもただの偶然」
とキュルケが言い、
「もぐもぐもぐ……」
青髪の娘はまたクッキーの処理を始めた。

それぞれの言い分を耳にしても、アンリエッタは不動であった。
あるいは、周りから見て、揺らいでいないよう見えた。
「つまり、この場にこれだけの人間が集まったのには、深い意味はないと。楽しくお茶をするための集まりであると、そうイザベラ殿はおっしゃるのですね」
「そう、その通り。アンリエッタ殿がおっしゃる通り」
アンリエッタの反応を楽しむようにニタニタと笑っているイザベラ。その姿に一瞬彼女は目の前のイザベラが自分に嫌がらせをして楽しんでいるのではないかという考えに捕らわれかけるが、すんでの所でそんなことはないと踏みとどまった。

部屋の中央にある丸テーブルについて、反り返る様に椅子に座っているイザベラの格好は、到底人を招いた人間の格好とは思えないものだった。
今、彼女が来ているのはフォーマルな服装とはいえないどころか、人と会う姿ですらなかった。
ガウン一枚、それが彼女の纏っている全てである。
襟に豪勢に羽毛をあしらった、最高級だと分かる厚手のガウンの下には、白い肌が露出しているのが見てとれる。
そんな格好で人を迎えるなど、アンリエッタの常識では到底考えられない。しかも、この席には教皇聖下までいるというのにである。
だが、だからといって油断はできない。
彼女のその姿はアンリエッタを欺く演技であるかも知れないのだ。

トリステインが入手しているガリアの内部情勢、特にここ最近のイザベラが実権を握ってからの短期間で進められた宮廷内部の改革と人事刷新からは、彼女の並々ならぬ政治手腕が見て取れたからだ。
イザベラは、不安定で分裂しかかっていたガリア宮廷内部を、強引ともいえるやり方でまとめ上げていた。つまり、自分の息のかかった者で権力の中枢を固め、刃向かう者は失脚させるか、追放するか、……あるいは処刑するか。
このことは彼女が敵味方を嗅ぎ分ける嗅覚に特に優れているということを意味しているのだが、それを知らぬアンリエッタからすれば、イザベラの人を見る目とその判断力、決断力は、正に怪物と言って差し支えないものであった。
ならばこそ、アンリエッタにはこの集まりが、何の目論見もなく開かれたものだとは到底思えなかったのだ。

「わかりました」
落ち着き払った声で、アンリエッタの返答。
「陛下っ!」
ルイズの制止を促したが、アンリエッタはそっと目線を向けてこう言った。
「良いではないですか。折角のお招きです。甘えるといたしましょう」
不安そうな目でこちらを見ているルイズを見て、アンリエッタの中の不安がますます強くなった。
自分の行動が、大切な親友の、ひいては愛する民達の未来を左右する。
これほどまでに強烈に王の重責を意識したことは初めてかも知れない。
「大丈夫。きっと大丈夫ですから」
そう、言って聞かせるように、自分を戒めるように、呟いた。

不安は彼女を押しつぶそうとする。
だが、それ以上にそれに負けないという決意と意志は、確かに彼女の中に燃えていた。

――結果としては、それは全くに空回りであったのだが、彼女がそれを痛感するのは暫く後のことである。




さて、
席について二十分、早くもルイズはこの席に着いたことを後悔し始めていた。
「あらあら、その事件は確か百年も前に裁判で決着がついたことではありませんでしたか?」
「王政府に無断で一公爵が取り決めた事例に、従う義理も謂われも無いね」
数人が囲んで座れる丸テーブル。
ルイズの左にはアンリエッタ、ルイズの左にはイザベラ。
二人の女王に挟まれたその席は、まるで地獄の釜の底のよう。

そもそも、アンリエッタとイザベラ、この二人は決定的に、徹底的に、相性が悪かったのだ。
例えば花の好み。
アンリエッタが「わたくしは白い百合の花が好きですわ」と言えば、
イザベラが「白い百合? 葬式の花かってくらい辛気くさい。それだったら私は黒い薔薇の方が好きだね」と言い。
例えば趣味の話。
イザベラが「狩りというのはなかなか面白い。獲物をどうやって仕留めるかに、センスが出る」と言えば、
アンリエッタが「まあ、女性の身でありながら狩りですか、野蛮極まります。私は歌を歌う方が好きですね」と言い。
例えば自分の理想については、
アンリエッタが「王とは、人を守り正しき道に導く者。民を愛し、民に生かされる者、それを忘れてはいけません」と言えば
イザベラが「なんだそれは、奴隷かい? 王とは、人を征しその生き様で道を示す者。民に愛され、民に尽くし捧げられるだけの価値と力を持った存在のことだろう」と言う。
一事が万事、このような調子である。
目の前でそんな言葉が飛び交っているのを耳にして、ルイズは生きた心地がしなかった。
「今はっきりと分かりました! あなたに深い思慮分別なんてありません! 先ほどからの言動は、ただ単にわたくしへの悪意ある嫌がらせに過ぎません!」
「ははん! ようやっと気づいたのかい! 田舎者のトリステインのトロい小娘は最後まで気づかないんじゃないかと冷や冷やしたよっ! 」
「なんて言いぐさでしょう! ガリアこそ、ここ二十年の停滞で立ち後れた国じゃありませんのっ! それにあなたに小娘と言われる謂われはありませんっ!」
「なんだとっ!? ちょっと乳がでかいからって調子に乗るな! 大体、私は一目会ったときから気に入らなかったんだ、そのすました顔が、いかにもこれまで恵まれて育てられてきましたーっていうお姫様然とした態度がっ! その鼻をへし折ってやりたくて仕方なかったのさっ!」
「ええ、不本意ながら同感ですわっ! あなたのような野蛮で下品な方が、わたくしと同じ一国の女王だなんて信じられませんっ! あなたのせいでわたくしまで品位を疑われてはたまりませんわっ!」
「ほぅら本音が出たっ! 結局人間なんてものは一皮剥けば自分が一番可愛いんだよっ!」
「なっ! それとこれとは話が別でしょう!?」


二人の熱はスパイラルを形成し、着実にそのボルテージは高まっていく。
そんな光景を前に、ルイズは何もできないでいた。
一方、予想外の流れにルイズがあわあわしている向かいでは、キュルケが涼しい顔をしてカップにお茶のお代わりを注いでいた。
キュルケを恨めしそうにじっと睨むルイズ。
その視線に気がついたのか、キュルケは肩を小さくすくめてみせた。
それは言外に
『放っておけば良いんじゃない?』
と言っているようだった。
我関せずという姿勢をとっているのは何も彼女だけでは無い。
キュルケの右隣に座っているタバサはさっきからずっと視線を落として手元の本の文字を追っていたし、その更に右の席では教皇が、ずっとあれやこれやの菓子類を、名も知らされていない青髪の美女の口に放り込んでいた。
本当はタバサとも話したいこともあったルイズであったが、いかんせんこうなっては、席を立つことすらも難しい。

そうやってアンリエッタとイザベラが、いつ爆発するか分からない危険な領域に突入した頃。
――流れを断ち切る音がしたのは、そんなときであった。

ガタッという席を立つ音。
立ち上がっていたのは、教皇であった。
無言で立った白衣の青年に、一瞬彼が二人を止めるのではとルイズは期待を込めた眼差しで見上げたが、次に彼の口から発せられたのは、それとは全く違うことだった。
「それではわたくしはこの辺でお暇させて頂きます」
何を言うかと思えばそんなこと。
ルイズは相手がハルケギニアで最も高貴な存在であることも忘れ、はっきりと落胆の色を表した。
しかして、教皇はそんなルイズに、最後の最後で救いの手を差し伸べた。
「ミス・ヴァリエール。よろしければわたくしと散歩がてら、外でお話をしませんか」
「……え?」
突然の申し出に、ルイズは目を丸くして驚いた。
「お二人とも、よろしいですかな?」
続けて教皇は、流れる水の音のようなよく響く声でそう言った。
その言葉に、それまで激しく口論していた二人がぴたりと口を閉じる。
途端に降りる静寂の帳。
魔法でもかかっていたのかと思うほど、その言葉は見事に空間に真空状態を作り出していた。
「え、ええ……ルイズがそれでいいと言うのなら……」
「別に私が口を挟むことじゃない」
教皇は二人の口から、許可の言葉が出てきたことを確認すると、ルイズに近寄り、極上の笑顔で手を差し伸べた。
「お手をどうぞ。ミス・ヴァリエール」


                      とんでもない。手を出したのは向こうが先です。
                                ――アンリエッタ・ド・トリステイン


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