「……それで、犯行の現場を見ていたのじゃな、ミス・ヴァリエール……詳しく説明してくれんかの?」
トリステイン魔法学院は大騒ぎであった。厳重に守られた宝物庫が、盗賊によって襲撃され、秘宝『破壊の剣』が盗まれたのだ。
オールド・オスマンに呼ばれたルイズは、だらだらと冷や汗をかきながら一歩前に出る。
オールド・オスマンに呼ばれたルイズは、だらだらと冷や汗をかきながら一歩前に出る。
「ははははい。あああの、おお大きな音がしたから見に行くと、きょ巨大な土ゴーレムがいて、宝物庫の壁に『すでに』穴を開けてました。はい」
「ふむ……あの宝物庫の壁は滅多なことでは破れんはずじゃが……そのゴーレムが穴をあけたのじゃな? 確かに?」
「ふむ……あの宝物庫の壁は滅多なことでは破れんはずじゃが……そのゴーレムが穴をあけたのじゃな? 確かに?」
オールド・オスマンは、ちらちらとルイズの頭に乗ったとらを見る。疑いの視線であった。
たらたらと冷や汗が垂れるのを感じながら、ルイズは「間違いありません」と力強く白を切った。これ以上の弁償はゴメンである。
たらたらと冷や汗が垂れるのを感じながら、ルイズは「間違いありません」と力強く白を切った。これ以上の弁償はゴメンである。
「……よかろう、それでどうなったかな?」
「盗賊のゴーレムは、わたしの使い魔と戦っている最中に土に戻りました。かわりに土煙が上がって、盗賊は消えました。
おそらく、『破壊の剣』を持って逃げたのだと思います……黒いローブを着たメイジでした」
「盗賊のゴーレムは、わたしの使い魔と戦っている最中に土に戻りました。かわりに土煙が上がって、盗賊は消えました。
おそらく、『破壊の剣』を持って逃げたのだと思います……黒いローブを着たメイジでした」
ルイズが説明を終えると、オスマン氏はひげをなでる。
「追おうにも、手がかりはナシか……」
やれやれ、といった顔でオスマン氏は頷く。どこかしらほっとしたようにさえ見えた。
「まあ、盗まれたものは仕方ないからの。次からは警備を強化しなくてはなるまいて。それにじゃな、あの『破壊の剣』は――」
そこまで言って、オスマン氏は言葉を切り、コホンと咳払いをした。
さっきから、ルイズの頭の上にいる使い魔が、くっくっくと笑いを堪えているからであった。
さっきから、ルイズの頭の上にいる使い魔が、くっくっくと笑いを堪えているからであった。
「あー、どうしたかの、ミス・ヴァリエールの使い魔くん?」
「くっくっく……なに、逃げたヤツの場所なら分かってるからよ……まどろっこしくていけねえ」
「な、なんですと!? それは本当ですか、とらくん!」
「くっくっく……なに、逃げたヤツの場所なら分かってるからよ……まどろっこしくていけねえ」
「な、なんですと!? それは本当ですか、とらくん!」
コルベールが慌てふためいた。集まった教師たちも、疑わしそうに顔を見合わせる。ルイズの頭に乗った幻獣の威圧感に、直視できる者は居なかったが。
「わしの髪の毛を飛ばして、ヤツの着物に刺してあるのよ……追っかけて殺すつもりだったが、るいずが止めるんでな」
少なくともトライアングル・クラスのメイジである盗賊を、あっさりと殺すと言ってのけた幻獣の言葉に教師たちは凍りつく。
ふむ、とオスマン氏はひげをなでた。
ふむ、とオスマン氏はひげをなでた。
「この盗賊に関してはミス・ヴァリエールに一任するとしようかの」
「な、なんですって!」
「ミス・ヴァリエールはまだどの系統にも目覚めていないのですよ!?」
「ミス・ヴァリエールはまだどの系統にも目覚めていないのですよ!?」
オスマン氏の言葉に、教師たちが次々と反論する。
「ならば、我こそはという者がおるか? ミス・ヴァリエールの使い魔を退けるほどのメイジが! いるならば杖を掲げよ!」
もちろん、誰も掲げなかった。
というか、退治すべきはフーケであり、とらに勝てるかどうかは関係ないはずだが、凶悪に笑うとらを見てなお、杖を掲げる教師などいるはずがない。
というか、退治すべきはフーケであり、とらに勝てるかどうかは関係ないはずだが、凶悪に笑うとらを見てなお、杖を掲げる教師などいるはずがない。
「わ、わかりました。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。その任務、お引き受けいたします!」
ルイズは腹に力を入れながら杖を掲げ、半ばヤケクソで叫んだ。
「はあ……まいったわね。とら、その……フーケが居るところって遠いの?」
ルイズはとらの背中にしがみつきながら尋ねた。
「『近く』の森だな。『急げば』すぐ着くだろうよ」
「そう、『遠い』のね。『ゆっくり』飛んでちょうだい。多少時間がかかってもいいから」
「そう、『遠い』のね。『ゆっくり』飛んでちょうだい。多少時間がかかってもいいから」
ルイズの言葉に、とらはフンと鼻息をならす。
「わあったよ……だがよ、どうしてその喋る剣まで持ってきた、るいず?」
「折角買ったんだし、使わないと勿体ないじゃない……折れたら折れたでいいし」
「折角買ったんだし、使わないと勿体ないじゃない……折れたら折れたでいいし」
ルイズの持ったデルフリンガーが抗議の声を上げる。
「ひっでーな、娘っこ! おりゃあ、こう見えても業物だぜ!? それに『使い手』の相棒がくわわりゃ怖いもんなしだ!」
「あんたみたいなさびさび、フーケのゴーレム斬ったら折れちゃうわよ」
「おでれーた、言わせておきゃあ、てめえの使い魔にも頭があがんねぇ、ヘボメイジの娘っこが……」
「とら、これ溶かしてちょうだい」
「嘘だぜ、娘っこ。ごめん」
「あんたみたいなさびさび、フーケのゴーレム斬ったら折れちゃうわよ」
「おでれーた、言わせておきゃあ、てめえの使い魔にも頭があがんねぇ、ヘボメイジの娘っこが……」
「とら、これ溶かしてちょうだい」
「嘘だぜ、娘っこ。ごめん」
ルイズとデルフリンガーがそんなやりとりをしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「とらさまー! シルフィも盗賊退治、お供するの! ついていきます、きゅいきゅい!!」
「タバサ! それにキュルケじゃない! なんでここに?」
「タバサ! それにキュルケじゃない! なんでここに?」
タバサとキュルケの二人を乗せたシルフィードが、追いついてきたのだった。
「……シルフィードの希望」
「ま、そゆこと。どうせあなたの使い魔ならたいていのメイジぐらいコテンパンでしょ。見物よ見物」
「ま、そゆこと。どうせあなたの使い魔ならたいていのメイジぐらいコテンパンでしょ。見物よ見物」
とらの実力を知っているためか、タバサもキュルケもはたしてのんきであった。
「……おでれーた、相棒はもてるねぇ」
デルフリンガーがぼんやりと呟いた。曖昧な記憶……デルフリンガーは自分がいつ作られたかを知らないし、500年より前の記憶はさっぱりない。
だが……
だが……
(おめーを見てると、何かが引っかかるのよ、相棒……)
「これが、彼らの最初の戦いになろうの……ミスタ・コルベール」
トリステイン魔法学院の学院長室で、オールド・オスマンは傍らのコルベールに鋭い眼差しを向ける。
「は、そうですな……相手は『土くれ』のフーケですが、大丈夫でしょうか。巨大なゴーレムを操るトライアングル・クラスのメイジです。
『破壊の剣』を盗んでいったとのことでしたが」
「何、そのことは心配するに及ばん。フーケには『破壊の剣』は使えんからの。
それに、ミス・ヴァリエールの使い魔……『ガンダールヴ』を持ってすれば、トライアングル・メイジなどおそるるにたらんよ」
『破壊の剣』を盗んでいったとのことでしたが」
「何、そのことは心配するに及ばん。フーケには『破壊の剣』は使えんからの。
それに、ミス・ヴァリエールの使い魔……『ガンダールヴ』を持ってすれば、トライアングル・メイジなどおそるるにたらんよ」
コルベールの表情が曇る。
「とすると、ミス・ヴァリエールですか……?」
「そうじゃ。前に言ったとおり、闇に溺れ、力に喰われるものは所詮獣に過ぎんからの……」
「そうじゃ。前に言ったとおり、闇に溺れ、力に喰われるものは所詮獣に過ぎんからの……」
ローブをまとった学院長の内側で、暴力的なまでに巨大な魔力が渦巻くのが、コルベールにも感じられた。
(この方は本気だ……あの少女が力を使いこなせないときには、ためらわずに彼女を抹殺するだろう……だが、自分は……)
コルベールの胸の内で、まさしくその二つ名『炎蛇』のように熱い思いが渦巻く。
(自分は、教師だ……。命に換えても、生徒を守らなくては――!)
森にぽつんと一軒建っている廃屋……土くれのフーケが隠れ家にしているその小屋で、黒いローブを着たメイジは苛立った声を上げた。
「何よ、これ!? どれだけのお宝が入っているかと思って『アンロック』をかけたのに……! こんなの無駄骨じゃないの!!」
フーケが持っているのは、『破壊の剣』が収められたケースである。魔法でロックされていたのを、先ほど何とか開錠したのだったが……
出てきた『お宝』を見て、フーケはひどくがっかりしていた。
出てきた『お宝』を見て、フーケはひどくがっかりしていた。
(これが『破壊の剣』? 壊れてるってことかしら……)
まるっきりのくたびれもうけね、と自嘲して、フーケはローブを脱いで立ち上がる。魔法学院で遭遇した幻獣について情報を集めるつもりであった。
(あれほどの幻獣を扱うメイジなら、きっと名の通ったメイジのはず……一通り聞き込みすれば……。――――ッ!?)
瞬間、窓の外にあの金色の幻獣が浮かんでいるのを見て、フーケの体に衝撃が走る。
彼方に浮かんだその幻獣は、幸いなことに、まだフーケには気がついていないようだ。しかし、まっすぐこの小屋を目指しているのは確かだった。
彼方に浮かんだその幻獣は、幸いなことに、まだフーケには気がついていないようだ。しかし、まっすぐこの小屋を目指しているのは確かだった。
(まさか……早すぎるじゃない! あの幻獣の力だとでも言うの……?)
一気にフーケは鳥肌立つ。あの雷と炎……自分のゴーレムを出しても、おそらくは時間稼ぎにしかならないだろう。他に強力なメイジがいればなおさらだ。
(くっ……とにかく、身を隠さないと……!)
フーケは慎重に接近する幻獣たちやってくる方向を見定め、死角になっている部分の壁を『錬金』で扉にかえる。そして、すばやく茂みに隠れた。
金色の幻獣が気がついた様子はない。どうやら、フーケ本人を探知しているわけではないらしい。とすれば、ここで息を潜めている限りは見つかるまい。
ひょっとしたら、隙を突いてメイジの方を殺すこともできるかもしれない。
金色の幻獣が気がついた様子はない。どうやら、フーケ本人を探知しているわけではないらしい。とすれば、ここで息を潜めている限りは見つかるまい。
ひょっとしたら、隙を突いてメイジの方を殺すこともできるかもしれない。
(とりあえず、ここから観察させて貰うわよ……金色の使い魔さん……!)
そう心の中で呟くと、フーケは舌なめずりした。