あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

KNIGHT-ZERO ep17


カ マテ! カ マテ!
カ オラ、カ オラ!
テネイ テ タンガタ プッフル=フル ナア ネ イ ティキ
マイ ファカ=フィティ テ ラ!
ア ウパネ! ア フパネ!
ア ウパネ! カ=ウパネ!
フィティ テ ラ!
ヒ!


(訳)
これは死だ。これは死だ。これは生だ。これは生だ。
この男が私を助けてくれた。一歩、一歩太陽に近づく



       マオリの民族舞踊"ハカ"より






白い国の短い初夏が終わり、消えぬ薄雲に包まれた空中大陸特有の霧雨が降り続くアルビオン

ルイズとKITTはトリスティン統治下にあるアルビオン西部地方アイルランドの首都ベルファストに居た


情報将校


それがアンリエッタ女王により、アルビオン駐留軍に従軍するルイズに与えられた軍務と地位だった

KITTのそれまでの稼動記憶を蓄積した人工知能は複雑な気持ちを有していた、ルイズが得たのは
かつてのパートナーだったマイケルがROTC(大学予備役科)から入隊した米陸軍での兵科と同一のもの
そしてマイケルは地獄のベトナム戦争で心と体に深い傷を負い、その傷が後の彼の運命を流転させた




アルビオン駐留トリスティン王国軍の本拠として徴発されたユーロパ・ホテルの階段をルイズは降りていた
この老朽ホテルをベルファストの最高級ホテルとして提供したアイルランドの連中もいい面の皮だが
最上階に篭ってこの国の特産であるウイスキーやサイコロゲームに興じる老貴族にもうんざりしていた

特務士官として駐留軍の大概の場所に出入りする特権を持ちながら、士官会議への出席義務の無い立場

着任報告以来久しぶりに来た統治軍最高司令部でも、ルイズは"ヴァリエール家のお嬢ちゃん"扱いだった


ホテルの上階、ルイズにあてがわれた続き部屋のあるフロアを素通りして一階まで降り、正門から外に出た
ルイズは自分のために手配されたホテル貴賓用のスイートルームを、荷物置き場にしか使っていなかった



灰色の空の下、ルイズはクロークに預けていた革ジャンのジッパーを締め、ポケットに手を突っ込み歩く
占領軍目当てにホテル前で店を出してる露店でワインやパイ、チーズ、ハム、お茶を買い、軍票で支払うと
そのままホテルに引き返し、国風そのものの武骨な建物を回りこんで、裏手にある馬車溜りに向かった

ずっと置きっぱなしになって朽ちかけている竜籠の影に霧雨に濡れた黒いボディが見える、赤い光の往復

CGとペジェ曲線が導入されるより前、デザイナーのフリーハンドによるボディデザインの最後の世代
デトロイト製の2ドアクーペが持つ官能的な姿に、ホテルの中からずっと仏頂面だったルイズの顔が綻ぶ
ルイズは両手に紙袋を抱えたままKITTに音声指示で操縦席側のドアを開けさせ、その中に滑り込んだ

異国にあっても変わらぬルイズの我が家、慣れ親しんだタン色のバケットシートに沈み、操縦桿に触れる
待機状態だったV8水素核融合エンジンが始動し、腹ワタに染みわたる重低音がルイズを優しく包んだ

食料の詰まった袋を助手席に放り出し、両足をコントロールパネルの上に乗っけると、ルイズは息を吐いた


「なるほど、お父様があっさり許可するわけだわ、これじゃお空の上の大陸まで避暑に来たようなもんよ」

KITTのボイス・インジケーターが点滅して唇を形作り、ルイズの全身に心地よく触れる声が聞こえてきた

「ルイズ、何か新規の情報は収集しましたか?アンリエッタ様への定時報告の時間まであと15分ですが」

ルイズは紙袋の中身をを漁り、アルビオン貴族が好んで読む"新聞"の上に食料を広げながら返答した

「なぁ~んにも、何も無し、女王陛下に謹んでご報告します、本日の議題はこの国の酒と飯と女の味、と」

ワインの小瓶を取り出すと、安物ワインやエールでコルクの替わりに使われているゴム栓をひっこ抜いた

「付け加えることがあるとすれば、この国はジジィ貴族のいい廃兵院として機能してるって事ぐらいね」

ルイズは紙袋からパイを取り出し、革ジャンの内ポケットから革鞘に納まった小さなナイフを抜いた
古参兵によると従軍に一番必要なものは手ごろなナイフで、それは武器よりも生活道具として必須だという

そのナイフはベルファストの古道具屋で買った物で、デルフリンガーとかいう大層な名前がついていた

ルイズはシエスタが持たせてくれたクックベリー・ジャムの瓶詰めを開け、ナイフに山盛りにすると
パイに塗りつけ始めた、ルイズの大好物のクックベリー・パイはホテル近くのパン屋にはなかった

店主に「兎のミートパイもキーライムのパイもあって、なんであんなに美味しい物が無いの?」と聞くと
チェリーパイが自慢の店主は「なんであんな不味い物を置かなくちゃいけないんだ?」と聞き返してきた
このクソ爺ィ、と思った、まぁごもっともだな、とも思った、とりあえず何も入ってないパイを買った

蜂蜜と果汁の入ったワインを学院の料理長から借りたクリスタル・グラスに注ぐと、一息に飲み干した
甘口ワインの弱いアルコールが胃を暖め、体をほぐす、ルイズがこの国に来て覚えた食欲増進の儀式



酔いで少し熱っぽくなったルイズはカーステレオをつけた、エンヤが故郷の神話世界をケルト語で唄う
KITTが生まれ、かつて過ごした異世界にも存在するというアルビオンと、その国で生まれた歌
以前はあまり馴染まなかった優しい歌も、この地で聞くと悪くない、酔っ払って聞くともっといい



ルイズは手製のクックベリーパイとナイフで削いだパンとハム、牛乳と砂糖の入ったお茶の食事を終えた

豚毛の筆型歯ブラシで歯を磨く、ルイズは他の多くのトリスティン人と同じく塩と灰で歯を磨いていたが
アルビオン製のミント入り歯磨き粉は気に入った、不味いと言われたこの国の食事も、平民の軽食は旨い
水筒の水で口を漱いだ、ホテルで貰ったアルビオンの湧き水はトリスティンの硬水よりも口当たりがいい
歯磨き粉入りの水を石畳に吐いたルイズは、白い歯をデルフリンガーに映した、やはりナイフは役に立つ



その後ルイズはアンリエッタに預けているKITTの通信装備、コミュニケーター・リンクを呼び出し
三時のお茶に合わせた定時報告を行った、今日も会話の内容は茶菓子を摘みながらのお喋りが殆どだった



KITTが遠距離ソナーで傍聴し、要点を纏めて送信している定例会議の内容もさして中身の無い物だった

「ねぇKITT…このままわたし、アルビオンの名産を喰い散らかしながら従軍任務を終えるのかしら?」

茶菓子と新聞と衣類、そして酒瓶で散らかり、すっかり快適な住居となった車内にKITTの声が響く

「私にはそれが決して悪しきことではないと思います、あなたは最近よく動いた、静養が必要でしょう」

ボロ布でデルフリンガーを拭き、ジャムを丁寧に落としていたルイズは、鋼の輝きを見つめながら呟く


「…わたしね、思うの…動くわよ…この先、この国が、この空中大陸が…まるで嵐の中の船みたいに、ね」



ランチマット替わりの新聞には「ロンディニウムの修道院が積極的な救貧活動」の見出しが踊っていた



夕暮れ、ホテル裏に停めたKITTから出たルイズは、ぶらぶらと歩きながら表通りにある酒場に向かった

魅惑の妖精亭

駐留兵士の慰問のために運行される船に乗って、多くの商人が植民地で一旗揚げるべくこの国に来ていた

その店は主に着飾った娘達が男性に酒と食事を出す店で、ルイズは最初、自分には無縁だと思っていたが
酒場での情報を目当てに入り、その料理のうまさに驚いたルイズは、以後の夕食を主にここで摂っていた
薄鉄の鍋に炎を上げながら料理する主人が出してくれる料理や「麺」とかいうパスタは刺激的な味がした

聞けば店主スカロンはタルブの出身で、シエスタの縁戚だそうだ、そのスカロンという男はシエスタとは
似ても似つかぬむさくるしい巨漢だったが、娘で店の看板のジェシカは確かに似てる、黒髪と生意気な胸

ジェシカはシエスタの父から聞いた、戦艦と竜騎兵に立ち向かいタルブを救った騎士の話をしてくれた
ルイズが「それ私」と言うと、よほどウケたらしく桃りんごのシードルをむせさせながら大笑いしていた


ルイズにはそれより、スカロン店長の人間離れした容姿のほうが印象的だった、とても筆舌に尽くせない

閉店の時間にルイズを迎えに来て彼と対面したKITTの最初の第一声は「うわっシッシッ!あっちにいけ!」

ジェシカや店の妖精達がKITTを見て「ガーゴイルの使い魔なんて、ヘンなの」と言う中、スカロン店長は

「82年式のトランザムね、これ、燃料噴射装置がすぐ壊れるのよ」とルイズに理解できない感想を述べた



「いらっしゃいませ~、お客様、パイプか葉巻は嗜まれますか?、ではこちらの喫煙席にどうぞ」


ルイズはKITTのボディのような深い漆黒のビスチェに身を包み、愛想よく貴族の客を案内していた


魅惑の妖精亭に通うようになって数日、スカロンの熱烈なスカウトを受けてこの店で働きはじめていた

初めの内は夕食が目的で、食事と食後のワインを楽しんだ後は、勘定と充分なチップを払い帰っていたが
スカロン店長が作ったスロットとかいう異世界の博打に金を吸われ、ルイズの懐は早々に寂しくなった
慌ててアンリエッタに調査経費の追加送金を頼んだ所、偶然、公務でその場に居たのは母親のカリーヌ
…「自分で何とかしなさい」… 通信は切られた、ルイズは通信機越しに母の鉄拳を恐れ震えあがった

ホテルでルーム掃除をするか、銀行でも襲うかと考えた結果、ルイズは気心の知れた店で働くことにした



初めてのバイト経験、同年代に近い女店員(スカロンに言わせれば妖精たち)との話は弾むことが多かった

ルイズは最初の内、豊満で色っぽい妖精達に気後れして、目立たぬ給仕と厨房の手伝いを希望していたが
学院制服のミニスカートで配膳をしている時に、何か勘違いした中年貴族に指名を受けたのをきっかけに
すっかりルイズは店の妖精の一人として馴染んでしまっていた、チップの集まりは中の下くらいだった

ルイズは「情報収集のため」と自分に言い訳をしていたが、実際は無為な宮仕えには無い刺激を求めていた



夜更け過ぎ

スカロンによって閉店時刻と決められた"てっぺん"と呼ばれる日付の変わる時間に近くなった頃
客の酔いが進み、財布の紐が緩くなる店の稼ぎ時に、店内で酒場には付き物の騒動が起こった

トリスティン駐留兵らしきゴツい男の一団が店の奥にあるテーブルを占め、辺り憚らぬ声で騒いでいた

バーカウンターで静かに飲んでいたオークの商人が顔をしかめながら勘定とチップを支払い、店を去った
八分ほど入っていた客の内の何人かが、普段とは打って変わって騒がしい店内を嫌い、早々に引き上げる

客が食事を終えた後の酒の時間が妖精達の稼ぎ時、上客を追い出す迷惑な兵士達は、どうやら貴族らしい

酒の席では身分を忘れるという暗黙の了解によりマントを外して寛ぎの時間を楽しんでいる貴族達の中で
本国を追い出され占領地に流れてきたらしき貴族兵は、揃って軍の部隊章の入ったマントを羽織っていた

酒場のマナーも知らない田舎メイジ達は貴重な輸入ワインを次々と抜き、泥酔者特有の大声を上げている
テーブルに並んだガリア・シャンパーニュ製のスパークリングワインの値段には不釣合いな粗末な軍服
飲み代を払う気があるかも怪しい、当時そういう下級の駐留兵により踏み倒しがあちこちで起きていた

統治国派遣兵の徴募に応じた貴族の中には、普段は山賊や盗賊で食っている無法者連中が少なからず居た


貴族兵の一人が杖を振り、テーブルについていたジェシカの緑色のビスチェの裾を風魔法でめくった

ジェシカは田舎育ちのデカい声で罵ろうとしたが、啖呵を飲み込みながら愛想のいい笑顔を浮かべる

やり取りを見ていた他の妖精達が顔を見合せる、ジェシカの翡翠像のような笑顔は初回だけの執行猶予で
懲りずに二度目の狼藉を働けば、即座に彼女の蹴りが無礼な客のコメカミに叩きこまれる事を知っていた


皆が困惑する中、バーカウンターでシェーカーを振っていたスカロンが尻を振りながら近づいてきた
異世界で「モンローウォーク」と呼ばれる歩行法を見た貴族達は、獣の威嚇を見た時のように身構える

「困りますわ~、あたしのお店では魔法はご法度よ、そんな怖い顔しないで楽しく飲みましょうよ~」

目の前に立ちふさがるマッチョなオカマの前に、体格にコンプレックスがあるらしき小男の貴族兵が立ち
その背に不似合いな長槍型の杖を突き出すと、こちらはチビにお似合いな甲高い怒鳴り声を上げる


「おいバケモノみたいなオッサン、相手見て物を言えよ、俺達ぁ戦勝国トリスティン陸軍の伍長様だぜ」

スカロンが小男の大杖で突かれた、後ろにひっくり返った拍子に真っ赤なビスチェがまくれ上がる
彼が競走馬のような腿を晒しながら発した「いやぁ~ん!」という声に三人の貴族兵が揃って笑った

「魔法を喰らいたくなきゃ平民風情は引っ込んでろ、野蛮なアルビオン人を貴族様が教育して何が悪い」


目の前で父を突き飛ばされたジェシカは震えながら直立し、男達に向かって膝に額がつくほど頭を下げる
日本の営業マンのようなジェシカの深いお辞儀は、得意のハイキックに備えて腰を伸ばす準備運動だった


頭を下げるジェシカの姿を屈服と勘違いした肥満体の貴族兵が彼女に杖を向け、悪戯をしようとした
ジェシカは頭を下げたまま上目遣いに「霞」と呼ばれるコメカミの急所を確認し、「覇~」と息を吐く

誰もが息を殺してやりとりを見守る、酒場に似合わぬ静寂が支配する中で、店の隅の席がガタっと鳴った


入り口脇の小卓で、指名がご無沙汰のため会計仕事をしていた黒いビスチェの少女が静かに立ち上がった
ルイズの周りの空気が凶暴に歪む、鳶色の瞳はKITTの赤いフロント・スキャナーのように輝いていた



「この貴族の恥さらしが…いい加減にしないとあんたら…その髪の毛の一本も残さず…ゼロにするわよ…」



ルイズは一団の最古参らしき背の高い男の前に歩み寄り、自分の黒いビスチェの胸元を開いてみせた
その中身、女性なら谷間があるであろう部分を上から見下ろしたメイジに「お、男…?」と言われた瞬間
この場を穏便に解決しようとする気持ちを思い切りよく捨て、襟裏に付けた金の延べ板を見せつけた

「その目ん玉が飾りでないならよ~くごらんなさい!我が名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール
特務情報士官として女王陛下より少尉待遇の地位を得ているわ、あんたらの親分やってる軍曹殿の上官よ」


ルイズがビスチェの襟裏につけていた近衛少尉の階級章を見た陸軍下士官の男達は、指差して笑い出した

「こちとら便衣兵や不正規兵を相手にしてんだ、そんなペテンに引っかかるかよ、貴族ごっこの平民女が」

占領地ではよくゲルマニア系の彫金屋が店を出していて、模造の勲章など駐留兵向けの土産物を売っていた

ルイズは突き飛ばされた、張り手で突いただけとはいえ男の力、思わず呼吸が止まり、目の前に星が飛んだ

襟がめくれた拍子に見えた葡萄の葉のメダル、頼みもしないのに付けられたオマケを見て、男は鼻で笑う

「生意気にタルブ従軍章まで偽造しやがって、アルビオン騎兵と戦った勇士がこんな所に居るかってんだ」



初めて味わう男の暴力に、ちょっと前のルイズなら恐怖と動転で頭が真っ白になっていただろう



ルイズは雲海の中を航行するクリッパー(快速帆船)の甲板で、所在なさげに舷側に寄りかかっていた

トリスティンの軍港アムステルダムからアルビオンまでのKITTとの船旅、幸い船酔いとは無縁だったが
KITTは現在、帆船の客室を二間ブチ抜いた臨時の車庫で、厳重な警備兵の監視の下で保管されている
特務士官ルイズもまたアンリエッタの命令により客船並の船室を与えられ、快適な船旅を過ごしていた


船上でKITTに乗る事は許されていなかった、船の王といわれるボースン(甲板長)には逆らえない
その空族上がりのボースンははどこかで、この使い魔がアルビオンの戦艦を破壊した事を聞いたんだろう

タルブ村侵攻の後、座礁した戦艦レキシントンは砲や風石機関をアルビオンの戦後処理官が持ち去った後
村からの再三の撤去要請にも関わらず放置された、シエスタの父はサルベージの困難な大型戦艦の解体を
ルイズに依頼し、喜んで引受けたルイズは戦艦にKITTを突っ込ませて5分少々で薪の山にしてしまった




ルイズは上空の冷気に身を震わせ、シエスタから借りた革ジャンを着込むと、暇に任せて甲板を歩き始めた

高度3000メイルまでの上昇航路に乗った風石帆船は、出航直後の忙しい動索操作が終わったらしく
マスト上の見張り台に立つ船員を残して、残りは船乗りにとって値千金の睡眠時間を過ごしている様子


ルイズは甲板を走り始めた、陸と空の長旅で日課のジョギングも疎遠になり、体は運動不足を訴えていた

揺れる甲板でのジョギング、足首の柔軟さを求められるランニングにもすぐに慣れ、規則的に走るルイズ

後ろから、同じくリズミカルながらテンポの速い足音が近づいてくる、濃い霧の中で姿はよく見えない



ルイズはフットボール選手のように後ろ向きに走りながら、足音と軽甲冑の発てる金属音の正体を探った

走ってくるのは一人の騎士であることを知った、髪の短い若い女、シュヴァリエになって日が浅いらしい


ルイズはジョギング仲間が出来たと思い、手を振って挨拶をしようとした、向こうも手を振っている

その騎士の振られた手には、長く鋭い剣が握られていた、サーベルはルイズに向かって斬りかかってくる

濃霧の船上で、ルイズはサーベルを振り回す狂戦士から逃げ回った、剣先が掠り、肌に冷たい感触を残す

ルイズは無言で剣を撃ち込む女騎士から必死で逃げたが、上空の薄い空気に息が切れ、甲板に倒れこんだ

ルイズの鼻先にサーベルが突きつけられ、続いて鉄甲の入った靴で腹をめがけて蹴りが飛んでくる


「わたしは銃士隊のアニエス・ド・ミラン曹長だ、貴様がルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールか
アンリエッタ女王より貴様の鍛錬を受け持った、さぁ立てルイズ、まずは走れ、倒れるまで走るんだ」

ルイズはアニエスのヤクザ蹴りを転がって避けながら、主人の危機にKITTが助けに来ない訳を知った

「新米シュヴァリエが何呼び捨てにしてんのよ!わたしはヴァリエール家三女、姫様直属の特務少尉よ!」

甲板を転がりながらルイズは威勢だけはよく怒鳴ったが、アニエスは潰す前の虫を見るような目で見下げた

「陸に下りたら少尉とも閣下とも何なりと呼ぼう、しかしこの船に居る限り貴様は只のルイズだ、いいな?」


ルイズの反論はアニエスに尻を蹴られた拍子に出た「ひゃっ!」という情けない悲鳴にしかならなかった



ルイズは甲板で腕立て伏せをしていた、汗まみれで上空の冷気を感じなくなる、薄い空気で息が切れた

「一体…何をやらせようってのよ…わたしは護身術を習ってるんで…力自慢にろうってんじゃないのよ」

胸が床につくまで身を沈める、ルイズは胸と床の距離の関係で他の女性より少々余分に苦労させられた

「貴様ら貴族士官は揃ってシャバではろくでもない暮らしをしてた奴ばかりだ、まずその鈍った体を
オーバーホールしないと使い物にならん、…それからこの船の上で、私に疑問を持つことは許さん」

船旅は退屈とは程遠い物になった、日中は過酷な筋力鍛錬で絞り尽くされ、大味な船員飯がうまかった



夕暮れ後、ルイズはフラフラになりながらも、船室に戻らず船の先端近くにある錨鎖庫に入り込んだ

「…KITT…ねぇKITT……起きてる?わたしよ…今日も…寝るまで…お話、しよう…」

ルイズは舫綱に座り込みながら壁に向かって話しかけた、KITTの船室と隣り合った、ルイズの秘密の場所
日中の鍛錬を開放された後のKITTとの夜のお喋りは、ルイズにとっての唯一の安らぎの時間だった


「ルイズ、彼女はかなりのサディストですよ、私の世界で彼女に並ぶのは声優の風音嬢ぐらいでしょう」

「わたしあ~いうドSな女が一番苦手だわ、ほらわたしってKITTの扱いといい、かなりのMじゃない?」

KITTの船室の中で何かドンガラガッシャ~ン!という音がした、反論を考えすぎてエラーを起こしたらしい


船上での鍛錬はその時間の殆どを体力作りと走りこみに費やされ、護身術は最後にほんの少しやっただけ

単調な鍛錬の中で突然、アニエスが蹴りや木鞘での一撃を喰らわせる事もあり、気の休まる暇も無かった



数日の船旅の後、ルイズの乗った帆船はアルビオン南西部、統治軍共同の軍港グラスゴーに接岸した

桟橋にKITTを降ろす作業に立ち会うルイズの元にアニエスがやってきた、いつも通りの傲岸な目つき

ルイズがKITTと共にアルビオン本土に降り立った途端、アニエスは鞭打たれたような直立不動で敬礼した」

「トリスティン王宮直属特務情報士官ルイズ・フランソワーズ・ド・ブラン・ド・ラ・ヴァリエー少尉殿
任務の成功と無事の帰還をお祈りします、並びに、艦内での不敬な言動を深くお詫びいたします」


ルイズは学院で従軍経験者のギトー先生から少し習った不慣れな答礼をする替わりに、右手を差し出した

「…ルイズでいいわ…」


「もったいないお言葉であります、私アニエス、貴官の訓練に従事できた事はこの上ない誇りであります」


ルイズとアニエスはしっかりと手を握り合った、互いに相手の手を握り潰さんばかりに握力を篭める


アニエスは握手の時、ルイズの目を見て囁いた、船上でルイズを震え上がらせた、虫を見るような目付き

「ルイズ、アルビオンで何かあった時は、ベルファスト治安維持部隊の三番隊に私が居ることを思い出せ」



ジェシカが店の若い従業員に、急いで駐留軍が詰めている屯所に知らせにいくように耳打ちしていた

「あ~、ジェシカ、お願いがあるの、騎士隊を呼ぶなら、くれぐれも三番隊だけはやめてちょうだい」


ルイズはビスチェの懐に手を突っ込み、こっちは偽造出来ない水魔法紙の身分証明書を取り出そうとした 


          「あれ…忘れた」


ルイズの身元と地位を証明できるのは、たった今笑いものにされた階級章と、身分証明書だけだった

「ちょ…ちょっと待ちなさい!ホテルに置き忘れてきただけだから、今、届けさせるから!」

ルイズは嗜虐の笑みを浮かべて歩み寄る三人の貴族兵士を手で制しながら、店の周囲の壁を見回す

「…ここがいいわね」

ルイズは店の隅、急ごしらえで建てた店の粗末な壁に、帳簿つけに使ってた黒鉛の筆で大きな丸を描いた




KITTは既に傍聴した会話から危険を察し、ホテルの馬車停めから急発進して表通りを疾走していた

北米の幾つかの州では、出動前の消防車ではハードロックをかけて隊員を鼓舞することが定められている
KITTはその規則に従い、ルイズのお気に入りを入れてるミュージックフォルダからランダム再生した

その晩、KITTが駆け抜けたベルファスト中心街に、デトロイド・メタル・シティのサウンドが響き渡った
KITTはこの歌詞を解する人間が居ない事を感謝し、この曲がハルケギニアでカバーされない事を祈った




近づいてくるV8のエンジン音とクラウザー様、貴族兵が身構え、少女達が不安の表情を浮かべる中で
妖精達をカウンター内に退避させたスカロンだけはなぜか懐かしそうな表情で、その音に聞き入っている

貴族兵がルイズに向かって杖を振りかざした、炎のスペルにも動じずルイズは挑戦的な笑みを浮かべる


「ねぇ、田舎貴族のオッサン、あんたは一流ホテルのルームサービスなんて、頼んだことないでしょ?」



ルイズがつけた印に沿って壁が吹っ飛んだ、赤い光、KITTの黒いボディが店内に飛び込んでくる



                   SATSU-GAI!



KITTのノーズに炎メイジの貴族兵が跳ね飛ばされる、突入時の速度調整により無傷なのは言うまでもない


「お待たせしました、ルイズ、ご指示通りアンリエッタ女王発行の身分証明書をただ今お持ちしました」


接客のあまり丁寧でないルイズへの面当てのような馬鹿丁寧な口調、叱ろうにもつい顔はニヤけてしまう


「わたしの"ホテル"はムチャクチャ速いのよ」

ルイズはKITTの車内から、夕べサンドイッチを食べる時にナプキン替わりにしていた紙を取り出した

身分証明書を見せるまでもなく、貴族兵達は奇怪な黒い物体に恐れを成し、じりじりと後ずさっている


その時、店の端から悲鳴が上がった


兵士の一人が店の妖精を後ろ手に捻り上げ、底を叩き割ったガラスの酒瓶を彼女の顔に突きつけていた

見てくれの割りに戦場の経験の無い兵士、彼は未知の魔法アイテムが持つ力の前に理性を失っていた


恐怖から生存の本能を剥き出しにした彼が突きつけているのは杖ではない、彼はもう、貴族ですらない



ルイズは震える手を振ってKITTを下がらせた、握り締めた拳で黒いビスチェのスカートを押さえた


ルイズがKITTと共に活動するようになって知った、この世界にはあまりにも不似合いな不殺傷の思想
後に虚無の系統に開眼したルイズは、自分がエクスプロージョンという前代未聞の魔法を使えると知った
今まで狙った場所が爆発した試しの無い味方殺しの魔法だったが、その未曾有の破壊力を得たルイズは
KITTの能力と自らのエクスプロージョンの魔法を、決して人を傷つける事に使わない、と誓っていた



「それは、それ!」




ルイズは黒いビスチェのフリルスカートを翻し、腿のガーターから抜いた杖を貴族メイジに突きつけた




「これは…これ!」




ルイズは自らの体内を巡る力を加速させ、目の前のクソ男を吹っ飛ばす特上の爆破魔法を唱え始めた



詠唱を完成させようとするルイズの前に、足音一つ発てることなくスカロンの巨きな背中が立ち塞がった

素手や剣の届かぬ双方の位置関係は、平民が剣や銃を持っていても貴族の魔法には決して勝てない距離

スカロンの爪先がキュっと鳴った瞬間、間合が一瞬で詰められ、酒瓶を持った男が店の端まで吹っ飛んだ

別の男がエア・ハンマーを乱れ撃ちするが、スカロンはその攻撃を左右の拳で砕き、腹にフックを打ち込む

もう一人が炎の魔法を発動するより早く、術者保護のため魔法が発動しない直近でジャブ連打を浴びせた

あっという間に三人の貴族が床に昏倒した、以前に何度か同じ光景を見たらしき店の常連達が口笛を吹く


ルイズが唖然と見つめる横で、KITTが突入に備え上昇させていたエンジン回転数を下げ、声を漏らした

「拳よりその足さばきが私のライブラリーに残っていました、あなたもまた、地球からの召喚者ですね」

「あなたが最初の防衛戦の直前に突然姿を消したことを悔やんでいるボクシング・ファンは数多くいます
北米、環太平洋クルーザー級王者、18試合18勝12KOの重量級新人王、石 夏龍(hsu karon)さん」

スカロンはクネクネさせながら、たった今凶器として使った拳を両頬に当て、恥じらいの声を上げる

「なぁ~んのことかしらぁ、 私はこの魅惑の妖精亭の主人、チクトンネの美の化身、スカロンよぉ~」

KITTの情報によれば、シエスタの曽祖父を始めとする異世界からの召喚者達はあらゆる所に居るらしい
ある者は地球への帰還を試みて果たせず失意の内に死に、ある者は召喚の影響で記憶を失ったまま生き
そしてそれ以外の人々は意外な所に意外な形で居るらしい、おそらく、それは地球でも同じかもしれない



スカロンのパンチでメイジ達がノックアウトされ、やっと騒ぎが終息した頃に騎士隊が駆けつけてきた


「何だルイズ、貴様か、どこかしらで騒ぎを起こす奴だとは思ってたが、酒場の喧嘩とは随分安っぽいな」

女性だけの騎士隊、トリスティンでは貴族に替わり武装した平民を中心とした銃士隊の運用が始まっていた

「ホントにルイズって呼ぶんじゃないわよ!ヴァリエール少尉よ!sirをつけなさいアニエス曹長!」

アニエスは面倒臭そうに襟を見せた、中尉の徽章、外地勤務で騎士隊副官昇進のボーナスを貰ったらしい

「なるほど、店員から話は聞いたが、こいつらは札付きでね、これで不名誉除隊は免れられないだろう
スカロン殿の店は軍のお偉方にも好かれてたからな、ヘタすりゃ貴族廃籍だ、まぁ自業自得だな」

「こいつらは貴族じゃないわ、自分のやった事の責任を取れる人間、決して逃げない者を貴族と言うのよ」

ルイズが渋面で呟きながら再会の握手の手を差し出すと、アニエスはそのままルイズの手を引き寄せた


「さ、来いヴァリエール少尉殿、どうせ貴様も手を出したんだろう、事情聴取くらいさせて貰うぞ」


「ちょ…ちょっとアニエス!店長よ!みんなスカロン店長が殴り倒したのよ~!わたし何もしてない~~」

アニエスはスカロンのほうを向くと、アルビオンの港でルイズに見せた時よりずっと丁寧な敬礼をした

「スカロン店長、報告書その他の書類の体裁は、私とこのヴァリエール少尉殿が整えておきます
店長は心置きなく店の復旧をお急ぎください、被害は後ほどこの男達の俸禄から弁済させますので
それから…我が銃士隊一同は、あなたが再び拳闘と柔術の稽古にお越し頂くことをお待ちしております」

隊員達に将軍の閲兵のような敬礼をされたスカロンは、キラっと星が飛びそうなウインクで答礼する

「そんな野蛮なことしたらおハダが荒れちゃうわぁ…でも、アニエスちゃんと部下のカワイコちゃん達が
あたしの作ったビスチェを着てお店に出てくれれば、次は居合とクンフーでも教えてあげちゃおうかしら

銃士隊の女性隊員が妖精達のビスチェを見てまんざらでもない表情をする中、アニエスは弱気を見せる

「そ…それは…その任務を果たすには…自分は力量不足でありまして、わたし…カラダにはあまり自身が…」

スカロンはアニエスのバストを見ると、薄鋼の胸当てで覆われたオッパイのサイズを掌で正確に形造った

「もったいなぁい、ちょっと寄せて上げればナイスバディよぉ、ルイズちゃんだってお店に出てるんだし」

アニエスはルイズが見た事ないほど狼狽し、片手で冷や汗を拭き、もう片手でルイズを引きずり逃げ出した

店に残ってた客達が退場するルイズに歓声を上げ、今まで貰ったチップを超えるほどのおひねりを投げた
半分は威勢のいい台詞と貴族の誇りを見せてくれた事へのご祝儀で、残り半分は保釈金のカンパだった
銀貨をかき集めたジェシカが「今月のチップレースはルイズちゃんの逆転勝利ね」と声を漏らす

「ルイズちゃんおつとめ頑張って~、壁を壊した分の給料天引きは負けといてあげるわよ~」

「アニエス中尉、せいぜいルイズにはたっぷりと油を絞ってあげてください、たまにはいい薬です」

アニエスに襟首を掴まれ、ジタバタしながら逃げ出そうとするルイズは無慈悲に引っ立てられて行った



「て、て、店長の鬼~、アニエスの悪魔~…KITTの鬼悪魔ぁぁぁ~~~~」



結局ルイズはアニエスのちょっとした悪戯でブタ箱に一泊し、人生最初の臭いメシを食う羽目になった


新着情報

取得中です。