あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのぽややん 4

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 魔法学院の教室は、あのプレハブ校舎の教室とは比較にならない程、大きくて広かった。
 それでも、学び舎独特の雰囲気を肌で感じ、アオは懐かしさに目を細める。
 銃の撃ち方を習った、敵の殺し方を習った。訓練に明け暮れ、整備に明け暮れ、戦争に明け暮れた日々。
 でも幸せだった。
 友人がいて、猫がいて、舞がいたから。
 ただ幸せだった。
「なにぼっとしてるのよ」
「あ、うん」
 ルイズの言葉に、今に引き戻される。
 感傷か……弱いな、僕も。 

 ルイズとアオが中に入ると、先に来ていた生徒たちが一斉に振り向いた。くすくすと笑い声も聞こえ始める。
 だがルイズは、拳を強く握り締めると、それらを一切無視して席に向かった。アオもそれに続く。
 皆、様々な使い魔を連れているが、人間はアオ一人だけだ。
 席に着いてしばらくして、中年の女性が入ってきた。先生なのだろう、いったん教室内が静まる。
「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。この赤土のシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ。……中には、変わった使い魔を召喚した方もいらっしゃるようですね」
 ちらりと、ルイズとアオを見た。俯くルイズ。
「おおかた召喚に失敗したからって、そこらから平民を連れてきたんだろ。なんせゼロだからな」
 生徒の野次に、堰を切ったように教室内が笑いに包まれる。
「黙れ、かぜっぴき」
「誰がかぜっぴきだ! 俺は風上のマリコルヌ…だ……ぁ」
「なによ」
 とつぜん黙り込んでこっちを見るマリコルヌに、ルイズは思わず後ずさる。
「……や……さか……しか……匂……」
 なにやら口を動かしながら、噴きだした汗を靴下でぬぐう。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおよしなさい」
 マリコルヌは呆けた表情でシュヴルーズを見た。突然手で顔を隠し、笑い始める。
「そうかッ……そういう事かッッ!!」
 手で隠されたところから、涙が流れ出ていた。
「ミ、ミスタ?」
 これには先生含め、生徒一同ドン引きだ。
 どれくらい笑っていただろうか、マリコルヌは仮面のような無表情になって言った。
「さあ、ミセス・シュヴルーズ。早く授業を始めましょう」
 皆が皆がつっこみたかったが、妙な迫力に気おされてできない。
 ま、まあ、静かになったことですし、とシュヴルーズは気をとり直すことにした。

「……趣味は人それぞれだよね」
 アオは、マリコルヌの独特の気配から察していはたが、無視することに決めた。
 あれに関わると、ろくな事がない。て言うか、関わりたくない。

 それからの授業はつつがなく進められた。
 『火』『水』『土』『風』の魔法の四大系統。失われた系統である『虚無』。
 それら魔法と生活との密接な繋がり等々。
 今しがたの実演で、ただの石を錬金の魔法で真鍮に変えた事など、元の世界では考えられない事だ。
 こうまで万能性多様性に富んでいると、科学技術が発展する余地などないだろう。
 アオが感心しながら授業に聞き入っていると、シュヴルーズが次は生徒に実演してもらいますと言いだし、それにルイズを指名した。
 とたんに教室内が騒然となる。
「先生、やめたほうがいいです。危険ですから」
 キュルケの言葉に続いて、他の生徒からも同様な言葉が出てくる。
「なぜです? ミス・ヴァリエールを教えるのは今回が初めてですが、彼女が努力家というのは聞き及んでいます」
「やります! やらせてください!!」
 困ったようにもじもじと躊躇していたルイズだったが、意を決して立ち上がった。
「その意気です、ミス・ヴァリエール。失敗を恐れていては何もできませんから。さあ、こちらに来てやって見せてください」
「はい!」
「ああ、なんてことなの」
 元気よく返事をするルイズに、キュルケは天を仰いだ。

 ルイズが前へと向かう間、教室内は大騒ぎになる。
 ほとんどの生徒が机の下に隠れるし、ルイズよりも小柄な青髪の女生徒など教室から出てしまってさえいた。 
 これで悪い予感を抱かないほうがおかしいだろう。
 杖を振り上げたルイズが呪文を唱え、石が光りだしたのを知覚したとたん、アオの体が動いた。

 お願い! 成功して!!
 願ったのはそれだけ。それだけを胸に、呪文を唱える。
 石に光が収束するのが見える。そしてこの反応は……。
 ああ、またなの。
 ルイズは絶望と共に目を閉じた。
 耳を打つ爆発音。
 体に染み付いた条件反射が、爆風に備えて身を固めさせる。

 そしてルイズは、床に押し倒された。

「…え…」
 いつもと違う衝撃に目を開ける。まず天井が見えた。
 横を見ると、アオの横顔が見えた。

 …前を見る。天井が見える。
 …横を見る。アオの横顔がある。

 ……前、天井。
 ……横、アオ……。
「……え、ええええええ?!」
 ルイズの白い肌が、首筋まで桜色に染まった。
 次の瞬間には体は全力で動いており、覆い被さっていたアオを跳ね飛ばして立ち上がった。
 なぜかファイティングポーズをとる。
「○×△□…」
 ルイズは顔を真っ赤にして、早口でまくし立てるのだが、残念、言葉になっていない。
 アオは安心させるように笑った。
「良かった。どうやら大丈夫みたいだね。爆発した時にはほんと焦ったよ」
 ルイズは、とりあえず自分の服装、床のホコリがちょっと付いている以外なんともないのを見た後、口を開いた。
「……守って、くれたの?」
「僕は、あなたの使い魔だからね。まあ、それでも……」
 アオは周りを見た。
「こんなんなっちゃったけど」
 シュヴルーズは、黒板に叩きつけられて、完全にのびている。
 爆発に驚いた生徒たちの使い魔がスタンピード、主の制御を離れての逃走や、喰った喰われたの大騒動に発展。
 教室内は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
 それを見て、ルイズは堂々と言った。
「ちょっと失敗したみたいね」
 その後の非難の声は、まさに嵐だった。

 メチャクチャになった教室をアオとルイズの二人が片付けていた。
 何も喋らず、ただ黙々と。
「ねえ」
 机を拭きながら、ルイズは言った。
「なに?」
 新しいガラスを運びながら、アオが答えた。
「……なんでもないわ」
 また黙々と、掃除が始まる。
「なんで」
 机を拭いていたルイズの手が止まる。肩がかすかに震えている。
「ん?」
 重たい机を軽々と持ち上げながら、アオが立ち止まる。
「何であんたは黙っているのよ! あんたも聞いてたでしょ、そうよ、わたしは『ゼロ』!! いつだって成功の確率、ほとんどゼロ。貴族なのにまともに魔法も使えない!!」
 キッ、とアオを睨む。
「笑えばいいでしょ! 蔑めばいいでしょ! なのに……あんたみたいな態度が一番むかつくのよ!!」
 ああ、そうか。
 ルイズの怒りを真正面から受け止めながら、アオは思った。
 この娘は、哀れみを嫌っているんだ。
「わたしだって、わたしだ…って…」
 少しだけ頬を膨らませて。少しだけ涙ぐんで。

「……ドラゴンだ。僕が好きなのは、ドラゴンだった。でかくて飛んで火を吹くやつ」
 ルイズの怪訝そうな表情を完全に無視して、アオは自分の中の憧れを口にした。
 歌うように。
「それは始め、ただの弱くて小さなトカゲでした。
 でも、空を飛ばなければいけないから、空を飛びました。
 でも、火を吹かなければならないから、火を吹きました。
 強くならなければならないから、強くなりました。
 トカゲはトカゲをやめようとがんばりました。
 来る日も、来る日も」
 アオの横顔があまりにも優しすぎて、ルイズは息を呑んだ。
「トカゲはいつまでたってもトカゲさと、誰かが言いました。
 でも、トカゲはあきらめません。
 来る日の果て、誰もトカゲをトカゲと呼ぶものはいなくなりました。
 トカゲはドラゴンになったのです。
 めでたし、めでたし」
「……なによそれ」
「僕の好きな昔話。……今まで忘れてたけど」
「忘れてたの?」
「忘れてた。何でだろうね?」
「変なの」
 ルイズはちょっと笑った。
「ほんとだね」
 アオも笑った。
「ねえ、ルイズ様。誰かが言っていたよ。他人がどう言おうと、だからどうした。今の今まで生きてきた人間を、死ぬまで努力していた人間を、他人が評するのは愚かだ、ってね」
 ルイズは理解した。
 こいつはただ、今の自分を認めてくれているのだ、と。
 そして励ましてくれたんだ。
 すっごいまわりくどくて、わかり辛い方法で。
 さっきまで怒っていた自分、悔しがっていた自分、そして泣いていた自分がバカバカしかった。
 だから笑ってやった。
「さあ、ちゃっちゃと掃除を終わらせるわよ。わたしはこんな所でグズグズしている暇はないんだから」
「そうだねルイズ様」
 机を運んでいくアオの背中に、照れながらルイズは言った。
「ルイズ、でいいわ。……なんか、あんたに様付けで呼ばれると背中が痒くなりそうなの」


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