あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

鋼の使い魔 幕間-04



『続・ギーシュの災難』
 目の前で妙齢の女性が取り乱したと思うと、目下の少女を掴んで何処かへ走り出してしまった…。
 『恋路多しグラモン』としてはいささか気にもなりながらも、ギーシュは何も言わずに突っ立っている。
 引きずられて行くルイズを、ぼんやりと眺めていたギーシュにタバサが声をかけた。
「今日はありがとう」
 抑揚少なき、実にタバサらしい語調だった。
 ギーシュは手を振って答える。
「いやいや、僕こそ感謝したいよ。いい勉強になったし…」
 正直これほど自分の魔法の精錬に夢中になったのは殆ど久しぶりの事だった。図面を引いたり、部品を作ってみたり、それを組み上げて一から錬金【アルケミー】で作り出したり…。
 ギーシュ・ド・グラモンの目は怠惰な放蕩貴族の目から卒業していた。
 そんなギーシュに気も引かれないタバサは、ベルトラックに下げているポーチの中から、一つの小瓶を取り出してギーシュに手渡した。
「…これは?」
「今日のお礼。私がシュバリエの仕事の時に使う薬。使うと元気が出る」
 ギーシュが普段、余り生気を満たしている風情でないことをタバサは知っていた。図書館で時間を過ごす時、疲れた姿でぼんやりとテーブルに突っ伏している姿を何度も見た事がある。
 ギーシュの手に渡された小瓶の中の薬は薄い水色をしている。空の青さを水で溶かすとこんな具合になるかな、とギーシュは思った。
「へぇ、そりゃあいいや。ありがとう。何から何まで…」
 タバサは首を振って、「いい」とだけ言った。
「…でも、そうか。元気が出る薬ね…」
 つぶやくとギーシュは無造作に小瓶の蓋を開けて、中の液体を揺らした。秘薬独特のなんとも言えない匂いが鼻腔を突く。
「どれ、それじゃ早速一口…」
「あ…」


 タバサが一瞬、何か言おうとするが、ギーシュは構わず小瓶の液体を一口飲み込んだ。
 タバサの目にはギーシュの喉が確実に含んだ薬液を胃に送り込んだ事を教える。
「ふぅ。…んー、なんだかスースーして、力が湧いてくるような…」
「違う」
「へ?……ん…んん?…」
 タバサがなんとなく、困ったような空気を漂わせているのに対して、ギーシュは薬の効果で徐々に疲労が弱くなっていくのを感じ満足していたが、それが段々と体の内側にふつふつと熱を感じるようになってくる。
「な…なんだか…身体が凄く熱いような…」
「使い方が違う」
「へ?」
「それは飲み薬じゃない。布に浸して匂いを嗅ぐだけでいい」
「えぇ?!そ、それは早く言って…うっ?!」
 一瞬呻いたギーシュは胸をかきむしるようにして蹲ってしまう。タバサは覗き込もうかどうしようか、迷っているように見える。
 そうしている間に、徐々にギーシュの呻き声が、どうやら大きくなってきていた。
「うぅ…熱い、熱い、熱い、熱いぃ~!」
 一際の叫び声を上げたギーシュに、キュルケとコルベールはようやく傍でなにやら変事が起きている事に気が付いた。
「何?」
「どうかしましたかな?」
「あーーーつーーーいーーー!」
「「?!」」
 ギーシュが野獣のように吼える。火が出そうなほど目を光らせて立ち上がると、ギーシュはコルベール塔前から猛然と走り出す。
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ~!!!」
 土煙を上げて走り去っていくギーシュ。コルベール塔前に呆然と見つめる三人が残された。
「ど、どうしたんでしょうなぁ、ミスタ・グラモンは…」
「さ、さぁ?なんでか判る?タバサ」
 話を振られたタバサは暫く無言のままポーチをまさぐると、静かにポーチの留め金を閉める。
「……知らない。薬を渡したら走り出していった」
 ふるふると首を振るタバサ。キュルケとコルベールは暫くの無言の後、
「そう、変なギーシュね」
「変ですなぁ…。…む、気が付けばミスタ・ギュスがおりませんぞ?」
「ルイズ追っかけてったのかしら?せっかく組み手の後で皆で飲もうと林檎水持ってきたのに。飲む?タバサ」
「飲む」
「ミスタ・コルベール、テーブルお借りしますわね」
「構いませんぞ…はて、しかしエレオノール君は何用だったのでしょう…?」
 かくしてタバサの記憶からこの一件が封印された。




 さて、コルベール塔前で一行が解散していた、ちょうど同じ頃。
「ハァ、ハァ、お姉様、私、もう限界ですぅ…」
 そこは女子学生寮の一室。部屋主は【香水】のモンモランシーである。
 貴族の令嬢らしい調度に薬品とガラス器具が目を引くモンモランシーの部屋の一角に、不釣合いな革のベルトが各所に取り付けられた、台のようなものが置かれており、なぜかそこに一年生ケティは四肢をベルトで封じられて貼り付けられていた。
「駄目よ?ケティ。『リリスの卵』の孵化までそのまま我慢しなさい」
「ああん、でもでもぉ、ハァ、女の子の大事なところがぁ、ギュンギュンしてぇ、どうにかなりそうなんですぅ…」
 息絶え絶えのケティは甘ったるく呻き喘いでいる。心なしか太ももをもじもじと擦り合わせていた。
 『リリスの卵』とは、モンモランシーが魔法書を見ながら作った風変わりな秘薬である。
 アメーバ状の魔法生物の一種で、メイジの消化器系内に寄生し、血液を養分に成長する。その代わりに興奮剤の一種を宿主に与える性質がある。
 そしてある程度まで成長すると、アメーバ体が分解されて腸内に拡散、宿主の消化機能を助ける効果があるのだ。
 もっとも、今ではもっと副作用の少なく、薬効の高い薬方が確立され、使われなくなったものである。
 ケティはモンモランシーが作った『リリスの卵』の臨床実験に付き合わされていたのだ。
 もっとも、既にギーシュとケティとモンモランシーの三人には『口に出すにはばかるような濃厚な関係』を築き上げてしまっており、三者の形成する歪で形容不可能なヒエラルヒーにおいて、ケティはモンモランシーの言葉にいいえと言えない体にされてしまっている。
 モンモランシーはケティの意思を大部分無視してこの人体実験を行っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
 ケティは既に『リリスの卵』の興奮剤効果で意識がかなり朦朧とし始めていた。今すぐ自分の体を戒めるものを総てかなぐり捨て、満月の森の中へ走り出したくなるような焦燥感や圧迫感に体を絡め取られている。
「ふふふ…そうやって磔にされて肌を赤らめて息を荒げているととっても素敵よケティ。しばらくギーシュも来てくれなかったし、お互い色々と溜ってくるものね…」
 不穏な科白を吐きながら、モンモランシーは磔のケティが緩く肌蹴ているシャツに、手を差し入れる。
 大の字に固定されたケティの体が跳ねる。
「あはぁっ!お姉様の手が、ひんやりしてぇ、きもちひぃ~」
「肌がとっても熱くなってるのね…」
 妹分で遊ぼうとモンモランシーの指先が、少女の胸元からシャツへ移動しようとしたその時。
 バッタン!と扉が壊れんばかりに乱暴に開け放たれた。
「「?!」」
 それに驚いた二人の視線が出入り口に集まる。そこには春先のオーグルのような険しい顔のギーシュが体から湯気を上げて仁王立ちしていた。
「「ギ、ギーシュ(様)?」」
 問われたギーシュはゆらりゆらりと寄り添っている二人に向かって歩いていく。歩きながら自分の胸倉を引っつかむと、悪趣味なシャツを無造作にひっぱり脱ぎ捨てた。
二人の目の前にたどり着いた時、ギーシュはなよりとした体の線とは裏腹に、ビキビキと筋の浮く上半身から湯気を上げ、人食い鬼もかくやの形相で二人に微笑んでいた。
「やぁモンモランシー。そしてケティ。暫く顔を見せなかったけど元気にしてたかな」
 何気ない挨拶だが、どこかギーシュは動物のような芳香を漂わせており、しばらくご無沙汰だったモンモランシーはもとより、薬で興奮状態のケティの正常な判断力を
根こそぎ奪っていた。
「ハァ~、ギーシュしゃま~」
 口角の端から透明な液体が垂れ始めているケティだった。
「暫く見ない内に随分息苦しそうだねケティ。戒めを解いてやろう」
 段々と口調が可笑しくなっているギーシュは杖を抜いてケティの拘束を解くと、そのまま担ぎ上げてモンモランシーのベッドに投げ付けた。
軽々と浮いたケティがベッドの上でバウンドする。
「あうっ」
「ちょ、ちょっとギーシュ」
 一瞬我に返ったモンモランシーだがギーシュはそれを無視してベッドに歩み寄る。
「さぁケティ。息苦しそうな君を一目見て僕はどうしようか考えた。こうしよう。君を骨の髄までむしゃぶり尽くす」
「はふ、はふ、はふ…」
 もうケティはベッドの上で四足をついて『おあずけ』を食らった犬になっている。
 どこか満足気なギーシュはゆらぁりと振り返ってモンモランシーを見た。
「ああそうだモンモランシー…」
 どろりとした目と動物臭のギーシュがモンモランシーを見る。
「今日はいろいろあってすこぶる調子がいいから、……『今日はお前が下だ』」
「は、はひっ?!」
 そう言ってけらけらと笑ったギーシュは、杖を一振りして蹴破ったドアを修復し、窓という窓を閉め切っていく。
そして真っ暗になった部屋に混乱したままのモンモランシーが、ギーシュの浮遊【レビテイション】でベッドに引き寄せられていく。
「はーはははは!沢山沢山啼かせてあげるからねー」
「い、いやぁ~!…………ぁ♪」



 その日、モンモランシーの部屋からは、ギーシュの高笑いと少女二人の艶やかな悲鳴が朝日が昇るまで耐えなかったという……。



 翌日。
 ギーシュは久しぶりに快眠感を感じて目を覚ました。カーテンの隙間から朝日が漏れ入っている。
(なんだかすごく楽しい夢を見れたような気がするなぁ…)
 寝起きのギーシュはぼんやりとそう思った。
 さて、起きたからには身支度くらいはしようと部屋を見渡すと、おや、ここはどうやら自分の部屋ではないらしい。
「…あれ?」
 かといって、見知らぬ部屋ではない。調度品からみて、どうやらモンモランシーの部屋、のようだ。
「う~…」
 どうやら自分はまた彼女達に捕まって不届きな一夜を過してしまったようだ…。
 正直言って今のギーシュはモンモランシーとケティを持て余していたのだった。好意を持たれるのはまったくもって嬉しいが、
愛されるより愛したいのが人の流れという奴で、二人の振舞はギーシュとしては『フォアグラにされるガチョウ』になった気分だった。
(さて、静かに部屋に戻らないと…)
 そう思ってベッドの毛布をはごうと手をかけたとき、毛布の下にうずくまっているモンモランシーかケティか知らないが、どちらかがギーシュに抱きついた。
「はう!」
 ビクッとわななくギーシュ。驚いていると、さらにもう一方の誰かが毛布のしたから腕を伸ばしてギーシュに張り付く
「はう!」
 さらにビクッとわななく。そして徐々に、毛布の下にいたケティとモンモランシーが顔を覗かせた。
「…や、やぁ」
 大体こんな状況に慣れてきたとはいえ、ギーシュの甲斐性ではこんなものである。
 いや、以前であればケティもモンモランシーも寝起きの頭でふにゃっと崩した顔で腕枕でもせがまれたりもするのだが、今日はどうやら、様子が違った…。
「…ど、どうか、したかな?」
 ケティもモンモランシーも、薄らと笑っている。
 そして何より、目がどんよりと濁っている。
「ね、ねぇ。何かって言ってくれないかな?『おはよう』とか」
 おっかなびっくり話しかけたギーシュに、ケティとモンモランシーはへにゃ、と笑顔を作る。
「「おはようございますごしゅじんさま」」
 ぴったりと声を揃えて返してきた時、ギーシュは石像のように硬直した。
 そして次の瞬間に毛布を全部剥ぎ取ってベッドから飛び出し、毛布に包まって部屋の隅に逃げ込んだ。
「これは夢だ、現実じゃない、寝るんだ、寝て起きればいつもの朝だ…」
 ぶつぶつと独り言の中に耽溺しようとしていた。
「ああ、ひどいわぎーしゅ。あんなにしてくれたのに」
「知らない!知らないぞ僕は!」
「つれないぎーしゅさま。きのうのことはわすれませんわ」
「忘れてくれー!っていうかこれは夢だ!夢だってことにしてくれー!!」

 ギーシュ・ド・グラモンは、二度と以前のプレイボーイに戻れそうもなかった。夢と現実の中間の存在になり、永遠に二人の仲をさ迷うのだ。
そして、夢だと思っても目が覚めないので――そのうちギーシュは、考えるのをやめた。

 なお、当日ギュスターヴと一緒に百貨店に行ってみる予定だったのだが、以上の理由によりギーシュは外出することはなかった。




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