あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無と狂信者-18



「ふーん、あんたもアンデルセンに置いてかれちゃったのね」
「あ、ああ」
ルイズは唇に指を当て何事か考えていたが、ふと笑顔になる。
「そ、そう。あ、あんたみたいな平民が傍にいても嬉しくなんてないけど。しょうがないわね!
あなたを私の召使にしてあげるわ!」
「召使?いやだよ」
才人に速攻で拒否され、ルイズはムッとする。
「何言ってんの?あなたアンデルセンの助手でしょ?アンデルセンは私のもの。よってあなたは私のものなの」
「いや、その理屈はおかしい」
などと限りなく不毛な言い争いをした後、才人はあきらめた。
「まあ、神父がいない間はお前を世話してやるよ」
どうもあの神父はこの少女に恩義みたいなものを感じているようだから、
彼に命を救って貰った恩がある手前できる限りのことはしようという気になった。
「……。ちょっと聞きたいんだけど」
「?何だよ?」
「私とアンデルセンと、どっちが大事よ?」
「神父」
即答され、ぐうの音もでない。しかし、気を取り直す。
「と、とにかく!とりあえずあんたはアンデルセンのいない間ちゃんとやるのよ!はい!洗濯!」
「はいよ」
才人はこの時、まあ何とかなるくらいの感覚でいたのだ。

その考えがチョコラテより甘いと知るのは少し後だが。



彼の生活は特に変わりは無かった。増えた仕事と言えば朝早くにルイズを起こし、
顔を洗い、着替えを渡し、洗濯をするくらいだ。アンデルセンは使い魔として
食事や授業についていくなどしていたが、身分は完全にただの平民である才人が
貴族の食堂や教室に入る訳にもいかない。よって結果として、

「暇だ……。」

となるのも致し方ないことである。
だが、そうは言っていられないという事で、彼は鍛錬に勤しむことにした。
いわゆる筋肉トレーニングや銃剣の素振りを行ってみる。
しばらくしてふと向こうを見ると、ベルナドット隊長が呑気に日向ぼっこに興じていた。
「暇そうっすね」
とりあえず声を掛けてみる。隊長もまた話し相手ができて嬉しいらしい。
「そうだよ! 暇なんだよ! なあ、ちょっとあのドラゴンに乗って町に行こうぜ」
訂正、足ができて嬉しいようだ。金は先のアルビオンで相当手に入ったものの、学院では使い道がない。
「セラスさんに乗せてもらえばいいでしょう?」
「こんないいお日様の日にか? それに女同伴で町に行ったらできないことがあるだろ?」
鈍い才人でも後者に重きがおされていることは簡単に分かった。
「でもセラスさんと一緒じゃなきゃできないこともあるでしょう」
「その発想は無かった」
どの途この間行ったばかりで町に繰り出す気もない才人は本題に入る。
「ちょっと組み手でもしません?」

木剣ごと吹き飛ばされ、才人は地面に尻餅をつく。
「痛たたた。手加減してくださいよ……」
「いや? お前が結構やるからよ。ちょっと大人気無かったな」
笑いながらベルナドットは才人の手を持ち引っ張り起こした。



噴水で顔を洗い、木陰で少し休む。
「初めて会った時よか力ついたんじゃないか?」
かつては文化系だった才人の体も手首が太くなり、腹もはっきりと割れ目ができている。
「うーん。何か普通より筋トレの効率がいいような……」
「お前再生者だろ? 超回復しやすいのかもな。アイシールド的な意味で」
「ああそうか(何で知ってんだ?)」
繊維が切れた筋肉が元に戻る時に勢い余ってもとの状態より増える。
そうすることで筋肉が増える訳だが、再生者はこのサイクルが早いのだろう。
「あとは結構実戦慣れしてきたか?」
何度かの命の危機がこの少年に戦う気構えをもたらしているのかもしれない。
ただ、それだけではこの急成長に説明がつかない気もする。
「すいませんね。付き合ってくれて。神父がいないと組み手の相手が」
「はあ、あの人も木剣つかうのか?」
「いえ? 銃剣ですよ」
「それ危なくないか?」
「刺さります」
お互いリジェネーターということで本気で刺し合うらしい。
それはワルド位で恐れはしないだろうとベルナドットは心中で納得する。
「どおりで結構傷があるのな」
才人の体には目立たぬものの無数の傷跡が残っている。
「隊長だって左目が」
そう言われベルナドットは遠い目をする。才人などとは比べ物にならない程長い時間彼は戦っていたのだ。
「ま、色々あるさ。戦ってればな」
しばらくボケっと宙空を見ている。本当にいい天気である。



午後になると才人とベルナドットは、偶々通りかかったコルベール先生に誘われ、彼の研究室にやってきた。
「これ、内燃機関じゃないか!」
「ほう、やはりそうか。君達の世界では実現されているそうだね。アーカード殿に教わったんだよ」
意外にもあの不死王の方が神父や隊長よりよほど熱心に彼女についているようだ。
こうやって技術についての話をする時は、隊長の普段は見せない博識に感嘆する。
戦場を生き抜く者の知恵として、ある程度の機械に関する知識は持ち合わせているらしい。
ただ、才人には少しだけ気になることがある。
ベルナドットとコルベール。仲好さげに話していても、どこか相容れない。
そんな妙な雰囲気を感じるのだ。

学院の授業が終わり、才人はある人物の元へ向かう。タバサだ。
彼女と共に本を読む。異世界に関する事柄を探す為である。
そして時たま彼女の希望で聖書を読ませている。もう一通り目を通した筈だが、
異世界で最も多く読まれている本ということで興味があるらしい。
この光景は実はそれなりに前、シルフィードの件以来の光景である。

ただ、そこに彼らを見つめる桃色の髪の少女が追加されたことは、
感覚が鋭敏なタバサはともかくとして、才人は気づかなかった。



厨房の片づけを手伝った後、中庭でまた訓練を始める。ふとそこに一つの影が近づいて来た。
「や、やあ」
「ギーシュ。どうした?」
「いやね。ちょっと……特訓でもしようかと」
「何でまた?」
「だってだね。あの神父や吸血鬼ならともかく、あまつさえ君やメイドまで活躍したのに
僕はほとんど活躍してないから、ちょっと危機感がね」
「いや、でもウェルダンテのお陰で合流できただろ」
「僕関係無いだろ?」
「そうだな」
才人は内心で彼の評価を上げた。トリステインの貴族は傲慢な人間が多いと思っていたが、
彼は意外にも努力家なようだ。
「よし、んじゃ、いっちょやるか!」
「おお!」

三十分後
「やっぱりワルキューレのイメージを固めるにはな、本物の達人の動きを学ばせる方がいいと思うんだ」
結論から言うとワルキューレ相手に才人は苦戦を強いられた。再生能力があるとはいえ身体能力はただの人であるから当然である。
ただし、ワルキューレの問題は硬さだけであり、硬度も銃剣に劣るものであるから、才人によって最終的には破壊された。
最も、ワルキューレを複数出されたら手も足も出なかっただろうが。
「達人と言っても誰かいるかね? 神父は不在だしあの吸血鬼はご免だ」
「俺だっていやだよ。いるだろ? 一人」
そう言われ、ギーシュは手を叩いた。
「あのメイドか!」



夜、中庭では、月明かりを頼りに、本人達たっての希望でサイトとギーシュがシエスタに特訓を受けていた。
青銅のワルキューレが、黒髪のメイドに突撃する。
「減点2!」
そう叫び、抜刀する。
「一つ!突撃ばかりで緩急がついていない!」
ワルキューレの槍での攻撃は往なされ、素早く懐に飛び込まれる。
「一つ!敵と自己の間合いを把握できていない!」
一瞬にして、青銅は輪切りになる。
「以上!研鑚を怠らぬように」
「わ、わかった」
「……口でクソたれる前と後ろにサーをつけろと言ったでしょう?」
「サー!イエス!サー!」
「はい、次はサイトさんですよ!」
そして彼は銃剣にて斬りかかる。しかし、少女によってあっさりと跳ね除けられる。
「トロイ!!何だそのへっぴり腰は!爺のファックの方がまだ気合が入ってる!」
「サ、サーイエスサー!!」
「もっぱぁつ!!」
「サー!!イエスサー!!!」
とまあこんな感じで、シエスタによりギーシュはぼこぼこにされたり
サイトは時々本当に刺されたりしながら島原式特訓を受けていく。一切の妥協はゼロである。
「よーし、ここまでで訓練は終わりです豚娘達。最後に一つ聞く。貴様らの仕事は?」
「「殺しだ!殺しだ!殺しだ!」」
その後、シエスタは悪鬼のような険しい顔から、一瞬にしていつもの温和な顔に戻る。
「はーい、それでは休憩にしましょうか。あ、牛乳持って来ますね」
そう言って急にいつもの彼女に戻るのが彼らの調子を狂わせた。
ギーシュは心底彼女に怯えているが、訓練を終えた今では優しい彼女である。
「に、二重人格というやつかな?」
「いやあ、仕事熱心なんだろ」
才人にとってみれば、神父に比べればなんぼかマシ位の感覚である。



「サイト! あんた私の召使の仕事はどうなったのよ!」
夜も更け、サイトがルイズの様子を見に行った所、何故か正座させられた。
「召使も何も。俺は神父の助手で、お前の召使でも下僕でも無い。
大体仕事も全部したし、プライベートまでとやかく言われる筋合いは無いだろ」
淡々と正論を述べられ、ルイズは不機嫌に頬を膨らませる。
「それは、そうだけど……。あんたタバサと一緒に居たりメイドと一緒に居たり……。」
「? それがどうしたんだよ?」
「何でも無いわよ!」
それっきり不機嫌になったルイズにどう対処していいかわからず、才人は頭を掻いた。
ルイズとしても、例えば彼が下僕だったり使い魔だったりすれば束縛できるものの、
初めてのそれらしい恋心にどう対処していいかわからないのだ。
(ていうか私、あの件謝ってないじゃない……。)
あの件というのは港町へ向かう途中にあったイザコザのこと。
正直言って彼の中では記憶の彼方に埋没していることだが、ルイズとしてはやはり気になってしまう。
「あ、あのね。サイト……。サイト?」
ルイズが振り向くと才人の姿は部屋の中から掻き消えていた。耳を澄ますと廊下から会話が飛び込んでくる。
「あ、サイト君。トランプやらない? 七並べ。マスターもキュルケちゃんも留守で」
「セラスさん。まあいいですけど……。そのトランプは?」
「ああ、森を歩いていたら沢山落ちていたのよ。それで三組ほど揃えてみたの」
「(まさか……。)まあいいですけど」
ルイズの眉間に青筋が浮かぶ。
(あ、あいつ……! ていうか何であいつ女吸血鬼と仲好くトランプしようとしてんの?
馬鹿じゃないの? アンデルセンに知られたら殺されるわよ?)
流石に殺されはしないし、アンデルセンもタバサとは仲がいいことを彼女は知らない。
「おーい、ルイズ! 一緒にやらね?」
「……いい」
そしてこのチャンスでも素直になれない彼女だった。



そのような日常が繰り返す筈だったのだが、二日程である事件が起きる。

「できた!!」
中庭の一角で才人はある物を完成させた。何のことはない。五右衛門風呂である。
早速火をつけ、お湯を沸かす。
「ウホッ!いい湯加減! それじゃ、入るか!」
やっとの思いで完成させた為、若干テンションが高くなりながら勢いよく漬かる。
「ああ……。いい湯だな……」
異世界での生活はそう不便でも無かったが、やはり故郷の物が恋しくなる。
「母さん……」
よく家族と旅行に行ったことを思い出す。そうしてしんみりとしていると、
不意に甲高い声で現実に戻された。
「きゅいきゅい! サイト兄様何コレ!」
「シルフィード。ああ、これは俺の世界のお風呂だよ」
「シルフィも入る! 入る!」
学院内で話すことを咎めるのも忘れ、才人は苦笑する。
「お前の図体じゃ入れないだろ」
そう言ってしまった所で、才人はある事を思い出した。
「舐めるなのね!」
「ちょっ! シルフィ! 待った!」
才人の制止も聞かず、シルフィードは呪文を唱え、妙齢の美女に姿を変える。
そしてピョンと飛び跳ね、飛沫を上げ湯船に飛び込んだ。楽しそうにはしゃぐも、才人はそれどころでは無い。
「ソドムとゴモラソドムとゴモラソドムとゴモラソドムとゴモラソドムとゴモラ」
などとうわ言のように繰り返す才人の顔に水がかかった。
シルフィードがお湯を掬いかけたのだ。



(こいつはドラゴンこれはまやかし こいつはドラゴンこれはまやかし)
脳内で自分に言い聞かせ、才人は正気を取り戻す。
「やったな! コイツ!」
精神的には小学生くらいなので妹のように思うことにした。自己暗示である。
そして久々におもいっきり、元の世界のようにはしゃぐことにした。

その姿を一人の少女が見ていたことが、彼の悲劇である。



翌日の昼間、広場にて。
才人が厨房からいなくなったことで、シエスタは少し落ち込んでいた。最も、彼は三食必ず厨房で食べるし、
家事などはシエスタと一緒にやっているのだが。それよりも不安なのは。
「ミス・ヴァリエール」
自分の恋敵の名を呟く。その瞳は赤々とした炎で彩られる。彼は今ルイズの召使のようなポジションにいる。
非常に頂けない。シエスタは母の教えを思い出す。
「綺麗なやり方で手に入らないなら、汚いやり方で手にいれる!
強引に行けばサイトさんの一人や二人!」
さてどうしてくれようか。と思案していると、不意に聞き覚えのある声が聞こえて来た。

「シ、シエスタ!助けてくれ!首輪が!首輪が!あ、あの女病んでやがる!」
彼は、当の思い人、平賀才人本人だった。
その首には、何か首輪のようなものが巻きついていた。
「サ、サイトさん。その首輪は……」
「シ、シエスタ!ルイズが!」
「そんな、サイトさん!私そんな首輪をつけられた涙目のサイトさん見たら何かに目覚めちゃいそ」
「何言ってんの?ねえ?何言ってんの?」
「じゃなかった。あの、それは?」
「聞いてくれよ! ルイズの使い魔見たいなことしてんだけどさ! タバサと一緒に勉強はまあする訳じゃん!
セラスさんと一緒に遊んだりする訳じゃん。何かあいつキレるのよ! それで俺が怒ったらさ。この首輪を……」
ああ、どうもあの子が焼き餅を焼いたのだな、ということで納得する。
「はあ、けどその首輪が一体どうしたんですか?」
「これは「犬」」
犬と呼ばれ、サイトはキャウと鳴いた。哀れにも今の彼は完全に牙が折られた飼い犬である。
「あ、あんたは私より小さい女の子や、あ、あんな女吸血鬼と。ていうかあんたアンデルセンの助手なら
ドラキュリーナに尻尾振ってるんじゃないわよ!さ、盛りのついた犬め!」
大体状況が掴めたシエスタは溜息をつく。付き合ってもいない女性にこうも愛されてはさすがに気の毒だ。
それにタバサは兎も角としてセラスにはベルナドットがいるのだからどうということは無いだろう。
「お、おまけにそのメイドとも……。やっぱりこれを買って正解だわ……。ヴァスラ!」
呪文を唱え、杖を彼に向ける。すると、サイトの体に電流が流れ、悶え苦しみ始めた。
「ちょ、ちょっと!ミス・ヴァリエール!いくらなんでもやり過ぎです!」
シエスタはルイズの手を叩き、杖を落とす。
「さ、サイトさんに酷いことする人は例え貴族といえども許しませんわ!」
その宣言に圧倒され、ルイズは正気に戻る。はっきり言ってやり過ぎた。サイトは脅えきっている。
「そ、それは。こいつが……」
「女の子と遊んだりする位なんですか!そのくらいで電流の流れる首輪をつけるなんてどう考えてもやり過ぎです!」
「……ご、ご免……。だってこいつ。青い髪の巨乳女と一緒に風呂に入ってたから」
その瞬間この場の空気が凍る。おもにシエスタによって。



「ミス・ヴァリエール。それはミス・タバサでは無いんですね」
「え、ええ。そうよ」
「もっと詳しく説明して下さいます?」
ルイズは説明した。サイトが夜になるとギーシュと一緒に訓練していること。
彼らがそれを終えた後、サイトが中庭に拵えた自作の風呂に入ったこと。
昨日それをたまたま発見したら、青く長い髪の妙齢の女性と一緒に入っていたこと。
「サイトサン?」
「は、はい!」
妙な迫力を出した彼女にビビりまくる少年。
「あー、あの女の人ですね。この前一緒に御飯食べてましたものね。ベルナドットさんもいたから
大して気にも止めてませんでしたけど。成程そういう関係でしたか、そうですか……」
シエスタはゆったりと背中に手を回す。するとそこからするすると黒い棒のようなものが出てくる。
才人にはそれが刀だとわかった。そして彼女は左手でそれを持ち、右手を切っ先に添えた。
「あ、あのシエスタさん?その構えは」
「憤!」
やたら格好いい掛け声と共にシエスタはその突きを敢行する。才人は間一髪避けたものの、その先にあった木は跡形も無く粉砕した。
「ふむ……。仕込み杖は携帯に便利だが強度がまるで玩具です。使用するならやはり日本刀に……」
才人は高速で逃げだした。

タバサとセラス、ベルナドットは部屋にて遠出の準備を始めていた。タバサが実家から召集された為だ。
使い魔達もおおよその事情は知っているので黙って追従する。そして準備が出来た時、才人が飛び込んできた。
只ならぬ様子に身構える一同。代表してベルナドットが応対する。
「どうしたんだ。」
「いや、あの」
「ヴァスラ!」
突然痺れ始める才人。そして何を思ったかその状態で目の前のベルナドットにしがみ付く。当然電流が伝わる。
「ちょ、ちょっと待て!あばばばば」
「ちょ、たいちょおぼぼぼぼ」
さらに彼にしがみ付かれたセラスは虚空を掴もうとするも、何もない。タバサは無表情で本を開いた。



「シ、シルフィードオオォォォーー!!
才人は窓から飛び降りた。地面にぶつかる寸前で風竜に拾われる。
「きゅいきゅい。どうしたのねお兄様」
「い、いや別に何でもない」
原因の竜に笑って誤魔化す。別に彼が一緒に入ろうと誘った訳では無く、彼女が勝手に入って来たのだが、
それをここで言ったところでしょうが無いし、この竜に落ち込まれてしまっては申し訳が無い。
しかし才人は知らなかった。実はこの首輪に魔法が届く範囲を未だ抜け出した訳では無いことを。
「ヴァスラ!」
「ぎゃああああああ!!!!」
「きゅいいいいいい!!!?」
才人は一緒に感電し暴れたシルフィードに振り落とされ、地面に危ない感じで叩きつけられる。
タバサは流石にまずいのではないかと思ったが、才人は元気に逃げだしていた。

ミス・ロングビルは火の塔から出てきた。結局、あの破壊の杖を元に戻してここで働き始めた。
おそらく破壊の杖を宝物庫に戻したのが、土くれのフーケの最後の仕事だろう。
もう足を洗うことに決めた。
正直言って気持ちは暗い。子ども達は来たものの、ティファニアはどうやら事故によって海に落ちたらしい。
少女がフライでも使えたら心配いらなかったが、生憎少女の魔法は全て爆発してしまうのだ。

 嘆いても仕方が無い。私は信じている。あの子が生きていると。
 だから、あの子が見つかるまで、私があの子達を守るのだ。



ふと中庭を見ると、彼女の命の恩人である少年が見える。
最強の吸血鬼から、敵である私を助けてくれた少年。
「何してるんだい……?」
どうやら電流の流れる首輪をつけられているのかのたうち回っている。
さらにはメイドに剣を突き立てられ今にも泣きだしそうだ。
その姿は港町の件が嘘のように情けない。
「しょうがない……」
目立つのは賢くないが、かといって恩人を捨て置いては女が廃るというものだ。
そしてフーケ。今の名はロングビルが杖を取り出した。

「な、何で怒ってるのか分からないけど俺が悪かった! すいませんでした! 殺さないで下さい!」
「分かりません。殺します」
「ちょ!!!」
無慈悲な死刑宣告がシエスタの口から出る。
「こんにちはサイト、そしてさようなら」
ルイズが一層魔力を込めた杖を振り上げ、才人の体に一層強力な電流が流れる。
「ぎゃあああああ……。ああ?」
電流が突然感じられなくなり、下を見る。見ると、その悪魔のような首輪が地面に落ちていた。一部が土になっている。
「全くどうしたと言うのですか!大丈夫ですか?あなた」
呆然とする才人は、近寄って来た女性を見やる。たおやかな大人の女性といった感がする彼女は優しく彼を抱き起こした。
美人の女性に助けられ、彼は見とれたように赤くなる。
「ちょ、ちょっと!あ、あなたサイトの何よ?」
そうかサイトというのか、とその少年を見やる。彼はロングビルの背に隠れ震えていた。
あまりにも情けなくて同情してしまう。
「彼の何も無いでしょう。見ず知らずの人が危ない目にあったら普通は助ける。それだけです。」
心中ではどの面下げて言うのだと笑ってしまう。彼女は元強盗で、かつては彼を殺そうとしたのだ。



「さあ、大丈夫ですか?」
「え、ええ、まあ」
天の助けに少年は飼い主を見つけた仔犬の様な眼で見る。こんな子どもに助けられたと思うと情けない。
才人はロングビルを見やる。顔は知っていた。どこか気品のある顔立ち。大人の女性といった感じの魅力。
しかし、その物腰にはどこか神父を感じさせる。それに何故か初めて会った気がしなかった。
「あの……。どこかで会いましたか?」
「さあ、というかそこそこの頻度で会っているのでは?」
「いや、そうでなく……」
ふといやな予感がして後ろを振り向く。黒髪のメイドと桃色の少女は触れる者を凍て付かせるオーラをはなっている。
そして悟った。根本的なところは何も解決していない。
逃げなければ、殺される。
「シルフィードーー!」
しかし、風竜はさっき本人からすれば原因不明の雷撃を喰らったので、遠くでイヤイヤと首を振る。何ともいじらしい。
「いや、ほら、首輪とれたから!大丈夫だから!」
「「逃がすかーー!」」
また追いかけっこを始める。サイトはたまらず叫んだ。
「だれか助けてくれー! 神父!アーカードさん!コルベール先生!リカルド!ギーシュ!誰でもいいー!」
だんだん頼る者が頼りなくなりながら、虚空に手を伸ばした。
彼に同情するべきか、彼が名前も知らない筈のブラジルの特殊部隊隊員より評価されないギーシュに
同情するべきかは微妙な所だ。どちらにせよ哀れな少年に、天の助けが舞い降りる。
「う?うおお?!」
才人の体がふわりと宙に浮いた。



がっしりと才人の腕を掴んだのはベルナドットだった。そこはセラスが引っ張る、籠の上。
彼にレビテーションをかけたのはタバサだった。
「うおお!神様仏様タバサ様!ありがとうございます皆さん!」
「言い過ぎ」
口ではそう言いつつも満更ではなさそうだ。
「いやあ、助けてくれてありがとう。つうか何で女の人と話をしたくらいでああも怒るの?
同じ女性として君の意見を聞きたい!」
「嫉妬」
「SHIT!?確かに糞ったれだよ畜生!ジーザス!」
どうも怒りの余り会話のキャッチボールができていない。
「?んで?これからどこ行くんだ?タバサ達」
タバサは溜息と共に説明する。
「今から少し仕事がある。よってガリアに向かう」
そこでこの少女がガリアからの留学生であり、騎士の称号を得ていることを思い出した。
「そうか……。なあ。ついて行っていいか?」
彼女はじっと彼を見る。何を言っているんだ。とでも言うような顔だ。
「いや、どうせこのまま学院に居てもおそらく死亡するからさ、
あいつらのスーパーヤンデレタイムが終わるまで。いいかな?」
「危険な任務。覚悟はいい?」
危険と言う言葉に今までの情けない顔から、アーカードやワルドに挑んだ時と同じ顔になる。
「危険?女の子が危険なことするってのについていかない訳にいかないだろ?尚更行くよ!」
その言葉にセラスとベルナドットの顔に笑みが浮かぶ。
そしてタバサ達主従とサイトは一路ガリアに向かった。

「ちょっとメイド!あんたのせいでサイト行っちゃったじゃない!」
「そ、そんな!もとはと言えばミス・ヴァリエールがあんな首輪を……。」
醜い争いを聞き流し、マチルダは豆粒となったサイト達を見やる。
「あんなのに助けられるとは……足洗って正解だね」
自己の選択の正しさを改めて認識したのだった。






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