あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔はメイド-07



 この頃、学園の様子がおかしい。
 シャーリーは、そう思った。
 学園のあちこちで、自分の使い魔とコミュニケーションを取っている生徒たちを見かけるのだ。
 それだけなら別に普通なのだが、その接し方がいつもと違う。
 ある女子生徒はカエルにリボンをつけて難しい顔をしているし、小太りの男子生徒は昼間からフクロウを飛ばせて芸でも仕込んでいるみたいだ。
 ギーシュとかいうキザな男子生徒はヴェルダンデと名付けている大きなモグラと、まるで恋人みたいに見つめあっている。
 遠目から声は聞きとれないが、どうも甘い言葉でもささやいているようだった。
 モグラに対して。
 ハッキリ言って、すごく変だ。
 キュルケはサラマンダーのフレイムに、ぼうぼうと炎を吐かせている。
 全体的に、まるで怪しいサーカスの練習でも見ているようだった。
 「はぁい、シャーリー」
 と――シャーリーを見つけたキュルケはニコニコ笑いながら、手を振ってきた。
 シャーリーは黙って、丁寧に一礼をした。
 悪い人ではないとわかっているが、主人のルイズとは中が悪いし、お色気満点な雰囲気がちょっと苦手なのだ。
 それに、
 「きゅるきゅる……」
 サラマンダーのフレイムが、その虎みたいに大きな体をシャーリーに摺り寄せてきた。
 その態度は虎というより猫みたいだった。
 シャーリーは大いに困る。
 十三歳の乙女にしてみれば、犬や猫ならともかく、火を吐くお化けトカゲに懐かれても、あんまり嬉しくはない。 
 おとなしいのはおとなしいが、見かけが怖い。
 いいかげんで慣れてはきたが、やっぱり苦手だ。
 向こうに敵意や悪意が皆無なのだから、なお困りもの。
 「一体何をやってるんだ、って顔ね?」
 キュルケはニコリとしながら、周りの生徒たちを見る。
 「いえ、その……」
 シャーリーが口ごもると、
 「これは、品評会に備えての特訓よ。みんないいとこ見せようって必死になってるのよねー」
 「品評会、ですか?」
 どういうものだろう?
 シャーリーは?を浮かべた。
 名前や、周囲の行動からして品評の対象となるのは、どうやら使い魔たちらしいが。
 「そう、そういう毎年恒例の催しがあるのよ。生徒たちの召喚した使い魔を、学院中にお披露目するわけ。色んなゲストを招いたりしてね。うーん、ちょっとしたお祭りみたいものかも?」
 ふーん、そんなことやるんだ……。
 などと感心していたシャーリーだったが、キュルケが言った次の言葉で硬直する。
 「ところで、あなたも何かやるの?」
 「え?」
 「だって、あなたルイズの使い魔でしょ? 二年生は全員参加するきまりだし」
 「ああっ」
 シャーリーはつい声をあげ、あわてて自分の口を押さえる。
 忘れていた……。
 シャーリーは自分の右手、使い魔の証であるルーンを見つめた。
 今や完璧にルイズ専属のメイド、という認識しかなかったが、シャーリーはルイズの使い魔なのだ。
 主もこれをほとんど失念してしまっているので、無理もないことなのだが。
 「……」
 シャーリーは呆然とする。
 どうしよう、どうしよう……。
 品評会といったって、何をすればいいのだ?
 やっぱり何か芸でもしてみせないのとやばいのだろうか?
 そういうものがないと、まずい……ひいてはルイズにとってマイナスになるのではないか。
 自分の出来ることと言えば、家事くらいのものだ。
 キュルケのフレイムみたいな、『芸』は持ってないし、できない。
 シャーリーが硬直していることに気づいたキュルケは、ちょっとまずいと思ったのか、
 「ま、まあそんなに深刻にならなくてもいいじゃない?」
 と、フォローするものの、今更である。
 シャーリーは深刻な顔のままだった。
 (あっちゃあ……。やっちゃったわ。この子、真面目だからねえ……) 
 失敗したなあ、とキュルケは片手で頭を押さえる。
 フレイムはいまだにすりすりしている。
 いいかげんにしとけ、サラマンダー。
 そんな時だった。
 急に使い魔たちの様子がおかしくなった。
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ出し、落ちつきがなくなる。
 「ちょっと、どうしたのロビン?!」
 「おおい、クヴァーシルーー!?」
 「な、何をあわてているんだい、ヴェルダンデ!?」
 「ラッキー二世、逃げないでくれーー?!」
 それはフレイムも同じで、脅えるようにして、シャーリーの後ろで身を小さくした。
 「ああ、これは……」
 キュルケは何か納得したような顔で、空を見上げる。
 ばさり、ばさり、と大きな羽根音が響き、少し空が暗くなった。
 巨大なワイバーンが自分の巣にでも戻るように、学院内に降りてきた。
 いつ見ても大した威容である。
 わあ、とシャーリーはワイバーンを見上げる。
 (モード……。ミス・モリエール、帰ってこられたんだ)
 雌のワイバーンが着陸すると、その背中から主である少女が身軽な動作で飛び降りた。
 長い青髪がばさりとひるがえる。
 イザベラ・ド・モリエールだ。
 他の生徒たちはあわてて距離を置く。
 中には使い魔と一緒に逃げ出した者もいた。
 使い魔同様、主もまた恐れられているようだ。
 「冗談じゃないよ、あのクソ親父、変な用事言いつけやがって……」
 イザベラはブツブツ言いながら、ぱんぱんと衣服の埃を払った。
 「はぁい♪ どうだった? おうちは」
 キュルケは笑いながら、恐れ気なくイザベラに近づいていく。
 「最悪だよ」
 何があったのか、イザベラは吐き捨てるように言った。
 気のせいか、その顔にはどこか照れがあるようにも見えた。
 「お土産は?」
 「どこのお子様だよ、お前は」
 おどけた態度で両手を出すキュルケに、イザベラはふんと鼻を鳴らして言った。
 「で、青い髪のご令嬢、品評会に間に合うように帰ってきたってとこかしら?」
 「はあ? ひんぴょうかい?」
 イザベラは一瞬何だ、それはという顔をした。
 「あー、そんなのあったな……。面倒くさいね、あたしゃパスだ」
 どうでもいいという風に頭を掻く。
 「あら、せっかくこんなにも素敵な使い魔がいるのに、もったいないわ? モードのすごさをアピールするチャンスじゃない」
 「こいつにゃ、品評会に出すようなお上品な芸当はできないよ。戦場だったら、そのへんのへっぽこドラゴンに負けない働きをするだろうがね」
 そういうイザベラの脳裡には、きゅいきゅいとやかしましい風竜の幼生が映っていたが、キュルケにわかるわけもなかった。
 「やりようはあると思うけど」
 キュルケは微笑して、いかにも狂暴でございますという風貌のグレートワイバーンを見る。
 それを感じてか、モードがぐるるとうなった。
 「……品評会といえばあんたのフレイム……おい、何やってんだ、そいつ?」
 イザベラはシャーリーの影に隠れているフレイムを見て、眉をひそめた。
 いくら隠れようとしたところで、シャーリーの小さな体にフレイムが隠れきれるわけがなく、その姿はほとんど丸見えである。
 隠れているのが、大きな岩ならともかく、自分よりも小さなメイドの少女なので、傍目からすると情けないことおびたただしい。
 「……いつもはこんなことないんだけどね? シャーリーがいるから、甘えちゃってるのかしら? この子シャーリーによくなついてるし……」
 キュルケは使い魔を軽く睨みつける。
 「フレイム、いいかげんでこっちにきなさい。いくらなんでも、ちょっと情けないわよ?」
 「ちょっとどころのレベルじゃないと思うがね――」
 イザベラは冷たい目でフレイムを見た後、シャーリーの顔を見た。
 「ん? お前はヴァリエールの使い魔」
 「は、はい」
 「ふーん」
 イザベラは、ずいとシャーリーに近づいた。
 「お前も出るのかい、品評会に」
 「い、いえ、あの……。わかりません」
 「ふん。そのへんはご主人様の聞かなくッちゃわからないか」
 イザベラは軽く笑って、シャーリーの焦る顔をじっと見つめる。
 「特技も何もないんで、そんなモンに出されたところで困る? どうしようって顔だねえ?」
 「……」
 図星を突かれ、シャーリーはうなだれた。
 「ちょっと、あまりいじめちゃダメだよ? この子、ルイズとは違うんだから」
 キュルケが助け舟を出した。
 「別にいじめてるわけじゃないさ。それにヴァリエールをいじめてるのはむしろお前だろ」
 イザベラはシャーリーの右手を取った。
 「見たところ、お前は獣に好かれやすい特質があるみたいだ。もしも芸がないってんで困ってるのなら、鳥さん、動物さん、助けてとお祈りしてみな?」
 「……?」
 この人は何が言いたいのか?
 シャーリーはイザベラの意図がつかめず、困惑するだけだった。
 「そしたら、助けてくれるかもしれないよ? 色んな連中がさあ」
 「そ、そうでしょうか……?」
 いくらなんでも、そんな都合の良い話なんかあるものだろうか?
 シャーリーはちょっとばかり腹が立った。
 自分は、天使でも聖者でもないのに、祈ったくらいでそんなことできるわけがない。
 「信じられないってのなら、今度試してみるんだね」
 そう言うと、イザベラはモードに向かって、パチンと指を鳴らした。
 すると、モードに積まれた荷物の一部がもこもこと動き出し、何かが飛び出してきた。
 それは小さなグリフォンの姿をした人形……ガーゴイルだった。
 ガーゴイルはまるで生き物みたいに空を飛び、イザベラに近づいてくる。
 その前足には一本の酒瓶をつかんでいた。
 イザベラは酒瓶を取ると、無造作にシャーリーに突き出した。
 「ほら、ガリアの土産だ。とっときな」
 にひひと笑い、押しつけるようにしてシャーリーに渡す。
 シャーリーは驚いたが、それを押しいただき、馬鹿丁寧なお礼を言って、その場を辞した。
 「あなたもけっこういいとこあるじゃない」
 キュルケはにこりとして、イザベラの肩に手を置く。
 「普段の私にいいとこがないみたいな言い草だね?」
 「悪いところ上げるほうが早いのは確かね」
 「うっせえ」
 「ほら、まず三つ。口が悪い、下品。それに短気」
 「ふん」
 「ところで、あなたアレはシャーリーにあげたのよね?」
 「あ? ああ」
 「でも、本人はそう思ってないと思うけど」
 「何でだよ?」
 「だって、さっきお礼の時に、代わりましてお礼を……とか言ってたもの、きっとルイズへのお土産って受け取ったのよ」
 それを聞いたイザベラは、しまった、と宙を見上げる。
 「ああ、そうか……。いや、別にいいけどな」
 「ところで、なんか疲れてない? あなた」
 キュルケはイザベラの顔を横で見て言った。
 「疲れてるよ。クソ親父の面倒ごとをやらされてね」
 「……それって、あなたのお父さんよね?」
 「ああ」
 そう言ったきり、イザベラは口をつぐんだ。
 キュルケは溜め息をつく。
 この悪友は時折実家の愚痴をこぼすくせに具体的なことは何も言わない。
 何かしらの理由があるのはわかるが、
 (そろそろ話してくれてもいいと思うけどねえ……)
 褐色の女は、秘密を隠す悪友を見て、微苦笑をもらした。


 さて、シャーリーはいうと。
 ルイズの部屋にワインを届けていた。
 「は? イザベラが私に? どういう風の吹き回しかしら?」
 シャーリーからイザベラのワインを見せられ、ルイズは首をかしげた。
 キュルケの予想通り、シャーリーはワインをルイズへの贈り物と受け取ったのだ。
 イザベラが、
 「あんたにやるよ」
 と、きちんと明言していなかったせいもある。
 「まあ、いいわ。棚にしまっておいて」
 「はい」
 シャーリーはワインをしまった後で、
 「あの、ルイズ様……」
 遠慮がちに、品評会について、訊ねてみた。
 ルイズは最初のほうこそ、
 「? 品評会?」
 な、顔をしていたけれども……。
 「――あっちゃああ……。すっかり忘れてたわ」
 ルイズは乱暴に頭を振りながら、渋い顔になってしまう。
 シャーリーは何だか悪いことでもしているような気分になって、少しおっかなびっくりにルイズを見た。
 (品評会かあ……。何かするっていってもねえ……)
 他の使い魔と違って、人間の少女であるシャーリーにはギャラリーにアピールできるものが……ない。
 考えてはみたが、これだというものは思いつかなかった。
 アピールできないということは、沽券にも関わる。
 しかし、ルイズにしたって、今さらそんなことを言ったってどうにもならないことはわかっていた。
 シャーリーのせいで良くも悪くも肩の力が抜け出した今のルイズは、
 ――使い魔のおひろめでヴァリエール家の三女にふさわしき晴れ姿を。
 などという思考には行き難くなっていた。
 まったくないということはないが、そこまで神経質になることはなかったのだ。
 大体、そんなことをして何になるのかという思いもある。
 使い魔はメイジの力をあらわすバロメーターみたいなものだが、その結果をどうこういっても仕方がない。
 クジとは違う。
 召喚するメイジの実力に見合ったものがやってくるわけだから、召喚した対象を怒ってもまったくもって無意味なのだ。
 だから、何がこようと自分の実力を冷静かつ謙虚に受け止めねばならない。
 『感情的』が服を着て歩いているようなルイズがこんな風に考えるのは、シャーリーの気性が大きい。
 ある意味で、シャーリーはもはや単なる使い魔を超えて、ルイズにとって親友であり、妹のようなものだった。
 この異境の地では、シャーリーはルイズ以外に頼れるあてがない。
 彼女を召喚してしまったルイズには、シャーリーを色んな意味で守る義務がある。
 貴き者、貴族は平民を守らねばならない。
 自分に仕える従者という面もあるが、それ以上にその守ってあげなくてはならない存在だった。
 護るべき存在というのは、人間を変えるのだ。
 もしもいつか妄想に出てきた駄犬みたいな少年が使い魔だったら、悪感情はさらにヒートアップし、鞭を振り振りちーっぱっぱになっていたかもしれないけど。
 「あの……」
 シャーリーが話しかけようとすると、
 「まあ、なんとかなるでしょ」
 軽い口調でルイズは言った。
 開き直ったのである。
 「壇上で隠し芸するなんて決まりがあるわけじゃないし」
 口調が妙にすっきりして、明るかった。
 その笑顔に、シャーリーはホッと安堵の息を吐いた。
 同時に、微笑が口もとに浮かんだ。



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