あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの赤ずきん-15


「実はね、バレッタちゃん……」
任務に関する、詳細をバレッタに説明しようと語りだしたところ、ルイズが遮った。

「あ、あのね、バレッタ。私たちは、アルビオンっていう国に行って、とある人から手紙をもらってくるの、
 ね?これだけ分かれば十分よね?うん、明日の早朝行くことにしたから、今日はもう準備して寝なくちゃ!うん」

焦ったように、早口で言ったルイズ。その様子に僅かばかりか、怪訝な表情になったアンリエッタが、ルイズに言った。

「まあ、ルイズ・フランソワーズ。バレッタちゃんにも、ちゃんと話を聞く権利がありますのよ。
 それに、この任務は重大な責任を負うと共に、あなた方の生命の危険まで付きまとうこととなるのです。
 何も知らずに、とはいかないはずじゃないかしら。それに、こんな無理を頼むのはわたくしなのです。
 ですから、せめてわたくしの口からバレッタちゃんに説明させて頂戴」

「し、承知しました、姫さま……」

アンリエッタの言っていることはもっともだ。もっともではあったが、
正直言ってルイズは口から魂が抜けだしそうな、絶望的にな気分になっていた。
何故か?それは、ルイズにとって、最善策への道筋を断ち切られたようなものであったからだ。
ルイズが構想していた最善策とは、この任務において、バレッタには最低限の情報しか渡さずに従事させることで、
行動の制限を図る、というものであった。
しかし、この目論見も所詮絵空事、もとから上手くいくとはルイズ自身も考えていなかった。
ルイズが、バレッタからの追及を逃れられなければ、
たとえアンリエッタが、バレッタに情報を渡さなくとも変わらない。
そして、当然として、バレッタからの追及に抗えるという甘い考えはルイズの中にはなかった。
なるべくしてなったというわけだ。
やはり今回の任務の間に、バレッタとの決着をどうにかしてつけなければならないと、ルイズは決心した。

自分がどうにかしなければならない、他の誰かがやってくれるのを期待するわけにはいかない。

ルイズ自身、どうして自分が今このような決心ができるのか、内心不思議に思った。
以前の自分ならば、どうだろうか?

「ルイズ?話を進めてもいいかしら?」

「そーよっ、バレッタも早く聞きたいんだから、ぼーっとしてちゃメッなんだからね?ルイズおねぇちゃん♪」

考えにふけっていたルイズは、二人の言葉ではっとした。

「……ええ、申し訳ありません姫さま、お話しを続けて下さい」

一度、息を吸って、気分を切り替えたアンリエッタは、語り始めた。

「バレッタちゃん、実はわたくし、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」

「ゲルマニアに?まっさかー、まじでぇ?」

後半は呟くように、勿論アンリエッタに聞こえないように言った。
度々、町に出ては、世界情勢についても調べていたバレッタは、ゲルマニアのことも知っていた。
たしか、トリステインの東北に位置する大国。
金さえあれば、メイジでなくとも貴族になれるところ、とバレッタの記憶にはあった。
なるほど、これはちょうどいい、とバレッタは思った。
帝政ゲルマニア。バレッタが、今一番に興味を寄せる一つの国である。事が進めば転がり込んでくる利潤は大きい。
思わず、舌舐めずりをしたくなる心境であった。


だが、バレッタを除く二人の表情は暗い。
ルイズは唇を噛んで悔しそうに言った。

「あんな野蛮な成り上がりどもの国に、姫さまが……」
「仕方がないの。同盟を結ぶためなのですから」

アンリエッタは、ハルケギニアの政治情勢をバレッタに説明した。
トリステインの隣国である、アルビオンの貴族たちが反乱を起こし、現王室が今にも倒れそうなこと。
反乱軍が、勝利を収めるようなことがあれば、次にトリステインに侵攻してくるであろうこと。
そして、それに対抗すべく、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶことになったこと。
同盟のために、トリステインのアンリエッタ王女がゲルマニア皇室に嫁ぐこと……。

これらのことを、淡々とアンリエッタが語っている間、ルイズとアンリエッタの間には重苦しい空気が充満していた。
無理もなかった、国の存亡のためとはいえ、自身が望まぬ政略結婚をしなくてはならないのだから。気が沈んで当然である。
二人の間に、しばしの間沈黙が続いた。
しかし、一人だけ、その話を聞いて違う感想を持った者が居た。
もちろんバレッタであったが、可愛く、幼げで、無垢な少女を演じる彼女は、何も漏らさず、すべてを自分の心の中に収めた。
バレッタは素早く懐からハンカチを取り出し、涙を拭うような仕草をした。

「うう……グスン。ヒメサマかわいそうなのね、好きな人と結婚できないなんて……カワイソウだよっ、えーんっ!えーん」

自分の身の上話を聞いて、大声を上げて泣いてくれるバレッタに、思わずアンリエッタは目頭が熱くなる。

「わたくしのために泣いてくれるの?バレッタちゃん。ホントに心が純粋でキレイなのね。今の王宮内とは大違い。
 でもいいのよ、好きな相手と結婚するなんて、物心ついたときから諦めてますわ」
「姫さま……」
「礼儀知らずなアルビオン貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んではいません。
 二本の矢も、束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね」

アンリエッタは呟いた。
「……したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を、血眼になって探しています」

「もし、そんなのが見つかっちゃったらぁ……大変だよねっ」

「ええそうよ、バレッタ。本当なら、このことがあんたに知れる時点で……、ゴホン!ゴホン!
 と、ともかく、残念なことに、姫さまの婚姻を妨げる材料があるって話よ」

アンリエッタはルイズの言葉に、悲しそうに頷いた。
「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救いください!
 ……すべては、すべてはわたくしが以前にしたためた一通の手紙が原因なのです」

「手紙、ねぇ」
「そうです。それが、アルビオンの貴族たちの手に渡ったら……彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」

ふむふむ、といった感じでバレッタはアンリエッタの話を聞いている。
結婚を妨げるような要素。バレッタには、大方の予想がついていた。

「どんな内容の手紙か聞いて……んー、聞いちゃ不味いよねぇ、ヒメサマ?」

「……そうね、それは言えません。でも、それを読まれでもしたら、ゲルマニアの皇室はこのわたくしを赦しはしないでしょう。
 ああ、婚姻は破綻し、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にて、
 あの強力なアルビオンに立ち向かわねばならなくなるでしょう……」


アンリエッタは続けた。
「そして、その手紙は手元にはないのです。実はアルビオンにあるのです
 敵の手中にあるわけではないのですが、手紙を持っているのは……」

そこでアンリエッタの言葉につまった。これから言う内容がアンリエッタにとって心苦しいものなのか、
胸の前で組まれた両手に力がこもっているのが、ルイズにも見て取れた。
そして、ルイズは助け船を出すように、アンリエッタの言葉の続きを言った。

「手紙を持っているのは、アルビオンの反乱勢じゃないの。反乱勢と骨肉の争いを繰り広げてる、
 王家のウェールズ皇太子がお持ちなのよ」

「ああ!破滅です!ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱勢に囚われてしまうわ!
 そうしたら、あの手紙も、明るみに出てしまう!そうなったら終わりです!
 同盟ならずして、トリステインはアルビオンに……!!」

「なーるほどねぇ、つまりヒメサマが頼みたいっていうのは……」

「本当ならばこんなこと頼めるはずがありません、貴族と、王党派が争いを繰り広げている、
 アルビオンに赴くなんて危険なことを頼むなんて……」

「姫さま!先ほども申し上げましたが、私はこの身がたとえ朽ち果てようとも、何処なりと向かいますわ!
 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、
 見過ごす由はありません、何なりと申し付けてください。必ずや成し遂げて見せます」

ルイズは膝をついて恭しく頭を下げた。
それに、負けじとバレッタは、アンリエッタの腕を両手でしっかりと抱き、満面の笑みを浮かべ、そして上目遣いで言った。

「うんっ!バレッタもおんなじだよっ♪ヒメサマためなら火の中、水の中。どこへだっていくんだからっ!」

火の中、水の中?うそつくのも大概にしときなさいよ、バレッタ。
あんたが赴くところは、金の匂いがするところだけでしょうにっ!

心の中でしか、ツッコミをいれることができないこの状況にルイズは、半ばイライラしていた。
おもいっきりバレッタの本性を姫さまにぶちまけてやりたい、という衝動に駆られる。
しかし、二人の行動をそのまま受け取ったアンリエッタは感極まった様子で言った。

「ああ!なんて、頼もしいのかしら、これが誠の忠誠と友情です。わたくしはこのことを生涯忘れはしないでしょう。
 そしてわたくしは、きっと、この困難な任務をやり遂げてくれると信じます」

「はい、一命に変えましても必ずや、アルビオンのウェールズ皇太子を探し出し、手紙を取り戻してみせましょう」
「……んーでさぁ、これって結構急ぎだよね?」
「そうよ、バレッタちゃん、アルビオンの貴族たちは、王党派を国の端っこまで追い詰めていると聞き及びます。
 まことに残念ながら、敗北も、もはや時間の問題でしょう」

ルイズは真顔になると、アンリエッタに頷いた。
「では、先ほど申し上げた予定通り、明日早朝に、ここを出発いたします」

頷いたアンリエッタはそれから、バレッタの方を見つめた。バレッタは相変わらず作り物の笑みで顔面を固めている。

「かわいらしい、使い魔ちゃん」
アンリエッタは、バレッタの手を包むように両手で取ると、身を少しかがませてバレッタの顔の高さにあわせた。
「なーにぃ?ヒメサマっ」

「わたくしの大事なおともだちを、よろしくお願いしますね?」

そう言われたバレッタは、握られている手の中を見た。


先ほどまで、アンリエッタが身につけていた指輪を渡されたのだった。

「母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りと思って持っててね、
 でもお金が心配なら、売り払って、旅の資金に当ててもいいし、仕送りしてもいいわよ」

ルイズは驚いたような声を上げた。
「姫さまっ!いいのですか?」

指輪を受け取ったバレッタはまるで、宝石商が品を見定めるような目つきで指輪を見た。
穴があくほど指輪を見たバレッタは、珍しく驚いたというような、呆然とした顔をしている。
その様子に、アンリエッタはニコリと笑顔で返答した。
バレッタは、深々とアンリエッタに頭を下げた。

「わかりました。必ずや、この任務果たしてみせますわ、アンリエッタ王女」

アンリエッタもルイズも目を丸くさせて驚いた。
急に大人びた声で、バレッタがそう言ったのだから驚くのも無理はない。
ルイズも、なにか異様なものを感じた。今までとは何かが違う、そう思えた。

もしかして、これは本心から言ってる?そんなまさか、ありえないわよ、ありえるはずがないのよ……。

しばし静寂が辺りを包む。
その静寂を破ったのは、ルイズでもアンリエッタでも、ましてやバレッタでもない、他の誰かであった。
部屋の入口の扉が僅かに開いていた。軋むような音を立て、扉は動いた。
ルイズが警戒態勢を取るが、何故かバレッタのほうは無関心であった。

「誰っ!姿を見せなさいよ!!」

ルイズが侵入者に対し、怒声を張り上げるが、何も返答はない。
代わりに何か得体のしれない、そして大きなものが扉の間から、冷たい石床を這ってうごめいているのが見て取れた。
そしてその物体は、ルイズ達が居る部屋に入ってきた。
よくよく目を凝らして見てみれば、それはまさしく人間だった。

「ギーシュ!?なんであんたがここに!?」
そこには、口に猿轡をされ、スマキ状態で横たわっているギーシュが居た。

そして、体をくねらせ、必死に這って動いてルイズ達に向かっていっていた。
アンリエッタは、まるでこの世のものではない物体を見るような眼をし、絶句している。

床に転がっている彼の名は、ギーシュ・ド・グラモン。かつて、バレッタと嫌々ながら決闘を行い、悲惨な結末を味わい、
果てには、持ち金すべてをバレッタにむしり取られた、ルイズと同じく、バレッタ被害者の会の一員であった。

「あーもうっ!生きのイイ芋虫ちゃんねぇっ、じっとしとけなかったの?」

ルイズが驚きの声を上げた。

「あんたがやったの!?」
「うん、まあ、そうよっ。部屋に来る大分前から気づいてはいたんだけど、さっき部屋を出た時に、チョチョイっとね。
 でもね、この『知らない』男の人ね、ヒメサマを尾行してたんだからしかたがないよねっ?
 バレッタもね、ホントーは、こんなことしたくなかったのよぉ、……グスン。でもね、ヒメサマの為だものっ、
 この手がどんなに汚れよーとも、ヒメサマを思う者ならばこそ、なんでもしなきゃってなっちゃうのは当然でしょ?
 ねぇーー?ルイズおねぇちゃんっ?」


こんな風に同意を求められれば、肯定しないわけにはいかない。ルイズは答えた。

「え!?え……ええ、そうね。……まあ、今回は尾行してたギーシュが悪いのかしら、……運とかね」

「でも、この男性はどなたですか?ルイズには面識があるようですが?」

「ええと、それは……」
ルイズは迷った。このまましらばっくれた方がいいのではないかという気もした。

必死に動き続けていたせいか、ギーシュの口にはめられていた猿轡がずれ、
ギーシュは、言葉を発することができるようになった。そしてギーシュは、開口一番にある言葉を叫んだ。

「ぼくも仲間に入れてくれ!!!一緒に連れて行ってくれ!!」

「……あぁーあ」
肩をすくめながら、呆れたような声でバレッタは言った。
ルイズは額を手で押さえている。

「聞いた?今の?確実にヒメサマの任務について聞いちゃったってことじゃなーい?いわなきゃいーのに。どうするっ?」

もっと遠くに縛って置いとけばよかったと、少し後悔しているバレッタであった。
アンリエッタの任務については、どうあっても、知られる者を増やしてはならない。
もし、ギーシュから何らかの形で情報が漏れるようなことがあれば、任務につくにあたってその危険性が跳ね上がるからだ。
そうなると、詳細を知ってしまったギーシュの扱いに非常に困る。

「なんで……もう。面倒は、バレッタだけで十分すぎるのに……」

気分を落ち着けるためにルイズは一度息を吸った。そしてギーシュに向って言った。

「ギーシュ。あなたの処遇だけど、良くて私たちの任務が終わるまで軟禁、悪くて縛り首、
 てっとり早いのは、バレッタに処分を任せることだけど、どれがいい?せめて意見ぐらいは聞くわ」

「ちょ、待ってくれたまえ!!なんで一緒に連れて行っていくという選択肢がないんだね!?
 ルイズ!ちょっと君は、バレッタ君に毒されているんじゃないかい!?」

「……な!?何バカ言ってんのよ!?そそそそ、そんなのないわよ!!!断じてないんだからねっ!!」

「ルイズおねぇちゃん?」
ルイズは、バレッタの言葉で正気にもどった。
「え、ええ。……そうね。今はそれどころじゃないわね。でも、どうすればいいかしら?どうする?バレッタ?」


「えーぇ?そこで、わたしに聞くのぉー?ふーん。まっ、とりあえず七つほど考えたよっ。
 まず一つ目はぁー、ちょっっと大き目のワルキューレを作り出させて、その中に押し込むでしょ?そしてぇ……」

淡々と、それでいてどこか楽しそうに処刑法を語るバレッタに、ギーシュの顔面は瞬く間に蒼白になった。
この二人に判断を委ねたらならば、自分の存在が抹消されかねないと感じたギーシュは、
アンリエッタに執り成してもらおうとした。

「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう!」

アンリエッタが、きょとんとした顔でギーシュを見つめた。

「……グラモン?あのグラモン元帥の?」
「はい、息子でございます。姫殿下」

ギーシュはスマキになったまま、顔だけで起こし、きりりと真剣さを出した。
でもしまらない。縛られて床に転がっているギーシュの姿は海老フライにしか見えない。

「任務の一員に加えてくださるなら、これはもう、望外の幸せにございます」

熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。
「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、
 あなたもその血を受け継いでいるようね。ではお願いしますわ。ギーシュさん」

「じゃあ、縄を解いてあげないとねっ!モチロンわたしががやるよっ」

そう言ってバレッタは、ギーシュに駆け寄り、ルイズとアンリエッタに背を向ける形で座り込んだ。
ビクリと、ギーシュの体に緊張が走る。もはやギーシュにとってバレッタはトラウマの対象であった。

「あんたは邪魔、ついてくんな。マジでブッ殺すわよ。今すぐ撤回しろ」

座り込んだバレッタは、縄を解くふりをしながら、ギーシュにしか聞こえないように耳元で囁いた。

「『ぼく、やっぱり足手まといになるんで行きましぇーん』って言うんだよ、今すぐ。そうしたら、殺るのだけは勘弁してあげる」

ギーシュはゴクリと、息のみこんだ。
今の状態は、蛇に睨まれた蛙のようなものであった。返答を誤れば、丸のみされる。
だが、何もしないわけではなかった。ギーシュは自分の心を奮い立たせ、喉から絞り出すように言った。

「ぼ、ぼぼくは、一度君に完膚無きまでに叩きのめされ、金で命乞いまでした……」

「あぁん?そんなこと聞いちゃいねぇのよ?さっさとやめるって言えばいいっつってんだろ。無駄話すんなっ」

バレッタの警告に、あえて無視してギーシュは続けた。

「ぼくはっ!……ぼくは……君が怖い」

「……」

「今になっても、あの時ことを思い出すと震えが止まらなくなって眠れない夜もある」

バレッタは何故かギーシュの言葉を黙って待っていた。


「正直に言えば、君とは関わりたくないというのが本心だ。だけど、どうなる!?これからのぼくはどうなる!?
 ……ぼくは君が考えている以上に、あの時多くのものを失った。 だけど、失ってわかることがあるのを知った」

「……で?」

「失う前の自分に足りていなかったものも知った。失ったものの大切さも知った。
 そして、それがどうすれば手に入るのかを考え……その時君のことが頭に浮かんだ
 惨めな醜態をさらした僕が前に進むには、もう一度君と相対さなければ……いや、乗り越えなければならないんだ。
 逃げたくないんだ、貴族として、メイジとして、そして何より一人の男として。
 そのために、お願いだ。一緒に連れて行ってくれたまえ、頼む、必ず役に立ってみせる」

「テメーなんか弾避けにもならねーよ」

バレッタは、決意を露わにしたギーシュに対し、バッサリと切り捨てるように、残酷な、そして辛辣な言葉で迎え撃った。
だが、ギーシュの目はしっかりと、狂気の源泉であるバレッタを見つめていた。
そして、はっきりと、強い言葉でバレッタに言い放った。

「そうだ、ボクは弾避けなんかにはならない。だからこそ君について行く」

縄を解く演技をしていたバレッタの手の動きがピタリと止まる。

首がぐるりと動き、目を見開いてギーシュを見据えた。

またこの眼だ、とバレッタは思った。あのフーケ襲撃の夜に見た、あの眼と同じ。
目的を見据え、腹をくくった人間ほど始末に負えないものはない。

何かが切れる音が、部屋の中で響いた。
それは、ギーシュを縛っていた縄がバレッタのナイフによって切られる音だった。
ギーシュは、おもむろに立ち上がると、バレッタと向かい合った。

「邪魔になったら殺す」

「ありがとう、そうならぬように善処するよバレッタ君」

バレッタは、くるりと、片足でターンをすると笑顔でルイズに言った。

「じゃあ、ギーシュおにぃちゃんも一緒っていうことでいいよねっ?ルイズおねぇちゃん?」

「え!?え、ええ……姫さまが決めたことだもの、私は反論なんかないわよ。私はね……」

ルイズは驚かずにはいられなかった。
なぜならば、ギーシュを連れていくのを一番嫌がるのはバレッタであるはずだったからだ。
だが、その疑念は打ち切った。自分のすべきことは何も変わらない。
真剣な声でルイズは言った。


「では、姫さま。明日の朝、アルビオンに向かって出発するとします」
「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスルに付近に陣を構えていると聞き及びます」
「了解しました。以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」

「旅は危険に満ちています、アルビオンの貴族たちはあなたがたの目的を知ったら、
 ありとあらゆる手を妨害しようとするでしょう」

「まっ、そしたらこっちも、ありとあらゆる手を使えばいーんじゃないっ?ギーシュおにぃちゃんに自爆してもらうとか」

ぼそりとアンリエッタに聞こえないように、バレッタが呟いた。ルイズはしみじみとした調子で言う。

「あんたのお得意よね。悪役っぷりなら文句なしだし」

アンリエッタは、机に座ると、羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためた。
そして、自分が書いた手紙をまじまじと見つめていたが、そのうちに悲しげに首を振った。
アンリエッタは自分の中で何か思うことがあったのか。
決心したように頷き、末尾に一行つけくわえた。それからちいさな声で呟く。

「始祖ブリミルよ……この自分勝手な姫をお許しください。でも、国を憂いても、わたくしはやはり、
 この一文を書かざるをえないのです……。自分の気持ちに嘘はつくことはできないのです……」

密書だというのに、まるで恋文でもしたためたようなアンリエッタの表情であった。
ルイズには何も言うことができなかった。ルイズにもわかってしまったからだ。
その手紙を送る相手がアンリエッタにとってどんな人物か。
アンリエッタは書いた手紙を巻いた。杖を振る。するとどこから現れたものか、巻いた手紙に封蝋がなされ、
花押がおされた。その手紙をルイズに渡す。

「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して下さい。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」
ルイズは深々と頭を下げた。
「この任務にはトリステインの未来がかかっています。無事に任務を完遂できるよう祈ります」

両手にVサインをつくり、ニコニコ顔でバレッタは言った。

「まっかせといてー!ヒメサマっ!!ラブリンハンターバレッタちゃんに任せておけば間違いなしよっ!!」

アンリエッタは満足げな表情をしているが、
ルイズとギーシュの乾いた笑い声を上げている。
この任務、どう控え目に考えたとしても何事もないはずがないのは、二人ともわかりきっていることだった。




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