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ウルトラ5番目の使い魔-15

 15話
 剣の誇り (後編)

 奇怪宇宙人ツルク星人 登場!


 軍民合わせて100人近い犠牲者を出した恐怖の夜が明けた。
 市街地は警戒する兵士達が行きかい、戒厳令が解除された後は、それらのほかに、いくつも運ばれていく
棺や涙に咽ぶ遺族達の姿が人々の不安をあおり、平日だというのに出歩く人は少なく、用が済めば家に
立てこもって固く鍵をかけて閉じこもり、噂は噂を呼び、不安は幻影の殺人鬼像を作り出し、トリスタニア全域が
見えない恐怖に包み込まれていた。


 そんななか、王宮内での兵士達の鍛錬場では、銃士隊隊長アニエス、副長ミシェル、そして才人が
抜き身の剣を構え、対ツルク星人のための作戦を練っていた。
 才人からの情報により敵の正体は知れたものの、たった一体でトリステイン軍すべてを翻弄するような
相手には正攻法では勝ち目がない。そして、人間大で暴れまわる相手にはウルトラマンの援護も期待できない。
トリステインの人々は、今初めて自分自身の力のみで侵略者を打ち倒さなければならない事態に向き合おうとしていた。

「ひとつの技にはひとつの技で勝てる。しかし二段攻撃には三段攻撃しかない」

 俊敏な動きと、両手の刀を使った二段攻撃を操るツルク星人を倒すには、かつてウルトラマンレオが用いた
三段攻撃の戦法を使うしかない。だが、ウルトラマンレオほどの身体能力の無い人間の身で三段攻撃を
習得するのは一朝一夕のことではない。
 そこでアニエスが考案したのが、三段攻撃を変形させて一段を一人が受け持つ、三身一体の戦法であった。
 これは、星人の第一刀を最初の一人が受け止めた後、二人目が星人の二段攻撃を防ぎ、間髪いれずに
三人目が星人にとどめを刺すといったものであった。
 だが、現状唯一星人に対抗できそうなこの作戦が決定したとき、銃士隊の隊員達に別の意味での緊張が
走った。それは、この戦法が三人で行う以上、誰がやるのかということだった。剣技の順から考えて、隊長、
そして副長は間違いない、問題は三人目である。皆が息を呑んでアニエスの発表を待った、しかしその口
から出たのは信じられないような言葉だった。 
「この作戦はまず、変幻自在に繰り出される奴の第一撃を受けられるかどうかにかかっている。その役目を
少年、お前がやれ」
「えっ、俺が!?」
 いきなりアニエスに指名されて才人はとまどった。ツルク星人の討伐には参加するつもりではあったが、
手だれぞろいの銃士隊の隊員達を差し置いて自分が選ばれるとは思ってもみなかった。
 当然、他の隊員達からもどよめきが起こる。大事な先鋒をいきなり現れたよそ者に任せるとは、隊長は何を
考えているのだ。


「奴の攻撃は並みの人間では見切りきれん。腹立たしいが、私の見た限り奴の太刀筋を見切れる動体視力を
持つのはお前だけだ」
「は……いえ、了解です!」
 そうまで言われては才人にも断る理由は無かった。形ばかりの敬礼ではあるが、精一杯のやる気を示す。
 隊員達も、昨晩のことを思い出して口をつぐんだ。押されていたとはいえ、まがりなりにも星人と打ち合いが
できたのはこの少年だけ、隊長は現実的な判断をしたのだと。

「よし、二撃目はミシェル、お前だ」
 これは妥当な人選であったので文句は出なかった。副長という肩書きが示すとおり、彼女の剣技はアニエスに
次ぐものであることは誰もが知っている。
「はっ! ですが、彼のインテリジェンス・ソードはともかく、我々の剣は奴の剣との打ち合いに耐えられませんが」
「王宮の魔法使いに依頼して『固定化』の魔法を限界までかけてもらう。一撃くらいは耐えられるはずだ。そして、
とどめの三撃目は私がやる。いいか、奴は今晩も必ず現れるだろう。それまでになんとしても三段攻撃を会得
しなければならん。覚悟しろ!!」
 三段攻撃を会得できるまで地獄を見せるというアニエスの叱咤に、才人とミシェルは身を引き締めた。


 そして地獄の特訓はスタートされた。
 方法は、手だれの銃士隊員二人の連続攻撃を才人とミシェルが受け止め、アニエスの攻撃につなげると
いうものだったが、当然真剣を使った実戦さながらのものであり、しかも三人の間に一糸乱れぬ完全な
連携が要求されたために、訓練は難航した。

「馬鹿者!! 反応が遅い、それでは二撃目に間に合わんぞ」
「小僧!! それでは二撃目をミシェルが受けるスペースが無いぞ!!」
「もっと剣の根元で受けろ、深く受け止めなくてはすぐに逃げられるぞ!!」
「本物の星人はもっと速いんだ、目を見開け!! 瞬きをするな」

 アニエスの怒鳴り声がする度に最初からやり直され、日が高く昇るころには相手役の隊員達も10回近く交代し、
二人とも肩で息をしているような状態になっていた。
 もちろん、アニエス自身も二人に合わせて攻撃できるように突進を繰り返し、全身汗まみれになっているのには
変わりない。相手役の隊員には代わりがいるが、この三人に代役はいないのだ。

 だがやがて、あまりに過酷な訓練に隊員のひとりが根を上げて叫んだ。
「隊長、こんなことやっても無駄です。こんなことであの悪魔に勝てるわけがありません!」
 隊員達の間には、昨夜の戦いの絶望的な様子が焼きついていた。人間をはるかに超えた星人に対する恐怖感は
地球人もハルケギニア人も変わりない。
 すると、ほかの隊員達もそうだと言わんばかりにアニエスに詰め寄ってきた。
「魔法を軽く避けて、20メイルはジャンプするんですよ。人間に捉えられるわけがありません」
「そうです。それに、無理に相手しなくても、そのうち巨大化したところをウルトラマンAに倒してもらえばいいじゃ
ありませんか、第一、元はといえばウルトラマンAがあいつを取り逃したのが原因なんですし!」


 口々に特訓の中止を訴える隊員達を、アニエスは黙って聞いていたが、やがて大きく息を吸うと、剣を振り上げ
これまでにない声で一喝した。
「黙れ!! 今弱音を吐いた奴、全員首を出せ。いつから銃士隊はそんな意気地なしばかりになった!! ウルトラマンに
任せればいい? 今荒らされているのは誰の国だ!! 我々は何のために陛下から剣を預かっているのか忘れたか」
 阿修羅のようなアニエスの怒り様に、隊員達は完全に気圧されて言葉を失った。
「し、しかし……」
 それでも、何人かの隊員はまだ食い下がろうとしたが、そこでデルフリンガーを杖にして休みながら見守っていた
才人が割り込んだ。
「恐らく星人はもう2度と巨大化しないよ」
「な、なに、なんでそんなことがわかる!?」
「巨大化したところでウルトラマンAには敵わないのがわかっているからさ。だから小さくなって直接人間を襲い
にかかってきたんだろう。ずる賢い奴さ」
 隊員達は絶句した。
 確かに、ツルク星人はウルトラマンAの敵ではない。だがそれはエースと比較すればの話で、星人の身体能力と
武器は人間のそれをはるかに上回る。現に、たった一晩暴れただけでトリスタニア中が恐怖に包まれ、都市機能にも
影響が出始めている。
 アニエスは全員を見渡して言った。
「このまま奴の好きにさせたら、1月と経たずにトリスタニアは人の住めない死の街になる。そうなれば、もう後は
ヤプールの思うがままだ。魔法では奴を捉えられん以上、剣には剣を持ってあたるしかない。そして、それしか
ないなら、我々がやらずに誰がやる!? 誰がやるんだ!!」
 もう、反論できる者などいなかった。
「だがチャンスは、奴がウルトラマンから受けた傷が癒えていない今、おそらく今晩が限界だろう。それを逃したら、
もう奴を倒す機会は永遠にやってこない、不満を垂れる前に、自分達の剣にかかった重みを考えてみろ!」
「…………」
 無言で、特訓は再開された。
 誰も一言も発せず、ただアニエスのやり直しを命じる声だけが何度も響いていた。


 そして、太陽が天頂に達したとき。ようやく休憩の許可が下りた。
「よし、午前の訓練はここまでだ。全員、食事と休息を充分にとっておけ」
 アニエスはそれだけ言うと、訓練場を立ち去っていった。

 銃士隊は、食堂を使うこともあるが、野戦の訓練もかねて訓練場で空を見ながら食事をとることも多い。
 メニューは、黒パンに牛乳、あとは野菜スープと干し肉にチーズと、栄養価は考えられているが味気ない
ものばかりだったが、学院でルイズに"犬のエサ"を食わされ慣れている才人には全然問題なかった。


 それに、特訓のせいで疲れているからまずいなどという味覚はどこかに飛んでいた。空腹は最高の
調味料とはよく言ったものである。
 いや、というよりも才人にとって味覚より視覚のほうが腹を満たしていたかもしれない。なぜなら、
いっしょに食事をとっている銃士隊の隊員達は全員若い女性の上に、一人の例外もなく美人揃いである。
そんななかに一人だけ男が混ざっていたら、どちらを向いても花畑でちょっとしたハーレムのようなものであった。
 これを学院に残っているWEKCの少年達が見たら、死ぬほどうらやましがるだろうし、ルイズが見たら
灼熱怪獣ザンボラーのごとく怒り狂うだろうが、幸せいっぱいの才人の脳髄はそんなことに気を使うキャパシティはない。

 やがて、食物を全部胃袋に放り込んで満腹になった才人は、次の訓練開始までできるだけ休んで
おこうと芝生に腰を下ろしたが、そのとき突然後ろから声をかけられた。
「おい貴様」
 振り返ると、そこには銃士隊副長のミシェルがいた。
「あ、なんですか?」
「立て……ふん、貧相な体つきだな。始めに言っておく、私は貴様のことが気に食わん、確かに貴様の
能力はこの目で見た。昨日結果的に助けられたのも認める。しかし私はどこの馬の骨とも知れん奴に
背中を預けて戦うつもりにはなれん」
「まあ、そりゃそうでしょうね」
 頭をかいて苦笑しながら才人は答えた。
 傷つく言葉だが、才人はミシェルの言葉を否定する気にはまったくなれなかった。自分の人並みはずれた
剣技はガンダールヴとかいう訳の分からない使い魔のルーンのおかげだし、昨日今日会ったばかりの奴を
信用して命を預けろというのがそもそも無茶なのだ。
「だが、隊長の命令である以上、私はそれに従って戦わねばならん、それが銃士隊副長である私の
義務だからな。しかし、お前は銃士隊ではなく、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だ。本来はこの戦いに
なんの義務も責任もない。ならば貴様はなぜ主人を置いてまでここに来た? なぜ何の関係もないはずの
戦いに自ら命を張ろうとする。それだけは答えてもらおう」
 才人は、ミシェルの問いに苦笑いすると、きまずそうに、だが真っ直ぐに目を見据えて答えた。
「別に、そんなたいした理由はないです。ただ、俺は知識から星人が等身大で人間を襲うことを知っていて、
トリスタニアの人々が狙われるかもしれないことがわかっていた。だから、どうしても不安でほっておくことが
できなかった。それに、望んだわけじゃないけど、俺には人よりうまく武器を扱える魔法をかけられちまったから、
力が無かったから何も出来なかったなんて言い訳はもうできないんです」
「はっ、呆れたな、そんなことのために貴様は死ぬかもしれない戦いに駆け込んできたわけか」
 ミシェルの見下す目がさらにきつくなった。
「だから、たいした理由は無いって言ったでしょ。まあ、強いて言うなら……命がけで俺達を守ってきてくれた
ウルトラマンに、少しでも答えられるようになりたい、あんなふうに強くなりたいと思ったからです」
 才人は心の奥にあるあこがれをそのまま口に出した。
「そうか、だがそのために死ぬことを怖いとは思わんのか」
「そりゃ怖いです。本当はみんなまかせて知らんふりをしていたい。けれど、ここで逃げ出したら、
俺は自分だけじゃなくて、ずっとあこがれてきた自分のなかのウルトラマンまで裏切っちまうことになる。
そうしたら、俺はもう俺じゃいられなくなる……ウルトラマンを真っ直ぐに見ることができなくなる」


 ミシェルは、その答えをじっと聞いていたが、やがて呆れが呆れを通り越して感心にいたったように
苦笑いすると、やや声のトーンを落として言った。
「ふん、臆面も無くそんなことを言えるとはたいしたものだ。貴様はよほどの馬鹿か、それともよほどの
ガキか……だがまあ想像していた以上の答えはいただけた。今回限りだが、貴様に私の背中を
預けてやろう」
「あ、期待にそえるように頑張ります!」
「だが勘違いするなよ。私はまだ貴様を信用したわけじゃない。この作戦の要は貴様が奴の第一撃を
抑えられるかどうかにかかっている。次の訓練で完璧にそれを身につけてみろ、いいな」
「はいっ!!」
 元気良く答えた才人に、ミシェルもようやく相貌を崩してくれた。
「ふ、元気だけはいいな。そうだ、ついでにもうひとつ答えろ、ウルトラマンはお前のいた国とやらでも
人間を守って戦っていたそうだが、なぜ彼らは命を賭してまで人間のために戦うのだ?」
「それは、俺にも詳しくはわかりません。ウルトラマンが人間に語りかけることはほとんどないんです、
ただ……」
「ただ……?」
「ウルトラマンは……みんなすごく優しいから」
 才人は目を輝かせてそう答えた。ウルトラマンは、ただ戦うだけの戦士ではない。悪意のない怪獣の
命は奪わずに、時には人々の命を守るために盾となって敗北をきしたり、卑劣な罠に落ちたりもする。
けれども、そうした無言の優しさがあるからこそ、人間もウルトラマンを信じて、共に力を合わせて
戦えるし、無条件のあこがれを向けることができる。
 ウルトラマンは決して全知全能の神ではない。いや、むしろ人間にとても近い存在なのだ。だから、
言葉はなくとも、人々はウルトラマンと心をかよわすことができる。
「優しいから……か」
 ミシェルは、少なからず自分の中の価値観が崩されていくのを感じていた。優しさ、ずいぶん長い間
忘れていた気がする言葉だった。
「じゃあ、俺からもひとつ聞かせてください。ミシェルさん、貴女はなんのために剣を握ったのですか?」
 すると彼女は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべると言った。
「私は、恩人のためだ。私がすべて失い、存在すら無くなりかけた時、その人が私をすくいあげてくれたから
こそ、今私はここにいられる」


 それから数十分後、改めて特訓は再開された。
 相変わらず、アニエスの怒声が飛び、同じことが繰り返されていたが、互いに腹を割って話し合った
おかげか、才人とミシェルの間には午前中には見られなかったお互いへの配慮が感じられ、第一撃目から
二撃目へのつなぎ合わせがみるみる上達していった。
 そのうち、依頼してあった固定化した剣がふた振り届けられた。見た目は変わらないが、強度は鋼鉄
以上に強化してある。これなら宇宙金属製のツルク星人の剣とも打ち合えるだろう。
 そして、太陽が山陰に没しようとしている時刻、三人とも肩で息をし、隊員達もほとんどがへばっている
そのとき。

「! できた!」


 もう何百回目になるかの繰り返しの末、遂に三人の連携は完成を見た。相手役の隊員二人は
吹き飛ばされて芝生に横たわっている、アニエスの剣だけが訓練用の木剣でなかったら二人とも
死んでいるだろう。
「よし、今の感覚を忘れるな。いいか、今晩中にケリをつける、もうこれ以上一人の犠牲も出させはせん!!」
「はいっ!!」
 ミシェル、才人、そして銃士隊員達の声が響き渡る。これで準備は整った、待っていろツルク星人。


 そして、太陽が姿を隠し、再びトリスタニアに恐怖の夜が訪れた。
 市街地は闇に包まれ、人の気配はない。人々は日が落ちると同時に家の鍵をかけて閉じこもり、
まるでゴーストタウンのようなありさまになっていた。
 それだけではない。街を守るべき魔法衛士隊も兵士も、夕べの惨劇を思い出して捜索が及び腰に
なり、いざ星人が現れても戦えるべくもなかった。
 だがそんななかを、銃士隊は闇の中、目を梟のように研ぎ澄ませ、どこかに潜んでいるであろう
ツルク星人を求めて警戒に余念が無かった。
 凍りつくような時間がゆっくりと過ぎ、双月さえ地平に消える闇夜。
 突如、闇夜に一発の銃声がこだました。
「出たな!!」
 それは敵発見を知らせる合図であった。すぐさま街中に散らばっていた全銃士隊が駆けつける。
場所は、市街中心ブルドンネ街の大通り。星人はその中央にいた。
「いたぞ!!」
 通りの両側から銃士隊員達が星人の逃げ道を塞ぐように布陣する。見ると、星人の顔面について
いた火傷の跡が昨日に比べて小さくなっている。やはり、チャンスは今夜しかない。
 連絡の銃を撃ったと思われる隊員は星人のそばに倒れていた。しかし死んではいない、斥候が
倒されることを避けるために、アニエスは前もって全員に『灰色の滴』というマジックアイテムを
渡していた。これは体に降りかけると、ごく短時間ではあるがその者の存在を近くにいる者の視界から
消し去る効果を持つ、欠点としてはその間一切身動きしなくては効果が無くなるということと、メイジの
ディテクトマジックには見破られてしまうという点であるが、星人から隊士の命を守るには充分だ。
 ツルク星人は、その隊員を探していたのだろうが、新たな敵を察知するとすぐさま臨戦態勢に入った。

「いいか、チャンスは一度、我々と奴、どちらの剣の重みが勝るか、思い知らせてやるぞ!!」
「「おうっ!!」」

 アニエスの声とともに、3人は星人へ向けて突撃を開始した。
 先頭に才人が立ち、デルフリンガーとともにガンダールヴのルーンが光る。未知の魔法の力で強化
された彼の視力は、振り下ろされてくる星人の右腕の刀を捉えた。すると、体があの特訓で鍛えた
とおりに自然に動き、絶妙の位置で星人の刀を食い止めた。
 すると、右腕を止められた星人は、左腕の刀で才人の背中に二段目の攻撃を繰り出そうとしたが、
そこへミシェルの剣が割り込んで、その自由を封じ込める。


「でゃぁぁ!!」「イャァァ!!」
 次の瞬間、ふたりは渾身の力で星人の刀を押し返した。完全に虚を突かれた星人は、押し戻すことも
できず、両腕を大きく広げ、胸を前にさらけ出す無防備な体勢を見せる。二段攻撃の姿勢が崩れた!!
 そして、今こそ三段攻撃完成の時。二人の後方から突進してきたアニエスが全力の突きを星人の
心臓を目掛けて打ち込む、星人は身動きを封じられている上に、火傷のせいで一瞬視界がぼやけ、
アニエスを発見するのがほんのわずか遅れた。

「くらえぇぇっ!!」

 刹那。
 アニエスの剣はツルク星人の心臓を打ち抜き、背中まで突き抜けていた。
「貴様が戯れに手にかけた人々の痛みを、知れ!」
 そう言い捨てると、彼女は剣の柄から手を離した。
 星人は、少しの間彫像と化したように固まっていたが、やがて短く鳴き声をあげると、両腕がだらりと
垂れ下がり、続いてその長身がゆっくりと後ろに傾き、やがて重い音を立てて地面に崩れ落ちた。

「や、やった……やったああ!!」

 地に伏した悪魔の姿に、全銃士隊員の歓声が上がる。

 侵略者の手先、仲間の仇、街の人々の仇、悪魔の化身を本当に人間の手で、しかも魔法衛士隊すら
敵わなかった相手を平民の手で倒した。

「隊長……」
「アニエスさん」
 ミシェルと才人は気力を使い果たしたように、剣を下ろし、微笑を浮かべていた。
 そしてアニエスも、二人に答えようと振り返った、そのとき。

「隊長!! 危ない!!」

 突然、死んだと思っていたツルク星人が起き上がって、アニエスの背後から剣を振りかざしてきた。
 丸腰のアニエスには避ける術はない。才人とミシェルは、とっさに星人とアニエスの間に割り込もうとしたが、
とても間に合わない。

(駄目か!!)

 誰もがそう思い、絶望したその瞬間、いきなり星人の顔面、なにも無いはずの空間が火炎をあげて爆発を
起こし、星人の動きが止まった。今だ!!


「「でやぁぁっ!!」」

 これが本当に最後の力、才人とミシェルの渾身の縦一文字の斬撃は、星人の腕を肩から斬り落とし、
今度こそ星人は仰向けに倒れ、その目から光が消えた。

「やっ、た……」
「隊長、ご無事ですか!?」
 ミシェルが慌てて駆け寄ると、アニエスは自嘲しながら言った。
「すまん、勝ったと思ったとき一番隙ができるか。まったく、わかっていたつもりだったがこの様だ。私もまだまだ
修練が足りんようだ。迷惑をかけたなミシェル、それから……感謝する、サイト」
「いや、そんなこと……あ、そういえば初めてサイトって呼んでくれましたね」
「礼を尽くす価値のある者には、私はそれを惜しまん。見事な戦いぶりだった、戦友よ」
 才人はアニエスに認められたことで、うれしいやら恥ずかしいやら、とにかく照れていたが、やがて大事なことを
忘れていたことに気づいた。いや、気づかされた。

「サーイートー」
「!! こ、この声は……ル、ルイズ!?」
 振り返ると、路地の闇の中から浮かび上がるかのようにルイズの姿が現れた。
 顔は、前にうつむいているせいで桃色の髪の毛に隠れて見えないが、本能的に才人は血の気が引いていくのを感じた。
「お、お前、なんでここに?」
「シエスタに、あの子に一日かけてようやく聞き出したのよ。まったくメイドのくせにはぐらかすのがうまくて何回
逃げられたことか。あ、心配しなくても手荒なことはしてないわよ。丸腰の平民に杖を向けるなんて貴族の名折れ
ですものね」
 口調は平静としているが、顔が見えないのでよけい恐怖心がかき立てられる。
 そして一歩一歩近づいてくるのに後ずさりしたいが、あっという間に後ろは壁だ。
「それで、さっきの爆発は……」
「もちろんわたしよ。わたし以外にこんなことができる人間がいると思って? まったく、あんたというやつは、ご主人様を
ほったらかして出かけたあげく、こんなところで戦って……あんたって、あんたってやつは!!」
 ルイズの声が急に大きくなる。才人は鞭、いや、月まで届くほどの特大の爆発を覚悟して目を閉じた。

 だが、2秒経っても5秒経ってもいっこうに痛みがやってこない。それどころか、なにやら胸のところに柔らかい
感触を感じる。才人がおそるおそる目を開いてみると。
「バカバカ!! サイトのバカ!! あんた、あんな化け物と戦って、死んじゃったらどうするつもりなのよ。わたしを
置いて、わたしのいないところで、そんなの、そんなの絶対に許さないんだから!!」
 ルイズは、才人の胸に顔をうずめて泣いていた。怒りのためか、会えたうれしさのためか、小さなこぶしが
才人の胸板を叩く。やがて、胸に温かいものを感じて、それがルイズの涙だとわかると、才人は優しく彼女を
抱きしめ、耳元でささやくように言った。
「ごめんルイズ。でも、助けに来てくれたんだよな、ありがとう」
 プライドの高いルイズの泣き顔を見ないようにしながら、才人はしばらくのあいだ、ルイズを抱きしめていた。



 そして、それから十数分後。
「もう、帰るのか。せめて今晩くらい泊まっていけばいいのに」
 ふたりは、ルイズの乗ってきた馬に乗って銃士隊に別れを告げようとしていた。
 アニエスとミシェルの後ろでは、銃士隊の面々が残念そうに才人を見ている。共に死地を潜り抜け、もう彼を
素人と見下す者はいなくなっていた。
「いえ、お気持ちはうれしいですけど、一応俺はこいつの使い魔なんで、いろいろやることもありますから」
「そうか、だが今回の功労者は間違いなくお前だ。陛下に報告すれば勲章、いやシュヴァリエの称号も夢ではないぞ」
 だが才人は笑いながら首を横に振った。
「せっかくですが、内密にお願いします。元々今回は俺の独断で出てきたんで、抜け駆けで表彰なんかされたら
仲間達に恨まれる。それに、使い魔なんかと並べられたらあなた方の今後にも不利でしょう」
 アニエスは、才人の欲の無さと自分達への気配りに感心した。
「わかった。しかし私も銃士隊もお前に相当な借りができてしまったのは事実だ。何かまた困ったことがあったら
うちに来い、出来る限り力を貸してやる」
 その言葉には、ただ純粋な感謝のみが含まれていた。そしてアニエスに続いてミシェルも笑いながら才人に言った。
「お前、剣の振り方はまだまだだが中々見込みがある。今度みっちり鍛えてやろう、いやなんなら使い魔なんぞ
やめてうちに来ないか、銃士隊は男子禁制だが、一人くらい多めに見てやるぞ」
「い、え、遠慮しときます」
「はは、言ってみただけだ。だが、見込みがあるというのは嘘じゃない、気が向いたらいつでも来い、私自ら
稽古をつけてやる」
 彼女も、最初会ったときとは想像もできないような笑顔を見せている。
 だが、黙って見守っていたルイズがそろそろ忍耐の限界に来たようだ。
「ちょっとあんたたちいいかげんにしなさいよ。そうやって朝までくっちゃべってる気?」
「あ、ごめん。じゃあアニエスさん、ミシェルさん、俺達そろそろ帰ります」
「うむ、また会える日を楽しみにしている。そうだ、ミス・ヴァリエール、貴公にも借りができたな、いずれこれは
なんらかの形で返そう」
「かまわないわよ、平民を助けるのが貴族の責務ですから」
「いや、貴族にも誇りがあるように騎士にも誇りはある、借りは借りだ。サイト、お前の乗ってきた馬は後日
届けさせよう。では、壮健でな」
 そして二人は、銃士隊に見送られて、星空の元を魔法学院へと帰っていった。


「ねえサイト」
「なんだ?」
 学院へと続く街道を、二人きりで馬に揺られながら、ルイズは才人に話しかけた。


「あんた前に言ったわよね。次になにかするときには俺も連れてけって、でもあんたが何かするときに、わたしを
置いていっていいわけないでしょ」
「悪い、お前に迷惑かけたくなかったんだ。それに……」
 すまなそうに答える才人に、ルイズはその言葉をさえぎって続けた。
「わかってるわよ。あんたが人の命を何より大事に思ってるってことくらい、でも、ご主人様に心配かけるなんて
これっきりだからね」
「わかりました。次からはいっしょに来てもらいます、ご主人様」
「ふ、ふん、わかってるならいいのよ!」
 二人は、たった一日会えなかったことを懐かしむかのように、双月の見守るなか話し続けた。


 翌日、トリスタニアは大変なニュースで盛り上がっていた。
 新設された女ばかりの騎士隊である銃士隊が、魔法衛士隊すら敵わなかった怪物を倒し、街に平和を取り戻した。
 闇夜に潜む悪魔への恐怖におびえていた人々は、その活躍を褒め称え、朝日とともに戻ってきた平和を喜びあった。


 そして王宮でも、銃士隊が王女アンリエッタの元で、果たした戦功にふさわしい対価を今度こそ得ようとしていた。
「トリステイン王女、アンリエッタの名において、銃士隊隊長アニエスをシュヴァリエに叙する。高潔なる魂の持ち主よ、
貴女に始祖ブリミルの加護と、変わらぬ忠誠のあらんことを」
 アンリエッタの杖がアニエスの肩を叩き、シュヴァリエ叙勲の儀式が終わった。
 シュヴァリエとは、王室から業績や戦績に応じて与えられる爵位で、これを与えられるということは貴族となると
いうことを意味する。だが通常、貴族に与えられるのがトリステインのやり方で、平民がこれを得るということは
まず無い。異例中の異例のことであったが、それだけの手柄を彼女があげているのも、また間違いない。
 立ち上がったアニエスの肩にシュヴァリエの証である、銀の五芒星の刻まれたマントがかけられ、彼女の凛々しさに
よりいっそうの磨きがかかったように見えた。
「おめでとうアニエス、まさかこんなに早くこれだけの手柄を立ててくるとは、わたくしも思いもよりませんでした」
「私達は、自分達のなすべきことをなしただけです。この称号は、いわば我ら全員で得たもの、私一人では
何もできませんでした」
 あくまで謙虚なアニエスの姿勢に、アンリエッタは春の陽光のように優しい笑顔を彼女に見せることで答えた。
「いいえ、その強い団結力こそ何よりも誇るべきものでしょう。シュヴァリエのマントは一枚しか用意できませんが、
銃士隊全員にわたくしの名においてトリステイン全域での行動許可証を与えます。貴族と同格とまでは
いきませんが、身分に関係なく魔法衛士隊などと同等に行動できるようになるでしょう」
 儀式に立席した貴族達から声の無いどよめきが走った。平民にシュヴァリエを与えるだけでも異例なのに、
あまりにも破格の待遇だということだ。しかし、実際に王国の誇る魔法衛士隊の敗退した相手を彼女達は
倒している。表立って文句をつけられる者はいなかった。
「殿下……」
「驚くことはありません。貴方達は自らの力で剣が魔法に劣ることの無い武器だということを証明したのです。
これからも、その力をわたくしに貸していただけますか?」
「もとよりこの命、殿下のご自由であります」
 最敬礼の姿勢をとり、すでに貴族としてふさわしい気高さを見せるアニエスに、アンリエッタはうなづくと
最後のトリステイン貴族入りの名乗りを命じた。
「ありがとう。それでは、新たなる貴族アニエスよ、その名を始祖の元へ報告を」
 アニエスは、剣を抜くと天に向かって高くかかげ、高らかに宣言した。

「我が名はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、この命はすべてトリステインのためにあり!!」

 その声は、城に響き、空を超え、天に届いた。
 そして、雲ひとつ無い空に輝く太陽が、新たな勇者の誕生を祝福するかのように、何よりも気高く雄大に輝いていた。

 続く




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