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虚無と狂信者-17



アルビオン ウエストウッド村

マチルダはその村の様子に息を飲んだ。
その村を包むのは、真の無音。
そこに響いているはずの子ども達の、あの賑やかな声が聞こえ無い。
家の中に入る、争った形跡は無い。着替え、その他必要なものが消えうせている。
「どこかに逃げてくれたか………?」
あの仮面の男から渡された手紙に書かれた場所。この村の場所。
何をするかは言ってこなかったが、それだけで充分だった。
少し安堵した。で、あるなら自分がトリステイン魔法学院で秘書をしていることは知らせてある。
ならばトリステインで待てばいずれ来るだろう。
そう思って港に戻ろうとした時、その鼻孔をつく臭いに気づく。
急ぎ、風上に移動する彼女。そこで見た物。
なぎ倒された木々、吐瀉物、そして残された大量の血痕。
地面に伏すマチルダ。頬を伝うもの。
生きている筈だ、生きている筈だ、それでも。
彼女の心は不安で押し潰されそうだった。


破壊された城壁、転がる死体の群れ。ニューカッスルの戦いの後、美しかった王都はその姿をとどめてはいなかった。
その王都の一室で、レコンキスタ首領、クロムウェルはある人物と会っていた。
元トリステイン魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵。
トリステインのメイジの中でも五指に入る戦闘能力を持つ風のスクウェアメイジ。
その彼が、目の前にいる男に膝ま付いている。
(勝てない………)
ワルドは自分がこの男に比肩しえないと気づいた。
それほどまでに余裕と、底知れなさを感じる立ち振る舞いだ。
(恐ろしい……)
一瞬でも早く退出したい。なにせ自分は任務を失敗したのだ。
しかし、彼は退くわけにはいかない。
「一つ……お聞かせ下さい………吸血鬼とは、どういうことですか?」
「ああ、黙っていたな」
あっけらかんとクロムウェルは答える。ワルドは心中で歯軋りする。
吸血鬼を手駒とする。その行為は構うまい。問題は別にある。
「吸血鬼をばら撒き、数多の人間を殺すことが始祖の意思だというのですか?」
「聖地の奪回には必要なことだ」
「罪の無い人間を殺すことがですか?」
「ただの平民だ。何、始祖も許して下さる。エルフどもから聖地を取り戻せるならな」
ワルドは眩暈を覚えた。聖地の奪回、確かにその行為は間違いなく正しいことだ。
そのための犠牲も覚悟している。しかし、それはあくまで常識の範囲のことだ。
化け物を作りだし、それをばら撒く。その犠牲は不必要であり、常識を越える。
ハルケギニアの人間が全滅しうるのだ。
ワルドは目の前の人物に心底戦慄した。尚も意見しようとした時、後から肩を叩かれる。
猫耳の少年が、何かを自分に握らせる。
それはナイフ。地下水と呼ばれるインテリジェンスナイフは、その体を乗っ取った。



 一方、トリスタニアのとある酒場では一人の少年が倒れ伏していた。
「うう、理不尽だよう…」
ルイズとシエスタはサイトを痛めつけるだけ痛めつけてどこか行ってしまった。
「何であいつらあんなに怒るんだろ……」
ふとそこにアンデルセンがやって来る。
「あ、神父」
その顔が優しい顔だったので、嫌な予感がした才人は少し警戒する。
アンデルセンはそんなサイトの両肩に両手を乗せ、とくとくと話始めた。
「いいですか、サイト君。神は言われました。汝姦淫するなかれと」
「それは罪、それによってゾドムは…」
「ですが神はそれでもあなたを……」
「主イエスキリストはあなたを許す……」
「神に祈りを捧げ…」
「祈りとは戦い……」
神父が言葉を重ねるごとにサイトの目がだんだんトロンと酔ったようになっていく。
その様子を、組み技をしているセラスとされているベルナドットは唖然として見ていた。
「わかりましたか」
「はい、わかりました」
アンデルセンは少年の反応に満足そうに頷いた後去っていく。
「おい、サイト?」
「サイトくん……?」
「何でしょう? おふた方?」
二人の問に答えるサイトの目はキラキラと輝いている。しかし焦点は会ってない。
「おい、サイト。女は……」
「あはは。やだなあ隊長。ヤハウェの地上代行者たる僕がそんなことする訳ないじゃないですかぁ」
凄まじく元気に答え、悠然と歩いて行く彼を茫然と見送るセラス達。
「ああやって、13課ってのはできるのかね…」
「イ、イヤアァァァァ!!! ていうかどうするんですか! あの子まで神父みたくなったら」
学院の空気が偉いことになる。主にアーカードの回りで。どうしたものかと彼らは頭を捻った。


サイトはシルフィードに愚痴っていた。その瞳は何と言うか、ヤバい。
「全く。皆酷いよなぁ。俺はヤハウェの地上代行者なのにー」
風韻竜はそんな彼にかなり引いていた。追い詰められているのではなく、
ぶっ飛んでいるからだ。そこにベルナドットがやって来た。
「あ、隊長。お父チャンはお前の好きな金の玉を二つ持っちょる~
(東京都足立区の方言でこんにちはの意味)」
「今から飲みに行くぞ!ついてこい!!」
「いや、でもー僕は神に仕える人斬り包丁ですからー」
「じゃあ、メシだ! メシだけでも来い!」
このままでは彼がぶっ飛び狂信者になってしまう。あの神父のストッパーがいなくなるのは
学院生活に重大な支障をきたすので必死である。ふとシルフィードが騒ぐ。
「それじゃあシルフィも連れてくのね! お兄様達だけズルイのね!」
「え? いいけどどうやって店に入るんだよ」
「シルフィは韻竜なのね。舐めて貰っちゃこまるのね! 我を包みこむ風よ……」
そしてシルフィードは呪文を唱える。すると、彼女の体が光に包まれた。
そして現れたのは、二十歳前後の女性。驚くべき変身能力だ。
「どう? 凄いでしょ? 精霊の力は凄いのね」
「ああ、スゴイな…」
彼らの注意はそこでは無く、ただ一点に注がれる。すなわち裸だということ。
サイトはコートの中をまざくりある物を取り出す。それは彼が以前着ていたパーカーだった。
コルベール先生に珍しい素材ということで渡したところ、錬金で直され戻って来たものだ。
ベルナドットはそのパーカーがコートの中から出てきたことにはあえて突っ込まなかった。
そして着せてみる。パーカーだけ。サイズはやや大きく。大事な部分は隠れた、が。
「ベルナドットさん…………。コレは」
「よくやったサイト。お前は世界の半数から勲章を授与されるべき大功をたてたのだ」
サイトは極めてあっさり自然に狂信者からただのエロガキに戻った。隊長はホッと胸を撫で下ろす。
けれど流石にこの格好で町に行くわけには絶対いかないので、ベルナドットはスカートを買って来た。
「何でミニスカートなんですか?」
「セラスには内緒だぜ」
二人はがっしりと握手した。その瞬間二人の世界の歯車はがっしりと噛み合ったのだ。


ベルナドットに連れられてやって来た酒場。サイトは解放感で一杯であった。
おいしい料理、旨い酒、そして、
「キワドイ服着たお姉さん」
「ヒャッホー!!!!」
である。そんなお姉さんがたがお酌してくれたり乾杯してくれたりするものだから、
若い少年のテンションは馬鹿上がりである。
「おらおら死に掛けたんだから飲んでもバチ当たんねえぞ!楽しめよ!」
「隊長!一生付いていきます!」
「きゅいー!男前なのね!」
シルフィードはちょっといないくらいの美人故に、男性客を魅了する。
サイトはハルケギニアでは珍しい容姿から人目を惹き、
ベルナドットは元からこういう場になれていたこと。
そしてなにより羽振りが良いからこのテーブルは異様な盛り上がりである。
青い竜は鬼神の如く肉料理を食い漁っている。既に皿で塔が出来ている。
ベルナドットは女の子を両手に侍らせひどく楽しそうだ。
サイトはその二人のあまりのハジケっぷりに若干引きながらも、楽しく料理を食べていた。
何か懐かしい気がする肉とジャガイモの煮付けをパクつきながらふと気づく。
「これ………肉じゃが………?」
「?この料理をご存じですか?」
「ああ、何か故郷の料理に似てるんだ………」
「そう言えばサイトさんって私のひいおじいちゃんの刀も知ってましたね………」
「うん?」
隣をまるで油を入れ忘れた扉のようなぎこちなさで見るサイト、
そこに立っていたのは町娘の服を着たシエスタだった。
先程の仕打ちを思い出し、身を屈める。シエスタはそんな彼を見て恥ずかしそうに俯いた。
「あ! すいませんさっきは! そ、そうですよね、付き合ってないですしサイトさんは………
男の子ですから………。それに健康なのはいいコトですし………。将来的にも……子どもは……」
「いや、そうじゃなくて………シエスタは何でここに?」
別の世界にトリップしていたシエスタはついうっかり、とでも言うように舌を出した。


「実はここ、私の従姉の働いている店で………この店の料理は私の故郷の味なんです」
サイトは思い出す、明らかに日本のものである刀と剣術を扱った目の前の少女の雄姿を。
「そういえば………シエスタのひいおじいちゃんって異世界から来たんだって?」
「ええ、東の方から………」
「そっか……じゃあシエスタの村へ行けば、帰れるかな……?」
サイトは遠くを見る、望郷の念が込められたその目をシエスタは潤んだ瞳で見た。
「サイトさん………帰っちゃうんですね」
「うん……いつまでかかるか解らないけど、いつかは………」
「………そうですか」
二人の間に気不味い空気が流れる、サイトはそれに気づき慌てて取り成す。
「まあ、でもとりあえず学院に帰って仕事しないとな、それにもうちょっと居たいし……。
すぐに帰郷できる訳じゃないんだろ?」
「え?ええまあ、纏まって休みがとれないと……夏休みまでは……」
「んじゃそれまでよろしく! ってことで乾杯な」
彼女は笑ってグラスを取る。慣れない手つきで酌をする彼らを見ながらベルナドットは笑う。
(休みくらい簡単にとれるだろ、やろうと思えば、ったく鈍いな………)
しかし、ぎこちなく彼の機嫌を取ろうとする少女を見ると、わざわざ言う気にはならなかった。

三十分後
「いいですか?サイトさん……。あなた女の子二人に怪我させて……。
両性動物のクソをかき集めた値打ちしかないんですよ?あなたになんか」
「はい、すいません。俺クソでしゅ、むしろ魚糞でしゅ……」
「馬鹿言ってんじゃ無いですよ!肥料になるんですよクソは!わかってるんですか?」
「じゃ、じゃあ鉄くずでしゅ、肥料にもなんないでしゅ」
「何言ってんですか?鉄は大事な資源ですよ!?メイジにかかれば使いようはあるんですよ?」
「あ、あう……。それじゃあ……」
このような問答が延々と続いている。どうやらこのメイドには酒乱の気があるようだ。
ついでにこの少年はへべれけに酔っているので正常な思考が出来ていない。
そんな珍風景を見ながらベルナドットはまたこの子らをつれてこようと思うのだった。
だって面白いし



任務から帰った翌日、一同はオールド・オスマンの部屋に呼び出された。オスマンの手には一枚の紙がある。
 トリステイン王家の紋章が書かれた指令書である。
「サイト君。そなたをルイズ・ヴァリエールの使い魔、アレクサンド・アンデルセンの助手とする。だそうじゃ」

正直最初は何を言っているのか分からなかった。自分はこの前まで厨房で世話になっていたのだから。
「不満かの?」
「いえ……。文句はありませんが……。何でまた急に?」
「さあ……。まあ、給料は増えるし、引き受けてくれんかの」
彼としても特に異存はない。元々彼を敬愛していたこともある。だが、何か引っかかるものを感じたのだ。

「あ、ああそう! い、いいんじゃないかしら!」
才人の思考は可愛らしい少女の声で寸断される。ルイズである。
「駄目ですよ!サイトさん!」
ルイズを押しのけて才人に言葉を掛けるのはシエスタだ。
「よ、要はミス・ヴァリエールの従僕ということでしょう?確かに給料はいいですけど仕事は大変ですよ?」
成程、アンデルセンはルイズの使い魔であるから、そういう仕事もあり得るだろう。
その後ルイズとシエスタは言い争いを始めたが、才人は構うこと無く再び思考の闇に自身を沈めた。


助手。ということはアンデルセン神父の教会建造をサポートしろということか。
  これは小さいながらも吸血鬼をレコンキスタが運用していることを考えれば中々重要な仕事だろう。
  それを彼とある程度気心が知れた関係とはいえただの平民、それも出仕不明の俺に任せるか?
  いや、待てよ。確かブリミル教の本山であるロマリアは大きな力を持っているんだろ?
  だったら俺はただの平民な訳だからもしロマリアとやらに捕まったとしよう。
  けれどトリステインとしては言い逃れは効く訳か……。

「仕事は大変だけど! 給料は高いんだからいいじゃない!」
「サイトさんはもとの世界に戻るんだから給料なんて気にしません」
 このような会話を聞きつけ、サイトの思考が他にも移る。
(そうか……。元の世界に帰ることを考えたら、厨房の手伝いよりも勝手が効くか?)
 厨房の仕事は年中ほぼ無休と言っていい。けれど従僕というならそんなに仕事は無いのでは?
 それはサイトの頭の中の話であって、実際はむしろ従僕の方が責任を伴うため一般的には忙しいのだが。

「そ、それに給料が高ければあの馬鹿でかい竜にいい食事を与えられるんじゃないの!?」
 ルイズのその言葉が不味かった。ガシャンという音とともに眼前の窓ガラスが突き破られた。
「きゅい! きゅい!」
 才人は頭を抱え、窓を突き破った食いしん坊の竜に近寄る。
「シルフィ? お前が窓を突き破っちゃったから俺はその弁償のためにお金を払ってお前にお肉買う
お金が無くなっちゃうんだよ? あと、もしお前がやったことで学院追い出されたらマルトーさん
からのごはんも無くなっちゃうんだよ? そこんところ分かるかな?」
 シルフィードは才人の妙な迫力により怯んだ。
そしてこんなことをしでかして学院長の申し出を断れるはずもなかった。


オスマンは学院長室にて、水キセルを吹かしながら考えていた。
彼は才人を気の毒に思った。ワルドを倒したことは、王宮にも、彼らの敵対者にも、彼の存在を知らしめた。
この通達の意味も分かっていた。
使い魔とはいえただの平民に助手、といっても限りなく召使に近い人間を与えること。
明らかに不自然である。
また、彼の給付も学院からでなく王政府から直接出されるようになった。
すなわち、平賀才人の身柄は限りなく政府に近いものになったということである。
いや、おそらくは政府内の誰かが彼を確保しようとしたのだろう。
もしこのまま学院内の手伝いのままでいさせたなら、他国に引き抜かれる可能性もあった。
しかし、この措置により、彼の接触には制限がつくようになった。
要はヘッドハンティングに限り無く近い。

オスマンの机には、学生は持ち出し不可の書物が平積みで置いてある。
しかし、異世界に関する事柄は見つからない。溜息が洩れる。
「恨まんでくれよ、サイトくん」
彼を助けることはできない。戦いの最中に行く、年端の無い少年を止める術を持ってなどいないのだ。
彼が望んでいくなら尚のことだ。



「これで良かったのですか? 枢機卿」
王女の一室にて、アンリエッタと、幼い姫に代わり、実質国の実権を持っているマザリーニ枢機卿。
彼は、その瞳の色を何ら変えずに頷いた。
「ルイズ・ヴァリエールの仲間は多ければ多い程よろしい」
「彼は平民ですよ?」
「ワルド子爵を撃退できる平民です」
アンリエッタの密命は、もはや彼女ただ一人の秘事ではすまなくなった。
魔法衛士隊の隊長が裏切ったのだから当然である。彼に知られぬ筈もない。
そして何よりレコンキスタが吸血鬼を運用していることを枢機卿に相談せぬ訳にもいかない。
また、彼女自身も、彼を国に仕える人間としては信頼していた。
ただ、彼の中では自分の優先度が国全体より低いというだけだ。
無論わだかまりはあるが、一時の私情を国事より優先させるほど出来ていない人間ではない。
「よろしいですか。姫。味方は一人でも多い方が良い。そしてヴァリエール殿はあなたの味方です」
アンリエッタは頷く。おそらく唯一と言っても良いだろう。
「そして、それならば彼らもまた、味方でありましょう。そして、そこにある不純物は取り除きなさい」
もし、彼がこのまま学院に所属していたなら、彼の行動はオスマン老によってある程度制限される。
よって、この制限を取っ払っただけのことだ。
これ以降ルイズに密事を依頼する場合、彼は容易に追従してくれるだろう。
それは理解できるものの、アンリエッタは何故か薄暗いものを感じていた。



マザリーニの中では、才人に対する評価はかなり高い。はっきり言ってワルドの強さはトリステイン全体
の中でもかなりの部類に入る。それを打ち破った男を手放すなど、マザリーニから言わせれば、ありえない。
まして、彼の耳には当然各地で暗躍する吸血鬼の存在も耳に入っている。彼らは一見無計画に人を殺して
いるだけだったが、彼らを計画的に運用している存在が明らかになったのだ。
そしてその集団。レコンキスタがアルビオン政府を打ち倒し、ここトリステインに攻め入ろうとしている。
その時、アンデルセンや才人の存在は欠かせぬ力となる。
アンデルセンの場合は公爵子女の使い魔ということもあり、そう気軽に運用できる者ではない。
しかし、サイトは身分としてはただの平民である。彼ならば、自分の計画に最適な人物であろう。
条件次第ではあるが、取り込めるやも知れない


 アンデルセンの力、あるいは吸血鬼達の力は凄まじい。
 しかし、彼らは自分達で制御できる存在ではない。
 それならば力は劣っても確実に制御できることの方が重要だ。
 マザリーニの手には一つの草案があった。

 『対吸血鬼戦専用部隊 王立特務機関第十三課』



「俺はいいですけど……。神父はいいんですか?」
「何が?」
「いや、足手纏いとか。邪魔とか……」
気まずそうに才人は訊ねる。アンデルセンはごそごそとあるものを取り出した。
それは、生物工学の粋をこらした再生能力が入った箱。ヴァチカンから失われた技術。
その力を持つのはアンデルセンと才人のみとなった人類が生み出した技術である。
「これをヴァチカンに還したい」
もとより一度滅んだ身である彼には元の世界に戻ることに興味は無い。
むしろ一度死んでなお生き返るというのは彼から言わせてみれば神への冒涜であり、吸血鬼と同じである。
だが、この箱の中に入っている技術は元よりヴァチカンのもの。
であれば、これを元に戻すのが神から与えられた使命であろう。
才人は口元を緩めて答える。
「わかりました。俺が元の世界に帰る方法を探しますよ。それでは、一応マルトーさんに挨拶してきます」
「ええ、私も彼女に一応断っておかねばなりませんので」
そう言って二人はそれぞれ別れた。


学院長室にはルイズ達に続いて、ミスロングビルが入室してきた。
「おお、ひさしぶりじゃ。休暇はどうじゃった?」
「ええ、まあ。」
「さて、さっそくお願いしたいことがあるんじゃがのう。」
そう言って、書類を出す。
「何でもこの前、軍艦がアルビオンとの定期船と事故を起こしてのう。
そこに乗っていた子ども達が、トリステイン魔法学院にいるマチルダという女性に厄介に
なる予定だったと言っておる。しかし、そんな女性、うちで勤務しておらんでのう。」
その言葉にロングビルの顔が輝いた。

「そ、その方は私の友達ですわ!色々と事情のある方で………。とにかくその子達は私が………。」
「む?そうか………。まあわしはかまわんし、余計な詮索もせんが。」
「で、では用意致しますわ」
「うむ、まあよいようにしなさい、フーケどの。」
駆け足で退出しようとしたロングビルの動きがピタリと止まる。オスマンは楽しそうに笑う。
「ま、改心しようとする人間をどうこうしようとはおもわんわい……。
あとは破壊の杖を返してくれればな。
それに。」
ゴホンと咳ばらいしてつづける。
「その、髪もボサボサ、服は後ろ前、靴は左右逆、おまけに下着もはかんようになるまで、
その子達を心配していた女性を捕まえるのは忍びないでのう」
「え!あ!」
マチルダは顔を真赤にして杖を振る。

「オールド・オスマンが落ちて来たぞ!!」
「でもなんか幸せそうだわ!」



自分に対し様々な思惑が絡んでいるとは露ほども知らない才人は、余りに急すぎる展開に上の空になりつつも、やるべきことをする。
まずはマルトーに挨拶、急過ぎる辞職に戸惑ったようだったが、神父の助手ということで割りと歓迎していた。
「頑張れよ!腹が減ったらいつでも来い!」
背中を叩かれ噎せ返る。けれど気の良い言葉に元気づけられた。
「サイトさん。辞めちゃうんですか?」
シエスタが潤んだ瞳で聞いてくるので彼はどうしようもなく焦る。
「あ、いや別に学院にいることには変わらないし、神父の助手ってだけだから!」
「……また遊びに来てくれますか?」
「う、うん」
そこで納得したのか、明るい顔になるシエスタを見て、才人はホッと胸を撫で下ろした。
「また困ったことがあったら手伝うから、いつでも頼りにしてください」
「おうよ。またいつでも来い。『我らが銃剣』」
「ちょっと待って下さい!何すかそれ!?」
「ん?そりゃあお前、何か知らんが重大な任務を任され、おまけに風竜を操るなんて凄いじゃねえか!俺達の誇りだ!」
「いや、それなら神父の方が」
「神父様は『我らが神父』だ」
「ってそのまんまやないかーい」

冷静になって考えれば、厨房勤めから神父の手伝いに代わるだけなのでさして変わらない。
神父と共に吸血鬼を狩ったり教えを乞いたりする分にはむしろ都合がいいくらいである。
ふと、ワルドとの戦いを思い出す。おそらく近いうちに彼は才人の前に現れる。
次は本気で殺し合うだろう。
「まだ足りない。まだ」
ワルドを打ち倒すには何かが足りない。教えてくれるだろうか。
人狼。最後の大隊。レコンキスタ。そして吸血鬼。
ふと、才人は頭を傾げた。
「俺、何でこんなに吸血鬼が嫌いなんだ?」
確かに殺されかけたが、それだけで自分の人生全て掛けるほどの憎しみがあるのは何故なのか。
なぜ自分はあのアンデルセン神父にこうも執着するのか。


よくわからない感覚を覚え、困惑する。考えてみれば不自然ではないか。
ただの高校生である自分がこうも無茶な戦いをするなどということは。

「前世に何かあったのかもな」
カトリックとしてはどうかと思う発言をしながら、才人はルイズの部屋までやって来た。
ふと耳を澄ませば、何やら言い争いの音が聞こえる。といってもルイズが一方的に捲くし立てているだけの
ようだが。才人としても彼らの仲が悪いのは非常に頂けない。意を決し中に入る。
「WAWAWA~~」
「おお、サイト。ちょうど良かった」
アンデルセンが才人の肩を掴むと、信じられない力で彼を持ちあげ、自分と主人の間に立たせた。
「後はよろしく」
抜けた声を出す彼を置いて、アンデルセンは凄まじい速さで廊下を駆けて行く。
「待ちなさい! アンデルセン!」
ルイズは廊下を走る彼に向けて杖を振り上げる。才人は慌てて彼女の杖を取り上げた。
「何すんのよ! 逃げちゃうじゃない!」
「いや! お前何する気だよ! いいからおちつけって!」
「うるさいうるさいうるさいうるさーーい!!」
才人から杖を引ったくり、そのまま少年にレビテーションを掛ける。

ドカン!!

爆風をバックステップで避けた辺りこの娘も成長しているようである。


「成程、神父が教会を作るために出かける。けどそれは使い魔として失格だから止めたと」
煤だらけになった才人は恨めしげに彼女を見る。
「あのな。使い魔とは言え神父は人間だぞ?それなのにそういつまでも束縛したり、
あまつさえ爆破したりするなよ!人間扱いしないんじゃ神父だっていつまでもお前を守りはしないぞ!」
才人の説教にルイズはそっぽを向き、頬を膨らませる。普段の彼なら顔がニヤけんばかり
の愛らしさだが、いかんせん先程爆破されたばかりなので顔に張り付くは怒りの形相だ。
(落ち着け、才人。こいつはいくら可愛くても、人がどっかいっちゃうと教室を半壊させる爆破を
人間相手(まあ神父だが)に平然とぶっぱなす女だ。これはハルヒやナギのようなツンデレではない!ヤンデレだ!山岸由香子だ!)
「とにかく反省しろよ?!」
ルイズはしばらく憮然としていたが、ふと気になって声を掛ける。
「あんた何でここにいるの?」



シカト?
いや、もっと他に御免とか! わかったとか!


才人は前途多難すぎて泣けてきた。

結局、元の世界に帰る方法を探すどころではない程忙しい日々が始まることになる。






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