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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-07


ノクターナルの「影」

昼食を取り、午後の授業に出席して後、夕食を取って、自室に戻ったマーティンとルイズ。
寝るには時間があり、また聞きたいことが、マーティンにはあった。

「なぁ、ご主人様」

「その呼び方は、やめてくれるとありがたいわね。今更だけど、恐れ多いわ」

ルイズと呼んで、と彼女は言った。
未だに彼が死後に、こちらに来たことは、信じていないが、
皇帝であることは、間違いないと、心の中に確信があった。
彼が帰るとき、私は一体どうなるのだろうか、と少し怖かった。

「ああ、ならルイズ。君の魔法について、話したい事がある」

ちょっとおいで、と言って、マーティンはマジカ(魔法力)があれば、
どんな素人でもできる魔法を、いくつかルイズに教えた。

「ちょっとやってみてくれ。出来れば、この世界の系統魔法が、私にも使える可能性が出てくる」

右手を上げ、先ほど教わった短い呪文を唱える。しかし、何も起きない。
別の呪文でも同様だった。

「ふむ、なるほど、なるほど…とりあえず、もしよろしければ、呪文を教えてくれるかい?ルイズ」

こちらのみ使えるかも知れないとマーティンは言った。
ええ、と言って、簡単な呪文と杖をマーティンに渡す。
しかし、錬金の呪文は発動しなかった。

「互換性は完全に無い、か。残念だな」

人数データ、取ってないから確実ではないが、と杖を返しながらマーティンは言う。
彼はやはり、研究者メイジであった。


「仕方ないわ。やはり体系から違うのかしら?」

そうかもしれないな。とマーティンは言って、はっと気付く。

「所で、ルイズ。私が失敗したとき、『何も起きなかった』んだが、普通はそうなのかい?」

「ええ。普通は」

あうう、とした表情でルイズは佇む。ゼロの汚名は受けるが、認識としてはやはり「メイジ」になりたい訳で。
そうなると「ゼロ」の汚名、かぶるけど、本当は、当然言われたくないわけで。
そこら辺は、微妙なお年頃の少女の見せる悩みというか、そういった類の物だ。
気を抜けばすぐに弱い元の自分に戻りそうになる。奮い立たせねば!と思うルイズであった。

「ふむ。なら、君は『虚無』とか言う奴じゃないのか?あの伝説の」

ハイ?たまに言う冗談はなかなか楽しいマーティンだが、こればかりは笑えない。
何を根拠に、とちょっとムっとして答える。何かバカにされた気がするのだ。

「いや、消去法だよ。四つの系統全てが使えない。しかし、君らで言うところの精神力はある。
そしてあの威力。あれだけの規模と範囲の破壊魔法は、私たちでもそうそう使えないよ。
とすれば、それを失敗で出せるのだから、成功したらもっとおっかない威力になるはずだ。
となると、『虚無』くらいしかないんじゃないかな、と思ってね」

アカデミックな考え方である。せめてちぃ姉様が、こういった考え方を備えていれば、
ルイズの苦労は大分と軽減できただろうに。

「え、ええと、考えてみれば、そうね。私が、その、『虚無』だったとした場合、
コモン・マジックが成功しないのは分かるわ。けど、何故系統魔法まで、爆発するのかしら?」

少し顔を赤くしてルイズは言う。考えてみれば、あれを失敗としてとらえない人など初めて見た。

「魔法の相関図があったね?あのペンタゴンの。どうも私は、あれが間違っているのでは、と思うんだ」

つまり、と紙の上に羽ペンを走らせる。綺麗に描かれた正四角形の真ん中に一点が入る。

「これで、各々の角から中央に『虚無』が入った。
この魔法は四つ全ての力を使うことが出来ると共に、
虚無の系統も使役できる、しかし、
その肝心の虚無の魔法が使えなくては、
系統魔法への線は入らない。これでどうだろうか。
この説は、何で皆が最高4つのスロットまでしか、
魔法を合わせられないかも、証明出来ると思うんだが。
つまり、虚無の使い手のみ、正規の方法で5つのスロットが得られる、
と考えられるんだ。この『虚無』からの線は一方通行。
系統側からは『虚無』には行けない。伝説の威力を誇る虚無の魔法は、
おそらくそれ以外より莫大な精神力を使うだろうからね。
逆に言えば、『虚無』に目覚めて後は、全ての呪文が使える、
と考えられるかも知れない。そうすると、系統魔法は虚無の格下、
という設定だと考えられる。伝説によると『虚無』は奇跡の技だった。
それならおそらく、虚無のメイジには、下級の系統魔法のコントロールが、
力をとてもセーブしないと、扱えないので、『虚無』が使えないと爆発する、
と考えるのが自然だと思うが、どうだろうか」


即興で考えた割には、良い線いっていると思うぞ?確認できないからどうしようもないが。
そう言ってマーティンは笑って机から離れる。紙の上には正四角形に×印が入り、その中央に大きく点を入れて、
何かが読めない文字で書かれていた。おそらく、『虚無』と書かれているのだろう。

「字、違うのね、しかし、面白いこと考えつくわね、マーティンって」

それ下手しなくてもブリミル教への冒涜だから、考えつかないわよ普通。
そうルイズは言った。

「冒涜か。神への冒涜で魔法の研究を止めさせる訳か…」

うーむ、とマーティンは何か引っかかった。
もしかして、ブリミル教は、それを狙っているんじゃないか。
と邪推したくさえなる。黒魔術と称される事もある、
死霊術でならばともかく、何もしない神を守るために、
普通に考えただけで、真理の探究を邪魔されるのは、
彼としてはとても嫌なことだった。

事実、タムリエルにある教団の一つは、真実の代わりの嘘を、真実として教えていた。
それを、マーティンが知るよしはないが。

「そうそう。まぁ、私の系統が何にせよ、もうしばらくは爆発しか使えないって認識でいいのかしらね?」

「そうだな。とても強い力をもつ『虚無』だったとした場合、君たちが魔法を使う際に、
キーとして使うその杖のように、別のアイテムが必要かもしれないな」

おそらく、古くからこの国々にある物がキーだろう。マーティンはあくびをしながら言った。
掃除、説法、世界説明、異国間での簡単な魔法実験に、虚無の理論作成と、
司祭や、メイジの仕事に雑用までこなしたマーティンは心地よく疲れていた。

「今日はよく働いたよ。うん。大月神と小月神が綺麗だな。では、おやすみ。ルイズ」

そう言って、高級な毛布をベッドから頂戴して床に寝る。あ、ルイズは何も言えぬまま、渡すしかなかった。

「皇帝なのよねぇ、これで。まぁ、あんなとこから、呼ばれたんじゃ、仕方ないのかもしれないけど、
ていうか、今の月の呼び方、何?もう、なんていうか、ねぇ?」

誰かが、他にいるわけでもないが、そう言っておかねば気が済まないルイズであったが、
監視していたシエスタにとっては、気付かれていた!?とひどく驚く事であった。


マーティンにとって、その後の数日間は、とてものんびりした休暇となった。
ルイズに、文字を教えてもらい、メイジだからと、図書館にて、簡単な本と格闘する。
実践で覚えるのが、老齢には分かりやすかろう。という判断だった。
紙とペンを持って、書きながら単語と文の意味を咀嚼する。
イーヴァルディの勇者、と言う本だった。いつの間にか、隣に女の子が座っている。
うん?とマーティンは彼女を見る。

「教えて欲しい」

あなたの使う魔法を。と言われたので、なるほど、勉強熱心な学生だな。
異国の魔法に興味を示すとは、なかなか将来有望そうだ。と、
彼が考える理由と、全く違う方向から知りたがっている彼女に、
ルイズと同じように簡単な自己回復の魔法を教えてみる。
しかし、それ以外のタムリエル式魔法も、やはり少女は使うことができなかった。

「まぁ、そう気を落とす物じゃあ、ないぞ。この世界が何なのかは、
私にも分からない。本来、私は幽霊になっていなければおかしいのだからな」

ビク、と震える。うん、怖いのかい?とマーティンは尋ねると、コク、と頷いた。

「幽霊とは、即ち先祖の霊だ。確かに、それをおもしろおかしく
書いたり、おどろおどろしく書いた物語はあるだろう。
しかし、彼らはいつでも我々を見守っている。
変に怖がったりしてはいけない。
精神体である彼らは、人々の思念にとても敏感だ。
怖がっていては、本当に怖い亡霊になるかも知れないし、
共にいることに感謝をすれば、それらは精霊となり、
自分を思う人々に、手を貸すかも知れない」

人が精霊になるとはどういう事か?
タバサは聞いた。

なるさ、なるとも。私の世界では、死して後、
神の国エセリウスか、またはオブリビオンの中の、
ああ、オブリビオンとは――」

簡単に説明をする。ほうほう、とおもしろい物語でも聞くかのように、
タバサは納得した。エセリウスと呼ばれる神と精霊の世界と、定命の者が
住まう、このムンダス世界の間にあるのか。そういう考え方も、あるのか。と。

ここがそうかはよく分からないので、多少分かりやすくなるよう、
仮説めいた事をマーティンは話している。

「うん、飲み込みが早いな。で、そのオブリビオンの中に、
月影の国と、呼ばれる所があって、そのどちらかに行くだろう、
といわれている。実際はよく分かっていないし、
その月影の国を領地として持っているアズラ。
このお方はデイドラ王で、それは――」

まるで、物語か何かだ。と思いながらタバサは聞く。

「アズラは最も優しいデイドラ王としても知られている。
種族によってはエセリウスに住まう、エイドラ、として
認識している種もいるくらいだ。ああ、エイドラと言うのはね――」

死ぬ神と死なない神。か、目的を果たすまでは決して死ねぬ少女は、
不死になってみたい、と少し思った。

「デイドラ王は、比較的、定命の者と話をしたりするのだが、
彼女は、殊更「見守る神」としても有名だ。
決して自分からは表沙汰に出ない。しかし、影響は与える。
だから彼女は普段、何をやっているかは、とても難しい謎かけとして、
知りたい者に、彼女から与えられる。だから、本当のところ魂は、
どちらに行くか、分からないんだ。人によって、月影の国とも、エセリウスとも言う」

ちなみに、私はエセリウスの神を信じているから、エセリウス派だ。と言った。
何故そんな力を持っているのに、何もしないのか?とタバサは聞く

「何もしない。ではないよ。定命の者の可能性を信じているんだ。
敢えて突き放して、より強くしようとする。
そして成功者にも失敗者にも、死後は多大な慈悲を与える。
そう言う存在だと、私は聞いたことがある」

だからデイドラの王の中で、最も強い力を持っているのではないか、
とする学説もある。とマーティンは言った。

既に、悲しき運命に翻弄される少女は、突き放された瞬間から、
実はアズラに見守られている。
今のマーティンの説明に、彼女はある程度気を良くしたらしい。
月影の国で、シャルルや『誰か』と共に、お喋りをしながら、ふんふん、と、
『近くて遠い』ハルケギニアの世界を、他の死した信奉者達と見ていた。

「さて、話を戻そう。このエイドラと言うのは、我々の言葉で、
『祖先』と言う意味がある。その名の通り、神格化して、
エセリウスに住まう神になった、古の最強の武帝、ティンバー。
神となってからはタロスとして知られる彼だが、
それも信仰によって、生まれ変わった。と言うべきなのだろう。
偉大なる業績を残した英傑達は、精霊や神になると言われている。
かのアイレイドの王を倒し続けた、輝く『左手』を持つ、
ペリナル・ホワイトスレイクも、一種の精霊として、
エセリウスに住んでいるらしい。ああ、アイレイドとは――」

どこでもエルフは敵なのか。そうタバサは思った。

「ありがとう」

色々と教えてくれた。そのお礼として、間違っている文法を指摘する。
ああ、そうだったか。どうもすまないね。とマーティンは、礼をした。

「病気、治せる?」

タバサはいつものごとく簡潔に言った。

「吸血病とか、人狼病とか、コープラスみたいな、特殊な物ならともかく、
普通に暮らしていれば、掛かってしまう病気。そういうのは、おそらく、
ここの物でも治せると思う。誰か病気に掛かっている人でも?」

言ってみただけ。とタバサは言う。聞いた病気の名前は一つとして知らないが、
彼では母様の病気は治せない。それが得意な方では無い、という確信があった。

そんなこんなで、時たま来る、気まぐれな情熱的アプローチを、大人のテクニックで避けたり、
改心したらしいギーシュが、どう謝ったかは知らないが、今度は二人に同時に迫られて、
どうしようと嬉しそうに聞いてきたので、二人が良いと言うなら、両方と付き合っても
いいのではないか?と、どうでも良さそうに助言して、何だか上手く行っているようで、
良かった、良かった。と生暖かい目で見て、過ごしたりする。そんな風にして、虚無の曜日の前の晩、
ルイズとマーティンは、彼の服とか何かを色々買いに行くためにも、早々に休むこととなった。


少し戻って、虚無の曜日の前の朝、
どうも「幹部」と呼ばれるマチルダ、またの名を「土くれ」と呼ばれていたが、彼女は、
未だ宝物庫に足を踏み入れてはいないらしい。見知らぬ使用人が宝物庫の扉の前に立つ。
解錠用ピック、それの残骸らしき金属片が、地面にいくつもあった。
昨日の夜、ここで開けようと頑張ったのだろう。

「頼むから、後始末くらいしろよ…」

はぁ、とため息を付く。何でこの鍵でここまで壊せるのだろうか?真剣に悩む。
試しに一つのピックで開けてみる。20秒もしない内に鍵は開いた。
誰も来ない内に再び閉める。マチルダは、解錠作業があり得ないほど苦手らしい。

俺が開けては、奴の為にならんからな。ギルドの資金繰りは、シロディールの時では、
ありえないくらい潤っているしな。何かここらの鍵、凄く粗末だし。
城でも、ここでも、王宮忍び込んで、あそこまで緊張感無いって、どういうことなんだろうな。
ああ、帝都の王宮も、これくらいガードがザルだったらなぁ。
それにフーケも、いい加減ピックの一つくらい、使えないとな。

と自分に言い聞かせる。残骸を持って去り行く彼の背中は、とても悲しげだった。
おかしいなぁ、ここに来た頃は、あれの性格からもうちょっと
頼れると、いや、確かに頼れることは頼れるが。

ふいに、気配を殺した足音がなる。普通の人間には聞くことができない、
あの、足音である。それは、同業者の足音であり、また、敵対者の足音でもある。
どちらにせよ、アイツは絶対にできない、洗練されたやり口だ。
男は、頭巾をかぶった。後には、メイドがいた。

「あ、マスター。やはりここにおられましたか」

休憩中ですから、と言ってシエスタは笑った。

「なぁ、シエスタよ、これ、開けられるか?」

ピックを渡し、やらせてみる。30秒ほどで、見事に開いた。
このやり口、絶対ウチのやり方だよなぁ。教える前から何故できていた?
教えてもあいつには出来ていないのに。あいつは魔法があるからか。

「簡単ですね。中まで入ったことはありませんけど、あまり良い物の話は聞きませんね。
トゲのバラの長杖と、オスマン学院長の家宝なんかが、あるとか、ないとか」

シエスタは、丁寧に扉に鍵をかけ直す。流石は、タルブ支部長だった。こいつを幹部にしようか。
真剣に考える。

「他にも、色々あるんじゃあないのか?」

「さぁ、ガラクタが多いってお話ですからね。マチルダさんも、何に固執してらっしゃるのでしょうか?」

おそらく、お前の言った二品だろうなぁ。そう灰色頭巾は言った。
ため息吐くと、幸せ逃げますよ、マスター。そう言って、心から励ますシエスタであった。


所変わり、トリステイン首都、トリスタニア。
この街にはチュレンヌ、というケチ「だった」微税官がいる。
この男、金に汚く、その上、権威を盾にして、税金を不当に取ろうとする、
小悪党であった。それ故、大抵の平民からは嫌われていた。
しかし、最近何故か、妙に変わった。と彼の関係者は言う。
いつもなら後に、何人かの配下を引き連れて、不当に税の徴収に来るが、
最近は、一人で、かつ、気さくに、店主に話しかけるという。
もちろん、ちゃんと税は徴収するが、不払いにしなければならない事情を、
証明できるのならば、正式な書状でもって、数ヶ月の間、免除する。
と、今までの彼からすれば、ありえない事までし始めたのだ。
それを、虚偽で申請すれば、どうなるか、分かったことではないが。

はて、と皆が首をかしげるが、そちらの方が断然良いため、
誰も何も文句は無い。『魅惑の妖精亭』では、今のところ、
虚無の日の前の夜以外、毎晩のように現れ、大量のチップを渡し、
かつ、貴族らしい紳士的な態度で接する様になり、
最低から、一気に最高のお客として、売り子達に大人気である。
また、その時にいた客に一杯奢るため、客にも大人気となった。

さて、彼はどこから金を取っているのだろうか?
大方、今のお上から取っているんじゃないですかい?
と妖精亭で、酔っぱらったバカがチュレンヌに言った。
刹那、空気はあり得ぬ程凍る。当たり前である。
いくら気さくな貴族といえども、そんなことを言えば、
不敬如きではすまない。しかし、チュレンヌはこう返して、場を収めた。

「影の君のお陰だとも。平民君。麗しき、我らが『ミス・ノクターナル』だ。
この事は絶対に言ってはならぬぞ?皆、分かっているとは思うが」

ああ、あの。店の中にいた皆はそう言って、帽子を被った者は、それを取り、
胸に手を当て、「影の導きがあらん事を」と言った。彼女は皆に愛されていた。


首都のはずれの方には、粗末な建物が建ち並ぶ貧民街がある。
富める者がいれば、また貧しき者がいるのは、世の理である。特に、
隣国ゲルマニアの影響もあり、国力が、年々乏しくなるトリステインでは、
力のある平民は、皆ゲルマニアへ逃げていく。
最後に残るのは、誇りと貴族だけだろうさ。と民草に笑われる始末だ。

そんな折り、貧民街にて、最近、黒いフードで顔をすっぽり覆い、
黒いローブを着た女性が、現れたと言う。何でも、絶世の美貌を持つ女性と聞いた。
故にチュレンヌは、即座にそれを、本当にそうかどうか調べるために、
他にも、それが本当に絶世なのか調べたい、貴族の同輩や、配下と一緒に、
貧民街へ赴いた。管轄区域では無かったから、探し当てるまで面倒だったが。

そこには、確かにいた。黒のフードとローブを被り、のほほんと、
物乞いと話している女性が。何故だろうか、黒で統一されているというのに、
かのアンリエッタ姫に勝る程の『何か』が溢れているように感じる。
それは、魅力だとか、可愛らしい、とか、そういうのでは無くて、
もっと、こう、根元的に、人として崇拝したくなる。
主に、ローブの下から激しく自己主張する二つの存在に。
顔は見えないが、チュレンヌ以下全員は、
頭ではなく、心で理解した。あれは絶世の美女だ、
そしておそらく、話す仕草から、やんごとなき身分だったに違いない。と。

貴方は、そのような下賤な者と、話すべき方ではございません。と、
チュレンヌがいち早く駆けつけ、物乞いを追い立てた。後の者もそれに続こうとしたとき、
黒の女性は、チュレンヌの頬を引っぱたいた。

「彼らを、愚かな者と笑うのですか?」

フードの中に、キラリと光る目が見えた。美しい。しかし、確かな怒気をはらんでいる。

「い、いえ、その」

たじろいでしまう。自分よりおそらくは一回りか二回りは年齢が下であろうこの女性に。
ああ、そう言えば、昔、まだ王が生きていらっしゃった時、この感覚に陥ったことを覚えている。
あの、王が持っていた独特の気風というか、そういうのに良く似ている。

「では、何だと言うのです」

「ノクターナル様!その人様方は、貴族様ですよ!おれの事なんて、どうでもようがす!逆らっちゃぁいけねぇ!」

追い立てられそうになった物乞いが叫ぶ。一般的な意見だ。平民は、
貴族に逆らえばどうなるかなど、誰もが知っている。
やんごとなき身分だったとしても、今は貧民街に住んでいる。
彼女が連れられて何をされるかなど、想像に難くない。

「いいえ、逆らいます。生まれが上だの、下だので、さも自分は、何か凄いのだと言うような、方々の言葉なんて、従う気にはなれません」

貴族と言うくらいなら、彼に家一軒くらいあげなさい。と言う。物乞いは卒倒しそうになった。

彼女は、灰色頭巾に様々な事を教わった。良い貴族の事、悪い貴族の事、守るべき、貧しい物乞い達の事。
盗賊として、働くのはいけない事だと思っていた。彼は、もちろん、それはいけない事だが、
しかし、そうしなければ、生きていけない人間達がいて、そういう人の為に俺は働くのだ。と言う。
灰色頭巾の物言いに、少し、憧れた。しかし、自分にはそのようなスキルが無い。
全く手伝えない事が、嫌だった。


「なら、ちょいと、名前を変えてくれないか?」

盗賊ギルドにはなくてはならない存在が、俺以外に一人、いや、人じゃないな、あれは。
そう言って、黒のフードとローブをどこからともなく取り出す。

「ノクターナル。まぁ、人前に出るときはそれを着て、ちょいと、石像代わりに拝まれたり、
お使い行ってくれると、嬉しいんだが?」

長耳でも、それなら分からないだろう?それと、俺の命の為にも、な。そう言って、彼は笑った。

この姿になっていると、まるで普段と違うようになる。
彼女は分かっていないが、仮装とは、時に自分の仮面(ペルソナ)を分かりやすく作る存在である。
今、黒いフードとローブを被った彼女は、世間知らずのハーフエルフではない。
影の女王、デイドラ王ノクターナルの偶像なのだ。そして、灰色頭巾が言っていた、
理想の体現をしようと頑張る存在なのだ。即ち、弱者を守り、強者に屈しない、
という力強い意志をもつ者である。多少、黒の上下に、魅了の魔法効果が掛かっているのは否めないが。
ちなみに、本来のノクターナルの領分は、そこではない。

彼女の物言いに、チュレンヌは、忘れていた何かを思い出した。
トリステインでは、基本的に成り上がりはいない。皆、由緒正しき貴族である。
若い頃は、希望と熱意に溢れたが、しかし、やがて汚い事を知り、己も堕落したのである。
その方が楽なのだ。貴族の誇りがどーの、意地がどーのなど、権威に尻尾を振って、ご機嫌取りを、
すればいい。そして、バカな平民共から、金を巻き上げるのが、最高じゃないか。と考えるようになった。
今の殆どの貴族はそれであった。例えその貴族が、アレであったとしても、王がいた時代は、もう少し締まっていた。
しかし、今、目の前にいるこの女性は何だ。物乞いが言うように逆らわないのが一番楽だと言うのに。
凛として、私たちの事を突っぱねる。チュレンヌは、今まで忘れていた、本来あるはずの、
貴族の恥を思い出していた。

「申し訳ありません。麗しき黒の君よ。どうにも、我々は、忘れては為らぬ事を、忘れていたようです」

「いえ、考えてみれば私も、貴方様達を、怒る事が出来る者ではございません」

先ほどはつい、すいませんでした。と謝る彼女は、何と、
最近噂の、盗賊ギルドの関係者だと言う。何故このような方が犯罪を企てる組織に入るのか?
チュレンヌが聞くと、彼女は笑った。チュレンヌ達には、まぶしい笑顔だった。


「正しく生きようとしても、その生まれにより、悪しき生き方しか出来ぬ人がいます。
そうした人々やそれに襲われる人々を、一人でも少なくする為に、なるだけ、
危害を出さずに、裕福な方から盗むのです。いけない、事でしょうか?」

私も、そうした考えを聞いて、あの方に救われました。と笑う。
彼女を見て、チュレンヌ達は、彼女の前に跪いた。
どうかしたのですか。と彼女は怪訝な顔つきだった。

「何か、手伝えることは、ないでしょうか、麗しき黒の君」

ダメでしょう。今の話を聞いたからには、私を連れて行くべきでは。と言っている。

「いいえ、貴方を連れて行くのなら、我々も同罪でしょう。そういう者達を知っていて、
見過ごして来ましたから」

さっきの物乞いが、へっへっへ、と笑っていた。皆ノクターナル様の前じゃ、ああなっちまう。
あの人は魔女だ。それも極上の優しい魔女様だ。そう思いながら。

「ほう、流石だな」

チュレンヌ達の背後から声がする。灰色頭巾を被った男だった。

「コル…いえ、お帰りなさい。グレイ・フォックス」

こいつか!あの宮殿の宝物庫から数々の財宝を盗んだという男は!
どこかの土くれのように証拠を残さず、いつの間にやら宝を盗む、凄腕の盗賊――
いつ盗まれたかも分からない、その手口、誰が呼んだか、グレイ・フォックス。
噂は噂を呼び、瞬く間に灰色頭巾の狐は伝説となった。

「貴族様。もし、貴方様達にお手伝いできる事があるとすれば、こういう事などいかがでしょう?」

彼が言うには、へまをして捕まった連中を、金を払うから出して欲しいと言うのと、
指名手配をやらかした連中の、もみ消しをして欲しいという。もちろんあなた方への保証もきっちり行いますと言って。
無理をすれば、出来ぬことでは無かった。彼女の行いに、少しでも役立てれば、と彼らはそれを引き受け、
毎週虚無の曜日の前の晩、彼女がチュレンヌ宅を訪れ、チュレンヌや、他の面子と話をする事となった。
彼らが変わったのは、それからの事である。

彼の地は真、面妖なり。我の頭巾を奪いし者も、上手くやりおおせた。
汝らよ、我が力を欲するなら、我が影の名を口にせよ。それで良し。闇に生きよ。我が影と共にあれ――
どこかの暗がりにいる、夜の女王がそう言った。言っている内容の割に、笑っているのは、
何だかんだで、有名になるのが嬉しいからだろうか?デイドラ王の中でも、
特に何を考えているかが分からない、彼女の笑っている理由なぞ、
誰にも理解できるはずがない。

ノクターナルを怒らせるな。『色のない色』に包まれ、
彼女の、白く、黒い影、その中に、消えていきたくないのであれば…




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