あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

THE GUN OF ZERO-03


 ぱちり、と目が開きもぞもぞとクォヴレーはスーツに内蔵された腕時計を見る。昨日の内にこの世界のこの地域に合わせておいた時計は6時前を指している。
「そろそろ起きておくべきか」
 寝ていた床から起きあがりつつ、昨日の午後、この部屋の主と交わしたやりとりを思い出す。
『それじゃあ明日の朝、それ洗っておいて頂戴』
 やはり今の内に洗っておかねばなるまい。
 毛布を畳んで隅に置くと、駕籠を持ち、ルイズを起こさぬようそっと部屋を出た。
 一歩、歩みを進めようとしたところで、ふと気づいた。
 洗濯の場所を教えて貰っていない。
 いや、というかだ。
(この世界の文明レベル的に考えて……洗濯機など有るはずがないな)
 ということは手洗いという奴か?
 以前立ち寄った、お髭のガンダムが居る世界。川の水で洗い物をしていた女性達を思い出す。
 自分にそんな技能はない。
 だが、身辺の雑用も使い魔の仕事の内だと言うのならば、これも成さねばなるまい。
 どうしたものかとしばし思案した後、クォヴレーは通路の前後をくるりと見る。
 そうして人影がないのを確認すると、小さくこう呟いた。
「テトラクテュス・グラマトン」
 目前に八角形を最外郭とし、内側へ行くに従って小さな五角形を内包する陣がまるで血のような赤で描かれた。
「行くぞ。ディス・アストラナガン」
 何かに向かってそう呼びかけながら、クォヴレーは一歩足を踏み出して陣に入ると、まるで穴に落ちるかのようにそのまま消えてしまった。
 後に残った陣も、程なくして消失。
 この世界から、綺麗さっぱりクォヴレー・ゴードンは消え去ってしまった。


 小一時間後。
 先程クォヴレーの目の前に現れた陣が、今度はトリステイン魔法学院の、誰もいない庭の一角で形成された。
 すぐさま洗濯物駕籠を持ったクォヴレーが陣から、まるでそこに穴があるかのように跳んで現れた。
「……しまった。時間は良いが、出てくる場所を間違えたか」
 些か慌てて辺りを見回す。
 確か昨日案内されたとおぼしき塔を見つけ、そちらに駆け込む。
 さて、彼女の部屋はどこだったかと思案しながら塔に入ると、入り口の所で出てきた人物とぶつかってしまった。
「きゃ!?」
「あ……と、済まない。大丈夫か?」
 駕籠を下ろして、倒れた少女の手を掴んで助け起こす。見ると、彼女の側にも駕籠があった。中身は空だが。
「へ、平気ですっ」
 ぱんぱんと埃を払って駕籠を持ち直す。たしか、こういう格好は女性の使用人が着るメイド服とか言うんだったかと思い出す。
「あの……もしかして、ミス・ヴァリエールの?」
 まじまじとクォヴレーの顔を見つめる。
「ヴァリエール?ああ、ルイズか。確かに俺は、ルイズの使い魔だ」
 一瞬間があって、それがルイズの名字であったことを思い出す。
「やっぱり!噂になってるんですよ。ミス・ヴァリエールが、銀髪の平民を使い魔に呼び出したって!」
 そこで、少女はクォヴレーも駕籠を持っていて、その駕籠には衣類が入っているのに気づいた。
「あ、もしかしてお洗濯ですか?」
「いや、洗濯はもう終わっている」
「え?……ホントだ。石鹸の匂い……でも、渇いてますよね?もしかして、夜の内に干してたんですか?……けどそれだと夜露が……」
 うむむと少女は首をひねった。
「その……特殊な方法を使った。やり方を話すことは出来ないが」
 言える訳がなかった。言っても信じるどころか、この少女は理解も出来ないだろうが。まさか、『異世界に行ってコインランドリーを使ってきました』などと、言える訳がなかった……!
「特殊な方法、ですか?そんなのもあるんですね」
 興味深げに駕籠を覗き込んでくる少女に、クォヴレーは少し居たたまれなさを感じた。
「ところで……ルイズがどこの部屋だったかを知っているか?まだあまりここになれていないので、忘れてしまった」
 少々強引にだが話を逸らすと、少女は気を悪くした様子もなくルイズの部屋を教えてくれた。
「ありがとう。助かった」
「あの、お名前を聞いてもいいですか?私は、シエスタっていいます」
 礼を述べて立ち去ろうとしたところで、呼び止められた。
「俺の名は、クォヴレー・ゴードン。クォヴレーでいい」
「はい。よろしくお願いしますね?クォヴレーさん!」
 黒髪黒目の少女、シエスタはにっこり笑うと丁寧にお辞儀をした。
 シエスタの助言もあって、どうにか7時までには間に合って部屋にたどりついた。
 洗濯物駕籠を下ろし、腕時計を確認すると、7時ジャスト。
 ふぅと安堵のため息を漏らしつつ、ベッドに近づきぺちぺちとルイズの頬を軽く叩く。
「ルイズ、ルイズ。朝だ。起きてくれ」
「う、ううん……きゃあぁ!?アンタ誰よ!?」
 毛布をはね除け、後ずさるルイズ。
「……忘れたのか?」
「あ……そ、そうだったわね。私が呼んだんだった……」
 結構本気で哀しそうな顔をするクォヴレーに、罪の意識を駆り立てられる。
「コホン……ちゃんと、時間通りに起こしてくれるだなんて感心ね」
 咳払いを一つして取り繕おうと必死だが、傍目から見ればどう見ても失敗している。
 が、側にいる男はそもそも他人のメンツにはあまりこだわるタイプではなかったので、それを否定も肯定もせず、ただ言葉を正面から受け止めた。
「言われて、俺も請け負ったからな。これも使い魔の仕事なのだろう」
 再び、クォヴレーの手による着替えを済ませると、部屋の扉へ向かう。
「付いてきなさい。これから朝食なの」
「わかった」
 ルイズに付き従って、部屋を出ると、調度隣の部屋からも一人の少女が出てきた。
「あら、おはようヴァリエール。今日は珍しく早いのね?」
 その赤毛の少女から声がかかると、ルイズの纏う雰囲気が一気に刺々しくなったのを感じた。
「あ~らツェルプストー。珍しいだなんてそんなことないわ」
「何言ってるの。寝坊常習犯のくせに」
 しれっとルイズの強がりを打ち砕くツェルプストーとやら。しかし、元よりルイズの言には感心が薄いらしく、必死に弁明するルイズは無視してクォヴレーの方を向いてきた。
「ふーん、あなたホントに人間を使い魔にしたのね」
「ああ。ルイズの使い魔の、クォヴレー・ゴードンだ」
「クォヴレー、ね。私は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。よろしくお願いするわ」
「こちらこそよろしく頼む」
 にこやかにクォヴレーが答える。
「ふーん?」
 しげしげと上から下まで舐めるように視線を向けてくるキュルケ。
「何だ?」
「顔もだけど、体つきも……結構いい男じゃない」
 にんまりとクォヴレーを見る。
「? ああ、ありがとう」
 何が言いたいのかは判らなかったが、とりあえず自分が誉められたのは理解出来たので礼を言うクォヴレー。
 と、反射的にスウェーバックをかける。先程までクォヴレーの居たところをルイズの手にした鞭が通り過ぎていた。
「いきなり何をする」
「何で避けるのよ!?」
「普通避けると思うが……」
 淡々と返すクォヴレー。
「なにツェルプストーなんかに色目使ってるのよ!?」
「色目?何がだ?」
 しつこく振られる鞭をかわし続けながら、さっぱりわからないという顔で尋ね返す。
「ツェルプストーに誉められたからって、鼻の下伸ばさないでよね!?」
「誉められたから礼を述べただけなんだが……とりあえず、あまり振り回すな。危ないぞ」
 スッとごく自然に踏みこんだクォヴレーの左手が、鞭を持ったルイズの右手を押さえ込んでいた。
「自分に当たったらどうする」
「よ、余計なお世話よ!」
 あらまぁとその様子を見ていたキュルケは唇に指を当てた。
 この男、全部を判っていてルイズをおちょくっているのか、
(あるいはなーんにも判ってないのか……表情からすると後者っぽいわね)
 自分に誉められた時も、ルイズに責められた時も、どこか理解出来ていない雰囲気が感じられた。
 見た目ではルイズよりも年上。つまり、実年齢上のルイズとは同じくらいに見えるこの少年は、精神年齢、少なくとも異性関係についてはずっと幼いのだろうと、キュルケは判断した。
 とりあえず、主目的であるルイズ弄りをもう少し続けようと、キュルケは自身の使い魔を呼び込んだ。
「そうそう、私も昨日召喚に成功したのよ」
 ようやくクォヴレーから解放されたルイズの目に、キュルケの後ろから現れた炎が映った。
「これって、火トカゲ?」
「そう、サラマンダーよ。この尻尾の立派な火をご覧なさい!火山近くの種に違いないわ!」
 自信満々、ルイズと違って『有る』胸張って大いばり。
「名前はフレイム。よろしくね?」
 くっ、と一人歯ぎしりするルイズの横で、しゃがみ込んだクォヴレーがしげしげとフレイムを見つめる。
「あら、どうかした?クォヴレー?」
「こいつは……器用なんだろうな」
 声をかけたキュルケは見ずに、フレイムから視線を外さないクォヴレー。
「どうして?」
「俺には、こいつが洗濯をしたりキュルケの着替えを手伝っている様が想像出来ない」
「はぁ?」
 何だってフレイムがそんなことまですると思うのかと尋ねようとすると、クォヴレーの横でルイズが物凄く焦っていた。
「ああああアンタっ!何言ってるのよ!?」
「? 身の回りの雑事も、使い魔の仕事なのだろう?」
 この受け答えと、先程の発言から二人の間でおおよそ何があったのか察したキュルケは、かなり冷たい視線をルイズに向けた。
「ルイズ……あなた使い魔にそんなことまでさせてるの……?」
「ちちちちち違うわよっ!?」
「? 俺はちゃんとやっているだろう?ルイズ」
「あああああアンタは黙ってなさい!」
 ヒュンと飛ぶ鞭を、やはり軽くかわすクォヴレー。
「いくら使い魔とはいえ……昨日今日会った異性に着替えを手伝わせて、よくそれで普段人のこと色狂いだの何だの言えるわね?」
 もはや侮蔑の視線にまで落ちている。
「アンタだって、会って間もない男連れ込んでるじゃないの!?」
「あら、それはその男性を愛しているからよ?たとえ一時の情熱とは言えね。でも、あなたは別に好きでも何でもない異性に裸を見られて平気な訳?」
 完全に封殺されるルイズ。
「着替えは使い魔の仕事ではないのか?」
「使い魔っていうより使用人の、それも同性の仕事ね」
「やはりそうか。おかしいとは思っていたんだが……」
 もはや完全に晒し者のルイズ。
「おかしいと思ったのにやってたの?」
「俺はルイズに仕える立場だからな。基本的に命令には従う」
 キュルケの問いかけに、相変わらずピクリとも表情を動かさずに答える。
「ふーん、素直な使い魔で良かったじゃない。ルイズ」
 それだけ言い残すと、じゃあねと手を振りながらキュルケは去っていった。
 キュルケの後ろ姿をしばらく見送り、そこでクォヴレーはルイズに視線を戻した。
「……どうした?食事に行くのではなかったのか?」
「アンタなんか……アンタなんか朝食抜きよ!この馬鹿犬ぅ~っ!」
 何だかよく分からないが、犬と呼ばれた。

 アルヴィーの食堂と呼ばれる場所の外で、近くにあった木陰に身を横たえながらクォヴレーは思索にふける。
 何でも、食堂は基本的に貴族が食事をするところなので平民は入れないそうだ。
(加えて俺は使い魔で、主人であるルイズからは犬扱い。つまりは、こいつらと変わりないということか)
 同じく食堂の外で待たされている使い魔らしき生物たちを見る。
 カエルにフクロウ、先程見たサラマンダーのフレイムや竜も見受けられた。
 人間扱いされていないことに、反発感を覚えないクォヴレーでもないが、元々クォヴレーは人間扱いされない人造生体のバルシェム・シリーズである。
 それを経て、自己を人間として確立しているから、今更自分を人間扱いしない人物が現れたからといって、一々相手にするつもりもなかった。有り体に言って、スルーである。
 それに、なんだかんだ言って彼女は自分を人としてみているのだろうと、クォヴレーには察せられた。
 先程のやりとりを思い出してみると、要するに、彼女は男性であるクォヴレーに着替えを手伝わせていることが周りの人間にばれて恥ずかしかったのだと理解出来る。
 自分のことを、本当に動物と何ら変わりない使い魔だと思っているのなら、平然と受け流すことも出来ただろう。
 知られて恥ずかしいことならば、端からやらねばいいのに。とクォヴレーが思ってしまうのは、上に立つ者として下の者に上下関係を教え込ませようとする、主従的思考が理解出来ていない為である。
 実際それをやるにしても、有効であるのは下の者が『屈辱的な扱いを受けている』と思うことによって初めて成り立つ類の行為である。淡々と作業と割り切ってこなすクォヴレーには何の痛痒も与えておらず、従って完全にルイズの空回りであった。
「きゅい」
 奇妙な声が聞こえて、上半身を起こす。
 すぐ目の前に、先程見た竜が来ていた。
「……何だ?」
「きゅ~」
 じっと見ていると、竜が恭しく頭を下げた。
「おかしな奴だな」
 少し笑いかけながら、下がった頭をなでてやる。先程、メイドが用意した餌を食べ終えた他の使い魔達が思い思いに過ごす中、この竜だけがクォヴレーに近づいていた。
「きゅいきゅい」
 すっと、先程まで食べていた肉の切れっ端が差し出された。
「俺にくれるのか?」
「きゅい!」
 自分が食事を摂っていないことに気づいていたのだろうか。
「悪いが、焼いていない肉は俺の舌に合わないのでな。気持ちだけ貰っておく。それはお前で食べろ」
「きゅ~」
 見るからに気落ちした様子に申し訳なく思い、竜の頭をなでてやる。
 こちら側に来てから食事を一切摂っていないクォヴレーだが、それによる不都合などは何も無い。元より、タイムダイバーとなった時点で因果律から外れ、ディス・レヴとティプラー・シリンダーによって身体の調子は常に万全に整えられている。
 当然だ。次元を超えて旅をするタイムダイバーの特性上、趣いた先で必ずしも食料が手にはいるとは限らないのだ。食糧不足で次元の調停者が行き倒れたのでは話にならない。
 実際、ここ三つばかりの世界は皆不毛の世界で、食べ物どころか水すら口にしていない状態がクォヴレーの主観時間にして半年近く続いていた。
 今のクォヴレーにとって、食べ物は嗜好品の類と言える。
「クォヴレー!授業に行くわ。着いてきなさい!」
 朝食が終わったのだろう。桃色の髪を風に揺らしながら、彼の主が呼んでいた。
「また会おう」
 小さくそれだけ呟きながら立ち上がり、ルイズの方へ向かうクォヴレー。
(ほら、これをあげるわ)
(……朝食は抜きではなかったのか?)
(か、考えてみたら、あなたここに来て何も口にしてないじゃない。倒れられても困るし……。そ、そう!使い魔虐待して居るだなんてあらぬ噂を立てられても困るのよ!)
(食事を抜くのは立派に虐待に当たると思うんだが)
(だ、だからこうしてちゃんとパンを持ってきてあげたんじゃない!いい?これは躾なのよ!アンタが主人たる私を蔑ろにしないようにするためのね!)
(そうか)
(ふん、感謝しなさいよね?それは私たち貴族向けの上等な柔らかいパンで、平民のアンタが本来食べられる物じゃないんだから!)
(ではありがたくいただくとしよう)
 優れた聴覚で二人の会話を聞いていた竜――韻竜シルフィードは、使い魔の少年がちゃんと食事を取れたことに胸をなで下ろした。
 そこへ、彼女の主も食事を終えてやってくる。
「何を話してた?」
「きゅい!?や、約束通り、シルフィードは人とはなんにも話してないのね!」
 小声で尋ねると同じく小声で慌てて弁明する韻竜に、ぺしとツッコミの掌を当てるタバサ。
「彼の方。シルフィードに何を話していた?」
「きゅい。お食事の話してただけなのね。あの子、何も食べてなかったから、シルフィードのお肉分けてあげたんだけど、生肉は嫌いだそうなのね」
 これの良さが判らないなんて可哀相なのね。と続けるシルフィードに、タバサは目を丸くした。
 この韻竜。召喚者の自分に似たのか、結構食い意地が張っている。それが、空腹らしい少年を見かけたからと言ってあっさり食べ物を分けようとするとは。
「彼は……何者?」
 タバサの問いに、目をつむるとまるで祈るように空を見上げながらシルフィードは言う。
「あの子は使者なのね。生き物の死後を司る神様の、使者なのね」
「神の……使者」
 口の中でそれを反芻しつつ、本塔の入り口に消えていった背中を目線で追った。




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