あの草原から、トリステイン魔法学院の敷地内に来て、しばらくの間クォヴレーはこの部屋で放っておかれた。
すっかり日も沈んだ頃、ようやくルイズが戻ってきた。
「済まないが、勝手に明かりを付けさせて貰った」
と、燭台を指さすクォヴレー。
しかしルイズは一言も言葉を発さないまま近づいてきて、クォヴレーを見るとふかぁーくため息をついた。
「はぁぁぁぁ~」
普通の人間なら、人を見てため息をつくとは何事かと怒るところだが、生憎とクォヴレーは普通の人間ではない上に、それとは別の所で感性もかなりずれていた。
「疲れているのか?」
「アンタ……人間、なのよね……」
クォヴレー本人としては結構ナイーブな問題を無遠慮げに触られた格好となり、それにより初めていささか不機嫌になるが、すぐにこの少女は何も知らないのだと意識を切り替えた。
「そうだな。俺は、自分のことをヒトだと思っている」
「何で平民なんか……」
そのままクォヴレーの前を通り過ぎ、ベッドに倒れ伏す。
「平民……という事は、お前は貴族なのか」
「そうよ。メイジなんだから当たり前でしょ?わかったら、その『お前』って呼び方改めなさいよね」
ベッドの上、首だけ動かしてクォヴレーを睨み上げる。
「わかった。……ところで、メイジとは何だ?」
「……アンタ、どこの田舎から来たのよ?メイジは魔法を使える者の事よ」
「成る程。魔法使いのことをここではメイジと呼ぶのか」
ふむふむと興味深げにしきりに頷くクォヴレーを見て、ルイズは心底後悔した。
使い魔召喚の儀で呼び出したのは人間の平民で、しかもろくに常識も弁えない田舎者ときた。
(なんで……こんな……)
涙ぐみそうになるのを、シーツに顔を埋めることで見せないようにする。
「それでルイズ」
「……何よ」
まだ涙ぐんだままだというのは自覚していたので、クォヴレーとは反対に顔を上げながら尋ね返す。
すっかり日も沈んだ頃、ようやくルイズが戻ってきた。
「済まないが、勝手に明かりを付けさせて貰った」
と、燭台を指さすクォヴレー。
しかしルイズは一言も言葉を発さないまま近づいてきて、クォヴレーを見るとふかぁーくため息をついた。
「はぁぁぁぁ~」
普通の人間なら、人を見てため息をつくとは何事かと怒るところだが、生憎とクォヴレーは普通の人間ではない上に、それとは別の所で感性もかなりずれていた。
「疲れているのか?」
「アンタ……人間、なのよね……」
クォヴレー本人としては結構ナイーブな問題を無遠慮げに触られた格好となり、それにより初めていささか不機嫌になるが、すぐにこの少女は何も知らないのだと意識を切り替えた。
「そうだな。俺は、自分のことをヒトだと思っている」
「何で平民なんか……」
そのままクォヴレーの前を通り過ぎ、ベッドに倒れ伏す。
「平民……という事は、お前は貴族なのか」
「そうよ。メイジなんだから当たり前でしょ?わかったら、その『お前』って呼び方改めなさいよね」
ベッドの上、首だけ動かしてクォヴレーを睨み上げる。
「わかった。……ところで、メイジとは何だ?」
「……アンタ、どこの田舎から来たのよ?メイジは魔法を使える者の事よ」
「成る程。魔法使いのことをここではメイジと呼ぶのか」
ふむふむと興味深げにしきりに頷くクォヴレーを見て、ルイズは心底後悔した。
使い魔召喚の儀で呼び出したのは人間の平民で、しかもろくに常識も弁えない田舎者ときた。
(なんで……こんな……)
涙ぐみそうになるのを、シーツに顔を埋めることで見せないようにする。
「それでルイズ」
「……何よ」
まだ涙ぐんだままだというのは自覚していたので、クォヴレーとは反対に顔を上げながら尋ね返す。
「使い魔は、具体的に何をすればいい?」
「そうね……使い魔の仕事は大きく三つあるわ」
気だるげに、指を三つ立ててみせる。
「一つは、主人との感覚の共有。主の代わりに目となり耳となること。つまり、アンタの見聞きした物を私も感じることが出来るようになるの」
「……まさか出来ているのか?」
少し驚いたようにクォヴレーが尋ねた。
「ダメね。教本通りにやってみたけど、ちっとも繋がらない」
「そうか……」
内心ほっとするクォヴレー。この少女の平穏な日常のためにも、自分と繋がるのはお勧め出来ない。人間、知らない方が幸福なことなど世の中に山のようにあるのだ。
「二つめは、主人に代わって薬草や硫黄なんかの鉱物を取ってくること」
「この辺りの植物の生態に詳しくないので薬草は無理だが、硫黄などはすぐにでも出来るぞ」
「本当?」
些か驚きで目を見開くルイズ。つい寝返りを打ってクォヴレーの方を向いてしまう。最も、この時点では既に涙は引っ込んでいたのだが。
「俺の考えてる硫黄と、こちらで言う硫黄が同じ硫黄であるのならな。火山地帯などでよく見かける物質のことか?」
「ええ」
「それなら俺も知っている硫黄だ」
自信ありげに頷くクォヴレー。
「ふーん、案外使えるじゃない。で、三点目は主人であるメイジを守ること」
少し気を持ち直したか、上半身を起こしベッドに腰掛ける形になるルイズに、若干胸を反らし気味にクォヴレーは答えた。
「それこそ俺の得意分野だ。任せて貰おう」
「へえ?少しは腕に自信があるみたいね。何が出来るのかしら?」
「銃の腕なら、かなりのものだと自負している」
ここで、行き違いが発生する。
「は……?銃?」
「そうだ」
ルイズにとって銃とは、このハルケギニアに存在するマスケットの類であり、クォヴレーにとってそれは、カートリッジ式であったりシリンダー式であったりする拳銃から対物狙撃ライフルに至るまでの幅広い銃の種類であった。
「そうね……使い魔の仕事は大きく三つあるわ」
気だるげに、指を三つ立ててみせる。
「一つは、主人との感覚の共有。主の代わりに目となり耳となること。つまり、アンタの見聞きした物を私も感じることが出来るようになるの」
「……まさか出来ているのか?」
少し驚いたようにクォヴレーが尋ねた。
「ダメね。教本通りにやってみたけど、ちっとも繋がらない」
「そうか……」
内心ほっとするクォヴレー。この少女の平穏な日常のためにも、自分と繋がるのはお勧め出来ない。人間、知らない方が幸福なことなど世の中に山のようにあるのだ。
「二つめは、主人に代わって薬草や硫黄なんかの鉱物を取ってくること」
「この辺りの植物の生態に詳しくないので薬草は無理だが、硫黄などはすぐにでも出来るぞ」
「本当?」
些か驚きで目を見開くルイズ。つい寝返りを打ってクォヴレーの方を向いてしまう。最も、この時点では既に涙は引っ込んでいたのだが。
「俺の考えてる硫黄と、こちらで言う硫黄が同じ硫黄であるのならな。火山地帯などでよく見かける物質のことか?」
「ええ」
「それなら俺も知っている硫黄だ」
自信ありげに頷くクォヴレー。
「ふーん、案外使えるじゃない。で、三点目は主人であるメイジを守ること」
少し気を持ち直したか、上半身を起こしベッドに腰掛ける形になるルイズに、若干胸を反らし気味にクォヴレーは答えた。
「それこそ俺の得意分野だ。任せて貰おう」
「へえ?少しは腕に自信があるみたいね。何が出来るのかしら?」
「銃の腕なら、かなりのものだと自負している」
ここで、行き違いが発生する。
「は……?銃?」
「そうだ」
ルイズにとって銃とは、このハルケギニアに存在するマスケットの類であり、クォヴレーにとってそれは、カートリッジ式であったりシリンダー式であったりする拳銃から対物狙撃ライフルに至るまでの幅広い銃の種類であった。
当然、威力・性能共に段違いであると共にその有用性もまた雲泥の差である。
だが、ルイズはそんなことは露知らず。一度期待に胸が膨らんだだけに落胆も激しかったようで。
「そう……銃、ね」
目を伏せがちにすると、再びベッドに倒れ込んでしまった。
(あんな役立たずな物が扱えるからって何だって言うのよ……)
「その三つが、俺の使い魔としての仕事か?」
「……そうだけど、あんたは三つ全部出来てる訳じゃないわ。それ以外の雑用もやって貰うわよ」
顔だけを、今度はクォヴレーの方に向けつつ答えた。
「雑用……掃除などか。俺自身はあまり経験はないが、やってみよう」
これについては自信なさげに返すクォヴレー。
「そ。それじゃあ明日の朝、それ洗っておいて頂戴」
とルイズの指さす先には、駕籠に入れられた洗濯物。
「わかった」
こくりと頷きかえす。
「それじゃあひとまず」
ルイズがベッドから降りながら、命じる。
「私を着替えさせなさい」
ルイズ曰く、貴族の子弟は使用人に着替えさせるのは当たり前なのだそうで。
(そういうものなのか……)
全く頓着無く、純粋に未見の物事を知った故にクォヴレーは感心していた。
命じられるままに引き出しからネグリジェと替えの下着を取り出し、命じられるままにルイズの服を脱がせたところで、ハタと動きが止まった。
「……ちょ、ちょっと。主人を裸にしてじっと見るのは……」
少し顔を赤くしながら後ろを向くと、クォヴレーはルイズの方など見ていなかった。その手にしたネグリジェなどをまじまじと見つめている。
「ちょ……ちょっと、クォヴレー……?」
もしかして、こいつ服に欲情する変態……?等と失礼なことを考えながら一歩引くルイズ。それが変態なのならば着替えさせているルイズは何なのかという話である。
だが、難しい顔でネグリジェを見ていたクォヴレーは全く予想だにしないことを口走った。
「すまない、ルイズ。着せ方が判らない」
「はぁ?あんた何言って……」
だが、ルイズはそんなことは露知らず。一度期待に胸が膨らんだだけに落胆も激しかったようで。
「そう……銃、ね」
目を伏せがちにすると、再びベッドに倒れ込んでしまった。
(あんな役立たずな物が扱えるからって何だって言うのよ……)
「その三つが、俺の使い魔としての仕事か?」
「……そうだけど、あんたは三つ全部出来てる訳じゃないわ。それ以外の雑用もやって貰うわよ」
顔だけを、今度はクォヴレーの方に向けつつ答えた。
「雑用……掃除などか。俺自身はあまり経験はないが、やってみよう」
これについては自信なさげに返すクォヴレー。
「そ。それじゃあ明日の朝、それ洗っておいて頂戴」
とルイズの指さす先には、駕籠に入れられた洗濯物。
「わかった」
こくりと頷きかえす。
「それじゃあひとまず」
ルイズがベッドから降りながら、命じる。
「私を着替えさせなさい」
ルイズ曰く、貴族の子弟は使用人に着替えさせるのは当たり前なのだそうで。
(そういうものなのか……)
全く頓着無く、純粋に未見の物事を知った故にクォヴレーは感心していた。
命じられるままに引き出しからネグリジェと替えの下着を取り出し、命じられるままにルイズの服を脱がせたところで、ハタと動きが止まった。
「……ちょ、ちょっと。主人を裸にしてじっと見るのは……」
少し顔を赤くしながら後ろを向くと、クォヴレーはルイズの方など見ていなかった。その手にしたネグリジェなどをまじまじと見つめている。
「ちょ……ちょっと、クォヴレー……?」
もしかして、こいつ服に欲情する変態……?等と失礼なことを考えながら一歩引くルイズ。それが変態なのならば着替えさせているルイズは何なのかという話である。
だが、難しい顔でネグリジェを見ていたクォヴレーは全く予想だにしないことを口走った。
「すまない、ルイズ。着せ方が判らない」
「はぁ?あんた何言って……」
文句を言いかけて、目の前のクォヴレーの服装に目がいく。
どう見ても文化系統の違う服であった。
「しょ、しょうがないわね。それじゃあ私の指示通りに着せなさい。これから覚えるのよ?」
「ああ。わかった」
突き詰めていくと、別にクォヴレーの服装は文化系統とはあまり関係の無いパイロットスーツであり、彼の大本の世界でもネグリジェなどは普通にある服飾品である。
だが、クォヴレーの生い立ちに問題があった。
生まれてしばらくの間を人造生命体バルシェムとして過ごし、ロンド・ベル、およびαナンバーズに居た期間にも、女性と「そういう」接触が皆無のままで、次元を超えて旅をする事となったクォヴレーには、ネグリジェなど初見であったのだ。
ぎくしゃくしながらも着替えを終えたところで、今度はクォヴレーが尋ねた。
「ルイズ。使い魔としての仕事は大体了解した。それで出来れば、一日の内睡眠を除いた2時間程の休みが欲しいんだが?」
「そうね……私の言った仕事さえこなせば、別にそれぐらいは構わないわ」
「助かる」
にっこりと、全く邪気のない笑みで笑いかけるクォヴレー。
少し、どきりとした。
「そ……それじゃあ、私はもう寝るわね」
すとんとベッドに腰を下ろす。
「俺はどこで寝ればいい?」
「ゆ、床よ。毛布ぐらいなら貸してあげる」
ぽーんと飛んでくる丸まった毛布を受け取り、クォヴレーは燭台に近づく。
「明日は7時には起こしなさいよね!」
「了解した。灯を消すぞ」
手をかざしながらフッと吹きかけ、部屋の中は星と二つの月明かりだけが照らす。
(け、結構整った顔立ちじゃない。……そうよね。この私が召喚したんだもの。例え平民だろうと、あれぐらいの美しさを持ってる奴が応じるのが妥当だというものだわ!)
ベッドの上で毛布にくるまりながら何やら勝手に自己満足しているルイズ。クォヴレーもごろりと横になり、ベッドの上で動くルイズの様子を気遣いつつ、やがて規則正しい寝息が聞こえてくる段になるとようやくクォヴレーも意識を手放した。
どう見ても文化系統の違う服であった。
「しょ、しょうがないわね。それじゃあ私の指示通りに着せなさい。これから覚えるのよ?」
「ああ。わかった」
突き詰めていくと、別にクォヴレーの服装は文化系統とはあまり関係の無いパイロットスーツであり、彼の大本の世界でもネグリジェなどは普通にある服飾品である。
だが、クォヴレーの生い立ちに問題があった。
生まれてしばらくの間を人造生命体バルシェムとして過ごし、ロンド・ベル、およびαナンバーズに居た期間にも、女性と「そういう」接触が皆無のままで、次元を超えて旅をする事となったクォヴレーには、ネグリジェなど初見であったのだ。
ぎくしゃくしながらも着替えを終えたところで、今度はクォヴレーが尋ねた。
「ルイズ。使い魔としての仕事は大体了解した。それで出来れば、一日の内睡眠を除いた2時間程の休みが欲しいんだが?」
「そうね……私の言った仕事さえこなせば、別にそれぐらいは構わないわ」
「助かる」
にっこりと、全く邪気のない笑みで笑いかけるクォヴレー。
少し、どきりとした。
「そ……それじゃあ、私はもう寝るわね」
すとんとベッドに腰を下ろす。
「俺はどこで寝ればいい?」
「ゆ、床よ。毛布ぐらいなら貸してあげる」
ぽーんと飛んでくる丸まった毛布を受け取り、クォヴレーは燭台に近づく。
「明日は7時には起こしなさいよね!」
「了解した。灯を消すぞ」
手をかざしながらフッと吹きかけ、部屋の中は星と二つの月明かりだけが照らす。
(け、結構整った顔立ちじゃない。……そうよね。この私が召喚したんだもの。例え平民だろうと、あれぐらいの美しさを持ってる奴が応じるのが妥当だというものだわ!)
ベッドの上で毛布にくるまりながら何やら勝手に自己満足しているルイズ。クォヴレーもごろりと横になり、ベッドの上で動くルイズの様子を気遣いつつ、やがて規則正しい寝息が聞こえてくる段になるとようやくクォヴレーも意識を手放した。