あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの独立愚連隊-11


 タンッ
 タンッ
 厨房への馬車用搬入口を兼ねた空き地にボウガンの弦が弾ける音が響いている。
 先ほどギーシュが完成させた最初のボウガン、その使い方をサモンジから教わったタバサは、早速その試し撃ちをしているところだ。その音を聞きながら、もう一つボウガンを作っているギーシュがぽつりとこぼした。 
「さっき、退学届けを出してきたよ」
 そこで言葉を切り、錬金を唱えてばねの板厚を少し増やしてはその弾力を確かめる。続けて、サモンジの注文でボウガンの後部に銃床を造る。
「なんだろうね、昨日の朝には『こんな仕打ちに負けるものか』って思っていたんだけど……ははは、情けない限りだよ。家に知られれば勘当物だし、家にも帰れない……ありきたりだけど、メイジくずれの傭兵にでもなるつもりだよ」
 言いながら造った銃床を肩に当ててボウガンを構えて具合を確かめる。
「ああなるほど。こうやってしっかり構えられるようにするのか……それじゃあ一応完成だ。全く、これでお別れだからといって平民相手にタダで武器を錬金してあげるなんて破格のことだと自覚してくれよ? さあ調整するから具合を確かめてくれ」
「ああ、うん」
 ギーシュの手からできたばかりのボウガンを受け取り、早速何度か構えて見た後に弦の具合を確かめる。ギーシュもサモンジも、お互い特に会話らしい会話も無く淡々と作業が進む。周囲にはタバサの試し撃ちの音だけが響き続ける。
 ひとしきりボウガンの調子を見たサモンジが、ギーシュへ口を開く。
「ギーシュ君。私がこっちに来る前、ルイズちゃんの使い魔になる前に傭兵やってたのは話したよね? ついでに言うと、私はその前は大学に居たんだ」
 引き金を引いてボウガンの弦を弾ける様子を確認する。できればもう少し反発のあるバネで弦を作りたいな、などと片隅で思いながらいつもの世間話と同じ調子でギーシュに言う。
「その大学ってよその国でも知られる結構な有名どころでね。だから、そこからドロップアウトするのはいろいろ言われるもんだよ。私も何人か見たからね」
「……そうかい」
「だからギーシュ君のことも応援するよ」
 へっ、とギーシュが頓狂な声を上げる。今のギーシュにまともな対応をしてくれそうな相手と思ってサモンジに愚痴を溢していたのだが、正直に言えば自分の恥を晒す代わりに慰めや叱咤を貰いたかった、というのがギーシュの本音だった。
 いや、普通に考えれば今のは「どうして?」とか「なんだって?!」とか言うところだろう。それをあっさり「応援するよ」などと受け入れるというのは、ギーシュも完全に予想していなかった対応だ。サモンジがどんな顔で今の言葉を言ったのか、そう思ってサモンジの顔を窺うギーシュだが、サモンジは普段とあまり変わらないのんびりとした表情でボウガンに顔を戻していた。いつの間にか試し撃ちをやめて戻ってきたタバサが、横から興味深そうにサモンジのボウガンに取り付けられている銃床と照星を見ている。
 今の言葉の真意が分らずただサモンジの方を見つめながら悩むギーシュだったが、その視線に気づいたサモンジが振り向きにっと笑う。
「はっはっは。どうせ世の中なるようにはなるし、なるようにしかならないものさ。だったら悩んで縮こまるよりも、これでいいんだって開き直ったらどうだい?」
 からからと笑いながらギーシュの肩をバンと叩くサモンジ。立ち上がり、その頭にぽんぽんと手を当てながら語りかける。
「ギーシュ君も周囲に冷たくされる中で勉強するよりも、一度環境を変えた方がいいと思ったんだろ? だったらいいじゃないか。この学院を卒業したっていう肩書きを捨てることができるほどの決意なんだ、馬鹿にしたりはしないさ」
 呆然とする。ギーシュの意識としては、周囲の冷たい視線と言葉、そして友人と恋人に裏切られたということを理由に学院を辞めるというのは弱さ故の末路だと思っていた。
 しかし、サモンジはそれはそれでいいと言う。「学院から逃げ出した」と思っているギーシュ、しかしサモンジは「学院を捨てる決断をした」と言っているのだ。
 顔を上げると、自分を見つめるサモンジとタバサと目が合う。いつもの緩い笑みを浮かべたサモンジと、無表情のタバサ。
「あなたがそうすると決めた、それならばあなたには理由のある行動」
 それだけ言うと、タバサは自分の分のボウガンを持ってそのまま学院の中へ戻って行く。その言葉の意味を考えながら、ギーシュはサモンジへ視線を移す。
「サモンジ君、君は……」
「ああ分ってるよ、貴族の人からしたら詭弁臭いってね。学校生活が辛くて逃げ出した言い訳、負け惜しみと思われるだろうさ。でもまあ、いいじゃないか。さっきも言ったとおり、私は君の決心を馬鹿にしないし応援するよ。
頑張りなよ」
 その言葉でギーシュの覚悟が、本当に決まった。
「……ああ。言われるまでもないことさ」
 ふっ、と笑う。そのまま背を向けてギーシュはサモンジの前から立ち去った。

 そして午後の授業から教師の取る出欠の確認に、ギーシュ・ド・グラモンの名前が消えた。


「……って訳でね。まあギーシュ君とはそれでお別れだからいろいろ話し込んじゃって遅れたんだ。ははは、ごめんごめん」
「そう……いいわ、そういうことなら別に責めるつもりはないわ。……学院、やめちゃったのね」
 午後の授業。ルイズの席の横で小声で言い訳をするサモンジにルイズもまた小声で返す。担任のシュヴルーズは一瞬ルイズらの方へ視線を向けるが、以前ルイズの爆発で吹き飛ばされたことのあるシュヴルーズは見なかったことにして授業を続ける。
 ちなみに、サモンジはタバサのことは伏せてギーシュとだけ会っていたと言い訳をしていた。タバサと会ったことに触れると、少々タバサのプライバシーに関わる話に波及する恐れがある。流石にそこを漏らすのはまずかろうというのはサモンジにも解っていた。
「ではこの実演を、隣の列、は空席ですのでその隣の………………あ、えっと、まあいいでしょう。これは実演するまでもありませんよね、ええそうですとも。では次の……」
 淡々と授業は続いている。一人少なくなった教室、しかしそのことは今日の
夕食に話題を一つ提供するだけで忘れられていくだろう。授業の要点をノート
にまとめながらも、頭の片隅に小さな寂寥を感じていた。周囲からのいじめに
耐えられず学院を去ったギーシュのように、以前の自分も学院を去っていたら
どうなっていただろうかという疑問がふと頭に浮かんだ。

 魔法の使えないメイジ。
 爆発を続けほこりにまみれた自分の姿。
 全く成長せずに学院から戻ったルイズへの使用人の噂話。
 以前と変わらず厳しくも優しい父。
 相変わらず厳しい母。
 迂闊な言葉に貴族としての自覚がないと叱られ、熱心に領地のことを学ばされる。
 しかし魔法については一切触れられない。
 ルイズがいるときだけ、魔法のことが話題から避けられる。

「!?」
 浮かぶ暗い想像を強く目を瞑ることで追い出す。はっと覚醒するルイズの意識と視線が、授業の片づけをしているシュヴルーズの姿を捉える。いつの間にか授業を聞くのも忘れ、ありえたかもしれない暗い別の未来の想像に没頭していたようだ。
 もう一度きつく目を閉じて先ほどまでの想像を打ち消す。もう二度とあんな妄想はしない、私には別の未来があると信じ――
「おーい。ルイズちゃん、もうみんな席を立ってるよ。次の授業は別の教室なんだろ? 早く行かなくて大丈夫かい?」
 教室内を扉の方からルイズの席へ歩いてくるサモンジ。その声に周囲の生徒がサモンジとルイズに一瞬視線を向け、すぐにそらしていく。その様を見ながらルイズはふっ、と息を吐きながら立ち上がる。そうだ、この周囲の反応がこの間の破壊の杖奪還、そしてフーケ討伐という手柄の証なのだ。私にはあんな未来が訪れることはない、ルイズはそう自分に言い聞かせる。
「ええそうね。行くわよサモンジ」


 そうして破壊の杖の一件からの日々が日常に埋もれていく中、トリステインの城下町にあるチェルノボーグの監獄の中でフーケはぼんやりと最後の仕事のことを思っていた。

 学生のメイジと平民、そう思って油断していた。元傭兵の平民、そのことを後ほんの少しでいいから警戒していれば、と思ったこともあるがそれはいささか望みすぎだろう。あの男が持っていた「双眼鏡」という道具のことや、粗のあるフーケの目撃情報の報告、強引に馬車に戻るといってはぐれた振りをするといった不自然な行動の積み重ねが、既に最後の仕事を失敗に向かわせていたのだ。
 結局それもこれも、オスマンやコルベールが勿体ぶっていた破壊の杖が実はただの大型銃だったというのがそもそもの原因だ。あれがもう少し素直に使い方の解り易いマジックアイテムならば……
 と、後悔に満ちた物思いにふけっていたフーケの耳に耳慣れない足音が聞こえてきた。ベッドに身を起こして様子を窺うフーケの前、鉄格子の向こう側に怪しい黒マントと白い仮面の男が姿を現す。
「土くれ、いやマチルダ・オブ・サウスゴーダ。ここから出る気はないか」
「なんだって? あんたなんだってそんな名前を、いやそれよりも一体あんたは何者だい」
 その問いかけに男はすぐには答えず、ポケットから鍵を取り出してそれをフーケ、いやマチルダに示しながら反対の手で杖を取り出す。驚愕と焦りを顔に浮かべて警戒するマチルダに、男は仮面の下に微かに笑みの気配を見せながら問いかける。
「聞きたいか?聞けば後戻りはできないぞ。もっとも、私がここに姿を見せた時点で我らの同志となるか、一切他言できないようになってもらうしかないのだがな」
 男の言葉に、マチルダの脳裏に一瞬唯一残った家族と呼べる少女の姿が浮かぶ。やがて、マチルダはふぅ、と観念したかのようにため息をつくと警戒を解いた。その様子を見た男は満足そうに頷くと、鍵を錠前に差込み扉を開く。
「ようこそレコン・キスタへ。同志マチルダ。」




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