あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-21


ワルドの妻、そう名乗ったルイズがどこかに閉じ込められることもなく案内されたのはワルドと婚姻を誓い、そしてウェールズが殺されたあの礼拝堂だった場所だ。今はそれも崩れ落ち、残骸となりはてている。
城からは略奪の分け前にあずかろうとする傭兵達のざわめきがあちこちに響いていた。
その喧噪から切り離されたこの礼拝堂の跡地には、見知らぬ男の他にルイズの見知った顔が3つあった。
一人はワルド。再会したときと同じ優しい笑みを浮かべルイズを迎えている。
二人目はロングビル──いやフーケと言った方がいいだろうか──。口を引き結び、ルイズを睨みつける。
そして三人目。フーケがここにいる理由がどうでも良くなるくらいにルイズが気にかけている人、アンリエッタだ。
「ああ、ルイズ。あなたも捕らわれてしまったのですね」
「いえ……私は」
言いよどんだ言葉の後をワルドが続けた。
「ルイズは私の妻として自分からここに戻ってきたのですよ」
「えっ!」
わずかに後ずさるアンリエッタは驚愕を浮かべ、直後にその美しい顔を怒りに変貌させる。
「ルイズ、あなたまで!」
振り上げられたアンリエッタの手がルイズの左頬を打つ。
ルイズはなにも言わず、アンリエッタの前に自分の右頬を差し出した。
さらに怒りを強くしたアンリエッタは再び手を振り上げるが、それはワルドの鍛えられた腕につかまれ振り下ろされなかった。
「落ち着いてください。アンリエッタ・ド・トリステイン王女」
アンリエッタがルイズの知らない男に刺すような視線をたたきつけるが、男は笑顔を崩さない。
「あなたは?」
「申し遅れました。余はレコン・キスタ総司令官、オリヴァー・クロムウェルと申します。以後お見知りおきを。こちらはマチルダ・サウスゴータ。そして、そちらは……紹介の必要はありませんな」
ルイズは王家に反旗を翻すレコン・キスタの総司令官とは、良く言えば猛々しい男、悪く言えば粗野な男をイメージしていたのだが、クロムウェルはそういうところは全くない。
むしろ柔和で理知的に見える。
少し意外に思うが、唇を引き結んでそれを表に出さないようにした。
とにかくボロを出したら取り返しがつかないほどの失敗になるからだ。
ウェールズ王子が装ってた海賊とはわけが違う。
ここでは自分だけが頼りだ。
姫様はすっかり落ち着きをなくしているし、ベルもいまいち当てにならない上にここにいない。
「さて、王女。この場に貴方と貴方のご友人の……ミス・ワルドとお呼びした方がよろしいかな。そのお二方を招待したのはほかでもありません」
ミス・ワルド。
今のルイズの立場を言うならそれがもっとも適当だろう。
仮にもルイズはワルドの妻としてここに来たのだから。
仮にも、だが
「貴方は裏切ったと言っていましたが、ミス・ワルドの判断が正しいことを証明する物をお見せしたいがためです。そして、友人となってもらいたい物ですな」
「正しい?証明?馬鹿なことを言わないでください。王家に反旗を翻し、そのことごとくを殺害する。そして、その仲間や友人となる。そのことにいかなる正当性もありません!」
「いえ、あるのですよ。これ以上ないほどに明らかなものが」
クロムウェルはまるで舞台に立つ俳優のように身にまとうローブをばさりと音を立てて広げた。
そのまま礼拝堂のすぐ側に立ったクロムウェルは、しばらく瓦礫を見下ろした後、ワルドに命じた。
「ワルドくん。すまないが、この瓦礫の下からウェールズ王子の遺骸を出してくれないか。ああ、そうそう、くれぐれも丁重に頼むよ。あまり傷をつけないようにね」
ワルドは頷き、杖を振る。
それにより生まれた竜巻は巧みに操られ、瓦礫を徐々に取り除いていった。
「ワルド君の仕事も少し時間がかかりそうなので、ここにおられる方々に余から説明させていただこう」
クロムウェルの口調は手慣れたものでよどみながない。
聖職者の装いに偽ることなく説教で慣れているのだろう。
「ここにいる誰もが知っていることとは思うが魔法には火、水、風、土の四系統がある。そして、それに加えもう一つの系統が存在する。そう、始祖の零番目の系統……虚無だ」
ルイズはそれを黙って聞いていた。
言いたいことはあったけど今は緊張していると誤解して欲しいと祈りながら口をつぐんでおいた。


フーケ、ことマチルダは口の中で小さくつぶやいた。
「虚無?」
彼女はこの言葉を真顔で口にする二人目の人間に出会ったことになる。
一人目はベール・ゼファー。
ルイズがここにいるのなら間違いなく近くにいるあの得体の知れない少女。


「余はその力を始祖ブリミルより授かったのですよ。それこそが貴族議会も認めた余が現存する王家を倒し、このハルケギニアの皇帝となる正当なる理由なのです」
「そんな嘘にだまされると思っているのですか?」
アンリエッタの言うとおり、ルイズもそう思った。
「虚無などただの伝説です!」
「もちろん聡明なるアンリエッタ王女ならそう言われるのも当然です。言葉のみで信じて良いようなものではありませんからな。だからこそ王女には虚無の力をその目で見ていただきたいのです。おっと、そろそろワルド君の作業も終わったようですな」
気づけば竜巻の起こす風音も瓦礫が飛ぶ音も消えていた。
既に礼拝堂の残骸は跡形もなく吹き飛ばされ、あとにはルイズが最期を看取ったウェールズ王子の遺骸が姿を見せていた。
多少埃を被り、青白くなっているのはしかたがない。彼は既に死んでいるのだ。
だが幸いにもそれ以上傷ついている様子はない。
ルイズはアンリエッタをちらりと見た。
再びあのときの、ウェールズの死の悲しみが襲ってきたのだろう。
彼女は小さい嗚咽を漏らしていた。
「アンリエッタ王女。聞けば貴方はウェールズ王子と共に生きたかったそうですな?その望み、かなえてみたいとは思いませんか?」
泣いていたアンリエッタの顔はたちまちに元の怒りを取り戻す。
それはさながら熱した鉄鍋に落とした冷水のようでもあった。
「嬲るのですか?もはやそれも叶わぬ夢でしょう。ウェールズ様はそこのワルドに、レコン・キスタに殺されたのですよ!できるはずがありません」
「できるのですよ」
にこりと笑うクロムウェルが静かに杖を手にする。
「この虚無の力で。お見せいたしましょう」
クロムウェルが小さく呪文を唱える。
それはここにいる誰も聞いたことがない呪文だった。
ルイズも聞いたことがない。
いつか使えることを願って書物で様々な呪文を学んでいたが、そのいずれもクロムウェルの呪文とは似ていない。
考えているうちにも詠唱は続き、呪文は完成した。
その後、魔法により引き起こされた事象に驚愕を覚えなかったのは呪文を唱えたクロムウェルただ一人だった。
目に見えるほどの速度でウェールズの顔に血の気が戻り、さらに目を開いて体を起こしたのだ。
「おはよう、皇太子」
クロムウェルの呼びかけにウェールズが答える。
「久しぶりだね。大司教」
だが、それはとてもではないが仇敵たるレコン・キスタの総司令官に対してとは思えないものだった。
「失礼ながら、今では皇帝なのだ」
「そうだった。これは失礼した閣下」
さらにルイズに、そしてアンリエッタに驚愕が波のように連続して襲う。
こともあろうに彼は跪き、臣下の礼までとったのだ。
「ところで親愛なる皇太子。君に親愛の証として引き合わせたい人がいるのだが」
「それは……誰かな?」
「ははっ。もうわかっているだろう。そこにいるアンリエッタ王女だ」
立ち上がりアンリエッタに歩み寄るウェールズをルイズはただ黙ってみていた。
自分の真の目的を周りに悟らせないためにそうしているのではない。
信じられない光景に驚きのあまり声も出ず、動けもしないのだ。
「ウェールズ……様?」
それはアンリエッタも同様だった。
目の前の男は紛れもなくウェールズ。
だが死者が息を吹き返し、再び語りかけてくる奇跡、そして何のためらいもなく怨敵の臣下となるその姿。
それらが疑問となりアンリエッタの言葉となっていた。
「他の誰に見えるんだい?」
「本当なのですか?」
「君も見たとおりだ。閣下の虚無の力でこうして蘇った。再び会えて嬉しいよ」
ウェールズの笑顔は彼と最期に会ったときのまま。
それなのにアンリエッタは自分の依って立つべき場所を失い、事実足はふらつき力を失う。
そして支えを失った人形のように倒れ行く。目の中に入る青空もまるで夢のよう。
それに手を差し伸べ、彼女を支えたのはルイズだった。
「クロムウェル閣下。姫様はお疲れです。少し、休ませていただけないでしょうか」
「おお、これは気づかなかった。ミス・サウスゴータ。アンリエッタ王女をたのんだよ」
「いえ、姫様のことは私にお任せください」
「なるほど……では、ミス・ワルドに任せるとしよう」
ルイズはアンリエッタの体を支え、脱力した体をどうにか立たせた。
二人を案内するミス・サウスゴータと呼ばれるフーケが先を歩く。
ルイズはそれを追い、アンリエッタもまた、それこそ操り人形のようにふらふらとルイズに手を引かれるままに歩き始めた。



同じ頃
ルイズ達がいた礼拝堂とは離れた場所でのことである。
傭兵達は分け前にあずかろうと城のあちこちで略奪を働いていた。
城の装飾品があればそれを引きはがし、死者からは鎧や武器を奪い取る。
その傭兵もまた、このためにニューカッスル城にいた。
「あら、こんなところで何をしているの?」
声をかけられても振り向く気にはなれない。
今は人間よりお宝だ。
早く探し、確保しなければ他の奴らに取られてしまう。
「見りゃわかるだろ。金目の物を探しているのさ」
「でも、このあたりには何もないでしょ」
「しかたねえだろ。ちきしょう、本当に何にもありゃしねえ」
既にこの辺りはあらかた漁られた後だ。
傭兵は遅れてしまった自分を嘆き、そして苛立つ。
「それより南の方へ行ったらどう?あっちにはアルビオン王家の宝物庫がどこかに隠されているんですって。誰も見つけてみたいだけど」
「なに!本当か?そりゃ」
「ええ」
こうなればじっとしてはいられない。
他の奴らに取られる前に行かなければまた取りっぱぐれてしまう。
何せ今回の戦は略奪が許されている代わりに給料が少しばかり安いのだ。
その傭兵は脇目もふらず、自分に宝物庫のことを教えた声が誰かを見もせずに走り去った。
「ああいうのにはこの手が一番ね」
嘆息と共に傭兵の背中を少女が見送っていた。
「カミーユじゃなくも、ね。こっちはこのくらいでいいでしょう」
その少女、すなわちベール・ゼファーは傭兵が視界から消えるのを見届けると、自らもまた姿を消した。


ルイズとアンリエッタを客室に案内したフーケは急ぎ部屋を出た。
後は任せて欲しいというルイズの言葉も会ったが、早く1人になりたかったのだ。
「人を蘇らせた?あれが虚無?だったら……あの、ベール・ゼファーの魔法も?」
虚無により人を蘇らせる。
普通なら笑い飛ばすことだ。
目の前で見せつけられてもそれが虚無かどうか疑問を感じることだ。
だがフーケは虚無の魔法と呼ばれる物で人を蘇らせる様を2度も見たのだ。
しかもそのうち一回では自分自身が蘇ったのだ。
「それに、あのウェールズの変わりよう……あれも虚無?人の心を操る?変える?だったら、だったら今のあたしはなんなんだい?」
それが彼女の心をかき乱す。
底のない不安がフーケの体を冷やしていた。


火薬と砲撃、そしてゴーレムにより崩れ落ちたニューカッスル城ではあるが、すべてが瓦礫と化したわけではない。
未だ形を残している一部がアンリエッタに客室としてあてがわれ、ルイズもそこにいた。
「姫様……」
壁際の椅子に座り、天井を眺めるアンリエッタにルイズが声をかけた。
このままではアンリエッタがガラスのように砕けてしまうような気がしていた。
「ルイズ……もう私のところにいなくてもいいのよ。好きなところへ、ワルドのところにでも行きなさい。私にはもうなにもわからない。ウェールズ様はどうなられたのでしょう。なぜ、あんなふうにお変わりに。それに貴方も……」
「姫様、私がここに来た目的は変わっていません」
「裏切り者と共に行くためでしょう?私もそうした方がいいのかしら。そうすれば……」
「違います!」
ルイズは声を荒げてしまう。
ベルにワルドの妻としてここに来ると決めたときにアンリエッタにこう思われるのは確実だと言われ、ルイズもそれは覚悟していた。
だけどアンリエッタのこの無気力さは我慢できなかった。
「私は姫様を助け出すためにここに来たのです」
「ルイズ……」
「この城から出ましょう。トリステインに帰りましょう」
「……」
アンリエッタの目にわずかな光が戻る。
しかしそれもすぐに消えてしまった。
「姫様!!」
もうアンリエッタをここに置いておくことはできない。
ルイズはアンリエッタの手を取り、部屋を出るべく扉に足を向ける。
扉を開こうとノブに手を伸ばしたが、その前に部屋の外から開かれた。
開いた扉の向こうから現れたのはレコン・キスタの皇帝クロムウェルと、ひどく冷たい雰囲気をまとった知らない女性だった。
「失礼するよ」
返事も聞かずに2人は部屋に入ってくる。
後ずさるルイズに会わせてアンリエッタもまた後ずさり、元の椅子に座ってしまった。
「ほほう、アンリエッタ王女はまだお疲れのようだ。では、少しお助けしよう」
いいながらクロムウェルは杖を振る。
礼拝堂の時とは違い指輪が光り始め、それはアンリエッタの前に突き出される。
アンリエッタは指輪を瞬きもせずに凝視した。
それからすぐにだ。
アンリエッタは椅子から立ち上がり、クロムウェルに臣下の礼を取ったのは。
「クロムウェル様。ありがとうございます。迷いが晴れました」
「いや、どういう事はない。これからは私の友人となってくれたらいい」
「喜んで」
「ついてはトリステインはレコン・キスタに下ってもらいたいのだが」
「もちろんですわ。閣下」
ルイズは2人の会話を遮り大声を上げる。
このまま2人に続けさせていいわけがない。
何かとんでもないことが起こりかけている。
いや、既に起こっている。
「あなた姫様に何をしたの?」
「見ての通りだよ。友人になってもらったのだよ」
「嘘!こんなに変わっているのよ、そんなのヘンよ」
何が起こったかルイズは考える。
アンリエッタの変化、そしてウェールズの変化。
その二つを会わせ、一つの結論を出した。
「まさか虚無の魔法?虚無の魔法は人の心も変えるの?」
「その通り。が……その様子だと君も本当はワルドくんの妻になるためにここに来たわけではないようだね。いや、当たり前か」
「くっ」
──ばれていた?
それどころじゃないのかもしれない。
──最初からわかっていて?
だが、それなら焼けにあっさり尋問もされずにアンリエッタと引き合わされたのも納得もできる。
この力があればルイズが真にレコン・キスタに恭順していようがしていまいが関係ないのだから。
「これでワルド君の働きに十分に報えそうだ」
「何をするの?」
「もちろん君もアンリエッタ王女のようになってもらうのだ」
クロムウェルの詠唱に会わせ指輪が再び輝きを増す。
その光はルイズの目から入り、体に染み渡り、心に手を伸ばした。
それがわかっていてもルイズは光から目を離せない。
光がルイズの心を飲み込むまで。
だからルイズは最期に残った心でたった一言だけ叫んだ。
「助けて、ベル!!」
「呼んだ?」
ルイズのポケットの中で悪魔の蝿が少しだけ動いていた。




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