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鋼の使い魔-25


 ラ・ヴァリエール公長女エレオノール。
 両親より受け継いだメイジとしての才能の光る才媛として知られる。
 学院在学中からも成績優秀につき人々の耳目を集め、卒業後はアカデミーでの研究の道を進んだ。
 現在はアカデミーの正研究員として在籍し、魔法の真理と実用の研究にいそしんでいる。

 アカデミーは元々、魔法学院の上部機関として発足したものの、次第にその研究機関としての性格を強くし、いつごろからか独立した一つの部署として確立した。
各省庁を牛耳る貴族らからの献金を受け派閥抗争の矢面に立たされる等と陰口もあるが、名と格に見合った優秀な研究所である。
 在籍する研究員にも階級が設定され、准研究生、正研究生、准研究員、正研究員、主席研究員の順に地位があがり、それにあわせて
個人で扱えるテーマと予算も大きくなっていく。もっとも、主席研究員ほどになると殆ど名誉職のような存在であり、アカデミーの主格は正研究員にあるといってもいい。
 エレオノールは学院を卒業した翌年よりアカデミーに入り、わずか9年で正研究員となった。
 見紛う事なき天才であった。


 懐かしみながらもエレオノールはシエスタを案内人に通廊を歩いていた。
「貴方はルイズと親しくしているそうね」
 前触れもなく声をかけられてシエスタは動揺した。ルイズやキュルケらが親しくしてくれているとはいえ、本来、使用人と貴族が口を聞くというのは
滅多にないことなのである。
「は、はい。勿体無くも、ミス・ヴァリエール様には懇意に御用命ぜられる事がたびたびありまして…」
「ふん。で、あの子は何処にいるの?」
「確か、今頃は…ミスタ・コルベール殿の研究塔へ出向いてらっしゃるはず…です…」
 かなりおどおどとしていたシエスタだったが、エレオノールはそんなことを霞みも気に掛けることはなかった。
彼女にとって使用人とは居ないように振舞うのが礼儀と考えているからだ。
「そう。…あの人も相変わらず、外道な研究を繰り返しているのでしょうね」
 つぶやくエレオノールの声は動揺するシエスタまで届かずに消えた。



 『氷河剣と土人形』



 研究塔前で身構える、タバサとギーシュ。
 ギーシュの格好は普段と変わらない。少々趣味の悪いシャツと、学院指定のショートマント。
 一方のタバサは、服装こそ普段と同じだが、それだけではなかった。
 華奢な体躯には丁寧になめされた皮のベルトを縦横に佩びていた。これはタバサが剣を使うからである。並の男であれば腰から落ちぬように巻く程度であるが、
タバサは肩掛けになるようにベルトを巻き、佩びた剣を収めていた。
 ギーシュが愛用の杖、青銅の造花を抜くと、タバサもそれに応じるように剣と杖を抜く。
 右手に抜かれた剣は、以前のレイピアよりもずっと短い。ギュスターヴの短剣に近いが、片刃のつくりであり、ギュスターヴのそれよりも肉の薄く、
ダガーナイフをそのまま長くしたようなものだった。
 一方左手に握られた杖も、以前の物から変わっている。以前の節くれたワンド系から、キュルケやルイズの使うタクト系のものに変わっていた。
目に付く特徴があるとすれば、柄のように握りがつくられ、長さの割りに太い。
(まるで長短一式の剣を構えるかのようだな)
 塔の前で観戦するギュスターヴにはそのように見えた。

「…よし、来い、新たなワルキューレ!」
 ギーシュの手から造花が投げられる。と同時に、懐から抜かれた新たな杖を握ったギーシュが【錬金】によってゴーレムを精製する。
 地面と造花が混ざり合い、起き上がるように出現したゴーレムは案山子のように細い。だが次の瞬間にはそこへ組木細工のように青銅のパーツがはまっていき、
最後には一体の屈強なゴーレムが立っていた。
「これが僕の『ヌーベル・ワルキューレ』だ」
 額に汗を浮かべたギーシュの渾身の業だった。
 それはまさに屈強なプレート・アーマーを着込んだ女戦士であり、以前のワルキューレよりも筋肉質な印象をみるものに与えた。
 右手に剣を、左手にラウンドシールドを構えた姿のNワルキューレは、古い時代のタペストリーに描かれる様なアンティークな騎士像をモチーフにしているのだった。
「以前のワルキューレ7体分のパーツ数とパワーを一体に凝縮させた。これで君の魔法にただやられるようなことはない」
 馬鞭状の新たな杖を構えながら、ギーシュは対峙するタバサを見た。


「ほぅ、なかなか手が込んでいるようですね」
 見物するコルベールがギーシュの手に関心の声を上げた。元来ドットメイジは組み合わせられる技術が少ないからだ。
「ねぇギュスターヴ。どうして『青銅』のギーシュのゴーレムが金色に光っているわけ?」
 ルイズは新たなワルキューレの感想を漏らした。
 Nワルキューレは青銅までしか扱えないギーシュのゴーレムであるにも関わらず、その全身を淡い金色に輝かせているのである。
 主人の言葉にギュスターヴは丁寧に答えた。
「ルイズ。青銅とは、なんだ?」
「え?」
「青銅というのは本来、錫と銅の合金だ。普段思い浮かべる緑青色の青銅は、長い風雨によって表面を錆びで覆われた姿でしかない」
「じゃあ、あれは一体…」
「青銅は本来合金であるから、含有する元の金属の配分で性質が変化する。銅が多ければ軟らかく柔軟に、錫が多ければ強度が上がるが脆くなる。
特に錫の含有量が上がると、金のような光沢を放つ場合がある」
 へぇ、と今度はギュスターヴの博識に感心するルイズだった。
「…詳しくてね、ミスタ?」
「これでも冶金には聡くてね」


「行け!ワルキューレ!」
 淡い金色に輝くNワルキューレは、右腕の剣を構えてタバサに向かって飛び込んだ。
 タバサも自分から踏み込み、振り込まれる剣を紙一重でかわし、自分の剣を振るった。
 両者が激突し、剣と杖が打ち合わされる。ギーシュのワルキューレは盾を受けるのではなく、相手の姿勢を崩すように突き出したり、振るったりした。
タバサはそれを右手の剣で、或いは左手の杖で捌く。握りと太さを持ったタバサの杖はワルキューレの打突を捌きながら魔法を使うことが可能なのである。
 打ち合いを避けるように一旦間合いを開け、タバサが後方のギーシュに向かって空砕槌【エア・ハンマー】を撃つと、すかさずワルキューレが射線上に割り込んで
ラウンド・シールドで魔法を受け止め、タバサとの間合いを詰めて切り込んでくる。
(以前より、ずっと早い……!)
 タバサは目の前のゴーレムが予想以上の強さを持っていることに驚いた。
 以前のワルキューレも人間並みのパワーとスピードを有していたが、Nワルキューレはパワーも、何よりスピードが格段に上昇しているのである。
 シュバリエであり、剣の修練でさらに身体能力を上げているタバサに追従できるほどのスピードであった。
(ただ打ち合うだけじゃ駄目…)
 しかしタバサには好都合だった。接近戦で優秀な相手ほど今回は稽古の成果がわかる。ワルキューレの打ち込みにたたらを踏みながらもその目は闘志を燃やしていた。


 一方、杖を構えたギーシュは懸命にワルキューレを動かしていた。
(やっぱり以前のワルキューレよりずっと疲れる…なにより、相手が早い)
 ゴーレムは複雑な構造ほど動かす難易度が上がる。より大きく、より複雑なゴーレムほど硬度な魔法の産物である。
 以前の七体分、複雑さの増したNワルキューレは、ドットメイジの限界ともいえる操作能力をギーシュに強いているのであった。
(…その分、接近戦で有利だ!)
 パーツ数は7倍とはいえ『重さ』が七倍であるわけではない。しかし、今まで7体に分割して操作していた精神力で動かす為に純パワーは7倍に近い。
単純な能力でも力とスピードで圧倒できるとギーシュは考えていた。


「当てが外れましたな。コルベール師」
 素早く立ち回る二人を厳しい顔で見ていたコルベールにギュスターヴが声をかける。
「…ええ。危険過ぎるようなら間に割って入る位は覚悟していましたが、これでは…」
 タバサとギーシュの戦いは二次元上で激しく互いの位置を変える高機動戦を呈していた。
 ギーシュのワルキューレがタバサの姿勢を崩す。かと思えば空かさず体勢を直したタバサが移動してギーシュを狙って魔法を撃つと、素早くワルキューレが割り込んで
魔法を遮り、タバサとの間合いを詰めて切り込み、タバサと切り結ぶ…。
「下手に割り込むとミス・タバサもミスタ・グラモンも攻撃の手が止まりきらずに事故を起こしかねない…」
「それだけギーシュが努力しているということでしょう」
「…そうですね」
 生徒の努力を賞賛したくても、今は厳しい顔を崩せないコルベールだった。



 実力が以外にも均衡した戦いが続いた。しかし両者の差がじわり、じわりと戦いに影響を与え始めていく。
 ワルキューレの動作が徐々にだが、大雑把になっていく。タバサの射線に入る時も、盾で受けきれずに半身で受け、背後のギーシュが自分で動いて避ける、
というパターンが増えてきた。
 ワルキューレの盾自体も、魔法を受け、タバサの剣を受けることで、徐々に強度を落としていた。空砕槌【エア・ハンマー】を受けると、
盾の表面を覆う錫の多い青銅がバラバラと砕け落ち、芯になっている銅の多い青銅が露わになってくる。
「ふっ…ふっ……」
 杖を振るうギーシュだが、その膝が震え、額や頸には汗が玉のように浮かんでいた。
 新型のワルキューレを高速で動かし、尚且つ自分も激しく動き回る中で集中力と体力がそろそろ限界を迎えつつあるのだった。

 タバサはワルキューレの剣をかわして間合いを開けると、ワルキューレの背後にわずかに隠れるギーシュを狙って空飛刃【エア・カッター】を放った。
 身を投げて真空の刃を受けたワルキューレの動きが一瞬、止まる。すかさずタバサが踏み込んだ。
「『払い抜け』…!」
 低く駆けるタバサが握るロング・ダガーが、ワルキューレのわき腹を切り裂く。
 しかしタバサの体格では一撃の威力が劣るのか、切り裂かれたわき腹の傷は浅い。
 振り返ったタバサにワルキューレの剣が迫った。
「!!」
 多段的に繰り出される剣をタバサは漏らさず受け止めた。が、身体は浮き上がってたたらを踏んで下がる。
(スピードが落ちない…?)
 傷を受けたゴーレムは痛みを感じなくても体の変形によって動きが鈍るはずなのだ。しかしワルキューレは先程と変わらないスピードで攻撃してくる。
 芯のみとなった盾を叩きつけ、大振り気味に打ち込む剣を紙一重でかわすと、今度は呼吸を整える為にタバサは間合いを明けた。



 Nワルキューレは、ただのゴーレムとしてはある種、不必要に複雑な構造をしていた。
 ただのゴーレムであれば単一素材の椋かがらんどう、関節はマリオネットのような単純な構造が概ね一般的である。
 しかしギーシュは違った。まずワルキューレに骨格を与えた。次にその骨格を包むように硬度を上げた青銅の鎧を纏わせたのだ。
 さらに鎧と骨格の隙間には青銅製の巻きバネがいたるところに仕込まれており、これが俊敏なスピードとパワーの底上げを果たしていた。
 そして多少のダメージを受けても、体の基本構造である『骨格』が傷つかない限りスピードとパワーは下がらない。その上を包む『鎧』と『バネ』で攻撃を受け止めるからだ。


 タバサはワルキューレから間合いを開け、呼吸を整えながらじりじりと間合いを詰められていた。
 ちらちらとワルキューレの背後のギーシュへ攻撃する隙を探していたが、射線からワルキューレを外そうとすると、ギーシュは素早くワルキューレを動かして
それを防いだ。
 ワルキューレを繰るギーシュの腕が揺れる。
 ワルキューレは剣を構えて間合いを一気に削り、剣を振り込んだ。タバサはそれをいなしながら後退する。
 突っかかるワルキューレをサッと横へスライドするように移動してタバサがかわすと、前のめりになったワルキューレの反応が一瞬鈍った。
「『スマッシュ』!」
 タバサの腰溜めの袈裟斬りがワルキューレの背中に食い込む。切り裂かれた鎧の奥で剣先が何かぶちぶちと切る感触をタバサに伝える。
 技が決まってタバサは再び間合いを開けた。ワルキューレはタバサに向かい直すと、ボロボロの盾を構えて突進した。
 青銅の塊がタバサに叩きつけられようとしたが、タバサは踏み込みながらそれを避けた。
ワルキューレとすれ違うよう跳び、ワルキューレの鎧につけられた鋲が身体を掠める。
 ギーシュとタバサの視線が交錯した。この一瞬、二人の間にワルキューレがいなくなったからだ。
 しかし疲労を重ねたとはいえ、全力のギーシュは素早くタバサの前にワルキューレを移動させる。

 タバサはそれを待っていた。射線に割り込んだワルキューレを狙ったタバサは、正確に空砕槌【エア・ハンマー】を三回打ち込む。割り込んだ直後の、
姿勢を崩したワルキューレは、それを全て受けて宙を舞った。
「しまった!」
 ギーシュはこれに焦った。ゴーレムは遠隔操作という性質上、受身が取れない。
 案の定ワルキューレは後頭部から地面に落ちた。ギーシュは素早く立たせたものの、『骨格』が歪んでしまったのか、その動きが少し鈍くなってしまっている。
(今…!)
 するとやおら、タバサは手のロング・ダガーをしまい、右手に杖を持ち替える。口からスペルが漏れ、ギーシュは魔法で決着をつけにきたのだと判断した。盾を構えさせ、
魔法を受けきってから踏み込ませるべく、間合いをじりじり詰めさせる。
 『雪風』の二つ名にあるように周囲に氷の粒が発生する。それは以前ならば氷柱となって飛ぶはずが、今回はタバサの杖先に集まっていった。

 息を呑んで観戦していた四人の目に、やがてタバサの『成果』が映る。
「何、あれ…?」
「これは、なんとも…」
「ほぅ、面白いな」
「タバサらしいでしょう?」
 四者は四様にこれを漏らさずにいられない。


 タバサの右手に握られた杖は、魔法で収束させた氷結によって姿を変えていた。
 氷の粒が握る手も、杖先も全てを覆い尽くしていた。
 そしてそれは徐々に明確な形を取る。握りの尻が飾られ、鍔が現れ、杖先を覆う氷が薄く伸びていく。

 タバサの手には果たして、魔法で作られた美麗な長剣が誕生した。
「氷河剣【アイスソード】…私はこれにそう名づけた」

 構えたタバサがワルキューレに迫る。ワルキューレも盾を正面に構えて踏み込んだ。
 タバサはその手に握った氷の剣を掬うように切り上げる。氷の剣先は青銅の盾に食い込み、さらに鎧にも滑り込んでいく。
 そして弾けるような衝撃音と共に、Nワルキューレは、砕けた盾ごと吹き飛んで打ち上げられた。

「勝ったわ!タバサの勝ちね!」
「まだだ」
「え?」
「ミスタ・グラモンはまだ諦めておりませんぞ」
 安堵したキュルケを遮るギュスターヴとコルベールの声に呼応するように、ギーシュの眼が光る。
「ワルキューーーレッ!!」
 創造主の叫びに反応するように、うつろな青銅の瞳の女戦士は身を宙で屈めると、次の瞬間にその身を光らせて爆発させた。
(自爆?!)
 タバサは四方へ飛ぶ鎧の破片を避けるために動いたが、破片は飛び散らず魔法の力を失って砂に変わった。
 その代わり地面に降り立ったのは、案山子のようにひょろりとしたゴーレムだった。右手に剣を持った姿でこちらに対峙している。そのディテールの細部は、
先ほどまで宙に打ち上げられていたNワルキューレのそれだった。


「ワルキューレは鎧を捨てることでスピードをさらに上げる事ができる」
 ギーシュの口元から漏れる言葉は誰にも聞こえなかった。
「行けぇ!ワルキューレ!」
 ワルキューレがギーシュの声と同時に視界から消える。身構えたタバサは次の瞬間に囲む3体のワルキューレが眼に映った。
(分身!?偏在?!違う、これは…)
 手の氷河剣【アイスソード】を横薙ぎに振るう。しかし手にわずかな感触を残してワルキューレは再び間合いを空けた先に立っていた。
 ワルキューレの後方に立つギーシュが笑う。形容のし難い笑いであった。
「ミス・タバサ。貴方のような方とここまで戦えるのはまさに軍人の家に生まれた僕の誉れだ。だけど」
 ぴっ、と杖先でタバサを挿すギーシュ。ワルキューレもそれを真似るように剣でタバサを挿した。
「戦うからには、僕は勝つ」
 再びワルキューレが動く、今度はギーシュを囲むように、先程見えた複数体のNワルキューレが出現する。

「ワルキューレが増えた?!」
 ルイズが驚きの声を上げると、振り向いてギーシュはちっちっ、と指を振る。
「それは違う。これはワルキューレの高速移動が見せる残像だよ。…行け、ワルキューレ」
 再びワルキューレが動く、複数体の残像を撒きながら、タバサを囲むように一閃、二閃と剣が打ち込まれる。
 タバサは氷河剣【アイスソード】を振ってワルキューレの剣を『ディフレクト』する。するものの、スピードの差が徐々にタバサを追い込んでいた。
「タバサ…」
 キュルケはタバサを見た。必殺であるはずの氷河剣【アイスソード】は残念にもワルキューレを捕らえ切れなかったのだと思った。
 ワルキューレがギーシュの手元まで一瞬で下がり、再び間合いが明けられる。タバサは氷河剣【アイスソード】地面に付き立て、対峙するギーシュとワルキューレを見ていた。その頬からは剣先を掠めて血が流れていた。
「降参するかね?」
「いいえ」
「仕方ない。最後の一撃を受けたまえ」
 ギーシュはせめて、ワルキューレの剣の腹でタバサを撃つように杖を振った。
 ワルキューレが残像を伴って跳ぶ。残像を増やしながら一直線にタバサに向かったワルキューレの剣先が後一歩というところまで迫った、その瞬間。


 ガキン、と硬いものにぶつかる音共に、高速で動いていたはずのワルキューレが急停止した。
「何?」
 ギーシュは杖を振ってワルキューレを動かそうとするが、ワルキューレは何かに挟まっているかのように身動きが取れない。
「鎧を捨てたとき、私は思った。スピードが上がった代わりに、防御力は下がるはず、と」
 地面に刺していたタバサの氷河剣【アイスソード】が抜かれる。
「だからその動きを止めれば私の勝ち。私から間合いを明けた時にもう貴方は負けていた」
「な、何のことだ…これは?!」
 ギーシュは初めて気付いた。ワルキューレの踏んだ足から氷が茨のように伸びてワルキューレの体を固めている事に。
「氷河剣【アイスソード】を通して地面の水分を操った。半径2メイル以内に踏み込んだ瞬間、氷の蔦で相手を絡める結界を張った」
 剣を構えて身動きできぬワルキューレに剣を構えたタバサが近づいていく。
「そ、そんな!魔法を使いながら別の魔法を使うなんて!」
「これは『剣』であり『杖』だから。私が『剣』として認識した氷河剣【アイスソード】は周囲の水分を操作できるようになっている。地面に刺せば土中の、
空気に触れれば大気の水気を…」

 タバサにとって剣と魔法を複雑に使いこなす事が剣を習い始めたときからの目標であり、この氷河剣【アイスソード】はその到達点の一つだった。
剣自体が極低音の『氷』であるから、剣として認識している間もその姿を崩さずに居られるのだ。
 ただ風や水を収束させて剣刃を発生させるだけならそれほど困難ではない。しかしそれはタバサの目標を達成させることはない。
 果たしてこれは嘗て『氷を使うものは二流』とギトーがつぶやいた事へのタバサなりの反抗心でもあった。

「まだやる?」
「……いや、降参だよ」
 諸手を挙げてギーシュは言った。身動きできぬ裸のワルキューレでは勝負にならない。
 本当は後一つ、仕掛けを残していたが、今になっては無意味だと判断した。



 氷が溶け、開放されたワルキューレが土に還っていく中で、ギーシュとタバサは見守っていた四人に迎えられた。
「凄いじゃないギーシュ。タバサに付いていけるとは正直思ってなかったわ」
「僕も本番までわからなかったさ。運が良かっただけだ…よ…」
 キュルケの言葉に反応しつつ歩こうとしたギーシュは、そのままばったりと地面に倒れてしまった。
「あら?」
「はは…足が立たないや……」
 最後はキュルケに肩を借りて歩くギーシュだった。
 一方タバサはコルベールの出迎えを受けたが、コルベール自身の表情は複雑だった。
「しかしミス・タバサ。貴方の新しい魔法はいささか、その」
「攻撃的?」
 こともなげに言うものの、コルベールは頷きながらも汗を浮かべている。
「はい。貴方は『シュバリエ』だそうですから、そのような魔法の使い方をするのでしょうけれど、一教師としては、余りほめられませんな」
「…わかった」
 口で言うほどタバサがわかっているのかコルベールは若干不安だった。

「どう?ギュスターヴ。二人の戦いは」
「悪くなかったな。特にギーシュの工夫はいい」
「あら、弟子の活躍はどうでもいいの?」
「出来のいい弟子は放って置いても成長するものさ」
「ふぅん……」
 タバサへの信頼感がルイズは羨ましいと思ってしまうのだった。


「随分と楽しそうにしてるのね、貴方達」
 聞きなれない声に一同が振り向くと、本塔の方角から誰かがシエスタと共にこちらに歩いてくる。
 その『誰か』は一同の前まで来ると、ギュスターヴの脇に居たルイズは真っ青になってガクガクと震えるのだった。
「あ、あ、あ、姉さまっ?!」
「ひさしぶりかしらねぇ、ちびルイズ」
 反射的に飛び出し、何処かへ逃げようとするルイズをひょいっと猫を捕まえるようにエレオノールの手が伸びる。
「何処へ行こうとしたのかしら?おちび」
「えっ?!いえいえいえいえ、なんでも、なんでもないです……」
 しっかり捕まってしまったルイズは顔が引きつっている。
「久しぶりに再開した姉に向かってもう少し機嫌よく挨拶できないのかしらねぇ、ちびルイズや」
「で、ででででですが、突然の来訪ですから、その」
「ま、いいわ。そこの学友の方々を紹介してくれない?」
 やっと解放されたルイズはおっかなびっくり、そこにならぶ学友三人を紹介した。
「はじめまして。ゲルマニアのフォン・ツェルプストーですわ」
 ピキン、とエレオノールの表情が固まる。
「お~ち~び~!」
「ひゃひぃ!」
 捕まったままのルイズは両頬をむにむにと引っ張られている。
「あんたよりによってゲルマニアのツェルプストーなんかと仲がいいってどういうつもり!領民と公爵代々の当主に恥ずかしくないの?!」
「あででで、べふにひひゃひぃわけひゃあひひひ~」
 弁解しつつも涙声のルイズだった。
 次にタバサが前に出て礼をした。組み手のあとなのでかなり服がよれたり、瑕だらけなのであるが、タバサ本人はまるで気にもしない風情だった。
「タバサ」
 実に素っ気のない挨拶であった。
「……ルイズ」
「なんですか」
「この子は頭が遅いの?」
 場の空気が(タバサを除いて)凍りつく。ルイズは冷や汗が止まらなかった。
「タバサは口が重い子なんです」
「…そう」
 次にギーシュが恭しく礼をした。ギーシュは埃をハンケチーフで拭って相応に身を繕っていた。
「お初にお目にかかります。ギーシュ・ド・グラモンと申します」
「グラモン元帥のご親族と見えるけど」
「父の名をご存知とは光栄の至り」
 エレオノールはあくまで冷ややかに言葉を続ける。
「軍務の方々からは色々と便宜を図ってもらっているわ。ただ視察のたびに女性研究員に声をかけるのはやめていただきたいけど」
「は、はははは…」
 乾いた笑いしかでないギーシュだった。
「わたしはエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。アカデミーの正研究員に籍を置いているわ」
 キュルケとギーシュから感心の声が漏れる。
 そんな二人を脇に一歩踏み出でてエレオノールはコルベールの前で礼をした。
「お久しぶりにございます。ミスタ・コルベール」
「君も健在なようだね、エレオノール君」
「相変わらず不毛な研究をお続けの様子で」
 視界に見える溶鉱炉を見ての発言である。苦々しくもコルベールは笑った。
「なんといわれようとこれが私の命題でね」
 そしてコルベールの脇に立つギュスターヴをエレオノールは見た、次の瞬間。

 ボン、と何かが爆発するような音がルイズには聞こえた。
 目の前のエレオノールが突如ピンと背を伸ばして立ち上がり、次の瞬間には走り出してルイズの背中に隠れた。
「あぇ?姉さま?」
「あ、あの、ルイズ。…そこの、コルベール氏の隣に、いらっしゃる、殿方は、その…誰?」
 普段の知るエレオノールから想像できないほど、おっかなびっくりとしたエレオノールにルイズは困惑しながらも答えた。
「あ、はい。彼はギュスターヴ。私の使い魔です」
「へぇ、そうなの。使い魔……使い魔?!」
 一瞬呆けたようなエレオノールが大声を上げた。
「あ、あ、あんた。そこの人を、あの殿方を指して、つ、つ、使い魔っていったかしら?!」
 捕まってルイズはがくんがくんと肩揺さぶられている。
「あっ、あっ、た、たしかにっ、つっ、つかっ、使い魔って、言いましたっ!」
「人に冗談を言えるほど偉くなったわねぇ、おちび!」
「ちっ、違うんです!本当に!本当に使い魔なんです!」
 ヘロヘロになったルイズを怪訝そうに眺めるギュスターヴだった。



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