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ゼロの夢幻竜-33


ゼロの夢幻竜第三十三話「軍師」

時刻はそろそろ午前三時を差そうかという頃。
赤色と青白色に輝く双月は天高くあり、アルビオン貴族派のいる野営場を煌々と照らしている。
既に多くの兵士や幻獣の類いが眠っており、起きているのは見張りと高官くらいなものであった。
そんな時ラティアスは自らの体を不可視化させ全くと言っていい程音も立てず静かに、しかし夜闇を切り裂くかの如く速さでそこへ向かって飛んでいた。
ルイズと話し合った作戦とは……先ずラティアスが夜闇に乗じて敵方を奇襲する。
そして自分の身が安全な内に甚大な被害と混乱をもたらしてから帰還する。
一方、ルイズは城にある医療施設から睡眠薬を失敬し、何らかの媒体を使ってウェールズにそれを飲ませる、という物だ。
危険な策ではあったが、こうすれば弱体化した貴族派は王党派の降伏要求を飲まざるを得ない、という事になる。
仮にそれが失敗し、ニューカッスルまで攻め込まれるような事があったとしても、ウェールズという王位継承権第一位という存在がある限りアルビオン王家は幾らでも復興可能なのだ。
但し問題はラティアスがどれだけ敵を弱体化させられるかという事にかかっていた。
敵とて愚か者の寄せ集めではないのだから知恵の回るやつが一人や二人いたとておかしくはない。
ラティアスの攻略法はその内発見されてしまうだろう。
それに降伏勧告を呑まざるを得ない被害とはつまり、敵方の士気が落ちるくらいの被害とも言い換える事が出来る。
それに至るまでに果たしてどれだけの敵をぼっこぼこにしてやらねばならないのだろうか?
五千か?いや一万?それとも……?
そうこうしている内にラティアスの両目は野営場を照らす灯火を捉えた。
ラティアスは、哨戒している数名の竜騎士や使い魔に気付かれぬようスピードと高度をぐっと下げて野営場の後方に回る。
野営場のすぐ後方には草木が鬱蒼と生い茂る急な斜面があった。
相手にしても、まさかこんな気付かれ易く攻め込み難い地形から来る筈ないだろうと思っている筈。
奇襲なら奇襲で出来るだけ相手の気をてらわなければならない。
時々場内の動きに注意しながらラティアスは何とか回り込む事が出来た。
次に一発目のミストボールを放つ場所の選定である。
なるべく混乱を引き起こし易い場所というと大将のいるテントという事になるが、上からだとどれがそのテントなのかさっぱり分からない。
闇雲に攻撃しても意味はない。
となると次に幻獣や鬼達がいる所が思い浮かんだ。
人間より体躯も力も大きい彼らが一度見境無しに暴れ始めれば大騒ぎになるだろう。
ラティアスは目を凝らしてそれらが集まっている所は何処なのか探し始めた。
すると……いた。陣の左右翼それぞれの中心付近だ。
狙いが定まりラティアスは全身の力を集中させる。
次第に左手のルーンが光り出しぐんぐんと力が湧いてくる。
そして間髪入れずに二発のミストボールを勢い良く放った。

その頃竜騎士隊に属するある青年は自らが受け持っている竜を背にぐっすりと眠っていた。
彼は夢を見ていた。
あともう少し実績をあげれば手に出来る勲章を手にし、意気揚々と地元に残してきた婚約者と結婚する光景を。
尤も軍に入るという事はいずれ死ぬという事なのだから当の婚約者とは地元を出る時に別れていた。
彼はふと目を覚まし辺りを見回す。
そこは華やかな結婚式場ではなく戦地に程近い野営場であった。
彼は自分自身を情けないと思った。
未だに未練がましくつい数日前に捨てた筈の幻想を追い求めようとするなんて。

「僕を笑ってくれよ、ウィンザー。」

微かにそう言って彼は身を寄せていた竜の肌を撫でる。
その時だった。突然青白く輝く光の球が後方から来たと思うと、ウィンザーの近くに着弾した。
その勢いは凄まじく、近くにいた竜達は木の葉の様に易々と吹き飛ばされ、兵士達の詰所や眠っている場所に次々と落ちていった。
そして竜騎士の彼もまた吹き飛ばされた物の一つであった。
受け身を取ることも出来ず、彼はすぐ近くにあった灯火の支柱に激しく首根を打ち付け、その時実にあっさりと天に召される。
薄れゆく意識の中で彼が最後に思い出したのは元婚約者の笑顔だった。



ラティアスは地面から3メイル程の所を飛びながら、慌てふためく兵士が密集している所に向かってミストボールを放つ。
彼らの動きはまるで流れる川の水の様で、集まったかと思うと離散し一ヵ所に留まっているという事がない。
それ故に技を放つ規模とタイミングには慎重を期した。
しかし最初の一撃から3分と経たない内に下は大混乱の様相を呈していた。
攻撃的な火竜等は見えないラティアスの攻撃に対し闇雲に火炎のブレスを吐くが、それはその場にいた味方の兵士を巻き込むだけで何の効果も無い。
風竜や鬼達は場も弁えずに取っ組み合って大暴れを始め、食糧や兵装のある箇所を悉く破壊していく。
更に言えば竜達は素早いので、彼らの動線を見極められずに敢えなく下敷きになってしまう兵士達も少なくはなかった。
勿論ラティアスの方もルーンの輝きを抑えも隠しも出来ないので油断は出来ない。
全体とまではいかないが動線が見えている以上絶えず動き回らねば、あっという間に魔法攻撃の餌食になってしまうだろう。
だがまだ帰る事は出来ない。甚大な被害と言うにはまだまだ浅過ぎる物であるからだ。
どうすればもっと弱体化出来るだろうか。
サイコキネシスを使えばもっと手っ取り早いだろうが、あれは最後まで温存しておかなければこの場から逃げ切る時間を稼ぐ事が出来ない。
その時彼女は昼間の戦いでのある事を思い出した。
爆発物等が置いてある所に発火して生じた炎を上手く兵士の密集地に誘導が出来たら……?
それからのラティアスの行動は早かった。
野営場からそんなに離れていない所にあった中型のフネに潜り込み、何かないだろうかと素早く中を物色していく。
と、彼女の鼻はある臭いを嗅ぎ付ける。
その臭いとは油であった。しかも壁や天井、更には床にまで余す所無く塗りつけられている。
臭いを我慢しつつ奥へ進むと、今度はまた別の臭いが鼻を襲ってきた。
何の臭いだろうかと思い、それの発生元の部屋に入ると、そこには堆く積まれた黒色火薬があった。
ラティアスは知らなかったが、このフネは焼き討ち船と呼ばれる船であり、敵艦隊の中心に向け無人のまま突入して内部の火薬を爆発させるという代物なのだ。
思いもよらぬ物にラティアスは閃く。
流石に念力でフネをまるまる野営場まで持って行って落とすなんて事は力量関係から出来ないが、
ここにある火薬を大量に場内の灯火にでも放り込めば目的の完遂率は更に高くなるだろう。
飛び火すれば尚良い。
試しにラティアスは火薬の詰まった樽を念力で浮かせてみるが、これが思いの外重かった。
しかし先程起こした騒ぎも治まりかけている以上背に腹はかえられない。
意識を集中させながら樽を持ち上げ、野営場内に入っていく。
すると忽ち下から宙に浮く樽を見た兵士達の反応が返ってくる。
彼等が何らかの行動を取る前に、ラティアスは未だに暴れ続けている一匹の火竜の顔に目掛けて樽を放り投げ更にその後ろからミストボールを撃ち込んだ。
樽は衝撃を受けたために空中で四散し、内部に詰められていた黒色火薬はその周辺に散らばっていく。
そして兵士達が魔法で如何する前に、得体の知れぬ物をぶつけられて怒った火竜はブレスを吐いた。

阿鼻叫喚という物が実在するのであれば、それは正にこんな場所を指すのではないのだろうか。
王党派による奇襲に現場臨場していたボーウッドはその時そう思わざるを得なかった。
最初に奇襲の第一報が入ったのは幻獣の休憩所へ向け臨時軍本部の後方から攻撃がなされて一分程してからだった。
ボーウッドは哨戒していた者達を軍本部テントに招き入れ各々から端的な報告を聞いたが、内容は何れも攻撃の直前まで何ら異状は無かったという物であった。
彼はそこから少しばかり思考に没頭していたが、再び起こった耳をつんざく様な爆発音によって現実に引き戻された。
見ると軍本部からそれほど離れていない場所の地面に、ぽっかりと鰓が開いていた。
風によって運ばれる空気は彼の元に火薬と生物の焼ける臭いをもたらす。
伝令によれば宙に浮いた黒色火薬の詰まった樽が火竜の眼前で破裂したとの事。
ボーウッドは粉塵状態となった火薬に火竜のブレスがかかったため周辺は大爆発に見舞われ、
火竜もブレスを吐くためにある体内の油袋に引火して爆発したと判断をつけた。
息吐く間も無く、延焼が起きている場所に向け何者かによって更なる火薬樽が放り込まれる。
爆発はそこかしこで発生し、その中には兵糧や武器の収められているテントを襲ったものもあった。
ボーウッドは直ちに消火作業と幻獣達に因る騒ぎの鎮静化を下士官達に指示した後、近くにある総司令官のいるテントに足を運ぶ。


そのテントの奥では緑の色をしたローブとマントを身に纏った三十代そこそこの男が悠然と席に座っていた。
一見すれば聖職者の様な感じだが、一対の碧眼に宿る理智的な光はなかなか一筋縄ではいかない雰囲気を出していた。
そしてその傍らには、ボーウッドが今まで見た事も聞いた事もないような獣が男の影の様に立っている。
いや、そもそもこれは獣なのだろうか?
その異様なまでの巨大な存在感は本体である総司令官の存在を完全に喰ってしまっていた。
そこまで思ってボーウッドはふとある事を思い出した。
確か総司令官は他国から極秘裏に執政官にあたるモノを招き入れていたと言っていた。
何処から来たのか、どういう人物なのかというのは明かさなかったがこういう事実があったなら明かさない訳である。

「閣下、失礼致します。王党派からの奇襲でございます。」

先ずボーウッドは恭しくそう告げた後で子細を説明する。
閣下と呼ばれたその男は彼の報告を暫し聞いた後、落ち着き払った声で対応した。

「狼狽えるな。奇襲など私と執政官殿にとっては想定の内だ。
夜闇に乗じて攻撃するという事はつまり相手の手勢は少ないという事だ。そうは思わんかね?
音も立てず気も悟られずにここに来たという事はまた、その手勢は風系統のメイジが主になっている可能性が高い。」

それについてはボーウッドも見当をつけていた事だった。
だがそれならば未だに竜騎士達がその存在を発見出来ていない事がひっかかる。
攻撃に前後して青白い光が見え始めた事も気になるが。

「しかし、だ。執政官殿によると風のメイジならば風の魔法で攻撃を行えば良いにも拘わらずそうしないのは奇妙だと言っている。
加えてそれらの姿が空中に舞う青白い光以外少しも見えないというのも気にかかるそうだ。」

その段になってボーウッドが先程から考えていた事が段々真実味を帯びてきた。
まさか。この攻撃を行っているのは……
総司令官はそんな彼の考えを読んだかの様に続ける。

「君が想定している敵の姿と執政官殿が想定している敵の姿は一致するだろう。
恐らくは昨日我が軍に被害をもたらした奇妙な竜だ。
要はその命知らずな敵を如何にして潰すかという事だ。
だがその点に関しては執政官殿の方が長じているかもしれんな。
何せ執政官殿はその敵と同じ『如何なる図説にも姿を現さぬ不思議な生物』の一つなのだからな。」

その瞬間にも後方では爆発が起こり、見えない敵による攻撃は続いていた。このまま敵の横暴を黙って見過ごしている訳にもいかない。
ボーウッドは執政官殿に向き直り質問した。

「執政官殿。かの敵を討つには如何すれば宜しいのでしょうか?何か策がおありなのですか?」

するとテーブルの上にあるインク壷に差された羽ペンが青白い光を放ちながら宙にすっと浮き、
同じくテーブルの上にある一枚の白い紙にさらさらと文字を書いていった。
そこにはアルビオンの公用語でこう記されていた。

『敵は地上に程近い所にいる。木を隠すなら森の中、光隠すなら明かりの中。肝心要は地上にいる部隊である。
不審な光を見つけ次第即刻攻撃を行うよう伝えよ。
水系統メイジに発光塗料を用意させ、敵の体に上手く塗り追跡させ易くさせるだけでも良し。
光が野営場を出たなら、後は竜騎士隊の者達の仕事である。』

その内容にボーウッドは成る程と思う。少し頭を捻れば分かる様な事ばかりだ。
しかし敵の特徴や攻略法をそこまで分かっているのなら、執政官殿が直々に兵を動かせば良いのではないだろうか?
すると羽ペンが再び紙の上を走り出す。内容はボーウッドの疑問に完璧に答えていた。

『私は他国から来ている故戦闘行為を行う事を主から許されてはいない。命令権もまた然り。戦略、及び戦術への参加のみ許されている。』


つまりは執政官というのは表向きの肩書きなのであって、実際は軍師という位置に近いという事だった。
しかし人間ではない、見れば見るほど異形とも言えるその姿は肩書きとの異質さを余計に深めていた。
人間を差し置いて何故こんな生物が執政官という地位に就けたのか。
ボーウッドが一人訝っていると総司令官から声がかかった。

「ともかく作戦は執政官の指示通りに行いたまえ。期待しているぞ、ボーウッド君。失敗する事は許されないのでね。」
「承知致しました。直ぐに作戦行動を実行致します。」

そう言ってボーウッドはテントを出たが、腹の中では正直うんざりしていた。
総司令官は失敗と断じていたが、自分が昨日の昼間に戦場にいたのならそんな言葉はまず出ないだろうと思っていた。
死に体の軍が息を吹き返して逆に攻撃してくるなぞ、勝利は確実だと思われていたあの場の誰もが考えていなかった。
にも拘わらずあの男は、如何なる戦闘も自分が書いたシナリオ通りに進むと考えている。
こういった場でそういう思考回路に行きがちなのは組織で上に立つ者の常ではあるが、自覚していない人間程厄介なものである。
そうなると、期待しているという言葉さえも白々しく聞こえてくるものだ。
後手後手に回った失策の尻拭いをさせられるのはあくまで彼の部下なのであって彼自身ではないのに。
貴族による共和制が標語となっているのに皮肉もいいところである。
目の前で続く爆発と混乱に嘆息しつつボーウッドは手近な兵達を集め作戦の概要を伝える。
勢い良く各方面に散らばる姿を見てボーウッドは鼻白んだ。
自分の様に重要なポストに就いていない兵士は正直数字でしか表されない。
取り換えの効く効率の良い物として扱われ、その者がどんな人生を歩んできたか、どんな人間と関わり合ってきたかは無視される。
そんな物にいちいち付き合っていたら軍という組織は精神的な面で破綻してしまう。何せ代わりは幾らでも存在するのだから。
少なくともそれよりマシな自分は?無論、己の役割を全うするしかあるまい。



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