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ソーサリー・ゼロ第三部-19

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一四二

 突然ほとばしった強烈な光によって視界が白一色に染まってから数秒が経つが、光の次に来るであろうと思われた身を骨まで焼き尽くす炎や、
耳をつんざく轟音はない。
 君は眼を覆い隠していた手をそっと下ろし、おそるおそる瞼を開ける。
 最初は視界になにも映らなかったが、まばたきして眼をこするにつれて、周囲の物の形と色彩が戻り始める。
 君の眼がまず捉えたのは、疲労困憊の様子で屋根の残骸の上にぐったりとへたりこんでいる、ルイズの姿だ。
 その手に杖と≪始祖の祈祷書≫を持ったままぺたりと座り込んだ、いくぶんだらしない格好にもかかわらず、夕陽の最後の残照を受けて長い髪が
きらきらと輝くその姿は、美しく神秘的なものに感じられる。
 君が怪我はないかと声をかけると、ルイズは
「わたしはだいじょうぶ。ちょっと疲れただけ」と答える。
「それより、周りを見て」
 その言葉に従い、あたりを見回す。
 崩れて瓦礫と化した農家、草一本生えておらぬ地面、あちらこちらに散らばる農具や調度品――荒れ果てたタルブの光景が眼に映るばかりだが、
すぐに、足りないものがあることに気づく。
 村いっぱいに拡がり這いずりまわっていたはずの恐るべき≪混沌≫の怪物が、跡形もなく消えうせているのだ!
 怪物の放つおぞましい悪臭さえ雲散霧消しており、君の鼻腔を満たすのは、草原から吹きつける風が運ぶさわやかな匂いだけだ。
 ≪混沌≫に汚染されどす黒く染まったはずの土も、もとの状態に戻っている。
 君は直感的に、なにが怪物を消し去ったのかを理解する。
 ルイズの長々とした呪文の詠唱によって生まれた、あの凄まじい光だ。
 陽の光が影を追い払うかのように、あの謎めいた光は≪混沌≫を、焼き払い、蒸発させ、一片も残さずに消滅させたのだ。
 君の頭の中はいまだ、起きたことが信じられぬという思いでいっぱいだ。
 君の知る限り、これほど強大な魔術の使い手はハルケギニアはもちろん、≪タイタン≫にも存在した例はない――創造主たる神々を除いては。
 魔法の才能がほぼ皆無のために≪ゼロ≫と嘲笑されていた少女が、実は神にも等しい強大な力を秘めていたというのだろうか?
 君は驚きと困惑の眼で少女を見やる。
「……これ、わたしがやったのよね? いまだに信じられないけど」
 ルイズはそう言うと、じっと君を見つめる。
「ああ、お前さんがやったんだ」
 答えに窮する君に代わって、デルフリンガーが声を上げる。
「お前さんは≪虚無≫の担い手、伝説の魔法使い様さ。しかしまさか、娘っ子が≪虚無≫とはねえ」
 魔剣は、感じ入ったように言う。
「オスマンのじじいから解放されて以来、相棒のすげえ魔法やら、見たこともねえような化け物やらに驚かされっぱなしだったが、
こいつはなかでも一番の驚きだね」と。
「そう……。それにしてもあんた、≪虚無≫についてなにか知ってるみたいね」
 もの問いたげな視線をデルフリンガーに浴びせながら、ルイズが言う。
「あんたたちに訊きたいことや言いたいこと、これから考えるべきことは山ほどあるけど、今は疲れたわ」
 ルイズは君の差し出した手をとり、ゆっくりと立ち上がる。
「でも、あとひとつだけ確認させて」
「なんだね?」
「わたし、みんなを守れたのよね? シエスタとその家族を、わたしたちを歓迎してくれた村のみんなを」
 君とデルフリンガーは、声をそろえてその通りだと答える。
「よかった……。わたし、やっとメイジになれた。民と国土を守るための力を持つ、本物の貴族になれたのね」
 そう言ってルイズは、歓喜と安堵の入り混じった笑顔を見せる。
 見ているだけでこちらも笑みが浮かぶ、いっさいの邪気のない心からの笑顔――いつも不機嫌そうにしている彼女が、初めて見せる表情だ。 
「あ、あと、それからね。んっとね」
 ルイズは急に君から視線をそらし、もごもごと呟く。
「その、あんたはよくやってくれたわ。ご主人様の命令に従って、しっかりわたしを守ってくれた。だから、その……」
 君は黙って先をうながす。
「≪使い魔≫の忠誠には感謝と信頼を示さなきゃね。本当に、ありがとう……」
 ささやくような声でそこまで言ったところで、頭上から強い風が吹きつける。
 見上げると、タバサを乗せたシルフィードが君たちのそばに舞い降りてくるところだ。
 ルイズはそそくさと君から離れ、≪始祖の祈祷書≫を鞄に押し込む。
 遠くからはシエスタが、
「ミス・ヴァリエール! 使い魔さん! ご無事でしたか!」と叫びつつ駆け寄ってくる。
 その後ろから歩いてくるのはキュルケと火狐のフォイアだ。三一八へ。

三一八

 君とルイズが無事であることを確認したシエスタの喜びようは大変なもので、眼に涙を浮かべて、
「わたし、ミス・ツェルプストーといっしょに空からおふたりの様子を見ていたんです。家が崩れておふたりが怪物に呑みこまれてしまったときは、
もう駄目かと思いました。でも突然、小さな太陽みたいな光の玉が現れて、それがどんどん膨れ上がって、すごくまぶしくってなにも見えなくなって。
そして、眼を開けたときにはあの怪物は跡形もなく消えていました」と一息に言う。
 いくらか落ち着いたシエスタは君とルイズをまじまじと見つめ、
「あの光はいったいなんだったんですか? ミス・ツェルプストーもあんな魔法は初めて見たとおっしゃっていました。
もしかして、ミス・ヴァリエールがあれを作り出したんですか?」と尋ねてくる。
 君とルイズは、戸惑い顔で互いを見る。
 あの光はルイズが≪虚無≫の魔法を使って生み出したものだと、シエスタに正直に告げてもよいものだろうか?
 学院の授業で知ったところによれば、≪虚無≫は始祖ブリミルの時代以来失われていた、伝説の系統だ。
 その伝説がよみがえったことが知れ渡れば、ルイズはたちまち渦中の人となり、二度と平穏を得られぬようになるのは火を見るより明らかだ。
 口外せぬよう、強く釘をさせばシエスタから秘密が漏れることはないだろうが、問題はキュルケとタバサだ
(少し離れたところでシルフィードも聞き耳を立てているが、君とタバサ以外の人間相手に言葉をかわすことはないようなので、心配ないだろう)。
「あたしも知りたいわね。怪物だけをきれいさっぱり消し去って、人にも家にも傷ひとつつけない魔法なんて聞いたこともないわ」
 キュルケはそう言って君たちに歩み寄り、タバサも
「詳細を」と言って、
眼鏡のレンズ越しに青い瞳を輝かせる。
 ふたりともあの光の正体を知りたがっているが、重大な秘密を打ち明けるには不安な点の多い相手だ。
 キュルケ自身は信用に足る人間といってよいだろうが、ルイズの実家にとって永年の仇敵であるツェルプストー家の出身であり、
タバサにいたってはその素性さえ明らかではないのだ。
 君は、キュルケたち三人にルイズが≪虚無≫の系統に目覚めたのだと、真実を告げるか(四七へ)?
 それとも、教えぬほうが得策だと判断して、作り話をでっちあげるか(一五二へ)?

一五二

 君は、キュルケ、タバサ、シエスタの顔を順番に見回し、声を潜めて、これから言うことは絶対に他言無用だと告げる。
 シエスタは緊張した面持ちで何度も大きくうなずき、キュルケは真剣な表情で
「始祖とフォン・ツェルプストーの名に誓って」と答え、
タバサはいつものように無言で小さくうなずく。
「ちょ、ちょっとあんた! わたしに許しもなく勝手に……」
 焦った様子で抗議してくるルイズに君は、だんまりを続けて憶測にもとづいた噂を流されるよりも、すべてを打ち明けてから
秘密を守らせるほうがよい、と言い聞かせる。
「で、でも……。そりゃわたしだって、キュルケやタバサを信用してないわけじゃないけど……」
 いまだ納得いかぬルイズに背を向け、君はおごそかに語りだす。
 あの光は、自分の守護神である正義の女神、リブラが示したもうた奇跡だと。
「はぁ?」
 キュルケとシエスタが同時に――ルイズもごく小さく――呆けたような声を上げるのにかまわず、君は話を続ける。

 自分は祖国アナランドを救う英雄としてリブラに見守られており、どうにもならぬ窮地に陥ったときに助けを求めれば、
女神みずからが力を貸してくれるのだ。
 あの光は女神の放つ純粋な善そのものの力であり、人間や建物にはまったく無害だが、邪悪と≪混沌≫にけがれた存在には致命的なものとなる。
 しかしリブラの助けは今回が最初で最後だ、と君は語る。
 ≪天の王宮≫の神々がむやみに地上へ干渉することは禁じられており、女神はもう助けに耳を貸してはくれぬ、と。

 君が話すあいだぽかんと口を開けていたふたりは、こそこそと眼を見合わせる。
 疑いの色が浮かんでいるように見える――ハルケギニアの常識からいえば荒唐無稽にすぎる話を聞かされたのだから無理もないが、
少なくとも話の半分は真実だ。
 実際のところ、夜空に浮かぶ月の数さえ≪タイタン≫とは違うこのハルケギニアには大いなる神々の力も及ばぬため、
君はリブラの加護を得られぬ状態にあるのだが。
「そ、それじゃあ」
 シエスタがおずおずと口を開く。
「使い魔さんは、その、始祖ブリミルとは別の――ひいおじいちゃんの国の神様の力を呼び出したっていうんですか?」
 君は重々しくうなずき、このことがブリミルを信仰する僧侶たちに知られてしまえばただでは済まぬだろうから、
くれぐれも秘密を守るようにと念を押す。
「は、はい! 家族にも誰にも、絶対にしゃべりません!」
 純真なシエスタは君の話を信じ込んだようだが、キュルケはいまだ半信半疑の様子で
「あなたのお国の神様、ねえ……」とつぶやき、
君の顔をじろじろと見る。
「とにかく、誓ったんだから秘密は守るわ。あなたたちが不思議な力で化け物を消し去ったってことは誰にもいわない。そうでしょ、タバサ?」
 水を向けられたタバサはうなずくが、あいかわらずの無表情をたもっているため、君の作り話を信じているか否かをうかがい知ることはできない。

 君たちがそうやって話しているうちに、南の森や東の丘に避難していた村人たちが戻ってくる。八〇へ。

八〇

 タルブの村の一件から二日が経つ(技術点・体力点・強運点を原点まで回復させよ)。
 青くきらめく鱗に覆われた風竜が、革の翼を力強くはばたかせて空を舞う。
 風竜のシルフィードは魔法学院から一路南東へと向かっており、その背中にはふたりの人間が座っている――シルフィードの主であるタバサ、そして君だ。
 君たちが向かう先は、トリステイン王国とガリア王国の国境地帯にあるタバサの実家であり、君は、延ばし延ばしになっていたタバサの家族を
治療するという約束を、ようやく果たそうとしているのだ。
 シルフィードの背鰭を背もたれがわりにし、いつものように本の頁を見つめているタバサが相手では間が持たぬと考えた君は、シルフィードと
話をしてみることにする。
 タルブに薬を取りに行ってからこの四日間、お前には世話になりっぱなしだなと語りかけると、竜は長い首を曲げて君を見つめ、
「これくらいお安い御用なのね」と答える。
「でも、村では大変だったのね。お船からなんだかわかんないけどすごく悪いものが落ちてきて、そいつが村に攻めてくるからみんなを遠くに
逃がしてたら、光がぴかっとひらめいて、あとにはなんにも残ってなくって。汚されたはずの土や風ももとどおり。
シルフィにはなにがなんだかさっぱりなのね、きゅい! ほんとにあの光はあなたが呼び出したのね?」
 君は、いかにもそのとおりだと風竜の問いに答えながら、タルブの村での出来事を思い起こす。

 避難先から戻ってきた村人たちの表情は、安堵と当惑が入り乱れたものだった。
 村の建物の半数以上が倒壊したにもかかわらず意気消沈した様子がないのは、ひとりも死者を出さずに済んだためだろう。
 彼らは家族や隣人たちが無事だったことを互いに喜びあい、村を襲った泥沼のような怪物と、それを消滅させた謎めいた光の正体をいぶかしむ。
 村人たちは口々に君やルイズに質問を浴びせてきたが、君たちが知らぬ存ぜぬで押し通したため、村じゅうをさまざまな推論や噂が飛び交うことになった。
 しかし、怪物が異世界から召喚されたすべてを汚染する邪悪の化身であり、それを打ち破った光が伝説の≪虚無≫だと言い当てた者はひとりもいない。
 たとえハルケギニア最高の賢人がそこに居たとしても、タルブでなにが起きたかを正しく理解することは不可能だったに違いない
――それほど、常識の範疇を超えた出来事だったのだ。
 翌朝、君たちが魔法学院に戻ると告げると、シエスタの父は
「また、いつでも来なさい。家はすぐに建て直してみせるから」と笑う。
 村人たちに見送られて飛び立ったシルフィード(大勢の村人の避難に活躍した彼女とタバサは、まるで生き神のような扱いを受けた)が
学院に着いたのは、その日の夜のことだった。

「あ、湖! もうすぐお姉さまのおうち!」
 シルフィードの弾んだ声を耳にして、君は眼下に拡がる風景を眺める。
 遥か遠くに、陽の光を受けてきらきらと輝く水面が見える。
 最初は小さな湖かと思った君だが、近づくにつれそれが、静謐な森に囲まれた驚くほど大きく、美しいものであることを知る。
 君は、女神の聖地であるアナランド南部のリブラ湖を思い出す――大きさも美しさも、いい勝負だ。
 やがてシルフィードは高度を下げ、湖から遠からぬ場所に位置する立派な――いくぶん古ぼけてはいるが――屋敷のそばに舞い降りる。一七九へ。

一七九

 玄関で君とタバサを出迎えたのは、白いシャツと黒い上着、黒いズボンをまとった老人だ。
 やせ細った体と皺だらけの顔の持ち主だが、驚くほどきびきびとした動きを見せる。
「お帰りなさいませ、お嬢さま」
 老人はうやうやしく一礼すると、君たちを屋敷の中へと導く。
 客間まで来たところで、君は奇妙な違和感を覚える。
 この屋敷は、≪旧世界≫なら王侯の住まいと言っても通用するほどの立派な建物にもかかわらず、人の気配がまったく感じられず、また、
住人たちの生活の跡も見られぬのだ。
 床はよく掃き清められ、置物や額縁にも埃ひとつないが、廃墟のごとくさびれた雰囲気が漂っている。
 君は革張りの長椅子に腰をおろすが、タバサはなにも言わずにさっさと客間を出て行ってしまう。
 当惑する君の前に、先刻の老人が茶と菓子の載った盆を持って現れる。
 老人――ペルスランという名の執事――は上着と荷物を預かろうと申し出るが、君はそれを断り、館の主人に挨拶をしたいのだが、起き上がることも
ままならぬ病身にあるのか、と尋ねる。
「さようにございます」
 ペルスランは深くうなずく。
「奥さまは、いかなる熟達の≪水≫メイジにも癒せぬ、重い、重い病に蝕まれているのでございます」
 そう語るペルスランの声は、怒りと悲しみに満ちたものだ。
 君は名を名乗り、自分は遥か遠くの国から来た薬草医であり、今日はその病人のために来たのだと告げる。
 自分の薬なら、その患者の病を治せぬまでも、症状をやわらげることくらいはできるかもしれぬ、と。
 ペルスランはいくぶん疑わしげな眼で君を見る。
「異国のおかたでしたか。しかし、何人もの高名なお医者さまが手を尽くしましたが、奥さまの心を壊すあの呪わしい毒には……」
 そこまで言ったところで一旦言葉を切り、思い直したように
「いや、お嬢さまが望みを託して連れてこられたおかたなのですから、私もあなたさまを信用いたしますぞ。なにとぞ、奥さまをお救いください。
お頼み申します」
 口ではそう言っているものの、眼の前の老人が君のことを疑っているのは明らかだ。
 魔法が絶対の価値をもつこの世界では、≪水≫の魔法に頼らぬ平民式の治療法など、うさんくさいものとしか思えぬのも無理はない。
 しかし、これから君が使おうとしているのは≪水≫系統でこそないものの、れっきとした魔法なのだ。

 ほどなくして戻ってきたタバサは
「ついて来て」とだけ言うと長く暗い廊下を先に立って進む。
 突き当たりにある樫材の扉をノックするが、応えはない。
 かまわずタバサは扉を開け、君たちはいささか殺風景な部屋に足を踏み入れる。
 部屋の中心にはテーブルと椅子が一脚置かれており、部屋の隅の寝台には女がひとり横たわっている。
 その女は骸骨のようにやせ細っており、髪は伸び放題。
 骨ばった手に、傷んでぼろぼろになった布製の人形をつかんでいる。
 骨と皮だけのその面相を見た君は相手を老婆かと思うが、よく見ればそれはまだ中年の女だ――まだ四十を越えてさえおらぬようだ!
 女は、狂人めいたぎらぎらと光る眼で君たちを睨み、しわがれた声で叫ぶ。
「あなたがたは何者です!」と。
 タバサは落ち着いた様子で女に
「母さま、こちらが先ほどお話ししたお医者さまです」と君を紹介するが、
相手は聞く耳を持たない。
「わかっています、わたしからシャルロットを奪いに来たのでしょう! 下がりなさい、この子は誰にも渡しません!」と叫んでからすぐ、
手にした人形にそっと囁く。
「ああ、ごめんなさいねシャルロット。やっと寝付いたところだったのに、起こしてしまって」
 女の挙動を眺めていた君の背筋を、冷たいものが走る。
 タバサの言葉から判断するに、寝台の上の相手は彼女の母親らしい。
 しかし、完全に気がふれてしまっている女は、自分の娘を娘と認識できず、かわりにもの言わぬ人形を愛でているのだ!
 ペルスランは『奥さま』――タバサの母親――が毒に侵されていると言ったが、人間をこのようなありさまにまでおとしめる恐るべき毒など、
君は聞いたこともない。
 これが何者かに毒を盛られた結果なのだとすれば、その犯人は≪奈落≫の魔人どもにも匹敵する冷酷で残虐、卑劣な輩に違いない。
「この子の父親を奪っただけでは飽き足らず、シャルロット自身にまで手をかけようとは……なんとおそろしい! わたしたちにかまわないで!」
 怯えた声でわめき散らすこの女を治療するためには、まずはおとなしくさせねばならない。
 病魔に侵された体にたいした力は残されておらぬだろうが、暴れられては貴重な薬を無駄にしてしまうおそれもある。
 君は力ずくで女を押さえつけるか(二五六へ)、それとも術を使うか?

 FOF・三五五へ
 DIM・三三九へ
 NEM・三九七へ
 SUS・四〇七へ
 NAP・四六一へ

四六一

 体力点一を失う。
 真鍮の振り子は持っているか?
 なければこの術は使えぬため、一七九へ戻って選びなおさねばならない。

 真鍮の振り子を持っているなら、取り出して術を使い始めよ。
 女は振り子の動きを眼で追っている。
 さんざん叫んでいた声が止み、動きがぴたりと止まる。
 振り子はゆっくり前後に揺れ、相手はしだいに引き込まれていく。
 女がまもなく眠り込んでしまったので、次の術にとりかかるべく背嚢をさぐる君の耳に、どさりとなにかが床に落ちる音が飛び込む。
 慌てて振り返った君が見たものは、床に倒れこんだタバサの姿だ。
 何者かの襲撃かと扉を、ついで開け放たれた窓を見るが、敵らしきものの姿はない。
 デルフリンガーに敵の姿を見なかったかと尋ねると、
「相棒、その青髪の娘っ子が倒れたのはお前さんのせいだぜ」という答えが返ってくる。
 君は屈んで、動かぬタバサを調べてみる――すやすやと寝息を立てている!
 どうやら、彼女は好奇心から君の真鍮の振り子を見つめ、術の影響を受けてしまったのだろう。
 君は苦笑を浮かべながら彼女をそっと抱え上げると、母親の隣に横たえる。
 歳相応のあどけない寝顔をしばらく見つめていた君は、ブリム苺のしぼり汁の入った瓶を取り出し、栓を抜く。
 本来、ハルケギニアには存在せぬはずの果実の、強烈な匂いが鼻をつく。
 君はゆっくりと確実に呪文を唱え、瓶のなかの液体にDOCの術をかける(体力点一を失う)。
 眠る女の唇をこじ開け、少しずつ慎重に水薬を流し込む。
 君の術によって効き目を増した薬が、人の心を壊す恐るべき未知の毒に打ち勝てるかどうかはわからない。
 君は心の中でリブラに祈る――我が術に力を与えたまえ、この哀れな女を救いたまえ、と。
 ようやく飲みくだした女の喉が、ごろごろと鳴る。
 見守るうちに女の蒼白の顔に赤みが戻ってくるが、その心までもが癒やされたという確証はない。
 眼を覚ましたときに、彼女の心をさいなむ恐怖と苦痛が消えていればよいのだが。

 君は椅子に座り、テーブルに頬杖をつく。
 やるべきことはやった。
 あとはタバサの母親が目覚めるのを待つだけだ。七一へ。

七一

 タバサの母親に薬を服ませてから、一時間近くが経つ。
 母親より先に目覚めたタバサは、傍らに横たわるいくらか血色のよくなった母親の顔を驚きの表情で見つめ、次に君の顔をじっと見据える。
 君が、彼女の肉体はともかく、心のほうが治ったかどうかはまだわからぬと告げると、彼女は小さくうなずく。
 見れば、雪のように白い肌はほんのり赤みが差し、泉のように青く澄んだ瞳はわずかにうるんでいる。
 タバサはなにかを言おうとするが、その頬を一粒の滴が流れ落ちていることに気づき、ぱっとそっぽを向く。
 血の通わぬ石像のようだった彼女が見せる、明らかな感情の表れを前にして、君は驚きに言葉を失う。
 しばらくして、君たちはふたりとも落ち着きを取り戻す。
 いつもの調子に戻ったタバサは、そっと口を開き、君に言う。
「…ありがとう」と。

「あなたはシルフィードに乗って学院に戻って。わたしはここに残って、経過を見る」
 タバサの思いもよらぬ言葉に君は、自分もこの屋敷に残るべきだ、と抗議の声を上げる。
 自らの術が成功したか失敗したかもわからぬままでは、寝覚めが悪いというものだ。
「母さまはいつ眼を覚ますかわからない。でも、ミス・ヴァリエールからあなたを借りられるのは一日だけ。そういう約束」
 タバサは淡々とした調子で言う。
「学院に戻ったら、必ず結果を知らせる。今日は帰って」
 彼女が君を追い出しにかかる理由はルイズとの約束だけではあるまい、と君は考える。
 タバサは自身が感情をむき出しにするところをこれ以上、他人である君に見られたくはないのだ。
 目覚めた母親を前にしたとき、いつものように感情を抑えられる自信がないのだろう。
 今回の治療でタバサとの距離が少しは縮まったように感じられたが、彼女は依然として頑なだ。
 彼女は、その小さく華奢な身体にどれほどの重荷を背負っているのだろう?
 どのような苦悩が、少女の心を凍てつかせているのだろうか?

 君はどうする?
 タバサの母親が眼を覚ますまで、この屋敷から一歩も出ないと言い張ってもよいし(九五へ)、学院で君の帰りを待つルイズの(そしてタバサの)機嫌を損なわぬよう、
言われたとおりに外に出てシルフィードのもとへ向かってもよい(二二四へ)。


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