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白き使い魔への子守唄 第21話 うたわれるもの

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フライを使って宙を舞いながら、別の魔法を唱える。
それは熟練のスクウェアメイジでさえ困難な、突出した技術だった。
その技術を、雪風のタバサは使っている。


   第21話 うたわれるもの


風竜とフライの飛行速度の差は歴然だったが、戦闘経験の差は圧倒的だった。
シルフィードはなかなかタバサに近づけず、魔法を避け回るばかり。
ルイズもクスカミの腕輪で雷を落とすが、飛行するシルフィードの背中ゆえ狙いが定まらず、
フライで小回りの利くタバサに当てるのは至難の業だった。
それに、クスカミの腕輪の威力ではタバサを殺しかねない。それは、嫌だった。
何とか戦闘能力を奪わねばならない。
「シルフィード、あんたのご主人様を止めるために、協力してもらうわよ。
 いい? まず私が隙を作るから、あんたは怪我をさせないよう気をつけてタバサにぶつかって、
 杖を弾き飛ばすのよ。そうしたらフライも解けるから、タバサを口に咥えて地面に下ろす」
「きゅい」
「協力してくれるのね、ありがとう。
 あんたのご主人様を何とかして上げるんだから、それが終わったあと、
 私の使い魔を何とかするのも手伝ってくれる?」
「きゅいっ!」
「いい子ねシルフィード。さあ、詠唱を始めるわよ!」

ハクオロは、いや、ウィツァルネミテアは楔が発動しないルイズに困惑していた。
なぜだ。契約に逆らえば、魂に打ち込まれた楔によって、五体が弾けるはず。
タバサとウェールズは契約に従って行動しているし、契約をたがえれば死ぬはずだ。
だのになぜ、ルイズだけが。
その理由に思い当たろうとした時、彼の思考は中断された。
「コノ……声ハ……」

風を切って飛ぶシルフィードの上で、叫んでいる訳ではないルイズの声が、聞こえるはずがない。
しかし、聴こえた。
フライで空中を飛び回りながら冷気の竜巻を放ったタバサも、
まるで耳元でささやかれているかのようにはっきりと聴こえるルイズの声に焦れた。
正体の解らない謎の攻撃を受けようとしている。
ルイズもウィツァルネミテアの契約者だ、ゼロだからといって侮れない。
何をするつもりだろうか。
指示を仰ぐべきかとウィツァルネミテアに視線をやったが、黒き巨人は沈黙をたたえている。
タバサは凍てつくような眼差しでシルフィードを見やった。
「シルフィード……あなたの主は私。私に従いなさい」
「きゅいっ……!」
否と風竜は首を横に振った。
「私はこのお方の剣。使い魔であるあなたも従うべき」
シルフィードは悲しそうに咽喉を鳴らす。

ようやく母親が助かって、解放されたと思った。
けれど違った。
操り手が変わっただけで、タバサは操り人形のままだ。
なのにタバサは魂から忠誠を誓っている。
母親を助けてくれた恩、そのための契約。
道理だ。しかしシルフィードの感情は納得しようとしなかった。
恩人であるあの怪異も、結局はタバサを戦いの道具として利用している。
せっかく母親が正気に戻って幸せな時間をすごせたはずなのに、
それが契約なのだから仕方ないと割り切れないのだ。

フライで飛ぶタバサの額を汗が伝う。
こんないたちごっこを続けていては、フライと攻撃魔法を併用する自分の息が切れる。
一気に蹴りをつけねば。
より強力な、契約によって引き出される、風、風、風、水。
「アイス・トルネード!」
氷の刃を孕んだ巨大な竜巻を放つ。呑み込まれれば全身を切り刻まれるだろう。
タイミングを計った攻撃は、しかし雷撃によって阻まれた。

タバサは契約によって引き出された力により、フライと攻撃魔法の併用をした。
ルイズは契約によって引き出された力により、詠唱とクスカミの腕輪の併用をしたのだ。

電熱により氷刃は溶けたが、シルフィードは竜巻を食らいきりもみ状態になる。
タバサは小さく息を吐いた。最初の目論見ははずれたが、これで致命的な隙を作れた。
竜巻が消えても、シルフィードはすぐにはバランスを立て直せない。
その隙に風の魔法で狙い撃ちにする。
詠唱開始。竜巻が消え、シルフィードは回転しながら落下していく。
好機。
その瞬間、詠唱が完成した。

「イリュージョン!」

タルブの村の上空が蒼と白の影に埋め尽くされる。
青空ではない、白雲ではない。
シルフィードの蒼い鱗と白い腹だ。
まるでイナゴの大群の如き数のシルフィードが天空を飛び交っている。
こんな魔法は見た事がなかった。
タバサはウインディ・アイシクルを放ったが、氷は幻影を素通りしてしまう。
本物はどこに消えたのか。
そもそもこの魔法は何なのか。

「――虚無ノ魔法カ」

主君の呟きにハッと振り返るタバサ。
無数のシルフィードの向こうで、ウィツァルネミテアはタバサの下方を見つめていた。
その視線が、タバサに向けて、上がっていき――。
下!
悟り、杖を向けた瞬間、シルフィードが飛翔してきた。
タバサの身長より長い杖を、シルフィードの爪が弾き飛ばす。
その衝撃を受け、タバサも回転しながら地面へと落ちていった。
「タバサ、使い魔は従えるものじゃないわ」
上下の感覚を失ったタバサの耳に、遠くからルイズの声が聞こえた。
「メイジと使い魔はね」
声が近づいてくる。
視界にきらめく桃色の髪が見えた。
「家族なのよ」
気がつけばタバサは、ルイズの腕の中にいた。シルフィードの背中の上だ。
「少なくとも、ハクオロはそう言っていた」
まるで母親に抱かれているかのような安堵に包まれ、
タバサは全身から力が抜けていくのを感じた。
あのお方のためにすべてを捧げたはずなのに。
「だから、この子の事も見て上げなさいよ」
すべてにおいてあのお方を優先するあまり、シルフィードを疎かにしていた自分。
あの方を裏切る訳にはいかない。
感謝と忠義は契約によるものではなく、本心からのものだから。
けれどタバサはもう、ルイズと戦う気をなくしてしまっていた。
「……私の負け」

ルイズはタバサを地上に下ろすと「もう少し借りるね」と言って、
シルフィードとともに天空へと昇っていった。
すでにイリュージョンは消え去り、空は元の青さを取り戻している。
その下で、タバサの周囲は、赤に満たされていた。赤い炎と、赤い血に。
だが危険は感じなかった。
トリステイン兵も、アルビオン兵も、すでに戦いを忘れ、見上げている。
黒き巨躯の怪物と、桃色の髪をなびかせる小さなメイジを。

黒きウィツァルネミテアの眼の先で、シルフィードに乗ったルイズが杖を握りしめる。

「ルイズ……」
「ハクオロ……いえ、あなたは分身の方ね」
「ソウカ……使イ魔ノ楔カ」

ルイズは黒きウィツァルネミテアと契約した。メイジとしての力を欲して。
ルイズは白きウィツァルネミテアと契約した。主と使い魔として。
互いに楔を打ち込み合った結果、
ルイズは黒きものの力を得ながら、白き使い魔と心を重ねていった。

ルイズは分身に攻撃をしたが、分身と空蝉は同一。
「空蝉ノ存在ガ、汝ヲ楔カラ護ッテイタカ」
「空蝉と分身は同一の存在らしいけど、私から言わせてもらえば全然違うわ。
 空蝉は、白いのはね、私の使い魔なの。家族なのよ。
 最初に契約を結んだのは分身、あなただったのかもしれない。
 けれど私の家族は――ハクオロよ。
 ウィツァルネミテアなんて、舌を噛みそうな名前の奴なんかじゃない。
 だいたい、戦で人を高みに導くですって?
 これのどこが、高みに導いてるっていうのよ!」

二人の眼下では、無数の骸が転がり、家は炎上し、畑は踏み荒らされている。
戦意を失った兵士達は一様にこちらを見上げている。

「ルイズ……ドウヤラ、汝ハ我ニトッテ邪魔ナ存在ラシイ。我自ラ、汝ヲ滅ソウ」
「あんた、自分の胸がどうなってるか気づいてないの?
 使い魔のルーンは……まだ消えちゃいないわ。
 あんたが打ち込んだ楔……一切合財、返却させてもらうわ」

ルイズの朱唇が素早くルーンをつむぎ出す。
妨害しようとウィツァルネミテアは手を伸ばしたが、
詠唱に呼応して輝く使い魔ルーンが焼けるように痛み動きを封じた。
「ヌウウッ……ルイズ、貴様……」
黒い霧がウィツァルネミテアの全身からあふれ出し、タルブの村を呑み込む。
さらに霧はルイズを襲おうとしたが、ルーンが痛み、
分身とは違う意識が黒い霧をルイズからそらす。

そして、ルイズは天高く杖を掲げた。
「ディスペルマジック!」

白光は大空を、大地を照らし、ウィツァルネミテアの黒い霧をすべて払った。
村を焼く炎さえも消え去り、その神々しき光にすべての者が心奪われる。

タバサは自分の中から、ウィツァルネミテアの楔とともに、
契約の力が消えていくのを感じた。
「虚無……」
「そうか、彼女がそうなのか」
気がつけば、タバサのかたわらには同じ契約者ウェールズがいた。
彼は苦笑を浮かべて言う。
「参ったな……契約により永らえた命だというのに、
 どうやら不死性が消えただけで、命に別状はないようだ……。
 これではおいしいところだけいただいた、詐欺のようなものではないか」
「じゃあ、お母様も……」
契約が消えても、すでに治ってしまった母はそのままという事か。
タバサはホッと息を吐いてから、白光の根源を見上げた。
「まさか、虚無が実在するなんて……」
大きくウェールズはうなずき、羨望の眼差しをルイズに向ける。
「彼女はまさに、始祖ブリミルの再来………虚無の担い手。
 ハルケギニアを解放せし伝説の力……」

タバサは、ウィツァルネミテアに抱いた畏怖と同種のものをルイズに抱いた。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
16歳の小さな少女こそが、まさしく。
「神話の時代から……人々から崇められ、称えられ、うたわれるもの」

白光が収まったその時、ウィツァルネミテアの身体は白く染まっていた。
胸に刻まれたルーンは七色に輝いてその存在を誇示している。
「ル……イ……ズ……」
「……ハクオロ、ね?」
「アア……」
白き使い魔は、鋭い牙の並んだ口でわずかに微笑んで見せた。
「ハクオロ、分身は……黒い方はどうなったの?」
「一時的ニ抑エ込マレテイルダケダ。マタ、暴レ出スノハ時間ノ問題ダ」
「そう……」
「ダカラ、ルイズ、頼ミガアル」
ハクオロは、白い手を差し出した。
ルイズはシルフィードの首を撫でてやり「タバサの所に戻って上げて」と言うと、
巨大な白き手のひらへと飛び降りた。
それを見届けると、シルフィードはタバサのいる地上へと戻っていく。
「頼みって何?」
「カツテ……我ハモウ一人ノ娘、ムツミニ願ッタ。
 ソノ願イ、ルイズニナラバ……カナエラレルハズダ」
「ハクオロの願い……」
「我ノ本質ハ禍ニシテ元凶。コノ世ニ在ッテハナラナイ存在ダ。
 ダカラ――我ヲ滅セヨ」

使い魔のルーンが、ハクオロの悲しみを伝えてくれている。
だから、別れの言葉は覚悟していた。

「何……馬鹿な事、言ってんのよ。あんたは私の使い魔なのよ。家族なのよ。
 そんなあんたを、私に殺せって言うの?」
「解ルダロウ、ルイズ。私ハ在ッテハナラナイ存在。
 眠リニツイタトシテモ、マタ目覚メテシマウ刻ガクルダロウ……ダカラ」
「永久の眠りを……あなたは望むのね?」
「ソウダ。今ノ汝ニナラデキル。イヤ、汝ト我ナラバ可能ダ。
 ダカラ、ルイズ」
ハクオロは、己の手のひらに納まる小さな少女に向けて言った。

「再ビ我ト契約シ、自ラ契約ヲ断チ切リ、終止符ヲ打テ。
 ウタワレルモノ、ルイズ……


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