あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第21話 予兆




 「それじゃ、いってくるわね」
 「不在の間の練習メニューはまとめておきましたから」
 風竜の上から、ライバル兼親友と、その使い魔たる女性が声を掛けてくる。
 「あなたも急に忙しい身の上になっちゃったわね。ま、せいぜい頑張りなさい。シルフィードから落ちないようにね」
 二人を見上げつつ、赤毛で褐色の肌を持つ豊満な女性--キュルケは憎まれ口風の激励を送る。
 「ふふん、残念ですけど、今の私には『レビテーション』が使えるのよ。落ちてもなのはの助けが間に合うわ」
 「あら、じゃあ以前なのはがいってたの、本当だったのね」
 「ええ。幸いなことに。私の予想が当たっていてよかったです」
 そう。『虚無』に目覚め、その呪文を詠唱したルイズは、コモンマジックを自在に使えるようになっていた。『虚無』の魔法は威力がありすぎるうえに消耗が激しすぎるため、ルイズとしてはむしろこちらの方がうれしかったりした。
 もう自分は『ゼロ』ではないと、胸を張って言えるのだ。まあ、別の意味で『虚無(ゼロ)』になってしまったのだが。
 本当は学院に戻ったらこの辺のことをまたなのはと一緒に調べてみる予定だったのだが、急なロマリア行きでその時間がなくなってしまっていた。
 「そろそろ出発」
 頃合いと見たのか、あるいは時間が押し迫ってきたのか、残る一人の少女、竜の主であるタバサが二人を促す。
 改めて二人が落ち着いたのを確認して、タバサは一番の親友に声を掛ける。
 「いってくる」
 「いってらっしゃい」
 キュルケは挨拶を返すのと同時に、風竜は力強く羽ばたいて天へと駆け上った。
 「いってらっしゃい。さて、私も頑張らないとね。タバサだけじゃなく、今のままじゃルイズにも置いていかれちゃうし」
 キュルケは学院内で一、二を争う実力者--であった。
 過去形なのは、今現在でははっきりと自分より上位の存在が二人存在しているからだ。
 スクウェアに目覚め、同時に魔法の同時使用や呪文の改良すらこなすようになった親友のタバサ。恐ろしいことに今の彼女は時々、ごく簡単な魔法をほとんど呪文を唱えることなく、感覚的に組み上げてしまうことがある。
 初めて気がついたのはアルビオン行きの飛行船の中でだ。彼女は遠く離れた場所の音を『魔法で拾った』といっていた。だが、彼女の呪文レパートリーには、そんなモノはなかったはずなのだ。
 というかそもそもそういう漠然とした定義の魔法自体が存在してない。風はキュルケとは縁遠い属性だが、遠くの音を聞くための『遠聴』という呪文が、もう少し融通の利かないものであることくらいは承知している。
 あのときのタバサは、杖を片手に、歌うように呪文を紡いでいた。それはキュルケの知る『詠唱』ではなかった。あのときタバサは、間違いなく己の感性で呪文をその場で紡いでいた。
 少し聞いてみたところ、館での一戦以来、なのはがいうところの『魔力を共鳴させる』という行為の感覚を把握できるようになったという。風の魔力の共鳴が今のタバサには精霊の歌声のように感じられるという。
 そのため、ごく単純な行為に関してなら、その精霊達を動かすための『歌』が、ある程度感覚的に判るらしい。
 タバサは判ってかそうでないのか、なんでもないことのようにいっていたが、これはとんでもない技術である。
 呪文創造能力。今のタバサは、感覚で呪文を紡ぐことが出来る。元々彼女は勉強家であり、理性で呪文を用いる術にも長けている。
 その気になったら、開発者としても大成できるだろうと、キュルケは見ている。
 そしてルイズ。ゼロだといわれ続けていた少女は、ついに真なる『ゼロ』に目覚めた。
 伝説の『虚無』の使い手。メイジの頂点。彼女は最底辺から一気に頂上へと駆け上ったのだ。
 そしてそんなルイズを支える使い魔、なのは。本人が伝説に匹敵する超絶メイジであり、加えて大人な包容力が、何かと問題の多かったルイズを優しく包み込んで背筋を伸ばさせた。
 元のままなら、虚無を手にしたとたんのぼせ上がって増長し、私たちを虫けらのような目で見たあげくにおべんちゃらの得意な相手にころっと騙されていただろう。
 だが今のルイズにはそんな心配はいらない。
 自分を取り戻し、自分のよって立つための足場を築き上げ、決して揺らぐことのない根を見事に張り巡らしている。
 それに比べて自分は。
 力では負けてはいない。虚無に目覚めてしまったルイズは別格としても、今の自分の力はトライアングルには収まらないということが何となく判っている。
 だが自分はまだトライアングルのままだ。力はあっても、スクウェアになれそうでも、今の自分にはまだ何かが足りない。
 殻を、破らないといけない。
 そのことは理性が理解している。だが、現実がそれに追いつかない。
 キュルケは、そのことを誰よりも理解していた。







 一方、ここはアルビオン。首都ロンディニウムの南、ハヴィランド宮殿。
 白の宮殿と呼ばれるその内部では、白とは言いがたい人物達が、今回の件について話し合っていた。
 全軍の約半数とも言える、三万もの将兵の寝返り。
 圧倒的有利だったレコン・キスタは、ただの一日で状況を五分に引き戻されてしまっていた。
 連絡が届いた時には、トリステインからの援助物資が届きはじめるところであった。
 「ええい、裏切られただけならまだしも、物資が届くとなると、文字通り五分になってしまうぞ」
 「直後ならばただの烏合の衆だったのだがな……」
 そんな声が上がるが今更である。状況を把握している人物からは、ずっと建設的な意見が出ていた。
 「確かに物資は届いたかも知れん。だがまだたいした量ではない。船も大半は座礁している。今ならばまだこちらの方が優勢だ」
 「だが、このままトリステインからの援助が続けば、状況は判らん」
 「何よりもまずいのは、敵にもまた『虚無』の使い手と称する人物が現れたと言うことだ」
 レコン・キスタが成長してきた理由の一つに、クロムウェルが『虚無』の使い手を称しているという点がある。だが王党派にも『使い手』がいるとなれば、その優位は帳消しになる。
 「相手側の『使い手』は判っているのか?」
 「はっ、調べによりますと、トリステインの大貴族、ヴァリエール公爵の息女で、名はルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールと申すそうです」
 「これもトリステインか……」
 しばし沈黙が流れる。
 やがて、一人の人物が口を開いた。
 円卓ゆえ上座はない。だが、その人物は、その場において頂点に立つ人物であった。
 「ならば手は一つですね。裏切りは悲しいことですが、それはまだ何とかなります。この問題の根は、ここではなくトリステインにあります」
 サー・オリバー・クロムウェルは、ゆっくりとその言葉を発した。
 「彼らが盛り返している理由は、すべてトリステインにあります。私に対抗する『虚無』の存在すらも。ならば話は簡単です」
 「トリステインの干渉を、断ち切る、と」
 「その通りです」
 適宜な発言をほめつつ、クロムウェルは言葉を続ける。
 「トリステインに圧力を掛け、援助を止めさせましょう」
 「しかしどのように……この状況において、外交交渉は無駄かと」
 「それは判っています。少々非情の手を取らねばならないでしょうね」
 そういうとクロムウェルは、地図のある一点を押さえた。
 「この地を押さえます。さすればしばらくの間、トリステインを止めることが出来るでしょう」
 彼の指し示した点には『魔法学院』と書かれていた。







 シルフィードが飛ばせば、遙か遠方のロマリアといえども二日の距離に過ぎない。もっともそのためには、ガリアの国を横断する必要がある。一応正式な入国証その他の書類もきちんと所持しているが、何故かタバサはそれを否定した。
 「どうして? わざわざ犯罪者になることなんてないじゃない」
 当然の質問に対し、タバサは真正面からルイズの瞳を見つめていった。
 「万一がある。ガリア王はあなたとなのはに強い興味を持っている。場合によっては拉致くらいしかねない」
 冗談事ではなかったが、タバサの語る口調には遊びの雰囲気はなかった。
 「そうなったらあなたの犯すことになる罪科は国境破りなんか比べものにならなくなる。あなたとなのはが戦って負けることはないでしょうけど、外交問題にはなる」
 「う……」
 「そもそもあの戦いのとき、私はあなたとなのはが負けていたら、その身柄をガリア王のところに運ぶように命じられていた」
 駄目押しの告白が来た。
 ルイズも納得せざるをえなかった。
 そして一日を掛けて到着したのは、その戦いの舞台ともなった場所……タバサの実家であった。
 「おお、お嬢様、それにルイズ様もなのは様も。よくぞいらっしゃいました」
 執事のペルスランは、変わらずにルイズ達の来訪を喜んだ。
 「明日早朝には発つ。食事その他の用意をお願い」
 「お忙しいようですな。また何か……」
 「いいえ、今回は私の意志。友達のため」
 「……! 判りました」
 ペルスランは内心感極まっていた。
 あのお嬢様が、『友達のため』とおっしゃった。
 それは彼にとっても、大変喜ばしいことだったのだ。



 特にトラブルもなく、夜の帳がおりていた。食事はおいしく、タバサは母親のところに行った。
 前回も泊まった部屋には、ルイズとなのはの二人きりだ。
 いや、正確にはもう二人(?)いるが。
 「そいつが読めるって言うことは、やっぱりあんたは使い手のマスター、『虚無』の担い手か」
 「……知ってたの、デル君」
 なのはの声が、どこか冷ややかだったりする。
 今ルイズは、アンリエッタから借り受けてきた『始祖の祈祷書』に目を通している。
 「う~ん、やっぱり『エクスプロージョン』しか読めないわ」
 “やはりプロテクトされていますね。乱用を避けるためでしようが”
 なのはの胸元でレイジングハートも意見を述べる。一方、
 「あなた、ご主人様が虚無の担い手だって、気がついてたの?」
 「んなこたねえ! そっちの話聞いて初めて思い出したんだよ、ああ、そうだったなって」
 危険な響きを帯びているなのはの声に、デルフリンガーはおびえていた。
 「ああもう久々にしゃべれたと思ったら、なんで使い手の姐さんに脅かされなきゃなんねえんだよ!」
 「ほんとに覚えてなかったみたいね……ま、いいわ」
 なのはは追求を打ち切った。
 「でね、デル君。あなた、あれについては何か覚えてる?」
 なのははルイズの方を見る。
 「ご主人様、始祖のオルゴールの声を聞いて、虚無に目覚めたんだけど、使えるのはエクスプロージョンだけ。それも最後まで唱え切れたのは一回だけ。あのあと何回か唱えてみたけど、途中で力尽きて、失敗魔法と大差ない結果しか出なかったわ」
 「ん? まあ『虚無』は馬鹿みたいに力を使うからな。よっぽど心を震わせないと、力がたまらないぜ」
 「心を、震わせる? 前にもそんなこと言ってたよね」
 なのはは以前、似たようなことをデルフリンガーが言っていたのを思いだした。
 「ああ、俺も『使い手』の心の震えが強くなればなるほど力が出る。確か虚無の担い手も似たようなもんだったはずだぞ?」
 「具体的には?」
 「心の震えって言うのは、要は強い感情の動きだ。怒りとか、決意とか、まあいろいろだな。ただどっちかって言うととんがってる方が強くなる。いくら心が震えると言っても、優しさとか感動とかだと、なんて言うのか、こう……力が抜けちまうんだよな」
 「うーん、攻撃的な方がいいとか?」
 なのはの言葉に、デルフリンガーは鍔をかちかち鳴らして答えた。
 「そう、それそれ。怒りとか憎しみとか嫉妬とか、とにかく攻撃的な方が力が出るんだよ。そういや昔、明鏡止水とか言う剣術の極みとか言ってたやつがいたけど、あれじゃ全然力が出なかったな。落ち着きすぎてちっとも心が揺らがねえ」
 「冷静すぎると駄目なのかあ」
 「ああ。むしろ荒っぽい方がいいぜ。もっとも姐さんは例外かも知れねえけどな」
 「例外? 私が?」
 首をひねるなのは。
 「ほら、前一回、俺にものすごい力を通しただろ? 心が震えてくるとああなるんだけど、姐さんはそういうのと無関係に力を通しやがった」
 「魔力を通した時よね。ということは……」
 “デルフリンガーか、あるいはひょっとしたら『ガンダールブ』のルーンに、感情を魔力に変換する能力があるのかも知れません”
 レイジングハートが冷静に言葉を繋いだ。
 「なるほど。その線はありそうね」
 なのはも頷いた。
 「そういえばタバサがスクウェアに目覚めた時も、なんか激昂してたよね」
 “そう考えると、これは個々の特性でなく、系統魔法に限らない、これはハルケギニアにおける魔法全体の特性かも知れません”
 「強い感情、特に攻撃的な意志を伴った感情が、魔力に変換されるのか……うん、ちょっと調べてみようか」
 そういうとなのはは、荷物の中からパソコンとスキャナを取り出すと、レイジングハートに接続した。
 「ご主人様」
 「判ってるわ」
 先ほどの話を興味深そうに聞いていたルイズは、打てば響くように頷いた。
 「とりあえず怒った時のことを思い出してみるね」
 ルイズは目を閉じると、過去、自分がキュルケに馬鹿にされていた時のことを回想した。
 今でこそ彼女のことを考えると少し心が温かくなる。だが、初めてあった頃は……
 その頃のことを思い出すと、むかむかした怒りがわいてくる。挑発的な言動には励ましの言葉が混じっていたことが今だと判ってしまうので除去。いろいろ思いだしていくうちに、キュルケのあるからかいの言葉が思い出された」

 ……あら、かわいいわね。
 --な、なんでツェルプストーがヴァリエールであるあたしをかわいいなんて言うのよ!
 ……ふふふ、ねえ、今夜私の寝室に来ない?
 --ちょ、ちょっと、あなた同性の趣味もあったの?
 ……ないわよ? って、あら、あなた女だったの。てっきり美少年だと思ってたわ。ごめんなさい、おほほほほ……

 --そう、あいつは、最後の台詞を、あたしの胸を見て言いやがったのよ!

 そりゃ無いのは自覚しているけど、男扱いはないでしょ!



 ルイズの怒りが見事に爆発していた。



 「うわ、本当に魔力が増えた」
 “……今までうまく測定できませんでしたけど、彼女の魔力容量、かなり大きいですね。なまじたまっていたせいで、この魔力の多いハルケギニアでは返って測定しづらかったようです”
 「ああ、バックグラウンドに紛れちゃったのね?」
 “はい。虚無の発動でいったん空になったので測定できましたけど……概算でSからS+位はありそうですよ”
 「ミッドだったら即スカウトが来そうね」
 なのはは知り合いの甘党妖精元艦長を思い出しつつ言った。
 「でも、逆に言うと、『虚無』って……」
 “マスター並みの魔力を一回で使い切る大出力魔法なんですね”
 なのはは頭を抱えた。そしてふとあることに思い至った。
 改めてルイズの方を向いて言う。
 「ご主人様」
 「全くあのツェルプストーはーっ!……って、もういいの?」
 「はい。で、ちょっと思いついたことが」
 そういうとなのははルイズの手を取り、詠唱した。

 「ディバイド・エナジー」

 レイジングハートがそれを受けて桃色--なのはの魔力光の色に輝き、なのはの魔力がルイズに向けて流れ込んでいった。
 「わ、なに、これ。なんか暖かいのがなのはから」
 “……効果はありますが、これは……”
 だが、術式を中継するレイジングハートの声音は実にしょっぱいものであった。
 少ししてなのはが魔力の接続を切ると、光は収まった。
 「ご主人様、力が回復しているのが判りますか?」
 「ええ、何となくだけど」
 ルイズにも何となくだが力がたまっているのが感じられた。
 “虚無が命を削るという意味が少し判りますね”
 レイジングハートがぼやくように言う。
 「ん? どういうこってい」
 デルフリンガーがそれに対して興味深そうにツッコむ。
 「魔力の吸収効率が極端に低いのね。まあこんだけ魔力素が濃い上、魔法の基本形態が共鳴型だから当たり前と言えば当たり前かも知れないけど」
 「なのはには理由がわかるの?」
 ルイズも興味津々と言った様子で聞いてくる。
 「はい。つまりですね……」
 この世界は魔力に満ちている。物質に融合しているもの、拡散しているもの、などなど。
 そして形を為す前の魔力素も、他の世界に比べて桁違いに濃い。
 ただこの魔力素、空気中の酸素濃度のような面があり、濃すぎても薄すぎても障害が出る。
 薄いと当然量的な不足が生じ、魔力の回復が著しく阻害される。
 逆に濃すぎても魔法の暴発や濃度過多による吸収阻害が発生する。
 ミッドチルダなどに比べると、ハルケギニアの魔力濃度はこの吸収阻害が起きるレベルを遙かに超えて濃い。なのはがこれで異常を起こしていないのは、元々彼女の魔力容量自体が桁違いに大きい上、ガンタールヴのルーンによる補正が効いているためである。
 そしてルイズ達ハルケギニアのメイジは、その原理上魔力をあまり取り込む必要がない。
 彼らが消費する『精神力』は、触媒としての魔力であるため、直接魔力をエネルギーとして使用するミッド式やベルカ式に対して桁違いの変換効率を表面上は持つことになる。
 ミッド式では百の力を得るのに最低で百、普通は百二十~二百近い魔力が必要になる。つまり変換に際してどうしてもロスが出る。
 ところがハルケギニア式では最高が百、普通は一~十という信じられないような高効率が達成されている。これは事象の変換に必要なエネルギーを、自分の魔力から供給しているミッド式と外部から調達しているハルケギニア式の違いである。
 「ただ、虚無は例外みたいなんです」
 「例外?」
 なのはは説明を続ける。
 虚無の魔法は、現時点では『エクスプロージョン』しか判っていないが、それでも明らかに他の系統魔法とは違った面がある。
 なのはが調べた限りにおいて、エクスプロージョンは、設定された範囲において、魔力収奪による崩壊爆発を起こす呪文である。
 ここでポイントとなるのは、『収奪による爆発』という結果的な作用こそ外部の魔力を利用していることになるが、実はこの爆発自体が、エクスプロージョンという魔法からすると『二次的現象』に過ぎない。
 『エクスプロージョン』という魔法は、本質的には

 『一定の範囲内に対して、術者の設定した対象から、強制的に融合している魔力を引きはがす』

 呪文であって、爆発という破壊現象とは直接的に結びついていない。
 そしてそのためのサーチ、ターゲッティング、コントロール、その他すべては、『術者の魔力からの持ち出し』になっている。
 ここが他の系統魔法とは一線を画している点となる。

 「もともとこのハルケギニアのメイジは、魔力を自然から吸収する能力が、私たちに比べると極端に低いんです」
 「元から大して使わない上に、ちょっと吸収すれば足りるからね?」
 「そうです」
 なのははルイズの勘所を押さえた答えに対して喜びつつ頷く。
 「加えて安全性を確保するという意味もありますが。それはともかく、『虚無』の魔法は、少なくともエクスプロージョンは極端に負担の多い術式なんです。途中であっても発動するのも、術の本質が『目標の設定』であって、爆発そのものではないからみたいですね」
 「さすがなのはね。私たちだけじゃ、この事を調べるのに何年かかったことかしら」
 ぼやくルイズに、なのはは首を横に振った。
 「いいえ、これはたまたまこの術式がハルケギニアのものというより、私たちの使うものに近いから判ったことですよ。虚無の魔法自体が、まるでミッド式の術式をハルケギニア式にコンバートしたみたいな面が強いですし」
 「基礎知識があったっていうことね」
 「そういうことです」
 「いやはや、たいしたもんだぜ姐さん。今回の使い手は、えらい頭がいいんだな」
 デルフリンガーも、感心したようにいった。
 「ま、なんにしても」
 なのははまとめるように言う。
 「ご主人様の素質は、虚無でなければ空前絶後だったはずです。まあ、だからこその虚無だったかも知れませんけど。これはどっちが先かになっちゃいますけど」
 「実は私って元からすごかったのね」
 茶化すように言うルイズ。増長するでもなく、自嘲するでもない、素直な誇りだった。
 「いずれにせよ、虚無の魔法はおそらく無茶苦茶に魔力を消費します。ご主人様の器が大きくても、それを簡単に空っぽにしちゃいます。私の魔力を渡そうにも、入り口が狭すぎてあまり補充できません」
 「そういえばなのはの魔力ってどのくらいあるの?」
 尋ねるルイズになのははちょっと恥ずかしそうに言った。
 「ご主人様よりは多いです。倍あるかどうかは微妙ですけど」
 「で、それがすぐ回復するのよね……」
 魔力素が濃い上それによる吸収阻害が起きていないため、それこそあっという間に魔力が回復するのが今のなのはである。なのは自身、それに気がついた時「どういうずるよ」と思わず自分にツッコんでしまったくらいである。
 「逆にご主人様は回復が極端に遅いわけですから、濫用は禁物ですね。あまり攻撃的な精神を保つというのもよくないですし」
 「そうね」
 ルイズだって魔法を使うために年がら年中ヒステリーを起こしているなんてごめんだった。
 (でも考えてみると以前の私って……)
 あまりにも力を溜めやすい状況だったために、ルイズは内心でがっくりと膝をついていた。
 そんな気分を何とか立て直してルイズは言う。
 「まさに切り札なのね、『虚無』は」
 「使いどころが難しいですね。他の魔法が使えるようになればいいんですけど」
 「でも読めないのよね」
 傍らの『始祖の祈祷書』に目を落とすルイズ。
 “心から必要だと思えば読めるはずです”
 レイジングハートがサポートする。
 「めんどくさいわね。でも仕方ないか。うかつに使うと即倒れるんじゃ……っと、結構時間経ってたわね。そろそろ寝ましょう」
 ランプの明かりが揺らめいていた。
 「はい、ご主人様」
 二人ともベッドに潜り込む。程なくして、室内はかすかな寝息だけが支配する静寂な空間になった。






 --直後。
 寝たはずのなのはがむっくりと起き上がった。
 光量を落とした状態でパソコンを立ち上げる。
 「起きてたんですかい、姐さん」「しっ」
 話しかけてくるデルフリンガーを黙らせる。
 (どうしても話したかったら念話にして)
 (へいへい。どうもこれは好きになれねえんだが)
 なのははレイジングハートとパソコンをつなぎ、データを転送する。
 そこに映し出されたのは、ルイズにも読めないはずの、『虚無』の術式であった。
 (ざっと見た感じでもすごいわね、これ……)
 (“この世界の魔力に支えられたものではありますが、とんでもない系統ですよ、これは”)
 (魔法そのものがロストロギア級よね……ご主人様がこれを制御できるようになれば、最低ラインで問題は解決するんだけどなあ)
 (“読めない以上、難しいかと”)
 なのはが見つめていたのは、こちら風に記述し直された『次元転送』の魔法。
 呪文の名称は、『世界扉』となっていた。





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