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絶望の街の魔王、降臨 - 05



 ジルの朝は早い。元の世界では職業柄、不規則な生活を送っていたが、この世界ハルケギニアでは厄介な緊急招集が無く、規則的な生活ができるために、しっかり睡眠を堪能できる。故の早起きである。
 躯を軽く解し、コンバットナイフとシースを装備して、洗濯物を手に外に出る。
 外の洗濯場でメイド達と雑談をしながら、手早く洗濯を終わらせ、密かな日課であったランニングに出る。
「先生!おはようございます!」
 ここで、ギーシュが合流する。
「今日はついてこれるかしら」
「やってやりますよ!」



 数日前、決闘の日の夜、ギーシュが謝りに来た。



「本当にすまなかったよ」
 直立して、頭を垂れる。
「あの後すぐにモンモランシーとケティとメイドに謝った。元は僕の不義理から起こった事なのに、下らない面子でメイドに、女の子にあたるなんて。今考えると恥ずかしい限りだよ」
「それで、その顔に?」
 ギーシュの顔は両頬が腫れ上がっていた。
「あのメイドの娘、シエスタにお詫びに手にキスをしたのがいけなかったのか、ケティにココナッツクラッシュを……そのケティをお詫びに食事に誘ったのが気に障ったのか……、モンモランシーにシャイニングウィザードを貰って……でも見えたから……」
 最後は小声で聞こえなかったが、駄目だこりゃ、とルイズは思った。
「次に浮気をするなら、殺される覚悟ですることね」
 それよりも、よく生きていたな、或いは、よくそんな高難度の技を出せるな少女達よ、と思うべきなのだろうか。
「う……もうしない。始祖ブリミルに誓って」
 一オクターブ下がったジルの真面目な声に、身を震わせながら誓う。赤く腫れた頬と相対する様に、その顔は蒼くなる。
「で、他にも用があるんでしょう?」
 勘の良さは健在だ。誓った後なかなか帰らないギーシュに向けて問う。話を切り出せなかったギーシュに助け船を出したのだ。
「あ、ああ……その……僕に戦い方を教えてくれないか!?」
 突然の懇願に、ルイズは驚いたが、ジルはやはりといった顔をする。
「何故?」
「僕は貴族、しかも軍人の家系だ。何れにせよ、領民を護る義務がある。だけど今の僕には、たった一人を相手に敗ける僕では、大切な人すら護れない。そう思ったんだ。あ、いや、君が弱いと言ってる訳じゃないんだ」
 しかし、ジルは少し意地悪を言う。
「私はメイジ同士の戦闘なんて知らないわ」
「精神力が切れれば、メイジだって平民と変わらない。そうなったらこの身一つで戦うしかない。君はワルキューレを避けたり、動けない様に的確に壊したり……戦い慣れているし、基本的な戦い方を知っている、そうだろう?それに、魔法が打ち止めになった僕に言った事……」
 頭に血が上っている様に見えた割にはよく見ていた。案外、素質はあるのかも知れない。ワルキューレの采配も、僅かだが連携や挟撃の片鱗は見せていた。
「いいわ。なかなかよく見てるじゃない」
 ギーシュの眼が輝く。
「ただし、音を上げないことと、その志を忘れないこと。それさえ守れば、教えてあげるわ」
「はい!お願いします、ジル先生!」



 そんな訳でジルは基礎体力作成のためのランニングに付き合わせているのだが……



 十分後。



「ぜはーっ、はーっ」
 汗だくで、腹を押さえ、足を引き摺りながら走る(しかし、ジルの歩みより僅かに遅い)ギーシュ。心電図が紅に染まっていないか心配な挙動だ。
「情けないわね。でも昨日よりは伸びたわ」
 あまり運動をしない貴族のお坊ちゃんに最初から十キロは酷と、二キロから伸ばしていくつもりのジルだったが、初日は一キロちょっとでぶっ倒れる(本当に意識が無かった)ギーシュを見て、目標をかなり下方修正した。しかし少しずつ体力はついている様で、今は二キロ地点でギーシュを待っていた。
「夜はちゃんとトレーニングすること、いいわね?」
「い……イエス、サー……」
 ゴール地点でギーシュはばったり倒れた。



 自分はしっかり十キロ走った後、洗濯場でギーシュに水をぶっかけて休ませる。
 そして、朝食前にルイズを起こす。
「起きなさい」
「んん……」
「起きなさい」
「後五分……」
 なかなか起きないルイズに業を煮やし、窓を開放。取り出したるはデザートイーグル。
「ルイズ」
 ゴリッと、そのゴツい銃口が額に押し付けられる。
「十秒以内に起きないと」
 カチ、ガチンと、撃鉄が起こされる。
「永遠に眠ることになるわよ?」
 がばぁっ。
「ち、ち、ちょっ!!」
「おはようルイズ。よく眠れたかしら?」
「殺す気!?」
「今日は初弾を入れてないわ。だけど次はどうかしらね、寝坊助の御主人様?」
 ルイズの顔は蒼い。毎朝こんな起こし方をする使い魔は、朝っぱらから本当に心臓に悪い。
「もう少しマトモな起こし方ってものがあるでしょ!」
「マトモな起こし方じゃ起きないからよ。悔しかったら自分で起きなさい」
「くうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ……」
 この様に、時には銃声が響いたりもするが、それは既に女子寮の日常と化していた。



 アルヴィーズの食堂の前で、二人は別れる。ジルは厨房に出向く。
「おお、『我等の大砲』!よく来た!」
「ジルよ。いい加減名前で呼んでほしいわ」
 コック長のマルトーが、鍋を振るいながらジルを歓迎する。暑苦しい挨拶を、ジルは華麗に流す。
 ギーシュとの決闘から、ジルは厨房で英雄の様な扱いを受けていた。特にマルトーはそれが顕著で、ジルを『我等の大砲』と呼ぶ。どうもロケットランチャーの事らしい。
「しかしな、平民が貴族相手に勝つなんて……」
「どんなに強かろうと、慢心した相手の足を掬うのは誰だってできることよ。要はどれだけ冷静に相手を見て、どれだけ冷静に対処できるか。貴方だって、あの時のあの子になら勝てるのよ?」
「ほう?今は?」
「私が戦い方を教えてるわ。もう油断なんてしない」
「な、何だって!?」
 マルトーの貴族嫌いは有名だ。ここ数日でジルも会話からそれを知っていた。しかしそれは偏見というもの、ジルはマルトーの貴族嫌いを快く思っていなかった。
「道を間違えなければ、あの子は名君になるわ。何れにせよ、二度と平民を馬鹿になんてしないわ。私が鍛えるのだから」
「うむぅ……『我等の大砲』が言うなら間違いは無いんだろうが……」
「悪い貴族もいれば、いい貴族もいるのよ。貴族で一括りにして悪いと決め付けちゃ、本当にいい貴族に会った時に損をするわ」
「それはそうだが……」
 フライパンを揺らしながら考え込む。頭では別の事を考えていながら、腕はしっかり動いている。プロだ。
「はい、どうぞ……」
 メイド――確かギーシュに絡まれていた娘だ――にシチューを出され、早速食べ始める。
「美味しいわ。いい腕ね」
「はっは、よせ、照れる」
 今までの悩みはどこへ行ったのか、豪快に笑い、鍋をかき混ぜる手を止める。幾つもの鍋やフライパンを一人で同時に見ているようだ。
「ほれ、追加だ」
 マルトー自らサラダをジルの前に置く。すぐに逃げる様に竈に戻る。いくら忙しいとはいえ、怪しいマルトーの挙動をいぶかしんだジルは、そのサラダを口にしてその理由を知った。
「……苦いわね」
 しかし、その程度だ。マルトーを肇とする厨房の全員が、その反応を疑った。
 サラダの中身は全てがはしばみ草なのだ。その苦さ、後味、その他諸々の風味などで大多数の人間に忌み嫌われる食材なのだ。それを平然と、はむはむと食べている様はある意味脅威であった。
「じ、ジルさん……それ……」
「おいおい、ジル……大丈夫か?」
「何が?毒でも入れてたの?」
 騒然とする厨房にジルの冗談がやけに響く。
「いや、たまげた。苦くないか?」
「そうね、混合ハーブより少し苦い程度ね。それがどうかしたの?」
 ハーブだ。ラクーンシティを肇とするバイオハザード発生地域で確実に採取できる回復薬、あの三種類のハーブを常用することによりできた苦味への耐性。それが今、初めて露見した。
「混合ハーブ?なんだそりゃ」
「これよ。まだ少しあるからあげるわ」
 四次元空間に繋がっているのではないかと疑いたくなるサイドパックから、紙の包みを幾つか取り出す。
「何ですか?」
 包みを開くと、紫なのか黒なのかよく判らない色の粉末が山になっていた。なにか、毒々しい。
「グリーンハーブとレッドハーブとブルーハーブの混合ハーブよ。全部混合しちゃって、単体のハーブは無いけど」
 よく見れば、ジルが言った色の粉末が合わさってこの色を表現している。
「ふーむ……」
「何故か、使った瞬間にあらゆる傷が消えて、体力が回復して、あらゆる毒が浄化されるのよ。そこらの下手な薬よりよく効くわ」
「え!?これが水の秘薬!?」
「違うわ。ただハーブを採集してすりつぶして混ぜるだけの、ただの薬。飲んでも塗っても効くわ。ある意味、魔法より不思議な薬よ」
 ただ、ウィルス感染症には効かないが。
「便利ですね」
「ありがたい」
 余談だが、彼等がその味を体感するのはかなり後のことだった。同時にその威力に感謝もしたが。



 それからルイズは授業へ、ジルはコルベールに呼ばれ彼の研究室に赴く。
「で、これがこう動いて……ほほー」
 ジルの持つ武器や装備に関心があるという彼は、ジルに頼んでその仕組みや構造を教えて貰っているのだ。
「実にすばらしいですぞ!ここまで硬くて頑丈な鉄は初めて見ます!」
「鉄じゃなくてチタニウム合金よ。それはステンレス。錆びないし硬いわ」
「何と!?固定化もかけずに」
 歓喜の雄叫びをあげるコルベール。禿げた中年が子供の様にはしゃぐのはどうも……見るに耐えない。
「この世界にはマトモな製鉄技術が無いのかしら?」
「メイジの錬金では、この鉄を作ることすらできないでしょうな。いやはや、平民の技術というものを侮っていました。何より発想が違う」
「この怠けきった世界でそれに気付ける貴方は、とっても貴重よ。うまくすれば、歴史に名前を残すでしょうね」
「いやいや、貴方が現れたからですぞ。新しい材料を『創る』など、思いつきもしませんでしたからな」
「詳しい事は研究するしかないわ。製鉄技術の本でもあればいいんだけど」
「いえ、充分です。先達の努力の上に胡坐をかいているだけでは、真っ当な発展はできませんからな」
 ジルに貰った元素周期表を眺め、ウンウンと頷く。そして突然何か閃き、猛然とノートに書きなぐる。
 その姿を見て、もう意思の疎通は不可能と判断したジルは、邪魔にならない様にこっそりと研究室を出ていくのであった。



 ヴェストリの広場。ギーシュと決闘をした場所である。ジルはそこに足を運んだ。
 いつも日陰で薄暗く、風通しもいいのでなかなか快適な場所だ。
 暇になった時は、ここで射撃訓練をする。コルベールから貰った不要なガラクタを、外壁の前に向けて並べる。
 遠く離れ、取り出したのは無骨な金属の塊。束ねられた三本の筒が特徴的な、この世界の人間には一見して銃には見えないそれを構える。
 キィィィィ……ンと、モータの音が少し聞こえ、刹那、その音は轟音に掻き消される。
 傍から見たら、ジルが持つそれは火を噴いている様にも見える。しかし、恐ろしいのはその連続したマズルブラストでは無く、そこから放たれる銃弾である。或いは、その反動を抑え付けられる彼女の腕力である。
 ガラクタは端から次々に吹き飛ばされていく。まるで見えざる剣に薙がれる様に。土煙が巻き上がり、やがて全てがそれに飲み込まれる。
 銃口から火が消え、バレルの回転が止まった時、目標周辺は地面が抉られ、ジルの横には薬莢の山ができていた。
「ふう……」
 息を吐き、目標を見なおす。一つだけ、最後の一つだけ、無傷で最初の位置に鎮座していた。土煙に護られたのだ。
「……」
 無言でM66を担ぎ、放つ。銃弾より遥かに遅いそれは、固体燃料を消費しながら加速し、正確に小さなガラクタに命中、しかし標的が軽すぎたのかそのまま跳ね返る様に方向を変え、浅い角度で塀にぶつかり更に跳ね返り、そのまま……塔の上部めがけて飛翔していった。
 ルイズから学院の建造物全てにかけられた『固定化』の話を聞いていたジルは、特に慌てるでもなく、それを放置して傍観していた。ロケット弾の向かう先には窓は無く、壁しかない。ロケット弾は学院長室の真下、宝物庫の壁に何事も無く着弾し、その弾頭の装薬を存分に炸裂させた。
 しかし、ジルの楽観は結果として後の事件の発端となった。残った的に対するほんのちょっとした『怒り』、それが『ただのロケット弾』に与えた効果を彼女に知れというのは酷な事だ。ジルには、まだ己の左手に刻まれた紋様の意味すら知らないのだから。
 『ちょっと壁が焦げて、小さなヒビが入った』。その結果に何等の関心も抱かず、ベレッタを抜いて残されたガラクタに気が済むまで鉛弾を叩き込むのだった。



 そして、全ての授業が終わり、ルイズの魔法の特訓とギーシュの訓練に付き合う。
「錬金!!」
 今日もルイズの声と共に、派手な爆音が轟く。
 回を増すごとにわずかずつ威力を増していくルイズの爆発に戦々恐々としながら、ギーシュはジルにワルキューレをけしかける。魔法の使えないときの訓練も必要だが、魔法を使った戦闘訓練も必要としたジルの提案でヴェストリの広場でやることになった。それに感化されたのか、ルイズもついてきて魔法の練習をしているが……
「錬金!!」
「うおあ!?」
 と、時々不意打ちの様にあっちこっちに何の脈略も無く爆発を起こす。
「よそ見しない」
 いつの間にか接近していたジルに頭を叩かれる。自律ではなくギーシュが操っているため、一瞬でもギーシュに隙ができれば連携もガタガタになり、ジルにとってはただの案山子にも等しくなる。
『戦場じゃ、いつ流れ弾……は無いわね。不意打ちや流れ魔法がくるか判らないわ。常に周囲を警戒しながら、倒すべき敵から注意を逸らさないこと』
 と、非常に無茶苦茶な事を言われたため、ルイズに文句も言えず、必死にその感覚を掴もうと努力している。その甲斐あってか、今ではルイズの爆発の直撃を食らうことは滅多に無い。せいぜい軽傷で済んでいる。
「錬金!!」
 そう油断もしていられない。避けたと思ったら次の爆発。決闘の時に見たジルの緊急回避を真似ようとするが、
「ふがっ!!」
 確かに直撃はしていないが、爆心にいないというだけでダメージはかなりのものだった。それでもジルは冷酷にもワルキューレを一体切り裂き、立ち上がろうとするギーシュに肉薄する。
「ワルキューレェェェェェェェ!!!!」
 ジルの背後から一体、襲い掛かる。反射ともいえる動きでそれを切り裂くが、その『反射』がいけなかった。
 少々無理のある体勢で横に薙いだ、その状態でほんの少し遅れて接近してきたワルキューレが左手にいた。回転の勢いは止められず、無防備な背中をそのままワルキューレに曝す格好となる。
 恐らく、何も考えず取った行動なのだろうが、それをギーシュは会得しかけていた。自然に躯が動く、自然に適切な行動が取れる。最強の戦士たる条件の一つを。
「錬金!!」
「……」
 最大の敵がジルではなく、ルイズだったことを、ギーシュはその爆轟に揺さぶられた頭で初めて理解し、満身創痍の彼は悲鳴も無く壊れた人形の様に倒れた。
 しかし非情にも、
「錬金!!」
 明後日の方向を向いている故に状況を知らないルイズの呪文が聞こえ、彼は死を覚悟し意識を闇に委ねた。が、彼にその呪文は害を成さなかった。
「フッ!」
 ジルが地面を転がっていた。緊急回避で爆発を回避したが、その手にナイフは無い。
「ルイズ!中止!」
 彼女は叫ぶ。その声に、ルイズは詠唱をやめた。
「うわ……ギーシュ、大丈夫なのかしら?」
「これを口にねじ込んでおけばすぐ治るわ。そんなことよりも……」
 ギーシュの怪我など『そんなこと』で済ませられるのも、全ては混合ハーブのお陰だ。毎回、これと同等か酷い怪我を負うが、いつも次の日にはピンピンして走り回っているのだから、それにルイズは先住魔法以上の不思議さを感じる。その恩恵を今は亡き街で存分に受けたジルですら、本当は専門機関に分析を依頼してみたいと常々感じていたが、今はもう叶わぬ願いだ。既に気にしないことにしている。
「……」
「……あ」
 無残なナイフの残骸が視線の先にあった。




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