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虚无(ヤク)い使い魔-04


昼食時の学生食堂……その厨房は戦場だ。
なにせ学園の大半の生徒が限られた休み時間の中、ほとんど一時におしかける。
それは貴族のご子息ご令嬢ご用達の格式高い『アルヴィーズの食堂』も例外ではない。
「おい!皿だ」
「ハイ、こっち」
「残飯は奥だ! そのあと洗い場へつっ込んどけ!」
「了解!」


「おめぇ、中々手際がいいじゃねーか!」
がっちりと太った大柄の男、この戦場の司令官であるコック長マルトーが急遽入った臨時戦力に称賛の言葉を贈る。

「どーも、実はむかし料理人めざしたんで、こういう仕事は嫌いじゃないんですよ」
「そうかそうか、それはいい!」
司令官は糸目の男の背中を「バン!」と叩く。
男はよれよれと前に2~3歩つんのめると手にした食器を落としそうになり、慌ててバランスを取る。
なんとか被害を出さず持ち直すと、男は「ハハ…」と笑った。

応じてマルトーも「ガハハ」と豪快に笑うと困った顔をして言った。
「こちらとしてもお前さんを雇ってやりたいんだがなぁ……」


2時間ほど前のこと──
八雲は食堂の裏あたりをうろついていた。
なんとか雇ってもらわなければならないのだが、目の前の食堂は気品が高すぎる。
客が入る正面口は平民として学園にいる八雲にとって、とても一人で入れるような雰囲気ではない……

その時、裏口が開き中からメイド服をきた女の子が出てきた。
どうやらここで働く給仕さんのようだ。
「ねぇ、ちょっとそこの君」
声をかけると女の子はこちらに気づいたように振り返り返事をした。
「はい、なんでしょう……」

そう言ってスタスタとこちらへ向ってくると、女の子は何かに気づいたように言った。
「? …あなたもしかするとミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」
「あれ、知ってんの?」
「ええ、有名ですよ。ミス・ヴァリエールが平民の使い魔を召喚したって。 額と右手に文字のついている男の子って聞いていたものですから…... あ、私シエスタっていいます。」

成程… 自分の召喚は生徒のみならず、ちょっとした噂話のネタになっているらしい。
「俺は藤井八雲。 ところでお願があるんだけど……」
そう言ったところで八雲の腹の虫が「ぎゅるるぅ…」と鳴った。

「お腹……空いているんですか?」
「まぁね……」
シエスタの問いに八雲が答える。
「ご飯抜かれちゃってさ、ここに来る前から何にも食べてなかったし、できればここで雇って欲しいなァって思ったんだけど……」

八雲の言葉に女の子は困ったような顔をした。
「コック長の…マルトーさんに紹介することはできます。 けれど、あなたは貴族様の使い魔ですから、そのあなたを雇って使うことは……私たち平民の一存では難しいかと」

せめて「ルイズの許可を」というその答えに八雲は肩を落とす。
上手くいくなんて思ってはいなかったが、やはり世の中は厳しい。
「そうかぁ、無理言ってごめん」
そう言って去ろうとする八雲をシエスタが引きとめた。

「あの…私たちのまかないで良ければ食べませんか?」
「え、いいの?」
「はい、こちらへいらしてください」
そう言うとシエスタは裏の厨房に八雲を招きいれた。

厨房は小奇麗で広々としていた。
何人ものコックやシエスタと同じ格好をしたメイドたちが、来たる昼時にかけて忙しそうに下準備に取り掛かっている。

「これ、どうぞ…貴族様への料理の余りもので作ったシチューです」
「ありがとう! うまそうだな」
そう言って八雲はシチューにがっついた、人間らしい食事など何時以来であろうか?
シエスタは八雲の食べっぷりをニコニコしながら見ていた。


「助かったよシエスタ、生き返った気分だ」
出された食事を平らげると八雲は言った。
「やっぱ食べっぱなしじゃ悪いしさ、何かお礼がしたいな。 そうだ、今日だけ『勝手に』お手伝いする分なら問題ないだろ?」
八雲は「こう見えても食器運びや皿洗いは得意なんだぜ!」と胸をはる。
「ほら俺の勝手で、ちょっと手伝うだけだよ、ちょっと」

シエスタはしばらくキョトンとしていたが、やがてクスッと笑って言った。
「そうですね…これから猫の手を借りたいくらい忙しくなりますから、お言葉に甘えてしまいます。 すぐにマルトーさんに紹介しますね」

こうして八雲はアルヴィーズの食堂でマルトーの下、『勝手に』手伝う事になったのだった───


前線を離脱して八雲と話していたコック長マルトーだが、残念ながらやはり八雲を雇うのは難しいことを告げた。
マルトーは少しもどかしそうな顔をしていたが、すぐにいつもの調子にもどると、
「まぁいい、坊主! その代わり今日のところはバンバン働いてもらうからな!」
そう言って豪快な笑いと共に再び自分の戦場へと戻っていった。

持ち場に戻ると八雲はニヤニヤと食器を洗いながら鼻歌を口ずさむ。
アルヴィーズ食堂で働いている従業員、マルトーさんやシエスタはいい人たちだ。 厨房の仕事は楽しい。
もし人間になっていたなら……俺はこんな仲間たちと、こんな生活を送っていたのだろうか。



その時、どこからか怒鳴り声が聞こえたような気がした。
気になって厨房を見まわすとコックや給仕たちが持ち場を放ったらかして集まり、そわそわと心配そうに客席の方を覗いていた。
不審に思った八雲は一緒に覗き込もうとするのだが、人だかりのせいで何が起こっているのかがよく見えない。

仕方なく目の前にいたコックの男に「どーしたんスか?」と問いかけると無視できない答えが返ってきた。

「シエスタの奴が貴族様を怒らせちまったんだ。 あのクネクネ野郎……シエスタを仕置きするって」
「一体どうして!?」
「あのキザったらしい貴族野郎がどうやら二股をかけていらしいんだ。 シエスタがあいつの落とし物を拾ってやったら、それが片っ方の女からの贈り物でな…… 」
更に話を聞くと、どうやら二股がバレて付き合っていた2人の女生徒を怒らせた事をシエスタのせいだと責めているらしい。

「逆恨みじゃないか!」
「その通りだ、貴族の野郎は魔法が使えるってだけで、平民には何をしても許されると思ってやがるんだ…」

状況を説明した男は悔しそうに歯ぎしりをしながら客席を見つめている。
誰もが助けられずに厨房の中から一部始終を見守っている。
八雲は居ても立ってもいられず、その人集りをかきわけて客席へとおどり出た。


金髪の貴族がその場にへたり込んでいるシエスタに罵声を浴びせ続ける。
傍らには彼の友人らしい生徒たちが平謝りするメイドをニヤニヤと眺めている。

「止めろっ!」

その声に驚き、シエスタを囲んでいた数人の男子生徒たちはコックコートの乱入者に視線を向ける。
すぐそばに今にも泣き出しそうなシエスタが八雲を見ていた。

「なんなのだね、君は? 見てのとおり僕は気配りのできないメイドを教育中だ」
「二股バレた腹いせにシエスタをいびろうってのがアンタの教育なのかよ?」
周囲から笑いが漏れる。
「そのとおり!、どう見てもギーシュが悪いww」
「な、なんだと!」


笑う仲間にも憤慨しつつも、ギーシュと呼ばれた男子生徒は開き直って言った。
「君は……たしかルイズに召喚された平民だったか? 君も貴族に対する礼儀がなっていないようだね。 人のモノに手を出すのは気が引ける、しかし、それ以上無礼を働くならば貴族の義務として君にも躾をしなければならないが」
「面白れぇ、シエスタの代わりに俺がお前の性根を叩き直してやるぜ」

「平民のくせに僕と戦おうというのか? 君はそのメイドをかばって僕と決闘をしようと?」
「ああ、そういう事だけど何か文句あるのか」
ギーシュが問いかける。
「君はこのメイドのなんなのだね?」
「シエスタは俺のダチんこだ! 俺の仲間が酷い目に合っているのを黙って見てる訳にはいかねえっっ!」

その剣幕に押されギーシュは少し後ろめたいものを感じたが、食い下がってその挑戦を受けた。
そもそも無抵抗のメイドに あたり散らすのは気持のいいものではなかった。 自分に否があるのは分かっていたし、こんな大事になるとも思ってはいなかった。
しかし周囲に囃したてられるうち引くに引けないところまで来てしまったのだ。
これ以上メイドを責め立てることはしたくない、けれど相手が目の前の生意気な平民であれば多少の格好はつく…… そう自分を納得させ、ギーシュは制裁の対象を八雲に変えたのだった。

「よかろう! では決闘だ。 ヴェストリの広場で待つ。」
そう言い残しギーシュは食堂を後にした──




ルイズがその騒ぎを聞いたのは、教室の片付けがやっと終わって少し遅めの昼食をとりに向っているまさにその時だった。

「うーっ……腹立っちゃったからって、ヤクモを追い出しちゃったのは失敗だったわね。 あのバカ……こんな肉体労働をご主人さま一人にやらせるなんて」
そんな恨み事を言いながら空腹のお腹を引きずっていると、食堂の方からよく知った嫌な顔がこちらへ向ってくるのが見えた。

「ねぇ、ルイズ」
フキゲンオーラをまき散らしながら、キュルケのかける言葉を無視して歩く。
「無視することないじゃない。 それよりアンタの使い魔が大変なことになっているっていうのに」
ルイズは頭が痛くなった。 空腹と疲労と頭痛にすぐにでも逃避したい衝動に駆られたが、聞かないわけにはいくまい。

「どういうことよ? あのバカ何をやったのよ」
「何でもギーシュと決闘するんですって。 平民のメイドをギーシュが苛めていたところに使い魔さんが怒鳴り込んで決闘騒ぎになったみたいよ」──



ルイズがアルヴィーズの食堂へ急ぐと、中から出てきたギーシュとちょうどすれ違った。
「ねぇ!ちょっとギーシュ」
ギーシュを捕まえて喰ってかかる。
「アンタ私の使い魔と決闘するって本当なの? そんなバカみたいなことやめなさいよ」

しかしギーシュは取り合わない。
「決闘をしかけてきたのは君の使い魔だ。 止めたいのならば君の使い魔にいいたまえ。 彼が土下座してあやまるのであれば考えよう」
そして最後に「主人たるもの使い魔には礼儀を教えたまえ」と言うと決闘の広場へと行ってしまった。

食堂に入ると、コックの格好をしたヤクモとアルヴィーズの食堂で働く平民たちが集まっていた。
「ちょっとアンタ! ギーシュと決闘するってどういうことよ」
「ちょっと成り行き上ね……」
バツが悪そうに軽口を叩く使い魔にルイズの怒りが沸点を越えた。
「何バカなこと言ってんの! アンタ殺されるわよ!」


「大体の理由は聞いたわ。 たしかにギーシュが悪いと思う。 けど平民は貴族に逆らってはいけないの! 平民は貴族には勝てないのよ!」
これには集まっていた平民たちも同意する。
決闘の火種となったメイドも泣きながら懇願する。
「おねがいです! どうかミス・ヴァリエールの言う通りにしてください。 貴族様に逆らったら殺されてしまいます」

「けどさ……」
「『けど』じゃない! そのメイドにはかわいそうだとは思うけど、何もアンタが決闘すること無いじゃない。 同じ平民だからって!」
「違う」

投げかけた言葉をヤクモが否定する。
「シエスタは俺のダチんこだ。 貴族だか何だか知らねぇけど、あいつは俺の仲間に平気で手を出しやがった。 ここで謝ったら、彼女たちはこの先もアイツらの好き放題を我慢しなくちゃいけない」
「それが普通なのよ! 貴族と平民というのはそういうものだわ」
ルイズは続ける

「命令よ! 今すぐギーシュに謝ってこんな決闘は止めなさい」
「使い魔の癖に! ダチんこだか何だか知らないけど、平民のメイドの為には戦って私の命令は聞けないっていうの!」
そう叫んでヤクモを睨みつけたルイズは息を呑んだ。

まとっている雰囲気がいつもとまるで違う……
怖くなるほど真っ直ぐにルイズを見つめながら使い魔は言った
「悪い、ルイズ…… 俺はその命令は聞けない」
空気に飲まれてしまい言い返すことができない。
「それに大丈夫さ、俺は死なないから」

そう言ってヴェストリの広場へ向う使い魔をルイズは黙って見ていた。
この時ルイズはまだ彼の言葉の意味を理解してはいなかった──



「決闘だ! 決闘だ! ギーシュとルイズの使い魔の平民が決闘するぞ!」
ヴェストリの広場は騒ぎを聞きつけた生徒たちで溢れており、その中心でギーシュが決闘相手の到着を待ち構えていた。
ヤクモを止められなかったルイズは少し離れた所から心配そうに広場を見ている。


そこへ調理人の姿をした糸目の男が現れる。
待ち構えていた生贄の登場に広場は色めき立った。

「逃げずに来た事は褒めてやろう……」
ギーシュが口を開く。
「僕の名はギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。 二つ名は『青銅の』ギーシュだ」
「ルイズが使い魔、藤井八雲だ」

「勝負は杖を落とさせるか、『参った』と言わせた方が勝ちだ。 異存はなかろうね」
「ああ」
「では始めようか──」


……学院長室にて……
ちょうどそのころ、本塔の最上階にある部屋ではコルベールがひどく興奮した様子で並びたてた本とスケッチについて説明していた。
「オールド・オスマンこの資料です。 始祖が従えていたという伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』のルーン、そしてミス・ヴァリエールが召喚した少年の右手に現れたルーン、この2つは同一のモノです」
「なるほど……つまり君の結論は、その少年が伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』だと」
「はい、間違いはありません。 これは一大事ですぞオールド・オスマン!」
「して、その少年は本当にただの平民だったのか?」
「それが……」コルベールは言葉につまる。 が、すぐ意を決したように驚くべき考えを述べ始めた。

「念のため『ディテクト・マジック』をかけてみたところ、彼はどうやら人間ではありません」
「なんじゃと!」
「それどころか生物ですらない可能性があります」
「それはゴーレムのようなものか?」
「いえ、上手く説明できないのですが、彼は一個人として生まれ持った自我と心を持っています。 決してメイジが作り出したゴーレムではありません。 しかし彼からは命が全く感じられないのです、まるで死人のような……」
「うむむ……」
百歳とも三百歳とも噂される学院の長、オスマン氏はコルベールの説明を受けて低く唸った。



その時、メガネをかけた20代半ばの女性があわただしく部屋に駆け込んできた。
「ヴェストリの広場で決闘を行っている生徒がいるようです。 止めに入ろうにも生徒たちが邪魔をしているみたいで」
「暇を持て余した貴族ほど性質の悪いものはないわい……して、どこの誰が暴れておるのだ?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン、もう一人はミス・ヴァリエールの呼び出した使い魔の少年です。 教師たちが『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが」
その名前を聞いて、オスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「バカモン、たかだか子供の喧嘩を止めるために秘宝をつかってどうする。 そんなもの放っておきなさい」

そう言って女性を部屋から追い出すと、オスマン氏は壁にかかった大鏡に向かって杖を振る。
その壁にはヴェストリ広場の様子が映し出されていた。

……決闘場へ……

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う、したがって君の相手は……」
ギーシュが薔薇の花を振った。ひとひらの花弁が宙を舞う
「このワルキューレがするよ!」


完全に虚を突かれた、突如現れた青銅の女戦士の左腕が腹部にめり込まれる。

「かはっ…… !」言葉にならない声が漏れた。

間を置かず追撃の右が顔面を襲う。 咄嗟に右腕でガードするが高スピードで繰り出された重金属の一撃は腕をあらぬ方向にへし曲げ、踏み止まろうとする八雲を5メイルほど後退させた。
遠巻きに見ていたルイズがその光景に思わず目を塞ぐ。

「なんだよ、もう終わりかい? 僕のワルキューレがもっとお相手をして欲しいと言っているのに」
渾身の攻撃を当て勝負が決したと思ったのか、
ギーシュは“戦意を喪失したはずの敵”にわざとらしく挑発をしている。 だが……


「悪いケド、木偶人形で遊ぶ趣味は無いんでね 」
ギーシュの笑みが消えた。

──青銅の戦乙女が襲いかかる。 
が、…… 一、二、三撃、ワルキューレの猛攻を甲、掌、外腕で的確に弾く。
確かにスピードは速い、だが動きは粗末なものだ。 負ける理由が見当たらない。

大振りの左を右掌で流すと、その場で反回転しワルキューレの顔面に後ろ回し蹴りを浴びせる。 流石に青銅製のゴーレムを生身の蹴りで粉砕することは難しいが、頭部の重心を襲った衝撃にワルキューレは転倒せざるをえない。 
倒れた人形が起き上がるのを待たずに、八雲はギーシュに向かい走った。

迫りくる敵にギーシュは慌てて薔薇の杖を振る。
花弁は舞い、武器を手にした6体のゴーレムが八雲の道を阻むかのように出現する。

正面2体のワルキューレが八雲の突進を阻むと、残りの4体は左右から側方後方に廻り込み、そのまま隙間なく包囲した──  だからであろう、それを見たのが遠見の鏡にて決闘を覗いていたオスマン氏とコル・ベールだけだったのは……


ギーシュが「今度こそ!」と勝利を確信した時だった。 
正面を守るワルキューレに三筋の斬撃が走り人形は崩れ落ちる。 
何が起きたかを理解する前に、ギーシュは足を払われ仰向けに打ち据えられた。 
そして片膝姿勢になったヤクモに、左足で杖を持つ右手を、右掌で顔を抑えられ、地面に貼り付けにされていた。

「ま、参った 」

「平民が、平民が勝ったぞ!」
「ルイズの使い魔が……ギーシュに勝った」
「それも圧倒的じゃないか!」
辺り一面に驚嘆の声があがり、ヴェストリの広場は予想外の結末に大騒ぎとなった。

八雲は余りの騒ぎに驚き落ち着かない様子で「ども、ども」などと愛想笑いをしながら、そそくさとどこかへ逃げて行く。


それを見つけたルイズが追いかけていく。
「ヤクモ!大丈夫?」
「ああ、おかげさまで」
使い魔は見慣れた顔を確認すると、いつものさえない笑顔で笑った。

「あなた強いじゃない! 嘘つきの困った平民だと疑ってたけど少しだけ信じてあげるわ」
「え、ひっでーなぁ、俺そんな風に思われてたのかよ」
そう言って拗ねるヤクモにルイズが心配そうに言葉をかけた。
「ヤクモ怪我は? すぐに『治癒』の魔法をかけなきゃ」 ……しかし

ルイズは目を疑った。 目の前の使い魔はまるで無傷であった。 
コック服の腹部と腕の部分は破れて血がついているのにも関わらず、ヤクモの身体は傷一つ無いのだ。
「う、うそ」
「打ちどころが良かったみたい」
ヤクモはそういって誤魔化している。 目を細くして「アハハ」と笑っている。

しかしルイズに生まれた不審は消えなかった。
そう、確かに見たのだ。 ヤクモの腕があらぬ方へと曲がるのを──


……塔の最上階……
そんな騒ぎとは遠い所、学院長室で一部始終を見ていたオスマン氏とコルベールは顔を見合わせた。
「オールド・オスマン見ましたか?」
「うむ」
「ギーシュのゴーレムに囲まれた瞬間、彼の手から一瞬何かが現われ」
「うむ」
「その大きな爪が……」
「うむむむ」
「やはり彼は『ヴィンダールヴ』なのでしょうか」
「まだ何とも言えん。 しかし、このことはくれぐれも内密にするのじゃ、王室の暇な貴族たちに知られでもしたら戦争の玩具にされかねんからな……」
コルベールにそう念を押すとオスマン氏は思慮に耽った。

「『ヴィンダールヴ』……いかなる魔獣も手足のごとく使役したというが」


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