想定外の言葉にぼくは逡巡した。
「間違いない。あんた紐緒閣下の右腕、主人 公だろ? 光栄だよ、まさか、こんな場所で会えるだなんて」
サイトと名乗った青年の瞳は、クリスマスプレゼントを前にした子供のように輝いていた。
なるほど。どうやら彼は錯乱しているようだ。
紐緒さんはきらめき高校内においてその名を轟かせていたので、同じきら校生であるサイトが彼女を知っていても何の不思議も無い。だけど、彼女に閣下などという敬称をつける神経は理解しがたい。
あの人はそんなに崇高な人でもなかったし、どちらかといえば、かなり性質の悪い問題児だった。
近年、学級崩壊という単語をよく耳にするけど、実際に学級を崩壊させた、――得体の知れない研究によって校舎を半壊させるなどという暴挙を繰り広げた人は、
たぶん彼女くらいだと思うし、彼女の作り出した世界征服ロボが暴走した時なんかは、危うく日本列島の形が変わりかけた程だ。
「サイト……、確かにぼくはよく彼女の奇妙な実験に付きあわされていたし、彼女の不始末のフォローもしてきた。だけど、ぼくは彼女の右腕になった覚えは無いし、これからもなるつもりはないよ」
サイトは笑いながら、僕の右肩を肘でつついた。
「何言ってるんだよ、あの人の隣にいられるなんて光栄なことじゃないか。あんた達みたいな卒業生がいると、俺も鼻が高くなるよ」
「卒業生……? ぼくは今もきら校に在籍してるよ。二年B組、美術部所属だ」
サイトは口元に手を寄せて、小さく笑った。
「あんたみたいな英雄も冗談を言うんだな。確か1997年卒業だろ?」
ここにきて鈍いぼくにも感づくものがあった。
「サイト、きみはいつの時代から来た?」
「はぁ?」
「きみは西暦何年から、ここに来た?」
「2005年だけど、それがどうかしたか?」
「きみの世界でぼくは何歳だった?」
「なんださっきから、意味あるのか、その質問?」
「いいから、答えろよ。ぼくは何歳だった?」
「紐緒閣下と同い年なんだから26だろ?」
「なあ、サイト。ぼくが26歳に見えるか?」
サイトは改めてぼくの顔を見つめた。
「写真やテレビで見るより、若く見えるな、あんた」
「違うよ、ぼくは西暦1995年からこっちの世界に呼び出された。つまり、きみのいた世界からすれば10年前の日本からきたんだよ」
「間違いない。あんた紐緒閣下の右腕、主人 公だろ? 光栄だよ、まさか、こんな場所で会えるだなんて」
サイトと名乗った青年の瞳は、クリスマスプレゼントを前にした子供のように輝いていた。
なるほど。どうやら彼は錯乱しているようだ。
紐緒さんはきらめき高校内においてその名を轟かせていたので、同じきら校生であるサイトが彼女を知っていても何の不思議も無い。だけど、彼女に閣下などという敬称をつける神経は理解しがたい。
あの人はそんなに崇高な人でもなかったし、どちらかといえば、かなり性質の悪い問題児だった。
近年、学級崩壊という単語をよく耳にするけど、実際に学級を崩壊させた、――得体の知れない研究によって校舎を半壊させるなどという暴挙を繰り広げた人は、
たぶん彼女くらいだと思うし、彼女の作り出した世界征服ロボが暴走した時なんかは、危うく日本列島の形が変わりかけた程だ。
「サイト……、確かにぼくはよく彼女の奇妙な実験に付きあわされていたし、彼女の不始末のフォローもしてきた。だけど、ぼくは彼女の右腕になった覚えは無いし、これからもなるつもりはないよ」
サイトは笑いながら、僕の右肩を肘でつついた。
「何言ってるんだよ、あの人の隣にいられるなんて光栄なことじゃないか。あんた達みたいな卒業生がいると、俺も鼻が高くなるよ」
「卒業生……? ぼくは今もきら校に在籍してるよ。二年B組、美術部所属だ」
サイトは口元に手を寄せて、小さく笑った。
「あんたみたいな英雄も冗談を言うんだな。確か1997年卒業だろ?」
ここにきて鈍いぼくにも感づくものがあった。
「サイト、きみはいつの時代から来た?」
「はぁ?」
「きみは西暦何年から、ここに来た?」
「2005年だけど、それがどうかしたか?」
「きみの世界でぼくは何歳だった?」
「なんださっきから、意味あるのか、その質問?」
「いいから、答えろよ。ぼくは何歳だった?」
「紐緒閣下と同い年なんだから26だろ?」
「なあ、サイト。ぼくが26歳に見えるか?」
サイトは改めてぼくの顔を見つめた。
「写真やテレビで見るより、若く見えるな、あんた」
「違うよ、ぼくは西暦1995年からこっちの世界に呼び出された。つまり、きみのいた世界からすれば10年前の日本からきたんだよ」
「……冗談だろ?」
「この世界にきてからというもの、冗談みたいなことばかりにつき合わされているよ。今だってそうだろう?」
サイトは可笑しそうに笑った。
「違いない、あんたの言うとおりだよ」
先ほどのサイトの言葉にしたって冗談にしか聞こえない。紐緒閣下の右腕、主人 公。地球に戻ったあとのぼくは一体なにをとち狂っているのだろうか。ああいう危険な人とはさっさと縁を切るべきだろうに。命がいくつあっても足りない。
それに苗字が変わっているのも気がかりだ。主人 公? いったい何の物語の主人公だというのだ。名前で笑いを取る必要などどこにもないだろう。
あほか、ぼくは。
「で、あれ、どうする?」
サイトは風防越しに、眼下で暴れ回る世界征服ロボを指差した。
「ステルスモードさえなんとかなれば……、精霊の三原色で一気にかたをつけられるんだけど」
「ステルスモード?」
「あれは、光の精霊のマナを感知すると、自動的にステルスモードに切り替わるんだ」
「ああ、あんたの究極部活奥義ね。俺の時代では有名だよ。核兵器すら通用しなかったアンゴルモアの大王を退けた、まさに奇跡の力だ」
今度はアンゴルモアの大王ときたか。ここまでくると、もう、未来のぼくがなにをしていても驚くことはないと思う。
「ようするに光学迷彩をなんとかすればいいんだな?」
サイトは自信ありげな笑みを浮かべた。
「できるのか?」
「特別に見せてやるよ、俺の部活奥義を。俺は電脳部に所属していたんだ。悪いけど操縦を頼むよ」
サイトはそう言って、ゼロ戦の風防をあける。強い向かいか風に立ち向かうように腰を上げ、両手を天にかざした。
「日本中の電磁波よ! 俺に力をくれ!!」
電磁波というよりも、電波的な言葉を叫んだサイトにぼくは寒い視線を送った。やっぱり、錯乱しているだけなのではなかろうか。
と、思ったのもつかの間。
サイトの翳す両手の上に巨大な光の球体が浮かび上がり、ぼくが呆然とその光景を見守っていると、球体は加速的に巨大化していった。
「くらえ! 超電磁波動拳!!」
スウィングされたサイトの右腕の動きに呼応し、光りの球体は世界征服ロボット目掛けて飛んでいった。
「この世界にきてからというもの、冗談みたいなことばかりにつき合わされているよ。今だってそうだろう?」
サイトは可笑しそうに笑った。
「違いない、あんたの言うとおりだよ」
先ほどのサイトの言葉にしたって冗談にしか聞こえない。紐緒閣下の右腕、主人 公。地球に戻ったあとのぼくは一体なにをとち狂っているのだろうか。ああいう危険な人とはさっさと縁を切るべきだろうに。命がいくつあっても足りない。
それに苗字が変わっているのも気がかりだ。主人 公? いったい何の物語の主人公だというのだ。名前で笑いを取る必要などどこにもないだろう。
あほか、ぼくは。
「で、あれ、どうする?」
サイトは風防越しに、眼下で暴れ回る世界征服ロボを指差した。
「ステルスモードさえなんとかなれば……、精霊の三原色で一気にかたをつけられるんだけど」
「ステルスモード?」
「あれは、光の精霊のマナを感知すると、自動的にステルスモードに切り替わるんだ」
「ああ、あんたの究極部活奥義ね。俺の時代では有名だよ。核兵器すら通用しなかったアンゴルモアの大王を退けた、まさに奇跡の力だ」
今度はアンゴルモアの大王ときたか。ここまでくると、もう、未来のぼくがなにをしていても驚くことはないと思う。
「ようするに光学迷彩をなんとかすればいいんだな?」
サイトは自信ありげな笑みを浮かべた。
「できるのか?」
「特別に見せてやるよ、俺の部活奥義を。俺は電脳部に所属していたんだ。悪いけど操縦を頼むよ」
サイトはそう言って、ゼロ戦の風防をあける。強い向かいか風に立ち向かうように腰を上げ、両手を天にかざした。
「日本中の電磁波よ! 俺に力をくれ!!」
電磁波というよりも、電波的な言葉を叫んだサイトにぼくは寒い視線を送った。やっぱり、錯乱しているだけなのではなかろうか。
と、思ったのもつかの間。
サイトの翳す両手の上に巨大な光の球体が浮かび上がり、ぼくが呆然とその光景を見守っていると、球体は加速的に巨大化していった。
「くらえ! 超電磁波動拳!!」
スウィングされたサイトの右腕の動きに呼応し、光りの球体は世界征服ロボット目掛けて飛んでいった。
新たな脅威が接近してくるのを感知したのであろう、世界征服ロボは即座に回避行動を取る。
「逃げたって無駄だ」
サイトの言葉通り、球体は世界征服ロボの動きを的確に捉え、そして着弾した。
付近が白い光線に染まったかと思うと、鼓膜が破れそうになるほどの爆音が轟き、最後には暴風が襲ってきた。ぼくははためく前髪を押さえつつ、事の成り行きを見守っていた。
「さあ、精霊の三原色を。強烈な電磁波によって、高熱をもった世界征服ロボには光学迷彩を使えないはずだ。紐緒閣下が作った光学迷彩唯一の欠点が放熱効率の悪化なんだよ。
あれは特殊な粒子によるシールドを周囲に張って、可視光線を歪曲させているんだ。そのシールドは熱を通さない。だから、放熱もできない。だから、ある程度の熱を持ってしまうと放熱のために、自動的にステルスモードがオフになるんだ。今なら奴を消せる」
ぼくはサイトの言葉を半分も理解していなかった。ぼくは文系だったし、右脳タイプの人間だから仕方ない。
だから、素直にサイトの言葉に従った。
そして、彼の言うとおり世界征服ロボは消え去った。
後に残るのは、腰を抜かした、威厳のかけらも感じられない哀れな老人だった。
「ゆ、許してくれ。命だけは……」
「クロムウェル……、あなたはやりすぎたよ。光の精霊であなたの魂を浄化しよう。次の命が紡がれるのをそっと待つといい」
「や、やめ……」
そして、後には何も残らなかった。
「逃げたって無駄だ」
サイトの言葉通り、球体は世界征服ロボの動きを的確に捉え、そして着弾した。
付近が白い光線に染まったかと思うと、鼓膜が破れそうになるほどの爆音が轟き、最後には暴風が襲ってきた。ぼくははためく前髪を押さえつつ、事の成り行きを見守っていた。
「さあ、精霊の三原色を。強烈な電磁波によって、高熱をもった世界征服ロボには光学迷彩を使えないはずだ。紐緒閣下が作った光学迷彩唯一の欠点が放熱効率の悪化なんだよ。
あれは特殊な粒子によるシールドを周囲に張って、可視光線を歪曲させているんだ。そのシールドは熱を通さない。だから、放熱もできない。だから、ある程度の熱を持ってしまうと放熱のために、自動的にステルスモードがオフになるんだ。今なら奴を消せる」
ぼくはサイトの言葉を半分も理解していなかった。ぼくは文系だったし、右脳タイプの人間だから仕方ない。
だから、素直にサイトの言葉に従った。
そして、彼の言うとおり世界征服ロボは消え去った。
後に残るのは、腰を抜かした、威厳のかけらも感じられない哀れな老人だった。
「ゆ、許してくれ。命だけは……」
「クロムウェル……、あなたはやりすぎたよ。光の精霊であなたの魂を浄化しよう。次の命が紡がれるのをそっと待つといい」
「や、やめ……」
そして、後には何も残らなかった。
戦争は幕を閉じる。
それから、一ヵ月後。サイトの送迎会がトリステイン学院内で華々しく執り行われた。
とりあえず、彼は送還魔法で地球に戻れることになった。なんか、いつの間にか送還の仕方が発覚していたらしい。ぼくも一緒に戻りたかったのだけど、一度に送還できるのは『二人まで』とういうことなので、諦めた。
送還魔法の発動には月の周期なんかも絡んでくるらしくて、ぼくがいつ戻れることになるかは結局わからずじまいだ。
だけど、二人の幸せそうな笑顔を見れば、そんな悩みも吹き飛ぶってものである。
とりあえず、彼は送還魔法で地球に戻れることになった。なんか、いつの間にか送還の仕方が発覚していたらしい。ぼくも一緒に戻りたかったのだけど、一度に送還できるのは『二人まで』とういうことなので、諦めた。
送還魔法の発動には月の周期なんかも絡んでくるらしくて、ぼくがいつ戻れることになるかは結局わからずじまいだ。
だけど、二人の幸せそうな笑顔を見れば、そんな悩みも吹き飛ぶってものである。
十年後、また会おう、サイト。シエスタとお幸せに。