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白き使い魔への子守唄 第19話 滅びゆくもの

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タルブの村の地理なら把握している。
トリステイン軍の規模、レコン・キスタ軍の規模の情報も得られる。
戦術を練る事はできるが、ハクオロはトリステイン軍を動かす力を持たない。
――持っている事に気づいていない。
彼は無力な使い魔にすぎなかったが、だからといってタルブの村を捨て置けない。
なぜなら、学院長室にハクオロを呼んでくれたオールド・オスマンが、
暗澹たる表情で話したその情報から考えれば、
あのウェールズ皇太子がトリステイン軍を指揮しようと、勝機は皆無に等しかった。
また、ハクオロも戦術を考えはしたが、すでに事が始まった今、成すすべがない。
――タルブの村が乱に巻き込まれかねない危険は承知していたはずなのに。
だからこそよりいっそう、ハクオロはタルブの村に行きたいと願った。
しかしオールド・オスマンは首を横に振る。
「恩人の同郷の者を、むざむざ死地に赴かせたくはないのでは」
「その恩人の同郷の者が、シエスタがタルブの村にいるんです」
「仮に天照らすもの……クスカミの腕輪を持って行ったとしても、
 軍が相手では数という絶対的な力の差に押し潰されるだけじゃ。
 どんな稀代の名称でも、今からタルブの村を救うなど不可能。
 最終的に戦争に勝利する、いずれタルブを取り返す、とうならまだしもな。
 タルブが占領下に置かれたからといって、民すべてが殺される訳ではない。
 捕虜となり下働きをさせられる事で生き残る者もいるじゃろう。
 シエスタがそうなる事を祈るしかあるまい。
 そうなれば、機を見てシエスタを救い出す事も可能だろうて」
「しかし」
ハクオロは自らの拳をきつくきつく握りしめる。
「シエスタと約束したんです」
――ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね。
――ああ、絶対に助けに行くよ。
「だから、自分は……!」
約束と、かつて失ったヤマユラの里を思い出して。


   第19話 滅びゆくもの


人気のない場所を探して、気がつくとハクオロは、いつぞやギーシュと決闘をした広場にいた。
陽射しはあたたかく、小鳥がさえずり、風は心地よい。
しかし鬱屈とした気分は少しも晴れない。
壁の前に座り込み、ぼんやりと地面を眺める。
「シエスタ……」
いくら考えても、タルブの村を救う方法が考えつかない。
仮に考えついたとして、その考えを通せる権力もない。
ルイズの使い魔としてすごしてきた日々が無為だったなどと思わない、しかし、
タルブの村を救うための力を得るために何かを積み重ねる事はできなかっただろうか。

人の上に立ちたかった訳ではない。
人の上に立たなければならなかった。
次第に自分の下に集まる人間が増えていった。
果ては皇となり國まで支える事になった。

権力を望んだ訳ではない。
家族である彼女達と、ただ平穏に暮らしたかっただけだった。

けれど、もしハクオロが今、皇のような力を持っていたら、
タルブの村を救えたかもしれないのに。

戦乱を望む訳ではない。しかし戦乱を収めるためには、戦乱に身を投じねばならぬ過酷な現実。
数多の戦場から傷を負わずに帰還するような一騎当千の力もなければ、
一声で幾千幾万の兵を動かすだけの権力もない。

「タルブの村?」
ハッと顔を上げると、ルイズがいた。
「やっぱりそうなのね。あのメイドが気になるんでしょ」
「ルイズ、なぜ……」
「シエスタのお母さんのお話、夢の中から覗き見してたから。
 戦争になって、あんたがほっとける訳ないじゃない。だから助けに行きましょう」
「しかし、どうやって」
「忘れたの? 何でかは解らないけれど、私はもう、魔法が使えるのよ」
そう言って杖を握って見せ、ルイズは微笑んだ。
「ハクオロ。あの幻を見せる魔法……イリュージョンがあれば、何ができるかしら」
「イリュージョン……そうか、あれなら、大軍の幻を見せる事もできるし、
 タルブの人々が村に残っているように見せ、その隙に逃がす事も可能だ。
 いくらでもやりようはある」
湧き上がる希望に、ハクオロは立ち上がった。クスリとルイズが笑う。


「じゃあ、決まりね」
「しかしいいのか? タルブの村はすでに戦場となっているかもしれん」
「いいわ。私は確かめたいの、私が何者なのか、ハクオロが何者なのか。
 私達は何を間違ってしまったのかを……。
 その答えは……戦場にある気がする。
 あの時、アルビオンで、私は答えを見ていたはずだから」
「教会で何があったのかを思い出したのか?」
「思い出した訳じゃない。ぼんやりと、夢のように不確かなものだけど。
 でもほんのわずかな手がかりがあるのなら、私はそれに賭けてみたい。
 ……動機が不純ね。自分勝手な理由で戦場に行きたがってる。
 ハクオロはシエスタやタルブの村を救うために行きたいと思っているのに」
「……ルイズ、だが……」
「行こう、ハクオロ」
ルイズはハクオロの手を取って引っ張り起こすと、力強い笑みを見せた。
だがハクオロの表情は冴えないままだ。
「ルイズ、君の気持ちは解った。しかしだな」
「そんな顔しないでよ。せっかくやる気になってるんだから」
「そうじゃなくて」
「何よ」
「どうやってタルブの村まで行くんだ?」
風が吹いた。冷たい風が。
笑顔のままルイズは凍りついている。
あれだけ格好よく言ってのけておいて、肝心なところが抜けていた。
考えてませんでしたなんて言えない。
風が再び吹く。今度はちょっと強い風だ。
桃色の風がなびいて、不自然な強風を見上げる。シルフィードがいた。
そしてもちろん、その背中にはタバサが騎乗している。
「タバサ、まさか」
「貴方が望むなら」
それ以上、言葉はいらなかった。

トリステイン魔法学院から一頭の風竜が飛び立つ。
タルブの村という戦場へ向けて。


陣を敷くため、タルブの村を蹂躙するレコン・キスタの軍勢。
村を護るための領主の兵はすでに壊滅し、また逃げ遅れた村人も骸となっていた。
生き残ったのは、森に逃げ込んだ村人だけ。
その中にシエスタ親子の姿もあった。
「お父さん……畑が、ハクオロさんのおかげで実った畑が……」
「……収穫までまだ時間がかかる畑なんか、奴等にとっちゃただの地面と同じだ。
 踏み荒らした畑の上にあぐらをかいて、また戦場にしちまうんだろうよ」
故郷を失う悲しみ。
それと同じくらい、ハクオロが一生懸命豊かにしようと手伝ってくれた土地を失うのが悲しい。

――ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね。

今がその時だ。

――ああ、絶対に助けに行くよ。

きっとハクオロが助けに来てくれるとシエスタは信じている。
いつ助けに来てくれるのかは、解らない。
もしかしたら以前タルブの村に来た時のように、ミス・タバサの使い魔の風竜に乗って、
今まさにここへ到着しようとしているのかもしれない。

でも、そんな不確かな希望を悠長に待っている暇はなかった。
タルブの村に降り立ったレコン・キスタの兵達はすでに何隻かの船を着陸させ、
戦線の拠点とすべく畑を踏み荒らしている最中だ。
それがシエスタには許せなかった。
だから。

落胆して木陰にうずくまる父に気づかれぬよう、ひっそりと、シエスタは姿を消した。
森の奥へ。母の形見の元へ向かって。

帰ってきて早々の出来事だったため、アヴ・カムゥはまだ移動させていない。
まだ何隻かの船を空中に浮かべるレコン・キスタに発見されるのは時間の問題だった。
だったらいっそという思いを込めながら、シエスタはアヴ・カムゥの背中に登る。
大きな球のようなものに吸い込まれるようにして入り、
中身を満たす赤い液体の流動を感じながらシエスタは目を開く。
森の向こうに、故郷が見えた。


フーケは陰鬱な気持ちだった。
報酬のためとはいえ、戦争に手を貸すなど、土くれと恐れられた自分のする事ではない。
しかし素性を調べ上げられ、今はもう戦死してしまったワルドに脅迫まがいの真似をされ、
レコン・キスタという組織に身を投じてしまった今では、出奔するリスクも大きい。
内情をかなり知ってしまった自分を、レコン・キスタは逃がさないだろう。
だからもう割り切って報酬のために戦争をしようと決めたのだけれど、
心というものは割り切れないものだと感じ入っていた。
そんなフーケに出撃命令が下る。
自分が出る間でもなくこの地方に配備されていた敵軍は排除したはずだ。
トリステインの本隊が駆けつけたのであれば、さすがはウェールズと褒めるべきか。
しかし敵は単騎。
トライアングルかスクウェアクラスと思われる、鋼鉄のゴーレムが現れたと言う。
そんなの砲撃で潰してしまえばいいと進言したが、
すでにタルブの村には多数の兵が上陸しており、巻き添えにしてしまう。
やれやれと呟きながら、フーケは甲板に出ると、タルブの村を見下ろした。
なるほど、鋼鉄の鎧を持つ巨大ゴーレムが、
着陸していた船に巨大な剣を食い込ませていた。あれは一筋縄ではいくまい。
レビテーションの魔法を使って甲板から飛び降りたフーケは、
降り立った畑の土の質のよさににんまりと微笑んだ。
これほど上質な土なら、いつも以上に上等なゴーレムを作り上げられる。
目算通り、強度も再生能力も高いゴーレムを作ったフーケは、
その肩に乗り鋼鉄のゴーレム――アヴ・カムゥへと迫る。

村を護るためとはいえ、侵略者とはいえ、人殺しはしたくない。
戦場に無用な情けから、シエスタは敵艦を壊す程度の事しかせず、
その時に不幸にも巻き添えを受け負傷した人を見ては心を痛めていた。
船をひとつ潰したシエスタは、次の船に向かって歩き出す。
畑を踏み潰さないよう、敵兵を踏み潰さないよう、
注意を払って歩いていると、背後から足音が迫ってきた。
振り向くと、アブ・カムゥほどもある土くれのゴーレムが拳を振り上げていた。
「キャッ……!」
慌てたシエスタは振り向き様に剣を払うが、剣の腹に握り拳が振り下ろされる。
軌道をそらされた巨刃はゴーレムの足元に深々とめり込む。
次いで、ゴーレムのもう片方の手がアヴ・カムゥの顔面に打ち込まれた。


「キャウッ!」
尻餅をついたアヴ・カムゥから少女の悲鳴が漏れ、フーケは眉根を寄せる。
どうやら自分同様ゴーレムに乗って戦っているらしいが、
それにしてはどこにいるのかが解らない。
視界を確保するためには、メイジ本人が顔を出さねばならないはず。
鎧の隙間にでも隠れているのか。
しかしそれでは、衝撃を受けた時に鎧に叩きつけられてしまい、ろくに戦えまい。
殴った手応えから、フーケはアヴ・カムゥはスクウェアクラスのゴーレムと判断した。
これほどの硬度、並のメイジにできる事じゃない。
土ではなく鉄からゴーレムを作ったのだとしてもだ。
だがアヴ・カムゥの動きは素人同然だった。
「あんたが何者かは知らないが、命が惜しかったらそのゴーレムを解除しな」
「こ、この村から……出てってください!」
立ち上がったアヴ・カムゥの頭部を土くれのゴーレムの肩に向け、
そこに乗るローブをまとった女――フーケを認めた。
もちろんシエスタはフーケの名前を知っていたが、
ハクオロ達が捕まえたけど逃げられたと聞いた程度で、
実際のその姿を見た事はなかった。
だからゴーレムに乗る女がフーケだだとは少しばかりも思わない。
「ミス・ロングビル……?」
そしてシエスタは、オールド・オスマンの秘書を最近辞めた女性の顔は覚えていた。

名前を呼ばれてフーケは思考をめぐらす。
わざわざロングビルの偽名の方を呼ぶとは、学院関係者か。
それもロングビルがフーケだという事を聞かされていない程度の。
心当たりがまったくなかった。
学院の生徒ならフーケとロングビルの事情を知らない奴もいるだろう。
だがこれほどのゴーレムを操るとなればスクウェアクラスの実力が必要。
学院の教師達にも間違いなく無理。
オールド・オスマンならもしかしたら、とも思うが、聞こえてきた声は少女。
不気味だとフーケは思った。
得たいが知れない。
天照らすものに舐めさせられた苦汁の味を思い出す。
だから。
「死にたくなかったら、ゴーレムを解除して逃げ出すこったね。
 得たいの知れない鉄くれはッ! 徹底的にぶち壊させてもらうよ!」
土くれの拳とアヴ・カムゥの拳とが正面から激突し大地を揺るがした。
壊れた拳を引きながら、反対の拳をアヴ・カムゥの胸元に返す。
激しく揺れるアヴ・カムゥの中でシエスタはあえいだ。

――ハクオロさん――

――危ない時には――

――絶対助けにきてくださいね――

――ハクオロさん――


これは何だろうとフーケは首を傾げた。
やはりただのゴーレムではない。鋼鉄の他に、いったいどんな材料を使ったのか。
殴っても殴ってもへこみもしない鎧に業を煮やしたフーケは、
アヴ・カムゥの使っていた巨剣を持ち上げ、
うつ伏せに倒れるアヴ・カムゥの背中に深々と突き刺した。
すると、まるで人間を刺し殺したかのように赤い液体が噴出した。
血ではない。
この液体は何だ。ゴーレムを動かすための特殊なポーションのようなものだろうか。

まるで鮮血を浴びてしまったような気がして、フーケは顔をしかめる。
そして、遠くから悲鳴が聞こえた気がして、その方向、空を見た。
飛翔する蒼い翼と、


先手を打たれてしまった。すでにラ・ロシェールが落とされた今、
このままタルブの村まで取られては、トリステインの勝ち目は皆無に等しい。
今、ここで、食い止めねば。
強力な空軍戦力を持つアルビオンの元皇太子は、
レコン・キスタと空中でも戦えるようトリステイン空軍の戦力を再編成していた。
戦艦を引き連れ、竜騎士隊やグリフォン隊は接近を気づかれぬよう迂回させ、
ここタルブの村についてみれば、地上に降りた敵船はすべて破壊されており、
それを成したであろう鋼鉄のゴーレムは、土のゴーレムにより葬られていた。
奇襲でゴーレムの主を倒し、地上にいるレコン・キスタ兵を捕縛すれば盾となるだろう。
だがそれを見捨てて空中に残った艦が砲撃してくる可能性もある。
先に空中艦を叩くべきか。竜騎士隊とグリフォン隊がタルブの村に到着するまであと少し。

だが、気配を感じて空を見れば、一騎の竜騎士が隊から離れて飛んでいた。
目を凝らすが、竜騎士隊にしては妙だ、目印をつけていない。では、あれは?
飛翔する蒼い翼と、


シルフィードの上で、ハクオロは震えていた。
身を切る風の寒さのせいではない。
返り血を浴びた土くれのゴーレムの足元に、
墓標のように剣を突き立てられたアヴ・カムゥの姿を確認した。

剣は、シエスタがいるであろう場所を貫いている。

――ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね。
「あ、ああ……」
嗚咽が、
――ああ、絶対に助けに行くよ。
「アアァッ……」
絶叫に。

「アアアアァァァァァァァッ!!」

その時、フーケやウェールズのみならず、ただならぬ気配を感じて、
トリステイン軍も、レコン・キスタも、貴族も、平民も、すべて者が空を見上げた。
飛翔する蒼い翼と、憎悪を内包する黒い闇の流出。


薄れゆく意識の中、赤く染まった視界の中、悲しみと絶望の中、シエスタは見た。
天空から大地へと降り立つ黒い霧。
それは質量を持っているかの如く、着地の衝撃で大地を揺るがした。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」
人ならざる獣の咆哮に、シエスタは理由も解らず安堵する。

「約束……守って、くれ……た……」

力弱きシャクコポルの血は、異世界ハルケギニアの地にあっても、
滅びゆく宿命だったのだ。
しかし。
暗黒の中で開く禍々しき双眸に、哀と憎が入り混じる。
それがハクオロだと、なぜかシエスタには解ってしまって、
死に顔の唇は微笑みの形を作っていた。




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