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白き使い魔への子守唄 第18話 忌まわしき契約

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ラ・ロシェールでキュルケとギーシュを拾ったタバサは、
そのままトリステインの城へとシルフィードを飛ばし、
ルイズとウェールズ、それから治療が必要なハクオロを下ろすと、
キュルケとギーシュを連れて学園へと戻り、自室のベッドに倒れ込んだ。
酷く疲れていた。
いくら力を得たからといって、休息なしで戦いすぎた。
遍在を倒し、フーケを倒し、ハクオロの看病をし、貴族派と戦い。
それでも充実したものが胸のうちになった。
例え二度と外れぬ首輪をはめられた家畜同然の身でも、
あの方のために尽くせるのは喜びであった。


   第18話 忌まわしき契約


アンリエッタはウェールズとの再会に感極まり、彼の胸元を喜びで濡らした。
ウェールズはアンリエッタに貴族派の正体を、
すなわち聖地奪還を掲げながら世界を狙うレコン・キスタの存在を教える。
放置すればトリステインだけでなくハルケギニアすべての国々が侵略される。
それは決して許される事ではない。
だから。
「僕は戦わねばならない。しかし兵を失ってしまった今、頼れるのはトリステインだけだ。
 愛しいアンリエッタ、僕を信じて兵を貸してくれ」
他国を巻き込まない事にこだわっていたウェールズだが、今は事情が違った。
彼は戦わねばならない。
護るために。戦うために。
命ある限り。
精神の一番深い部分で拒絶しながらも。

ウェールズ皇太子を正式に受け入れたトリステイン王国は、
神聖アルビオン共和国を名乗るレコン・キスタとの戦争を決意したが、
弱小トリステインに勝ち目は薄く、軍備を整えるまで時間を要した。
そのためアルビオンからの休戦条約を受け入れ、しかし条約を破る機を虎視眈々と待つ。

国内の意見をまとめるための日々の間に、魔法学院に帰ったハクオロの火傷もすっかり癒え、
シエスタの手によって服も元通り縫い直されてもらった。
だが何もかも元通りという訳にはいかず、戦争の噂が学院中に広まり、
従軍を決意する男子達の姿も見られた。

レコン・キスタとの戦争は避けられない。
ならばこちらから先制するため戦争の準備を進めるというのは納得はいったが、
やはり戦争となると心苦しい思いになるハクオロだった。
そんな彼の所に、シエスタが訪ねてくる。


「タルブの村へ帰る?」
「ええ。実は、アブ・カムゥが見つかってしまいそうなんです。
 戦争の準備のせいで資材が必要になって、山の木をたくさん切らなくちゃならなくて。
 だからアブ・カムゥをもっと山奥へ隠すために動かしてくれって、お父さんが」
「そうか、あれは確かシャクコポル族だけが動かせるのだったな。
 母親の血を継ぐシエスタなら一人で動かせるはずだ」
「でも動かし方が解らなくて、ハクオロさんなら知っていらっしゃるかな……と」
アブ・カムゥは使いこなすには技量が必要だが、ただ動かすだけなら簡単なものだ。
中に入りさえすれば、自分の身体を動かすのに近い感覚で動かせる。
説明を終えると、ハクオロは不安げな表情を作る。
「シエスタ。君を不安にさせたくはないのだが、タルブの村は危険だ。
 神聖アルビオン共和国との戦争が始まれば、
 真っ先に狙われるのは港であるラ・ロシェールだろう。
 タルブと距離が近すぎる。攻め込まれたら、戦禍は間違いなくタルブの村を呑み込む。
 聞けばアルビオンは空の戦いに長けているという。
 アブ・カムゥはアルビオンからも見つからぬよう、空から見えぬように隠すといい。
 危険を感じたらすぐ非難するよう、オヤジさんやタルブの人々にも伝えてくれ。
 何かあれば私もできる限り力になろう」
「ありがとうございます。ハクオロさん、危ない時には絶対助けにきてくださいね」
「ああ、絶対に助けに行くよ」
約束をして、ハクオロはシエスタの頭を優しく撫でてやった。
するとシエスタは頬を染めて嬉しそうに微笑む。
その姿はまるで兄妹や父娘であった。

タバサと確執があったルイズだが、アルビオンへ救助に来てくれた事は感謝していた。
そのためわざわざ部屋までお礼を言いに行くと、タバサから問われた。
「あなたは彼が何者か知っている?」
「彼……って、ハクオロの事?」
恐らく使い魔のルーンを通じて見るハクオロの夢のおかげで、
ルイズはハクオロが未だ語ろうとせぬ彼の過去のいくつかを知っていた。
だがタバサの質問は、もっとハクオロの根源に迫る意味合いを持っているように思える。
「解らないわ。まったく知らないって訳じゃないけど、変なところがいっぱいあって」
「そう」
タバサは、ルイズが質問をはぐらかしたり知らないと嘘をついたりせず、
正直に解らないと答えた事を確認すると、わずかに双眸を細めた。
ルイズはハクオロの事を語れるのだ。
使い魔召喚の際、黒い霧に包まれていたから自分と同類かと思ったが、
どうやらそう簡単な話ではないらしい。
タバサの不審な態度に眉根を寄せながらも、
これ以上話がないようなのでルイズは部屋を出た。


部屋に戻ったルイズは、物憂げな表情のハクオロを見つけた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな」
何かあったのだろうか。
視覚聴覚をこっそり共有していればよかったと思ったが、
次の瞬間酷く情けない気持ちに襲われてしまった。
いくら使い魔といえどハクオロは人間で、勝手に夢や行動を盗み見るなんて。
恥じ入ったルイズは、とうとう秘密を打ち明けた。

自分が眠っている時、ハクオロの夢を盗み見る事ができた。
自分が眠っている時、ハクオロがシエスタ親子にアブ・カムゥの説明をしている様を盗み見た。
アルビオンでは目を閉じハクオロを思っただけで視覚と聴覚を共有できた。

聞かされて、ハクオロは唖然としていた。
「本当なのか? ルイズ」
「ええ。最初の頃は胸が……ルーンと同じ場所が酷く痛んだけど、
 最近はもう痛まないわ。自然に感覚を共有できる。
 何て言うか……繋がりが強くなったような気がするの」
「……主の目となり耳となる使い魔もいるのだったな?
 ならば不思議な事など何もないじゃないか。
 ルイズがまた一歩、一人前のメイジに近づいたと思って喜べばいい。
 ただしできるなら、緊急時を除いて、今後私の了解なく感覚の共有はしないでもらいたい。
 使い魔とはいえ、私も人だからな。覗き見されては困る時もある」
「ええ、そうするわ。本当にごめん」

それから二人は、アルビオンの教会での出来事を話し合った。
ルイズはワルドに気絶させられてからの記憶がない。
遍在に成すすべなくやられてしまったハクオロも同様だ。
ウェールズの負傷が治っていたのも疑問だったし――本人に質問したが答えてくれなかった――
タバサの仕業でもない事は空の上でハクオロが確認を取ってある。

そしてワルドはどこへ消えたのか。
なぜデルフリンガーが、あんなおぞましい滅び方をしたのか。
デルフリンガーは何を言おうとしたのか。
相棒であるハクオロを"そいつ"などと呼び、炎の中に置き去りにするよう言ったのは何故か。


「私は……何者なのだろうな」
「獣の耳と尾を持つ亜人が普通に暮らしている国……。
 なぜかは解らないけれど、東方とは違うように思えるの」
「……ルイズ。君は確か、サモン・サーヴァントで呼び出したのは巨大な化物だと言っていたな」
「え、ええ……今では夢か幻のように思えるけれど」
「その化物と契約したはずなのに、ルーンは私の胸に刻まれてしまった。
 これはどういう事だ。まさか、君が見た化物というのは……」
「ありえないわ。ハクオロは人間だもの。
 きっとあの大きい奴の方が間違いだったのよ……夢だったのよ……」
そう言って、ルイズは自分の言葉にハッと気づいた。
「夢?」
思い出す。夢の話で、またしていない事。
「そうだわ。ハクオロの夢を見る以前は、あの化物の夢を見ていたのよ」
「化物の? もしや、黒くて大きいとか寝言で言っていた……」
「そんな寝言を言ってたの? まあ、いいわ。
 夢だからおぼろげにしか覚えてないけど、あの化物の夢で間違いないと思う。
 姿形は、寝言から判断すれば、やっぱり黒くて大きい……牙の生えそろった……」
「その化物の正体こそが、私の過去を解き明かす重大な鍵なのかもしれない」

そしてそれが解った時、すべてが終わるのかもしれない。

夜、タバサは空を見た。双月でもなく、星々でもなく、黒い闇を見て、思い出す。
漆黒の契約を。

夜、ウェールズは空を見た。双月でもなく、星々でもなく、黒い闇を見て、思い出す。
漆黒の契約を。

夜、ルイズは空を見た。双月でもなく、星々でもなく、黒い闇でもなく、己の心を見た。
意味の解らぬ言葉のつらなりが脳裏をよぎる。

歌うように言葉をつむぐと、窓の外の景色が変わった。


音はない。声もない。
けれどそこには夢で見た人々がいた。

ハクオロがいる。

犬の耳と尾を生やした娘が入れたお茶をおいしそうに飲んでいる。
犬の耳と尾を生やした女の子に膝枕をしてやり、優しい表情で頭を撫でている。

書簡の山を運んでくる美青年。
そこに駆け込んでくる若い男といかつい男が、何やら言い争いを始める。
その後ろで同じ顔をした二人の美少女が……いや……美少年がオロオロしている。

猫の耳と尾を持つ美女と、白い翼を持つ美女。
そこにハクオロが加わって、ひとつしかない月を肴に酒を飲んでいる。
その隣では鳥の翼のような耳を持つ女が酔いつぶれて眠っていた。

子供のように無邪気な少女がじゃれついてくる。
それを微笑ましい表情で見つめている少女もいた。
二人ともウサギのような長い耳を生やしている。

寝台に横たわる少女がいた。犬の耳をしていて、まぶたを閉じたまま微笑んでいる。

「これは……これはハクオロの……」

黒い翼を生やした銀髪の美少女が、黒い靄のようなものと戯れながら、
水面の上を軽やかに舞って遊んでいる。

その少女がくるりと回転した瞬間、雰囲気が一変する。
彼女の服装は身体にフィットしたものになり、髪型も変わった。
悲しげな眼差しをルイズに向けている。

   お と う さ ま

動いた唇を、ルイズは当たり前のように読む事ができた。

――お父様を眠らせて上げて――


「ムツミ」

床で眠っていたはずのハクオロがいつの間にか起きていて、
窓の向こうの幻を凝視していた。

ムツミと呼ばれた幻が涙をひとつこぼし、霞のように消え去る。
待ってくれ、と窓に駆け寄ったハクオロだが、すでにそこには夜の学院があるのみだった。
「……ルイズ、これは?」
「イリュージョン……幻影を見せる魔法。
 何でだろう。こんな魔法、聞いた事がないし、どんな系統なのかも解らない。
 けれど頭の中に浮かぶの、いくつかの魔法が。どうしてかしら……。
 ねえハクオロ。いつから見てた?」
「君がそのイリュージョンとやらの魔法を唱えている時、なぜか目が覚めた。
 音色のような詠唱で身体が震え、今の今まで身動きができなかった。
 しかし……まさかルイズがこんな魔法を成功させるとは」
「どうして急に……」
嬉しさよりも困惑が先に立つ。
教科書に載っているような系統魔法が使えたのなら素直に喜びもできるが、
知識だけは人一倍なルイズでさえ知らぬ謎の魔法。
いつから使えるようになったんだろう?
「ハクオロ、やっぱり何かがおかしい。私……この魔法をずっと昔から知っていた気がする。
 ううん、きっと知らなかったはず、でも、なぜか懐かしいの。切なくなる……」
「……私もだ」
ハクオロは胸のルーンを押さえた。
「不思議な気持ちになる……君の詠唱を訊いていると、胸が熱くなって……」
「私達がした契約って、いったい何なのかしら」
「私達の……契約……か」

契約。
本来神聖であるはずのそれは、禍々しく忌まわしい響きがした。
「ルイズ……私達は何かを間違ってしまったのかもしれない。
 その間違いが正された時、私達の関係も終わってしまうのかもしれない」
「私とハクオロの関係って?」
「決まってるだろう? ――家族だ」
使い魔は家族も同然。とはいえ厳密には違うけれど、ルイズは「うん」とうなずいた。
もし間違いが正されて家族でなくなってしまうなら、いっそ間違ったままでもいい。


三日後、レコン・キスタが休戦協定を破り港町ラ・ロシェールを奇襲。
裏をかかれたトリステインは、アンリエッタを先頭に蜂起を決意。
アンリエッタの隣では、ウェールズが悲しげに目を伏していた。
「アンリエッタ。大変な事になってしまってすまない……」
「いいえ。ウェールズ様と共にあれば、わたくしは何も怖くはありません。
 共に護りましょう。愛する民と、貴族の名誉を」
「すまない……それはできないんだよ、アンリエッタ」
「え?」
ウェールズの声は沈み、口元には自嘲を作っていた。
「私はきっともう、名誉のために戦う事はできないだろう。
 私は杖も剣も失い、在るのは魔獣の如き牙と爪。
 アンリエッタ達を護るために戦ったとしても、
 トリステインに安息をもたらしたとしても、我が身に安息は二度と訪れぬ。
 私は命ある限り戦い続けねばならない。
 誰かを護るため、誰かを殺し続け、地獄へ行く宿命なのだよ」
「ウェールズ様、わたくしには政治も戦争も解りませぬ。
 ですが、貴方を信じております。貴方と共にあると誓っております。
 貴方が地獄へ行ってしまわれるのなら、わたくしも共に落ちましょう、地獄に」
「……ありがとう、アンリエッタ。でも、僕が行く地獄は、君の行く地獄とは違うだろう。
 私は……そう、私やあの少女達は……未来永劫解放される事はないのだから」

トリステインの軍隊が駆けつける頃には、ラ・ロシェールのすべては陥落していた。
そしてレコン・キスタの軍勢は逗留地を求め、広い草原のあるタルブの村へ侵攻した。
その報は学院に――ハクオロの耳にも届いた。




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