あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

青にして灰白の使い魔-01


 その日も、岩田裕はいつものようにテントのポールの上にいた。
 軽く息を吸い込み、軽く跳ぶ。手を伸ばして青空に少しだけ近づいた後、真っ逆さまに落下した。
 重力からも解き放たれるまでにあとどれほど訓練すればいいのかを考えながら、顎を高くして地上に目を凝らす。

 ――そんな時だった。異様に大きい鏡が眼前に現れたのは。

 悲しいかな、真っ逆さまに落下し、地上に目を凝らしている状態で眼前といったらそりゃもう進行方向。
 岩田が反応するよりも速く、岩田の体が鏡に飲み込まれた。

青にして灰白の使い魔

 トリステイン魔法学院、春の定番と言えば、二年生に進級する際の使い魔召喚の儀式。
 ただ召喚するのではなく、さらに契約し自分の魔法の属性と専門課程を決める重要な儀式だ。
 使い魔は召喚したメイジの力量を測る際にも役立つし、主のために戦ったり秘薬を手に入れたりする。
 伊達にメイジの実力を見るならば使い魔を見ろ、と言われていない。
 つまりは、だ。トリステイン魔法学院はめでたくその使い魔召喚の儀式の日を迎えたということだ。
 そして当たり前のように生徒たち使い魔を召喚し、一喜一憂している。

 しかし、それすら許されない少女がいた。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 美しいというよりは可愛くて、優しいというよりは厳しい。
 透き通る、とまではいかない白い肌と、明るい桃色のかかったブロンドの髪、輝く鳶色の瞳の少女。
 小柄で歳よりもずっと幼く見える彼女は、努力しても、努力しても、決して報われない哀れな少女だった。

 鬱陶しくなるような青空の下、ルイズは目を瞑りながら何度目かのサモン・サーヴァントの呪文を唱え始める。
 これが最後とコルベールに念を押されているので、失敗は出来ない。もし失敗すれば明日に先延ばしだった。
 それだけは避けたいと彼女は思う。既に恥ずかしいが、上塗りするようなことだけは避けたかったのだ。
 目を瞑り、呪文を唱えながら深呼吸をする。そしてひたすら自分が召喚したい使い魔を思い描いた。
 白鳥のように美しく。主のために忠誠を誓ってくれる家来のような素晴らしい使い魔を。
 呪文が最終段階へと移行するに従い、目を見開いた。その瞳に映るのは無事召喚された使い魔のみ。

 悪いことは起こらない。ここから先は必ず、必ず良い事が起こる。これで私は変わるのだ。

「――我の運命に従いし、"使い魔"を召喚せよ……!」

 ルイズが呪文を唱え終わるその瞬間、何かが光り輝いてから、いつものようにルイズの眼前で爆発が起こった。
 煙がもうもうと立ち込める中、ゆっくりと目を凝らす。成否を確認するためではなく、召喚された使い魔を見るために。
「……ない……しっ、ぱ……違う、せっ、成功……し、たっ……うぇ?」
 煙が晴れた。ルイズと周りの生徒、コルベールまでもが固唾を呑んで見守る中、<それ>は姿を現した。

 <それ>は白い奇妙なつなぎを着ていた。その顔には白い特殊な化粧が施されている。
 落ち着きがないのか癖なのかは分からないが、<それ>は長い手足をタコのようにくねらしていた。
 一見すれば白いタコ。近くで見れば道化といったところだった。
 ……つまり、人間――それもその身をくねらした――なわけだ。
「おいおい、ゼロのルイズ! いくらサモン・サーヴァントが成功しないからって平民を連れてくるなよ!」
「しかもなんかくねくねしてるぞ! 気っ持ち悪い!」
 連れてきただけならどれだけ嬉しいことか。ルイズは顔をしかめることで飛んできた野次に応えた。
 歯を食いしばる。泣きたくなったが、今は耐えるしかないと思った。
 首をぶんぶん振って辺りを見渡していた平民がついに口を開いた。
「フフン、ここは誰ですか? 私はどこですか? 私は岩田、イワッチ! はっ、電波受信中ー!」
 ルイズは一歩退いた。周りの生徒は既に三歩退いていた。
 岩田と名乗った平民はくねくねしながらその場で踊り始めた。周りの生徒はさらに二歩退いた。
 だがこの程度で折れるほどルイズは弱くない。動揺を見せまいとして気丈に振舞うと、口を開く。
「あっ、あんたが……私の使い魔?」
「フフン!? どうやらこの世界は私が元いた世界との時差が激しいようですね?」
 完璧に無視された。いくらなんでも酷過ぎる。
 せめて、せめて普通の平民が出てきて欲しかった。いや、それはそれで困るか。
「……ミスタ・コルベール。もう一度召喚をさせてください……」
 ルイズは落胆しながら、ぼそっと言った。


 コルベールと呼ばれた中年の男は、うーんと唸った。
 ルイズが努力熱心なことも知っていたし、真面目な娘であることももちろん良く分かっていた。
 召喚した使い魔が妙なことを口走る平民だったことは、気の毒としか言いようがない。
 だがしかし、決まりは決まり。儀式は神聖なものだ、全員を平等に扱うためには仕方がない。口を開く。
「ミス・ヴァリエール……残念ながらそれは無理です。例外は認められません。さあ、儀式を続けなさい」
「っええぇっ!? こっ、こんなくねくねした電波平民とですか!?」
 気持ちは分かる。力になってあげたいとも思う。しかし……
 しかし無理なものは無理だった。コルベールは無言で儀式を続けるよう促す。
「そうです。残念ながら……規則は規則で――」
「フフン、なるほど、契約ですネ!? そんなもので私を縛ろうとは思わないほうがいいですよぉー!」
 いきなり奇声をあげてバナナの皮を振りまきながら岩田が高速スキップで生徒の中に突っ込んだ。
 その動きは素早い。風メイジが放った疾風のようだ。湧き上がる悲鳴と絶叫。
 ルイズなんてあまりの出来事についていけず腰を抜かしている。
 敵意を持っているのならばどさくさにまぎれて倒すなんてことも出来るな、とコルベールは考えて頭を振った。
 生徒の使い魔を倒すなど馬鹿げている。だがどの道止めねばならん。一人でうんうんと頷いた。
 コルベールは杖を構え、岩田を止めるために走り出そうとして岩田が投げ捨てたバナナの皮に滑って転んだ。

 我を取り戻したルイズは、高速スキップで生徒の中を突き進む岩田を追いかけた。
 いきなり問題発生だ。これで生徒に怪我でもされたらルイズの立場が無い。尤も、既に無いようなものだが。
 その先には微動だにしない少女――小柄なルイズよりも小さい――が一人。青い髪の、落ち着いた風貌だ。
 例えるならば、凍てつく吹雪だろうか。近寄りがたい雰囲気を放っている。
 見たことがないわけではない。しかし、ルイズは少女と会話したことがなかった。
 そもそもルイズがまともに会話するような相手なんてキュルケだけだった。
「タバサ、危ない!」
 岩田が少女の前で立ち止まるのを見て、ルイズの悪友であるキュルケが叫んだ。
 キュルケは――キュルケはタバサと呼んでいたか――と比べると背が高い。
 それどころかルイズよりもずっと高い。大人の色気というものも持っていた。赤い髪はまるで燃えている様だ。
 例えるならば情熱の炎だろうか。本人は微熱と言っているが、どうにも微熱という雰囲気じゃないと思う。
「フフン!? 何故私がデンジャラスなのです!」
 回転しながら岩田が叫びに応える。まったくどうでもいいが、フフンフフンうるさいやつだ。
 岩田はタバサの目の前で嬉しそうにくるくる踊った。なにがそんなに嬉しいのかはさっぱり分からない。
 ルイズが近寄って蹴りの一発でもお見舞いしてやろうかと考えていると、タバサの前に金髪の気障ったらしい
少年がその間に割って入るような形で岩田を睨んだ。あの顔はおそらくギーシュだろう。
 ルイズは事態がますますややこしくなるなと思って溜め息をついた。

 岩田が奇声を上げて突っ込んできたのに冷静に反応出来たのは極僅かだった。
 極僅かでない者たち、つまり残りの大半は喚いているだけである。
 その極僅かに含まれるのが、ギーシュ・ド・グラモンとタバサだった。
 尤も、タバサは驚きもしないし暴れもしない。身動きひとつせずにイワタを見つめているだけだ。
 イワタが自分の前で踊っても瞬きひとつしない。実は冷静に見えるだけで内心動揺しているのかもしれない。
 一方のギーシュはというと――

 まともに会話したことがないタバサを庇うために、自ら進んでその間に割って入った。
「おおっと、僕の級友に何か用かな、平民君。それ以上勝手な真似をすれば、この僕が相手になろう」
 言いながら、果たしてそれが可能かどうかを吟味する。
 可能だ。相手はたかが平民。自分に敵うはずが無い。
 自分よりも少し背が高いように見える岩田を睨みつけながら、どうしてくれようかという考えが頭の中を駆け巡る。
 周りがただならぬ雰囲気と受け取ったのか、急に静かになった。
 不意に、踊り続けていた岩田が立ち止まって、ニヤッとしながら口を開いた。
「ククク、ヒィーッヒッヒ!……さてはあなた、私の才能にシットしましたね!? 天才とはいつもシットされ」
 まだ何か言いたげな岩田を無視してギーシュの回し蹴りとルイズの飛び蹴りが岩田の身体に叩き込まれた。
 岩田は壮絶に血を吐いて倒れた。そして動かなくなった……

「しっ、死んだぁ!?」
 やや小太りの少年、風上のマリコルヌが絞り出すような声で言った。
 まさか、とギーシュは内心で笑い、表面上でも薄く笑う。ゼロのルイズはどうあれ、あの程度の回し蹴りで
死ぬはずがなかった。
「落ち着きたまえ。この程度では死なない」

「ッ……ゼェ……嘘……これまだ生きてるの?」
「ルイズ! 自分の使い魔の面倒ぐらいしっかりと見なさいよ!」
 キュルケがタバサの身体に触れて怪我はないか確認しながら言った。彼女にしては珍しく動揺しているらしく、
髪が乱れていることに気づいていない。
 確かにその通りだと思い、しかし見る暇すらくれずに暴れられてはと思い直した。
「うっさいわねぇ、まだコントラクト・サーヴァントしてないんだから使い魔じゃないわよ!」
「召喚したのはあなたでしょ!」
「うぐっ……チッ」
 否定できない。ルイズはその可愛い顔をさらにしかめて堂々と舌打ちして見せた。
 そもそも召喚したくて召喚したわけじゃないのだが、四の五の言っていられる状況でもない。
 既に起き上がってきょろきょろと辺りを見回している岩田の方に視線を向ける。
「ちょっと、あんた。こっち向きなさい!」
「フフ、いいでしょう」
 この平民、意外と背が高いなとルイズは思う。175サントぐらいだろうか。
 顔が白い。道化のように化粧を施していた。
「失礼、届きませんでしたネ」
 沈黙をどう捉えたのか、岩田が自ら膝を折って身を屈めた。
 ルイズは、コントラクト・サーヴァントについて説明したかな、と思いつつ、どうでもいいやと思い、とっと
とコントラクト・サーヴァントを済ませることにした。

「――我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……
 ――五つの力を司るペンタゴン……
 ――この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……!」

 呪文を唱える終わると、杖を岩田の額に当てた。
 それから、嫌々ながら唇を重ねる。
「はぁ……なんだかすごく疲れたわ……あ、終わりました」
 一連の動作を見守っていたコルベールに顔を向けると、彼は腰を擦りながら頷き口を開いた。歳か?
「色々と問題はありましたが、コントラクト・サーヴァントは一回で出来たようだね。おめでとう」
 彼は嬉しそうに微笑を浮かべながら言った。
 頭頂部の肌が露出している部分にバナナの皮が被さっていることは教えないでおこう。
「相手が馬鹿な平民だったから出来たんだよ!」
「そいつが高位な幻獣だったら食われてるところだぜ!」
 外野がわざとらしくルイズを挑発するように言った。
 ルイズは唇を噛み締めたままキッ、と二人を睨みつけ、言い返そうとして頭を振った。
 言い返そうにも、言い返すだけの気力も無い。
「でもまぁ、ゼロのルイズにしてはよくやった方よね」
 香水のモンモランシーがそう囁いたのが聞こえて、彼女は少しだけ顔を綻ばせた。
 それから先ほどから静かにしている岩田のほうに視線を向けた。
「フフフ、友情を育むのはイィ! スバラシィ! っと、おやおやこの熱は……ギャグですね!?」
 彼は奇声をあげたかと思うと、手を擦りながら回転し始めた。
「はぁ……ああ、それはルーンが刻まれてるだけ」
「収まりましたね。これがルーン……なるほど、これは」
 じっと左手の甲に刻まれたルーンを眺める岩田。
 そこで区切り、岩田はいきなり回転し始めた。腕はくねらせ、手のひらを閉じたり開いたりしている。
 こいつは少しぐらい静かに出来ないのかと思ったが、出来ないからこう騒がしいのだろう。
 ルイズは半分諦め、心底疲れたという表情を浮かべながら吐き出すように言った。
「今度はなんで回転してんのよ」
 岩田が首をガクガクと前後に揺らしながら口を開いた。
 手のひらを閉じたり開いたりを繰り返し、時折足を絡め回転の速度を増し、腕を揺らしながら。

「いえ、こうしていないとあなたの首の骨が折れる……というのは冗談で、ギャグの練習です」
 殴ろうかと拳を作ると、岩田は土下座して腰を左右にぶんぶん振った。
「最初からそうすればいいのよ……大体、なんで回転しないと私の首の骨が折れる訳?」
「ルーンの所為なのかは分かりませんが、無意識に動く手が制御できません。もう少し離れたほうが良いと思いますが」
「はぁ……もういいわ、勝手にしなさい」
 岩田は再び踊り始めた。止める気力すら出てこない。

 コルベールは疲れて下を向いているルイズを気の毒に思いながらも、何気なく岩田を見た。
 相も変わらず踊っている。何がそんなに楽しいのだろうと思った。
 それから、その手のルーンが見覚えのない珍しいものだと気づく。
「ん? 珍しいルーンだね、少し見せてくれるかい?」
 岩田は真顔に踊るのを止め、言われたとおりに左手の甲を差し出してきた。
「おや、君はまともな対応が出来るんだね」
「まともな対応を望んでいるように思えましたが」
「失礼、そうだったね。えーと……イワタ、だったかな……」
 話はそれぐらいにしてルーンをスケッチし始める。やはり見覚えがなかった。しかしひっかかる。
 ひっかかると調べたくなる。コルベールは根っからの科学者だった。
「どうも。それじゃあ皆、教室に戻るぞ」
 生徒たちにそう言うと、コルベールはいち早くフライを唱えて自身を浮かせた。
 戻ったらさっさと授業の続きをして、いち早くルーンについて調べたかったのだ。

「ルイズ、お前は歩いて来いよ!」
「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』すらまともに使えないんだぜ!」
 ルイズはその声ではっと我に返った。既に生徒たちはフライを使って戻り始めていた。
 言い返そうと思って、馬鹿馬鹿しくなって止めた。諦めがついたともいう。
 ガタっという物音がして岩田に向き直ると、岩田は血反吐を吐いて倒れている。
「どうしたのよ、平民」
 岩田は感慨深そうに倒れこんだまま頷いた後、また踊り始めた。踊りながら口を開く。
「いえ、そうか、飛べるのですか、ククク、飛べるなんてイィ! スバラシィ! ギャグに応用できそうですね!」
 こいつは四六時中ギャグのことしか考えていないのか。
 ルイズは今日何度目かの溜息を吐いた。吐いてから、本格的に岩田をボコることに決めた。



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