あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第三話


 朝日の光と熱を顔に感じる。その刺激にルイズはゆっくりと目を開けながら体を起こす。カーテンを閉め忘れたか、と思うがこの顔に感じる日差しの暖かさを思うと、それもまたよいかと心の中で頷く。まだ眠気の残る頭を覚醒させるために顔をこすりながらベッドを降りようと――

 ふみっ

 床の絨毯を捉える前に、妙な感触と共に足が止まる。頭に疑問符を浮かべながら、再度ベッドから降りようと両手で体を反転させてベッドに腰掛ける姿勢になると、そのまま両足を床へ下ろす。

 ごっ

 再び右足が何か大きなものを踏みつけ、しかも体重が乗った今回はそれを床へと叩き付けた。何だ、と足元に視線を動かすと――

「おはようございます、ルイズ様」
「きぃやあああぁぁぁあぁぁぁぁ!?」


「全く……場所が悪いのよ場所が。あんなところにいたらその気が無くても踏みつけちゃうでしょ。ベッドの足元で起きるのを待つのはやめなさい」
「はっ、申し訳御座いませぬ」
 ミゴールを傍に控えさせて着替えながら――最初はミゴールに着替えさせようと思ったのだが、早速爪でブラウスを裂いたのでやめた――ルイズは愚痴を漏らしていた。この憂鬱な気持ちの原因、それは今ぐりぐりと絨毯にこすり付けている足に残っている気色悪い感触のせい、ではない。
 昨日の夜、あのミゴールの懇願。バルテアス神とやらの復活を目指すことを半ば泣き落としのように約束させられたあの後。
 ルイズは結局、コントラクト・サーヴァントは一人の使い魔に一回しか使えないこと、そしてメイジは一人の使い魔しか持てない事を告げられずにいた。
 自分に過剰なまでの忠誠を誓うミゴールだか、それは命を救われたというよりは、滅び行く彼らミゴールという種を救う手立てを持っているからこその忠誠であるのは明白だ。
 ならば、それを告げればミゴールは……
 などと考え事をしているうちに着替えが終わる。こうして悩んでいても仕方がないし、ミゴール全体といかずともこのミゴールはルイズのルーンの力による力で死なずにすんでいるのだ。そうそう最悪の事態にはならない、ルイズはそう自分に言い聞かせる。
「ミゴール、食堂に行くわよ」
「はっ」
 ひとまず歩きながら考えよう、そう思い廊下へ踏み出したルイズだったが、そこに陽気な声がかかった。
「あらおはよう。ルイズ、あなた本当にそれと契約したの」
「おはよう、キュルケ。ええそうよ、何か文句あるの」
 キュルケのからかうような言葉に、ルイズは憮然と返す。ルイズ自身、亜人はメイジの使い魔としては変な部類に入るという自覚はある。とは言え現在は自分に忠実に仕えている使い魔をからかわれるというのは正直気に入らない。
 しかしキュルケはそんなルイズの不機嫌そうな顔を見て愉快そうに言葉を続ける。
「別に馬鹿にしてるつもりは無いわよぉ?トロール鬼、にしては小さいけど、それはそれで強そうじゃない。まあ亜人のさらに亜種なんてメイジの使い魔には相応しくないかとは思うけど」
 そういうとキュルケは自慢げな様子で部屋の中に声をかける。その声に応えて、のっそりと虎ほどもある火トカゲが現れる。それを見てルイズが一瞬悔しそうな表情を浮かべ、キュルケは誇らしげに胸を張る。しかし――
「グルグルグル……ヴヴ……」
 現れた火トカゲはやけに不機嫌そうにうなり声を上げている。その口からゴフッゴフッと火の粉の混じった荒い息を吐き、まるで威嚇するかのように炎でできた尻尾を逆立てている。
「ちょ……キュルケあんた、コイツなによっ。危ないじゃない、主人ならちゃんと大人しくさせなさいよね!」
「え? え? ちょっとフレイム、何を怒ってるの? ほら落ち着いて……」
 落ち着きがない、というよりは今にも暴れだしそうな様子のフレイムにルイズは怯え気味に一歩引き、キュルケは使い魔を落ち着かせようと屈んで目を合わせながら慌てて体をなでている。
「ルイズ様、後ろへ」
 不穏な空気を感じたミゴールが口を開いてルイズとフレイムの間に割って入り、彼女を自分の背後へ隠す。しかし、その行動がきっかけになってしまった。
「え? え?」
「グルル、ガアアァァァ!」
「きゃああぁ?!」
 小型のトロール鬼のような亜人、ルイズの使い魔をそんな風に思っていたキュルケが突然の言葉に驚愕で腰を上げながら振り向いた。そして、フレイムは自分を落ち着けようとしていた主人の手が離れたこと、そして主人の驚愕が伝わった事で完全に落ち着きを失い、その衝動のまま飛び掛った。
 その標的は、眼前の亜人。
 ルイズの目の前で、自分を守るために前に出たミゴール、その右腕にがっしりとキュルケの使い魔であるフレイムの牙が食い込んだ。
 その衝撃で一瞬よろけたミゴールが一歩右足を後ろに引いて持ちこたえる。
 悲鳴を上げるルイズ。何が起きているのか理解できないキュルケ。そんな二人のメイジをよそに、フレイムはミゴールの腕を咥えたまま火の息を吐きながらその爪をミゴールの体に突き立てる。
「い、嫌ああぁぁぁぁ! 何してるのよっ! やめなさいこの馬鹿トカゲ!」
 慌てて杖を取り出すルイズだが、目の前で猛り狂う獣への恐怖で手元が震え杖を取り落とす。キュルケも荒々しい唸りを上げながら亜人を襲う自分の使い魔の姿を、信じられないものを見るような目で呆然と見ているだけで何もできない。そして、フレイムはミゴールを床に引きずり倒そうと――

 肉と骨がひしゃげる音が響いた。

 一瞬遅れてフレイムが悲鳴と牙の破片を溢しながら崩れ落ちてのた打ち回る。それを確認しながらミゴールは息を吐きながら左手と右足を下ろした。
 ミゴールの行った行動は単純だ。右腕に噛み付いたフレイムの頭を左手で上から押さえ、後ろに引いていた右足で膝蹴りをその顎に打ち込んだのだ。大半は肌が露出しているものの、鉄板の貼られた腕当てを咥えた状態で顎を強かに蹴り飛ばされたのだ。顎と口腔内への強烈な衝撃にフレイムは何本もの牙を砕かれ、悲痛な叫びを上げながら苦痛で悶えている。
「申し訳御座いませんルイズ様」
 ルイズへミゴールから声が掛けられる。その声は先ほどまで倍以上の体重を持つ獣に襲われていたとは思えないほど平然とした声だ。疑問符を浮かべるルイズに、ミゴールが重ねて言う。
「申し訳御座いませんルイズ様。許可無く他を害しました」
 あ、とルイズが小さく漏らす。ミゴールが言っているのは、昨日のオスマンとルイズとの約束のことだと思い至った。ミゴールが勝手に暴れずにルイズに従うなら開放する、というあの約束のことを言っているのだ。
「そんなのはいいわよ、それより大丈夫なの!? 見せなさ……えっ、あら?」
 我に返ったルイズが慌ててミゴールの傷を確かめる。しかし、よくよく見ると怪我らしい怪我は全く無い。ミゴールの腕当ては鉄板部がひしゃげて牙が一本突き刺さり、火の息でボロボロになっている。だというのに、それに覆われていなかった生身の部分には僅かに黒い血を滲ませる切り傷が二つ三つあるだけで、火傷すらしていない。
「ルイズ様。ミゴールの体があのような火の者に手傷を負わされることはありませぬ。それよりもあれの始末は如何されますか」
 淡々としたミゴールの言葉に、ルイズの意識が周囲に向かう。廊下に人気は無いものの、先ほどのフレイムの雄たけびと悲鳴は十分に周囲を騒がすに足りるものだろう。
「いや、何もしなくていいわ。あんた目を付けられてるんだし騒ぎに関わるのは避けたいわ。それよりキュルケ! あなたの使い魔が勝手に騒いで襲い掛かってきたのよ、どういうこと?!」
 言葉通り騒ぎにしたくないルイズだが、一方的に自分の使い魔が襲われた理由くらいは確かめたいとキュルケに怒りの篭った視線を向けて言う。
 しかし――
「……あ……その、ごめんなさいルイズ……こんなことになるなんて……」
 びくりと体を震わせて、亡羊とした様子で答えるキュルケ。その姿にはいつもの自身に溢れた陽気なゲルマニア人を思わせる様子は無かった。無理もない、キュルケもフレイムの行動に全く思い当たることは無いのだ。さらに一生の友と思っていたフレイムの突然の凶行、何より殺意を漲らせて亜人の腕に食らいついていたあの恐ろしい姿。
 そんな獣と、彼女は今朝まで同じ部屋で眠っていたのだ。生涯の友と信じて。
「え、ええ! 悪いと分ってるならいいわ。ミゴールも大して怪我がないみたいだし。じゃあ私は行くけど、もうこんなことさせないでよね!」
 酷くしおらしくなってしまったキュルケの様子に戸惑うが、ルイズも先ほどのフレイムの様子に恐怖を覚えたのは事実だ。ミゴールが悶絶させて床に転がせているとはいっても、あんな獣の近くには居たくない。未だ呆然としているキュルケを置いて、ルイズはミゴールの手を引いてその場を離れた。

 騒ぎで食事の時間が無くってしまったため、直接教室へと向かいながらルイズは先ほどのことを思い出していた。よくよく考えてみれば、キュルケの呼び出したサラマンダー、あれはミゴールを敵と見なしたから襲い掛かったのではないだろうか。
「はい。精霊力に近しい者ならばミゴールがどういう存在か見ただけで分るでしょう。身体の一部に炎を宿すほど火の精霊と近しいならば、ミゴールのことを知らずとも存在を看過できない相手と認識するのは在り得ることかと」
 恐る恐る聞いてみれば、あっさりこんな答えが返ってきてルイズは頭を抱えた。メイジの使い魔は、主の属性に近いものが召喚されることが多い。となれば、ある程度以上クラスの高いメイジならばそれなりに火や水といった系統に分類される力を持つ使い魔を召喚することが多いのだから……
「ってことは、あんたを連れて歩いていたらまたさっきみたいに襲われかねないってことね。どうしたらいいのかしら、変に話を大きくしたらアカデミーまで飛び火しそうだし……さっきみたいな反応があったら離れる、くらいしか思いつかないわね」
 ルイズの言葉に頭を下げるミゴール。しかし、ルイズの心は迷惑そうな言葉とは裏腹にミゴールを召喚したことへの喜びがあった。
 早い話、先ほどルイズは勝ったのだ。あの因縁深いツェプルストー家のキュルケに、トライアングルメイジに勝ったのだ。まあ、戦ったのは使い魔だが。
 しかもミゴールが昨日語ったミゴール族の力、水と地をよく斃し、火と風では傷つかないという力が本物であると目の前で見せ付けられた。この力は系統魔法への強力な対抗手段となる。メイジの使い魔としては十分すぎるほどの力だ。
「ちょっと驚いたけど、今日はいい記念日になりそうね」
 一転して嬉しそうな呟きを一言漏らした。

「……何が、記念日よ……」
 そして、無人の廃墟となった教室の中で泣きそうな呟きを漏らしている。
 調子に乗った結果がこれだ。暗澹たる気持ちでのろのろと机だった物の残骸を集めるルイズ。
 最初の授業、簡単に系統魔法というものの概要の復習を流した後の実践。そして指名を受けたルイズはミゴールの手前失敗できないと意気込んで挑み、失敗した。いつもと同じ爆発、それが教室の中で炸裂したのだ。
 片づけを行いながらも、ルイズへ何も聞いてこないミゴールの様子をそっと窺うルイズだったが、ミゴールは黙々と彼女の命令に従って片づけを続けている。何て言おうか、私にミゴール族は救えないとでも言うのか? 言える訳がない。

 そんなことを考えながらのろのろと体を動かしているうちに、拾うものが無くなっていることに気づく。顔を上げると残骸を袋に積めているミゴールの背中があった。――言葉が漏れる。
「分ったでしょ。無能なの、私」
 ミゴールが振り向くのが気配で分る。目を合わせられないルイズは、顔を伏せて言葉を続ける。
「無理なのよ、救世主なんて! 魔法なんて今まで一度も成功しなかった!
あんたを召喚したサモン・サーヴァントとコンントラクト・サーヴァント、それが最初の魔法の成功なの!」
 叫びのように、いや劣等感とゼロであったことを隠していた負い目が彼女に叫びとして口を突かせる。
「私が与えたルーンがミゴールの体を守っているって言っても、コントラクト・サーヴァントは一回しか使えないの。もう一度使うには、呼び出した使い魔を殺さないと駄目なの!私じゃ、あんた達全部は救えないのよ!」
 絶叫となったルイズの言葉が教室中に響いた。顔を伏せたまま荒い息を吐くルイズの方へ足音が聞こえる。息を整えながら顔を伏せたままルイズは考える。
 これからどうなるのだろうか。これでミゴールが自分を見限るのは確実だろう、ではミゴールは最初に目を覚ましたときのように「人間は敵だ」とルイズに襲いかかるのだろうか。ミゴール族を救える、そう思わせて忠誠を誓わせておいてから「実は無理でした」などと到底許せるものではないだろう。
 目の前で足音が止まる。殴られる、そう思って首をすくめるルイズ。
 しかし、聞こえてきたのは石の床を足が擦る音。恐る恐る片目を開けると、ルイズの足元で今までのようにミゴールが跪いていた。
「ルイズ様。ルイズ様の師よりの命、完了致しました」
 そして変わらない言葉。
「我が命はカルドラ世界による滅びからルイズ様により救われた物。そしてルイズ様はバルテアス神の復活を目指すと誓われた。ならば、ルイズ様を主とする事に何の異論も御座いませぬ」
「で、でも……そんなの口先だけじゃない! そりゃ私だってあんたたちが滅びるだけの種族なんて可哀想だと思うし、私の使い魔なんだから助けてやりたいとは思うけど……私に何ができるって言うの、魔法一つ上手く使えない私に!」
 再度のルイズの言葉。しかし、それでもミゴールは跪いた姿勢を崩さずに、頭を下げたままルイズへの恭順を示し続ける。
「いいえ、ルイズ様。四属に反するミゴールであるからこそ、ルイズ様がゼロなどでないことは我が身で持って証明致します。我が主に相応しいのはルイズ様を置いて他にありませぬ」
 そういって左手のルーンをルイズに示す。
「この世界でカルドセプトが知られていないということは、おそらくカルドセプトを知る者達はそのことを隠匿している、あるいはカルドセプトを知る物が居ないかのいずれかでしょう。知る者が居ないならばただ集めるのみ、隠匿されているならば奪い取ればよいだけでしょう。ルイズ様の下へカルドセプトを完成させるための道具、私のことはそうお思い下さい」

 ミゴールの言葉に、ルイズは目を閉じて後悔の念から漏れそうになる泣き言を必死で食い止めた。「メイジと使い魔は一心同体」という言葉が痛い。結局ルイズは、使い魔をメイジの道具としか見ていなかったのだ。ミゴールは主であるルイズのために尽くすと言っているのに、ルイズ自身はミゴールの懇願に対して「バルテアス神の復活を誓わされた」だの「ミゴール族を救ってやる」といった考えしか持っておらず、コントラクト・サーヴァントが一人にしか使えないことを教えず、そのままだまし通そうとさえしていた。

 なんて、自分は卑怯なのだろうか。

 ルイズへの揺るがぬ忠誠を示すミゴールの姿に、ルイズはただ己を恥じた。
しかし、それをミゴールに見せるわけにはいかない。そんな物を見せるのはミゴールの示す忠誠への裏切りに等しい。今のルイズにはそう感じられた。
 だから、ルイズはきっ、と胸を張った。まなじりを吊り上げ、今までの弱気と卑怯を恥じ、しかしそれをミゴールに告白して許しを請う事はしない。
「なら命じるわ、ミゴール。生涯私に仕えなさい。私の下にカルドセプトを届けるために、その命の全てを捧げなさい」
「はっ。確かに」
 朗々と命じる。
 昨日のようにミゴールの一方的な懇願ではない。
 はっきりとルイズから、その生涯をかけて果たすべき命が下された。


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