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蒼い使い魔外伝-01


「あ、バージルさん」
翌日、朝食をとり終わり、食堂を出ようとしていたバージルにシエスタが声をかけてきた。
「あの、マルトーさんに頼んだら休暇をもらえましたよ、といっても今は人手が足らなくって一週間後になっちゃいましたけど…」
「そうか…」
出来るだけ早く帰還への手がかりを探したいところだが…、
別に『竜の羽衣』が逃げていくわけではない、
そう考え短く返事をするとさっさと踵を返し、食堂を後にした。

とはいえ、一週間の空白は思ったより大きい、どうやって時間を潰すかと思案しながら図書館へと向かい
本を一冊頂戴し、図書館の外へと出る、無論返却の予定はない。
出来る限り静かなところで本を読みたいバージルは普段人気のない庭へと向かった、
適当な場所を探していると、どうやら先客がいる様だった、
そこにはバージルもよく知る人物、タバサが自身の使い魔、シルフィードに寄り掛かり本を読んでいた。
タルブに行くのは一週間後になったことをタバサに伝えようと、バージルが近づいて行く。
「タバサ、タルブの件だが」
不意に声をかけられ、ビクッっと反応するようにタバサがバージルを見る。
よほど真剣に本を読んでいたのだろう、手には『ハルケギニアの多種多様な吸血鬼について』という本を持っていた。
それを一瞥しつつバージルが続ける。
「出発は一週間後だ、あのメイドの休暇を利用する」
「わかった」
タバサは小さく頷くと再び本に視線を戻す、
「伝えたぞ」
そう言いバージルが踵を返すと、タバサの後ろのシルフィードが声を出した。
「おねえさま! そうよ! おにいさまに手伝ってもらえばいいの!」
その言葉にバージルが訝しげな表情で振り向く。
タバサは杖でポカッとシルフィードの頭を叩いた、
「人前」
「きゅいきゅい! おねえさま痛い! おにいさまはシルフィが喋れることを知っているのね!」
その言葉を聞きはっとしたようにバージルを見つめる。
「話してない?」
「何をだ」
「この子が話したこと」
「別に誰かに話すことではない。聞いた人間なら居ただろうが、全員海の底だ」
「そう…この子が話すことは秘密」
「話す事ではないと言っているだろう」
バージルは自分にとってどうでもいいことは口にしないタイプだ、この様子なら誰かに話すということはしないだろう。
タバサはそう考え、安心する。
「ありがとう」
「ところで、手伝ってもらうとは何の話だ」
バージルがタバサに尋ねる。
タバサはその質問にどう答えるか迷った。
バージルについてきてもらえばこの任務は成功したも同じだ、だがそれでは自身のスキルアップにはつながらない。
しかし吸血鬼は単独で戦うには不利な相手、死んでしまっては元も子もない。生き残ること、それが何よりも大事だ。
それに先住魔法を使う吸血鬼相手にバージルがどう戦うのか参考にもしたい。
だが説明したところでどうでもいいことには首をつっこまない彼が首を縦に振るだろうか?
目をつむりそんなことを考えていると、隣にいたシルフィードが勝手に口を開いてしまった。
「おねえさまはね、吸血鬼と戦わなきゃならないの! いじわるな姫からの任務なの! 
それでおにいさまに協力してほしいのね! 吸血鬼は恐ろしいほど冷酷で残忍で邪悪な存在なの! きゅい!」
タバサは余計なことまでペラペラと話すシルフィードの頭を杖でもう一度ポカッっと叩く。周囲には誰もいないのが救いだ。
「任務だと?」
タバサは小さくため息を吐くとバージルにぽつぽつと話しだした。
自身はガリアという国の北花壇騎士団という組織に所属し決して表向きにならない危険な任務を行っていること
今回の任務は吸血鬼を討伐しろとのことであると説明した。
「成る程。」
「迷惑をかける、気にしないで」
バージルが腕を組みながら目を瞑る。
しばらくそうして考えているとシルフィードが再び口を開く。
「きゅいきゅい! シルフィからのお願いなのね! おねえさまを助けてあげて! おにいさま!」
バージルは静かに目を開き、答える。
「いいだろう、その任務に付き合ってやる」
どうせ断られるだろう、そう最初から思っていたタバサは思わず目を見開く。
「でも…」
「一週間時間が空いた。ただの暇つぶしだ、吸血鬼そのものにも興味がある」
吸血鬼は単独で戦うには危険な相手らしい、万が一ということもある、
タバサは学院内で交流のある人物の中でかなりまともな部類の人間だ、シルフィードの存在もあり
この先も彼女にはいてもらわないと困る、それに、この世界の妖魔とやらと戦うのも悪くない、そう考えての結論であった。
バージルはすでに狩人の眼になっている、それを見たタバサはもはや止めることは不可能と悟り、
獲物である吸血鬼に同情しつつ、今回はその言葉に甘えることにした。
もし吸血鬼が襲ってきたら自分で戦えばいい、運悪くバージルに襲い掛かればそれまでのことだ、そう考える。
「ところで…」
バージルはそういうとシルフィードを見る
「なぜ俺をそんな風に呼ぶ」
「きゅいきゅい! だっておねえさまがそう…」
―ドガンッ!!
シルフィードがそこまで言った瞬間タバサが突然飛びあがりシルフィードの脳天に見事なヘルムブレイカーを叩きこむ。
「きゅいーーーーーーーーーー!!」
シルフィードの甲高い悲鳴が広場に響く、そのまま目を回しながらドウッと音を立て倒れ伏した。
「なんでもない」
「………」
「なんでもない」
「そうか…で、いつ出発するんだ?」
バージルがそう尋ねると、もう少ししたらガリアへ行き任務を正式に受け、
直接現場へ赴くとのことだったので、同行することにした。
「行く前に」
タバサがバージルに話しかける
「あなたの主人に置手紙か何かをしていったほうがいい」
「何故だ?」
怪訝な顔で尋ねるバージルにさらりと短く答える
「騒ぐ」
「…確かにな」
その返答に納得したのか、バージルは一度部屋にもどり、
デルフを引き抜き、言伝を伝え(もちろん任務のことは伏せ)部屋の中心に突き立てる、
泣きながら(?)連れて行ってくれ!と懇願するデルフを無視し部屋を後にした。


場所は切り替わりガリアのプチ・トロワ。
タバサの到着を待つイザベラは上機嫌であった。
タバサと同じ色の長い髪をいじりながら鼻歌まで歌っている。
「あの子、きっと震えながらやってくるよ! いい気味!」
と満面の笑みである。
周りに控えた侍女たちが困ったような笑顔でいることにきがついたイザベラは目を細める。
「なんでそんなに喜んでるのか? って顔してるね。理由を聞きたいかい?」
顔を見合わせた後侍女たちは恐る恐る頷く。
「あのガーゴイル娘に教えてやったのさ! 次の相手は吸血鬼だってね!
これだけ恐ろしい相手もそういないだろう?」
侍女たちは吸血鬼と聞き震え上がる。
ハルケギニアにおいて吸血鬼程手強い妖魔はいない。
ある程度の先住魔法を使うがエルフには遠く及ばないし、力もそこまで強くない、
しかし、人と見分けがつかないのである。
ディテクト・マジックにも反応せず、他のあらゆる
呪文を使っても正体は暴けない。人に溶け込みその残忍さと狡猾さで街一つを全滅させた例もある、凶暴な存在だった。
夜の人狩人、ハルケギニア最悪の妖魔、それが吸血鬼である。
イザベラが楽しそうに笑っていると、入口に控えていた騎士がタバサの来訪を告げた。
「シャルロット様が参られました」
「その名前でよぶんじゃないよ!"人形七号”と呼びな!」
「失礼しました、七号様、参られました」
「通して」
怒りを抑え、尊大にイザベラは言う。
恐怖に歪むタバサの顔を見れるのだ、これほど楽しいことはない、ところが
「え…?」
現れたタバサの顔をみてイザベラはぽかんと口をあけた、
タバサはいつもの無表情…いや、それどころか、任務の九割は終わった、そんな感じすらする。
イザベラは再びこみ上げる怒りを押さえながらもタバサに尋ねる。
「ちゃんと知らせたはずよね? 今回の任務は」
タバサは小さく頷く
「その相手の名前をいってごらん」
「吸血鬼」

あ、フォークが落ちた。とでも言うような口調で、タバサはその言葉をさらりと口にする。
「だ…だったらわかるだろ? ピクニック気分で出発できる任務じゃないんだよ?」
当のタバサはいつもどおり無表情だがなにやら余裕すら漂ってくる。
「(い…いつものガーゴイル娘じゃないッ…)」
そんなタバサに不気味さを感じながらイザベラが任務の目的地などが記された書簡を渡す。
「ふ…ふん、これが最期の任務にならないことをいのってるよ」
本音に聞こえない言葉にも耳を貸さず、タバサは書簡を受け取った。

外へ出ると、バージルがシルフィードに寄り掛かりタバサを待っていた。
「終わったか、場所はどこだ」
「サビエラ村」
そう短く答えると二人はシルフィードに乗り、一路サビエラ村へと向かった。

サビエラ村は、ガリアの首都リュティスから500リーグほど南東に向かった、山間の片田舎である。
人口は350人ほどで、二ヶ月ほど前から、派遣されてきた火のトライアングル・メイジを含む9人が犠牲となっていた。
いずれも体中の血を全て吸い尽くされた無残な死体で発見されていた。
間違いなく、最悪の妖魔『吸血鬼』の仕業であった。
タバサとバージルは村から少し離れた場所へと降下する。
本来、タバサはシルフィードに変化を使わせ、人間の姿に変え、共に行動する予定であった。
だがバージルがついてきた以上その手を使うまでもない。むしろどっちに襲い掛かってきてもまるで問題ない。
どうしようか、やはりシルフィと同じ作戦で行くか、そう考えバージルに杖とマントを渡す。
「なんのつもりだ」
「あなたが、騎士。私は、従者」
どうやらタバサには思惑があるらしい。そういうことならとそれに従った。

村に現れた騎士とその従者を、村人たちは遠巻きに見つめる。
銀髪の騎士はマントをまとい、節くれだった長い杖を持っている、腰にはなぜかメイジには不釣り合いな長剣を差していた。
そして、荷物持ちらしき小柄な女の子が、ちょこちょことその横を歩いている。
「今度の騎士様は大丈夫かしら……」
「あんな小さな子供までつれて、襲われたらどうするんだろう?飽きれた……」
「今度の騎士様は、二日でお葬式かね」
そんな声を気にするわけでもなく、二人はさっさと町長の屋敷へとむかった。

バージルとタバサの二人が通されたのは、段々畑の連なる、村の一番高い位置にある、村長の家であった。
白髪にひげの村長が深々と頭を下げる。
「ようこそいらっしゃいました、騎士様」
「ガリア花壇騎士のバージル、私はタバサ」
従者役のタバサが前に進み出て村長に自己紹介する。
一方のバージルは腕を組みながら目をつむっていた。
「はぁ…見たところ、そちらの騎士様はかなりの腕とお見受けいたしました。」
そう言うと村長は、これまでの事件の経過について語りだした……。
その説明は報告書に書かれていることとあまり変わるところがなかった。
「……というわけですじゃ。吸血鬼の操る『屍人鬼』が誰なのか分からず、村は疑心暗鬼ですじゃ。騎士様、なにとぞお力をお貸しくだされ」
「必ず見つけ出す」
タバサがそう短く答えるとドアの隙間から小さな女の子が顔を覗かせているのに気がついた。
5歳くらいだろうか、人形のように可愛い金髪の女の子だった。
「エルザ、騎士様にご挨拶なさい」
入ってきて一礼する少女を、タバサは硬い表情でじっと見つめると少女はビクンと体を震わせる。
すると今まで目をつむっていたバージルが静かにエルザと呼ばれた少女を見る、
エルザと目が合った、とたんエルザは泣き出し、部屋を飛び出していく。
「申し訳ございませんあの子は昔両親をメイジに殺されておりますのじゃ」
「両親?」
タバサが短く聞きなおす
「はい、一年ほど前、寺院の前で捨てられておったのです、おそらく行商の商人が無礼討ちにされたか、
メイジの盗賊に襲われたか…そのどちらかでしょう…、早くに子をなくし、つれあいもなくしたわしがこうして引き取って育てているのですじゃ」
村長は悲しそうな口調で続ける。
「わしは、あの子の笑った顔を見たことが一度もないんですじゃ。体が弱くて……外でも遊ぶことができん……そこにこの騒ぎ……
早く吸血鬼を退治して欲しいものですじゃ……」
そんな悲しい身の上話も二人にとってはどこ吹く風、興味がないと言わんばかりに仲良く無表情であった。

タバサとバージルは調査を始める、といっても調べているのはタバサだけだが。
犠牲者が出た家を廻ると、どこも被害は同じ……固く扉も窓も閉めているというのに、吸血鬼はどこも壊さずに侵入、ベッドに寝ている被害者の血を残らず吸っていく。
寝ずの番を行う家の者も、どうしても寝てしまう。どうやら、『眠り』の先住魔法が使われているようだった。
タバサが屋根の上に登り煙突を調べる、だが大の大人が入れる大きさではなかった。
煤だらけになりながら屋根を降り、バージルと合流する。
「何かわかったか?」
「まだ」
バージルの質問に短く答える、
「あなたは?」
「まだだ。悪魔共とは違い、うまく自身の存在を隠している」
口元を歪ませどこか楽しそうにバージルは言う。

ふと、村の一角からなにやら怒声が聞こえてきた。
村人たちが物々しい様子で、鍬や鎌を手に携えて歩いていく。火を灯した松明を持ったものまでいた。
「………?」
タバサは、村人たちを追いかける。村人たちが目指していたのは、村のはずれにあるあばら家だった。
「出て来い、吸血鬼!」
「アレキサンドル! よそ者め! 吸血鬼を出しやがれ!」
口々に叫ぶ村人たちに反論しているのは、40歳ぐらいだろうか、屈強な大男だった。
「誰が吸血鬼だ! いいかげんなこというんじゃねえ!!」
「昼間だってのにベッドから出てこねえババアがいるだろうが! そいつが吸血鬼だ! おめぇも屍人鬼なんだろう!?」
「おっかあは病気で寝ているって言ってんだろ!!」
「うそつけ、日の光で肌が焼けるからだろうが!」
そうこうしている内に村長がやってきてその場を収める、村人たちの話をまとめるとこうだ。
アレキサンドル親子はこの村に越してきて日も浅く、マゼンダは昼日中には外に出ず、アレキサンドルには屍人鬼特有の吸血痕のような傷があるという。
本人は山ビルに噛まれた痕だと言っているが、状況証拠としては十分だ。
村一番の切れ者と評判の薬草師のレオンを筆頭に多数の村人達が詰め寄り、マゼンダが吸血鬼なのではないのかと言及していたのだ。
仲裁にはいった村長の説得により、しぶしぶながら村人たちは引き返して行きその場は事なきを得た。
「というわけですじゃ、騎士様、村人同士で疑い合うのはどうしても避けたいのです、
本当に宜しくお願いいたします。わしらに協力できることならば、何でも致しますからの」
村長はそう言うとふかぶかと頭を下げる、
タバサは早速、バージルを通して、自分たちが宿泊する屋敷に村に残る娘たちを集めるよう村長に指示をする、
その数、おおよそ十五人ほど、一時的な避難所である。
それだけすると、タバサは調査を切り上げ、娘たちのいる客間の隣の部屋へと入って行くとさっさとベッドへ入ってしまった。
「寝るのか?」
「吸血鬼は夜活動する」
その言葉に納得したのか、バージルは椅子に座り、タバサの持っていた本を読み夜を待った。

夕方、すっかりと日も落ちあたりを闇が包み込む、今まで眠っていたタバサがぱちりと眼をあけベッドから降りる。
「起きたか」
バージルはむくりと起き上がったタバサを見て声をかける、
「聞きたかったのだが、なぜ俺がこんな格好をせねばならない?」
そう言うバージルを指差しタバサは短く言う。
「囮」
その一言で大体察したのか、バージルは持っていた杖をタバサに投げ返し閻魔刀を手に外へと出かける。
杖を持たぬメイジはただの人だ、剣を持っているとはいえ、メイジがそんな姿で歩いていれば格好のチャンスだと思うだろう。
さすがに杖を持たずに村を練り歩くのは問題があるし、集められた娘たちも守らなくてはならない。
そのためバージルは村長の屋敷の庭で夜風に当たりながらあたりを見回した。庭の隅の納屋にはタバサも潜んでいる。
二つの月が高く昇り、辺りを妖しく照らし出す。
二時間ほどそうしていたが、一向に吸血鬼は姿を現さなかった。こんなものかと思いつつバージルが屋敷に戻ろうとした時。
屋敷からか細い悲鳴が響いてきた。
「……きぃやああああああああああああああああ!!」
その声が聞こえるや否やタバサは納屋から飛び出し、聞こえてきた一階にあるエルザの部屋のある一角へと走り出す、
エルザの部屋の前までくると部屋の窓が割られおり、タバサは迷うことなく杖を握り締めその中へ飛び込んだ。
「いやあああああ!!」
毛布をかぶりガタガタと震えていたエルザは大きな声を上げる。
「大丈夫、落ち着いて」
タバサがそう言いながら怯えるエルザを落ち着かせる、
いつの間にか入ってきていたバージルが無遠慮にエルザに声をかける。
「襲ってきたのはどんな奴だ、答えろ」
その氷のような眼にエルザはひっ! と呻いて毛布をかぶってしまった。
「お、おねえちゃんもメイジなの?」
杖を持っているタバサにエルザが尋ねると、持っていた杖を恭しくバージルに手渡し、
再びエルザに向きなおった。
「私はメイジじゃない。ちょっと騎士さまの杖を預かって磨いていただけ、だから安心して」
「魔法は使わない?」
「使えない」
タバサは表情を変えずに言った。
ようやく落ち着いたのか、エルザは何があったのか語り始める。
眠っていたところ、耳の傍で荒い息が聞こえてきたので目を開けると
口から鋭い牙を生やした男が立っており、じっとエルザを見つめていたらしい。
残念ながら部屋が暗く誰だか確認することはできなかったそうだ。
おそらくエルザを襲ったのは屍人鬼だろう、村人の誰かわかれば大きな手がかりになったものを…
そう考えながらタバサは泣きじゃくるエルザを抱き、落ち着かせる。
バージルはフッっと小さく鼻で笑うとその部屋を後にする。
二階の客間で怯える娘たちに今あったことを説明しタバサ達はエルザを連れ部屋に戻る。
エルザが怯えきっていたためタバサ達の部屋で眠ることになったのだ、
バージルが部屋に戻ると、タバサに杖を放り投げ、椅子に座り目をつむってしまった。

翌日、エルザが襲われたこともあり、小さな幼子まで村長の屋敷へと避難させることとなった。
昨日、襲撃を受けたにもかかわらず犠牲者がでなかったことで村人たちからは多少の信頼を得たらしい、
村長の屋敷へ戻りながらバージルは横を歩くタバサに聞く。
「それで?どうするんだ?」
その質問にタバサはすっとバージルを指差し
「囮」
とだけ小さくいうと、耳元で二言三言、呟いた。
バージルは少し目を見開くと、持っていた杖を見て再びタバサを見る。
「いいのか?」
タバサはこくりと頷く、
「…後悔するなよ?」
「かまわない」

―ドッ!
その言葉とともにバージルが手に持った杖でタバサの鳩尾を強かに打ちすえた。
「げほっ…!」
指示したのは自分とはいえさすがに苦しい、その場に手と膝をつき苦しそうに咳込んだ。
その様子を冷たい眼でみながらバージルは続ける
「使えん奴だ…」
その様子に村人がなんだなんだと寄ってくる。
十分に人が集まったことを確認するとバージルはさらに続けた。
「貴様は立場が分かっていないようだな…」
「げほっげほっ…すいません…」
タバサは咳込みながら立ち上がり従順に頭を下げる。
「罰だ、夜にこの杖を磨いておけ。少しでも汚れていたら斬り捨てる」
「はい」
タバサはバージルに何度も頭を下げた。
村人たちは心配そうに自分たちを見つめている、騎士と従者のこのやり取りはすぐに噂となり広まるだろう。
「乗ってくるとは予想外」
さっさと立ち去るバージルを見ながらタバサが小さく呟いた。

やがて日は傾き、再び夜がやってきた。
村長の屋敷は村中の娘や子供たちが集められ大変な騒ぎだ、エルザは襲われたとあって、タバサ達と同じ部屋にいた。
そんな中、バージルは夜食として部屋に持ってきてもらったムラサキヨモギのシチューを食べているタバサに向かい杖を放り投げる。
「一階へ行け、朝までそれを磨いていろ」
そういうとバージルはさっさと椅子に座ってしまった。
打ち合わせ通りの囮作戦だが、うまくいくだろうか?
そう考えながら、エルザを連れ一階に降りようとした時、パリーンッ! と窓が割れる音が響いた。
隣の部屋だ、続いて避難していた娘たちの悲鳴が響きわたる。
タバサは立ち上がり、隣の部屋へと駆け込むと、中はとんでもない騒ぎになっていた。
一人の男が、一人の娘の髪をつかみ、入ってきた窓から逃げようとしていた。
「アレキサンドルよ! やっぱり彼が屍人鬼だったのよ!」
腰を抜かした娘の一人が半ばパニックに陥りながら叫ぶ、
果たしてその男はアレキサンドルであった、が、昼間見た朴訥な雰囲気はどこへやら、
眼は血走り、口の隙間からは牙が覗き、ふしゅるふしゅると獣のような吐息が洩れている、
入ってきたタバサに気がついたアレクサンドルは娘の髪の毛を掴んだまま逃げようとした。
もう隠している余裕はない、そう判断したタバサは小さく呪文を唱える。
「イル・ウィンデ」
風の刃が腕を切り裂き、屍人鬼は娘の髪をつかんだ腕を離してしまう。
娘をあきらめた屍人鬼はそのまま窓から飛び降りて逃走を試みる。
二階の窓から飛び降り地面に着地したその時、目の前に立っている男に気がついた。
その男は月光に照らされ妖しい光を放つ長剣をゆっくりと鞘におさめている。
―キンッ!という音とともにアレクサンドルの体は縦に真っ二つに泣き別れになり、崩れ落ちた。
同じように二階から飛び降りたタバサは、アレクサンドルの体に土をかけ、錬金で油にし、火をつける。
哀れな犠牲者が灰に変わる様を見ていたタバサは村の一角が妙に明るいことに気がつく、
見るとマゼンタ婆さんの家の方角が赤々と明るくなっている、
いやな予感に駆られながらもタバサはその方角へと走り出した。

タバサが駆け付けた時には既にマゼンタ婆さんの家はもうもうたる炎に包まれていた。
突如豹変したアレキサンドルが村長宅へと獣のごとく走り去って行ったところを見た村人がいたのだ、
その話は瞬く間に村に広がり、怒り狂った村人たちが家に火を放ったのだ。
「燃えちまえ! 吸血鬼!」
「なにが占い師だ! 俺たちを騙しやがって!」
村人たちは勢いよく燃え上がる家に口々に罵った。
タバサは唇をかむと杖を振り、呪文を唱える、
杖の先からアイス・ストームが放たれ、燃え盛る屋敷を包みこむ。
バチバチと氷と風が炎を瞬く間に鎮め、屋敷の火は完全に消しとめられていた。
村人たちはその光景にしばし呆然としていたが、はっと我に返り、不満の声をあげた。
「何をするんだ!」
「証拠がない」
険しい表情でタバサが言う、それを聞いた村人たちが激昂した。
「証拠だと? 息子が屍人鬼だったんだ! それで十分だろう!?
それにだ! あの婆さんは療養と称して外に一歩も出てこなかったんだ!」
タバサはじっと村人を睨みつける。いつの間にか後ろにいたバージルは嘲笑しながら、村人たちを見ていた。
その時火の消えたあばら家から村人たちの歓声が聞こえてきた。
「見ろ! 吸血鬼は消し炭だ! ざまぁみろ!」
タバサが消し止める前に家の中は完全に燃え落ちてしまっていたのだ。
「それに、証拠がないっていうが、ちゃんと証拠ならあったぜ…」
薬草師のレオンがタバサの前に赤い布きれを投げつける。
「そいつが、犠牲者の出た煙突の中にひっかかってた、マゼンタ婆さんの着物の切れ端さ、
そんな派手な染めはこの辺の者は着ない。あの婆さんは煙突から出入りしていたんだ。
そりゃあ、いくら窓や扉を釘でうちつけたって無駄だよ…」
得意げに説明するレオンを見て、バージルは呆れたように鼻で笑うとさっさとその場を後にしてしまった。
入れ替わるようにその場にエルザを連れた村長が現れ。タバサにペコリと頭を下げる。
「ご苦労様でした、騎士様、村人たちの非礼をどうかお許しください、彼らは家族を失い気が立っておるのです。
この通りお詫びいたしますじゃ、何はともあれ、解決してよかったですじゃ…」
村長の影からエルザがタバサをじっと見つめ、手に持った杖を睨む
「嘘付き!」
と哀しそうな声で怒鳴った

一時間後…
タバサが与えられた部屋に戻り、バージルに話しかける
「どう思う?」
「どうもこうもない、まだ終わってはいない、今度は"狩る"だけだ」
そう言うとゆっくり振りかえる、バージルの眼は狩人の眼になっていた。
タバサが口を開こうとしたその時、不意に部屋のドアがノックされる。
タバサは立ち上がり、ドアをあけると、そこにはエルザが泣きそうな顔をして立っていた。
「さ…さっきはごめんなさい、おねえちゃんみんなのために頑張ってくれてたのに…わたし、失礼なことを言っちゃった…」
タバサは短く首を振る。
「行っちゃうの?」
「夜明けに出発する」
「そう…そうだ! おねえちゃんに見せたいものがあるの! ちょっとだけだからいいでしょ? 
ムラサキヨモギがいっぱい生えてるところを知ってるの! おみやげに少し持って行って!」
屈託のない笑顔でそういうエルザに、タバサは少し考え込んでいるとバージルが不意に口を開く。
「行って来い、俺は先に寝る」
その言葉にタバサは小さく頷く、
それを見てじゃあ、とエルザはタバサを促す、それから杖を持とうとしたが、エルザが怯えたような表情をしたので、
部屋の中に立てかけておいた。
「ありがとう」
とエルザは少し安心した表情をみせ、月明かりの下、その場所へタバサを案内した。


「ねえ、おねえちゃん。もう一度質問するわ、どう違うの? ムラサキヨモギを摘むのとわたしがあなたの血を吸うのと一体なにが違うの?」
「…………」

村のはずれの森、ムラサキヨモギの群生地で二人の少女が月夜の中向かい合っている。
一人は先住魔法により伸びた木の枝に捕まり、白い肌を露わにしている、
さらに幼い容姿のもう一人の少女はそれを悠然とそれを眺めて笑みを浮かべていた。
タバサはまんまと罠に嵌り、吸血鬼エルザの先住魔法によって枝が手足に絡みつき身動きが取れなくなっていた。
元々杖のない少女に対抗する術はなかったのだが、さらに体まで拘束されている状態だ。
タバサは無言でエルザを睨みつけた。
「そんな目で見ないで、ねえ、教えて?」
「…どこも違わない」
その言葉を聞き、エルザの顔が輝く、
「そうだよね、ああ、わたしおねえちゃんが好き、だから血を吸ってあげる。これからは私の中でお姉ちゃんは生き続けるんだよ。
それって素敵……」
少女は牙をタバサの首元へ運ぼうとしたその時、
「あなたは終わり」
「え?」
タバサの意外な一言にエルザは疑問の声を上げる、
「情けない有様だな、杖がないと何もできんのか?」
聞こえてきたのはタバサを気遣う声…ではなく、むしろその状態に陥っている事に呆れているような声。
突然聞こえてきた声に、驚愕の表情でバッっとエルザが後ろを振り向く、
そこには村長の家で眠っているはずの従者の男…バージルが悠然とこちらへ歩いてきていた。
「な…な~んだ、従者の人じゃない、メイジじゃないただの人に一体何ができるっていうの?」
歩いてきたのが騎士の役をしていた従者の男だと気が付き、エルザは安心したように声をだす、
相手はメイジではない、ただの人間、遅れをとるはずがない、そう考え、先住魔法を使う。
「枝よ。伸びし森の枝よ。彼の腕をつかみたまえ」
突如、木々の枝がバージルに向って勢いよく伸び、彼を拘束しようとした、その時
―シパパッ!シパッ!
軽い音とともに伸びてきた木の枝が細切れにされ、地面に落ちる。
「えっ!?」
何が起こったかもわからずエルザは狼狽し、恐怖した。
とっさにタバサの首に枝を絡みつかせ、締め上げる、
「ち…近寄らないで! これ以上近づいたらおねえちゃんの首を折るよ!」
こちらに向かい悠然と歩いてくる男に脅迫する、が男の足はゆるまずこちらへ歩いてくる。
「うぐっ…」
タバサが苦しそうな声をあげるが、バージルはまるで耳に入っていないといわんばかりだ、
すると突然、バージルがエルザに向かい持ってきていたタバサの杖を放り投げる。
「えっ?」
くるくるとまわりながらゆっくりと飛んでくる杖にエルザが思わず視線をむけた瞬間、
バージルが一瞬にして距離を詰め閻魔刀を抜刀、タバサに絡みついた枝をすべて切り落とす、
そしてそのまま後手に閻魔刀を持ちかえエルザの腹を貫いた。
「げはっ!!」
エルザが血を吐き、崩れ落ちる瞬間にバージルは閻魔刀を引き抜き、倒れこむタバサを腕に抱き抱えた。
「うっ…」
拘束から解かれたタバサがゆっくりと目をあけると、バージルに抱えられていることに気がつき、妙な気恥かしさを覚え顔をそむける。
バージルはそんなことはおかまいなく、唐突に腕を放しタバサを地面に放り出すと、倒れ伏し悶絶しているエルザに近寄って行く。

「ど…どうして…痛い…く…くるしい…」
先ほどまでの威勢は消え去り、代わりに弱々しい言葉がエルザの口から零れる。
「ね…眠りを導くか―『―ドゴォッ!!』」
なおも立ち上がり、先住魔法を詠唱しようとするエルザにバージルの無慈悲な蹴りが腹部にある傷口目がけ叩き込まれる。
「あぁっ!!」
2メイルほど蹴り飛ばされ、エルザはもんどりうって倒れる、そこへ近づいてきたバージルがエルザの顔を踏みつけた。
ギリッ…ギリッ…と徐々に踏まれる力が強くなっていく。
エルザは自分を踏みつけるバージルに向け震える声で哀願を始めた。

「お…おにいちゃん…お願い、こ…殺さないで、私は悪くない…人間の血を吸わなきゃ生きていけないだけ…
人間だって獣や家畜を殺して食べる、どこも違わないっておねえちゃんがいってたよ? だから…」
バージルはそう哀願するエルザを、磨き上げたはずの道具にへばり付く虫を見る様な眼で見ている。
「どうして殺そうとするの!? 私は生きるために―「おい」」
今まで黙っていたバージルがエルザに静かに声をかける
「貴様、何を勘違いしている」
「え…?」
「虫を踏み潰すのに、躊躇う奴がいると思っているのか?」
「うそっ…うそよね? お願い! やめっ―」
―グシャッ!
エルザの頭をバージルが踏み潰し、果実が割れるように頭の中身を地面にブチまける。
エルザだったモノは首から上を失いピクピクと痙攣していた。

「ふん、吸血鬼がどんなものかと思い来てみれば…所詮この程度か…」
バージルはつまらなそうにそう吐き捨てると、タバサへと向きなおり近づいて行く。
「まったく…呆れたな、杖が無ければ何も出来んとは。まだ話にならん…」
「…それがメイジ」
力なく座り込みそう呟くタバサ、だがどこか悔しさがにじみ出ていた。
「どこから気づいていたの?」
「あれが最初に襲われた時だ。手口は眠りの魔法を使って黙らせてから、と聞いていたが、わざわざ発見される恐れのある
屍人鬼を使って攫おうとした、それもそうだ、自分を眠らせるわけにはいかん。そして次も屍人鬼を使いメイジであるお前を炙り出しにかかってきた時もだ。
ずっと俺たちを観察できる立場にいたのがこいつという訳だ。」
「そう…」
タバサはそう呟きながら唇をかみしめる、やはり自分は力不足だ、そう考えているとバージルが話しかけてきた。
「その格好で歩くつもりか?」
「………」
その声に気が付き自分の体を見る、エルザの先住魔法によりビリビリに服が破かれところどころ白い肌が露わになっていた。
バージルは小さくため息を吐くと、彼を象徴する蒼いロングコートを脱ぎ、タバサに掛ける――のではなく投げつける。
「それでも着ていろ」
「…ありがとう…」
タバサはほんのすこしだが、嬉しそうに呟くとコートに袖を通す、
体格差があるためタバサが着るとぶかぶかで妙な姿になっている。
空を仰ぐと、遠目であるが雲間にシルフィードの姿が見えた。
本当は変化したシルフィードのための着替えを持ってきていたが、出さなかったタバサであった。

ガリアへ報告に戻るために、二人はシルフィードの背に乗り飛び立つ。
「任務はどうだった?きゅいきゅい」
二人からの返事はない、バージルは静かに本を読み、タバサはポケットの中にあったムラサキヨモギの葉を口に入れていた。
それに慣れているシルフィードは別な話題を切り出す、
「おねえさま、どうしておにいさまのコートを羽織っているの? 着替えならあ―」
ゴンッ!っと少々強めにシルフィードの頭を杖で叩く。
「い、痛いのね! きゅいきゅい!」
その言葉に反応したのか本を読んでいたバージルが顔を上げる
「着替えがあるのか? だったら返せ」
「ない」
キッパリとタバサは否定し、シルフィードの速度を落とす。
ガリアについても、タバサはなかなかコートを脱ごうとしなかったのであった。


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