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マジシャン ザ ルイズ 3章 (43)

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マジシャン ザ ルイズ 3章 (43)激突の報奨

空を、往く。

飛翔艦ウェザーライトⅡは、その翼に風を受けながらハルケギニアの最重鎮である人物の一人を乗せて、雲海の上を飛んでいた。

朝焼けの光を反射して輝く甲板は美しい。
しかし、眺めるだけなら心奪われるであろうそれも、実際にブリッジで舵を握る人間にとっては眩しいだけであったし、外の気温といえば人間が生きていくにしては少々過酷な温度であった。
他方、壁一枚隔てた外部の極寒に比べると、ウェザーライトⅡの内部の気温は人間が過ごしやすいように配慮されたものとなっていた。
魔法機を利用した冷暖房の空調が完備されているウェザーライトⅡの居住空間は、人間にとって快適な気温になるように調整されているからである。
それは季節や天候に合わせてその都度自動調節するといった代物であることからも、気の入れようが伺える。
あるいは制作者達の凝り性な性質がそうした部分に現れたといえなくもない。


その一室。

「……という訳だったのよ」
「どうでもいいけど、はしょりすぎだと思うわ」

ベッドと白い丸テーブルに同じ色の椅子二つ。
殺風景を通り越して、病的なまでに居住性に無関心なコーディネーターの偏執ぶりが伺える船室で、キュルケとルイズは向かい合って座っていた。
テーブルの上にはソーサーとカップがワンセット、そしてグラスが一つ。
その一方、湯気と香りが立ち上るカップを右手で持ち上げて、キュルケはそれに品よく口付けをした。
「何がはしょりすぎなのよ。きちんと説明したじゃない」
「全然説明になってないわ。教皇猊下を説得してご乗船頂いたっていうのは分かったけど、肝心のどんな話をして説得したかっていうのがすっぽり抜けてるじゃない」
そうなのである。
彼女が行った説明は結論・結果を報告しただけの簡素なもので、肝心の説得の内容や教皇の反応といったものに一切触れられていなかったのである。

元はといえばルイズがキュルケに『ロマリアで、教皇猊下にどんなことを話したの?』と尋ねたのが始まりであったのだが、キュルケはロマリアでの詳しい経緯についてはのらりくらりとはぐらかし続けていた。
「んー、それはねぇ……」
濁しながらも涼しそうな顔でカップを傾けるキュルケに、ルイズは相手に話す気がないことを見て取って、内心で嘆息した。

キュルケ達の会見の二日後、ウェザーライトⅡは都市ロマリアで教皇とその側近である数名の高位司祭を乗せて、トリステインへと進路を定めた。
本来はそのままガリアへと向かう手はずであったのだが、教皇がどうしても条約締結の場に聖女を、ルイズを出席させてほしいと言い出したのである。
このことに対して自身の決断で返答を返せないと判断したモットがトリスタニアにいる女王に判断を仰ぎ、その返答を受け取るために要したのが、先の二日という時間である。
結果として、女王アンリエッタはルイズを出席させることに同意の意を示した。
この判断は、もしものことがあってロマリア側からの『虚偽聖約』への弾劾があってはたまらないという側近達の政治的配慮もあったが、何よりルイズ自身の希望があったからである。
ルイズが何故ガリアへ行くことを希望したのか、そのことについて結局最後までアンリエッタに分からなかったが、そういうことならと彼女は渋々ルイズのガリア行きを認めた。
こうして、ウェザーライトⅡはガリアへ向かう途中、一度トリステインへと引き返して、そこでルイズを乗船させてからガリアへ向かうという航路をとることになったのであった。



「まぁ、色々よ。それより、あんたは何で今回の会議に出たいなんて言い出したのよ。別にこんなの面白いことなんてありはしないわよ? 大体の粗筋は偉い連中の間で決まってて、どうせそれをなぞるだけなんだから」
キュルケは素知らぬ顔で、ルイズの言葉に返す刀で聞き返した。
実際、話をはぐらかす以上に、キュルケはルイズにそのことを聞いてみたかったのである。
「ん……何でかしらね」
ルイズは疑問に疑問で返されても別段そのことを指摘せず、自分の前に置かれた、水の注がれたグラスを手にとって、それを口に含んだ。
今二人がいる船室は本来キュルケに割り当てられたものである。
当然二人の前に置かれているカップとグラスはキュルケが用意したものである訳だが、これは何もキュルケがルイズに嫌がらせをして水を出したというわけではない。
単にルイズはお茶より水が良いと希望しただけのことである。
「強いて言えば……自分の関わったことの、行く先を見てみたかったからかしら……」
ルイズは船室にただ一つある窓から、青く澄んだ空を見た。
その鳶色の目は何か遠いものを見ているようで、その実、何も映してはいない。
「アルビオンで、ニューカッスル城で、私が魔法を使ったりしなければ、ワルドはあんなことにならなかったかも知れない。
 ワルドがああならなければ、世界中で起こってる悲劇は無かったかも知れない。そう思ったら、原因である私は、変化を、結果を、見届けなければならないと思ったの」
そして、ルイズは自らの言葉に、心の中だけで この命が尽きる前に と付け加えたのだった。



ガリアの朝は、その日も怠惰だった。

衣擦れの音。
高級感と壮麗さという概念をそのまま形にしたような立派な天蓋付きベッド。
その上で、もぞもぞと動くものがあった。


その朝、イザベラは得体の知れない息苦しさに目を覚ました。
まるで体の半身に何か上に重いものが乗せられているような圧迫感を感じる。
寝起き特有の、このまま目を閉じて再び眠りに落ちようかという甘い誘惑に、イザベラは『こなくそ負けるか』とばかりに負けん気を発揮して、ふかふかのベッドに横たわったままで首だけを曲げ、自分が感じている重量感の正体を目視した。
そこには自分の胸を枕にして寝ている、先日から同室同衾している義妹の姿があった。

「おい、シャルロット。朝だ。邪魔だ、頭をどかせろ」

その首に自分の右腕が回されて、アームロックのような形になっている状態を見るに、何とはなしに原因が自分にある気がしないでもないイザベラは、心持ち遠慮がちにタバサに声をかけた。

「……シャルロット。起きろ」
「………」

今や北青薔薇花壇騎士にして、ただ一人の女王の近衛騎士であるところのこの従姉妹が、優しく声をかけた程度で目が覚めるような神経の持ち主ではないことは、既にイザベラも重々承知していた。
むしろ二日目にして否応無く理解させられていた。
よって、声をかけたのはあくまで『優しくしましたよ?』というポーズであったし、自己満足程度の意味合いしかなかった。
だが、その声かけが災いしたのか、タバサはのっそりと体を動かすと、ますますイザベラの胸に顔をすり寄せてきた。
「ちょっ、こらっ! やめろ、くすぐったい!」
ちなみにイザベラは今、全裸である。
寝るときも全裸、それがイザベラのスタイル、イザベラ流。
よって鼻を擦りつけてくるタバサのさらさらとした髪が肌に、敏感な部分に当たって、とてもくすぐったい。
「やめ……」
タバサのそれは、止めろといって止める寝ぼけ度合いではない。
そうして存分にふるふると鼻を、頬を、寄せていたタバサは、ついにはイザベラの胸に吸い付いた。
イザベラの弾力ある果実に口づけて、舐めて、吸って。タバサは夢見心地のまま、存分にその感触を楽しんでいた。



流石にこの段に至り、イザベラの顔は真っ赤な憤怒の粧いに染まっていた。
「こんのっ!いい加減に……っ!!」
左手を、堅く堅く握り締めて、振り上げる。
目標は自分の右胸を涎でべたべたにしながら吸い付いている愚か者の後頭部。
掲げた拳を、勢いよく、振り下ろす

 直前、手を止めた。

イザベラには別段にレズビアンのケはない。
タバサのそれで気持ちよくなったりなんてことも、勿論、無い。
それでも手を止めたのは……

「母さま……」

と漏れた聞いた言葉と、その頬を流れた一筋の涙に免じてのことであった。

「………………ちっ」

落とし所を失った拳を、力なく降ろす。
そしてイザベラは「そんなこと言われたら、どうしようもないだろ。馬鹿が」と毒づいて、すらりとした両手・両足を伸ばして広げた。
仰向けの姿勢で深紅の天蓋を見上げて、イザベラはぼーっとした頭でこれまでのこと、これからのこと、今のことを考えた。
和解、協力。
どこへ向かうのか、これからどうなるのか。
普段なら考えないようなことを、考えてみた。
当然答えは出そうになかったが、その胸に感じるタバサの(ちなみにまだ吸い付いて離れない)ことを考えると、どうにかなりそうな気がしてきた。


「何してるのねこの性悪従姉妹姫はああああっっ!!!」
「あだっ!」

そこまで考えたところで、イザベラはその側頭部に激しい衝撃を受けた。

「だっ、だだっ!? なんだっ! どうしたっ!?」

絶叫、鈍痛、衝撃。
何一つ予想だにしなかった展開に、イザベラも驚きの声を上げる。
慌てて声の主を捜すと、ベッドの脇に、全裸の女が立っていた。

「!? 何者だ! 暗殺者か? この間のヤったディミトリス卿の手のものか!? それともテンプラード伯か? ウーノ伯か、ビエント卿か? そうか、されはその格好は尻の穴の小さいサンチェスのやつの手の者かっ!?」
「心当たりあり過ぎなのね、きゅいきゅい」



なんとか動転した気持ちを抑えつけて、改めてイザベラは全裸の侵入者を見た。
年齢は自分よりも少し、二つ三つは上だろうか。
背は高い、シャルロットは勿論自分より高い。というか平均的な女性のそれより少し高いくらいだろう。
胸も勿論相応にある。当然数年後には追い抜いている自信はあるが、癪なことには違いない。
髪は長く、その色は自分と同じ鮮やかな青。
それと、恐ろしく全裸。あえて言い換えるならマッパ。
そして右手には、そのへんで拾ってきたような飾り気のない野太い木の枝。

それで殴ったら死ぬだろと思いつつも暗殺者だから殺すつもりでそれを使うのは正しいとか、そんなことをイザベラは存外冷静な頭でつらつら思った。

「とにかく! 大人しくおねえさまを解放するのねっ!」
猛然一声。
人指し指をびっと突き出して、叫ぶ侵入者。
「……ああん? 姉さまだぁ?」
イザベラが誰だよと思う間もなく、素っ裸の珍入者がタバサの腕を掴んだ。
「いいから、放しなさいぃぃ!!」
細い腕でわりかしがっちりとイザベラの胴体に手を回しているタバサを、女はぐいぐいと力任せに引っ張った。
「ぐぁ、ちょっ、痛! やめ……」
「はーなーしーなーさーいーっっ!!」
タバサの胴体に手を回し、力一杯引っ張る女。つられて一緒に引っ張られるイザベラ。
そのままイザベラとタバサは、団子になったままでずるりずるりベッドの上を引きずられていった。

「の……っ! やめろって言ってるだろ……っ! この痴女っ!」
そうしてついに、ベッドから絨毯敷きの床へと引きずり落とされるに至り、イザベラのあまり頑丈ではない堪忍袋の緒がキレた。
「ちっ……! この誇り高き韻竜の眷属たるシルフィに、なんたる暴言なのね! このデコちんが!」
毛布ごとタバサと一緒にベッドから引きずり下ろされたイザベラが、執念深く絡みつくタバサの手を力まかせにふりほどいて、ゆらりとその場に立ち上がった。

「何度でも言ってやる! この、痴女! 痴女! 痴女! 変態! 露出狂!」
「な、なんてこと言うのねこのいじわるツリ目デ・コールピカリン姫は! 自分だってなんにも着てないこと棚に上げて!」
「ここはあたしの部屋だ! 人様の部屋で素っ裸なのと自分の部屋で素っ裸なのは全然違うんだよ!」

叫ぶイザベラ、吠える侵入者。
竜虎の激突を予感させる両雄の戦いが、今幕を開けた。





その朝、タバサが喧噪に目を覚ますと、そのぼやけた世界は逆さまだった。
否、逆さまなのは世界ではない、彼女自身である。
上半身だけが床にずり落ちて、しぶとく残した下半身だけがベッドの上。
上が下で、下が上、よって上下逆さま。ならば映る世界も逆さまなのは当然の理屈である。
眠い目を擦りながら這いつくばるようにしてなんとかベッドに戻り、そのまままた眠りにつこうという段で、タバサは目覚める契機となった部屋の騒がしさに、ふと気まぐれに注意を向けた。
そしてタバサは何事かを確認するべく、ベッド脇のテーブルに置いてあった眼鏡に、その手を伸ばした。

そして、寝ぼけ眼のタバサが見たものは……
「い、ぃたあ! なんてことするのね! 頭突きなんてお姫様のすることじゃないのね! この似非王女!」
「だぁれが王女だ! あたしはもう女王だ! 分かったかこのうすのろトンチキめ! って、植木鉢を振り回すな!」
「きゅいきゅい! そこを動くななのね、鉢が外れるから!」

一糸まとわぬ姿で雄々しく闘う、二人の青髪であった。

真実とは得てして無慈悲である。
「………」
ああ、多くの人間が適うことなら関わり合いになりたくないと考えるその二人。
「………」
彼女たちは紛れもなく、タバサの見知った者達であった。

「………」


「きゅいきゅい! 髪を引っ張るのは卑怯なのね!」
「うおっ! やめろ! 噛むなっ! 放せこの……っ! ――上等だ、そっちがそういうつもりならこっちの毛も引っこ抜いてやるよっ!」


「………」


スクウェアクラスの風の猛撃が、二人を部屋の調度品ごと吹き飛ばしたのは、その少し後のことであった。


                      その眠りを 妨げるものに 報いあれ
                        ――古の王の墓の前にて バッソ・カステルモール


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