あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第二話


「いい?あんたの命は私の物、勝手に罪を償うとか勝手を言わずに言われたことだけやりなさい。まず最初の命令、必ず助けてあげるから大人しくしてなさい」
「はっ。重ね重ねの不始末に加えて此度の寛大なる……「あーはいはい、返事は簡単に」
 目の前で跪いて頭を垂れる使い魔の言葉を、幾分うんざりした様子でルイズは遮った。忠誠心に厚いのは良い事だが、先ほどまでの大暴れと見た目からのギャップが激しい。おまけに、こんな大仰な傅き方をされては流石に大貴族の出のルイズとはいえ気疲れする。
 使い魔の背後で杖を構えるコルベールも、この使い魔の様子に戸惑っていた。魔法で治癒させたとはいえ、衰弱状態から眼を覚ますや否や『人間は敵だ』とルイズを壁まで殴り飛ばし、近くの水メイジの右手を蜀台で貫き、それを人質としてコルベールに向き直った一瞬の攻防。今はルイズのことを救世主だの神だのと呼び跪いているが、眠りから覚めた瞬間に敵を認識して戦闘態勢に移行する精神、蜀台如きで人間の腕を壁まで縫いとめる膂力、人質を取るという知性、そして何よりも人間を敵とする認識……決して油断してよい相手ではないはずなのだ。
「ではミス・ヴァリエール。残念ですがこのまま貴方の使い魔を自由にする訳にはいきません。学院内の事件ですからまず学院長と相談しなければいけません。それに再び彼が貴方を襲わないとも限らない。彼は、学院で拘束します。貴方は今から授業に復帰しなさい」

 両腕を縄で拘束された後にさらに錬金で縄を鉄に変える。そこまで拘束してもコルベールは安心できなかったが、共に歩くギトーとシュヴルーズは暢気なものだった。
「ミスタ・コルベール、流石に心配のし過ぎでは? 私だってトライアングルですわ。この錬金を破って暴れだすとは思えませんが」
「そうですとも。それに万一暴れだしても最強の風を操るこの私がいるのですから」
 そういってミゴールを珍しそうに観察して、ああだこうだと笑い合う二人の様子にコルベールは小さくため息をついた。先ほど倒れていた医務室のメイジがミゴールの膝蹴りで撒き散らした血と汚物を、そして頭突きで鼻骨と頬骨を砕かれていた無残な姿を見ただろうに、この油断のしようは何だと思う。
 三人のメイジに警備員で周囲を固めた状態で倉庫の扉を潜る。ひとまずここが牢の代わりである。
 そのことを理解したのか、ミゴールはコルベールが向けた視線に頷きを返すとその場に腰を下ろして両足を組んだ。その自発的な行動にコルベールは軽く驚いた。
「あ、ああ……きょ、協力的でよろいい。それでは判断が下るまで君への処分は保留です。暴れずに大人しくしておくように」
 猿轡を噛まされているため頷きで返事をするミゴール。やはり最初の様子が嘘のような従順さである。腕の拘束はそのままに猿轡を解くが、やはり暴れることは無い。
「ふぅむ、怪物のような見た目の割りにずいぶんと大人しい生き物なんだな。ミスタ・コルベール、コイツは人間の言葉が分るといっていたが本当かね?」
「み、ミスタ・ギトー、彼はかなり高い知性を持ち十分に我々の言葉を理解しています。今は大人しいですが怪物などという言い方は……」
 慌てた様子でギトーの続く言葉を遮るコルベール。自信過剰なところがあるとはいえ、ギトーはこれでもスクウェアメイジであるし滅多な事は無いだろう。だが先手を打って暴れられては二人目の怪我人を出すことになってしまう、そう思ってギトーをとりなすコルベールだが、意外にも本人から言葉が帰ってきた。
「コルベールと言ったか、我が主の師よ。気遣いは無用なり。我等ミゴール、己が怪物との自覚は既にあり、それはむしろ誇りである」
 意外にも流暢な言葉が出てきたことにギトーとシュヴルーズが驚愕する。半身が異形であるためであろう、少々声に違和感があるものの知性を持つことを示す言葉がはっきりと返ってきたのだ。
「ほ、ほほう、ミス・ヴァリエールは亜人を召喚したのか。トロール鬼ほどではないとはいえ随分と力のありそうな体だな」
「そうですわね。それに言葉が分るなんて珍しい……あなたはどこの辺境から来たの?」
「我が主より大人しくしろとの命を頂いている。詮索は無用」
 物珍しげに観察しながら不躾な質問をする二人見て、コルベールは彼らがミゴールの逆鱗に触れてしまうのではないかと冷汗をかいていた。
 と、そこにノックの音が響いたと思うとドアが開かれる。
「ほっほう?これがその使い魔かね。なるほど恐ろしげな外見じゃな」
「失礼します……」
「が、学院長?わざわざここまで……」
「何、ただ怪物が暴れたというならともかく生徒の使い魔とあっては適当な処分はできぬよ。それに、使い魔は主人と一心同体。自分の知らないところで使い魔の処分を決められるなぞメイジとして耐え難いことじゃろうて。生徒への気遣いが足りんな、コッパーゲ君」
 ひょいと部屋の中に入ってきたオスマン、その後ろにはルイズがおずおずと付いてきている。それを庇うようにミゴールとの間に割って入るコルベールだが、オスマンは構わずに跪いたミゴールをじろじろと観察する。ルイズも心配そうに後ろからその様子を見ているが、ミゴールは彼女の言いつけどおり大人しくしていることに安堵する。
「ふむ、医務室で大暴れしたと聞いたが随分と大人しいようじゃな。それにこのワシですら知らぬ生き物とは珍しい」
「あ、あの学院長? この亜人は人の言葉が分るようで……」
 軽く手を上げておずおずと声をかけるシュヴルーズ。自分も先ほどコルベールに言われるまでは、言葉も分らない亜人と思って不躾に観察していただけにばつが悪そうだ。
 それを聞いてオスマンは小さく驚きの声を漏らすと、ミゴールの前に立つと腰を屈め目を合わせながら問いかける。
「ワシはこの学院の長、まあオールド・オスマンと呼ばれておる。おぬしの名はなんというのじゃ?」
「……我は一介のミゴールの戦士なり。名など無い」
「ふむ、それではミゴール君。ワシはこの学院に責任があり、おぬしはここでワシの管理下にある人間に怪我をさせた。ここまではよいかな?」
「が、学院長! それについては……いや確かにそうなんですが……」
 不穏な学院長の言葉に思わず声を上げるルイズ。しかし彼女もミゴールから強かに殴られている身。ベッドで寝ていた体制からとはいえ、ミゴールの拳を受けた頬はあざを浮かべて腫れている。『今は私に忠誠を誓って大人しくしている』と言いたいが、先ほどの大暴れで怪我人を出している以上は危険な使い魔と見られるのは仕方の無いことかもしれない。
 あうあうと上手く言葉が浮かばずにいるルイズを見て軽くオスマンは微笑んだ。そしてもう一度ミゴールに向き直る。
「しかしおぬしはミス・ヴァリエールの使い魔であり、彼女の管理下にある。ワシがおぬしに罰を下すのは彼女の管理能力を認めないことになってしまう。
さて……これから先、おぬしが勝手に暴れたりせず彼女に従うと誓うのであればおぬしを彼女の使い魔として開放することにやぶさかではないんじゃがな?まあ怪我人の治療費などはミス・ヴァリエール持ちになって貰うがの」
「「が、学院長っ」」
 ルイズとコルベールから全く違う色の声が上がる。ルイズは喜び、コルベールは驚愕。
「そう心配するでないコルホーズ君。生徒の召喚した使い魔が暴れて怪我人が出たというが、ほれこの通り大人しいものじゃ。大方現在の状況が分らず混乱したのではないのかのう。さてミゴール君、返事はどうかね」
「我は我が主によって救われた身。逆らうことなど世界が砕けようとも在り得ぬこと」
 その言葉にオスマンは大きく頷くと腰を上げる。杖を振り腕を拘束していた鉄の縄を繊維の束に錬金して戒めを解いてぐるりと部屋を見回す。
「さて少々大げさなことになったが、これにて一件落着じゃな。さて教師は授業に戻るように。ミス・ヴァリエールも、と言いたいがいろいろあったばかりじゃ。まあしばらく休んだら授業にもどるのじゃぞ?」
 呵呵と笑ってオスマンはコルベールらを伴って倉庫を出る。扉の前にいた警備員達も三々五々持ち場や詰め所に戻って行き、ルイズとミゴールが残される。
 二人になってようやく緊張の解けたルイズは大きく息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁ、やれやれ一体どうなるかと心配したわよ全く」
「はっ。誠に申し訳ございませぬ」
 先ほどの拘束されていた姿勢から再び跪いてルイズに頭を下げるミゴール。
「ああいいのよ怒ってる訳じゃないから。私の言いつけ通り大人しくしていたようね。はあ……使い魔を取り上げられるかと心配したわ、ともかくこれで一人前のメイジね」
 そういってにっこりと笑うルイズ。なんだかんだあったが、使い魔はえらく従順で、粗暴なところがあるが案外強いようだ。と、そこまで考えてルイズはミゴールの方を見ながら少し集中する。
「ん……? あら、だめね……感覚の共有ができないなんてどういうことかしら」
「何か御座いましたか、我らが救世主よ」
「ああちょっとね。いいわ、休んでいいと言われたし部屋に戻りながら説明するわ。それとアンタのことも聞かせてもらうわね」
 ミゴールを伴って倉庫を出るルイズ。
「ああまずは口の利き方から。救世主はやめなさい、気持ち悪いわ。ルイズ様にしなさい。それじゃあ使い魔の仕事から……」


「……何それ?あんたそんなこといってると教会に連れて行かれるわよ、絶対創造神カルドラに抑制神バルテアスなんて」
「はっ。ご無礼を承知で申させて頂きました。しかしながら、この世界もまたカルドラの力によって作られたことは紛れも無い真実。そのブリミルもカルドラの被造物で御座います」
 ルイズの部屋でミゴールに使い魔の役割を説明した後、ミゴールがどこから来たのか説明させていたルイズだが、ミゴールの語るのはハルケギニアの価値観を真っ向から否定する神話であった。
「創造の力を独占するカルドラを討たんと、抑制と中立の神たるバルテアス神は反旗を翻されたのです。そして創造の書たるカルドセプトを奪い、カルドラ世界全てを討つため四属の王とカルドラ世界の敵たる我らミゴールを創られたのです。……これが、その証で御座います」
 そういうとミゴールはその手に尖った爪を押し付け皮膚を裂く。
 血が滴り床へを垂れ……ばちばちと音を立てて木の床板の上を跳ね回る。
「何、これ……あんたこれ何をしたの?」
「……何も、しておりませぬ。これが我らミゴールなれば。世界の敵たる我らミゴール、世界そのものが我らに敵対致します」
 淡々と語るミゴールの声。ルイズとミゴールの視線の前で、跳ね回る血の雫たちは煙を上げて消えてゆく。
「日差しは肉を溶かし、雨は皮膚を穿ち、空気すら毒となり肺腑を焼きます。そして血の一滴すら大地は拒み、死して土に還る事すら世界は許しませぬ。バルテアス神が敗れた今、我らはカルドラ世界の中で僅かに残るバルテアス神の力を残す飛び地で滅びの時を待つばかりで御座いました」
 やがてミゴールの血が止まる。血の雫は、一滴も床に残っていない。
 呆然とするルイズの前で、ミゴールは両膝を床に付く。そして両の拳も床につけると勢い良く額を床に叩きつける。
「何卒お願い致します! ルイズ様が授けて下さいましたこの刻印、我らに敵対する世界からミゴールの肉体を守るこのお力……これこそ我らミゴールを救う福音! 我らミゴールをその力でお救い下さい。さすれば我らミゴール、四属のあまねくを討ち滅ぼし世界を焼き、カルドセプトをルイズ様へ捧げます。我らの子のため、子の子のため……何卒、我らミゴールをお救い下さい。バルテアス神の復活のためそのお力を振るわれますよう、何卒っ……!」


「精霊が悲鳴を上げておったな……」
 授業に戻る教師を見送りながら、ポツリとオスマンが呟いた。
「ミス・ヴァリエールに忠誠を誓ってはいるようじゃが……あんなものが尋常の生物であるはずがあるまい。ありゃ、一体なんなのじゃろうな……」
 一人になったオスマンは、学院長室ではなく図書館の方へ足を向けた。
 「やれやれ、自ら調べ物とは久しぶりじゃ。これだけ長く生きても解らぬことは多いものじゃのう」



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