あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

血風党異聞 前編

聖堂内に、木材乾いた音が反響する。

矢のように飛び込んできた一撃に、居合わせた三人の動きが止まる。
殺す者、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと、殺される者、プリンス・オブ・ウェールズ。
二人の間に割って入ったのは、七つの節の入った、2メイル程の長さの棍だった。

「――と、危ねぇ危ねぇ。ちょっとギリギリだったな」
「サイト!」

ルイズが驚きの声を上げる。
昨夜、ケンカ別れしたはずの使い魔が、こんな土壇場に現れるとは思ってもいなかった。

「……トリステインへ帰ったのでは無かったのかい? 使い魔くん」

「敵を欺くには、まず味方から、ってね。
 アンタの三文芝居よりはいい演技だったと思うぜ」

「……」

ワルドは無言で飛び退ると、才人向けて杖を構えなおした。

「王子と姫君を助けにきたナイト気取り、か。 だが、丸腰でどうやって戦うつもりだ!」

叫びと同時に烈風が放たれ、衝撃波が才人目掛けて牙を剥く。
いかに伝説と言えども、丸腰の使い魔では避けようのない一撃――だが、

「ガンダールヴ舐めんな! 色男」

衝撃が全身を包んだかに見えた刹那、驚くべき勢いで才人が横に跳ねる。
空中で、ワルドへ向けて、その右腕を伸ばす。

「なッ!?」

才人の指先から放たれた光弾が、ワルド目掛けて一直線に伸びる。
咄嗟にそれをフィストガードで受け止められたのは、ワルドの並々ならぬの修練の証だった。

鈍い金属音が響き、弾かれた霞石が宙を舞う。
ワルドが記憶を走らせる。指先だけで飛礫を弾き、標的を射抜く武芸が存在すると、噂だけでは聞いたことがあった。
尤もその時は、しょせん魔法の使えぬ平民の児戯と、一笑に付したのだが。

堂内を駆けながら、才人が次々と指弾を放つ。今度はワルドは笑えなかった。
飛礫の小ささに加え、打つ前の予備動作が殆ど無い。
しかも放たれる一撃は、直撃すれば額を穿つほどの威力を秘めている。
ワルドは、自身の中の油断を認めざるを得なかった。
平民の技術も、伝説の使い魔の力も侮っていた。
あらゆる武器を操れる『神の左手』に、あらゆる物を『武器』と見做す武術が合わさった時、その脅威は――。

「この前の決闘では、本気を出していなかったと言うわけか」
「へへっ、能ある鷹は、ってね!」

チッ、ワルドが舌打ちをする。
先の決闘に於いて、ワルドは敢えて真正面から才人を叩きのめした。
彼の読み通り、プライドを大きく傷つけられた少年は、八つ当たりから主人と衝突し、その元を去った。
――その全てが実は、少年の掌の上で踊っていただけだったとは。

「だがな、爪を隠していたのは、貴様だけではないぞ!」

――ユビキタス・デル・ウィンデ……。

ワルドの詠唱が堂内に響き、揺らめく空気がヒト型を為し、瞬く間に4人のワルドが出現する。

「風は偏在する。どう受ける、ガンダールヴ?」

「サイト!」

堂内を回り込んだルイズが、才人へ棍を放る。
飛び退きながら棍を受け取ると、才人は何を思ったか、あらぬ方向へと思い切り振るう。

同時に左手が激しく瞬く。
カカカッ、というテンポの良い音とともに、棍を構成する七つの節が外れ、間から鎖が勢いよく飛び出す。
棍は一瞬の内に10メイル程伸び、手前ではなく、奥で詠唱を始めていた偏在を襲った。
意表を突いた攻撃に、偏在は反応できない。
受け損ねた杖が根元で折れ、伸びきった棍の先端が喉を貫く。
呻き声を一つ上げ、偏在の体が揺らいで消える。

才人が更に左手を振るう。
鎖が大蛇の如く大地をのたうち、手前の偏在の足を払う。
その隙に棍を引き戻す。蛇は急速に才人の手元に引き寄せられ、カッ、という音とともに元の棍へと戻った。

「七節棍……だと! 貴様ッ、誰に習った?」
「そいつを聞いて何になる!」

風を巻いて才人が走る。
一気に偏在の間をすり抜け、ワルドに肉薄する。ただし、杖の間合いには踏み込まない。
棍の両端を振り回しながら、太刀先一寸の距離から交互に投げ放つ。
時折、遠巻きに魔法を試みる偏在に棍を伸ばし、踏み込んで来る本体は、槍の優位性でもって打ち払う。
変幻自在の棍捌きに、ワルドが思わず舌を巻く。
偏在三体を突撃させて動きを封じる、という手段も残っていたが、その手は使えなかった。
隙を見て烈風の一撃を見舞おうと、油断なく杖を構えるウェールズの姿が視界に入ったためだった。

「クッ!」

猛烈な才人の連撃を受けかね、ワルドがフライで上空へと逃れる。

「見事だ。この場は素直に負けを認めよう。
 ――だが、俺に勝利したところで、貴様らの命運が変わるわけではないぞ!」

グッ、とウェールズが唇を噛む。
ニューカッスルの古城は、既にレコン・キスタの大軍に囲まれ、明日をも知れぬ状態である。
ワルドの言うとおり、ここで彼を撃退したところで、寿命が少し延びただけに過ぎなかった。

「さらばだ! 次は、総攻撃の時に遭おう」

そう言うと、ワルドは偏在をけしかけつつ、自らはステンドグラス目掛けて飛んだ。
体当たりでガラスを破り、そのまま脱出を図るつもりだった。

――が、
意外な事に、ガラスは外側から破られ、突如として、何者かが室内へと飛び込んできた。

「総攻めは中止だよ」
「な……? なん…… だッ!」

一瞬の交錯で頸椎を打たれ、ワルドが昏倒する。
乱入者は片手でワルドを抱えると、左手の棍を、聖堂の天井目掛けて跳ばした。
棍は梁へと絡みつき、ふたりは中空を大きく旋回しながら、やがて、部屋の中央へと降り立った。

「あなた…… アンリエッタ様の!」
「土鬼さん!」

男が深編笠を外す。
豊かな黒髪を携えた、隻眼の若者の素顔が、ウェールズの前に現れる。

「それがし、アンリエッタ王女の使い、土鬼と申す者。
 ウェールズ皇太子、御身を囮に使い危険に晒した事、まずはお許し下され」

「アンリエッタの使い? それに、おとり…… とは?」

呆然としたウェールズの様子に、頭をかきながら才人が応える。

「ワルドを泳がせたのは、土鬼さんの策だったんですよ。
 つまり、土鬼さんが敵陣で自由に行動するために、
 キレ者のワルドには、レコン・キスタ本体から離れていて欲しかったんです」

「潜入ですって! レコン・キスタに?」

「ウェールズ殿下」
土鬼が片膝をつき、一歩、ウェールズの前へと歩み出る。

「敵本隊が混乱している今こそ好機。
 このまま夜陰に乗じ、搦め手より城外に落ち延びるのが得策と存じまする」

「! レコン・キスタ本体に、何か異変があったのか?」

ウェールズの問いかけに、土鬼の隻眼が瞬く。

「レコン・キスタの指導者、オリヴァー・クロムウェル。
 彼は既に、この世の者ではござらん」



一刻程前、

レコン・キスタ本陣の天幕の中で、クロムウェルは、城内に潜伏したワルドからの報告を待っていた。

本来、圧倒的な兵力差で以て包囲を完成した時点で、この戦いは詰んでいる。
ワルドの作戦の成否など、余興の一つに過ぎない。
にも関わらず、組んだ両指をせわしなく動かし、知らぬ間に貧乏ゆすりを繰り返してしまうのは、
図らずも巨大な陰謀に巻き込まれ、分不相応な身分を手にしてしまった男の、悲しい性であった。

――と、
不意に、幕を開く音と共に、一瞬、湿った空気が入り込んでくる。

「来たか! 同志ワルドからの報告は……」
振り返ろうとしたその動きがピタリと止まる。
背後に座る男から、尋常ならざる気配を感じ取ったためだった。

「静かに、ゆっくりとこちらを向け」

言われるがままに、クロムウェルが振り向く。
眼前にいたのは、異国の旅装と思しき隻眼の若者。
折り目正しく正座を組んで、まっすぐにクロムウェルを見つめている。

「まるで烏合の衆だな。
 なまじ魔法を使えるという驕りが仇となり、刺客の侵入を許すほどの油断を生む」

「し、刺客だと?」

しっ、と、土鬼が人差し指を立てる。

「此度、俺がこの地を訪れたのは、友の友誼に応えんがため。
 本当は、研鑽を重ねた裏の武芸を、再び暗殺に使うつもりなど毛頭無かった……が」

土鬼の左目が野獣の如く慧々と光る。額に大粒の汗を浮かべ、クロムウェルが生唾を飲み込む。

「この国の有様はなんだ? 敵の亡骸を容赦なく晒し者にし、
 傭兵どもは野盗と化して、喜々として村々を焼き払う。
 人手が足りないとなれば、化物どもを雇い入れて平気なツラをしている。
 お前等の掲げる崇高な使命とは、こんなにも非道を強いるものなのか?」

「……」

クロムウェルは答えられない。
必要さえあらば、万を超す大軍すら酔わせる英雄になれる彼だったが、
その弁舌は、自らの身に刃の及ばぬ場所に於いてのみ、真価を発揮するものだった。

「答えろ、レコン・キスタの指導者、オリヴァー・クロムウェル」

「う、うるさいッ! 余に指図するとは……ッ!」

クロムウェルはその先を告げる事ができなかった。
指輪をかざそうとした左手の甲を、飛礫が貫いたからだ。
激痛に声を上げる事もできず、クロムウェルがその場にうずくまる。

「閣下、どうかなされましたか?」
「……なんでもない……持ち場に戻れ」

天幕の外からの問いかけに、かろうじてクロムウェルが応じる。
人の気配が去ったのを確認し、土鬼がゆっくりと歩み寄る。

「それが、お前の奥の手か?」
手にした棍でクロムウェルの手首を押さえつけると、土鬼は、その奇妙な指輪をまじまじと見つめた。

「か、勘弁 してくれ」

「……質問を変えよう。 お前の主人は誰だ? クロムウェル」

「……!?」

酸欠の金魚のような表情で、クロムウェルが口をパクパクとさせる。
尤も、土鬼からしてみれば、こんなものは秘密でもなんでもない。
死を前にした眼前の男には、革命家の苛烈さも、殉教者の陶酔も、悪党の強かさも一切見受けられない。
国一つをひっくり返すほどの大胆な計画を実行できる男とは、到底思えなかった。

「……なあ、人生をやり直したくはないか? クロムウェル」

「なっ、何?」

「とっくに気が付いているんだろう? お前には革命指導者の地位は重すぎる。
 眼前の敵を下し、権力を増すごとに
 お前の心はどんどん平穏から遠のいているはずだ」

「……」

「お前が全てを白状するなら、俺が、この場からお前を逃してやってもいい。
 トリステインに脱出するためのツテを用意しよう。
 その後の事は、お前の好きにすればいいさ」

「ほ…… 本当、か?」

「ああ、だから答えろ。お前に指示を出していた者の名は?」

「……それは」

クロムウェルが口を開いた瞬間、異常な気配を感じ取り、土鬼が後方へと跳ねる。
同時に黒い旋風がクロムウェルの脇を通り抜け、天幕の外へと飛び去っていく。

「こ、これ…… ばっ!?」

指輪を手首ごと持ち去られたクロムウェルが、信じられない、といった表情で断面を見つめる。
直後、首筋から鮮血が噴水の如く吹き出し、どうっ、とその場に倒れこんだ。

「しまった……! あれが【があごいる】と言う物か」

土鬼が驚嘆の声を洩らす。
魔法仕掛けの人形の話は聞いてはいたが、単なる置物にしか見なえかったそれが、あれ程の精密さで動くとは思わなかった。

天幕の外から喧騒が聞こえて来る。
土鬼は片手で太刀を引き抜くと、卓上のランプを、入口目掛けて叩きつけた。

「賊だ! 賊が侵入した!」
「本陣より火の手が上がったぞッ!」

衛兵が入口の炎に気を取られている隙に、後方の幕が切り裂かれる。
そのまま土鬼は、闇の中へと消えたのだった……。



新着情報

取得中です。