全ては終わった。
AIDAは消滅し、クビアを倒し、ネットワーククライシスは防がれた。
未帰還者たちも次々と回復してきている。
ハセヲが失ったものも全て帰ってくるであろう。
ただ一人の存在を除いて……
AIDAは消滅し、クビアを倒し、ネットワーククライシスは防がれた。
未帰還者たちも次々と回復してきている。
ハセヲが失ったものも全て帰ってくるであろう。
ただ一人の存在を除いて……
「一つの終わりは、新しい始まり。俺たちの旅は、これからも続いていく」
ハセヲの前で一人の男がそう語る。
オーヴァン。
時に兄として、そしてまた時として父親の様にハセヲを導いてきた存在。
トライエッジとして罪を背負い、多くの人を救い、誰よりもこのThe・Worldを愛し、ただ一人の犠牲となった男。
この世でたった一人の、唯一無二の妹を助けるため。
その思いだけで。
オーヴァン。
時に兄として、そしてまた時として父親の様にハセヲを導いてきた存在。
トライエッジとして罪を背負い、多くの人を救い、誰よりもこのThe・Worldを愛し、ただ一人の犠牲となった男。
この世でたった一人の、唯一無二の妹を助けるため。
その思いだけで。
「……そうは思わないか?」
そう言って彼はハセヲに背を向けて歩き出す。
元々彼の意識はネットの海の中に消えてしまっていたのだ。
それを呼び戻したのは、Auraの起こした奇跡。
まさに神の御技と呼ぶべきであろう
だが再誕の中心となった彼に残された時間は、もう残されてはいない。
元々彼の意識はネットの海の中に消えてしまっていたのだ。
それを呼び戻したのは、Auraの起こした奇跡。
まさに神の御技と呼ぶべきであろう
だが再誕の中心となった彼に残された時間は、もう残されてはいない。
「何を言ってるんだよ……何を言ってるのか全然わかんねぇよ!」
だが、ハセヲはその彼をも救いたかった。
「まだ……まだ言いたい事が沢山あるんだ!!」
そしてハセヲは走り、手を伸ばす。
時に兄の様に、時に父のように、ハセヲを導いてきたオーヴァンという一人の存在を助けるために。
全てを取り戻すために。
時に兄の様に、時に父のように、ハセヲを導いてきたオーヴァンという一人の存在を助けるために。
全てを取り戻すために。
「オーヴァン!!!」
だが、その行く手に現れた鏡によって、オーヴァンへの道筋は防がれた。
「なっ!?」
そしてその鏡はハセヲの体を吸い込み、霧のように消え去ってしまった。
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(ここはどこだ……?)
ハセヲの意識は闇の中にあった。
(俺は……どうなったんだ……オーヴァンは…………志乃は!?)
深淵に飲まれてしまいそうな暗闇で次々と疑問が浮かび、ハセヲの頭の中を回った。
その闇の中で、ハセヲにある音が聞こえた。
その闇の中で、ハセヲにある音が聞こえた。
「――――――やり――――――――聞いた―――――――もう一度―――」
(これは……人の声?)
(これは……人の声?)
それは幼さの残る少女の声だった。
「それは――――――――召喚―――神聖な―――――――――」
さらにもう一人。
落ち着いた男性の声が聞こえた。
どうやら少女と言い争っているようだ。
落ち着いた男性の声が聞こえた。
どうやら少女と言い争っているようだ。
(どうなってるんだこれは……?ここは一体……)
そして次に発せられた声は自分のすぐそばで、ハッキリと聞こえた。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
と、その言葉を聞いた次の瞬間、唇に触れるやわらかい感触を感じた。
(なんだなんだ!? 一体何が?)
「ぐっ!」
「ぐっ!」
刹那、ハセヲの左腕に焼けるような痛みが走り、闇の中にあった意識は引き上げられた。
「うっ……くっ!…………ここは?」
意識を取り戻したハセヲの目に映ったのは、自分を取り囲む人々と、今までに見たことのない場所だった。
(何だこいつらは? 全員同タイプのPCなのか?)
自分の周囲にいる人々は皆似たような格好をしている。
おそらくは呪療士(ハーヴェスト)か魔導士(ウォーロック)なのだろう。
他の戦士系のジョブや妖扇士(ダンスマカブル)ならばもっと目立つ格好をしているはずだ。
が、それにしても地味過ぎる。
ハセヲはその事に違和感を感じた。
おそらくは呪療士(ハーヴェスト)か魔導士(ウォーロック)なのだろう。
他の戦士系のジョブや妖扇士(ダンスマカブル)ならばもっと目立つ格好をしているはずだ。
が、それにしても地味過ぎる。
ハセヲはその事に違和感を感じた。
「おいあんた、ここはどこのエリアだ!?」
「え……?」
「え……?」
ハセヲは一番自分の近くにいた少女に話しかけた。
「いや、それよりもネットワーククライシスは食い止められたのか!? The Worldはどうなった!? オーヴァンは!? 」
その少女はハトが豆鉄砲を食らったような表情を浮かべ、
「何……それ?」
とだけ答えた。
(くそ! 何熱くなってるんだ俺は……。こいつがオーヴァンの事まで知っているわけないだろ!
……そうだ! 他のみんなは!?)
……そうだ! 他のみんなは!?)
仲間の事を思い出したハセヲはメールで彼らの安否を確認しようと試みた。
全員無事なら、何らかの連絡があるはずだ。
だが、それは不可能だった。
その為に必要な操作が一切出来なくなっていたからだ。
すなわち、
全員無事なら、何らかの連絡があるはずだ。
だが、それは不可能だった。
その為に必要な操作が一切出来なくなっていたからだ。
すなわち、
(なっ!? ログアウト出来ない!? それにこの感覚……さっきまでと同じ……!)
まるでゲームの中に入ってしまったかのような現実的な感覚。
つい先ほどクビアと戦っていた時と同じ感覚だ。
だがクビアは倒され、自分は普段のThe Worldに戻ってきたはずだった。
つい先ほどクビアと戦っていた時と同じ感覚だ。
だがクビアは倒され、自分は普段のThe Worldに戻ってきたはずだった。
(確かにクビアを倒したはずなのに……いや、前にも同じ様な事が……まさか!)
ハセヲが思い出したのは、以前AIDAサーバーと呼ばれるミラーサーバーに転送された時のことだ。
だが、もうAIDAは存在するはずがない。
オーヴァンが命懸けで発動した再誕。
あの時に、The Worldに存在する全てのAIDAは消滅したのだ。
AIDAサーバーが再び作られることは絶対にありえない。
いや、そもそもこの状況の事態がありえないのだ。
混乱に陥りそうになったハセヲは頭を抱え、少しでも平静を保とうとした。
だが、もうAIDAは存在するはずがない。
オーヴァンが命懸けで発動した再誕。
あの時に、The Worldに存在する全てのAIDAは消滅したのだ。
AIDAサーバーが再び作られることは絶対にありえない。
いや、そもそもこの状況の事態がありえないのだ。
混乱に陥りそうになったハセヲは頭を抱え、少しでも平静を保とうとした。
(落ち着け、さっきまでは確かにクビアの中にいたんだ。だったら……ここは一体……)
「ねえ、あんた名前はなんていうの?」
「はぁ?」
「ねえ、あんた名前はなんていうの?」
「はぁ?」
急に声をかけられて、ハセヲは間の抜けた返事をしてしまった。
声の主は先ほど自分が質問をしたピンク色の髪をした女の子だった。
どういう訳か酷く怒っているようだ。
声の主は先ほど自分が質問をしたピンク色の髪をした女の子だった。
どういう訳か酷く怒っているようだ。
「い!い!か!ら! とっとと教えなさい!!」
「っ!……ハ……ハセヲ」
「ハセオ? 変な名前ね」
(……ネットゲームの名前で変もクソもあるかよ)
「っ!……ハ……ハセヲ」
「ハセオ? 変な名前ね」
(……ネットゲームの名前で変もクソもあるかよ)
中にはネギ丸やらぴろし3やらという名前まであるのだ。
その中で言うならばハセヲというのはまだ普通な部類に入るだろう。
その中で言うならばハセヲというのはまだ普通な部類に入るだろう。
(つか、The Worldやってて俺の名前を知らないって事はコイツら全員初心者か? しかも妙に落ち着いている。こんな状況
にどうしてそんなに……)
にどうしてそんなに……)
そう、The Worldは今や世界をも巻き込んだ危機に陥り、欅の号令の元、多くのプレイヤーが何とかしようと奔走している最中だったはずだ。
なのに、これだけの人数がギルドエリアでのんびりと落ち着いている事などあるだろうか。
そこでハセヲはある推測をした。
それは本来ありえない事なのだが、そのありえない事を今までに散々経験してきた。
現にハセヲは今まで未帰還者や碑文使いなどの非現実的な出来事に直面し続けてきたのだ。
その可能性の全てを否定する事は出来ない。
そして、その推測が本当かどうかを確認する方法もわかっていた。
なのに、これだけの人数がギルドエリアでのんびりと落ち着いている事などあるだろうか。
そこでハセヲはある推測をした。
それは本来ありえない事なのだが、そのありえない事を今までに散々経験してきた。
現にハセヲは今まで未帰還者や碑文使いなどの非現実的な出来事に直面し続けてきたのだ。
その可能性の全てを否定する事は出来ない。
そして、その推測が本当かどうかを確認する方法もわかっていた。
「なあ、あんた。ここはThe Worldだよな?」
「ざわーるど? どこよそこ。ここはトリステイン魔法学園よ」
(っ!! The Worldすら知らない!? そんなバカな!)
「ざわーるど? どこよそこ。ここはトリステイン魔法学園よ」
(っ!! The Worldすら知らない!? そんなバカな!)
ハセヲの予想は外れた。
ハセヲが想像した可能性は、ここがThe Worldとは別のネットゲームの中だと言う事だ。
つまり、ここはギルドエリアの様な場所で、そこに急に仕様外の訳の分からないPCが入ってきた為に驚いているのだと。
だが、ネットゲームをしている者でThe Worldの存在を知らない人間などまずいない。
いや、最近では初のネットゲーム原作として映画化も決まっているThe Worldの存在は、もはや世間の常識になりつつある。
少なくとも、それを“どこ”と聞く人間はまず存在しない。
(おいおい……もしかして俺、とんでもねえ所に来ちまったのか? にしても一体どういう――)
「皆さん、いつまでも見ていてばかりではいけませんよ。召喚を終えていない生徒はすぐに続けなさい。召喚を終えている者は、使い魔との交流をちゃんとしておくように。
ではミス・ヴァリエール、それとミスタ・ハセオでしたね。ちょっと私に付いてきてはもらえませんか?」
ハセヲが想像した可能性は、ここがThe Worldとは別のネットゲームの中だと言う事だ。
つまり、ここはギルドエリアの様な場所で、そこに急に仕様外の訳の分からないPCが入ってきた為に驚いているのだと。
だが、ネットゲームをしている者でThe Worldの存在を知らない人間などまずいない。
いや、最近では初のネットゲーム原作として映画化も決まっているThe Worldの存在は、もはや世間の常識になりつつある。
少なくとも、それを“どこ”と聞く人間はまず存在しない。
(おいおい……もしかして俺、とんでもねえ所に来ちまったのか? にしても一体どういう――)
「皆さん、いつまでも見ていてばかりではいけませんよ。召喚を終えていない生徒はすぐに続けなさい。召喚を終えている者は、使い魔との交流をちゃんとしておくように。
ではミス・ヴァリエール、それとミスタ・ハセオでしたね。ちょっと私に付いてきてはもらえませんか?」
と、突然かけられた声にハセヲの思考は中断させられた。
声の方向へと顔を向けると、眼鏡をかけた中年の男がそこにいた。
声の方向へと顔を向けると、眼鏡をかけた中年の男がそこにいた。
「(この声……たしかさっきしゃべってた男の方の……)あんたは?」
「おっと、これは失礼。私はこのトリステイン魔法学院で教師を務めているコルベールという者です」
「おっと、これは失礼。私はこのトリステイン魔法学院で教師を務めているコルベールという者です」
コルベールと名乗ったその男は小さく頭を下げた。
「今回のケースは極めて稀です。いえ、前代未聞と言っていいでしょう。
ですので、少し学園長に相談してみようかと思います。お二人とも、よろしいですね?」
ですので、少し学園長に相談してみようかと思います。お二人とも、よろしいですね?」
無論、ハセヲとしてもこのよくわからない現状を説明してくれる可能性のある人間がいるのはありがたい。
というよりも他に選択肢は存在しないのだ。
隣にいたルイズと呼ばれた、先ほどまで話していた少女もまたその事に同意した。
というよりも他に選択肢は存在しないのだ。
隣にいたルイズと呼ばれた、先ほどまで話していた少女もまたその事に同意した。
「……わかったよ」
「……しかたないわね。付いてきなさい」
「何でテメエに命令されなきゃいけねえんだよ」
「当然でしょ。あんたは私の使い魔なんだから」
「……つ……ツカイ……マ?」
「……しかたないわね。付いてきなさい」
「何でテメエに命令されなきゃいけねえんだよ」
「当然でしょ。あんたは私の使い魔なんだから」
「……つ……ツカイ……マ?」
その言葉にハセヲの困惑はさらに深まる。
「ああ、その事に関してもちゃんと説明します。他にも色々と疑問はあるでしょうが、それはあの中で話しましょう」
と、コルベールは少し離れた所にある高い建物の方を向いた。
「あそこは?」
「トリステイン魔法学院の本塔です。学園長室もあそこにありますので」
(魔法学院……ね。マジでヤバイ状況なのかもな、今の俺って)
「トリステイン魔法学院の本塔です。学園長室もあそこにありますので」
(魔法学院……ね。マジでヤバイ状況なのかもな、今の俺って)
と、ハセヲはこの時やっと腰を上げて、その足で地を踏んだ。
まるでこの体が本物の体であるかのように。
まるでこの体が本物の体であるかのように。
(ったく、いったい俺はどうなっちまったんだよ……)
ハセヲは空を見上げる。
いや、正確には空ではない。
それはここがThe Worldでも、ましてや現実の世界でもないというハッキリとした証。
赤と青、二つの月。
いや、正確には空ではない。
それはここがThe Worldでも、ましてや現実の世界でもないというハッキリとした証。
赤と青、二つの月。
「何ボサっとしてるのよ! 早く付いてきなさい」
ルイズに急かされて再び思考を中断されたハセヲは、
「……やれやれ」
と、肩を竦めながらも二人の後に続いた。