あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-16


ソイツは地中を泳いでいた。
気づけばそこにいて、気づけばそこを泳いでいて。土を噛み砕き、土を吐き出し、身体を
くねらせ蠢かせ、泳ぎ続ける。
何の目的も与えられず、ただ産み落とされただけのソイツは自分の上で無遠慮に騒ぐ音に
人で言う「不快」に近いものを感じていた。
いっそ喰ってしまおうかとソイツなりの思考で考えたが、この騒がしい音は生まれたばかりの
身にはひどく堪えることを理解していた。
だからソイツは地中を泳いでそこから離れようとした。

――だが、ソイツは見つけてしまった

ソイツにとって居心地の良さそうな『殻』、ソレがいることに気づいてしまった。
そのままでも充分に過ごす事は出来るが、その中にいれば今よりもっと気持ち良く過ごせる。
騒がしい音も気にならない、腹が減った時にソレを使って捕食も出来る。
生れ落ちたばかりなのに、ソイツは自分のすべきことを理解していた。
本能の部分で感じ取り、ソイツは地中を泳いだ。
自分の上を踏み鳴らす音に混じって聞こえるそれの匂いと音。ドクドクと鳴っている心臓の音
で自分の『殻』の場所へと一直線と泳いでいる。
ああ、いる。いるぞ、そこにいる。
ソイツは歓喜する。
ソイツは狂喜する。
人とは全く異なる思考体系でソイツはその『殻』を欲し、追いかける。
大地を突き破り、土壁を駆けた。
匂いが段々と近づき、濃くなり、心音がより鮮明になる。
そしてソイツは見つけた。
その『殻』をソイツは人とは違う視覚を以て認知した。
それは、桃色の髪の少女で……



「おい姉ちゃん! 酒をこっちにもよこしてくんな!」
「は……はい、かしこまりました」
赤ら顔の男に声をかけられ、酒瓶を持った一人の少女が振向いた。
その少女を一目見て、その男はうっ、と息を呑んだ。
若草色のワンピースに身を包み、背に蒼銀髪の三つ編みを垂らしたその少女、唇にひかれた
朱は美しい顔を際立たせているが、儚げな眼差しはこの店にいるどの少女よりも暗いもの。
なのに、美しさはまったく失われない。
いや、むしろその憂いを帯びた瞳が、彼女の美しさをより一層際立たせていたのだ。
他の妖精たちが太陽ならば、この少女は月だ。儚く、おぼろげに輝くあの双月。
赤ら顔の男は一瞬で佇まいを直した。
「ご、ご所望の一杯は、こちらでよろしかったでしょうか?」
「おおお、お……おう!」
「かしこ、まりました……」
少女の諸手で包まれたボトルから注がれるワイン。しかし瓶の口が震え、注がれるはずの
ワインがテーブルへと零れる。
「あっ!」
それにしまったという顔をする少女だが、男は気にするなと言うに留まった。
それならばと注ぎ直す少女、男はそんなワインを注ぐ彼女の横顔に見惚れていた。
整った顔に長い睫毛、朱をひかれた唇は柔らかく、見ている者を魅了せずにはいられない。
もし女神がいるのならば、きっと彼女のような女に違いない、男は思った。
「お注ぎさせていただきました」
「おう……」
静かに一礼し、戻ろうとする少女。
「待て」
「はい?」
「これ、少ないけどチップだ」
男は少女の手に持てるだけの金貨を持たせた。その時、その少女の手がやたらごついような気が
したがすぐに考えるのを止めた。
「あ……ありがとう、ございます」
憂いを帯びた不器用な微笑みに心奪われてしまったから。



「すっごいじゃないクザク!」
ようやく厨房に帰還した九朔を待っていたのはこの店の人気筆頭のジェシカだった。
「何がだ……」
「何がって、初めてでいきなり金貨をあんだけ持ってくるクザクがよ!」
「そうか……」
そこでようやく手の中に溢れかえった金貨に気づいた。
だが、今の九朔にはまったく感じるところはなかった、受けた傷が余りにも深くて。
「でもさ、その格好はやっぱり正解だね。本当の女の子みたいでカワイイ!」
「ぐぅっ!」
そして傷はより深く抉られた。
男なのに、騎士なのに、この格好、今の自分の姿のおぞましさに全身から力が抜ける。
「我が……なんでこんな目に……!」
崩れ落ちるクザクの脳裏に先ほどのおぞましい記憶が呼び起こされる。
無銭飲食の肩代わりに何をさせられるかと思えば連れ込まれ、妖精と呼ばれた女の子達に
身包み剥がれパンツ一枚にされて、気づいたら彼女たちにメイクアップまでバッチリに
女装をさせられていた。これがトラウマにならずして何がトラウマか。
「きゃー、クザクさんカワイイです!」
「私、女だけど……君、カワイイと思う」
「悔しい……でもカワイイっ!」
「ああぁ、クザクちゃんてばほんっとにトレビアアアアアアン!」
くずれ落ちた九朔の周りから容赦なくかけられる妖精たちと名状し難きアレの声が更に自身を
痛めつける。
仕事はどうしたと言いたい所だが、今の九朔にそこまで考える余裕はない。
「くそぅ……羨ましい、羨ましいぞクザク! 変われ、むしろ僕と変わってくれ!」
ワルキューレと一緒に必死で皿を洗うギーシュの叫びも今の九朔には届かない。
もっとも、皿の催促が来るたびに女の子の谷間を覗いてテンションをあげるギーシュは幸せで
あったと言える。モンモランシーが見たら惨殺モノ間違いなしだったが。
「ほら、崩れ落ちるのは良いけどさ。とっとと仕事戻る!」
そして、今の九朔には崩れ落ちる暇すらない。
「無銭飲食した分はキッチリ働いて返さなきゃね、クザクちゃん?」
虚ろな目で見上げたジェシカの微笑みは天使のようなアクマの笑顔だった。

約1時間後、更に九朔はやつれた顔で厨房の作業机に突っ伏していた。
もはや性も根も尽き果てたといった体である。
ある程度周りを見ていたから分かっていたものの、尻を触られるわ腰を抱き寄せられるわ
キスをせがまれるわ、挙句の果てにはスカート越しに尻のあ……いや、これは止めておこう。
正直アレは思い出してはいけない、思い出したら別の意味で永遠の狂気に囚われかねない。
とにかく、疲れた。
「死ぬ……死ぬる……誰か……」
皿を洗う手を止めることなくぶつぶつと呟くギーシュを横目に重い溜息をつく。
このまま意識を手放してしまおうか、そう思う九朔。
が、
「いやー、クザクってば最高! 私マジ惚れそうだよ!」
厨房に飛び込んでくるなり抱きついてきたジェシカにそれは断念する事になる。
「ほんっと、もうっ、最高! クザクのおかげで今日の売り上げが現時点で前日比の倍だよ、倍!
 アンタ目当てでお客が次から次へと来てるんだってばぁ!」
水桃のような柔らかくたわわに実った二つの果実を九朔に押し付けて黄色い声を上げるジェシカ。
が、当の本人といえば完全に無反応であった。
健康な男子であればそれだけでエレクチオンするか気力限界突破ではあるが、今現在の
九朔には何の効果もなかった。
当然だ、男としての尊厳も何もかも奪われ疲労困憊の身では無理難題な話なのだ。
だが、さすがにこのままの状況は余りよろしくない状況を招きかねない。
昨日から続く女難の連続を考えると、この二つの果実の重みはそれの前触れと思える。
「ジェシカ、すまんがもうそろそろ我から離れて――」
言いかけた、その時だった。

――ザザッ

それは、ノイズだった。
「ぐぅっ……!」
眼の前が暗転し、机から崩れ落ち、膝をつく。
酷い頭痛、あまりの激痛に、耐え切れず顔面を手で抑える。
指の隙間から見える風景、暗闇だったはずのそこがまるでテレビジョンのチャンネルを
幾つも切り替えるように変わっていく。
見たことのある場所、見たことのない場所、人が認識できる領域、人が認識してはいけない領域。
あらゆるモノが切り替わり映り変わる。
遠くで誰かが呼びかける声が聞こえる。だが、遠すぎて誰か分からない。
「っ……!」
また、視界にノイズが走る。


――視覚範囲、チューニング
思考拡散、範囲指定。
単世界範囲への視覚拡散開始、対象捜索、対象発見。
対象固定→第192542182167世界への接続ポート展開
――■術体系不一致
術式の強制コンバート開始――■ク■■ミコン破損。
■ク■■ミコン閲覧不可、コンバート不可。
術式検索不可。
断章使用不可。
復元作業開始。
復元進行率、0.0000000000000001%
ルーンの強制使用………………視覚共有開始


ノイズの後に映ったのはここではない何処か、誰かの視界。
両脇には建築物、狭い路地。
そこがトリステインであり、今見ているのがルイズの視界だと理解できた。
ルイズから掻い摘んで聞いていた使い魔との視覚の共有、それが今起きているのだ。
そして今、自分がルイズの視覚を共有しているのならば。
「これは……!」
ルイズは見上げていた、狭い路地から降り注ぐ太陽を覆い隠すそれを。
屍蝋色の、蠢くそれを。
口腔内をびっしりと埋め尽くした牙を汚れた粘液でまみれさせているそれを。
それは蛆、だが、蛆とは異なる、異形。
それが、ルイズを、見ている。
「くっ!」
ノイズ――暗転する視界、世界が再び自分の見る世界を映した。
「……ザクッ! あんた大丈夫なの!?」
戻った視界にジェシカの声と、不安げな瞳で自分を覗き込む彼女の顔が見えた。
「行かねば……」
「え?」
きょとんとした表情をしたジェシカをよそに立ち上がり、九朔は空間のある一点を見た。
それは、そこにある風景とは別のもう一つの風景。
視界の共有が招いたとでも言うのか、あの異形の発する力の流れが目に視える形として
見えていた。それを辿ればルイズのところへ駆けつけることが出来る。
つまり、ルイズの元へと至る『道』。
「ジェシカ」
「な、なに?」
ジェシカへと九朔は視線を向ける。
その瞳はただの少年のものではない、それは未だ失われた彼本来の在るべき意味を宿すもの。
「済まぬが少しここを離れる。少々やる事ができた」
「やる事って……あ、ちょっと!?」
「すぐ帰る!」
ジェシカの返答を待たずに九朔は店を飛び出した。その姿を追って店の外に出るジェシカ
だったが、既に九朔の姿を見つけることは出来なかった。
「ああ……もうっ! まだ食べた分働いてないんだから! とっとと帰ってきてよね!」
届いてるかも分からない九朔に向かい、ジェシカは大声を張り上げた。



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