あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

未来の大魔女候補2人-06


あらすじ


「これで貴様の攻撃は全て終わった! しかもガンダールヴの力も使い切ったようだな?
 アッーハッハッハッハァ! 私の勝ちだぁー!」

「……何を勘違いしているんだ?」

「は……?」

「まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ!
 合成術オーヴァドライヴ!! BP16とLP3を消費して効果発動!
 こいつは現在のターンを強制終了させ、次のターンに術者を5回行動、それ以外を行動不能にする!」

「なん……だと……?」

「電光自在石火自在!!」

「ウボァー」

「オーヴァドラ……」

「もうやめて! とっくにあいつのLPは0よ」

「HA ☆ NA ☆ SE ! !」




未来の大魔女候補2人 ~Judy & Louise~

第6話『青銅の薔薇と2人の魔女』



 今現在、土の塔にある講義室の1つは、立ち入り禁止となっていた。前の廊下には、誰も立ち入らないように仕切りが作られている。
 中を覗くと、講義室は煤だらけになっており、窓ガラスは尽く割れて惨憺たる有様だ。
 教室の前方、教壇の中央では大型机が粉微塵となっており、黒板は真っ二つに割れている。教室内を見回すと、そこに近い物ほど破壊の具合が大きい事が分かる。つまり、破壊の中心という事だ。

「まったく。なんで私がこんな事を……」

 そう文句を垂れながら、煤の付いた机を雑巾で拭いている少女が居た。
 ピンクブロンドの髪に、気の強そうな鳶色の瞳。ルイズである。
 彼女は作業の邪魔になるマントは脱いでおり、服は煤で薄汚れていた。

「ちょっと失敗しただけじゃない。それなのにあんなに怒るなんて……」

 そう言いながらも雑巾を絞る。愚痴を言ったところで作業が進まないのは分かっているからだ。

「……そりゃあ、爆発しちゃったのは謝るけど、片付けが終わるまで休憩も駄目だなんて横暴すぎるわ!」

 そう言いつけた教師の顔を思い出しながら、ルイズは憤慨する。
 先ほどの授業で、自信満々に『錬金』の魔法を唱えたルイズは見事に失敗したのである。
 その結果は爆発という形で現れ、講義室を滅茶苦茶に破壊した。爆心地に居たシュヴルーズは気絶し、生徒達は軽傷者多数という損害を被ることになった。
 ちなみに、爆発の直撃を受けたはずのルイズは、煤だらけになっただけでかすり傷一つなかった。
 その爆発を聞きつけた教師によって、ルイズは魔法を使わずに教室の片づけを命じられたのである。しかも、作業を終えるまで休憩無しのオマケ付きである。
 ルイズはもともと魔法が満足に使えないので、魔法禁止の制約はあまり関係がないのだが、休憩無しというのが堪えた。
 講義室は、普通に掃除するのにも1人では手に余る広さである。それなのに、1人で爆発の後処理をするのは、半日をかけても終わるかどうか分からない大仕事である。
 2、3人でやれば話は違うのだが、手伝ってくれる者は1人も居なかった。もっとも、手伝われる事など彼女のプライドが許さないだろうが。
 時刻は昼の鐘が鳴って暫くする。既に、食堂では昼食の真っ最中であろう。

 ぐぅうぅぅ~……

 昼食の風景を思い浮かべた所為で腹の虫が鳴り響き、思わずルイズは椅子にへたり込む。
 その椅子は煤で汚れたままだったが、そんな事を気にする余裕もない程にルイズは心身共に疲れ果てていた。
 上体を机に預けて教室を見渡す。割れたガラスの除去と、煤の拭き取りはほぼ終わっているが、まだ爆心地の周りは手付かずのままだ。

「はぁぁ~」

 ルイズは深い溜息を吐いてから、自分のすぐ脇に目を落とす。
 するとそこには、巨大なカエルの姿をした使い魔-ポセイドン-が静かに佇んでいた。

「ちょっとは手伝ってくれたっていいんじゃない?
 ずっと、後ろに付いてくるんならさ!?」

 そう言ってポセイドンをジト目で睨める。すると、3つの眼がルイズを注視する。

「な、な、なによ! やる気! そんな目したって、こ、怖くなんかないわよ!」

 ルイズは海老の様に後ずさり、パンチとキックを繰り出して威嚇する。
 だが、ポセイドンはルイズを見るだけで、それ以上の動きは見せない。
 ルイズは馬鹿らしくなり、再び深い溜息を吐いた。

「はぁ…… 言っても無駄よね」

 疲れた顔を引き締めて、ポセイドンを睨みつける。

「目障りだからどっか行ってなさいよ! 邪魔で作業が進まないわ! 私の視界から消えなさい!」

 髪をかき乱し、腕を振り回してそう叫ぶ。
 すると次の瞬間、ポセイドンの姿が音もなく消え去った。

「……えっ?」

 暫しの間、呆気にとられる。
 ルイズは自分の目が信じられず、何度も目を擦ってからポセイドンの居た辺りを凝視する。
 良く見ると、そこには霞がかかっているのが分かった。手をかざすと、微かな涼気を感じる事が出来る。

「えー…と。消えろとは言ったけど、それはココから出て行けっていう意味であって、本当に消えてどうすんのよ?」

 そう言いながら屈み込んで、机や椅子の下を捜す。

「アンタが居なくなったら、ジュディになんて言ったらいいのよ!? 冗談は止めて出てきなさい!」

 そう言い終えた瞬間、ルイズの目と鼻の先で霧が発生した。その中から緑色の小さな影が飛び出し、ルイズの顔面に張り付く。
 肌に吸い付く吸盤、湿りを帯びて弾力に富んだ皮の感触。その全てを余すことなく感じ取り、ルイズは総毛立つ。
 そして顔面にへばり付いた何かを振り払い、限界まで息を吐き出した。

「■*◆@▼%●※★ーーーッ!?」

 人語を絶した悲鳴がその細喉から迸り、教室を小さく震わせる。
 その悲鳴に、木にとまっていた小鳥達は一斉に飛び立ち、中庭に屯していた使い魔達が一斉に騒ぎ出す。
 中庭が阿鼻叫喚の絵図となっているなど露とも知らず、ルイズはおっかなびっくり振り払ったモノに目を向ける。
 するとそこには、掌の大きさまでにスケールダウンしたポセイドンが鎮座し、3つの眼をルイズに向けていた。



 ◆◇◆



 今日彼は、底抜けに機嫌が良かった。どれ位機嫌が良いかというと、軽やかにスキップを踏みながら、周りに笑顔を振りまく位に機嫌が良かった。
 その所為で同僚からは気味悪がられ、仕事以外で彼に話し掛ける者は居なかったが、彼は全く動じない。
 彼の眼には何もかもが素晴らしく映り、突き刺さる奇異な視線など意にも介さない。
 その原因は、今朝の出来事に端を発する。


 その日、彼の目覚めは最悪だった。何時もならば目を覚まして、職場である調理場に居なければ為らない時間に目を覚ましてしまったのだ。
 部屋を見渡せば、同室である同僚の姿はなく、窓からは爽やかな朝日が差し込んでいる。
 眠気など一気に消し飛んだ。勢い良く毛布を蹴飛ばし、着替えながら部屋を出る。厠に寄る暇もない。
 階段を駆け下り、宿舎から転げるようにして飛び出すと、本塔に向かって駆け出した。
 尿意を堪えて急ぐ彼の視界の隅に、黒い何かが映り込む。立ち止まってよく見ると、それは見知った人物であった。

『うほっ! いいおと(ry もとい、メイド!』

 はやく調理場に行かなければならないのだが、どうにも様子がおかしい事に気が付く。
 これ以上の遅刻は避けたいところだが、この仕事に就いて2ヶ月、何かと世話になった彼女を放っておけるほど彼は冷たい男ではない。
 料理長のカミナリを受ける覚悟を決めてから声を掛ける。

「おーい、シエスタ。そんな所に蹲って、一体どうしたんだ?」

 ・
  ・
   ・

 シエスタは、貴族に粗相をしてしまったかも知れないと話してくれた。
 手打ちになるかもしれないと怯える彼女を彼は力付け、そのどさくさにデートの約束を取り付ける事に成功した。
 彼は飛び上がって喜んだ。まさにこの世の春である。

『父さん、母さん生んでくれてありがとう。俺はやりました。17年に及ぶ冬は終わって春が来ました! ありがとうブリミル! これからは気が向いたら真面目にお祈りするよ』

 腕を胸の前で組んで感激を表わし、父と母、今まで信じてもいなかったブリミルに心の中で感謝する。

「つい、話しこんじゃいましたけど、早く仕事に戻らないとマルトーさんに叱られませんか?」

 仕事に戻るも何も遅刻の真っ最中である。その事を思い出し、冷たい汗が噴き出てくる。
 心配げな顔を見せるシエスタには、それを悟られぬよう平静を装い調理場に急ぐ。
 案の定、料理長であるマルトーからは、怒鳴り声と共に修正を受けるのであった。


 そんな訳だから、今日の彼はすこぶる機嫌が良い。
 非情にも朝起こしてくれなかった同僚を笑顔で許し、何時もは心の中で唾を吐いている貴族にすら笑顔で接する事が出来る。
 彼は生まれて初めて世界が美しい事を実感し、目に映るモノ全てが素晴らしく感じるのであった。
 スキップをしながら、何故か宙に浮いている水棲生物に餌をやり、陽気に歌いながら体毛が七色に変わる大きなネズミを撫でてやる。
 そんなこんなで、今なら二股がばれたのを自分に責任転嫁してくる貴族が居たとしても許せるくらいに、寛大な心を彼は持っていた。

「聞いているのかね給仕君? 君が香水の壜を拾った時に僕は知らないと言っただろう?
 その時に察しないといけないじゃないか。ん?」

 彼の目の前には、気障ったらしい仕草で説教をしてくる金髪の少年がいる。
 少年は贔屓目に見なくても、美少年と呼ばれる生き物に属している。たとえ、髪からワインを滴らせ、赤紫に染まった白のフリル付きシャツを着ていたとしてもだ。
 そんな少年の足元ではワインが水溜りを作り、その中にはガラスの欠片が浮いている。
 それほどアルコール度数が高くないワインだが、流石に一本丸々中身がぶちまけられると、辺りにはワインの香気が立ち込めている。

『あぁーあ…… 勿体ねぇ……』

 彼はぶちまけられたワインを見ながらそう思う。
 水溜りを作っているワインは、学院の貴族が飲む物の中では中の下と言った代物だ。
 しかしそれでも、平民には気軽には手の出せない代物である。

「顔をあげて聞いたらどうだね? 態度には気をつけることだ」

 気取った声色で少年は語りかけている。
 彼はワインから少年へと視線を変更する。別にそれは言う事を聞いた訳ではなく、零れたワインを何時までも見ているのに飽きただけに過ぎない。
 相も変わらず、少年は延々と説教を垂れている。しかし生憎と、彼の耳には届いてはいなかった。
 彼は理不尽な物言いをされているにもかかわらず、全く怒りが沸いてこない。それどころか、何時になく冷静な心持ちであった。

『わざわざ拾ってやったって言うのにこの仕打ち……
 昨日までの俺なら「うるせえ気障野郎。一生薔薇でもしゃぶってろ」なんて言って、確実にキレてたな…… ふぅ、俺も大人になったもんだぜ。
 それに、ついさっき二股がばれて振られたこいつより、シエスタにOK貰ったも同然な俺の方が断然格上!
 次の日曜には○○で××で……
 とにかく、負け犬の遠吠えなんて屁のつっぱり。月とスッポン。柳に風のどこ吹く風! いま風は、俺に向かって吹いているぅぅぅ!』

 説教を右から左へ受け流し、都合のいい妄想を繰り広げてはニヤニヤしている。
 全く反省の色を見せない彼に、少年は苛立たしげに語気を強めて手に持った薔薇の造花を振る。

「何とか言ったらどうなのかね? しかも何だね、その可哀想なモノを見るような目は? 気に食わない目だ。
 いいだろう、その無礼な態度を含めて、物の道理という物を叩き込んでやろう!」

 そう言い放って、少年は椅子から勢いよく立ちあがろうとして……急に崩れ落ちた。中腰になっていたせいで、少年は椅子から転げ落ちる。

「……あれ?」

 彼は目を瞬かせる。

「ギーシュ! 大丈夫か? まだ傷は浅いぞ!」
「死ぬなよ、ギーシュ! お前が居なくなったら誰をからかえばいいんだ!?」
「誰か水メイジを連れて来い!」

 先程まで静観していた者達が大声をあげる。

『たしか、あの貴族の名前が「ギーシュ」だったっけ?』

 そう漠然と思い出しながら、床に倒れ伏したギーシュに視線を落とす。
 ギーシュの傍らには椅子が引っくり返っており、完全に白目を剥いて気絶している。よく目を凝らすと、ワインとは違う赤色の液体が、頭から滴っている事に気が付く。

『あれは……血?
 そういえば確か……』

 そこまで考えた所で、少女の甲高い声が響き渡った。
 彼のすぐ横を、金色の影が横切り気絶しているギーシュへと向かう。
 その影は、先ほどギーシュを振った少女であった。
 その少女は、ギーシュを胸に抱いて後悔の声を上げる。


「わたしったら何て事を…… ごめんなさい、ギーシュ! ココまでやるつもりはなかったの!
 貴方が頭を冷やすよう、ワインを浴びせる程度にしようって思ってたのに、ワインの栓が開いていなかったばかりに…… 瓶で殴ってしまうなんて……っ!
 嗚呼……! わたしったら怒りに任せてこんなにひどい事をしてしまうなんて、許されるはずがないわっ!」

 演劇がかった大げさな身振りを交えながらそう叫ぶ。
 しかしそれは演技ではなく、本気であることを少女の涙が訴えている。
 唐突な展開に、周囲の者達はついて行けずに呆然とする。
 そして、多くの者が動きを止めている中、再び少女の声が響き渡った。

「ギーシュさまぁぁぁぁ!」

 栗色の髪の少女がそう叫びながら、彼の横を駆け抜けていく。
 その少女もまた、気絶しているギーシュを力の限り抱きしめ絶叫する。

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! 一時の怒りに任せて貴方の愛を疑ってしまうなんて……!
 あまつさえ、先祖伝来の心臓打ちをしてしまうなんて! 許されることではないけれど、お許し下さいませ!」

 2人の少女は、気絶しているギーシュに縋り付いてわんわんと泣いている。
 その光景を見て、彼はこの世の理不尽を感じた。
 思考にノイズが走り、世界が歪む。

『ついさっき二股がばれたのに、もう向こうから謝ってきた? あれだけ酷い事されたのに?
 理不尽だ。納得いかねぇ。
 例えるなら、自分でフラグへし折っておきながら、バイナリエディタでフラグ操作しているようなもの。
 断じて、許す訳には……』

 顔をやや伏せ気味にして呪詛を放つ。
 先程の賢者のような心は既になく、ドス黒い憤怒が五体を支配する。
 しかしそれは、後ろから奥襟を引っ張られたことで霧散した。

「サイトさん、大丈夫でしたか!?」
「ぐへぇっ!」

 襟元が締まり、彼、サイトはつぶれたカエルのような声を上げる。だが拘束は緩まず、そのままズルズルと引きずられていく。
 人垣から抜け出て、食堂の隅まで引きずられる。そこまで来た所で漸く、呼吸の自由が返却された。
 咳込みながら振り向くと、そこには黒髪を白いカチューシャで纏め、頬にソバカスを浮かべたメイドの少女、シエスタがいた。目尻には涙を溜めている。
 シエスタはサイトに詰め寄ると、不安げな顔で縋り付き、安否の是非を問うた。

「大丈夫ですか!? なにもされていませんか!?」
「あ、ああ…… 大丈夫だよ、シエスタ。それになんか、有耶無耶になりそうだし」
「ああ、良かった。
 ゴメンナサイ、なにも出来なくて。私、本当に怖くって……」
「シ、シエスタが謝ることじゃないよ。俺ならなんともないからさ、何時もみたいに笑ってよ。なっ?」
「サイトさん…… 優しいんですね」
「い、いやぁ~ あ、あはは……」

 熱っぽい視線で見つめられ、サイトは気恥ずかしくなり頭を掻く。
 食堂には、2人の乙女が気絶したギーシュを介抱する声が響く。
 周りの注目はギーシュ達に集中しており、サイトとシエスタに構う者はいない。
 そして、周りの喧騒の悉くが2人の耳には届いていない。
 2人は、はにかみながら澄んだ瞳で見つめ合う。言葉はいらない。
 やがて2人の距離は自然と縮まり、シエスタはサイトの胸に飛び込む。

「サイトさん……」
「シエスタ……」

 互いが互いの存在を感じる事が出来る、それだけで2人は十分だった。
 お互い手を背中にまわして確りと抱き合う。衣服越しに温もりを分かち合い、心臓は早鐘を打つ。やがて、心音が一つに重なり合う。
 何時までそうしていただろうか。時間にすればホンの僅かな時間でしかなかったが、2人にはそれが永遠にも感じられた。
 しかしそんな『これなんてエロゲ?』的状況は長くは続かない。
 サイトの背中に呆れた女性の声が掛けられる。

「……何をやっているのですか、貴方は?」

 サイトは目にも止まらぬ機敏な動きで包容を解いて、声を掛けてきた人物に向き直る。
 するとそこには、頭痛を堪えるような表情を浮かべた緑髪の女性が居た。背はサイトより少し低く、年上の女性だ。
 その後ろからは、燃えるような赤髪を持った少女と、金髪が少し内側にカールした女の子が近づいて来ている。少女は背が高くサイトと殆ど変らない。そして女の子は、サイトの胸元位の身長だ。
 赤髪の少女は、興味深々といった具合で舐めるように此方を見ている。女の子も少女ほど露骨ではないにしても、そういった表情を浮かべていた。
 サイトは急に気恥ずかしくなり、咄嗟の言い訳を考えるのだが、上手い言い回しが思い浮かばない。
 そして迷った挙句、片手を振り上げて元気良く挨拶を返すことにした。

「あっ、ええっとぉ……

 …………

 ロングビルの姐御! てぃーっす!」

 日々オスマンに対してのみ振るわれ、この2ヶ月間で磨き抜かれた左ストレートがサイトの顎に直撃した。



 ◆◇◆



「それでね、ロングビル先生がサイト君に思いっきりビンタしたんだよ。
 その後も何だか内緒話してるし、何だったのかなぁ?」
「そう、ね……」

 ジュディはルイズの髪を梳かしながら、今日1日の出来事を話して聞かせている。
 今日1日の出来事は、ジュディにとって何もかもが初めてで目新しく、刺激に満ちたモノであった。
 そして子供の特権か、疲れるという事は知らないようである。
 それに対してルイズは、コックリコックリと舟を漕ぎ、ジュディの声を子守歌代わりにしている。
 穏やかな寝顔を見て、ジュディに小さな悪戯心が芽生えた。
 櫛を鏡台にそっと置いてから、軽く両手でルイズの背中を押す。

「えいっ!」
「うわぁ! なになに? なにごと!?」

 背中を押されたルイズは何事かと飛び起き、慌てた様子で左右を見回す。

「あははっ。駄目だよルイズさん、椅子に座って寝るなんて。
 寝る時は、ベッドで寝なきゃ風邪ひいちゃうよ?」

 ジュディは悪戯が上手くいったのに満足しながら、ケラケラと笑い声を上げる。
 ルイズは先程の下手人の正体に気が付き、憮然とした顔をジュディに向ける。

「ジュディだったの……
 脅かさないでよね。吃驚したんだから!」
「ごめんなさい。
 でも、ルイズさん如何したの? まだ寝るのには早いよ」
「その、ちょっと昼間に疲れる事があったから…… その、ね?」

 ルイズは口ごもり、しどろもどろに説明をする。

「それって、教室の事? 魔法を失敗して爆発させちゃったって聞いたけど、本当なの?」
「うっ…… 誰から聞いたの?」
「キュルケさんからだよ?」
『余計な事を……』

 ルイズはキュルケの顔を思い浮かべて、声に出さないように毒づく。
 想像の中のキュルケは、手の甲を口に当てて高笑いしており、それがまたルイズを苛立たせる。

「あっ…… もしかして、聞いちゃいけなかった?」

 ルイズが顔を上げると、ジュディの不安げな顔が飛び込んできた。

「そ、そんな事無いわよ? 自分で言おうと思ってたし?」

 ルイズは手を振りながら慌てて否定する。
 これが同級生や平民なら不機嫌なのを隠しもしないのだが、ジュディに対しては強気に出る事が出来ない。
 ジュディに負い目を感じているのもあるが、それだけが原因ではない。
 ルイズにも、その理由を正確に言い表すことは出来ないのだが、あえて言うとするならば弱者に対する庇護の念だろうか。それとも、幼子に対する母性だろうか。
 とにかくルイズにも、自分の中に芽生えた感情を持て余しており、ジュディに対して一歩を踏み込めないでいた。

「その、だからね? 教室の後片付けしてたのよ。
 魔法は使っちゃいけなかったから、余計に疲れちゃって……」
「だから、そんなに眠たそうだったんだ?」
「そう、そうなのよ!」

 ルイズは何度も頷いて肯定の意を表す。
 ジュディは少し残念な顔をして問いかける。

「じゃあ、もう寝ちゃうの?
 もっとお話ししたかったのにな」
「ご、ごめんね。
 本当に疲れちゃってるから、今日はもう寝たいの。また明日、お話ししましょう?」
「うんおやすみなさい、ルイズさん」
「おやすみ、ジュディ」

 そう就寝の挨拶をしてから、ルイズはフラフラと立ち上がってベッドに向かう。
 その背中にジュディが声を掛ける。

「ねえ、ルイズさん。すこし勉強したいんだけど、いいかな?」
「いいわよ~、あまり遅くならないようにね」
「ありがとう。本当にチョットだけだから」

 ルイズは振り向きもせずに手をヒラヒラと振り、倒れ込むようにしてベッドに横たわった。
 そして、ジュディが髪を梳かし終える頃には、穏やかな寝息をたてて深い眠りに就いていた。

「ルイズさん? もう寝ちゃったの?」

 ジュディはルイズの顔を覗き込む。
 ルイズは目の前で振られている手にピクリとも反応せず、安らかな吐息を吐いて眠っている。

「くすっ、お休みルイズさん」

 ジュディはそう言うと、机上のランプだけ残して他の明かりを全て落とす。
 すると、部屋は闇に沈み勉強机だけが闇の中に浮かび上がる。
 ジュディは祖父より与えられた魔道書と魔道板をカバンから取り出し、勉強机に向かう。
 椅子はジュディが座るのには少し大きく、足が床に付かずに宙ぶらりんになるが、机の広さは申し分ない。
 机に使い古された魔道書を広げ、古き魔道板を手に取る。
 薄暗い部屋の中で、弱いランプの光だけを頼りに魔道板に記された術を読み解いていく。
 こうして夜はひっそりと深まっていった。



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今回の成長。

 ルイズは、ポセイドンがL2に成長しました。なお、このスキルは同名のスキルでしか上書きできません。
 ジュディは、建造物の知識L2を破棄してナチュラルL2のスキルパネルを手に入れました。
 ジュディは魔道板を読み解き『デテクトプラント』を習得しました。


 第6話 -了-



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