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虚無と狼の牙-17


虚無と狼の牙 第十七話

 ジョンストンはレキシントン号の真下に竜騎士部隊を展開させた。先行した巡洋艦四隻撃墜の原因が、下からの狙撃であったことを踏まえての策である。
「例のトリステイン貴族といい、艦長といい、全くの腰抜けどもめ。この私自らが戦い方を教えてくれるわ!」
 鼻息を荒くしてジョンストンは威勢よく啖呵を切った。ボーウッドは苦笑いを浮かべながら、ジョンストンの後姿を見つめる。その二人の傍らで、ワルドはどこか冷ややかな笑いを浮かべている。
「事実上更迭された割には、随分と余裕ですな、ワルド子爵?」
 平然とした様子のワルドに、ボーウッドは訝しげな様子で話しかけた。
「なに、面白いものがみれそうですからな」
「面白い?」
「……まずは相手の手の内を知る、これは戦いの基本でしょう」
 ワルドは目の前のジョンストンの後姿を見て、鼻で軽く笑った。

 ウルフウッドとデルフリンガーは森の街道を抜けた。目の前にあるのはタルブの平原、そしてその中央に浮かぶのは――
「相棒、見えたぜ、あれがレキシントン号だ」
 デルフリンガーの言葉にウルフウッドはゆっくりと目標を見上げる。竜に乗った騎士が十人ほど、戦艦の下を旋回している。
「さてと、ここからが正念場だ、相棒。もう逃げも隠れも出来ないぜ」
「正面突破や、行くで」
 ウルフウッドはアクセルを全開に回した。彼の乗ったバイクが平原へと躍り出る。

 レキシントン号を守っていた竜騎士の一人が慌てて甲板に現れた。
「司令官殿。目標の人物と思われる男が姿を現しました」
「よし。馬鹿な男だ。先ほどまでの不意打ちのようにうまくいくと思うなよ。全竜騎士に告ぐ! これより目標に向かって全軍攻撃を開始、目標を打ち倒せ!」
 威勢よく命令を出すジョンストンをワルドは冷めた目で見ていた。
――具体的なことは何も告げずに、何が指示だ。
 ワルドは目の前の上官の愚かさを心の中であざ笑う。おそらくは、竜騎士隊は何も出来ないままに全滅するだろう。しかし、それは彼らが弱いということではない。
手の内の分からない相手に無策に突っ込めば、そのような結果になるのは火を見るよりも明らかなのだ。
「見たところ、ただの平民のようだな。どんな手を使ったか知らぬが、竜騎士部隊を相手ではおそらくは生きて帰れまい。馬鹿め」
 馬鹿は貴様だ――ワルドは心の中で呟いた。
「よし! では、竜騎士部隊よ、いっせいにヤツに魔法を浴びせよ! 骨すらも炭に変えてくれるわ!」
 大げさに身を翻して、指示を出すジョンストン。
――馬鹿め。
 ワルドは船から身を乗り出しながら、その様子を眺めていた。あの男に魔法が通じないことは先刻承知している。
「なっ」
 案の定の展開だ、ワルドは一人笑う。目の前で口を開けて呆然としているジョンストンの姿が滑稽で仕方がない。
 ウルフウッドはデルフリンガーで大きさ数メイルはある炎の弾を切り裂くと、パニッシャーで狙いをつけて、竜騎士を二機撃ち落した。
「ば、馬鹿な! 何をやっているのだ! 真面目にやらんか! もっと魔法を! 魔法を浴びせかけよ!」
――まともな状況判断も出来ない愚か者め。自分に実戦経験がないから、戦況を正確に把握できないのだ。
 ワルドははね付き帽子を目深にかぶって、慌てふためく背後のジョンストンの姿をあざ笑う。
 戦場においてもっとも重要なのは、正確かつ迅速な判断だ。間の抜けた上官の指示に馬鹿正直に従って、意味のない特攻を繰り返させられている竜騎士たちは、ワルドにとっては心底憐れむべき対象でしかなかった。
 案の定、魔法をデルフリンガーで切り払われると、ほぼ同時に今度は三機の竜騎士が撃墜された。
「何をやっているのだ、この馬鹿者共めが! こうなれば、全員突撃! 突撃を仕掛けよ!」
 ワルドは小さく胸で祈る仕草をした。ボーウッドはそんなワルドの様子を忌々しそうににらみつける。
 状況的に竜騎士の全滅は必至だ。ワルドはその状況を上からのんびりと眺める。
 ウルフウッドの使う銃の破壊力は確かに恐ろしい。銃としての性能はハルケギニアの常識をはるかに上回っている。
しかし、いくら破壊力があるといっても、あの銃弾であれだけ簡単に戦艦を撃沈できるとは思えない。なにか、隠し玉があるはずだ。
――さぁ、見せてもらうか。君の手の内を。
 竜騎士隊が全滅した頃合を見計らって、ワルドはゆっくりとフライの魔法で空へ浮かび上がった。


「相棒、これでやっかいなのは全部撃ち落したぜ!」
 相手竜騎士の炎の魔法をことごとく打ち消したデルフリンガーが嬌声を上げた。
 ウルフウッドは無言のまま頷くと、レキシントン号の真下へと切り込んでいく。
そこには占領行動に出でいた兵士たちもいたが、ウルフウッドの前にあっさりと竜騎士団が全滅したのを目の当たりにして、彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げ始めていた。
「ちらほら、敵さんの姿が見えるけれどもよ、どうする?」
「んなもん、いちいち相手にしとったらきりないわ。目標は相手の戦艦のみや。それさえ落としたら、後はこっちの連中がなんとかするやろ」
「了解だぜ、相棒」
 そうは答えたものの、ウルフウッドはどこか腑に落ちないものを感じていた。例のワルドの存在だ。
ウルフウッドはワルドが今回の一件に絡んでいるとにらんでいたが、それにしては事があっさりと進みすぎている。
――随分と、大人しいやないか。何を企んどる?
「相棒! 今だぜ」
 デルフリンガーの声で一旦思考を止めたウルフウッドは、まっすぐにパニッシャーをレキシントン号に向けて構える。
例のガンダールヴのルーンのおかげだろうか、本能的にどこを打ち抜けば艦を落とせるかが、わかる。
「これで、終いや」
 引き金を引いた。ランチャーがまっすぐにレキシントン号の腹へと向かって、飛んだ。


 地面から突き上げてくる衝撃に、ボーウッドとジョンストンは甲板で宙を舞った。甲板に体を打ちつけたボーウッドは鈍い声を上げる。
「ぐっ、な、なんだ? これは、爆弾か?」
 状況を把握できないままに、ボーウッドは立ち上がった。慌てて、船から身を乗り出し、下を覗き込む。そこではどす黒い煙がもうもうと昇っていた。
「馬鹿な、こんな芸当が出来るとは……。確かに、これでは先行した巡洋艦が撃ち落されたのも頷ける」
 ハルケギニアにおいて、戦艦を撃ち落すのは、艦隊戦による大砲の応酬もしくは竜騎士による近接戦闘と相場が決まっている。だが、しかし今回のケースはそのどちらにも当てはまらない。
 基本的にこのような戦艦は竜騎士による火の魔法に対して固定化の処理を行っているものだが――
「物理的な衝撃と、強力な火炎を併せ持つ攻撃など、聞いた事がないぞ……」
 呆然とするボーウッド。彼は、自分たちの見通しの甘さを後悔した。
「こ、これは一体どういうことだ、ボーウッド!」
 青ざめた表情でジョンストンがボーウッドに詰め寄った。
「……閣下。火の回りが早い。この船は墜ちます。脱出の用意を」
「このレキシントン号が落ちるというのか!」
「ええ、その通りです」
 ボーウッドは冷静に事態に対処する。こうなってしまった以上、後に残った選択肢はいかに被害を少なくするかしかない。
「ちょ、ちょっと待て、ボーウッド! こ、これでは私にどうクロムウェル宰相に申し訳しろというのだ、え? わが国最大の艦隊を、たった一人に沈められたなどと」
「残念ですが、それが現実です」
「ふざけるな、わ、私は認めないぞ! 全員で消火活動に当たれ! 船員の退避など認めん!」
「往生際が悪いですぞ、ジョンストン司令官」
 ボーウッドとジョンストンが振り返った先で、ワルドがゆっくりと甲板に着地した。
「往生際、が悪い、だと? ワルド子爵! そもそも竜騎士隊を任せた貴様がもっとしっかりしておれば、このようなことにはならなかったのだぞ!」
「お言葉ですが、手の内も分からぬ相手に無策に突っ込んでいくばかりでは、いかに歴戦の兵士といえども、勝てませぬ」
「き、貴様、私を愚弄するのか!」
「事実を申したまでのことです」
 ワルドの言葉に逆上したジョンストンは杖を引き抜いて、ワルドへと向けた。その様を見たワルドはすばやくジョンストンの懐にもぐりこむ。
「司令官殿。こういった場合には、最高責任者が艦と運命を共にするというのが、軍人の美学ですぞ」
「わ、ワルド、貴様、自分が何をしたかわかっているのか……」
 力なく開いたジョンストンの口から、血があふれかえった。ワルドの杖が彼の胸に深々と突き刺さっている。
「せめて、家名を汚さぬよう、この船と運命を共にするが良かろう」
 ワルドはジョンストンの体を右足で押し出すように蹴りだした。ジョンストンの体が傾いた甲板を転がっていく。
「ワルド子爵、貴様何を考えている?」
「無能な司令官と共に心中するのは、あなたとて本意ではありますまい。ところで、その杖を仕舞っていただけますかな? 貴殿に危害を加える意図はありませぬゆえ」
 ワルドに向かって杖を構えたままのボーウッドに対して、ワルドは悠然と笑ってみせる。
「貴様、わざと、いやわかっていたな? こうなることを?」
「さぁ、軍人にとっては上官の命令は絶対ですからな。それはあなたとて同じこと」
「……どうするつもりだ?」
「この船を落とした男を葬り去る。そのために一つ艦隊が消えてしまったわけですが、十分にトレードオフすると思いますがね」
「いくらスクエアの貴様とはいえ、戦艦を一人で撃ち落すような男に勝てるのかね?」
「相手の手の内がわかれば、あとは対応するだけですからな」
「まさか貴様は相手の手の内を見るためだけに、一つの艦隊を犠牲にしたというのか! 貴様は正気か!」
「いたって正気ですよ、艦長殿。ヤツはどうしてもこの手で殺さねば――収まりがつきませぬ」
 ワルドはにやりと笑う口笛を吹き、風竜を呼んだ。
 ボーウッドがくるりと背を向けるワルドに声を掛けようとしたとき、一人の兵士が慌てて、甲板に躍り出てきた。
「か、艦長! ダメです! 火の回りが速すぎて、消火が間に合いません!」
「ええい、本艦はもうだめだ! 総員に退避命令を出せ!」
 兵の声に振り向いて大声で答えたボーウッドは、慌ててワルドに視線を戻そうとした。しかし、ボーウッドが甲板へと上がってくる兵の声に気をとられた隙に、すでにワルドは飛び立った後だった。


「終わったな、相棒。残党狩りは正規軍の奴らに任せて、俺たちはずらかるとしよーぜ」
 デルフリンガーがのんびりした調子で声を掛ける。煙に包まれたレキシントン号がゆっくりと高度を下げていた。しかし、ウルフウッドは上空を見据えたまま、動かなかった。
「いや、まだや」
「あん?」
「まだ、一番厄介なヤツが残っとる」
 ウルフウッドの視線の先、そこには風竜にまたがるワルドの姿があった。
「やぁ、使い魔くん。久しぶりだね」
「……随分のんびりとした登場やな。オンドレの船、もうすぐ沈むで」
「もったいないけど、仕方ないさ。おかげで、いいものが見られたからね」
 ワルドの言葉にウルフウッドは舌打ちをした。手の内を見られたこともそうだったが、それ以上にそれだけのために艦を一つ犠牲にする精神が気に食わなかった。
「あの後、焼け跡からキミの死体が見つからなかったときは、本当に驚いたよ。あの出血でまさかとは思っていたけど、本当に生きているとはね」
「そらご期待に応えられんで悪かったな。どうやら、ワイ、地獄からは嫌われてるみたいやねん」
 にらみつけるウルフウッドを見ながら、ワルドはくくっと喉の奥で笑い声を上げた。
「まさか。僕はむしろ感謝したい気分だったよ。こうして、ちゃんと君を自分の手で殺せることにね!」
 挨拶代わりにウィンドブレイクを放つワルド。ウルフウッドはそれをデルフリンガーで横なぎに払い捨てる。
「今日は君一人かい? ご主人様はどうした?」
「あんな何の役にも立たん小便くさいガキ、置いてきたわ」
「それは残念だ、彼女にもぜひともお礼がしたかったのだけれどもね!」
 ワルドは三つ続けざまにウィンドブレイクを放った。まっすぐに風の塊がウルフウッドに向かう。
「学習能力がないんか、オンドレは?」
 ウルフウッドはそれらをデルフリンガーで簡単に払った。魔法を吸収できるデルフリンガーの前では、ウィンドブレイクなど物の数ではない。
「何、ただの準備運動さ。本番は、これからだよ」
 おもむろにワルドは杖を持ち上げた。そして風の塊を放ち、レキシントン号の窓を叩き割る。
「?」
 ワルドのとった行動にウルフウッドはとっさに身構えた。その様子を見て、ワルドは満足そうに笑う。
「君のその剣、吸収できるのは魔法だけだったな」
「相棒、やべえ!」
 デルフリンガーの声が響くやいなや、ウルフウッドはバイクから飛び降りる。
「身軽になったか。いい判断だ。だが、これだけの数、貴様には避けきれまい!」
 ワルドが再び杖を振るった瞬間、風に巻き上げられて数百本の矢が窓から飛び出してきた。巻き上げられた矢は、まっすぐにウルフウッドに向かって飛んでくる。
「相棒! オレは魔法力は吸収できるが、魔法力を受けて加速した物体を止めることは出来ないぜ!」
「わかっとるわ!」
 無数の矢が竜巻の様にウルフウッドを取り巻いて旋回する。そして、
「串刺しになるがいい」
 ワルドが杖を振るった瞬間、それらがいっせいに襲い掛かって来た。
「くっ」
 ウルフウッドはパニッシャーとデルフリンガーを振り回して、襲い掛かる矢を払い落としていく。パニッシャーとデルフリンガーの重量を活かした衝撃の前に、放たれた矢は次々と散っていく。しかし――
「なるほど、見事なものだ」
 ワルドが感嘆の声を上げた。
「あれほどの矢を放って、たったの三本しか刺さらないとはな」
 ウルフウッドは矢の刺さった左足をかばうように身を屈めたまま、悠然と風竜にまたがるワルドの姿を視界に映す。
 三本の矢は左足のふくらはぎ、背中、そして右肩に刺さっていた。傷口から静かに血が滴り落ちる。


「にらみつけているだけで、撃っては来ないのかい?」
 ワルドが余裕の表情でパニッシャーを杖で指した。
「くそったれが。今日はまた、随分と饒舌やないか」
 ウルフウッドが吐き捨てるように言った。
「相棒、こいつはまずいぜ」
 デルフリンガーの言葉をウルフウッドは無言で受け流した。
 この距離から狙撃しても、ワルドの風の防御壁のおかげで弾丸は当たらないだろう。唯一活路を開く道としては、接近戦に持ち込むことだが
――風竜にまたがって空中にいるワルド相手に接近戦に持ち込むのは不可能に近い。
「お得意の遍在いうのは使わへんのか?」
「悪いが、そんな安っぽい挑発には乗らない。前回は下手に遍在なんかを使ったせいで、魔法力が切れて、あんなピンチになったわけだからね」
 ワルドは余裕で笑う。
「そちらこそ、例の船を落とした切り札でも使ってみたらどうだい? きれいに君に打ち返して差し上げよう」
 ワルドは心底愉快そうな笑い声を上げた。前回不覚を取った相手を、今度は完膚なきまでに追い詰めている。それはとてつもない快楽だった。
「さてと、先ほどはガンダールヴらしい人間離れした動きだったね。けど、傷だらけの体で、次同じ攻撃を受けて、はてさてどこまで耐えられるかな?」
 ワルドゆっくりと杖を振り上げた。再び風の魔法が、レキシントン号の窓から大量の矢を運び出す。
「相棒、次は本当にまずいぜ! どっかに身を隠すところを探せ!」
「アホ。無理や。こんなだだっ広い平原、どこに隠れろっちゅうねん」
 半分あきらめたような口調のウルフウッド。
「相棒! お前さん、大人しくハリネズミになる気か!」
「アホか……」
 ウルフウッドは自分の周りを取り囲む無数の矢を見ながら呟いた。
 この状況で活路を開く方法があるとしたら、それはたったの一つだけだ。この矢の中にあえて飛び込んで、防御を度外視して、この矢の嵐を抜けて銃弾を打ち込む。
 賭け、だ。この魔法を使っている間、ワルドは風の防御壁を張れないと仮定しての。
 ウルフウッドはパニッシャーを盾にして、矢の中へ飛び込んだ。
「何?」
 しかし、彼の予測は大きく外れた。矢は彼を避けるように後ろに広がったのだ。
「まさか……」
「くくっ。残念だったね。これくらい精密に矢を操ることが出来るのだよ、私は」
 ワルドが悠然と笑う。パニッシャーを盾にして飛び込んだため、ウルフウッドの背中はがら空きだった。
――終わりか。
 ウルフウッドが歯噛みして、あきらめかけた、その瞬間、彼の身の回りを炎が包んだ。その炎は蛇のようにウルフウッドの周りを一周すると、全ての矢を飲み込み焼き尽くした。


「ウルフウッド君。無茶は困りますぞ、全く」
 ウルフウッドはゆっくりと声の方向を振り向く。
 そこには見慣れた顔――コルベールが腰に杖を当てて、立っていた。
「センセ。あんた、なんでこんなとこに」
 ウルフウッドの言葉にコルベールは柔らかく笑って答える。
「……貴様、何者だ?」
 勝負に水を差されたワルドが低い声で、コルベールに尋ねた。
「別に名乗るほどのものでもないですよ。グリフォン隊隊長のあなたのように地位のある人間ではないのでね」
 そして、コルベールは再びワルドへ向かって杖を構えた。
「もっとも、母国と自分を信じてくれていた人間を裏切るような輩に、名乗るべき名前はないというのが本音ですがね」
 コルベールの挑発に対して、ワルドは無言だった。そして、ゆっくりとワルドはコルベールの能力を分析し始める。先ほどの魔法から推測するに、おそらくは火のトライアングルクラス。厄介なヤツが戦場に現れた。
「って、なにやっとんのや! このハゲッ!」
 と、唐突にウルフウッドがコルベールの頭を思い切りしばいた。
「なっ?」
 あまりにも予想外の事態にワルドの動きが止まる。コルベールの頭に見事に赤い跡が出来た。
「あんた、じょうちゃんの面倒を頼んだやろ! それがなんで、こんなとこにおんねん!」
「いたた。人の頭を気安く叩いてくれますね……。大体、あなただって偉そうなことを言っていたくせに、そもそも大ピンチだったじゃないですか」
 コルベールは頭を押さえながら反論した。
「うっ」
 痛いところを付かれてウルフウッドは黙り込む。
「全く、人の頭を気安く……。大丈夫ですよ。ミス・ヴァリエールはちゃんと安全なところに隠れてもらっています」
「……ほんま頼むで」
「ええ。彼女を、こんな血なまぐさい世界に引きずり込むわけにはいきませんから」
 そして、ウルフウッドはすばやくコルベールの前に立ちはだかり、ワルドの放ったウィンドブレイクをデルフリンガーでなぎ払った。
「まったく油断もすきもない奴やで」
 不意打ちに失敗したワルドが小さく舌打ちをする。おそらく、コルベールともウルフウッドとも一対一で戦えば、ワルドは勝てるだろう。しかし、それが二人同時なら――わからない。
 ワルドにとってはせめて今の不意打ちででも、コルベールは倒しておきたかった。
「センセ。あんた、二度と人に向けて魔法は放たへんのと違たんか?」
 ワルドの動きを見据えながら、ウルフウッドがコルベールに声を掛けた。
「あれは魔法で人を傷つけたくない、という意味ですよ」
「なら、なぜ戦場に出てきた?」
「自分の友人が危険な目に遭っているのに、それを見過ごすのは、魔法で人を傷つけることと同じ。違いますか?」
「友人……な」
 ウルフウッドはコルベールの言葉を反復して、小さく笑った。
「なにかおかしいですか?」
 コルベールは不思議そうにウルフウッドを振り返る。
「いや。そうか、ワイは、センセの友達、やったんやな……」
「ウルフウッド君?」
「いや、なんでもない」
 ウルフウッドはパニッシャーとデルフリンガーをゆっくりと構えた。アホみたいな話やで、と小さく呟いた。
「センセ、この戦いが無事終わったら、酒奢ったってもええで?」
「あいにく、収入のない君にたかる気はないですよ」
「そうかい」
「ええ。――ただ、お酒を飲むという案には賛成です」
「ほな、ちゃっちゃっと終わらせたろか!」
 ウルフウッドはパニッシャーを振り回すようにして、銃口を開いた。その背後でコルベールが杖を構える。
「……調子に乗るなよ」
 二人の様子を見て、ワルドが苦々しげに呟いた。


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