あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-19


翌朝……。
礼拝堂の前に二人の男女が人目を忍んでそこにいた。
といっても、それほど色気のあることを話しているわけではない。
「すまなかったね。準備を手伝ってもらって」
「あなたもマメな男ね。こんな事までしてあげるなんて」
男はワルド、そして女はベール・ゼファー。
城の地下ではニューカッスルから疎開する人々がイーグル号と拿捕したマリー・ガラント号に乗船を始めている頃だがここまではその音も声も聞こえてこない。
「これからつらい運命を生きる二人のために何かできないか、とは思ってね」
「私はあなたの婚約者の好意を買うためにしているのかと思ってたわ」
ワルドは声をつまらせてしまう。
しかめた顔のワルドを見て、ベルが笑っていた。
「その下心……無いとは言えないな。それはともかく」
ワルドにとってはこの話はあまり愉快ではなかったらしい。
「君にはもう一つ頼みがある。イーグル号で先に出発しておいてもらいたい」
「それはちょっとひどいわね。ここまで手伝わせておいて、ルイズやアンリエッタの晴れ姿を見せてもらえないの?」
「すまないね。どうやらウェールズ王子は攻撃が始まる寸前までここにいたいようなんだ。フネはそれより早く出航する。僕たちにつきあっていたら君はここに取り残されてしまう」
「あなた達はどうする気なの?」
「僕の使い魔のグリフォンを使う。それに城に残っている最後のグリフォンも使わせてもらえる事になっている。僕とルイズ、それにウェールズ王子とアンリエッタ王女はそれでここからラ・ロシェールに行くつもりだ」
「私は同乗させてもらえないのね」
「グリフォンの飛行能力を考えると2人乗りが限度なんだ。それ以上乗れないことはないが、万が一を考えると3人はやめておいた方がいい」
ベルは諦めたのか大げさに肩をすくめ、ついでに大げさに溜息もついて見せた。
「それじゃ仕方ないわね。私の大切なご主人様のことは任せたわよ」
そう言うとベルは踊るようにきびすを返し、地下の港へ続く廊下に足を向けた。
「もう行くのかね」
「置いてけぼりはごめんだもの」
わざとだろうか。
足音を高く響かせ、去りゆくベルの背中をワルドはじっと見ていた。
そこには恐ろしいほどに鋭い視線があった。


イーグル号はそれから一時間も経たないうちに出航した。
靄が船体を隠してくれている。
未熟な水兵の操るレコン・キスタのフネでは拿捕や撃沈はおろか発見も難しいだろう。
そして、今は追い風。
イーグル号は帆を広げ、すばらしい速度でアルビオン大陸を後にした。


城から去る寸前。
礼拝堂に入ったルイズは小さく歓声を上げた。
祭壇とその回りはきれいに掃き清められ、その上には銀の燭台とロウソク。
周りには城の花壇から持ってきたのであろう花が飾られていた。
「これって……」
この様式は簡易ながらも結婚式のためのものだ。
新婦の冠、そして純白の乙女のマントまで用意されている。
「ワルド子爵、これは?」
続いて入ってきたアンリエッタとウェールズも同様だった。
この城の最後に作られた華やかな飾り付けに目を奪われている。
「ウェールズ王子。こんな時ですか……いえ、こんな時だからこそ了承していただきたい。私とルイズは今、ここで結婚式を挙げたいと思います。つきましては、その媒酌を引き受けていただけないでしょうか」
「こんな時に……かい?」
「ええ、最後に花を添えたく思いましたので」
この城……いやアルビオンの最後はそれは血なまぐさいものとなるだろう。
名誉、誇り。それを伴おうがそれは事実だ。
だがそこに、未来への希望となるものがあれば。
だからこそ王子はこう答えた。
「わかった。引き受けよう」

続いてマリー・ガラント号も出航を果たした。
ラ・ロシェールから出航したときに詰まれていた硫黄は船倉には一箱たりとも残されておらず、代わりに代わりにニュー・カッスルから落ち延びる人々、それに硫黄を売り渡した代金である相場の3倍の金を積み込んでいた。
商売としては大成功のはずだ。
それは間違いない。
それでもマリー・ガラント号の船長は大喜びはできなかった。
このフネの人々を無事送り届けるという使命感。
それを胸に船長は舵を切った。


頭上に冠を添えられたルイズは夢見心地だった。
こんな時であっても、胸の奥から幸せがあふれるように思えていた。
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
「誓います」
重々しく、作法にかなった仕草でワルドがうなずく。
次はルイズの番だった。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名においてこのものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」
答えは決まっていた。
こんな時に結婚式というのに少し戸惑いはしたが、ワルドには何か考えがあるらしい。
それが悪いものであるはずがない。
「誓います」
この先にある幸せを信じてルイズはそう答えた。


城のホールには大量の樽が運び込まれていた。
樽の中には元は硫黄が詰め込まれていた。
今は、練金された火薬がつまっているはずである。
最後の一樽までそれを確認したパリーは、次にホール中央に置かれた机に向かった。
そこには戦装束が一式置かれていた。
「王子、これは貸していただきますぞ。返す当てはありませぬが」
パリーは元はウェールズのものであった戦装束を手にし、身につけ始めた。


婚姻の儀式はすべて終わった。
ルイズは綺麗にたたんだ純白のマントの上に冠を置き、それをウェールズに渡そうとした。
「さて、これからもう一輪の花を今度は王子と王女のお二人で添えていただけないでしょうか」
「もう一輪?それは……」
婚姻の儀式と言うことだろうか。
だが、それはできない。
アンリエッタはゲルマニアの王と結婚をしなければならない。
故にどんなに愛していてもウェールズとの婚姻をブリミルの前で誓うことはできないのだ。
「それはわかっています。ですが、婚姻によらなくともお二人が永久に互いを想い、気遣うことはできるはず。その誓いをブリミルが認めぬはずはございません」
窓より光が差し込んできた。
それに照らされたワルドは舞台の上で万民を引きつける役者のようでもあった。
「これを逃して他に機会があるとは想えませぬ。そして、これが私がお二人にできるすべてであります」
跪くワルドの前に立つアンリエッタは口をふるわせ、わななかせ、そして高鳴る胸を両の手で押さえた。
「子爵、あなたの忠誠、嬉しく思います。ウェールズ様。私からもお願いします。どうか、ここであなたとの絆を誓わせてください」
ウェールズがそれを断ろうはずもなかった。


ルイズのポケットの中にはお守りがあった。
それを渡したのは怪しげきわまりない少女ではあったが、それでもルイズの使い魔なのだ。
この旅の間、ルイズはそのお守りを離すことなくずっと持っていた。
そのお守りは悪魔の蝿という名前が与えられていた。

「ウェールズ・テューダー 。汝は始祖ブリミルの名において永久にこのものを敬い、愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
ワルド読み上げる詔が礼拝堂に響く。
それはいかなる聖典にも祈祷書にもないが、世界で最も神聖な詔。
少なくともルイズはそう確信していた。
「アンリエッタ・ド・トリステイン 、汝は始祖ブリミルの名において永久にこのものを敬い、愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
アンリエッタはその身分にふさわしいドレスも着ていない。
これが永遠を誓う儀式であることを示すのは冠のみ。
それでもこの儀式は万の黄金よりも価値があったのだろう。
ルイズは彼女の幸せを隠さない笑顔に歓喜し、涙を流した。


すべてはうまくいっていた。
仮面の襲撃者、海賊という困難を乗り越えここに来た。
手紙の処分も終えた。
アンリエッタもルイズも幸せを手に入れた。
ウェールズの将来が不安と言えなくもない。
だが、ここまでうまくやってこれたのだ。
必ずそれも何とかできる。
そうに違いない。


アンリエッタとウェールズのキスでこの儀式も終わった。
それは決して口外されることのないが喜びに満ちたものであった。
「ウェールズ王子、これでやり残したことはないでしょうな」
ワルドは飾りに持っていた祈祷書を閉じる。
杖の位置を確かめ、少し緩んだベルトを締め直した。
「君の心遣いに感謝するよ。もう、なにもない」
「それは……よかった」
ウェールズ胸を魔力の刃が貫く。それは、彼の背中まで伸びていた。


     「ふふふ……予想通り、いえ、予想以上じゃない」



「きゃああああああああああああああああああああああああああ」
誰が叫んだのか。
アンリエッタ?それとも自分?


     「アンリエッタの手紙、アルビオンやトリステインの命運。そんなものどうでも良かった」


いや、両方?
どれでもいい。そんなことはどうでもいい。
それよりこれはどういう事なのだろう。
ウェールズは胸から血をまき散らして床に倒れる。



     「ルイズにあげたかったものがあったのよ。それは、絶望という美酒」



血に濡れた魔力の刃を帯びる杖を持つのはワルド。
──何が起こったの?何が起こったの?
誰も答えない。
目の前にある現実を受け入れるしかない。
ワルドがウェールズの胸を貫いたという現実を。


     「その味を引き立てるため、アンリエッタを連れてきた。学友のギーシュ……は婚約者のワルドが来たからほっぽったのよね。二人の絶望はルイズのための芳醇な絶望を生む」


「ウェールズ、ウェールズ、ウェールズ」
同じ言葉しか話さないガーゴイルのようになったアンリエッタが倒れるウェールズを血にまみれるのもかまわず抱きしめた。
傷をおさえ、血を止めようとするがそんなことで止まるものでもない。
やっと手に杖があることに気づき回復の魔法を唱える。
「いやぁ!!止まって、お願い。あああぁあああっ」
水の秘薬も使わない回復の魔法にそれほどの力はない。
血と体温がウェールズの体から流れ出る。


     「そして、ここに来るまでの困難をルイズ達が解決して、最良の結果が手に入るようにちょっとだけ手伝いもしてあげた」



アンリエッタの魔法など効かないとあざ笑うように血が脈動と共に吹き出した。
「死なないで。あああああっ」
アンリエッタのまとう乙女のマントは、その色を純白から真紅に変えていた。


     「なぜって、そうしたらうまくできるって希望を覚えるでしょう。強い希望は絶望に最もあう酒肴なのよ」



「ワルド様。なんで、なぜ?」
理由を聞けば許せるのか?
許せるはずもない。
そんなはずなどない。
理由を聞けば許せるかもしれない。
矛盾した想いがルイズを支配する。
かすかな希望にすがりつき、ルイズは問うていた。



     「もともとは城を壊してレコン・キスタを引き入れ、アンリエッタとワルドがその戦いで死んでいくところをルイズに見せるつもりだったんだけど……ふふ、もっといいことになったじゃない」



「レコン・キスタ完全勝利のためにはウェールズ王子の死に一片の疑いもあってはならない。だから、ここで死んでもらった」
希望は砕け散る。
修復など不可能なほどに。
「レコン・キスタ?なんで?裏切ったの?あの軍隊を見て?」
「僕はその前からレコン・キスタの一員だ」
希望など最初から無かった。
あえて言えば、砕くための偽物しかなかった。
「僕の目的は3つあった。一つはウェールズ王子を殺害すること。二つ目はアンリエッタの手紙を手に入れること。燃やされたからこれはもう手に入らない。だけど、もっといいものが手に入りそうだ」
ワルドはアンリエッタの髪をつかみ、引き起こす。
「いやああ。ウェールズ様が死んでしまう。あの人のところに!」
「しばらくお眠りを」
ワルドの右腕が走り、魔力を消した杖がアンリエッタのみぞおちにめり込む。
「ウェールズ……」
その言葉を最後にアンリエッタはぐったりと動かなくなった。
「生きたアンリエッタ王女を捕らえれば死体や手紙より役立つだろう」
ワルドはアンリエッタを肩に担ぎ、残った手をルイズに差し出した。


     「親友は捕らわれ、その最愛の人は血にまみれた。その悲劇を起こしたのはルイズが幸せを託した婚約者。最高じゃない」


「そして、最後の3つめは君だ。行こう、ルイズ」
「いや、いやよ!行きたくない」
「いや、君は来なければならい。僕たちは婚姻をブリミルの前で誓った。それは誰にも覆すことはできない。心配することはない。行こう」
ルイズはただひたすら首を横に振り続けた。
そうすれば希望と幸せが戻ってくるとでも言うように。


     「さあ、ルイズ。お膳立てはすべてできたわ。後はあなたの番。絶望を味わえば力が欲しくなる。その思いはあなたの力を目覚めさせるわ。さあ、見せて、あなたの力を」


むろん戻るはずもない。
「聞き分けのないわがままはやめるんだ。必ず君を幸せにしてみせる」
ワルドの手が差し伸べられる。
ルイズはそれから逃げたかったが、足が動くのを放棄していた。
「さあ」
遠くで音がした。
人々の雄叫び。戦いが始まったのだ。
爆音の連続。大砲の斉射だろう。


     「え?あれ?ちょっと、待ちなさいよ。普通ならここでイヤー、ボーンて感じで秘めたる力が覚醒するものでしょ」


それもこれも今のルイズには幻想の彼方の出来事のようだった。そう思い込みたかった。
「始まったか……。時間もないな。ルイズ、いずれ君を迎えにいく」


     「あー、ワルドもワルドよ。なに帰ろうとしているのよ。もうちょっと粘りなさいよ。あと2,3回つつけばきっとバーンてなるんだから」


マントを翻すワルドが走る。
すぐにドアを開く音と、遠ざかる足音が聞こえた。


     「あーーー、行かないで。行っちゃだめーーーー」


ルイズは……その場に座こんだまま。
動いたらもっと嫌なことが起こるような気がしていた。


     「行っちゃった……どうしよう」


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