あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ナイトメイジ-18


気がつくとアンリエッタは暗闇の中にいた。
正確に言うと瞼を閉じ、柔らかいベッドに横になっていた。
何か夢を見ていたような気がする。
城から抜け出してラ・ロシェールに行き、そこでフネに乗って遙かアルビオンまで行く途中で空賊に襲われ、その空賊の中にウェールズ王子がいて……。
再会が嬉しくて彼の胸に飛び込んでいったところで記憶が途切れていた。
とても良い夢だった
もう一度寝て続きを見たいとも思ったが、頬に光が当たる感触がする。
なら、きっと朝なのだ。
起きなければならない。
「……え?」
アンリエッタの目に入ってきたのは自分の部屋にある見慣れたベッドの天蓋ではなかった。
そこにあるのは粗末な天井と壁紙も貼られていない壁。
部屋も自分の部屋ではない。
質素な椅子とテーブル、そして自分が寝ているベッドがあるだけだ。
でも、このベッドはとても落ち着く。そんな気がした。
「目を覚ましたみたいだね。アンリエッタ」
声がした。
忘れるはずもない。
ずっとずっと、聞きたかった声。
夢でも聞いた声。
ウェールズ王子の声。
「よほど疲れていたみたいだね。あのあとすぐに倒れてしまったのをここまで運んで来たけど、疲れは取れたかい?」
「ここ、は?」
「ここはニューカッスル、僕ら王党派に残された最後の城。そこの僕の部屋さ」
「あ、あの……私」
「わかっている。会いに来てくれたんだね。嬉しいよ」
掛けられていたシーツをはねのけ、アンリエッタはフネの時と同じく愛しいウェールズの元へ走りその胸に飛び込む。
そして、それが夢ではなく確かに現実のものであることを確かめるためにしっかりと抱きしめ、肩に添えられたウェールズの手のぬくもりを感じた。
「ウェールズ様、ウェールズ様」
やっとその手に現実感が戻ってきたときだ。
扉ががたがたと音を立てた。
「姫様の声よ!きっと起きられたんだわ」
「ちょっと、ルイズ。今は待ちなさいよ」
続いてバンという音と共に飛び込んできたルイズは……
「姫様、だいじょう……ぶ……」
そのまま固まってしまう。
「あ、あのですね。ルイズ。これはその、そのですね」
アンリエッタはなにやら言い訳をしようとするが、ウェールズの背中に手を回していては説得力などあるわけがない。
「……し、失礼しました!」
「待ちたまえ」
速やかに立ち去ろうとするルイズをとめたウェールズは、名残惜しそうに背中に回されたアンリエッタの腕をほどいた。
「入ってきたまえ」
そして、アンリエッタをベッドに座らせたウェールズは彼女の瞳をのぞき込み、口を開く。
「ただ会いに来ただけではないと言うことはわかっているよ、アンリエッタ。さあ、話を始めよう。それに、時間ももう無い」
それはアンリエッタに聞かせると言うよりも、むしろ自身に言い聞かせるように言葉だった。

紅茶の香りは気分を落ち着かせると言うが、それはどうやら本当らしい。
ルイズはウェールズ王子が淹れてくれた秘蔵の一品を飲みながら、このたびを始める原因となったアンリエッタの婚姻、そして学院を出てからの事を思い出していた。
それはまたアンリエッタの話していることでもあり、ウェールズはそれを黙って聞いていた。
話が終わったのは紅茶を飲み終えた頃だ。
「そうか、結婚か……」
ウェールズは顔にさした影を隠した。
消したのではない。目の、そして心の奥に隠したのだ。
それはルイズの目にも明らかであったがあえてそれを指摘するようなことはしなかった。
「ウェールズ様」
一方、アンリエッタはそれを隠し切れてはいない。
その顔には静かな水面のに映るがごとく彼女の心を如実に現していた。
「わかっているよ。そうなると、あの手紙は君のためにも、トリステインのためにもならない。アンリエッタ……いや、アンリエッタ王女。手紙はお返ししよう」
ウェールズは机の引き出しから取り出した宝石をちりばめたはこの鍵穴に、首にかけているネックレスについた小さな鍵を差し込んで回した。
カチリとかすかな音がする。
ウェールズは箱を半回転させ前に押し出した。
「アンリエッタ、受け取ってくれ」
箱を開いたアンリエッタは中にある手紙に手を伸ばし、取り出す。
手の震えにあわせ、それがかさりと鳴いた。
「これを、こんな形で返していただくことになるなんて」
開いた手紙に視線を落とすアンリエッタの声もまた震えていた。
そして落としていたのは視線ばかりでなく、落ちた涙が手紙を濡らしていた。
「お願いがあります」
「なんだい?」
「火を……火をください。手紙を燃やします」
「わかった」
ウェールズは他には言わなかった。
飾る言葉は必要ない。飾ってしまえば余計なことまで言ってしまう。だからだろう。
故に呪文のみを唱え、杖の先に火を灯す。
アンリエッタは震える手をそのままに手紙を炎に寄せた。
火に当たる直前にアンリエッタの手は止まる。そして少しだけ、火から離れた。
再びアンリエッタの目から涙が落ちると、アンリエッタはまた手紙を火に寄せようとした。だが、また手紙は燃えることなく火から離される。
ためらいが彼女の手を止めていた。それがわかっていてたからルイズはじっと待っていた。
見かねたのかワルドがアンリエッタに近づいた。
「姫、その手紙、燃やさずとも良いのですよ。ここにいる者がその手紙のことを他言することはないでしょう。ですから……」
「いえ」
アンリエッタの声から震えが消えた。
ワルドの言葉が彼女の背中を押すようにためらいを消したのだろうか。
「ウェールズ様のおっしゃったように、この手紙はトリステインに害をもたらします。これはあってはならないのです」
今度こそ手紙は燃え上がる。
赤い火の中で白い灰となった手紙が音もなく崩れゆく様をわずかも見逃すまいとアンリエッタとウェールズはそれを瞬きもせず見つめていた。

ウェールズの部屋を辞したルイズは暗い廊下でその扉が開くのを待っていた。
ルイズにも部屋が用意されていたが、二人きりで話したいことがあるというアンリエッタを残してここを去るにはあまりに不安すぎたのだ。
ルイズが足に疲労を覚え背中を壁に預けた頃、扉のきしむ音が響き、アンリエッタが部屋を出てきた。
見かけだけならば彼女はいつもと同じであるように見えたが、ルイズはそれがおかしいようにも思えた。
戦に向かうウェールズの部屋から出てくる女の姿としてはあまりにも平静すぎたのだ。
「姫様」
靴で床を叩く音を響かせ、喉の奥に何かを押し込めるように口元を押さえアンリエッタが駆け出した。
「姫様!」
一人にしてはいけない、そう思ったルイズは後を追う。
何をすればいいかもわからないままただアンリエッタの背中を追うルイズは廊下の突き当たりで追いつく。
アンリエッタは嗚咽をもらしていた。
「ルイズ……ルイズ、どうしてでしょう。どうしてウェールズは、あの人はあんなに死にたがっているのでしょう」
「それは」
「私はあの人に亡命を、ここから私と共に逃げてくれるように頼みました。でも、あの人はそれを断りました。王族としての誇り、義務。それもわかります。でも、それでも生きて欲しいのに。なぜ!」
「それ……は」
ルイズにそんなことがわかるはずもない。
考えていることはアンリエッタと同じなのだ。
ただ姫様のために生きていて欲しいのに。
「見てみる?」
こんな時だというのに、いつもの微笑を浮かべたベルが小さな窓のそばに立ち、外を指さしていた。
「あれを見れば少しはわかるかもね」
石造りの城の窓は小さく少ない。
そしてルイズ達は秘密の地下港を通ってニューカッスルに入城した。
それ故に今まで見えなかったものがベルの指さす遙か向こうにあった。
「あっ……」
城壁から距離を開け展開するレコンキスタの軍。
それが見えたのだ。
数など数えられるはずもない。それほどの大軍が城壁を囲んでいるのだ。
「あ、あ、あ……」
後ずさるアンリエッタは声すら出せない。
人の海が彼女の心に重しとなってのしかかっていた。
ルイズだって怖い。今ルイズが平静にしていられるのはアンリエッタを支えなければという思いがあるからだ。
「ざっと3万といったところかしら」
なのにベルはこんなに何でもなさそうに、むしろ面白そうにしている。
「あれからあなたを守りたいのでしょうね。力及ばずとも、そのための礎となりたい。そう考えているんでしょ」
「あ、あ、あ……」
震える足はアンリエッタを支えきれず、ついには後ろに倒れゆく。
その彼女を支える手があった。
「慣れぬ者には刺激が強すぎましたかな?」
アンリエッタを支えたのは年老いたメイジだった。
たしか、ウェールズの侍従でパリーといったはずだ。
「叛徒どもあれだけの人数を集めましてな。いやはや、300の我らに大層なものです」
「あら、そうかしら」
ベルはいつもの調子で叛徒の大軍を見ながら答える。
本当にいつもと変わらない。
「ほう、というと?」
「あのくらいがちょうどいいでしょ。あなたたちくらいなら相手に困ることはないわ」
「はっ?」
戸惑うのもつかの間、パリーは開いた口で大笑いを始めた。
「ははははは!いや、確かに。確かに、アンリエッタ王女のお連れの言うとおり。困ることはありませぬわい。これはいいことを聞いた」
ひとしきり笑ったパリーは足に力の戻ったアンリエッタより手を離す。
「そうわけです。ですから、決戦前にそんな顔をしてくれないでくだされ」
「はい……」
しっかりと立つアンリエッタを見たパリーはウェールズの部屋の方向へ歩こうとした足をふと止めた。
「そうそう、愉快すぎて忘れるところでしたわい。もう少しでパーティが始まりますでな。女性には時間もかかりましょう。早めに出席をお願いしようと来たしだい」
「ええ、是非」
確かな足取りでアンリエッタはあてがわれた部屋に戻っていく。
この倒れそうな幼なじみをどうやって支えたらいいのか。
それをルイズは考えるルイズの耳元にすれ違うパリーのつぶやきが届いた。
「あのように慕われながら王子も不憫な。できれば生き延びていただきたいものだが」

城のホールで行われたパーティでアンリエッタは貴族達に囲まれ、言葉を求められていた。
それはそうだろう、このようなときにトリステインからの客人、しかもお忍びでその王女が来たとなれば何か言葉を交わしたくもなるというものだ。
「皆様が明日の出陣を万全なまま迎えられるのを嬉しく思います」
この死を前にした晴れがましくも悲しい宴でアンリエッタは皆の力になりたいと思っていた。
だから彼女は言葉の限りに皆を励まし、鼓舞を繰り返し、そして最後にこう結んだ。
それは、つい先ほどベルの言葉を意識したものだった。
「敵は皆様の100倍なれど不足はありません。存分が望むだけの軍功を上げられますようブリミルに祈りを捧げております」
「おおっ」
あたりは喧噪に包まれ、拍手と喝采が巻き起こる。
それこそまさしく彼ら王党派の貴族の望むものそのものだったのだ。
「感謝しますぞ。アンリエッタ王女」
沸き立つ喧噪の中にウェールズ王子の父王、ジェームズ一世もまた下りてきた。
もはや老いで立たぬ足に無理をしてここまで来たのも王女に対する礼であろうか。
「おかげで、皆の士気もこの上なく高まった様子。さて、何か礼を差し上げたいが良いものが思いつかぬ。この城にあるものなら、何でも良い。持ち帰られるが良かろう」
「いえ、なにも」
ルイズもアンリエッタの気持ちはわかっていた。
手紙も燃やした。
既に目的は果たしたのだ。
この上、何を求めるというのだろう。
「私なら」
そんな時でも違うことを考える者はいる。
ベルがそれだった。
「……をもらおうかしら」
ルイズの頭に衝撃のようなものが走った
ジェームズ一世の前に足早に進み出たルイズはその場に跪く。
「おそれならが陛下。私にはいただきたいものがあります」
「ほう、よかろう。いかなるものでも望むがいい。ここにあるものならば、だが」
「では」
ルイズは言葉に力を込めた。
ただ声が大きくなっただけかもしれないが、その言葉は周りにいた人間に衝撃を与えていた。
「ウェールズ王子をいただきたく思います」
「なんと!?」
あたりにざわめきが起こる。
混乱していたといってもいいかもしれない。
「ミス・ヴァリエール。私は王族としてここを退くわけにはいかない。それは、アンリエッタ王女にも言ったことだ」
それに対する返答も既に浮かんでいた。
ベルならばどう考えるか、という思考でだ。
「私はジェームズ一世陛下の望めば与えるとの言葉に応えたまでです。ウェールズ王子の意向など知りません。考えていません!」
「なっ……!」
驚くウェールズを無視してルイズはさらに詰め寄った。
「陛下!」
ジェームズ一世はしばし、目を閉じて考え込む。
あたりもしんと静かになった。
だが、年老いたジェームズ一世に今の状況はいささかつらかったようだ。
立ちっぱなしの足がふらついてきたとき、椅子が差し出された。
「陛下、よろしいではありませんか」
それはウェールズの侍従のパリーだった。
「実はレコン・キスタごとき王子の手を煩わすほどでもないと思っていましてな。ミス・ヴァリエールが引き取ってくれるというのならちょうどいいではありませんか。我らが上げる一人あたりの軍功も増えるというもの」
「パリー!お前まで」
「それに、私としてはこの戦を後に伝えてくれる者がいると大変嬉しい。王子はその役目に適任だと思うのです」
ウェールズは助けを求めて周りを見回した。
だが──彼にとっては不思議なことでもあったが──ウェールズを助けるものはなく、誰もがパリーに賛同を示していた。
誰もが、誰かがそう言うのを待っていたようでもあった。
「そう言うわけだ、ウェールズ。お前はミス・ヴァリエールと行け」
ジェームズ一世はその言葉を持って、これを決した。

アンリエッタは何が起こったか理解できずにいた。
ただ、立ち尽くし今起こったことを考えていた。
「姫様。ジェームズ一世陛下より賜りましたウェールズ王子をお渡しします。あとはどうか」
やっとアンリエッタにも何が起こったかわかった。
ウェールズが自分と来てくれるのだ。
望んでいたことすべてがかなったのだ。
「ルイズ、ありがとう。本当に、ありがとう」
アンリエッタの両目からは涙が途切れることはなかった。
そしてルイズも、それが嬉しかった。


空になったウェールズの杯にパリーが酒を満たした。
彼の機嫌の良さはレコン・キスタの反乱が起こって以来のものであった。
「パリー……貴様……いや、礼を言うべきなのか」
ウェールズはここにおいて守るべきものが変わったと言うことを理解していた。
故に、悪態をつくこともできずにいた。
「王子、そんな顔をなされるな。それに、楽な生き方にはなりませぬぞ」
ウェールズとパリーはルイズにすがりつくアンリエッタを見て、再び酒を干した。
それがこれからウェールズが守り続けなければならないものなのだから。
例え決して結ばれることが無くても。


パーティも終わる頃、ルイズはホールを去り、夜風で体を冷やしていた。
少々暑くなってきた今、その冷たさは気持ちよかった。
酒ではなく、さっきの大芝居が原因だというところが格好がつかないところかもしれない。
「君があんな事をするとは思わなかったよ」
ワルドが月を見上げていた。
かれは、ルイズを守るようにここにいる。
「私は、姫様のために何かしたかったのよ」
ルイズも月を見上げた。
二つの月の寄り添う。それはアンリエッタとウェールズを思わせた。
「君は思っていたようにすばらしい女性だった。どうだろう、ルイズ。これが終わったと言わず、今正式に結婚を申し込みたいんだが……受けてくれるかい?」
「えっ!」
暑さで赤くなったルイズの顔がますます赤くなる。
お酒と大芝居でいい感じで回っていた頭がどんどん混乱してきた。
「ごごごご、ごめんなさい。ワルド様。今は姫様のこれからのことで頭がいっぱいなの。私の言い出したことだし」
「それはすまなかった。僕もよく考えるべきだったよ」
「ごめんなさい、ごめんなさい。わ、ワルド。明日にはきっと……おやすみなさい」
ルイズは駆け出す。
どこの駆け出すかは本人もよくわかっていないかもしれない。
それを見ていたワルドは、かぶっていた帽子のつばを摘んで深くかぶった。

城の中を走り回ったルイズがたどり着いたのはアンリエッタの部屋だった。
ワルドとの結婚をどうしたらいいのか、それを聞けるような人はここにはアンリエッタしかいないことにようやく気づいたのだ。
さらに言えば、結婚を受けることは決まっているから既に相談することでもないのだがとにかく話をしたかったのだ。
そのために扉の前に立ち、ノックをするべき握った手を挙げた。
「アンリエッタならいないわよ」
声の主はベルだ。
いつの間にかここに来ていたらしい。
「じゃあ、姫様はどこに?まだホール?」
「違うわよ。さっき、ウェールズ王子といたから彼の部屋じゃない」
「そう、ありがとう」
ウェールズ王子の部屋を目指して歩こうとしたルイズだったがベルにマントを引かれてしまう。
首にマントが食い込んで
「ぐええ」
なんて言いながら足がとまった。
「なにすんのよ」
「それは、こっちの台詞よ。やめなさいって」
「私は姫様とちょっと話をしたいだけなの。止めないで」
「だから、それをやめなさいって言ってるの」
「なんでよ」
ルイズは本気でわかっていなかった。
「あのね、アンリエッタとウェールズ王子が一緒なのよ」
「わかってるわよ」
「同じ部屋に行ったのよ。どういう事かわかるわよね」



ぼんっ、
なんていいながら顔から蒸気が噴き出しそうなほどになった。
ようやくわかった、と思ったらまた
ぼんっ
何かが頭の中で爆発していた。


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