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毒の爪の使い魔-07


「あン?決闘だと?」
突然の事にジャンガは一瞬呆然となり――笑った。
「キッ、キキキキキキキッ!!」
腹を抱え、心底可笑しいと高らかに笑う。
それを杖を突きつけたまま、静かに見据えるタバサ。
ジャンガは一頻り笑うとタバサを睨み付けた。
「お前…何を見ていたんだ?あのガキみたいになりたいのかよ?」
言いながら睨み付ける視線に更に殺気を含ませる。
だが、一般人ならばとっくに気絶しているだろう殺気にも、タバサは眉一つ動かしていない。
ただ静かに見つめている。
ジャンガは舌打ちし、爪を構える。それに同調し、タバサも突きつけていた杖を構えなおす。
「後悔しても遅いぜ…ガキ?」
「……」
ジャンガの脅しを含んだ低い声にも動じず、タバサは静かに杖を構えたまま見つめている。
その態度にジャンガは黙ると、より一層濃い殺気を放ち始める。
タバサもまた身体の周囲に冷気のように冷たい魔力のオーラを纏っていく。

――そして、決闘が始まった。

ジャンガは大地を蹴り、タバサ目掛けて駆け出した。
瞬く間に距離が詰められ、目の前の相手を餌食にするべく、右の真紅の爪が振り下ろされる。
しかし、爪が触れる直前、タバサは魔法を用い、軽やかな身のこなしでそれをかわした。
舌打ちをし、今度は爪を薙ぎ払う様にして横に振るう。
…が、それもまた余裕だとばかりに易々とかわされる。
何度爪を振るわれても、尽くかわす……そんな宙を舞う蝶の如きタバサの動きに、生徒達に驚きが広がる。
なにせ、あれほどの素早い攻撃を一撃一撃見切り、魔法と体術を掛け合わせて正確にかわしているのだ。
そんな攻防が暫く続き、何度目かの爪の一撃が地面を抉った。
タバサは大きく後ろへ飛び退き、ジャンガと距離を取る。と、同時に杖を向け呪文を唱えた。
タバサの目の前の空気が歪み、質量を持ってジャンガに襲い掛かる。”エア・ハンマー”だ。
迫る空気の塊をジャンガは横に跳んでかわす。
そこへ、追い討ちとばかりに数本の氷のジャベリンが飛んできた。
飛んで来たジャベリンにジャンガは爪を振るい、それを叩き落す。
「ナメんじゃねェ、クソガキがァ!くたばりなァァァァーーー!」
叫ぶや、右腕、左腕と爪を振るう。
ジャベリンが飛んで来た方向……タバサの居る方向目掛けて、二つのカッターが飛ぶ。
それに対し、タバサは一言ルーンを唱え、杖を振るう。
それだけで、タバサの周囲の風は彼女の意のままとなる。
風に触れたカッターは、まるで意思を持つかのようにタバサの目の前でUターンし、放った本人へと襲い掛かる。
僅かに顔を顰めるジャンガだが、更に二つのカッターを放つ。
四つのカッターは衝突するや、形を保てずに霧散し、ただの空気へと戻った。
そこで、ジャンガとタバサは静かに相手を見据えた。
「……」
「……」
沈黙が周囲を支配する。
まったく身動き一つしない両者に生徒達やルイズ、シエスタ、キュルケも固唾を呑んで見守っている。

――やがてジャンガが舌打ちをした。

「チッ、チョロチョロとウザってェ。メンドくせェ…面白くネェんだよ!?」
目の前の少女を睨み付け、怒りの叫び声を上げるジャンガ。
「これ以上ガキの相手はしてられねェ…。一気にケリをつけてやる!」
言うが早いか…、ジャンガは大量の分身を作り出す。
分身はタバサを逃がさない囲いのように、グルリと回り込むようにして円を描く。
「これで終いにしてやるゼェェェェェーーー!!!」
ジャンガの叫び声が響き渡り、本体と分身が一斉にタバサの周囲で動き出した。
先程のギーシュとの勝負の時と同じ戦法だ。
ルイズやキュルケには最早、本体と分身の区別はつかない。
キュルケは流石に友人の身を案じる。が、直ぐにそんな気持ちは引っ込んだ。
当の本人が実に落ち着いているのだ。まるで既に答えがどれかを知っているような。…そんな余裕が伺える。
ジャンガも相手のそんな落ち着いた様子にイライラしていた。
「テメェ…何を余裕ぶってやがるんだよ!?」
タバサは答えない。
「クソがッ!」
そう吐き捨てるや、大量のジャンガが一斉にタバサ目掛けて飛び掛った。

全員が息を呑んだ。――そして、それはジャンガも同様だった。

…飛び掛った瞬間、タバサが自分を見ているのだ。
それだけでなく、呪文の詠唱も既に終わっていたらしく…直後、風の刃”エア・カッター”が飛んで来た。
咄嗟の判断で、ジャンガは身をよじってそれを交わす。背後で数対の分身が切り裂かれ、掻き消える。
分身が一斉に消える。慌てたようにその場を飛び退き、距離を取るジャンガ。
自分を見据えるタバサは相変わらず無表情だが、その目には冷たい雪風が吹き荒れている。
だが、そんな事よりもジャンガは気になる事があった。

――何で俺の位置が分かった…?――

あれだけの動きをする大量の分身の中から本体を見つけ出すのは、分身全てを潰さずにしては至難の業だ。
それなのに、目の前の小娘はそれをやってのけた。――どうなってる?
気になる。気にはなったが――

「関係無ェ……関係無ェェェェーーーんだよ!!」

――疑問を振り払うかのように叫び、再び分身を作り出し、タバサを取り囲む。
まぐれだ…まぐれに決まってる…、そうジャンガは自分に言い聞かせた。…そして、まぐれは二度続かない。
再び分身とジャンガが動き出す。念を入れ、先程よりも速く、激しく動く。
「キィィィーーーッ!、キキキキキキキィィィーーーッ!!」
笑い声が響き渡り、分身がタバサ目掛けて飛び掛る。
ジャンガ本人はタバサの死角……背後に居た。
大きく跳躍し、タバサのか細い首にその爪を叩き込まんと振り上げる。
勝利を確信したかのように笑みを浮かべ、爪を振り下ろそうとした…その時。
「キッ!?」
タバサがこちらを振り返った。
周りの分身には目もくれず、真っ直ぐに自分を見据えている。
杖をこちらに突き出した事を認識した…次の瞬間。
「なッ!?」
無数のジャベリンが現れ、疾風のように飛んできた。タバサの得意呪文”ウィンディ・アイシクル”だ。
慌てたようにジャンガはカッターを放つ。
ジャベリンとカッターが衝突し砕けるや、煙幕のような水蒸気が辺りを覆いつくした。
やがて水蒸気が晴れるとそこには――

「あ…ぐあっ…な、なんだと…???」

――防ぎきれなかったジャベリンに腕や腹を突き刺されたジャンガが倒れていた。

ジャベリンに傷付き倒れたジャンガとそれを見据えるタバサを見て、周囲の生徒達は一瞬呆けたようになった。
「ひょっ、ひょっとして……勝った…の?」
「…そのようね」
ルイズの呟きに、キュルケが答える。
と、同時に見守っていた生徒達から歓声が沸き起こった。
タバサがあの亜人に勝った……その結果は皆の心に影を落としていた恐怖を振り払っていた。
そんな周囲の反応など耳に届いていないかのように、タバサはジャンガを見据えている。
そのまま、ゆっくりと近づいて行く。その足音にジャンガは顔を上げた。
冷たい殺気を宿した瞳が自分を見下ろしている。
「テメェ……何で、俺の…位置が分かった……グ、ギギギ…」
「風」
「何ッ?」
「実体を持っているのは貴方だけ。だから、風で動きが分かる」
激しい動きをすれば水をかき回して流れが生まれるように、周囲の空気が動き風が生まれる。
しかし、分身は実体を持たない幻影。どれだけ激しい動きをしても風が生まれる事は無い。
だから空気の流れを読めば分身と本体を見極める事は造作も無い事だ。
もっとも…これは風の扱いに長けた風のメイジならではの事だろうが。
ギリギリと歯を噛み締めるジャンガ。
「そんな…そんなバカな…」
自分はタバサを翻弄しようと激しく動き回った。
だが、それは彼女にしてみればより分身との見分けが付き易くなっただけであり、
結果的にジャンガは自分で自分の首を絞めてしまった事になったのだ。
「これで終わり」
悔しがるジャンガを見下ろしながらタバサは冷たく言い放った。
その言葉にジャンガは恐怖に怯えるかのように顔を引きつらせた。
「ま、まてっ、やめろ!わ、悪かった…、オ、オレが悪かった!あ、謝る…、謝るからよ…、だから…許してくれっ!?」
唐突なその言葉にタバサだけでなく、その場に居た誰もが呆気に取られた。
何を今更言い出すんだ…、全員同じ事を考えた。
そんな周囲の反応にも気付かないほど焦った様子でジャンガはタバサに叫んだ。
「ほ、ほら…俺は今しがた、あ、あのガキとやりあったばかりじゃないかよ?
…だから、イ、イライラしていただけなんだ……わ、解るだろう?」
タバサは答えない。ジャンガは更に言葉を続ける。
「ほ、本当は俺も…分かってるさ。そ、そうだよな……親は誰にとっても大事だよな?…大切だよな?
で、でもさ…俺は親にはイイ思い出が無いからよ……それもあって、つい…キツイ言い方をしちまった…。
そ、それだけだ…決して悪意が有って言った訳じゃねェんだよ…」
タバサは答えない。
「なァ?、悪い偶然で起きた不幸な事故だったんだ…。だからさ、今回だけは許してくれよ…な?、な?、な?
第一、こんな事をしたってお前の好きな父ちゃん、母ちゃんは喜んだりしないと思うぜ?寧ろ、悲しむって…な?
なら、今後はあのガキの使い魔として目立たないように、大人しくする…今後は誰にも逆らわねェ…。
だからさ…、み、見逃してくれよ…な?、な?、な?」
タバサは答えない。――対して、周囲の生徒達は呆れ返っていた。
あれほどまでの自己中心的で残虐な態度がまるで感じられない位の低姿勢。
言っていた事の全てを否定しつくす、そのあまりにも惨め過ぎる命乞い。
見ていて正直、情けないとしか言いようが無かった。
「た、頼むゼ……勘弁してくれよォ!?」
ジャンガは精一杯懇願した。

――タバサの答えは呪文だった。

「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……」
タバサが呪文を唱えるたびに、彼女の周囲に冷気が吹き荒れ、空気が一瞬にして氷結する。
凍った空気は吹き荒れる風に乗せられ、のたうつ大蛇のようにタバサの周囲を荒れ狂う。
彼女の足元の地面は既にズタズタになり凍り付いている。
一目で彼女が唱えている呪文がとんでもない物だという事が分かった。
”氷嵐<アイス・ストーム>”……吹き荒れる氷結した空気は触れる物全てを凍てつかせ、切り裂く。
呪文が完成し、”氷嵐”の目が杖へと移る。杖を振り下ろせば、ジャンガは瞬く間にその身を切り刻まれるだろう。
恐怖に怯え、全身を震わせるジャンガ。
「まっ、待て!?あ、あやまってるじゃネェかよ!?許してくれよ!?」
「ダメ」
「!?」
タバサの一言にジャンガは目を見開く。
「貴方の言葉は全て嘘偽り。目を見れば分かるし、貴方のような人を私は知っている」
彼女は目の前で無様に命乞いをする亜人とダブって見えるとある人物を思い返す。
ド・ロレーヌ…以前、学園に入学して間もない頃、勝手に因縁をつけて母を侮辱した生徒の一人。
決闘に敗れ、今目の前の亜人がしているのと何ら変わりない無様な命乞いをし、
親友のキュルケに恨みを持つ女生徒達と協力し、彼女とキュルケを罠に嵌め、互いに争わせようとした奴。
そんな相手を知っているからこそ、彼女は亜人の目の奥に潜む怪しげな光に気付いた。
「ちょっと待て!?幾らなんでも、それは酷いじゃねェかよ!?せ、せめて、一回ぐらいチャンスを――」
「ダメ」
有無を言わせず、タバサは杖を振り下ろした。
「ま、待ってく――」
ジャンガの懇願する声は最後まで続かなかった。



「フギャアアアァァァァァーーーーー!!!」



荒れ狂う”氷嵐”はジャンガの悲痛な叫び声すら飲み込んだ。


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