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割れぬなら……-18



「よぅっしゅああああぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

グラン・トロワに歓喜の叫びが響き渡った。
国王専用のプレイルームから聞こえてきたその声は、確かにガリア王ジョゼフ1世の声であった。

「あらあら、まあまあ」

……と、中庭でカステルモール夫人が顔を綻ばせた。

「またあのカクとかいう男の人と遊んでらっしゃるのね。
 今日は久しぶりにチェスの勝負に勝てたのかしら」

もしそうならば、幸いである。
チェスの名手、ジョゼフにとっても賈言羽は非常に手ごわい相手であり、
彼から勝利をもぎ取れる機会はあまり無い。
その証拠に、ジョゼフが賈言羽に勝利すると、2・3日は上機嫌な日が続くのだ。

もっとも、彼が上機嫌になる理由は、勝利の美酒によるものだけではないのだが……



「よぅっしゅああああぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

と、ジョゼフは高らかに右腕を天高く掲げた。
それと同時に、賈言羽はこの世の終わりを確信したかのような絶望感に包まれた。

「見たかカク! 見たか弟よ! 俺のチェスもまだまだ捨てたものじゃないだろう」

「……おみそれいたしました」

「さて、それじゃあ楽しい楽しい罰ゲームの時間にしようか」

「どうか、お手柔らかに……本当に、お手柔らかに……」

賈言羽が苦虫を噛み潰しているかのような顔で、懇願する。
ガリア王はそんな賈言羽を見て、日頃負け続けている欝憤を晴らすのだ。

「ふむ……そうだな、シャルロットのパンツを盗んでくる、というのはこの間命じたばかりだ。
 イザベラの額に肉の文字を書いてくる、というのも、2回やらせるようなものではない。
 カステルモールにダンディな髭を……いや、面白くない。
 そうだ、シャルロットの目の前で『ボクに脱ぎたてのパンツを恵んでくださいっ!!』と叫ぶというのはどうだ?」

とんでもなく子供っぽい罰ゲームを次々に考え出す国王を前に、賈言羽は本気で転職を考える。

「進行中の策に支障をきたすようなものは、できれば避けていただきたいのですが」

「そうか……ならばこうしよう。
 トリステインの銃士隊とやらに勝負を挑んでこい。それが罰ゲームだ」

「はっ!」

賈言羽は内心、ほっとした。
思っていたよりも簡単、かつ自身の名誉が傷つけられない内容だったからだ。

「俺はやさしいから、勝敗は問わん。
 ただし勝負の方法は指定する。野球だ」

「はっ?」

賈言羽は耳を疑った。
野球は暇を持て余した貴族達が運動不足を解消するために行われる競技である。
ガリア国内にもいくつかの野球チームが存在するが、とりあえず賈言羽の知り合いに野球を嗜む者はいない。
ついでに言うと、トリステイン銃士隊は野球チームではない。

「殿、銃士隊は野球チームではないのですが」

「その辺はなんとか交渉しろ。外交官だろう、名目上は。
 それとチームメンバーだが、既存の野球チームに協力を求めるのも禁止する。
 その辺も適当に集めておけ」

「なんですと!?」

次々に追加されていく条件。
一刻も早く承諾しなければ、さらに難易度が上がっていく流れである。

ちなみに、罰ゲーム自体を拒否する事はできない。
賈言羽は罰ゲームという名目で、補助金を出させたり、タバサの待遇を良くさせたり、宝物庫に眠っていたマジックアイテムを譲渡させたり、
カステルモール夫人の目の前で『ボクは死にませぇ~ん』と叫ばせたり、1日中語尾に『いや、それよりも腹が減った、飯が先だ』と付けさせたりしている。
おかげで2ヶ月前からジョゼフを『無能王』と呼ぶ者はいない。
彼の者は驚愕と畏怖を込めてこう呼ばれる……『空腹王』と。

「わかりました。やらせていただきます」

「はっはっはっはっ、食い物の恨みを思い知れ。余のミューズよ」

なお、ガリア王が言っているのは食い物を食われた恨みではない。
食い物を食わされた恨みである……それも、大食いチャンピオンでもブッ倒れるような量を。
余談だが、宮殿付きのシェフとパティシエも過労でブッ倒れた事も追記しておこう。
これも余談だが、ジョゼフは3ヶ月前からカステルモール夫人に懐かれて困っている。

とにかく、こうして賈言羽は旅立った。
もちろん、メンバー集めの旅である。

一方のジョゼフは上機嫌だった。
それはまるで新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のようであったと、後に彼は語っている。
彼の上機嫌は2週間後、ガリアの名士達を招いたパーティの席で牛丼音頭を踊るまで続いた。


「……は?」

「野球チームを結成し、トリステイン銃士隊に決闘を申し込みます」

魔法学園をトップ成績で卒業……できたのだが、あまり目立ちたくなかったので中の下の成績で卒業したタバサは、普段はツェルプストー家の居候をしている。
既に曹操という名の居候(キュルケの婿扱い)を抱えているツェルプストー家だったが、居候の1人や2人で傾くほど、ヤワな家計ではない。
王位継承権だとか、反乱分子だとかの関係で、あまりガリアにある実家には居づらいらしい。

さてそのタバサだが、相変わらず北花壇騎士としてガリア国内で起こった厄介事を解決する任務を請け負っている。
本人は知らないが、ジョゼフによる密命により、生死に係わるような危険な任務は大幅に減っている。
時折危険な任務も任される時もあるが、その時は賈言羽がタバサを補佐する事になっていた。

彼女にとっては、死ねと暗に言われているかのような任務や、イザベラの暇つぶしのための任務はよくある事なのだ。

「それは命令?」

「はい、残念ながら」

ジョゼフは先のやりとりの後に、思い出したかのように『シャルロットも巻き込め』と付け加えた。
それは賈言羽の計算を物凄い勢いで下方修正させる一言だったが、彼は涙を呑んで承諾した。

「わかった」

幸い、タバサは少しの文句を挟む事無く参加を承諾した。
彼女は経験から、ゴネても無駄だという事を良くわかっていた。

「おねーさま! 今度の任務はヤキュウですって!
 私ヤキュウって知ってるの!
 ガッツと勇気と友情が試されるすっごく楽しいスポーツなんですって!」

窓から騒がしいのがこちらを覗いている。
どうやら聞き耳を立てていたらしい。

「お姉さまばっかりズルいのね。シルフィもやってみたいの!
 ねぇお姉さま、お願い!
 私もヤキュウっていうのをやってみたいの!」

「駄目、遊びじゃない」

「あ、いえ、完全に遊びです」

シルフィードのお願いを却下するためにの一言だったが、賈言羽が一瞬で訂正してしまう。
それは賈言羽がハルゲニアに召喚されてから身に着けたツッコミ気質によるものなのだが、今回はそれが裏目に出た。
タバサが次の理由を考えるまでのおよそ2~3秒の間、シルフィードが野球に参加できると思ってしまったのだ。
その2~3秒が、致命的だった。

「きゅい! とっても嬉しいわ!」

と言って、タバサが制止するよりも早く、人間の姿に変化したのだ。

「ヤキュウは9回裏2アウトからなのね! る~るる~」

意気揚々に鼻歌を口ずさむ全裸の少女を前に、タバサは目の前が真っ暗になるように感じたのだ。




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